ほんの少し冷たさを帯び始めた風に身を晒し、ジェイドは弄ばれる長い髪を鬱陶しげに抑え、遥か彼方まで広がる蒼の景色をその瞳に映す。

己の背後を通り過ぎていく人々の笑い声を何とはなしに耳にしながら、無意識の内に重いため息を吐き出して。

自分の行動を改めて思い返し、何をやっているのだと思わず自嘲した。

全く、自分らしくない。

馬鹿馬鹿しいとさえ思うのに、それでもこうしてここに立っている時点で自分に弁解の余地はない。

その馬鹿馬鹿しいと思う行動を自らが取っている事に、ジェイドは愉快とも不愉快とも判断が付き難い笑みをその口元に浮かべた。

進行方向へ視線を向け、その鮮やかな赤の瞳を薄っすらと細める。

向かう先には、一体何があるというのか。

そして、一体何を求めているというのか。

不意にユラリと宙を漂う白い欠片を視界の端に映しながら、ジェイドは踵を返した。

 

孤独を知る

 

の退軍届を届けにやって来たのは、まだ歳若い娘だった。

花屋で働いているというその娘の格好は、着飾った貴族の娘たちがたむろする宮殿前の広場ではお世辞にも綺麗とは言えなかったが、好感の持てるものではあった。

ジェイドの指示で広場から宮殿の応接室に通されたその娘は、突然の出来事に戸惑い可哀想なくらい落ち着きというものを失っている。―――軽いノックの後入室したジェイドを認め、何故かビクリと肩を震わせた。

ジェイド=カーティスの名前は、軍人の間だけではなく一般人の間でも有名だ。

それは勿論名門であるカーティス家の・・・養子とはいえ跡取であるのだし、その容姿をとっても年頃の娘たちが騒がないわけがない。

加えて遠目に見る分には人当たりの良さそうな笑顔を浮かべているジェイドは、グランコクマに住む女性たちから絶大な人気を誇っていた。

そしてそれとは正反対に、また恐れられてもいた。

死霊使い・ジェイド。

その名から出る噂話は、お世辞にも優しいものではない。

戦場で死体を貪る、死人を甦らせる事が出来る・・・など。―――どちらかといえば恐怖を煽るものばかり。

だからこそ絶大な人気を誇っていても、面と向かって近づいてくる女性はそれほど多くはなかった。

この娘はジェイドを見た時、いったいどちらの彼を思い浮かべたのか。

娘の表情を見る限り、良い方ではない事は確かだった。―――勿論、突然皇帝の住まう宮殿の応接室に通された事も原因の1つではあるだろうが。

「そう堅くならず。何も貴女を取って食おうというわけではありませんから」

娘の緊張を解す為にもにっこりと柔らかく微笑めば、見るからにホッと体の力を抜いたのが解る。

何時までも怯えられていては、スムーズに話も進まないだろう。

何よりも、ジェイドは目の前の娘を取り調べるわけではないのだ。―――知っている事を素直に話してもらう為にも、相手の警戒を解いておく必要があった。

「あの・・・それで、お話があるとの事ですけど・・・」

娘に合わせてソファーに腰を下ろしたジェイドに向かい、話を切り出したのは相手の方からだった。

まだ緊張は残っているものの、訝しげにジェイドの顔を見詰める。

「ええ。貴女が届けた手紙の事なのですけれど・・・」

「・・・あの、その・・・手紙になにか?もしかして私、何か悪い事を・・・」

「いえいえ、そういうわけではありません。誤解しないで下さい」

受け取った真っ白の封筒をテーブルの上に差し出すと、娘の顔色が明らかに悪くなった。

彼女としては頼まれたから届けただけの事。

はっきり言ってしまえばそんな面倒事に首を突っ込みたくはなかったのだが、この手紙を届けてくれと願い出た少女の懇願の瞳には勝てなかった。

あの少女が何か犯罪を犯したとはとても思えなかったが、何があるか解らない世の中である。―――あの少女がとても厄介な問題を抱え、それを伝える為に自分に手紙を渡したのだとしたら。

とても軍人には見えなかったが、それでも軍服を着ていた事に少なからず警戒を解いていた事は否定できない。

そうして相手の警戒心を無条件に解いてしまう不思議な力が、あの少女にはあった。

「この手紙を貴女に預けた人物に関する事なんですが・・・」

「・・・はい」

「もし宜しければ、その人物の特徴とその時の様子など、教えて頂けませんか?」

ジェイドからの申し出に、娘は困ったように眉を下げて。

「・・・はぁ」

曖昧な返事を返し、訝しげな表情を浮かべつつも、その出来事の一部始終を話し出した。

 

