血に濡れた剣を携えて、その場に佇む1人の少女を見た時。

その光景が悲惨であるにも関わらず、不覚にも俺はその少女がとても綺麗だと思った。

だけど、無性に弱々しく見えて。

そうしたら、思い出したくないことを思い出してしまった。

 

深い

 

「ゆっくり休んでくださいね」

そう遠慮がちに声を掛けられて、はゆっくりとした動作で振り返った。

「うん、ありがとう。クレオもゆっくり休んでね」

身の回りの世話をしてくれていたクレオに礼を言うと、はやんわりと微笑み返す。

それにクレオは「はい・・・」と簡単に返事を返して、気遣わしげな視線をに向けながらテントを出て行った―――その視線に気付かないフリをして、は小さく息を吐く。

ミルイヒが治める西方・クナン地方を解放する為、解放軍は今戦の為に進軍していた。

残すは、ミルイヒがいるであろうスカーレティシア城のみ。

そこを落とす事が出来れば、クナン地方は解放できる。

既にスカーレティシア城を守る毒花の解毒薬は完成しており、夜明けと共に再び進軍を開始する予定になっていた。

明日になれば戦いは始まる―――漸く彼の敵を討てるのだ。

そう心の中で自分に言い聞かせながら、は知らず知らずの内にため息を吐き出した。

しかしどれだけため息を吐き出しても、心の中に沈んだ重い気持ちは晴れることは無い。

「・・・グレミオ」

ポツリと、今はもういない彼の人の名前を呼んでみる。

途端に言いようのない大きな波が、を襲った。

身体の中をかき回すような苦しみ―――鼻の奥がツンとなって、咄嗟に拳を握る。

即席で作られたベットの上で身体を縮こめて、ただひたすら自身を襲う感情を殺した。

泣いちゃ、ダメだ。

言い聞かせるように何度も何度も心の中で呟いて・・・何とか納まった衝動に、は細く長く息を漏らす。

少しだけ安堵して、は強張った体からゆっくりと力を抜いていった。

「・・・馬鹿みたい」

自嘲気味に呟く。

思い出せば・・・名前を呼べば苦しくなる事など百も承知だというのに、それでもそんな行動を取る自分が果てしなく愚かに思えた。

重力に逆らわずにそのままベットに転がって、ソッと目を閉じる。

暗闇に支配されたその空間で―――聞こえてくるのはテントの外で未だ休む事無く動き回る兵士たちの声と、涼やかな虫の鳴き声だけ。

聞こえてくる声がとても遠くて・・・無性に寂しい気分になる。

ゆっくりと目を開けると、一人で使うには無駄な広さがあるテント内に自分以外の姿はない―――いつも側にあった温かな人の姿は、もうそこにはないのだ。

これは現実なのだろうか?

もしかして性質の悪い夢を見てるんじゃないの?

そんな事を考えるが、現状が夢でも幻でもない事は十分に理解していて。

はもう一度、自嘲気味に笑った。

「ほんと・・・馬鹿みたい」

大きく深呼吸を1つして、緩慢な動作で身を起こす。

「散歩にでも行こうかな?」

どうにも眠れる気がしなかった。

妙に目が冴えて・・・身体は疲れて休息を求めているのにも関わらず、だ。

少し気分転換でもすれば、眠れるかもしれない。

そんなことを思い、はそのままベットから降りて、立てかけていた剣を腰に差した。

まだ棍のように自由自在に操れるとは言えないが、今のにとってはこの剣こそが戦う術なのだ―――長年慣れ親しんだ棍は、もうない。

テントを出て辺りを見回す。

そこに見知った人影はない―――それに少しだけ安堵して、は微かに頬を緩めた。

こんな時間に散歩に行こうとしたのがバレれば、説教は免れない。

なら大人しくしていれば良い話なのだが、生憎とその選択肢はの中には存在していなかった。

「すぐに戻ってくるから・・・ね」

今ここにはいない仲間にこっそりと言い訳をして、は人の気配のない方へと歩き出した。

 

 

夜営地近くにある大きな森の中を、はぶらぶらと歩いていた。

木の一本一本は大きく、葉は空を覆い隠すように生い茂っている―――ただ空を仰げば、葉の隙間から微かに月の姿を見る事が出来た。

静かな・・・とても静かな空間。

風もなく、葉の揺れる音さえない―――ただ自身が歩く足音と、活動を開始した虫たちの涼やかな鳴き声だけがそこにはあった。

こんなに静かな時間を過ごしたのは、一体いつぶりだろうか?

