「お前は・・・怖くないのか?」

隣に腰を下ろしたルークの小さな声に、はふと顔を上げた。

視線をそちらへと向けるが、ルークは視線をと合わす事もなく、何を考えているのかじっと焚き火を見つめている。

ゆらゆらと揺れるオレンジ色の光が、ルークの顔に濃い影を落としていた。

 

当たり前の

 

何とかタルタロスを脱出し、逸れたアニスと合流するべくセントビナーに向かい歩き出した一行。

しかし、事はそう簡単には運ばなかった。

ジェイドの予想通り、タルタロスに閉じ込められたリグレットたちによって放たれた追っ手は、それはもうしつこいほどに後から後から追ってくる。

そうして、事件は起きたのだ。

戦いの最中、タルタロスでオラクル兵の命を奪った事に対する恐怖を思い出したルークが追っ手に剣を向ける事を躊躇い、そんな彼を助けるべく傷を負ったティア。

ルークを危険な場所へと連れ出してしまったのは自分なのだから、何も気にする必要はないとそう言うティアに対し、しかしそれを言葉通り実行できるほど、ルークは鈍感ではなかった。

戦う事により相手の命を奪ってしまう事に対する恐怖と、ティアが自分を庇って怪我を負ってしまった事に対する恐怖。

その今まで感じた事のない二つの恐怖が、ルークの精神を少しづつ追い詰めていく。

戦うと決めたのは自分だ。

怖くて戦えないなんて、そんな事は口には出せない。

それでも、自分を襲う恐怖は、消しようがない事も事実で。

ガイやティア、ジェイドと話し、それでも心のもやもやは晴れる事はなく、ルークは薪拾いから戻ってきたの元へと足を運び、そして聞いたのだ。

お前は怖くないのか、と。

それに対し、はピクリとも表情を動かす事もなく、相変わらずの無表情でじっとルークを見つめる。

見るからにぼんやりとして、頼りなさげで、どこから見ても軍人には見えず、その上無口無表情無愛想と三拍子揃った少女だったが、ルークは不思議と嫌悪感は抱かなかった。

それどころか、なんとなくの隣に座ると落ち着くような気さえする。

だから聞いてしまったのだろう。―――自分が恐怖を感じていると言っているも同然な、その問いかけを。

ならば、笑う事も馬鹿にする事もなく、自分の話を聞いてくれるような気がした。

それでもと視線を合わせる事が出来ず、じっと焚き火を見つめていたルークは、が少し身じろぎする気配を感じて不意に視線をそちらへと向けた。

「怖い?―――ルークは何を恐れる?」

しかし返ってきたのは、更に彼に問いかける言葉だった。

小さく首を傾げるに、ルークはもどかしさを感じ僅かに声を荒げる。

「簡単に人の命を奪って、それで良いのかよ!!」

それは、ルークがずっと思っていた事だった。

ルークは今まで、屋敷の外へ出た事がない。

それはとても窮屈なものだったけれど、言葉を変えれば絶対的に安全なその場所で、危険を感じる事もなく、守られて暮らして来たのだ。

誰かが誰かの命を奪うなど、考えた事もない。

それが突然、何の前触れも心の準備もなく目の前に突きつけられたのだ。―――彼が戸惑うのも当然だと言えた。

まるでそれが当たり前のように、簡単に行われる命の奪い合い。

たとえ自身の身を守る為とはいえ、それが他人の命を奪ってもいい理由だとは思えない。

しかしそうしなければ自分の身を守る事さえ出来ないのも、また事実。

そのジレンマが、何も知らなかったルークの心を追い詰める。

しかしそんなルークの発言に対しても、は眉一つ動かす事はなく、また視線をルークから逸らす事もなく、淡々とした声色で口を開いた。

「・・・だって、そうしないと守れない」

「守る?」

訝しげに問い返したルークにコクリと頷き、は視線を焚き火へと移す。

「私は、私が大切だと思う人を、もう失いたくない。そして私は、自分が大切だと思う人に同じ想いをしてほしくないし、ずっと一緒にいたい。だから私は何があっても死ねない」

それはの中にある、絶対に譲れない想い。

ただ、を突き動かす衝動。

その為に、彼女は戦っている。

「だから相手を殺しても良いってか!?」

「大切な人を守るためなら、私はそうする。私の大切な人の命を狙うなら、絶対にそれを阻止する。誰かの死を望むなら、自分も死を覚悟しないといけない。私はいつも戦う時、そうなってしまう事を覚悟している。―――そうなるつもりはないけど」

