「お待ちください、大尉!」

昼を少し過ぎた頃・・・―――暖かな日差しに誘われて、宮殿前には多くの人が集まり、思い思いの時を過ごしていた。

そんな賑やかな広場を、ピオニーへと渡す書類を抱えながら歩いていたは、不意に背中から掛かった声に要求通り足を止め、無表情のままゆっくりと振り返る。

振り返った先には、厳格そうな若い男が1人。

一般の兵士とは違う軍服に身を包んでいる事から推測して、おそらくは階級持ちなのだろう事はにも判断できたが、生憎と彼女の記憶の中にその男の姿は無い。―――最もマルクト軍人の数はそれほど少なくはない為、管轄によっては係わり合いになる事が少ない相手もいるのだから、相手が見知らぬ人物であってもそれほど不思議は無かったが。

ただ、その見知らぬ人物が何故自分に声を掛けるのか?は、疑問だったけれど。

「呼び止めて申し訳ない。私はリーズ=バレル中尉であります」

きびきびとした動きで敬礼をし、やはり聞き覚えの無い名前に首を傾げているに構う事無く・・・また彼女が口を開く間も与えず、バレル中尉は勢い良くの両手を掴み強く握り締めた。

バラバラとの腕から零れ落ちた書類が、風に乗って石畳の上を滑る。

それをやはり無表情のまま視線だけで追っていたを見下ろして、バレル中尉はそれはもう広場に響き渡るほど大きな声で、衝撃的な言葉を彼女に向けた。

「貴女をお慕い申し上げております!どうか私と付き合っていただきたい!」

空気が震えるような大声が広場に響き渡り、その場にいた全員が凍ったように動きを止める。

あれほど賑やかだった広場は水を打ったように静まり返り、ある者は息を呑んで・・・ある者は好奇心に瞳を輝かせて事の成り行きを見守った。

 

大切に想うほど

〜前編〜

 

広場での告白劇は、瞬く間にマルクト軍内に広まった。

真昼間で人が多かった事もあり、また人々の好奇心を刺激するに十分な内容であった為、いまや軍内ではその話題で持ちきりである。

当然の事ながら、そんな面白い話題を彼の皇帝が聞き逃すわけも無く・・・―――その日の夕方、ジェイドの執務室にはニヤニヤとした笑みを浮かべたピオニーの姿があった。

「是非、俺も生で見てみたかったなぁ」

もはや所定となったソファーにふんぞり返り、からかうような視線を部屋の主へと投げかける。

その不躾な視線を一心に浴びながら、ジェイドは何も聞こえないかのように書類整理を進めつつ・・・しかし微かに彼の眉が寄せられたのを、ピオニーは見逃さなかった。

当然の事ながら、軍内に余すところ無く広がるその話が、ジェイドの耳に入らない筈が無い。―――それを踏まえて、おそらくはピオニーがこの部屋に来るだろう事を予測していたジェイドではあるが、だからといって思うところが無いわけではなかった。

そして・・・ジェイドの予測と大きく違う所が1つ。

「あんな堅物を惚れさせるとは・・・さすが俺の娘」

中将!」

同じくソファーにふんぞり返るとアスランの姿までもが自分の執務室にある事に、ジェイドは思わずため息を吐き出した。―――ジェイドを気遣ったアスランの制止の声を耳にしながら、気遣うのならば上司を連れて帰ってくれと心の中で1人ごちる。

「念の為に言っておきますが、ここは駆け込み寺でも休憩室でもありませんよ」

「細かい事は気にするな、ジェイド」

「そうそう。別にいいじゃねぇか、ちょっとくらい」

無駄だと知りつつも口にした苦情は、やはり全くの無駄に終わったらしい。―――全く悪びれた様子の無いピオニーとを見詰めて・・・その隣で気の毒なほど恐縮しているアスランの姿がいっその事哀れに思えて仕方が無い。

