最初はほんの小さな光だったのに。

いつしかそれは、目も眩むほどの強い輝きを放っていて。

俺の知らない間に・・・。

俺が見ていない間に・・・。

あいつはすべてを統べる者へと変わっていった。

 

統べる者の

 

俺が初めてと会ったのは、まだ解放軍が僅かな力しか持っていなかった頃。

ビクトールに連れられて解放軍のアジトに来たは、そこらへんにいるような貴族のお嬢ちゃんにしか見えなかった。

――――――今になって思えば、俺はそういう目でしかあいつを見ていなかったのかもしれない。

帝国貴族。

帝国軍に所属する帝国軍人。

帝国五将軍・テオ=マクドールの娘。

育ちの良いお嬢様で・・・世の中の汚いことなんて何一つ知らなくて。

きっと大切に大切に育てられて来たんだろう―――俺たちとは無縁の人間だ。

正直言って、俺はを好きになれなかった。

だっては帝国軍人だ。

今は追われていると言っても、いつかは帝国軍に戻るんだろう。

そうなればは俺たち解放軍にとっては敵だ―――助ける義理なんて、1つもない。

オデッサがを気に入った事が、更にそれを増幅させていた。

ずっと一緒にいた俺たちよりも、を信頼しているように見えた。

それがどうしようもなく、悔しかったのを覚えている。

 

 

次にに会ったのは、新生解放軍の本拠地になったトランの湖城で。

そこにいると思っていたオデッサの姿はなく。

死んだ―――と聞かされた。

は?なに言ってんだ、お前ら?

オデッサが死んだ?―――そんな馬鹿馬鹿しい冗談に付き合ってられるか。

そう思った俺の前に、が現れたんだ。

そこで漸く、オデッサの死が冗談でもなんでもないことを知った。

そして・・・。

「お前がリーダー!?ふざけんなよ!!」

オデッサの後釜としてリーダーの座に納まっていたのは、他でもないで。

一瞬にして、頭の中が真っ白になった。

思考が纏まらない―――言われた言葉が理解できない。

そんな中で湧き上がってきたのは、純粋な怒り。

何に対しての怒りなのか?

側にいながらオデッサを守れなかったビクトールにか?

ちゃっかりオデッサの後釜に納まったか?

それとも―――守ると誓ったのに、守れなかった俺自身にか?

訳が解らなかった。

解らなかったけれど・・・でも怒りは際限なく溢れ返って。

「俺はお前をリーダーとは認めない!!」

そう言い捨てて、トランの湖城を去った。

 

 

その後、カクの村に滞在していた俺の元に、とビクトールがやって来て。

オデッサの意思とやらを、よりによっての口から告げられた。

聞きたくなかった。

オデッサの後釜に納まった、の言葉なんて。

どうしてお前は解放軍にいる?

どうしてお前は、解放軍のリーダーになった?

お前には帰るところがあるだろう?

帝国に帰れば、お前には何の苦労もない輝かしい未来とやらが待ってるんじゃないのか?

帝国の圧政を正す?

はっ、ふざけんな。

その帝国側にいたのは・・・そこで安穏な生活を送っていたのは一体誰だ。

そんなのは偽善だ、ただの自己満足だ。

そうやって苦しんでいる人間を助ける自分に、酔ってるだけだろう?

そんな奴がオデッサの代わりなんて、反吐が出る。

黒い感情が溢れてくる―――こんなにも人を憎めるのだという事を、俺は初めて知った。

けれど俺はそんな感情を押さえ込んで、協力を申し込むの手を取った。

「俺はまだお前をリーダーとは認めない。だけど・・・それがオデッサの意思なら、お前に手を貸してやるよ」

「それで十分です。ありがとうございます、フリックさん」

そう言って安心したように笑顔を浮かべたに、心の中で冷笑した。

いいさ、俺が見届けてやるよ。

お前がいかに解放軍のリーダーに相応しくないか。

いつボロが出るか―――その時になれば、俺は遠慮なくお前を笑ってやる。

オデッサの創った解放軍を、お前の好きになんてさせない。

 

きっとは、この時の俺の感情を読んでいたのだと思う。

怒りに駆られていたその時の俺には気付けなかったけれど・・・俺の手を取った時のは、どこか悲しそうに笑っていたのが今ならばよく理解できるから。

 

 

