出会いはいつだって突然で。

そして、別れだって突然やってくるものなんだ。

 

最悪な展開

 

この逃走劇は、一体いつまで続くのだろう?

私の隣を、同じように全力疾走するナッシュを横目にそんなことを思う。

背後には愛想の悪い男たちを引き連れて・・・。

グリンヒルの森でナッシュと出会って、それなりの時が過ぎた。

その間に同盟軍はマチルダ騎士団を味方につけるべく奔走していたようだけど、ナギの報告と今のマチルダ騎士団の有り様を見るに、どうやら失敗したらしい。

けれどその騒動をきっかけに、赤騎士と青騎士の半数が同盟軍に身を投じたという噂も耳にしたし、まるっきり無駄だったというわけでもないようだけれど。

そういえば・・・と、ミューズで会った1人の騎士の事を思い出す。

見るからに真面目一辺倒。―――よく言えば正義感溢れる、悪く言えば融通が聞かないタイプのあの騎士は、一体どうしただろうか?

彼を迎えにきた騎士の態度から言って、それなりの地位に治まっている様に見えたんだけど・・・確かマイクロトフって言ったっけ?

そうそう、ミューズといえば・・・ちょうど同盟軍がマチルダ騎士団に乗り込んだ時期ぐらいだろうか?―――ミューズ上空に、突然霧のような狼が姿を現したのは。

見るからにヤバそうなそれを、ナッシュは『獣の紋章』だと説明してくれた。

昔、ハイランドがハルモニアから独立する際に授けられたという、27の真なる紋章。

真の紋章を集めているハルモニアが、それを他国に渡すなんてどういう思惑だと思ったけれど、それを行ったヒクサク自身の考えを今の私に読む事など出来る筈もなく。

考えるだけ無駄だと、早々に諦めた。

そんな中、私はと言えば時代の流れなんて全く関係なく、ただひたすら追いかけっこを繰り広げていた。―――しかも、私自身には全く関係のない追いかけっこを!

工作員ではないとはいえ、相手はハルモニアの人間。

しかもそれが『吼え猛る声の組合』の人間なのだから、彼らを引き連れてバナーに戻るわけにもいかず。

結果、この状況に甘んじてるわけなんだけど・・・。

グリンヒルの森を経て、ミューズ市を横切り、果ては傭兵隊の砦の名残を微かに残すかつてのそこに辿り着き・・・。

「・・・いい加減、解放されたいんだけど・・・」

追っ手を撒くために滅んだリューベの村に逃げ込んだ私は、隣で荒い息を繰り返すナッシュを睨み呟いた。

「俺・・・だって・・・うんざり・・・してるっ!」

途切れ途切れに伝えられる批難の声に、それは分かるけど・・・とため息を零す。

「それにお前だって、了承しての事だろう?」

それもそうなんだけど。

でも実際問題として、アンカーだけでここまで面倒事に巻き込まれるのは、はっきり言って割りに合わない。

まぁ、そう言って『吼え猛る声の組合』特製の煙幕をプラスしてもらった事は、この際置いておくとして。

「でも、このままじゃねぇ・・・」

「・・・・・・まぁな」

ぼやくように呟くと、同意の言葉が返ってくる。

私はともかく、ナッシュの場合は早急にハルモニアに帰らなければならない事情があるようで。

その辺のことは聞いてないから詳しくは分からないけれど、この状況を見るにそれが並大抵の厄介事ではないように思う。

「一体なにをして、あいつらに追われてるわけ?」

彼に出会って初めて、私は彼自身のことを聞いた。

それに当然の事ながら、渋った様子を見せるナッシュ。

「まぁ、別に無理には聞かないけどさ・・・」

でもこれだけ執拗に追いかけられるって事は、相手にはそれなりの理由があるって事でしょう?

何かとんでもない犯罪を犯したとか、物凄く恨みを買うような真似したとか?