「で、どうして貴方がたはここでさも当然のように寛いでいるのですか?」

明らかな非難の色を混ぜてそう睨みつけるも、やはりピオニーは気にした様子は無く、かえって楽しげに笑みを浮かべてからかうようにジェイドへと視線を向けた。

「なんだよ、ジェイド。いくら機嫌が悪いからって八つ当たりは止めろよ」

「仕事の邪魔です。速やかに出て行って下さい」

「おー、アスラン。茶ぁ淹れろ、茶」

静かに言い合うピオニーとジェイドをサラリと無視して、がアスランへ指示を飛ばす。―――その言葉の内容に痛む頭を押さえて、ジェイドは据わった目でへと視線を移した。

中将。どうして貴方までここにいるんですか」

直属の上司ではないにしろ、第一師団の師団長を務めるとはそれなりに関わりはある―――加えて形だけではあるがの義父でもある彼は、あまり子供好きとは思えないというのにを酷く可愛がり、ごくたまにこうしてジェイドの執務室に顔を見せていた。

第一師団を率い、また中将という地位にある彼は日々忙しく、ピオニーほど頻繁にこの部屋に顔を出すわけではないのだけれど・・・―――それを言えばピオニーとて皇帝という立場にあるのだから忙しい筈なのだけれど、彼の場合はあらゆる意味で例外的立場である為、この場合参考にはならないが。

ともかくもたまに顔を出したと思えば、こうして寛いでいく

何故今日このタイミングで顔を見せるのか・・・何か陰謀めいたものを感じない事も無いが、面倒事になるのは目に見えているのでそこを追及するのは諦めた。

「いーじゃねぇか。意外と落ち着くんだよな、ここ」

「え、あの・・・中将。いくらなんでも寛ぎすぎじゃ・・・」

「良いから茶淹れろって、アスラン」

軽くあしらわれ、尚且つお茶入れを命じられたアスランは、仕方が無い人だと言わんばかりの表情で立ち上がり、勝手知ったるなんとやらで手際良く人数分のお茶を入れ始める。

少佐という地位は軍内でもそれなりの立場にあるはずなのだけれど・・・生憎とこの場にいるのは全て将軍クラス・・・―――又は国のトップに立つ者なので、残念ながらも彼に反論する余地は無い。

「淹れる必要はありませんよ、フリングス少佐」

自分たちの部屋ではないはずなのに、何故この部屋の物の位置を正確に把握しているのか。

それは本当に今更なので口には出さないが、その代わりにジェイドは殊更冷たい声色で律儀にお茶汲みをするアスランへとそう告げた。

「え、え〜っと・・・」

「気にするな、アスラン。カーティスは虫の居所が悪いだけだから」

「ああ、ああ、やだねぇ。男の嫉妬は・・・」

手は淀みなく動きつつも困ったように口ごもるアスランへ、彼の上司であるが軽い口調でそう言い放った。

それに付け加えるように、ピオニーがからかうような声を掛ける。

何を言っても堪えた様子も無く、ただひたすら楽しげに会話を交わすピオニーとを目の端に映しながら、ジェイドは処理の終えた書類をデスクの端に纏めて、ため息と共に僅かに肩を落とした。

「・・・いい加減に帰ってくれませんか」

呆れたような視線と声を向けて、既に3分の2ほど追い出すのを諦めたジェイドは、それでも冷たい視線を送りながら手を止める事無く書類処理を続ける。

「冷たい事言うなよ、カーティス。俺とお前の仲だろう?」

「生憎と、中将とそんな形容で纏められるほど親しい間柄になった記憶はありませんが」

「何言ってんだよ。将来の義父に向かって。気安くって呼んでくれてもいいんだぞ」

将来の義父、という部分を殊更強調したに対し、ジェイドは書類整理の手を止め、普段通りのにこやかな冷たい微笑みでににっこりと微笑んだ。

中将。お忙しいところをわざわざお越しくださり恐縮ですが、残念ながら貴方のお相手をする暇はないのですよ。忙しい身ですので」

「おー、大変だなぁ」

「・・・・・・」

嫌味と皮肉をこめた言葉も、どうやらには通用しないらしい。

あっさりと交わされて更にストレスが溜まっていくのを感じながらも、ジェイドはそれをため息に乗せて盛大に吐き出した。

自分自身を正当化する気などジェイドには全くさらさらないが、どう贔屓目に見ても彼らの態度は常識から掛け離れているような気がする。

よくもまぁ、これほど自分に正直に生きる事が出来るものだ・・・と、ジェイドはいっそ感心する。―――勿論それで、意外と苦労人の彼の気苦労がなくなるわけではなかったが。