「そんな・・・」

尚も言い募るルークに淡々とそう告げて、は手元に置いておいた木の棒で焚き火をつつく。

焚き火はパチパチと音を立てて爆ぜ、赤い火の粉を辺りに巻き散らかした。

「何があっても、どんな状況でも武器を持たず、大切な人を奪われても憎まず昇華してしまえるだけの強さを、私は持たない。どうしてもそんな強さは持てない。だから私は戦う」

そうして今までとは違う感情の篭ったその声と言葉に、ルークはもう何も言えなかった。

の中では、もう結論は出ている。―――そして、その覚悟を彼女はしているのだ。

それが正しい事なのかどうかはルークには解らない。

ただ、はその道を選んだという事なのだろう。

「ルーク、恐れる事は恥じゃない。私も、初めて人の命を奪った時は怖かった。だからルークが決めればいい」

「・・・決めるって、なにを」

「私は、私の大切な人と一緒にいる為に・・・大切な人を少しでも手助け出来るように、この道を選んだ。でもルークはそうなる必要はないし、別の道もちゃんとある。街の外に出るなら、戦える人を雇えばいい。みんなが戦ってるわけじゃない」

じっと自分を見つめてそう話すには、やはり馬鹿にするような雰囲気も慰めるような雰囲気もない。

「・・・それ、ジェイドにも言われた」

「そうか」

ルークの言葉にコクリと頷いて、は薪を焚き火の中へと放り込む。

パチパチと爆ぜる焚き火の音と、優しいオレンジ色の光。

そして火で熱せられた温かい空気は、少しだけルークの心を和らげてくれたような気がした。

 

 

それからもオラクル騎士たちの追っ手は止む事は無かったが、何とかそれを撃退しつつ一行がセントビナーに辿り着くには、それなりの時間を要した。

やっとの事で目的の場所へと到着した一行だったが、しかしそこでもまた大きな壁が立ち塞がっているのを思い知らされる。

「なんでオラクル騎士団がここに・・・?」

セントビナーの街の入り口を封鎖するオラクル騎士団の姿に、咄嗟に茂みの中へと隠れたルークが小さくそう呟いた。

「タルタロスから一番近い街はセントビナーだからな。休息に立ち寄ると思ったんだろう」

忌々しげなルークを宥めるように、ガイがそう補足する。―――しかしそれに反応を示したのはルークではなく、その隣にいたジェイドだった。

「おや?ガイはキムラスカ人の割には、マルクトに土地勘があるようですねぇ」

「卓上旅行が趣味なんだ」

「これはこれは、そうでしたか」

サラリと言い切るガイに、わざとらしく相槌を打つジェイド。

周囲に漂う微妙な空気を察して、イオンが困ったように眉を寄せる。

「卓上旅行。地図を見て、旅行をした気分に浸る事」

「説明ありがとうございます、

オラクル騎士たちをぼんやりとした眼差しで見つめながらそう言うに、慣れているのかジェイドがあっさりとそう流す。

普段の彼らのやり取りがどんなものなのか気になるところではあるが、今はそれを追及している場合ではない。

ともかくの発言により微妙な空気が払拭された事を察したティアが、それにしても困ったわね・・・と小さくため息混じりに呟いた。

オラクル騎士団がいつからセントビナーの街を占拠しているのかは解らないが、先にこちらへ出発したはずのアニスが、街の中にいる可能性は高い。

事を荒立てない為には強行突破など出来るはずもなく、かといって真正面から正直に出て行けば捕まるのは目に見えている。

さてどうしたものかとティアがぐるりと視線を巡らせたその時、視界に入ったあるものの姿が飛び込んできた。

見覚えのある人。

ティアの視線に気付いた面々がそちらに視線を向けた頃、こちらへと近づいてくるその人物も一行に気付いたらしく、その人好きする明るい笑顔をその顔に浮かべる。

「カーティス大佐と中佐じゃないですか!それに確か・・・ルークだったかい、旅の方?」

明るい声色で声を掛けてきたのは、ついこの間お世話になったエンゲーブのローズだった。

隠れるように茂みの中から顔を出すルークたちを見て、不思議そうに首を傾げる。

「・・・何やってるんだい?」

「おばさん!悪ぃけど、馬車に匿ってくれねぇか?」

「はぁ!?」

唐突なルークの申し出に、ローズは目を丸くして間の抜けた声を上げた。

そのあまりにも説明の足りないルークの言葉に見かねたガイが、一歩前へ出てローズに現状を一部誇張して話し出す。―――もちろん、相手が女性であるのでそれなりの距離を取る事も忘れなかったが・・・。