この人の良さそうな・・・そしてどことなく幸薄そうな彼を見るに、犯罪を犯しそうなタイプには見えないけど・・・・・・世の中なにがあるか分からないしね。

それにしばらくの間とはいえ一緒に旅をしていた人物が、大罪人だとは思いたくないし。

「俺の事よりも、そっちはどうなんだ?」

「・・・どうって?」

「何で『トランの英雄』が、こんな所で1人旅なんてしてる?妙に同盟軍のことを気にしてるみたいだし・・・・・・もしかして同盟軍に参加するつもりか?」

気になる・・・という好奇心丸出しの表情を隠そうともせず、ナッシュは私の顔を覗き込んでくる。

それにやんわりと笑みを返して、彼の額をペシリと一叩きした。

「私の事が聞きたかったら、まず自分のことから話しなさい。自分の事情を隠したまま相手のことだけ聞こうなんて虫が良すぎるよ」

「自分だって、さっき聞こうとしたくせに・・・」

「やかましい」

批難の色を含んだナッシュの視線を軽く無視して、隠れていた茂みからゆっくりと辺りを窺う。―――どうやらガンナーたちは、この辺りにはいないらしい。

それを確認してから、とりあえずホッと安堵の息を吐いて、傍らに座り込んでいるナッシュに手を差し出し彼を引き起こす。

「ともかくあいつらに見つかる前にさっさと行こう」

「行こうったって・・・」

困惑気味に村の外に視線を向けたナッシュ。

リューベの村は、見渡しの良い平原に囲まれている。

旅をするには便利な場所だけど、逃げる方にとっては必ずしもそうとはいえない。

そんなことは言われるまでもなく分かっていた。

私は無言のまま村の中を視線で指す。

まだまだ元の姿には程遠いが、少しづつ復興を遂げてきているリューベの村。

その奥に彼を伴って歩いていく。―――すると外壁に囲われた村の一部に、それがない場所がある。

以前ルカ=ブライトがここを襲撃した際、たちを保護(一部脚色有り)した場所であり、そこからは深い森へと道が続いている。

「ここから行こう。ここを抜けてラダト辺りに出られれば、多分あいつらにバレないだろうから・・・」

「よくもまぁ・・・こんな所知ってるな・・・」

「情報は知っておいて損はないよ。それがどんなに些細なことでも、思わぬ所で役に立ったりするしね」

諭すように言えば、感心したとばかりの相槌が返ってきた。

本当に感心してるのか、それとも呆れてるのかは判断しかねたけれど、その些細な情報が今役に立っているのだから文句などないだろう・・・っていうか、言わせない。

「ほら。のんびりしてないで、さっさと行くよ!」

できるなら日が暮れる前に、森を抜けたい。―――いや、そんなことは不可能なんだけど。

せめて安全な野宿場所を見つけるくらいはしたい。

太陽はもう、真上に差し掛かっていた。

 

 

「ほら、テメェ。痛い目に遭いたくなかったら荷物置いていけ!」

ありがちなセリフを恥ずかしげもなくのたまう男達に、思わずため息が零れた。

一難去ってまた一難。―――どうして騒動は治まる事を知らないのか?

まぁ、一難というにはあまりにも小ぶりすぎるけれども。

目の前で繰り広げられる、良く目にする光景といえばそれまでだが・・・ともかく追いはぎたちを目に、頭を抱える。

最初に言っておくけど、絡まれているのは私でも・・・ましてやナッシュでもない。

絡まれているのは、私とそう歳の違わない・・・もしかしたら年下かもしれないけどっていう部類に入る女の子だった。

動きやすそうな服装に、髪を頭で結わえているどこか素朴な感じがするその女の子は、追いはぎを前にしても年齢の割には落ち着きを見せ、鋭い眼差しでそいつらを睨みつけている。