それからの俺は、毎日を監視した。

あいつがいつボロを出すか―――その瞬間を見逃さないように。

遠征にも付いて行ったし、本拠地にいる時も片時も側を離れずに。

そんな生活の中で、俺は少しづつ憎しみの感情が薄れていくのを感じていた。

はよく頑張っていた。

朝から軍儀に参加して、自身の鍛錬だって怠らない。

兵士や本拠地に住む人たちと交流を持ち、問題が起これば積極的に自分も関わる。

書類整理などのデスクワークも文句1つ言う事無く―――の部屋の灯りは、いつも夜遅くまで消える事はなかった。

が慕われているのが嫌というほど解った。

それは解放軍のリーダーとしてだけでなく、1人の=マクドールという人間として。

それだけの力が、にはあった。

誰をも惹きつける容姿と、誰に対しても平等で誠実な人柄。

気さくな態度は馴染みやすく、の浮かべる笑顔は見ているだけで心が温かくなった。

しかしそんな戦いとは無縁に見えるは、戦場に出ると雰囲気が一変する。

凛とした佇まい。

頼りなさなど微塵もない威厳ある姿―――冷静そのものの様子は、将にも兵にも不安を抱かせることなどない。

細い華奢な身体で自分の背丈程もある黒い棍を振り、敵兵をいとも容易く薙ぎ倒していく。

普段見せる穏やかな顔と、戦いの中で見せる勇ましい顔。

どちらが本物なのか、俺には解らなかった。

解らなかったから、恐怖を感じた。

こいつはもしかすると、解放軍を脅かす存在になるんじゃないかと。

解放軍のリーダーという位置に納まっているが、いつ俺たちを裏切って帝国に戻るかなんて解らないじゃないか。

もしかしたら解放軍を潰すために、こいつはここにいるのかもしれない。

そんな恐怖を、戦うを見て抱いた。

 

 

「グレミオっ!!」

悲痛な声が、狭い部屋の中に響く。

隔てられた厚い壁の向こうに、の大切な人はいた。

俺たちを助けるために・・・いや、他ならぬを助けるために、グレミオはその身を犠牲にして人喰い胞子を隔離した。

「グレミオ!ここを開けて!!」

「お嬢・・・。グレミオは初めてお嬢の言う事に逆らいます」

扉の向こうから、静かなグレミオの声が微かに届く。

「なんで!なんでよ、グレミオ!!ここを開けなさい!!!」

何かに取り付かれたように、厚い扉を叩き続ける

手袋は何のクッションにもなっていないのか―――その手は既に赤く血に染まり、の白い腕を伝って床に滴っている。

けれどは扉を叩くのを止めなかった。

「グレミオ!グレミオっ!!」

ただグレミオの名前を叫び、扉を破ろうとする。

「やだ!やだよ、グレミオ!!お願いだから!!」

耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴。

心が引き裂かれそうになるほどの・・・強い痛み。

は自身の武器である棍を手に取り、それを扉に打ち付け始めた。

「お嬢、グレミオはお嬢の側にいる事が出来て・・・幸せでした」

「だったら、側にいてよ!いなくならないで!!」

一際扉が強く鳴り、ハッとに視線を向けると、折れた棍がの顔面へと跳ね返ったのが見えた。

「・・・・・・っ!!」

折れた棍はのこめかみを掠り・・・そこから一筋の血が流れる。

様っ!」

咄嗟にクレオが駆け寄ろうとしたが、それもから発せられる無言の圧力によって阻まれる。

棍が使い物にならないと判断したのか、は手に残った折れた棍を放り出して再びドアを殴り始めた。

「グレミオ!ここを開けて!!」

「お嬢・・・。お嬢はどうか自分の信じる道を歩いてください」

「グレミオ!!!」

「それがグレミオの・・・たった一つの・・・願い・・・・・・」

扉の向こうから聞こえていたグレミオの声が聞こえなくなった。

「グレミオ!?グレミオ!!」

ただ成す術もなく名前を呼び続ける

辺りはドアの鳴る音だけが響く―――もう、グレミオの返事は聞こえてこなかった。

「ああああぁぁぁぁあぁぁぁああああっ!!!」

が一際大きく、声を上げる。

気が、狂いそうだった。

の悲しみや悔しさが、否応ナシに入り込んでくる。

心を引き裂くような悲しみ―――それは、俺が体験したどの悲しみとも違う。

似ていても、違うように感じる。

力無く床に座り込んだに、誰も声をかけてやることが出来ない。

近づいて、その小さな身体を抱きしめてやりたい衝動に駆られた―――けれど俺は一歩も動けなかった。

俺だけじゃなく、ビクトールもクレオもパーンも。

の背中が、それを拒否していた。

すべてを受け入れるが、今すべてを拒絶していた。

拳から血を流し・・・折れた棍は無残に床に転がり。

泣くでもなく、悲しむでもなく、怒りに震えるのでもなく。

何の感情も宿らない表情で。

ただ呆然と、床だけを見詰めていた。

まるでそこにはいないと思わせるほど、希薄な気配で。

こめかみの傷から血が流れ続けていた。

泣かないの代わりに―――それは血の涙のように見えた。

 

