どこまでも果てしなく、一面に広がる砂漠。

陸路を選んだ一行は、そんな中をただひたすらケセドニアに向けて歩き続ける。

「おらおら、何してんだ?遅っせーぞ!」

この悪条件の中、一番先に根を上げるだろうと思われていたルークは、けれど先頭を歩きながら他のメンバーに向かいそう声を上げる。

アクゼリュスで待っているだろうヴァンの元へ、とにかく早く行きたいのだろう。―――その気持ちは汲んであげたいけれど。

「はぅあ〜。このままじゃ、しおっしおのかれっかれになっちゃいますよ〜」

「頑張れ、アニス」

砂に足を取られながらもなんとか歩みを進めるアニスは、容赦なく照りつける太陽を仰ぎ見ながらがっくりと肩を落とした。

これは過酷すぎる。―――そう文句のひとつでも言いたいところだが、誰が悪いわけでもない為そうする事も出来ない。

その代わりに、アニスは気持ちがこもっているのかこもっていないのか判断が難しい声色で声援を送る、自分の後ろを歩くをチラリと睨みつけた。

これだけ暑い中、の表情は常のそれと変わらない。

どうしてなのだろうかと疑問を抱く一方、あまりにも平然としているに腹が立ってくる。―――完全な逆恨みというか、八つ当たりなのは十分に理解しているけれど。

「みゅう〜。ご主人様、歩くのが早いですの〜」

「ウルセェ、ぶたザル!ヴァン先生を待たせるわけにはいかねーんだ!」

ふらふらと宙を飛ぶミュウが情けない声を上げると、ルークは苛立ったようにそう声を荒げる。

最後尾を歩いていたジェイドは、そんな光景を見て苦笑と共にため息を漏らした。

「我々の目的は、ヴァン謡将を追う事ではないんですがねぇ」

そんな声が、ヴァンを追う事だけに執着しているルークに届くはずもなかったけれど。

 

過去の遺物

 

果ての見えない、過酷な砂漠の旅。

熱を含んだ砂に足を取られながらも歩き続けていたティアは、ふと先ほどの出来事を思い出し、疑惑を乗せて口を開いた。

「それにしても解りませんね。どうしてアッシュの声がルークに聞こえたんでしょうか?」

頭痛と共に聞こえたという、アッシュの声。

何故アッシュが自身の居場所をルークに教えたのかも気になるが、それ以上に何故アッシュの声がルークに聞こえたのかの方が不思議だ。―――普通に考えて、そんな事があるはずもない。

誘拐された時の後遺症なのではないかと本人たちは言うけれど、果たして本当にそんな事が起こりうるのだろうか?

そんな疑問を投げ掛けたティアに、最後尾を歩いていたジェイドは僅かに目を細めながら口を開いた。

「コーラル城で、ディストに何かされたのかもしれませんね」

旅の途中で立ち寄ったコーラル城。

そこで浚われたルークが、ディストに何かされていたのは間違いないだろう。―――問題は、一体何をされたのかだけれど。

しかしそんな事は、考えていても解るはずもない。

そう判断したガイは、話題をもうひとつの問題へと向けた。

「だとしても、何で自分の居場所を教えたんだ?」

今、一番問題とされるのはそこだった。

今まで奇襲をかけてきた彼らが、どうして自分たちをおびき寄せるような真似をするのか。

何か罠に嵌められているような気もしないでもないが、だからといって浚われたイオンを無視する事もできないけれど。

そんなガイの疑問に対して、先頭を歩いていたルークが面倒臭そうに振り返った。

「知らねぇよ!聞こえたもんは聞こえたんだ!!」

これは嘘でもなんでもない。―――本当に聞こえたのだ。

そしてその真意まで、ルークに解るはずもなかった。

「とにかく、早いとこザオ遺跡に行っちまおうぜ!」

だからこそ、ルークはそう結論を出す。

どちらにしても、早くヴァンと合流する為にはそれしかないのだ。―――ここでごちゃごちゃと話をしていても仕方がない。

そう声を荒げたルークに向かい、アニスは気付かれないようにジト目でルークを見やると、聞こえないほど小さな声でポツリと呟いた。

「なぁ〜んか、やっつけって感じ」

イオンが浚われたというのに、ルークのこの態度はなんなのか。

一刻も早くイオンを救出したいアニスにとっては、少しばかり不満の残る言葉である。―――もちろん、玉の輿を狙うアニスがそれをルークにぶつけるつもりはなかったけれど。

そんなやり取りを苦笑を浮かべて見守っていたガイは、しかしふと浮かない顔をしているナタリアに気付き僅かに首を傾げた。

「どうした、ナタリア?」

疲れてしまったのだろうか?