漸く彼らを追い出す事を全面的に諦めたジェイドは、もう一度ため息を吐き出してから報告書に手を伸ばす。

それを察したもまた漸くジェイドをからかう手を止め、身体を預けていたソファーから僅かに身を起こした。

その動作を不本意ながらも目の端に映していたジェイドは、ふと微かな違和感を感じて書類へと落としていた視線を再びへと向ける。

その視線に気付かないではない。―――自分へ注がれている先ほどまでとは明らかに違う種類の視線に、訝しげに首を傾げて視線を返した。

「なんだよ、カーティス。まだこれ以上文句でもあんのか?」

「文句なら尽きる事無くありますが、それはともかく・・・―――中将、どこかお加減でも?顔色が少し悪いようですが。それに動きもいつもに比べて鈍いような・・・」

「・・・は?」

間の抜けた声を上げたのは、尋ねられたではなくピオニーの方だった。

「お前、この無駄に元気が有り余ってるような相手に、何言ってんだ」

「いや、まぁ、確かにそうなんだけど。でもそうキッパリ言われると複雑っていうか」

あからさまなピオニーの呆れに、は頬を引きつらせながら乾いた笑みを零す。

ここは「なんだよ、俺の事が心配だったのかぁ?」などとジェイドをからかい倒して遊ぼうかと思ったのだが・・・―――何となくその気も殺がれた気がして、は逸れた話を戻すべく軽く咳払いする。

「今は俺の事は良いんだよ。最優先すべきはの方だろうが!都合良く話を逸らすなってーの!―――実はだな、こいつが偶然その場面に出くわしたらしいんだよ。んで折角だから、陛下も詳しい話を聞きたいだろうと思ってな」

強引に話を戻したが隣に座るアスランを指差し、意地悪く笑む。

それに先ほどのジェイドの発言も既に頭の隅へと押しやり、同じく何かを含むように笑んだピオニーは、意味ありげにジェイドへと視線を送った。

世間的には有能な将と賢帝と称される彼らも、ジェイドにしてみればまるで悪魔のように思える。―――手を組まれては一番厄介な人物たちが、と言う媒体を介して結びついてしまっていた。

「・・・で?はなんて返事をしたんだ?」

好奇心を隠そうともせず、ピオニーが向かい側に座るアスランに問い掛ける。

広場での告白劇は広まっているものの、その後の展開については全く触れられていないのが、彼にとっては気になるらしい。

確かにジェイドの耳に入ってきた話も、第三師団の大尉が広場で盛大な告白を受けていた・・・というものだけで、その後彼女が何と返事を返したのか、そして相手の男がどういう行動に出たのかははっきりと伝えられていない。

そして当事者のもまた、マクガヴァン元帥に仕事で呼び出されており、幸運なのか不運なのかこの場に姿は無かった。

キラキラと楽しげな色を浮かべた瞳を輝かせる己の上司らと、気の無い素振りを見せつつも明らかに注意がこちらへと向いているジェイドを視線だけで窺って、アスランは躊躇いつつも口を開く。

「・・・どこへ」

「・・・は?」

「ですから、は『・・・どこへ?』と返したんですよ」

何も悪い事はしていない筈だというのに、気まずそうに視線を泳がせるアスランをジッと見詰めて、ピオニーとはお互い顔を見合わせる。

「・・・どこへ?って」

「そりゃまた・・・」

ありがちもありがち、定番的なお約束をそのまま地で行くに、一拍置いた後、2人は弾けたように声を上げて笑った。

あまりにもべた過ぎて、かえってコメントが難しい。

きっとの事だから、相手を受け流すだとか誤魔化すなどという思惑など無いのだろう。―――ただ素で疑問に思い尋ねたに違いない。

相手の男が哀れにも思えるが、そこはそれ。―――それぞれ思うところは違えども、大切な少女に手を出そうとした男に対しては同情の余地は無い。

「それで?」

「それで・・・相手もどう答えて良いのか解らない様子で・・・」

「そりゃま、確かに」

「とりあえず、明日鍛錬に付き合って欲しいって」

昼間の出来事を思い出しながら語るアスランに合いの手を入れながら、奇跡的とも言えるほど大人しく話を聞いていたピオニーとは、続けられた言葉に口元へと運びかけたカップを持つ手を止めた。