 

その後、何の音沙汰も無い俺たちを心配したマッシュが迎えに来て。

は何の抵抗も見せず・・・まるで人形のように連れられて行った。

本拠地に戻ってすぐ、リュウカンの手当ても受けずに部屋に閉じこもって。

誰が声をかけても、何を言っても、は部屋のドアを開けようとはしなかった。

正直、もうダメだろうと思った。

あの時のの様子を見た奴なら、誰だってそう思っただろう。

立ち直れない。

立ち直れる筈なんて無い。

打ちひしがれるを見て―――それは俺の望んだ姿だというのに、それでも俺は嬉しいなんて思えなかった。

絶望に落ちて、やっぱり自分はリーダーには相応しくないと思い知ればいいと思っていたのに・・・なのに今の俺の心は、ギリギリと痛んで。

何でだ?何で俺があいつの心配なんてしなくちゃならない?

あいつは解放軍のリーダーに相応しくなんて無い―――そう思ったのは、他でもない俺自身だ・・・なのに。

言い様のない複雑な感情を理解できず・・・ただの悲痛な叫びだけが耳に木霊して。

あの無表情が頭から離れない。

あんなは、見ていたくなかった。

なら、俺はあいつのどんな顔が見たいんだ?

自問自答を繰り返し、漸く朝が来て。

言葉もなくの部屋の前に立つ俺たちの耳に、微かな扉の軋みが届いた。

!!」

ビクトールが名前を呼んで真っ先に駆けつける。

奴のデカイ身体が邪魔で、がどんな顔をしているのか見えない。

俺自身も理解できない足の震えを押さえ込んで、一歩一歩に近づく。

「私はもう、大丈夫だから」

ビクトールの腕の隙間から見えたは、笑っていた。

それはいつもよりも少しぎこちなくあったけれど。

「・・・

「大丈夫だから・・・。だから心配しないで、ビクトール」

告げられた言葉が、優しさを拒否しているように聞こえた。

ああ、そうやってあいつは自分を保っているんだと。

笑顔が無性に悲しく見えた。

そして―――それでも心配かけまいと笑えるが、とてつもなく強く思えた。

 

 

「ミルイヒ将軍。解放軍に力を貸して頂けませんか?」

の口から出た言葉に驚いたのは、きっと俺だけじゃないだろう。

グレミオを殺した張本人。

憎んでも憎んでも足りないほどの相手。

殺せば良いと思った―――怒りに任せて、ミルイヒを殺してしまえば良いと。

復讐は憎しみしか生まない。

憎しみは憎しみを呼び、それは連鎖していく。

それをする人間が、人の上に立つなんて出来る訳が無い。

感情に任せてミルイヒを殺して・・・そして自分がリーダーに相応しくないと証明すれば良いと思った。

この期に及んで、俺はまだそんな事を思っていたというのに・・・。

なのにはミルイヒを赦した。

顔に揺るぎない覇王の表情を宿して、毅然とした態度で言った。

何で赦せる?

憎く無い筈が無いだろう?―――自分の大切な人を奪った相手が。

信じられなかった。

これが解放軍のリーダー?

こいつこそが、オデッサの認めた人間?

この・・・まだ子供のこいつが?

瞬間、フッと体中の強張りが抜けていく気がした。

ああ、解ったよ。

解ってたんだ、本当は。

がどれだけ頑張っていたのか。

あいつが解放軍の為に、どれだけ己の力を注いでいたか。

裏切るなんて心配が無い事も、リーダーに相応しい人物だって事も。

ただ認めたくなかっただけで。

俺にとっての解放軍のリーダーはオデッサだけだったから。

あいつを認めてしまえば、それが崩れてしまうような気がしたんだ。

そんな事、ある筈が無いのに―――俺の中からオデッサがいなくなるなんて、そんな事ある筈ないのに。

「止めろ、ビクトール。リーダーの言う事に従うんだ」

納得できないとに詰め寄るビクトールに言い放つと、奴は驚きに目を見開いて俺を見た。

降参だよ、

素直に認める事にする―――いや、もしかしたらもう認めていたのかもしれない。

ただそれを認識していなかっただけで。

同じように驚いた表情で俺を見るに微かに笑みを向けると、も同じように微かな笑みを俺に向けた。

 

