湧き出てくる憎しみは、いつしか狂気となって。

それを治める方法が、滅びしかないと言うのなら。

だったらいっそのこと、すべて壊してしまえばいい。

 

と光と

 

生きている事に、ふと疑問を持つようになった。

なにをするでもなく、ただぼんやりと毎日を過ごす中で。

どうして私は生きているんだろう?と思うことが増えた気がする。

大切な人を失って、犠牲にして・・・―――父親さえもその手にかけて。

そうして手に入れたすべてのものを、私は人に押し付けて投げ出した。

そして生きている意味を見出せないまま、既に3年の時が過ぎていた。

辛かった。

思い浮かぶのは、大切な人を失う時のことばかりで。

大きな闇に飲み込まれてしまいそうになりながらも、現実にしがみついている自分自身に思わず苦笑した。

戦いたくないと言いながら、それでも戦いの中に身を置いて。

もがき苦しんでいる私は、なんて滑稽なんだろう。

ゆらゆらと揺れる松明の炎が目の前に迫り、森の中から数えるのさえ憂鬱になるくらいの大軍が姿を見せた。

その先頭に佇むのは、白銀の鎧に身を包んだ・・・狂気の光を目に宿した男。

「・・・お前、何者だ?」

さっきツァイに言われたのと同じセリフに思わず笑うと、その男・・・―――ルカ=ブライトは苛立たしげに表情を歪ませる。

「・・・なにがおかしい?」

「別に・・・」

そう言いながらも込み上げてくる笑いに、自分自身呆れた。

張り詰めた空気。―――それは戦いの場にある独特のモノで。

妙に懐かしいその空気に、身体が馴染んでいることを自覚する。

これほどまでに、私は戦うという行為に馴染んでしまったのだろうか。

申し分のない強さを持つ男を前に、血が沸くのを感じる。

はっきり言って、これ以上ないほど絶望的な状況だけど。

ルカ=ブライトだけならまだしも、彼の背後には数え切れないほどの兵と優秀な将がいるのだから。

そのすべてを相手にするなんて、流石にできるとは思わないけど。

だけど、わくわくする。―――それが一番素直な感情だろうか?

「ここに同盟軍の豚どもがいただろう?・・・・・・どこにやった?」

「さぁ?知らないわ」

軽い調子でルカの問いを交わすと、彼はより一層その顔を怒りに歪ませる。

その剥き出しの感情に、なんて自分に素直なんだろうと思う。

寧ろそれは、とても難しい事なのかもしれない。―――少なくとも、今の私には出来ない事だ。

チラリとルカの背後に目をやれば、彼の傍らに佇むジョウイが驚きの表情を浮かべている。

彼も、自分の感情を表に出して生きていけないタイプなんだろう。

彼が選んだ道は、彼自身を痛めつけるだけのもののように思えた。

けれどジョウイはそれを選んだし、きっとそれを選んだ事に後悔なんて感じていないだろう。―――それはおそらく周りの人間だけが感じるものなんだ。

それは私にも覚えのある事。

私はあの戦いで、自分が信じる道をただひたすら歩き続けた。

そこに後悔なんてもちろんないし、同情されるべきこともない。

けれど人は私を見て思う。

『可哀想に』と。『辛かったね』と。

賞賛と憐れみの混じった眼差しで私を見るのだ。

「・・・クレオさん・・・・・・」

私を見て、ジョウイがポツリと呟いた。

それは本当に小さな声だったけれど、間違いなくルカの耳に届いたようで・・・。

「あの小娘を知っているのか!?」

「あ・・・いえ・・・・・・ええ、以前ちょっと・・・」

射るようなルカの視線に耐えかねて、ジョウイが言葉を濁らせながらチラリと私を見た。

その目は、どうしてこんなところにいるのか?と如実に語っていて。

私とジョウイが知り合いだと知ったルカは、どういう知り合いなのかをさらに問い詰めようと口を開く。―――その瞬間。

「少しよろしいですか?」

ルカの言葉を遮って、中年の男の声が割って入ってきた。

今度は何だとそちらを見ればそこには見知った顔があって、思わず驚きに目を見開く。

何でこの男がここに?