「・・・明日?」

「はい」

「・・・鍛錬に付き合って欲しいって?」

「はい」

噛み締めるように確認する2人に対してしっかりと返事を返していたアスランは、困ったように笑みを零す。

相手は意外にも抜け目ない性格らしい。―――確かに人の多い広場で大声での告白など、普通の感覚を持つ者ならばまずしないだろう。

それでもまるで牽制するかのようにそれをし、そうして返って来たのがコメントし辛い返答でありながらも、次の約束を取り付けようとするとは。

「んで、はなんて言ってたんだ?」

「明日は先約があるので無理だ、と」

「先約・・・?」

「はい。あの・・・明日は私と鍛錬をする約束をしていましたので・・・」

気まずそうに視線を泳がせるアスランを見詰めて、ピオニーは深々とため息を吐く。

目の前にも抜け目の無い人物がいたようだ。

しかしアスランがそう言った思惑でとの鍛錬の約束をこじつけたわけではない事は解っているので、それに対して何かを言うつもりは無かったけれど。

「それにしても、相手の男も意外と度胸があるというか、根性があるというか、怖いもの知らずというか・・・」

ピオニーはチラリと横目でジェイドの様子を窺いながら、感心したように呟く。

ジェイドの想いを知っている者など、この場にいる3人と・・・後はおそらくは気付いているだろうマクガヴァンを初めとする幹部連中くらいだが、それでもを義父に持ち、ジェイドの側近であり、皇帝とも懇意であるに手を出そうとする輩がいるとは。

まさしく隙が無いほど鉄壁の守りの中にいるへ想いを告げるには、確かにあんな方法しか無かったのかもしれないけれど・・・。

「リーズ=バレル中尉って言ったか?一体どんな奴なんだ?―――確かバレルって言ったら・・・」

「はい。トール=バレル准将のご子息です。現在は第五師団に所属しています」

既に調べていたのだろう。―――ピオニーの疑問にタイミング良く答えたアスランは、ポケットから小さなメモを取り出した。

「リーズ=バレル中尉。現在23歳。私よりも1つ年上で、とは6歳差。バレル准将の推挙により15歳頃少尉の地位で入軍し、昨年中尉に昇進しました。真面目で誠実な人柄ですが、自分にも他人にも厳しく頑固な一面があり、これと決めたら最後まで貫くほど意志も強く、少し融通が利かない部分もあるようです」

「ほお・・・真面目で誠実ねぇ。誰かさんとは正反対だな」

淡々と読み上げられるアスランの報告にチャチャを入れる事も忘れず、ピオニーは知らん顔をして報告書に目を通している親友の様子を窺った。

「ええ、本当に。仕事をサボって人に押し付けている誰かさんとは大違いです」

すぐさま冷たい言葉が返って来るが、それはジェイドが相手の男を気にしてしっかりと報告を聞いている証拠に他ならない。―――それが解っているピオニーは、まるで面白い玩具を見つけた子供のように楽しげな笑みを口端に乗せた。

「バレル准将ねぇ・・・」

ピオニーが更にからかいの言葉を向けようと口を開き掛けたその時、室内に静かな声がポツリと落ちる。

その声色に僅かに苦い色が混じっていたのを敏感に察して、ピオニーも・・・そして頑なに報告書に視線を落としていたジェイドも顔を上げた。

「・・・どうした、。やっぱり具合でも悪いのか?」

「ん、いや〜・・・どうしたって事はないんだが。つーか、いい加減その話題から離れろって。・・・そうじゃなくてだな、俺あいつ苦手なんだよ。なにかっつーと俺に突っ掛かって来やがるし」