目的もなく歩き続けながら、ふとそんな事を思う。

本拠地にいれば、いつも誰かが側にいた―――それは遠征に出ても同じ、誰かがいつもの側についている。

はそれを不満に思ったことも、嫌だと思ったこともない。

寧ろ誰かが側に居てくれる事をありがたいとさえ思っているが、しかし時にはこんな風に1人になりたいと思うことがないわけでもなかった。

「・・・・・・ふぅ」

小さく、ため息を1つ落として。

最近、ため息の数が多くなってきたなぁ・・・と、まるで他人事のように思う。

何となく歩くのも面倒になって、は側にあった大きな木の根元に腰を下ろした。

膝を抱えるようにして、薄暗い森の奥をただ見つめる。

仲間の・・・自分を気遣う目が、苦手だった。

グレミオが死んで―――辛いのは自分だけじゃないという事を、は理解している。

それはグレミオのことだけではなく、すべての人において大切な人を無くした悲しみや苦しみは平等なものだ。

この戦争で大切な人を失ったのは、自分だけではない。

だからといって、が他の人たちと同じように悲しみに暮れているわけにもいかない。

は解放軍のリーダーという立場にあり、だからこそ前に進まなくてはいけないのだ。

戦い死んで行った人たちの為にも。

今もまだ、必死に戦っている人たちの為にも。

戦争によって苦しんでいる人たちの為にも。

自分が出来る精一杯のことをしなければならない―――そして、それが死んだグレミオの願いでもある。

「解ってるよ・・・」

解っているからこそ、仲間のそんな目を見たくなかった。

そんな目を見ていると、縋りたくなってしまう―――頼って、泣き言を言ってしまいたくなる。

そんな事が許されるわけがない―――否、自身がそれを許せない。

だけど気遣ってくれる気持ち自体は嬉しいから、は何もいう事が出来なかった。

出来る事といえば、そんな心配を掛けさせることの無い様振舞うだけだ。

しかしそう在ろうとすればするほど、向けられる視線はとても心配気な色を宿していて。

正直、どうして良いのか解らなかった。

「・・・・・・はぁ」

再び、重いため息を零す―――とその時、ふと違和感を感じては顔を上げた。

素早く辺りに気を巡らせて・・・そして微かに眉を顰める。

先ほどまで煩いほど鳴いていた虫の声が、急にプツリと途絶えたのだ。

ゆっくりと立ち上がりながら、耳に神経を集中させる―――そんなの耳に、カサリと小さく葉を踏む音が届いた。

・・・敵か?