 

あれはまだ、陽も昇りきらない早朝の事だった。

花屋で働く彼女の朝は早い。

まだ薄暗い内から、入荷された花を店内に運び入れる。

一見華やかそうに見える職種だが、実際はかなりの重労働が必要とされるのだ。―――水を使うので、寒い時期には更に辛い。

それはともかく、娘はその日もいつもと変わらず働いていた。

まだ早い時間だからか、商店街には同じく仕事の準備を始める者たちの姿しかない。

いつもは賑わっている商店街の、この時間だけしか見られない静けさがそこにはある。

「・・・?」

最後の花の詰まったケースを抱え上げようと屈み込んだ娘は、不意に視界の端に映った景色に自然と顔を上げた。

海に面した橋の傍に、1人の少女がいる。

その少女は真っ直ぐに娘を見詰め・・・けれど何をするでもなくただそこに立っていた。

「・・・あの、何か御用ですか?」

訝しく思いながらも気になった娘は、声を掛けた瞬間あっと小さく呟く。

薄暗い中チラリと見ただけではよく解らなかったのだが、少女はマルクトが誇る軍の制服を着ていた。

相手が軍人だと解ったその時点で、娘は微かな警戒を抱く。

別に彼女が何か悪い事をしているわけでも、ましてや軍人が嫌いな訳でも勿論ない。

ただ何となく・・・そう、何となく気安く声を掛けられない空気があった。

それでも一度声を掛けてしまった手前、そのままなかった事になど出来る筈もない。

内心どうしようかと戸惑うが、しかし少女は一向に動く気配を見せず・・・―――ただそこに立って、じっと娘を見詰めていた。

「あの・・・」

どうしようかと視線を彷徨わせながら声を掛けると、その少女は漸く動き出し、そして戸惑う娘の前に静かに移動する。

そして間近で見るその軍人に、娘は更に驚いた。

遠目から見ても思ってはいたが、軍人にしてはずいぶんと若い。

まだあどけなさが残る少女は、驚きに軽く目を見開く娘を見上げて。

「・・・貴女に、お願いしたい事がある」

透き通るような凛とした声で、ポツリとそう呟いた。

「・・・お願い?」

「これを・・・」

相手が軍人だということなどすぐさま頭から抜け落ち、娘はまるで小さな子供に話し掛けるように首を傾げて問い掛ける。

すると少女は一通の真白の封筒を差し出し、僅かに目を伏せた。

そうすると、何故だろう?―――先ほどは幼く見えた少女が、急に大人びて見える。

「私はマルクト軍・第三師団所属、中尉です。これをマルクト軍・第三師団師団長、ジェイド=カーティス大佐に届けて欲しい」

そうやって差し出された封筒を、娘は反射的に受け取ってしまった。

「あ、でも・・・私は・・・」

「お願いします。ジェ・・・カーティス大佐が無理なら、誰かに言付けてもらっても構わない。ともかく、これを届けて欲しい」

無表情のまま、抑揚のない声でそう言い、真っ直ぐ自分を見詰めるに、娘は困ったように視線を泳がせる。

「・・・どうして私に?」

そうして一番の疑問を口にした。―――何故自分なのか、それが彼女には解らない。

しかしはそれに答える事無く、深く娘に一礼した後、お願いしますともう一度繰り返しクルリと踵を返す。

「あ・・・ちょっと!!」

呼び止める声にも振り返る事無く、少女は薄暗い街中を駆けて行く。

後に残されたのは、戸惑う自分と真白の封筒だけ。

本音を言えば、なかった事にしたかった。

一般人である自分が、軍と関わる事など一生ないと思っていた。―――勿論そんな自分が、あの噂に聞くジェイド=カーティス大佐にそう簡単に会えるとも思えない。

それでも手紙を受け取った瞬間見たの縋るような目が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

途方に暮れたように手紙との去った方を交互に見詰め、娘は重いため息を吐き出した。

 

 

「そうですか。それで貴女はわざわざこれを・・・」

娘の話を聞き終えたジェイドは手紙に視線を落とし、そうして再び娘を見詰めるとにっこりと微笑んだ。

「私の部下が貴女に大変ご迷惑を掛けてしまったようで・・・。本当に申し訳ありませんでした」

「・・・いえ」

艶やかな笑みを向けられ、娘の頬が僅かに赤く染まる。

娘にとっても、時折街で見かけるジェイドは憧れの対象だった。―――決して自分とは関わる事などないと解ってはいるし、こうして会ったからといってどうこうしたいというわけではないが。