「セントビナーへ入りたいのですが、導師イオンを狙う不貞の輩が街の入り口を見張っているのです。ご協力いただけませんか?」

「おやおや、こんな事が起きるとは聖誕祭のスコアにも詠まれなかったけどねぇ」

あまりのも突拍子の無い申し出に、ローズが驚いたように目を見開く。

「お願いします」

畳み掛けるようにローズに歩み寄り願い出たティアに、驚くほどの反射神経で飛びのくガイにも同じだけ驚いてから、ローズはこの一風どころかえらく変わった面々を見回して、彼女の魅力である豪快な笑みを唇に乗せた。

「いいさ、泥棒騒ぎで迷惑かけたからね。お乗りよ」

「助かります」

「ありがとう」

気の良いローズのお言葉に甘えて、一行はローズの馬車に乗り込み身を隠す。

こうして彼らは、事無きを得てセントビナーに入る事が出来たのである。

 

 

「で、アニスはここにいるんだな?」

無事セントビナーの街へと入る事の出来た一行は、オラクル騎士団が占拠しているせいでいつもよりも人が少なくなってしまった広場に立ち、グルリと街の中を見回す。

「マルクト軍のベースで落ち合う約束です。―――生きていれば、ね」

「嫌な事言うやつだな。・・・じゃ、行こうぜ」

ジェイドの物言いに表情を顰めたルークだが、いつまでもこんなところで言い合いをしているつもりはないらしく、マルクト軍のベースがある場所を知っているジェイドにそう促す。

そんなルークにいつもの微笑を絶やさないまま歩き出したジェイドに続くように、もまた先頭に立って歩き出した。

「ジェイド、ジェイド」

「何ですか、

何の話をしているのか、後ろでギャーギャーと騒ぐルークたちの声を聞き流し、ジェイドは隣を歩くへと視線を落とす。

つい先ほど、オラクル騎士団に見つからないように気をつけろと言ったばかりだというのに、彼らの頭からはすっかりその事は抜け落ちているようだ。―――逃亡者にしては随分と気楽なものだと、頭の片隅でそんな事を思う。

「マルクト軍のベースに行くの?」

「そうですよ。アニスとそう、約束をしたでしょう?」

今更何を問うのかと軽く眉を上げてそう答えれば、は傍目からは解らないほど僅かに満足そうな表情を浮かべて。

「元帥に会える?」

小さく首を傾げて、そう問うた。

その仕草が、あまりにも軍人らしく・・・というよりも、年頃の娘らしくなく幼げで、ジェイドはふとアニスを思い出す。

の方が年上であるにも関わらず、仕草などはアニスの方があまりにも大人びている。

そのちぐはぐな関係が見ていて面白いところでもあるのだけれど、任務時はともかく、普段がこれほどにまで無防備な様子に、ジェイドとしては少々不安を感じずにはいられない。

接し方を間違っていたのかもしれない。

心の中でそう呟くが、すぐにそれが自分だけのせいではないと思い直し、グランコクマにいる某皇帝や、マルクト軍幹部連、そしてこの街にいる既に軍を退いた賢人の顔を思い出してはため息を零した。

「ええ、会えますよ。・・・嬉しいですか?」

「嬉しい。元帥、なかなか会えなかったから」

表情こそ変わらないものの、相当楽しみにしているだろうの様子に、ジェイドは頭痛を覚えながらもやんわりと口元に笑みを浮かべる。

この旅は、観光目的ではないのだけれど。

喉元まで出掛かった言葉を何とか飲み込み、ジェイドはチラリと背後の様子を伺った。

今もまだ、くだらない事で騒いでいるルークたちを横目に。

非常時には随分と頼りになると解っているはともかく、このメンバーを率いてバチカルまで行かなくてはならないのかとそう思い、そうしてその旅路の果てしなさを想像して、ジェイドはもう一度ため息を吐き出した。

 

 

マルクト軍の基地へと通された一行は、マクガヴァン将軍がいるという部屋へと向ったが、しかし中からはなにやら言い争う声が聞こえ、ジェイドは漏れ出てくる会話の内容に軽く肩を竦めてみせる。