腰の剣に手を伸ばしながら、木を背中にして警戒心を強める。

神経を研ぎ澄ませたは、いくつもの気配を感知する―――それはを囲むようにして、暗闇の中に在った。

迂闊だった・・・と、今更ながらに後悔する。

囲まれるまで気付けなかった自分に無性に腹が立ったが、今はそんな事を言っている場合ではない。

チラリ・・・と木々の合い間から見えた男たちの姿に、それが帝国軍の兵士である事が確認できた―――数は1、2・・・・・・5人。

これならば何とかなるかもしれないと、は腰の剣を抜いて前方を睨みつける。

それと同時に、帝国兵たちが茂みから姿を現しに襲い掛かってきた。

「解放軍リーダー、=マクドール!!その首貰ったぁ!!」

男の1人が高らかに声を上げ、剣を振りかぶる。

それを身をずらして避けると、先ほどまで自分が背中を預けていた木に帝国兵の剣が深々と刺さるのを目で確認する。

木に刺さった剣はすぐに抜けることはなく、その隙を狙っては自身の剣を帝国兵に向けて薙いだ。

手に伝わる人を切った感触と飛び散る血を目にして、は僅かに眉間に皺を寄せる。

しかしそれに構っていられるわけもなく、次々と襲い掛かる帝国兵たちの行動を読みながら、は振り下ろされる剣を受け、そして躊躇う事無く剣を振るった。

数人の敵を相手にたった1人で戦うのは骨が折れる。

誰か背中を預ける事の出来る相手がいるか、もしくは何か紋章を宿しているかすれば話は別なのだが・・・。

生憎は今は1人で、宿している紋章はソウル・イーターだけだ―――そしてソウル・イーターを使うつもりは毛頭ない。

「死ねぇ!!」

死に物狂いで襲い掛かってくる帝国兵を、1人・・・また1人と確実に仕留めて行って。

漸く最後の1人を切り伏せて・・・ドサリと倒れる重い音を聞きながら、は荒くなった息を整えようと深く深呼吸をした。

辺りに漂う血の匂い―――夜の闇に紛れてその光景がはっきりとは見えない事が、更に血の匂いを敏感に感じさせる。

深く息を吸い込んで・・・鼻につく匂いに眉を顰めた。

こんな光景に出くわすのは、何も今回が初めてではない―――出くわすどころか、こういう光景を作り出したのは他でもない自分自身なのだ。

けれど見ていて気持ちの良い光景ではない。

相手が帝国兵だからといって、心が痛まないわけでもない。

「散歩なんて来なきゃ良かった・・・」

そうすれば、こんな事に出くわす事もなかったのに・・・と心の中で呟いて。

さっさとテントに戻って今日はもう休もうと、踵を返したその時。

何気なく目に映った光景に違和感を感じて、はピタリと足を止めた。

振り返って倒れている帝国兵の亡骸を目に映す。

そこに変わった所はない―――ないはずなのに、違和感は消えるどころか更に増した。

一体、何が・・・?

考えて・・・そしてあることに気付いて、思わず目を見開く。

倒れている帝国兵の数は4人―――1人、足りない。

戦っている最中にちゃんと数は確認した。

確かに5人いた筈だと慌てて辺りを見回したその時、背後で土を踏む音が聞こえては素早く振り返り目を見開く。

そこに、見失った帝国兵が居た。

剣を振りかざして、それはまっすぐに狙い定められている。

剣を抜く暇も、振り返った無理な体勢を立て直す余裕もない。

避けられない。

脳裏で静かな声が響いて、はただ呆然と自分に向けて振り下ろされる剣を見上げていた。

 

 

それは一瞬の出来事だった。

何が起こったのかを理解できず、唖然と目の前の光景を目に映す。

目の前には、つい先ほど自分に向けて剣を振りかざした帝国兵の亡骸。

の身体を切り裂く筈だったその剣は、持ち主を失い地面に転がっている―――もちろん自身に目立った怪我はない。

強張った身体から力を抜いて、帝国兵の亡骸に刺さった一本の矢を見つめる。

「・・・一体、誰が」

ポツリと呟いて、矢が飛んできたと思われる方へ視線を向けると、葉の生い茂った木の上に1つの影を認めた。

「貴方、誰・・・?」

問い掛けて、はそんな自分に後悔を抱く。

素直に聞いて素直に教えてくれる訳がない―――向けられる気配が殺気ではないことや、自分を助けてくれたという事実に帝国兵ではないと予測はつくが、だからといって味方だとも限らない。