そんな相手に綺麗な笑みを見せられて、動揺しない人間がどこにいるというのか。

勿論ジェイドとしても確信犯であるのだから、彼の親友に言わせれば性質が悪いのだが。

「あのっ!!」

ともかくも、がこの娘に手紙を渡した状況は解ったが、それだけではどうにもこうにも手の打ちようがない。―――さて、どうしたものか・・・とジェイドが思っていたその時、頬を赤らめたままの娘が唐突に口を開いた。

今まで自分から口を開く事などなかった娘のその動作に、ジェイドは僅かに首を傾げて。

「・・・どうしました?」

「あの・・・実は私、やっぱりこの事を引き受けるのは無理だと思って、1度はこの手紙を返そうと彼女の後を追いかけたんです。結局は追いつけなかったんですけど・・・」

勢い良く口を開いた娘は、しかし少しだけ気まずそうに語尾が小さくなっていく。

あの後仕事を放って追いかけたのだけれど、結局は追いつく事が出来なかった。

だからこそ、こうしてジェイドの元まで手紙を届けに来たのだけれど・・・―――実際、自分は運が良かったのだと思う。

このご時世なのだから、不審者として取調べを受けても可笑しくはないのだ。

それでも律儀に手紙を届けに来ている自分は、やはり人が良いのだろう。―――それでもあの少女から預かった手紙を、なかった事にして捨てる事など娘には出来なかった。

「・・・追いつけなかった、ですか。それはどうして?」

「え?」

「追いつけなかったという事は、途中までは追いかける事が出来ていたのでしょう?どうして追いつけなかったのです?」

確かにの足は速い。

普通に追いかけたのでは、追いつける筈もない事は解っている。

ただ見失ったではなく、追いつけなかったという言い回しが気になったのだ。―――追いつけずにどこに行ったのか解らなくなったならば、見失ったという表現の方が正しいだろう。

それでも『見失った』という言葉を使わず、『追いつけなかった』という言葉を使ったという事は、がどこへ向かったのか、この娘は知っているという事だ。

「えっと・・・」

突然話に食いついてきたジェイドに、娘は戸惑った。

自分は何か可笑しな事を言っただろうかと考えるけれど、どうしても思い当たらない。

それでも真剣な眼差しで自分を見詰めるジェイドを前に、娘は躊躇いがちに口を開いた。

「あの、あの子・・・いえ、中尉は船に乗られたようなので・・・」

「・・・船に?」

「はい。港に降りて行くのが見えて・・・後を追って私も港に降りたんですけど、どこにも姿が見えませんでしたから・・・」

「・・・・・・」

自分の言葉に考え込んでしまったジェイドを、娘は途方にくれた様子で見詰める。

一体何が起こっているのだろうか?

行く先など、手紙に書かれてあるのではないのだろうか?と娘は思う。―――勿論手紙の中を読んではいないので内容を知る由もないが。

早朝だからなのか、それとも宮殿とは普段からこうなのか、外も中も静かな空間で娘は居心地悪そうに身じろぎする。

それに気付いたジェイドは思考を中断させ、普段と変わらぬ笑みを娘へと向けた。

「そうですか。いやー、助かりました。ずいぶんとお時間を取らせてしまいましたね。お店の方は大丈夫ですか?」

「あ、はい。そっちの方は・・・」

「では外まで兵士に送らせましょう。今日は本当に有難うございました」

立ち上がりにっこりと微笑むジェイドにつられて、娘も勢い良く立ち上がる。

どこかで話を聞いていたのか、タイミング良く兵士が室内に姿を見せ、にこやかな笑顔を浮かべるジェイドに見送られて娘は応接室を出た。

何となく畳み掛けられた気がしないでもないが、確かにこれ以上自分が関わるべきではないし、また関わりたいと思うわけでもない。

ともかく自分は自分の責任を果たしたのだ。―――そう思うと先ほどまで肩に圧し掛かっていた重りが消えてなくなったような気がして、少女はホッと安堵の息を吐く。

兵士に先導され煌びやかな宮殿を歩く娘は、これはこれで貴重な体験だったかもしれないと、短い宮殿散策を楽しむべく改めて辺りを見回し始めた。

 

 

一方、娘が去った後の応接室にて。

再びソファーに腰を下ろしたジェイドは、テーブルに置かれたままの封筒を見詰めながら先ほど聞いた話を改めて思い返していた。

花屋の娘に手紙を預けたという

これは勿論、あの娘でなくてはならないという理由はないのだろう。―――たまたま目に付いた頼みやすそうな人物が、あの娘だったに違いない。

そう考えれば厄介な仕事を押し付けられてしまったあの娘は気の毒だけれど、それでもこうして手紙を届けてくれたのは有り難かったし、またの人選も間違ってはいなかったのだろう。

