暗闇は人を惑わし、孤独は人を狂わせる。

悲しみを嘆くその声は、いつまでも消えることはない。

けれど希望の光は、必ずそこにあるのだから・・・。

 

信じる者の幸福

 

それは辛くも悲しい物語。

 

捜し求めたテレーズさんをようやく見つけることの出来た私たちは、彼女が身を隠す小屋へと通され、グリンヒルが落ちた日の話を聞いた。

突如姿を現したハイランド軍は、グリンヒルに降伏を申し渡した。

けれどそれに素直に応じるわけもなく・・・―――当然ながらグリンヒルは、その自治権を賭けて猛然と戦う意思を見せたのである。

けれど兵力の差は一目瞭然。

そこに1人の旅人を迎え、心もとないながらも何とか戦う準備を整えて。

明らかにこちらの力を舐めていたハイランド軍を、1度は追い返すことに成功した。

しかし、その後。

ハイランド軍の手によって、捕虜となっていたミューズ兵が解放された。

武器を手に解放されたミューズ兵たちは、そのままグリンヒルへ。

その意図に気付いていないわけではなかったけれど、結局テレーズさんはそのミューズ兵を受け入れるために門を開いた。

ハイランドと戦うにはあまりにも差があり、これからの戦いに絶望さえ抱いていた市民はこれに希望を覚え、手放しに喜んでいたのだけれど・・・。

しかしハイランド軍はグリンヒルを包囲しただけで、攻めてくる様子さえ見せず、しかしこちらから打って出るほどの戦力があるわけでもないグリンヒルは、そのまま孤立の状態に陥った。

そして大量の兵士を受け入れた事により、もとより少なかったグリンヒルの食料は瞬く間に底をつき・・・―――市民と兵士の間で暴動が起きるのに、それほど時間はかからず。

結果、グリンヒルは自らが抱える問題によって、戦わずしてハイランド軍に破れた。

「・・・・・・これが、グリンヒルで起きた出来事のすべてです」

静かな口調でそう話を締めくくったテレーズさんは、辛そうな表情で俯いた。

誰も何も話さない。―――だってなにを言っていいのか、わからないから。

守りたいと思っていた街を落とされた気持ちは、きっと余所者の私たちにはわからない。

戦う事さえ出来ず・・・その意思はあったというのに、それさえ許されず。

自分たちの手で、自分たちの街を崩壊に追いやってしまったという悔しさ。

それを予測していただろうテレーズさんは、それでも同盟を結んだミューズの兵士たちを見捨てる事さえ出来ずに。

結果、その優しさがグリンヒルを落とさせるきっかけとなったのだ。

「私は・・・私の責任なのです。グリンヒルが落ちたのも、私の判断が誤っていたから。私にはみんなが思ってくれているような力などありません。とても無力で・・・愚かな存在です」

搾り出すように言葉を並べるテレーズさんを、たちは無言のまま見つめていて。

「どうかお帰りください。私にはあなたたちに協力する事などできません」

そう結論を言い渡したテレーズさんに、口を開こうとしたフリックを無言で制した。

「・・・

「いいから・・・」

不満そうな表情を向けてくるフリックに、しかし私はキッパリと彼の言葉を封じる。

今の彼女になにを言っても無駄な事は、分かりきっている。

テレーズさんの心の傷は、言葉では癒せない。

言葉を並べれば並べるほど、彼女は意地になってそれを否定するだろう。

「取りあえず・・・今日のところは戻ろう」

そう言いながら立ち上がって、いまだ俯いたままのテレーズさんに小さく頭を下げた。

ともかく時間が必要だ。

こちらの要求は伝えたのだし、後は冷静になって考える時間を与えるしかない。

2・3日中にハイランドの指揮官が戻ってくるという話だから、それほど時間を取る事は出来ないが、今すぐに結論を出させるのは無理だと・・・彼女の様子を見ればわかる。

できるだけ早く冷静に、現実と向き合う事ができるよう願いながら、暗闇に包まれた森の中を学園に向けて伸びる道を引き返した。

 

 