けれど女の子の手には武器になりそうなものは何もなく、キノコやら木の実の入った大き目の籠を手にぶら下げているだけ。

もちろん追いはぎは剣を持っているし、素手の女の子が対抗できるとは思えない。

というよりも、追いはぎたちはそんな彼女からなにを奪うつもりなんだろうかと思う。

もしかしたら、そこまで深くは考えていないのかもしれない。

「・・・どうする?」

「どうするって・・・」

小声で窺ってくるナッシュを振り返り、肩を竦めて見せる。

本音を言えば、ここでいらぬ騒動に巻き込まれたくなんてない。

どこからガンナーたちが聞きつけてくるか、分かったもんじゃないんだから。

だけど当然の事ながら、いたいけな女の子を見捨てる事も出来なくて・・・。

お互い同じ事を考えていたんだろう。―――目を見合すと、まるで合図したように小さく苦笑した。

「はいはい、そこまで〜」

「お前ら、無抵抗な女の子相手に、情けないと思わないのか?」

揃って木の影から姿を現した私たちに、追いはぎの男たちは驚いたように一歩退いた。

追いはぎたちの数は、えっと・・・3人か。

まぁ、敵にすらなりえない。―――こう見えても、腕には自信がある。

「な、何だお前ら!?」

「何だって言われても・・・。んなこと馬鹿正直に答えるわけないじゃない」

ねぇ?とナッシュに同意を求めれば、当然とばかりに頷き返してくれる。

そんな私たちは、当然のことながら余裕満々で。

それが追いはぎたちに通じたのか。

はたまた私が剣に手をかけるところを目撃したのか。

もしかしたらナッシュの背中にある、大型の2本の剣が驚異に映ったのかもしれない。

追いはぎたちは私たちが追い払うまでもなく、悪態をつきながら森の中へと消えていった。

なんて情けない。

確かにそれは懸命な選択だったと思うけど・・・それにしたって、ねぇ?

ナッシュなんてあからさまに剣を背負ってるけど、実際にそれを使う気なんてなさそうだし。―――ガンナーに追いかけられても使おうとしないんだから、追いはぎ相手に使ったりはしないだろう。

ナッシュについて気になっている事の1つが、その剣にあった。

よっぽど剣に自信があって、だからこそ使わないのか。

それともあれはただの飾りなのか。

もしかしてガンナー相手に、剣を使う必要さえないとか?

それはあまりにも飛躍しすぎていると、苦笑した。

「あ、あのっ!!」

「ああ、怪我はない?」

「はい!ありがとうございました!!」

その女の子・・・―――トモと名乗ったその子は、深々と頭を下げてにっこりと笑った。

うん、なかなか可愛い女の子だ・・・なんてぼんやり思う。

どうしてこんな子が森の中に1人でいるのか気になり聞いてみると、なんでも父親がこの森に棲んでいるらしい。

狩人か何かをしているのかと聞けば、槍を作っているとあっさり返された。

槍を作るのに、どうして森の中に棲むのか疑問を抱いたけど、あえて聞かずに。

彼女はその父親を追ってこの森に来たらしい。

そしてつい先ほど念願の父親と再会し、久しぶりに一緒にご飯を食べようという話になり、その材料を取るために1人で森に入ったそうだ。

「槍を持ってこようかな?とは思ったんですけど、邪魔になりそうだったから・・・」

食材のいっぱい詰まった籠を軽く持ち上げ、はにかむように笑う。

確かにこの状態で槍を持っていても、邪魔になるだけだろう。―――けど、それはあまりにも無防備すぎないか?

きっとそれほど危険のない場所で育ったんだろう。

「あの、助けてもらったお礼って言うのもなんですけど・・・家に来ませんか?」

トモの突然の申し出に、思わず目を丸くする。

「父さんたちも今日は家にいるって言ってたし、もうすぐ日も暮れそうだし・・・泊まってってください!」

泊まってってください!って言われても・・・。

はっきり言って、今の私たちに関わるのはあんまりお勧めできないよ?

もれなく多数のガンナーがついてくる可能性有りだし・・・。

とは言っても、好意で言ってくれてるって事は十分すぎるほど分かるし、この期待に満ちた目で見つめられると断りにくいって言うか・・・。

確かにそろそろ日も暮れそうだし、これから野宿の場所を捜す手間も省けるけども。

トモに気付かれないよう、ナッシュとこっそりアイコンタクトを交わして。

『父さんたちも』って言う言葉が複数形だとか、『今日は家にいる』って言う何となく限定系なその言い回しとか、気にならないわけじゃなかったんだけど。

「じゃあ・・・」

「・・・お世話になります」

そう言うと、トモはにっこりと微笑んだ。

 

 