確かに男の自分でもこの砂漠は厳しいのだ。―――女であり、また王女として暮らしてきたナタリアには相当辛いだろう。

しかしナタリアの表情からそんな気配が感じられない事に気付き、ガイは思わず口を噤んだ。

それに促されるように、ナタリアは戸惑いを浮かべつつポツリと呟く。

「鮮血のアッシュ。ルークにそっくりでしたわね」

あの雨と霧の中、視界はそれほどはっきりとしていたわけではないけれど、それでも確かに確認できたアッシュの顔。

あれほど驚いたのは、一体いつ振りだろうか。

あんなにも似た人間を見た事など、ナタリアにはない。―――それは本当に偶然なのだろうか?

「ああ、まさか生き別れの兄弟だったりしてな」

「ファブレ公爵家の子息は、ルーク1人のはずですわ」

自身でそう答えながらも、ナタリアの表情は晴れない。

あれほどまでに似た人間が偶然存在するなど考えられないが、血族ではない事は彼女が一番よく解っていた。

あるいは・・・ファブレ公爵の隠し子か。

そんな不穏な考えを抱いたその時、彼らの疑問をあっさりと流すようにジェイドが口を挟んだ。

「解らない事を考えていてもしょうがありません。今は、導師イオンの救出が先決です」

「・・・そうですわね」

キッパリと告げられた言葉に、まだ納得できていないがナタリアはコクリと頷く。

確かに、ジェイドの言う通りだった。

解らない事を考えても、答えが出るとは思えない。―――今は何よりも、イオンの救出が優先されるのだ。

オラクル騎士団が導師イオンに危害を加えるとは思えないが、彼らが何を企んでいるのか解らない以上、救出は早いに越した事はない。

それぞれ消えない疑問を抱いたまま、それでも最優先事項であるイオン救出の為、一行はひたすらザオ遺跡に向けて歩を進めていた。

 

 

そうして過酷な状況の中歩き続けた一行は、ある遺跡の前に立っていた。

崩れかけた外観。

途中立ち寄ったオアシスで仕入れた情報によると、おそらく半ば砂に埋もれるようにしてあるそこが目的の場所なのだろう。

「ここがザオ遺跡か」

「ええ」

不気味な雰囲気漂う遺跡を見つめながら、複雑な表情を浮かべてそう呟いたルークにジェイドはあっさりとそう答える。

お世辞にも、立ち寄りたいと思うような場所ではない。

出来る事なら避けて通りたいところだけれど、ここにイオンがいるのならば仕方がなかった。―――もちろん、アッシュの言葉を信じるのなら・・・だけれど。

「よぉ〜し、行きましょう!!」

しかし今は他に手がかりもない。

もしもアッシュが罠を張っていたとしても、ここまで来た以上引き返すわけにはいかなかった。―――誰がなんと言おうと、アニスにその気はない。

そうして気分を盛り上げるべく殊更大きな声を上げるアニスに背中を押されるように、一行は薄暗いそこへと足を踏み入れた。

「中もそれほど涼しくないな」

ところどころに微かな灯りはあるものの、全体的に薄暗い。

おそらくは地下に向かっているだろうと思えるが、残念ながらそれほど気温に差はなかった。―――まぁ、炎天下の中を歩き続けるよりは断然マシだったが。

「暑いです。特に、背中が・・・」

「トクナガ、下ろしたら?」

遺跡に入る時には元気いっぱいだったアニスは、しかし暑さに耐えられないのかぐったりと肩を落として歩き続ける。

そんなアニスを認めて僅かに首を傾げつつそう提案してみるものの、の言葉はあっさりとスルーされた。―――アニスにとって、トクナガは大切な武器なのだ。

「でも、こんなところに導師イオンを連れてきて何をしようというのでしょう?」

ただひたすら薄暗い遺跡の中を歩いていたナタリアが、ふと浮かんだ疑問を口にする。

確かに、こんな何もないような場所へイオンを連れてきて、六神将は一体何をしようというのだろうか?

ほとんど人から忘れられた、過去の遺物。

そこに何があるのかなど、人々の記憶には残っていない。

願わくば、厄介な事態にだけは発展しないようにと密かに願いながら、一行はひたすら遺跡の中を歩き続ける。

そうしてどれほど歩いただろうか?