ニューリーフ学園、入学体験4日目。

昨夜、学園寮に噂が広まっている『散歩するオバケ』を追った私たちは当然ながら寝不足で、いつもよりも少し遅い時間に起床の後、遅い朝食を取って外に出た。

そこには既にフリックの姿があり、その手には旅の支度が整えられているようだ。

「・・・・・・戻るの?」

「ああ、お前もか?」

私の背負っているリュックに目を留めたフリックが、何気ない口調で聞いてくる。

それに小さく頷いて・・・どこに戻るのかということを追及されたらどうしよう?とか思っていたけれど、それを聞かれることはなかった。

寮の中で忘れ物はないかと騒いでいるナナミたちを横目に、少し声を潜めて目の前のフリックに声をかける。

「それで?テレーズさんのことはどうするの?」

聞けばフリックは少し苦い表情を浮かべて。

「どうするって言われてもなぁ・・・。あの様子じゃあ了承してくれそうにないし。まぁ一回戻ってシュウに相談でもするさ」

「・・・シュウ?」

聞き覚えのない名前に首を傾げれば、それが同盟軍の軍師の名前だと教えてくれた。

なるほど。―――マッシュの弟子の軍師は、シュウというのか。

そんなことを思いながら、チラリと学園の向こうに広がる森に目をやった。

一度戻って相談する・・・なんて悠長な事言ってる暇があるんだろうか?

そう遠くないうちに、ハイランドの指揮官が戻ってくる。

確かにあそこは隠れるには絶好の場所だけれど、いつまでも隠れていられるような場所でもない。

せいぜい時間稼ぎがいいところだ。

そう思っても、このままここに残ったとて彼女を説得する事が困難なのは、十分すぎるほど理解できて・・・。

「そういえば・・・」

不意にフリックが口を開いた。

こちらを不思議そうに見つめ、首を傾げる。

「・・・なに?」

「お前・・・ここに何か用があったんじゃないのか?結局ここに来てからずっとテレーズ探しに付き合ってもらってて、自由に動く時間なんてなかったろ?」

「まぁ・・・そうだけど、別にいいの。急ぐ事じゃないし・・・」

蔵書漁りなんていつでもできる。―――このグリンヒルが炎上でもしない限りは。

それよりも・・・ここに指揮官が来るのなら、早々に立ち去った方が無難だ。

私は別に同盟軍に所属しているわけじゃないし、ハイランドと確執があるわけでもないからそれほど危ない立場ではないにしろ、どちらかといえば同盟軍寄りの状態にあるわけだし・・・それに私は肝心のテレーズさんの居場所を知ってしまったから。

バラすつもりもないし、例え尋問にかけられても口を割るつもりもないが(それ以前に捕まるヘマを犯すつもりもない)居所を知っている私がここにいては、何かと不都合があるだろう。―――私はともかく、テレーズさんたちの方には。

「まぁ、平和になったらまた来るよ」

そう結論を出したその時、ようやく準備を終えたナナミたちが寮から姿を見せた。

「準備終わったよ」

「そうか・・・」

の言葉にフリックは満足そうに頷くと、一行を従えて街へと歩き出した。

「あ〜あ、もう帰るのか。学校、結構面白かったのに・・・」

残念そうに呟くナナミに視線を送りながらも、少し同意する部分があり苦笑した。

学校に通うなんてこれからないだろうと思うと、ほんの数日居ただけのここが何故か特別なもののように思える。

たとえば、卒業する生徒たちはこんな気持ちなのだろうかと感慨に耽っていたその時。

「・・・なんだ?」

広場の方で歓声のような声が響いて、お互い顔を見合わせた。

なにがあったのだろう?

「・・・行ってみよう」

の声に同意して、私たちは門の方へ向かっていた足を広場へ方向転換した。

そこには既に大勢の市民が詰め掛けており、そしてその向こうに見えるのは・・・。

「・・・・・・遅かったか」

悔し紛れに呟く。

そこにいたのは、ハイランドの軍服に身を包んだ数人の男たち。

兵士とは違い、少し趣の変わった服装をしている彼らは、それだけで幹部の者なのだろうと思わせる雰囲気があった。

2・3日中という話だったのに、こんなに早く戻ってくるなんて・・・。

彼らの内の誰かが、フィッチャーの言っていた指揮官なのだろうか?