「それは中将が不真面目だからでしょう。バレル准将は真面目な方ですから」

「・・・お前も言うようになったなぁ、アスラン」

「上司に似たんですよ」

上司の突込みをサラリと交わして、アスランは冷めかけたお茶を口へと運ぶ。

自由奔放すぎる上司を持った以上、これくらいの図太さがなければやっていられない。

自分でも驚くほど、の元に付いてからは神経が図太くなったような気がすると、アスランは感謝すればいいのか嘆けばいいのか解らずそっとため息を零した。

「まぁ、息子の方はさておき、親父の方とは面識がある。いかにも軍人って感じの男だよな。俺も何度か仕事サボった時、遠回しに諌められた事がある」

ピオニーの感想にジェイドとアスランは呆れた表情を浮かべる。―――皇帝を筆頭にこれだけサボり癖のある人物たちがいながらも、マルクト帝国はよく繁栄を築いているものだと。

勿論ピオニーは皇帝として立派な働きをしている事も、口で言うほど頻繁にサボっているわけでも、責任を投げ出しているわけでもない事は承知済みではあるが。

「な〜んかさ。俺、あいつに目の敵にされてる気がするんだよな。俺って言うよりは家っていう方が正しいかもしれないけど」

「どういう意味ですか?」

今まで積極的に会話に加わっては来なかったジェイドが、漸く話に乗った。―――しかしそれをからかう事無く、は気だるげに天井を仰ぎ見る。

「バレルの方が、俺よりも早くにマルクト軍に入ったんだけどさ。俺が入った時点で俺はあいつよりも立場的に評価されてたわけよ。一応、これでもの人間だからさ」

それだけで、が何を言いたいのかをジェイドは正しく理解した。

家といえば、マルクト帝国でも有数の名家だ。―――しかも由緒正しい軍人の家系でもある。

これまで何代にも渡り軍属となり、そうして例外なく様々な功績を残してきた家は、軍内でも特別に扱われてきた。

皇帝ですらその存在を蔑ろにするのは憚れるほど、様々な面において影響力を持っている。

そうしてその家の者が軍に入れば、やはりそれ相応の地位は約束されたも同然であった。

勿論その期待を裏切る事など無い優秀な功績を収めているからこそ、その影響力が永きに渡って持続しているのではあるが・・・。

も例外は無く、入軍当初からそれなりの地位を与えられていた。―――そしてやはりそれを裏切る事無く、前皇帝の時代から重きに置かれるほどの信頼を得るほどの結果を収めて来てはいるが、の昼行灯ぶりは軍内でも有名である。

元来真面目な軍人気質のバレル准将にとっては、その昼行灯ぶりが性格的に許せないのかもしれない。

「もしかしてあいつ、それが理由で自分の息子を使ってちょっかい出してるんじゃ・・・」

「まさか!中将、滅多な事は口にしない方が・・・」

ポロリと零した疑惑を、アスランが咄嗟に否定する。

しかし血の繋がりはさておき、が戸籍上の義娘である事に違いは無い。

勿論の姓は名乗っていても、実質的にの面倒を見ているのはジェイドであり、彼女の地位は彼女自身の実力で得ているものだというのは言うまでも無い。

しかしまだ13歳という幼い年齢であるにも関わらず入軍し、そうして破竹の勢いといってもいいほどの速さで昇進を遂げているのも事実。

家とカーティス家の庇護の下にいるの実力を、そのような色眼鏡で見てしまう人物がいないわけでもない。

しかし・・・―――それを前提としても、がそんな事を口にするのはジェイドにとってもピオニーにとっても意外としか言えなかった。

全く意に介していないように見えて、実は彼もまた家という強力な名に囚われているのかもしれないと心の中でそう思う。

「ま、違ってたら良いんだけど」

自分でもらしくない事を言った自覚があるのか、少し気まずそうに言葉を濁して、はすっかり冷めてしまったお茶を一気に飲み干した。

気まずい沈黙が室内に重く漂う。

誰も言葉を発する事が出来ず、ただ今はこの場にいない少女の身を案じて、それぞれひっそりとため息を吐き出した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

思ったよりも長くなってしまったので、思い切って前後編に。(またか)

主人公が冒頭部分以外に出て来ていません。

おかしいなぁ〜とか思いつつ、意外に彼らの遣り取りが書き易かったり。

オリキャラがえらい出張ってますが。

そして未だにフリングスの性格が掴みきれていないのがバレバレです。

というか、これを堂々と夢小説という事が図々しく思えてきました。(だから今更)

作成日 2006.5.31

更新日 2008.9.22

 

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