しかしそんなの心境とは裏腹に、その影はあっさりと口を開いた。

「・・・クインシー」

名乗ったと同時に、木の上から舞うように地面に降りてくる。

葉の隙間から差し込んだ月明かりに、その人物の金色の髪が鈍く光った。

クインシーと名乗った少年は手に持っていた弓を背負いなおし、既に事切れている帝国兵たちを一瞥してからに向き直った。

「見かけによらず、なかなかやるね」

「・・・ありがとう」

正直なところ、誉めているのか皮肉を言われているのかはっきりとはしなかったが、それでもそれを素直に受け止めて、とりあえず礼の言葉を口にする。

「助けてくれて、ありがとう」

「別に。君を助けようと思ったわけじゃないよ。ただ帝国兵が嫌いなだけ」

男にしては少し高めの声に、あっさりとそう返される。

「それでも、助けてもらった事には変わりないから・・・だからありがとう」

が思ったままの言葉を口にし小さく微笑むと、クインシーはそんなに戸惑ったように口を噤んで・・・そしてぶっきらぼうに視線を逸らしながら言った。

「それにしても・・・解放軍のリーダー様ともあろう者が、こんな所で1人で何してるの」

「私を知ってるの?」

「ここに攻め込んできた時、何度か姿を見たからね」

クインシーの言葉に、なるほど・・・とは納得したように頷いて。

「別に何をしてたって訳じゃないの。ただ散歩をしてただけで・・・」

「1人で?」

「うん」

「こんな暗い森の中を?」

「うん」

投げかけられる疑問に、は簡単な言葉で肯定する―――そんなを眺めて、クインシーは呆れたようにわざとらしくため息を吐き出した。

「君には解放軍のリーダーっていう自覚がないみたいだね」

「・・・そんな事、ないけど」

反論したかったが、きっと夜営地に戻れば同じセリフをマッシュやビクトールたちに言われるだろう事は簡単に予測できたので、何となく強く反論できない。

そもそも解放軍とは関係のない目の前の少年に、そんな事でため息をつかれる謂れもないとは思うが、それでも自分の命の恩人でもあるのだからやはり強くは出れなかった。

「それよりも・・・クインシーはこんな夜に森の中で何してたの?」

話を逸らすために、はそう問い掛ける―――それだけじゃなく、普通に気になっていた事でもあった。

そんなに、クインシーは迷惑そうな視線を向けて。

「俺、この森で狩人をしてるんだ」

「ふ〜ん」

「本当はもう休んでたんだけどね。変な騒ぎが聞こえたから目が覚めたんだよ」

「・・・ふ〜ん」

「そしたら誰かさんが、こんな夜更けに戦ってるだろ?煩いのなんの・・・」

「・・・・・・ごめんなさい」

はっきり言ってのせいではないのだが、何となく申し訳ない気分になって思わず頭を下げる―――するとクインシーはそれを確認してから「ま、君のせいじゃないけど」とフォローを入れた。

なら最初から咎めるような口調で言わないでよ・・・とは心の中で毒づくけれど、安眠妨害をしてしまった事には違いないと思い直して、改めて小さく頭を下げる。

「本当にごめんなさい。それから・・・改めて、助けてくれてありがとう」

謝罪と礼をきっちり告げて、は憮然とした表情を浮かべているクインシーににっこりと微笑みかけた。

それを受けたクインシーが僅かに頬を赤く染めたが、この暗闇でがそれに気付く事はない。

「それよりも・・・、早く戻った方が良いんじゃないの?」

誤魔化すようにそう言ったクインシーに、は困ったように微笑んで無言のまま夜営地の方へ視線を向ける―――その微かな表情の変化を見逃さなかったクインシーは、僅かに眉を寄せてからかうように呟く。

「何?帰りたくないわけ?」

「別に・・・そういうわけじゃないけど」

曖昧に返された返事に、クインシーは浮かべていた笑みを消した。

自分で言った言葉が、妙に的を得ている気がしたのだ―――の言う通り、本当にそう思っているわけではないのだろうけれど。

クインシーは改めて、目の前に立つ少女を見た。

先ほどの戦闘の時とは明らかに違う雰囲気。

闘神を思わせる戦い振りから一転して、今のは何処にでもいるような女の子に見えた―――もちろん惹き付けられるような存在感や目に宿る強い光は、何処にでもあるようなものではなかったけれど。