3人いる男たちの中で・・・赤い髪をした男と、冷たい印象を持った男を交互に見る。

金髪を後ろに流した男は見るからに小物そうで・・・おそらく彼ではないだろう。

騒ぎ立てる市民を見回したその男たちは、冷静そのものの様子で声を上げた。

よく通る声に、凛とした口調。―――どこか人を押さえつけるような冷たさを持ったその声に気圧されるように、広間は少しずつ静けさに包まれる。

一体なにを始めようというのか?

そう思っていた私たちの耳に、男の声が響く。

彼らの要求は、行方をくらませたテレーズを見つけ出す事。

見つけたものには莫大な賞金と、ハイランド王国での安住を約束されるという。

話が続くにつれて、市民の顔色が変わっていくのが分かった。

人の弱みに付け込んで・・・卑怯だと思う。―――それと同時に上手いとも思った。

エサを目の前にぶら下げられた彼らの中には、それに飛びつく者もいるだろう。

「その話は本当なのか?」

訝しげに・・・しかし意思ある声色で聞き返す市民の1人に、新しくその場に現れた人物が力強く肯定した。

「・・・もちろんだ」

その声を・・・どこかで聞いたことがあるような気がして。

瞬間、隣で同じように話を聞いていたとナナミが息を呑んだのが分かった。

視線を向けて・・・驚いたように目を見開いている2人に、その理由が分からず首を傾げる。―――しかし対照的にピリカちゃんは凄く嬉しそうな顔をしていて・・・。

再び前を見た私は、何故2人が驚いているのか理解した。

そこにいた、予想外の人物。

今回姿が見えなかったことに疑念を覚えて、2人に尋ねた時。

ミューズで別れたと聞いた。―――そしてミューズ市長であるアナベル暗殺時のことも。

にわかには信じられなくて、すぐさま頭の中で否定した自分の言葉が、再び脳裏に甦る。

そこにいたのは、以前とは比べ物にならないほど硬い表情を浮かべた、ジョウイその人。

呆然とする私たちをそのままに、明るい表情でジョウイに駆け寄るピリカちゃん。

一拍置いた後、ピリカちゃんを追うように駆け出したナナミを見送って、慌てるフリックを目に映し。

私はただ呆然と立ち尽くしていた。

今まさに、頭の中で立てた推理に絶望を覚えて。

少しの間とはいえ一緒に旅をしていた最中、彼の思いつめる目が気になってはいた。

正義感が強く、非道な振る舞いを許せずに、ただその怒りを持て余していた彼を。

しかしとは違い、この先にある未来に希望を持てずにいた彼を。

自分を犠牲にしてでも、人を想うその心を。

危険だと思った。―――彼はいつか、その想い故に自分の心を消してしまいかねないと。

!」

突然腕を引っ張られて我に返ると、必死の形相をしたフリックがすごい勢いで私を引きずったまま走り出した。

気が付けば広場は喧騒に包まれており、数人の兵士たちがこちらに向かってくるのが分かる。

同じように引きずられているナナミを確認して、自ら走り出した私は先を行くフリックに声をかけた。

「これからどうするの!?」

「学園の裏から出る!」

学園の裏というのは、昨夜通った森のことだろう。

「・・・じゃあ」

「ああ!こうなった以上、引きずってでもテレーズを連れて行く!!」

キッパリと告げられた言葉に、思わずため息をつきたくなるのを何とか抑えて。

それしか方法がないと分かっている私は、何も言わずに彼の後を追う。

事態は最悪な展開を見せていた。

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!?」

小さな小屋の中に、フリックの怒鳴り声が響いた。

小屋に辿り着いて、事の次第をテレーズさんに伝えると、彼女は何かを決意したような堅い表情を浮かべて。

そして言った。―――『ハイランドの捕虜になる』と。

「私が捕まれば、この街の人たちの安全は保障されます。私にできるのは、もうそれくらいしか残されていないから・・・」