どうやらセントビナーを占拠するオラクル騎士団に、この街に駐留する彼らマルクト軍も頭を悩ませているらしい。

しかしこのまま話し合いが終わるのを待っているのもただの時間の浪費でしかないと判断したジェイドは、失礼しますと声を掛けて躊躇いなく閉ざされた扉を開けた。

「おお!ジェイド坊やか!もいるのか!?」

「ご無沙汰しております、マクガヴァン元帥」

「久しぶり、元帥」

しかしその遠慮のない行動のジェイドたちを迎えたのは、叱責の声ではなく歓迎の声だった。

マクガヴァンと呼ばれた老人は、顰めていた表情を柔らかなものへと変え、部屋へと入ってきたジェイドとを見て親しげに笑む。

「わしはもう退役したんじゃ、そんな風に呼んでくれるな。お前さんこそそろそろ昇進を受け入れたらどうかね。本当ならその若さで大将にまでなっているだろうに」

「どうでしょう。大佐で十分身に余ると思っていますが・・・」

「何を言っておる。それにお前さんが昇進せんと、も受け入れんだろう。せっかくの異例のスピード昇進の記録が途絶えてしまうだろうに」

「だそうですよ、

「・・・なにが?」

元帥の言葉にさりげなく話を振ったジェイドに、しかしはその内容を把握していないのかとぼけているのか、小さく首を傾げて見せた。―――この場にいる全員が、間違いなく前者なのだろうと確信できたが。

「ジェイドって偉かったのか?」

「そうみたいだな」

そうしてジェイドと元帥の会話にまったく入る事も出来ずに突っ立っていたルークが、多少の居心地の悪さを感じながらも隣に立つガイに向かい話を振れば、同じく会話に入れないガイは無難に相槌を打ち返す。

「それに今の話聞いてると、も結構偉い立場にいるみてぇだけど・・・」

「そうみたいだな」

「・・・・・・見えねぇ」

遠慮のないルークの言葉に、ガイは困ったように苦笑を浮かべた。

確かにという人物を見る限り、彼の感想もあながち筋違いではないように思う。

いつもぼんやりとしていて頼りなさそうな・・・―――はっきりと言ってしまえば、軍人とはとても思えないほどだ。

しかし仮にもはマルクト軍の中佐なのだ。

そうして旅をして短いながらも、ジェイドがどういうタイプの人間なのかをそれなりに理解出来ている身としては、彼女の実力が見た目同様ではない事は明白だった。

「・・・まぁ、確かにその気持ちも解らんでもないが・・・。だがあの子は見かけとは違って只者じゃないぞ。タルタロスに侵入した時、あっさりと俺の背後を取ったんだからな」