 

これで俺との関係は改善されると思っていたんだ。

思っていたんだ・・・・・・が。

「・・・・・・」

の部屋の前に立ち、扉と向かい合う事一時間。

扉を叩けば良いだけの話だ―――そうすればと話をする事ができる。

なのに俺の腕は一向に動いてくれなかった。

俺がをリーダーとして認め、そしてはそれを受け入れた。

だから改善されるだろうと思っていた関係は、しかし未だに以前と同じまま。

ほぼ一方的ではあるが、険悪な関係にあった俺と

普通に考えて、嫌いな人間が側にいないほうが良い。

それはごく当たり前の考えだし、がそう思っても何ら不思議な事は無い。

そのごく当たり前な考えに従い、は今まで俺と距離を以って接していた。

会話をしていても、一歩引いて。

向けられる笑顔はどこか作り物めいていて・・・ビクトールやクレオたちに見せるものとは完全に違う、余所行きの笑顔。

イキナリそれを変えるなんて無理な話だろうか?

今更虫の良い話だとは思うが・・・俺はの信頼が欲しいと思った。

ビクトールやクレオ・マッシュに向けられるものと同じモノを俺にも。

守りたいと思った。

オデッサの代わりじゃなく―――という1人の人間を。

今度こそ失わないように・・・。

この間見たような痛々しい笑みを、もう二度とあいつにさせないように。

他でもない、=マクドールを守りたいと思った。

俺がに向ける信頼と同じモノを、からも欲しいと思った。

本当に、虫の良い話だ。

思わず苦笑したその時、何の前触れも無くの部屋のドアが勢い良く開いた。

「ぐあっ!」

「えっ!?フリック!!」

それはまるで計ったように俺の顔面にクリーンヒットし、痛みのあまりその場に蹲る。

「ごめん!そんなとこにいるとは思わなくて・・・」

申し訳なさそうなの声に、痛む鼻を抑えて顔を上げる。

「大丈夫?うわっ、痛そう・・・」

眉間に皺を寄せて俺と同じように座り込んだは、恐る恐る俺の手の上から鼻に手を伸ばした。

「・・・

「とりあえず、中に入って。簡単な治療ならできるから」

有無を言わさず部屋の中に引っ張り込まれ、強制的に椅子に座らされるとどこからか持ってきた救急箱を開けて手早く俺の鼻の頭に薬を塗った。

そのこそばゆい感覚に身を捩ると、「動かない!」と強い口調で言われて頭を押さえつけられる―――その今までとは違う態度に、思わず笑みが零れた。

「なに?・・・って、ごめん!」

漸くこの状態に気が付いたのか、慌てて俺から離れると視線をあらぬ方向へと逸らしてしまう。

それを少し残念に思いながら、俺は椅子に座ったままの顔を見上げた。

「どこに行くつもりだったんだ?」

「・・・・・・へ?」

俺の質問に訳が解らないとばかりに声を上げる―――それさえも俺にとっては新鮮で。

「部屋を出る所だったんだろ?どこに行くつもりだったんだ?」

更に質問を続ければ、漸く何のことなのか思い当たったが気まずそうに視線を彷徨わせる。

そんなに言いにくいことなのか?