「だけど・・・捕まったらきっと殺されちゃうよ!!」

何とか説得を試みようとナナミが声を上げるが、テレーズはそれさえも頑なに拒んで。

そんなもの、彼女は承知の上なのだ。

承知の上で、彼女は行くと言っている。

それを察したたちは何も言えなくなって、悔しそうに口をつぐんだ。

「どうしてみんな死に急ぐ・・・。生きていてこそだろう!?」

シンと共に小屋を出るテレーズさんの背後にそう声を漏らしたフリック。―――それに弾かれるように、私はテレーズさんの腕を掴んでいた。

「甘えたこと言ってるんじゃないわよ・・・」

低い声が喉の奥から出た。―――まるで自分の声じゃないみたいだと、他人事のように思う。

「・・・なにを」

戸惑うテレーズさんを睨みつけて、私は想いのままに口を開いていた。

「甘えた事言ってるんじゃないって言ったの」

「・・・私が甘えている?そんな・・・」

「あなたが命を投げ出して、それで本当に解決すると思ってるの?」

「・・・っ!」

思わず声を詰まらせたテレーズさんを見据えたまま。

睨み合う私たちに、誰一人口を挟む人はいなかった。

「責任を取るって、それはとても立派な事だけど・・・あなたのしようとしている事は、ただ逃げてるだけなんじゃないの?」

「・・・・・・」

「あなたが死んでも・・・それは責任を取った事にはならない」

キッパリと言い切った私から、テレーズさんは視線を逸らして俯いた。

どうしてみんな、簡単に死を選ぶ?

死んでしまったらすべては終わる。―――生きていてこそ、人は何かを成せるというのに。

「生きたくても生きられなかった人を、私はたくさん知ってる。そして・・・残された人がどんなに辛い思いをするのかも・・・」

チラリとフリックに視線を向ければ、彼は黙ったまま。

しかし悔しそうに顔を歪めていた。

簡単に死を選ぶなんて、そんなことして欲しくない。

彼女が死んで、悲しむ人がきっといるハズだから・・・。

「あなたには、まだやれる事があるでしょう?やるべき事もあるはずよ。どれだけ現実が辛くても、逃げないで・・・。そんなに簡単に・・・死を選ばないでよ・・・」

「・・・さん」

搾り出すような私の声に、テレーズさんはただ私の名前を呼んだ。

「人の上に立つ以上、その責任があなたにはあるんだから・・・」

俯いたままのテレーズさんは、私と視線を合わせて。

弱々しい力で・・・―――けれど私には抵抗する事が出来ず、掴んでいた私の手を解いた。

「それでも、私は・・・」

儚い雰囲気を纏い、それだけを呟くとシンと共に小屋を出て行った。

その後ろ姿を、今度こそ何も言えずに見送って。

慌てて追いかけるたちの後を付いて行くことも出来ずに、部屋の中に置いてあった木で出来た簡素な椅子に力なく座り込んだ。

どうして死を選ぼうとするの?

そんなに簡単な事じゃないでしょう?

行き場のない悲しみと、悔しさと、何かに追い立てられるような感覚に、私は拳を握り締めてテーブルを力いっぱい叩きつけた。

人はどうしてこんなにも弱い?

私も含めて・・・どうして希望よりも先に、絶望を思い浮かべてしまうのか。

例えほんの少しの可能性でも、それは確かにあるんだから。

ジンジンと痛む拳を握り締めて、私は悔しさを吐き出すためにもう一度テーブルを叩いた。

 

 

一体どれだけの時間が過ぎたのだろうか?

ただぼんやりと座り込んでいた私は、小屋の外で何かを叫ぶような声に我に返った。

その声がフリックのモノだと察し、慌てて外へ飛び出してみると、そこには街に戻ったはずのテレーズさんの姿があった。

突然の事になにがなにやら分からず、ただ呆然と立ちすくむ私に気付いたテレーズさんが、困ったように笑みを浮かべる。―――その彼女の目に、先ほどまではなかった強い意思を認め、安堵の息を零した。