不意に開けた場所に出た一行は、そこに目的の人物の姿を認めて声を上げた。

「イオン様!!」

アニスの声に、弾かれたようにイオンが振り返る。

それを待っていたかのように、ルークがイオンの隣に立つアッシュへと声を張り上げた。

「アッシュ!テメェ、何者だ!!どういうつもりなんだよ!!」

「グズが・・・」

ルークの怒声に、アッシュは小さく舌打ちしながら盛大に表情を顰める。

「アッシュ!イオン様を返して!!」

しかしアッシュが何かを答える前に、再びアニスが声を張り上げ駆け出した。

アッシュがイオンに何をさせていたのかは解らないが、今はイオン救出が最優先である。

しかしイオンに駆け寄ろうとしたアニスの前に、どこにいたのか・・・―――仮面を付けた少年が立ちはだかった。

「待ちな」

「シンク!」

驚きの声を上げるアニスの傍らで、ジェイドは薄い笑みを浮かべながらシンクの隣を見やる。

「ほぉ、黒獅子ラルゴ。―――生きていましたか」

「あの程度で死ぬほど柔ではない。―――死霊使い・ジェイド」

ジェイドの言葉に、ラルゴは皮肉げに口角を上げつつそう言い放つ。

タルタロス襲撃の際、ラルゴを仕留めたと思っていたけれど・・・―――見た目どおり、彼は頑丈らしい。

もっとも生存を確認する余裕もなかったのだから、こういう事態もありえるだろうとは思っていたけれど。

「どけよ、オメーら!こんなところで時間食うわけにはいかねーんだよ!!」

立ちはだかるように現れたシンクとラルゴに、ルークは苛立ったように声を上げる。

ただでさえ、ザオ遺跡に立ち寄った為に時間を食っているのだ。

早くヴァンに追いつきたいルークが、苛立つのも理解できた。

しかし、まるで食いつかんばかりの勢いでそう声を上げるルークを認めて、ラルゴは小さく鼻で笑う。

「こいつは面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどう成長したか・・・見せてもらおうか!!」

タルタロスでは、ラルゴを前に一歩も動けなかったルーク。

その時の事を思い出したのか、ルークは激昂したように剣を抜き放ち、そうして目の前に立ちはだかるラルゴへ向かい駆け出した。

そうして突如始まった戦闘に、けれどおそらくそれを避ける事は出来ないだろうと踏んだガイもまた、剣を抜きシンクへとその剣先を向ける。

それを認めて、ジェイドもまた己の腕から槍を具現化させ、素早く視線を巡らせるとルークの攻撃を受け止めているラルゴへと攻撃を仕掛けた。

「瞬迅槍!」

ジェイドから放たれた攻撃を、ルークを押しのけてなんとか交わしたラルゴは、再び武器を構えてジェイドを見やる。

しかしその攻撃が繰り出される前に、トクナガを巨大化させたアニスがラルゴへと襲いかかった。

「でえぇぇぇい!!」

「甘いわ!!」

けれどその攻撃も、あっさりとラルゴに迎撃される。―――力技で押し返されたアニスは、そのままトクナガから放り出され、思いっきり地面へと叩きつけられた。

そして痛いと声を上げるアニスの傍らで、ガイとシンクの戦いも続いていた。

ジェイドがルークの方へ加勢したのを認めて、ティアはシンクへと攻撃を仕掛ける。―――同じくナタリアもシンクへ向けて矢を放つが、それは動きの素早いシンクにあっさりと避けられてしまった。

「・・・もしかして、僕を狙ったつもり?」

不意に背後で響いた声に、ナタリアは身体を強張らせる。

そうしてシンクの攻撃がナタリアに向けられるその時・・・―――ティアが寸前のところでナタリアを救い出した。

「あ、ありがとう」

「いいのよ」

戦闘中という事もありあっさりと返された言葉に、ナタリアは気を取り直したように改めてシンクを見据える。

相手は六神将。―――早々容易い相手ではない。

そうして繰り広げられる戦いの中で、はどちらに加勢するでもなく素早く己の武器であるチェーンへと手をやり、それを少し離れたところで戦闘を傍観しているアッシュへと放った。

「・・・ちっ、お前か」

「イオンを返して」

のチェーンはアッシュの腕を拘束し、その動きを封じている。

!」

イオンの気遣うような声を耳にしながら、はジッとアッシュを見据えて思う。

カイツールで会った時は気付かなかったけれど、確かにアッシュはルークにとてもよく似ている。

それとも、ルークがアッシュに似ているのだろうか?