「クレオさん!?」

「・・・・・・ナナミ・・・」

案内された小屋で、私は何度目かになる奇跡の再会を果たした。

そこにいたのは、いまや同盟軍のリーダーとなったと、その姉ナナミ。そして以前リューベが襲われたときに会った男・ツァイ。

さっき会ったトモは、そのツァイの娘だそうだ。

なんで・・・なんでこんな所で会うかな、私。

世の中は私が思っているよりも、ずっとずっと狭いようだ。

そして驚きはそれだけじゃなかった。

「・・・なんでナッシュさんもいるの?2人って知り合い?」

不思議そうに首を傾げるナナミに思わずナッシュを見れば、困ったように笑顔を浮かべて誤魔化しモードに入っている。

「・・・ナッシュ。いつの間にたちと知り合ったわけ?」

「ミューズでちょっとな。それよりも『クレオ』ってなんだよ?」

「・・・・・・聞かないで」

極細声で会話をし、お互い顔を見合わせる。

そして・・・・・・。

「あはは、お邪魔しま〜す」

「今日の晩御飯はなんですか?美味しそうですね〜」

深く追及しない事にした。

私にしろナッシュにしろ、もうなにがあっても不思議じゃない気がしたからだ。

「これ食べてください。私が作ったんですよ!」

トモに勧められるままに、煮物に手を伸ばす。

「これも食べてみて!あたしが作ったんだけど、結構自信作なんだよね〜」

ナナミが差し出した深い皿に入った何かに、私は手を出す勇気がなかった。―――ので、あっさりナッシュに任せた。

「・・・おい!」

「あ〜、お腹いっぱい!ちょっと散歩でもしてこようかな〜?」

批難の目を向けるナッシュを見てみないフリして、私は慌てて小屋の外へ出る。

っていうか、ナナミには悪いけど・・・あれは食べれない。

見た目はともかく、そこはかとなく漂うヤバ気な匂いと引きつったの顔を見た時点で、食べる気になれない。

小屋の中から聞こえてくるナッシュのうめき声を、やっぱり聞こえないフリして大きく伸びをする。

森の中の空気は少し冷たいけれど、澄んでいてとても気持ちがいい。

こうして1人になるのは久しぶりだと・・・それほど長くナッシュといたわけではないのにそう思う。

そして1人でいることの孤独ももちろんあるが、気楽さももちろんあって。

そんな感傷に浸っていた私の背後に突然気配を感じ、瞬時に振り返った。

「すみません。驚かせてしまいましたか?」

そこにいたのはツァイだった。

以前のような刺々しさや警戒心はない。―――もしかしたらやフリックから、『クレオ』という人物について聞いていたのかもしれない。

私は『』のことを口止めはしたけど、『クレオ』のことは口止めしなかったから、それも十分に有り得る。

「いえ、別に。それよりも何か御用ですか?」

穏やかな表情でこちらを見つめるツァイに、同じようににこやかな笑みを向けて聞き返した。

「ええ、まぁ。・・・回りくどいことはこの際なしにして、単刀直入にお聞きしたいんですけど・・・」

「なんでしょう?」

平然と言葉を返せば、鋭い視線を向けられた。―――そして一言。

「あなたは一体、何者なんですか?」

ぶしつけと言えばぶしつけなその問いに、私は表情を変えずにツァイを見た。

回りくどいことはナシと前置きがあったのだから、それなりのことを聞かれるだろうと思ってはいたけれど。

さて、どう答えたものだろうか?