そう思った直後、から告げられた言葉に「そりゃ言いにくいだろうなぁ」と妙に感心してしまった。

何でも、ずいぶん前から部屋の外にある気配が気になっていたらしい。

それは他の誰でもなく、俺で。

バレてたのだと苦笑する―――あんまり解放軍リーダーを舐めてはいけないらしい。

「・・・それで?」

「・・・・・・?」

「私に何か用事があったんじゃないの?緊急事態・・・じゃないよね?」

緊急事態なら、お前の部屋の前で一時間もウロウロしてないさ。

それは当然にも解っているだろう―――だからこそ、そういう聞き方なんだ。

「用事・・・って程のもんじゃない。ただちょっと話がしたかっただけだ」

「・・・話?」

鸚鵡返しをするに1つ頷き返せば、なるほど・・・と納得したように呟いて。

そして自分のデスクに座ると、俺の顔をジッと見返してきた。

「どんな話なのか、聞かせてもらえる?」

返された言葉と表情は、解放軍のリーダーのモノで。

それに納得のいかなかった俺は、椅子から立ち上がるとの前まで歩み寄る。

「俺はリーダーとしてのお前じゃなくて、=マクドールとしてのお前に話があるんだ」

「・・・私自身に?」

一瞬の内に、が微かに身構えるのが解った。

それを見て、やっぱり俺は複雑なものを感じる。

にそうさせているのは、俺自身だ―――今までの俺の行動が、無意識ににこういう行動を取らせている。

瞬時に俺は、今までの行動を後悔した。

したが、それをしても仕方のないことは十分に解っている。

大切なのは、これからだ。

大丈夫―――話せばきっと、は解ってくれる。

そしてきっと、受け入れてくれる。

確信に近い思いが、俺の中にはあった。

「俺は・・・だな」

「・・・うん」

「俺は・・・・・・」

しかしいざ話すとなると、どう言って良いのか解らない。

大体俺は口が上手い方じゃないんだと、今更ながらに思う。

きっとビクトール辺りなら、いとも簡単にこいつを和ませてやる事ができるんだろう。

そんな考えが、更に俺を苛付かせた。

「・・・フリック?」

訝しげに眉間に皺を寄せて俺を見上げるを見下ろして、俺はもう何を言っていいのか解らず、頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出していた。

「俺は、お前に信頼されたいんだ」

部屋に空しく響いた俺自身の声に、思わず頭が痛くなるのを感じる。

これか?―――散々悩んで出たセリフが、これなのか?

一瞬笑われるかと覚悟したが、しかし返って来たのは意外にも真剣な声で。

「何言ってるの?私はフリックを信頼してるよ?」

当たり前だと言わんばかりの声色で、あっさりとそう言う。

だけど違うんだ。

俺が言いたいのは、そういうことじゃなくて。

「そうじゃない。俺はお前と・・・・・・友達になりたいんだ!」

「・・・・・・友達?」

呆気に取られたようなの呟きに、ハッと我に返る。

今、俺はなんて言った?

よりによって友達?この状況で出てきた言葉が友達!?

「い、いや・・・そうじゃなくて・・・そ、そう!仲間だ、仲間になりたいんだ!!」

慌てて言い直してみても、さっきのセリフは消えてくれる訳も無く。

そして都合よく、忘れてくれるわけも無くて。

ポカンと俺を見返して絶句しているを見てられなくて、俺は視線を逸らした。

「・・・友達か」

ポツリと先ほどの俺の言葉を繰り返すに、カッと顔が熱くなる。

穴があったら入りたいとは、こういうことだ。

この状況をどうしようかと頭を悩ませる俺に、クスクスと小さなの笑い声が聞こえて来た。

それは馬鹿にしたようなものではなくて。

恐る恐る顔を上げると、そこには嬉しそうな笑顔を浮かべるの顔があった。

その笑顔は、ビクトールたちに向けられているのと同じで。

俺がに向けて欲しいと思っていた笑顔と、同じモノで。

「うん。私もフリックと友達になりたい」

思わず目が釘付けになるほどの綺麗な笑みを浮かべて、は言った。

漆黒の闇を思わせる深い瞳が、ランプの光に揺れている。

引き込まれそうな程の深い黒に囚われる―――この目に囚われたら、もう逃げる事なんて出来やしないだろう。

上等だ、と心の中で思う。

今更逃げるつもりなんてサラサラない。

囚われる?―――それこそ本望だと。

「ありがとう、フリック。凄く嬉しい」

そう言って差し出された手を、俺は強く握り返した。

それはこっちのセリフだ。

そう言いたかったけれど、今の俺にはそんな事を言う余裕すらなくて。

俺はただ、の笑顔を見ていた。

 

 

俺たちの関係が逆恨みから信頼に変わったのは、この瞬間から。

小さかった光は、眩いほどの輝きに変わって。

俺は漸く、その光に触れる事が出来た。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

本当に書きたかったのは最後らへんで、最初は前置きだったんですが(長っ!)

別口で書こうと思ってたグレミオの最後が、こんな所で出てくるとは。

書いてて臨場感に欠けるなぁ・・・とか思うんですけど、どうやったらそういう物が書けるんでしょうね(←聞くな)

原因はフリック視点なのにもあると思うんですが・・・(苦笑)

どうでもいいけど、最初の方のフリックがえらいやさぐれてます。

うわっ・・・って感じ(どんなだ)

作成日 2004.6.12

更新日 2007.9.13

 

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