ふとそんな思いを抱いたは、まっすぐにアッシュを見据えた。―――勿論、それで答えが得られるわけではなかったけれど。

そんなの視線に居心地の悪さを感じたのか、アッシュはもう一度舌打ちをしてに拘束されている腕を強引に引っ張った。

慌ててその場に踏ん張ろうとするが、思ったよりも力が入らず、はそのまま宙へ投げ出される。

寸でのところでなんとか体勢を整え着地するが、今の自分の実力を思い知りは僅かに眉を顰める。

自分の考えに、身体がついてこない。

自分の知っているだけの力が出てこない。―――アンチフォンスロットの影響は、こんなところにも出ている。

は改めてそれを認識し、チェーンを握りなおした。

たとえ力の大半が封じられていようとも、これから自分がする事に変わりはない。

起こってしまった事を嘆いても仕方がないのだ。―――あとは、どう対処するかだけ。

アンチフォンスロットが今すぐ解けない以上、なんとか今の自分が持てる力で戦っていくしかないのだ。

そうして改めて武器を構えなおしたが再びアッシュへ攻撃を仕掛けるその前に、先ほどまでラルゴと戦っていたと思われたルークが、唐突にアッシュへ向かい駆け出した。

それに気付いたアッシュもまた剣を抜き放ち、ルークへ向かい攻撃を仕掛ける。

瞬間広がった衝撃に、それを見ていたではなく攻撃を仕掛けたルークが大きく目を見開いた。

「・・・なっ!」

しかしルークがその驚きを口にする前に、遺跡の中に異変が起きる。

彼らの激しい戦いに、古い遺跡がいつまでも耐えられるはずもなく、過去の遺物は僅かな地響きを立てて崩れ始めた。

「おいおい、ヤバイぞ!」

それを認めて、思わず剣を引いたガイが焦った様子でそう呟く。

ここは遺跡の最深部。

古い遺跡が、いつまで地上の砂を支えていられるか解らない。

こうなったからには、さっさと退散するのが得策だろう。―――しかしそんなガイの呟きなど聞こえていないのか、アッシュと睨み合ったルークは驚きの混じった声を上げた。

「どうしてヴァン先生の技を使う!!」

力強く剣を握り締めながら、ルークは混乱したように叫んだ。

先ほどアッシュが放った攻撃は、自分と同じもの。

自分がヴァンから教えられたものと、同じものだ。

一方、混乱するルークを見据えて、アッシュは吐き捨てるように告げた。

「決まってるだろうが!同じ流派だからだよ、ボケがっ!!俺は・・・」

「アッシュ、止めろ!ほっとくとアンタはやりすぎる。ここは引くぞ」

しかし同じく戦いの手を止めていたシンクが、アッシュの言葉を遮るようにそう声を上げる。

それに不満げに睨みを利かせるアッシュに対し、けれどシンクも引く気はないらしく、語気を強めて再び口を開いた。

「剣を収めてよ、さぁ!」

シンクから再度告げられた言葉に、アッシュは渋々と言った様子で剣を収める。

けれど中途半端に問いを遮られたルークが納得できるはずもなく、再び・・・―――けれど今度は少し動揺したようにアッシュへ向かい声を上げた。

「ど、どういう事だよ、アッシュ!」

「どこまでも幸せな奴だな」

そんなルークを見据えて、冷たい眼差しを向けながら言い放ったアッシュは、けれどそれに答えるつもりはないのか素早く踵を返した。

同じくシンクとラルゴも、アッシュを追うように駆け出す。

「待て!!」

それにルークが慌てて声を張り上げるも、彼らが立ち止まる事はなかった。

「イオン様、大丈夫ですか?」

「ええ」

そんなやり取りを他所に、慌ててイオンへと駆け寄ったアニスが心配そうに顔を覗き込む。

薄暗い中では顔色までは解らないまでも、今すぐ倒れてしまうほど体調が悪いわけではなさそうだ。―――それに加えて目立った外傷もない事を確認し、アニスはホッと安堵の息を吐く。

しかし、のんびりとしている暇はなかった。

先ほどから、地響きは少しづつ酷くなりつつある。

既に遺跡が崩れ始めているのだろう。―――アッシュたちがあっさりと引いた理由も、おそらくはそこにあるに違いない。

そう判断したジェイドは、その場にいる面々を見回してキッパリとした口調で告げた。

「脱出しましょう!」

地響きに紛れそうなジェイドの言葉を拾い上げ、一行は急いで先ほど通った道を引き返す。

どうか、脱出するまで遺跡が崩れ落ちませんように。

ひたすら地上へ向けて走る面々は、今はただそれを願う他なかった。

 

 