正直に言う義理はないし、そのつもりもない。

けれど生半可なことではごまかしきれないだろうとも思う。

悩んでいる私に、さらに彼は言葉を続けた。

「ミューズ市に入る際、そしてグリンヒルで、あなたは彼らに力を貸したと聞きました。以前ここでも助けてもらいましたね」

「・・・それほど大した事はしてませんよ」

「そういう問題ではありません」

ピシャリと言い切られ、苦笑する。

「あなたは一体何者で、そして何故同盟軍には入らずに私たちに手を貸すのですか?あなたの目的は一体なんなんです?」

「目的・・・ですか?」

これといって目的と呼べるものは何もない。

ただ事あるごとに再会し、困っている彼らに力を貸しただけのこと。

それほど大したことをしたつもりはないし、気にされるほどでもない。

「私は別に、あなたたちの邪魔になるような事をしたつもりはありませんが?」

「そういう問題でもありません。今敵ではないといって、これからもそうだとは限らないでしょう?」

つまり昔も今も、彼にとって私は信用ならない怪しい人物・・・ということか。

正直言って安心した。

同盟軍の誰も彼もが、やナナミのようにすぐに人を信用する人物ばかりじゃなくて。

でもそう言っても、今現在疑われている身としては少々・・・どころかかなり厄介だ。

どう言い逃れしようか・・・と視線を泳がせたその時。

チラリ、と木々の隙間から光が見えた。

「・・・・・・どうかしましたか?」

訝しげな視線を向けてくるツァイを放置して、さらにそちらへと目を凝らした。

瞬間、心臓が踊る。

サッと辺りを見回せば、暗くてよくは見えないけど切羽詰った表情を浮かべたナギの姿が見える。

とんでもないことになった。

慌ててツァイの方を振り返り、脳裏に浮かんでくる様々な最悪の展開を何とか宥めて、言い聞かせるように口を開いた。

「今すぐ荷物を纏めて、小屋を出てください。あっちの・・・小屋の裏手から山を降りて、すぐに同盟軍に戻って・・・」

「・・・は?あの・・・一体どういう・・・?」

ゴクリと唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

今私たちを襲っている最悪の事態に、思わず痛み出した頭を抑えたくなるのを我慢して。

「・・・逃げてください」

「・・・は?」

できる限り静かな口調で、言った。

「ハイランド軍が、すぐそこまで来てる」

 

 

思いもよらない緊急事態に、全員が固まる。

ハイランド軍襲撃をたちに告げるツァイを横目に、闇と同化したナギから大体の経緯を聞いた。

なんでも同盟軍を討つためにこちらに遠征にきたハイランド軍は、この山に入るの姿を目撃したらしい。

それを止める将たちなど無視して、ルカ=ブライトは奇襲を掛ける事を決定した、と。

あまりにも大人気ない・・・―――とは思いつつも、戦争は勝つことが最優先されるのだ。

ルカが取ったその行動も、批難できない。

「・・・クレオさん」

「大丈夫。大丈夫だから・・・早く行きなさい」

「行きなさいって・・・・・・クレオさんは?」

不安そうな表情のナナミに、安心させるように微笑んで。

「私はここで、彼らを食い止める」

普通に逃げてたんじゃあ、すぐに追いつかれる。―――それほど近い距離に、彼らはいる。

「そんなっ!」

「大丈夫だから。ほら、さっさと行って!ツァイ!!」

強い口調で促せば、ツァイが真剣な面持ちで私を見た。

そして小さく一礼をすると、そのまま嫌がるやナナミを引っ張って森の中に姿を消した。

それを見送って・・・・・・後はこの男だけだ。

やっぱり私の隣にいるナッシュを一瞥して、深いため息を吐く。

「・・・ナッシュも行って」

「お前1人残して行けるわけないだろ?」

当然とばかりに返された言葉に、思わず苦笑した。

その気持ちはすっごく嬉しいんだけどね。

「はっきり言って、足手まとい」

「んなっ!」

「スパイクとか紋章札とか、そんなものでルカ=ブライトを相手にできると思ってるの?まぁ、その背中の獲物を使う気があるなら別だけど・・・」

そう含みを込めて言うと、あからさまに言葉に詰まる。

それほどのものなんだろうか?―――その背中の剣は。

ともかく、時間稼ぎをするなら私1人で十分だ。

その方が動きやすいし、逃げる時も自分の事だけ考えてれば済むんだから。

それに・・・。

「ハルモニアでやらなくちゃいけないことがあるんでしょ?こんな所で命の危険感じてる場合じゃないんじゃない?」

「・・・それは・・・・・・」

「私の事なら心配ない。仮にも『英雄』って呼ばれるくらいなんだし、それに・・・」

喉まで出かかった言葉を飲み込む。

それに・・・死ぬ事は怖くない。

怖いのは・・・そんなことじゃない。

そんなことじゃ、なくて。

「・・・さ、早く行って!そんなに時間ないんだから!」

強固な意思を持って促せば、ナッシュは渋々ながらも私に背を向けた。

彼にとって、どうしても成さなければならない事を成すために。

「さよなら、ナッシュ。またどこかで会えるといいね」

「・・・・・・じゃあな、

空気に溶けそうなほど小さな声で呟いたナッシュの声は、罪悪感と悔しさの入り混じったもので。

そんな必要ないのに・・・彼が罪悪感を感じる必要なんて、どこにもないのに。

闇の中に消えるナッシュの姿を見送って。

私は再び、1人になった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

封神演義に引き続き、これも2話に分けさせていただきました。

本当は次にアップするものと1つだったんですが、ワード文書で16ページは流石にありえないかと思いまして。(笑)

そしてここでナッシュとはお別れです。

こんなところでルカ=ブライトとご対面〜、なんてシャレになりませんからね。(笑)

作成日 2004.4.15

更新日 2008.6.6

 

 

戻る