なにがあったのかは分からないけれど、彼女は生きることを選んでくれた。

そのことに嬉しさを感じて・・・しかしこの状況は、さらに悪い方へと流れているようだと思う。

小屋を背に立つフリックたちの前に立ちはだかる、幾数のハイランド兵たち。

その兵士たちを引き連れているのは、先ほどの演説で姿を見た金髪の男で。

厭らしい笑みを浮かべるその男の前に、シンはテレーズをさらに後ろへと下がらせると、剣を構えて進み出る。

「先に行ってください。ここは私が引き止める!」

「・・・そんなっ!!」

「心配は無用。さぁ、早く!」

問答無用でそう告げるシンに、しかしテレーズさんは引き下がる様子を見せない。

私はヤレヤレとため息をつきながら、兵士と睨み合うフリックの横を通り過ぎてシンの隣に並ぶと同じように剣を抜いた。

!?」

驚いたように声を上げるフリックを振り返り、にっこりと微笑む。

「ここでお別れだよ、フリック」

簡潔に述べた言葉の意味を察したフリックは、堅い表情を見せた。

それを軽く流して、より一層笑みを深める。

テレーズさんに生きろといった以上、それを選んでくれた彼女を逃がすのは私の仕事だ。

いまだ戸惑うテレーズさんを抱えて、フリックは複雑そうな表情を浮かべる。

しかし迷っている暇はないと判断したのか、小さく礼を告げるとを連れて小屋の方へ駆け出す。

「・・・良かったのか?」

兵士たちから視線を逸らさず尋ねてくるシンに、私は軽く肩を竦めて。

それにシンが、小さく微笑んだ気がした。

「我が剣、タランチュラとこの身に刻んだ技で・・・ここは通さぬ!!」

吠えるシンに、忌々しいと言わんばかりの表情を向けた金髪の男に、私は挑戦的な笑みを向けた。

「言っておくけど・・・手加減はしないわよ?死にたい人からかかっておいで」

切っ先を男に向けて。

戦闘開始を告げる男の声を聞き流し、私とシンは襲い来る兵士たちに向かい剣を振り下ろした。

 

 

晴れ渡った青空の下、荒い息を繰り返すフィッチャーを尻目に私は小さく息をつく。

たちが逃げ切っただろうと思われた頃を見計らって、私たちはその場を退いた。

いつまでも相手にしているほど、私たちは酔狂じゃない。

ちょうどタイミングよく現れたフィッチャーの案内で、深い森を縦横無尽に走り続けてようやくハイランド兵を巻いたのは、つい先ほどの事。

手に持ったままの剣を鞘に収めて、大きく伸びをすればフィッチャーに呆れた表情を向けられた。

「あれだけ走って、何で平気なんですか?」

「鍛え方が違うのよ。あなたももうちょっと運動した方がいいかもね」

そう返すと、うんざりだというような視線を向けられて、おかしくて笑った。

「さてと・・・それじゃあ、私がこれ以上ここにいる理由はないね?」

言った言葉に、フィッチャーとシンの2人が驚いたように目を見開いた。

「・・・って、本拠地には行かないんですか?」

「うん、行かない」

あっさりとそう返せば、シンが戸惑ったように言葉を紡ぐ。

「・・・何故?」

「何故って・・・うん、いろいろあるんだよ」

聞かれても説明は出来ない。

説明できる位なら、もうとっくに結論を出している。―――ので、私は曖昧な返答を返しておいた。

呆然と口を開いたまま私を見送るフィッチャーに、そういえば・・・と思わず振り返って。

「フリックに伝言頼める?」

「・・・・・・?」

「『約束、ちゃんと守ってね』って・・・」

にっこりと微笑むと、フィッチャーは不思議そうに首を傾げる。

「約束ってなんですか?」

「言えば分かるから」

そう話を締めくくって、私は後ろ手に手をひらひらと振って歩き出した。

グリンヒルに入った直後、彼と1つの約束を交わした。

それは・・・テレーズ捜索に付き合う代わりに、ここで私に会った事は誰にも言わないという事。

納得いかないって顔をしてはいたけれど、妙に真面目な彼の事だからきっと約束は守ってくれるだろう。

もう少し・・・もう少しだけ待って。

きっと答えを出して見せるから。

その時には、きっと笑顔で2人の前に立てるだろうから。

そう思いながら足を踏み出して・・・。

ほんの少し・・・―――けれど確実に、私は最初の一歩を踏み出せた気がした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

かなりやっつけ仕事的な感が否めないような・・・。

ともかくもグリンヒル編はこれで終了です。

ようやくフリックと再会したというのに、再び1人に戻ってしまって・・・。

少し寂しく思いつつ、次はあのお方を登場させようと目論み中。

いつになったら同盟軍入りできることやら・・・(笑)

作成日 2004.4.11

更新日 2008.5.3

 

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