しかし、娘の話はの行方を知る手掛かりにはなっても、の様子を知る手掛かりにはならなかった。

無表情と抑揚のない話し方は、いつものと変わらない。

それでも、確かにの様子を理解できるのは、彼が知る中では自分やピオニーたちしかいない。

顔見知りでもない娘に見分けろという方が無理な事だと、ジェイドは思った。

それにしても・・・と、今更ながらに思う。―――何故は突然姿を眩ませたのだろう?

今までの出来事から、原因がの移動話にある事は解った。

だが、それでどうして行方を眩ますのか・・・それがジェイドには解らない。

移動が嫌ならば嫌だと言えば良いだけの話だ。―――確かに軍人としてそれは褒められた行為ではないが、行方を眩ませるほどの事だとも思えない。

貴族の娘たちの風当たりに耐えられなくなったのなら、自分やピオニーに助けを求めれば良いだけの話。―――原因は幾つか思い当たるけれど、どれも失踪に繋がるには動機が弱すぎる気がした。

それでも、実際が行方を眩ました事は確かだ。

「・・・仕方ありませんね」

ふう、と大きなため息を吐いて。

まるで自分に言い聞かせるように呟き、ジェイドはゆっくりと立ち上がった。

 

 

そして彼は現在、ケテルブルク行きの船の上にいた。

一般客が多く乗る定期船の甲板で1人、無言のまま静かな海を見詰めて。

あの後、が向かったという港へ顔を出し、が船に乗らなかったかと港の警護をする兵士に聞けば、呆気に取られるほどあっさりと肯定の返事が返って来た。

ジェイドやピオニーの影響や・・・―――勿論最年少で軍入りし数々の武功を上げている自身も要因の一つではあるが、彼女の知名度は意外と高い。

そんなが軍服を着たまま船に乗れば、目に付かないわけがないのだ。

早朝の人の少ない時間帯だったという事もあり、が乗った船の行き先までも正確に聞き出したジェイドは、訝しげに眉を寄せる。

今日一番早く出た船の行き先は、一年のほとんどが雪に覆われているケテルブルク。

そこはジェイドにとっては故郷であり、ピオニーにとっては幼少時代を過ごした地でもある。

勿論にもそれを話した事はあるし、いつか行ってみたいとも言っていた。

だからケテルブルク行きの船に乗ったのだろうか?―――それともたまたま乗った船が、ケテルブルク行きだったのか。

の場合どちらなのかは判断が付かなかったが、どちらにせよ向かった場所は解ったのだ。

同じ場所へ向かう為、ジェイドは本日最後のケテルブルク行きの定期便に乗り込んだ。

ほんの少し冷たさを帯び始めた風に身を晒し、ジェイドは弄ばれる長い髪を鬱陶しげに抑え、遥か彼方まで広がる蒼の景色をその瞳に映す。

海は人の心などに左右される事もなく、今はただ穏やかにそこに在る。

まるでジェイドの葛藤すらも容易く飲み込んでしまうような、深い深い蒼。

それに魅入られるように目を奪われていたジェイドは、深いため息を吐き出した。

何故自分はここにいるのだろうか?―――そんな些細な疑問がふと湧いてくる。

来る者を限定し、そうして去る者は追わない主義だった筈の自分が。

何故姿を消したを、こうして追っているのだろうかと。

それは容易く答えの出る疑問だったけれど、ジェイドはあえてその答えを飲み込んで、代わりにため息を吐き出した。

ケテルブルクに向かったという

そこへ向かう船の上でがどんな表情をしていたのか・・・それをこの海は知っているのだろう。

笑っていたのか、それとも苦しんでいたのか。

追いかけることが正しい事なのかも、ジェイドには解らなかった。―――このまま放っておいた方が、にとっては良い事なのかもしれない。

それでもジェイドはこうして船の上にいる。

どんな言葉で取り繕おうと、それは間違いなくジェイドの意思なのだ。

「・・・馬鹿馬鹿しい」

何に対して呟いた言葉なのかも解らなかったけれど。

ジェイドはため息と共にそれだけを吐き出して、船室に戻るべく踵を返した。

 

 