そう・・・言うなれば、雰囲気だろうか。

薄暗い森の中に佇むは、どこか儚く弱々しく見える。

まるで今にも消えてしまいそうな希薄な気配に、クインシーは何故か悪寒を覚えた。

こんな雰囲気を放つ人間を、彼は知っている。

「・・・ねぇ」

思わず声をかけていた。

クインシーの呼びかけに、はどうしたの?と首を傾げつつ微笑む。

その微笑みが、どこか作り物のようにクインシーの目には映った。

「あんた、大丈夫なの?」

「・・・何が?」

突然のクインシーの問いに、は訝しげに聞き返す。

本当に意味が解っていない様子のに、クインシーは小さくため息を零した。

本当に解っていない―――きっと。

危険だと思った。

こんなままで、また戦いの中に身を置くだろうが、とても危ういと思う。

思うが、だからといって彼にできることなど無に等しかった。

いくら自分が言葉を並べ立てても、は本気にはしないだろう。

きっと笑って流すのだ―――会って間のないクインシーにもそれはよく解る。

自分ではダメなのだ。

自分ではなく、もっとに近しい人間でなければ彼女の心に言葉は届かない。

「無理、しない方が良いんじゃない?」

「何言ってるの?別に無理なんてしてないよ?」

あっさりと・・・寧ろなんの事だと聞き返してきそうなほど純粋に、は首を傾げる。

ほら、やっぱり。

言ってはみたけれど、やはり予想通りクインシーの言葉はの心に届かない。

「そう。なら良いんだけど・・・」

「・・・変なの」

何を言っても無駄だとクインシーは早々に諦めて、あっさりと引いた―――そんなクインシーを見て、は不思議そうに首を傾げる。

きっと、大丈夫。

解放軍にはたくさんの人がいるのだ。

の心を理解して、支えてやれる人間が1人もいないなんて事はないだろう。

簡単に弱音を吐くような相手ではないことはクインシーにも解るが、それすらも超えての心の弱い部分を察することのできる人間は必ずいるハズだ。

そう、大丈夫―――そんな根拠のないことをクインシーは思う。

もしかしたら、ただそう思いたかっただけなのかもしれない。

「じゃあ、私はそろそろ帰るね。きっとみんな心配してると思うから」

苦笑気味に呟いて、は夜営地の方角を指差した。

心配してると思うなら、黙って抜け出してきたりするなよ・・・なんて心の中で思いつつも、クインシーは1つ頷いて踵を返した。

「じゃあね」

後ろ手に手を振って、別れの挨拶をする。

きっともう、こうして会うこともないだろう。

元々自分には縁のない相手なんだから―――今日会ったのはほんの偶然、こんな事もう二度と在りはしない。

自分を見送るの視線を背中に受けて、クインシーはそんな事を思う。

一歩一歩から離れるごとに、心の緊張が解れていくような気がした―――気にはなるけれど、できれば関わり合いたくない。

といれば、嫌なことを思い出してしまう。

あんな風に儚げな笑みを、クインシーはもう見たくなかった。

「クインシー」

漸くの視界から自分の姿が消えるだろうと思われた頃、不意に呼び止められてクインシーはピタリと足を止めた。

どうして止まったりしたんだ?―――早くここから立ち去りたいんじゃなかったのか?

心の中で自問自答しながら、しかしクインシーはゆっくりと振り返った。

微かな月明かりに照らされて、の白い肌が心なしか青く見える。

「・・・何?」

その生気の感じられない顔を見詰め返して、クインシーは震えそうな声を押し隠して簡潔に返事を返した。

「クインシー、言ってたよね。帝国兵が嫌いだって・・・」

「・・・ああ、言ったね」

「それってどうして?」

「そんな事、君に話す必要あるの?」

冷たく質問を返せば、は小さく笑みを浮かべる―――その笑みの理由が分からず、クインシーは目を逸らす事など出来ずにただを見詰め返していた。

「ねぇ、クインシー」

「だから、何?」

「解放軍に来ない?」

「・・・・・・」

「私たちと一緒に、戦って?」

小さく首を傾げて、悪戯を仕掛けた子供のような顔では言った。

まさか、誘われるなんて思わなかった―――それがクインシーの正直なところで、だからこそすぐに答えなんて出てこない。

本音を言えば、それも良いかもしれないと思う。

帝国兵は森を蹂躙し、クインシーの縄張りを荒らす―――それに腹を立てても、たった1人で出来る事などたかがしれていて。

そんな風にむかついたりしていたから、帝国兵相手に戦うのも悪くないかもしれないと思う―――解放軍リーダー直々のお誘いなのだから、話に乗ってみるのも良い。

けれど。

「遠慮しておくよ」

いやにあっさりとした口調で、クインシーはの申し出を断った。

「どうして?」

不思議そうに聞き返してくるを見て、クインシーは不敵に笑う。

「だって、解放軍はまだまだ小さいだろう?帝国軍と戦って、どっちが勝つか解らないじゃないか」

「・・・それは」

「俺は勝つ方に味方する。解放軍がもうちょっと大きな組織になったら、力を貸してあげるよ」

傲慢に言い放つと、は驚いたように目を見開いて―――そして笑った。

「しっかりしてるね」

「当たり前だろ?」

クスクスと笑い声が聞こえてきそうな雰囲気で、は心底楽しそうに笑った。

「じゃあ、頑張らないとね」

自分に言い聞かせるように呟いて、はクインシーに背中を向けた。

去っていくの背中を見送って、クインシーは苦笑を浮かべる。

「またな」

声をかけて、クインシーもまた踵を返した。

 

 

戦いの中の、ほんのささやかな出会い。

再び会う約束をしたわけではない―――会えるとも限らない。

けれど、また会えるような気がしていた。

解放軍が、クインシーの言う大きな組織になった時。

その時になれば、自分は喜んで手を貸そう。

今はもういない少女に向かって、クインシーは心の中で呟いた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

クインシーとの出会い。

連載の中で何となく顔見知りっぽかったとクインシーは、こんな風に出会いました。

ええ、こじつけです。(開き直り)

何気にクインシーの性格がルックっぽくなってますが、気にしない方向で(笑)

作成日 2004.7.2

更新日 2007.9.13

 

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