なんとか遺跡に押しつぶされる事なく地上に出た面々は、それぞれ上がった息を整えるように口を噤んだ。

流石に最深部から入り口のここまでの全力疾走は辛い。―――まぁ、生き埋めにされるよりはマシだったが。

そんな中、なんとか息を整えたイオンが、改めて全員を見回してから深々と頭を下げた。

「皆さん、ご迷惑をおかけしました」

イオンの口から告げられた謝罪の言葉に、アニスは驚いたように目を丸くする。

しかしそれに気付く様子もないルークは、ジッとイオンを見つめてため息混じりに呟いた。

「まったくだ。ヴァン先生が待ちくたびれてるぜ」

「ちょっと・・・!」

「すみません、僕が油断したばかりに」

ルークの心無い言葉に咄嗟に反論しかけたアニスだったが、イオンはそれを無言で制して再びルークへと頭を下げる。

それを認めたティアは、慌てたようにイオンへと駆け寄り頭を上げさせた。

「そんな!導師イオンが謝る必要なんてありません」

「いいんです、ティア。アニス、ありがとう」

ティアの言葉に、イオンは彼女とアニスを交互に見やるとやんわりと微笑む。

彼にとっては、今回さらわれたのは自分の責任だという思いが強いのだ。

自分が油断さえしなければ、彼女たちを危険に晒す事もなかった。―――アクゼリュスの救援が急を要する今、ルークの言うように余計な時間を費やす事も・・・。

けれどそれで納得できるほど、アニスは素直ではない。

「む〜・・・」

「そうむくれるなって」

あんまりだと思えるルークの発言に思わず頬を膨らませると、それを見ていたガイが苦笑交じりに声を掛ける。

そんな彼らのやり取りをそのままスルーして、ジェイドはイオンに本題を切り出した。

六神将のイオン誘拐に、一体何が隠されているのか。

「ところでイオン様。彼らはあなたに何をさせていたのです?―――ここはセフィロトですよね」

「セフィロト。―――大地のフォンスロットの中で、もっとも強力な場所のひとつ」

ジェイドの問いに対し、訳が解らないと首を傾げているルークに気付き、はまるで辞書のような説明を口にする。

それに対してひとつ頷いたイオンは、僅かに遺跡を振り返りつつ口を開いた。

「はい。ローレライ教団では、セフィロトを守るためにダアト式封呪という封印を施しています。封印は導師にしか解けないのですが、彼らはそれを開けるようにと」

封印を解いたところで、なにも影響はないはずなのですが・・・―――そう言葉を続けるイオンに、黙って話を聞いていたルークが不思議そうに首を傾げた。

「なら、どうして教団はセフィロトを守ってるんだ?」

「それは・・・機密事項です」

躊躇いながらもキッパリと告げられた言葉に、ルークは言葉には出さずに心の中で「またかよ・・・」と愚痴を零した。

以前も教団について話を聞いた際、機密事項だと話を打ち切られた事があった。

まるで仲間はずれにされているような状況に苛立ちを隠す事無く、ルークは踵を返すとイオンらに向けて素っ気無く言い放つ。

「ふん、どーでもいいけどよ。さっさと行こうぜ」

そうしてさっさと歩き出したルークの背中を見つめていたアニスは、我慢ならないといった様子で非難の声を上げた。―――勿論、ルークには聞こえないようにだけれど。

「なにあれ!」

「アニス、落ち着いて」

「もー!は落ち着きすぎ!!」

地団駄を踏む勢いで怒りを表すアニスを認めて、はなんとか彼女の怒気を納めようと口を挟む。―――しかし元来彼女は説得には向かない人間らしく、アニスは怒りの矛先をへと変えて、もう1度力強く地面を踏みつけた。

それに困ったように僅かに眉を寄せるを認めて、ジェイドは気付かれない程度に小さく苦笑を浮かべる。

感情表現豊かなアニス。

良くも悪くも軍人としての経験が長いにとっては、今まで周りには居なかったタイプでもある。

それに戸惑う気持ちを感じ取りつつ、ジェイドは1人満足げにメガネを押し上げた。

アニスの存在は、にとっていい刺激になるだろうと確信して。

「さぁ、いつまでも立ち話をしていても仕方ありません。行きますよ」

先を歩くルークを認めて、ジェイドは今もまだ怒りを露わにするアニスと、見た目にはほとんど解らないがおろおろとするに向けてそう声を掛けた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

戦闘シーンが・・・!!

色々と悔いが残る部分もありますが、それはそれとしてサラッと流して次で頑張りたいと思います。(前向きなんだか、そうじゃないんだか)

原作沿いになった途端、主人公の影が薄いですねぇ。

過去編はまぁ、彼女とジェイドが主役だったのでそれなりに出番もありましたが、こうもキャラが増えてくると、無口な彼女は途端に埋もれてしまいます。

まぁ、過去編でも出番のほとんどは陛下でしたけどね。(開き直り)

作成日 2008.11.30

更新日 2009.11.29

 

戻る