「嘘だろっ!?」

ガイの言葉に、ルークは思わず声を上げた。

彼の実力を多少なりとも知っているルークとしては、あんな頼りなさげな少女がガイの言うような人物とは思えない。

「ルーク、大声出さないで!ガイも一緒になって騒がないで」

「・・・すまない」

しかしここに来て、話を続ける内に大きくなってきていた声に、ティアは難しい顔で嗜める。

ここは街中ではなくマルクト軍のベースなのだ。―――騒いでいい場所ではない。

それにバツが悪そうに謝罪したガイを見やって、ジェイドは改めて話を切り出した。

「ところで元帥。ここに神託の盾騎士団の導師守護役が来ませんでしたか?」

「おお、来たぞ。じゃが、しばらくもせん内にオラクル騎士団がこの街に来てな。強行に街を封鎖するというので、彼女はすぐにここを発ったが・・・」

「アニス、無事だったんだな」

「そうね、無事でよかったわ。何せタルタロスから投げ出されたと聞いていたから・・・」

元帥の話に、ルークとティアはホッと胸を撫で下ろした。

ジェイドやイオン、それには至極あっさりと大丈夫などと言っていたが、あの混乱の最中でまだ幼い少女が1人で無事でいられる保証はどこにもない。

その上タルタロスから投げ出されたと言われては、ルークはともかく常識人であるティアが心配しないわけもなかった。

しかしそんな2人を見やって、ジェイドとイオンはにこやかな笑みを浮かべて言い放った。

「だから言ったでしょう?アニスなら大丈夫だと」

「そうですよ、アニスですから」

ニコニコと音さえ聞こえてきそうなほど清々しい笑みを浮かべる2人を見つめて、一歩離れたところから話し合いを見ていたガイは思わず頬を引き攣らせた。

イオンはともかく、ジェイドにここまで言われるなんて・・・。

「・・・そのアニスって子、どんな子なんだ?」

思わずポツリと零れた疑問に、その声を聞きつけたが振り返って首を傾げる。

「アニスは元気がいい、すごく」

「・・・その説明だけじゃ、余計に解らんが・・・」

簡潔すぎる答えに、ガイは更に頬を引き攣らせて笑みを浮かべた。

こちらも短いとはいえ共に過ごすようになって、がどれほど説明に向かない人物であるのかは嫌というほど思い知らされている。

「ところで、ジェイド。せっかくここまで来たんじゃ。少しはゆっくりしていけるのだろう?」

「残念ですが、我々は早くアニスと合流しなければならないのでね。すぐにでもここを発とうと思っていますが」

どうやら話が終わりに近づいてきていると察した元帥が窺うようにそう声を掛けるが、しかしジェイドは彼の思惑などばっさりと切り捨ててキッパリとそう返した。

それでも元帥は強かった。

「じゃが、街はオラクル騎士団に占拠されておる。どうやって入って来れたのかは解らんが、街を出るのはそう簡単ではないぞ。しばらく様子を見て・・・」

流石にジェイドと付き合いが長いだけはある。―――ジェイドの笑みをさらりと流して、更に言い募った・・・が。

「元帥」

心持ち低い声で名を呼ばれた元帥は、ジェイドの言いたい事を正しく理解して・・・そうしてこれ以上言い募っても無駄だという事を察し、諦めを込めてため息を吐き出した。

「・・・解った、解った。アニスという少女からがここに向かっていると聞いて、が喜びそうなお菓子やなにやら用意しておったのだが・・・諦めるさ」

「そうしてください」

やっぱりそれが狙いだったかと心の中で思いつつも、ジェイドはそれを微塵も感じさせない完璧な笑みを浮かべてさらりとそう言い放つ。

まったく・・・誰も彼も、を何だと思っているのか。

そして当のは、ぼんやりとそのやり取りを見ているだけなのだから。

放っておけば、流されに流されていつセントビナーを発てるかも解らない。

「・・・なぁ、ガイ。あのマクガヴァンってじいさん、マルクトの偉いやつだったんだろ?」

「そうみたいだな」

「・・・あれじゃ、孫の来訪を喜ぶただのじいさんにしか見えねぇんだけど」

「それは、まぁ・・・その・・・」

またもや素直すぎるルークの言葉に、今回ばかりは何も返せずガイは言葉を濁した。

ルークの感想はまさしくガイの感想とも一致していたのだから。

元帥とジェイドのそんなやり取りを見ていたこの部屋の主であるマクガヴァン将軍は、このまま放っておけばいつまで経っても話が進まないと判断したのか、元帥を押しのけてジェイドの前に立ち、ポケットに入れてあった一枚の手紙を差し出した。

「彼女から手紙を預かっています。・・・失礼ながら念のため開封して、中を確認もらいましたよ」

「結構ですよ。見られて困るような事は書いていないはずですから」

まったく動じた様子もなく手渡された手紙を受け取り中を読み始めたジェイドは、最後まで読み終えると手紙を傍らに立つルークへと差し出す。

「半分は貴方宛のようです」

「は?アニスの手紙だろ?イオンならともかく、何で俺宛なんだよ」

突然話を振られて戸惑いつつも、押し付けられるように手渡されたそれを受け取り中に目を通したルークは、隠そうともせず盛大に顔を引き攣らせた。

確かにこれはルーク宛だ。

それでもルーク以外の人物の目にも映るだろう事をアニスが予測できていないはずもなく、勿論これはアニスなりの牽制も込めてあるのだろうが・・・。

「ほれ、。せっかく用意したお菓子じゃ。好きなだけ持って行け」

「ありがとう、元帥」

ニコニコと微笑む元帥から大量のお菓子を受け取ったは、しかし無表情のまま礼を言ってその内のいくつかをポケットに収める。

俺の周りってこんな奴らばっかなのかよ・・・。

手の中の手紙と目の前の現実に、ルークはがっくりと肩を落とした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

どこで切るべきか。

いまひとつ盛り上がりがない為に内容もないような話に仕上がってしまいましたが。

絶対に飛ばしても大丈夫そうなところではあったのですが、最初のキャンプの場面を書きたいばかりに無理やり入れて失敗した感がそこはかとなく漂っています。

とりあえず謝ります。ごめんなさい。(いや、謝られても)

そしてこの話を作るのにどれだけ時間が掛かってるのか・・・。(がっくり)

作成日 2007.5.19

更新日 2007.10.14

 

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