ケテルブルク港に着いたジェイドは、そこでも容易くの情報を仕入れる事が出来た。

グランコクマから離れたこの地までもの名は伝わっていたらしく、常駐の兵士は軍服姿のを認め、ケテルブルクへ用向きなのだろうと乗り合い馬車を勧めたらしい。―――方向音痴なの事、歩きでケテルブルクに向かったというならばそこに辿り着いているかは怪しかったが、馬車に乗ったのなら間違いなく街についているだろう。

ジェイドもすぐさまケテルブルクに向かい、街に着いた後すぐにまずはこの街の知事を務めるネフリーの元へと向かった。

突然姿を現した兄の姿にネフリーは当然の事ながら驚いていたが、説明は後だとすぐさまの捜索を頼んだ後、ジェイドもまたを捜すべく街を歩き回る。

の行きそうな場所になど、心当たりはなかった。

あまり騒がしい場所が好きではないにとっては、観光地でもあるこの街で好んで行きそうな場所など思い当たらなかったし、それでも意外と好奇心の強い彼女にとってはどこにでも顔を出しそうな気がしたからだ。

はぁ・・・と白い息を吐き出して、ジェイドは階段を上り広場へと顔を出す。

そこでは相も変わらず、子供たちが雪合戦をしながら遊んでいる。

「カーティス大佐!!」

不意に子供たちの歓声を破って掛けられた大きな声に顔を上げると、街の警備をしている兵士が慌ててこちらへと駆けて来るのが目に映った。

心なしかホッとしたように笑顔を浮かべて、白い息を吐き出しながらジェイドの前で敬礼する。

「ああ、やっぱりカーティス大佐ですか。・・・良かった」

心の底から安心したように身体の力を抜いた兵士を見やり、ジェイドは訝しげに眉を寄せる。

「・・・良かった?」

自分の顔を見て良かったと安堵される覚えなど、生憎とジェイドにはない。

一体なんなのだろうかと疑問に思っていると、聞くまでもなく兵士は自ら口を開いた。

「やっぱり何かの任務だったんですね。漸く安心しました」

「・・・任務?」

「・・・え?違うんですか?」

疑問に疑問で返され、ジェイドの眉間に皺が寄る。

ともかくも何かあった事には違いないらしい。

「・・・どういう事ですか?何があったのか、説明しなさい」

少し強い口調でそう言うと、兵士は戸惑ったように街の外へと視線を向け、そうして真っ直ぐにジェイドを見詰める。

「あの・・・半日ほど前に軍服を着た少女がここから街の外へ出て行こうとして・・・。この先にはロニール雪山しかないし、強い魔物も出るから危険だと言ったんですが」

「・・・軍服を着た少女?」

「はい。でも結局何も言わずに出て行ってしまって・・・。少し様子が可笑しかったので心配していたんですが・・・」

ジェイドが現れた事で、少女が街から出て行ったのは何かの任務なのではないかとホッとしていた兵士の顔に、再び不安の色が浮かび始める。

同じく厳しい表情をしたジェイドは、真っ直ぐに広場の向こうを見詰めて。

「様子が可笑しかったというのは?」

「あ、はい。なんだか・・・ボーっとしているというか・・・―――大佐っ!?」

兵士が全て言い終わる前に、ジェイドは歩き出していた。

背後で兵士が何かを叫ぶ声を無視し、ロニール雪山へと続く街の入り口から外に出て、当てもなくひたすら歩き続ける。

半日前に街を出て行ったという。

一体何が目的なのかは解らないが、たった1人で出て行くにはたとえといえどもこの地は危険すぎた。

ざくざくと雪を踏みしめ歩き続けていたジェイドは、ふと目の端に映った青に気付いてその足を止める。

雪に埋もれるようにして、そこに広がる青と黒。

ひらひらと、白の欠片が空から舞い落ちる。

明らかに異彩を放つその存在は、けれどまるで景色の一部と化したようで。

漸く見つける事の出来た少女の姿に、ジェイドは無言のままその場に立ち尽くした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

最初の方に力を入れすぎて、後々畳み掛けた感が漂っていますが。(笑)

明らかに比重が可笑しいとは思いつつも、これ以上長々と書くのも・・・とか言い訳しつつ。

やっぱりジェイド1人は辛い。

誰か相方がいれば(相方?)話も多少は進みやすくなるのでしょうけれど・・・(ネフリーとの会話なんて入れてたら、それこそ収拾がつかなくなりそうですが)

そしていつもの事ながら、題名と話の内容が全くあっていません。(途中、ほとんど無理矢理そっち方向に持っていった・・・みたいな)

展開が在り来たり〜な感じですが、どうか最後までお付き合いくださいませ。

作成日 2006.3.22

更新日 2008.7.2

 

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