突拍子もない男の登場にただ目を丸くしている私に、男・・・―――軍師・レオン=シルバーバーグは静かな口調で呟いた。

「何故お前がここにいる・・・=マクドール」

私の実名がレオンの口から発せられた瞬間、ルカもジョウイも・・・そして他の将たちも呆気に取られたようにこちらに視線を向けた。

私はといえば、『私の知名度ってそんなに高い訳?』なんて場違いな事を考えていたりして。

これはやっぱり本格的に偽名を使った方が無難かな、なんて思ったり。

「「どういうことだ?」」

ルカとジョウイの声が見事に重なった。

結構息が合ってたりするのかな・・・なんて思うが、当人たちは一向に気にした様子もなく、1人冷静な表情で私を見据えているレオンに苛立ちを含んだ目を向けた。

「どういうこと・・・とは?言ったとおりです。彼女が=マクドール。かつての赤月帝国を滅ぼした、『トランの英雄』です」

滅ぼした・・・とは人聞きの悪い。―――まぁ、間違ってはいないけど。

「クレオさんが・・・『=マクドール』?」

隠し切れない戸惑いを向けるジョウイとは裏腹に、ルカは先ほどの不機嫌さを一転、至極楽しそうな表情で私を睨みつけた。

「ほう・・・この小娘が?」

うわ、なんか嫌な言い方。―――彼の考えている事がすぐに解り、思わず顔をしかめる。

「こんな小娘に滅ぼされるようでは・・・赤月帝国も大した事はないな」

予想通りのその言葉に、カチンと来た。

あの戦いでみんながどれほど必死に戦ったか。

国と皇帝を守るために、忠義厚い将軍たちがどれほど散っていったか。

何も解っていないくせに、勝手な事ばっかり言わないでよ。

「・・・私の事をどう言おうが、それはあなたの勝手だけど。でもみんなの事を馬鹿にするなら・・・私はあなたを許さない」

「一人前に吼えるか?その心意気だけは認めてやってもいいがな。所詮ただの小娘がこの俺に歯向かえると思うな」

偉そうにのたまうルカに、小さく口角を上げる。

「それはこっちのセリフだよ。ご希望ならお相手してあげてもいいよ?」

確かにルカは強いけれど・・・それは認めるけど。

私だって負けない自信はある。―――彼1人なら、何とか戦える。

私の言葉に愉快そうに剣を抜くルカを目に映しながら、私も腰の剣に手を伸ばす。

「お待ちください。彼女には聞きたいことがあります」

周囲に漲る殺気を物ともせずに口を挟んだのは、レオン=シルバーバーグだった。

聞きたいこと?―――それに思い当たる事のない私は、少しだけ眉をひそめる。

。お前は何故、同盟軍に入った?」

「・・・別に同盟軍に入ったわけじゃないんだけどね」

あっさりとそう返せば、今度はレオンが眉をひそめた。

「違う?ならば何故同盟軍に味方する。その理由は何だ?」

「何だ・・・って言われてもねぇ・・・」

特に理由があるわけじゃないのだから、答えを求められても答えようがない。

確かにビクトールやフリックを助けたいとは思うけど、はっきり言ってしまえばたちを助ける理由はこれといってない。

知り合いではあるけれど・・・情もないとは言えないけど、こんなヤバイ状態に身を置いてまで助ける理由に思い当たらない。―――冷たいようだけど、それが現実だ。

失ったら悲しいだろうけど、それだけ。

今の私とたちの間には、それだけの接点しかない。

うん・・・だけど、強いて言えば・・・。

「・・・何となく、かな?」

「何となく?」

「そう、何となく。助けたいと思ったから助けた。それじゃあダメ?」

小さく首を傾げると、今まで黙っていたルカが一笑した。

「何となくで自分の命を投げ出そうとは・・・愚か過ぎて言葉もない」

「そうかな?負けない自信があるからの行動なんだけどね」

それは本当。

腕には自信がある。―――それはあの戦いで私が得た、揺るぎないモノの1つ。

「ふん。ほざけ!」

ルカが抜き身の剣を私に突きつけ、それを振り上げる。

それに反応して、私は今度こそ自身の剣を抜いた。

ガキン!という金属のぶつかり合う音と共に、腕に心地良い重さが加わる。

「何だとっ!?」

真近に迫ったルカの顔が、驚きに歪んだ。

ルカの剣に限らず、大抵の男の人の攻撃はとても重い。―――強靭な肉体から繰り出される一撃は、女の私が簡単に受け止められるようなものではない。

そんな私が、ルカの一撃をいともあっさり受け止めた事が、彼には驚きだったらしい。

ニヤリと挑戦的な笑みを向けて、腕に力を入れる。―――彼の身体ごと受け止めていた剣を弾き飛ばし、一定の距離を保って再び剣を構えた。

「・・・貴様」

言うべき言葉が出てこないのか、苛立たし気に歯を噛み締めるルカに、もう一度笑みを向けた。

私の剣には、ある細工が施してある。

左手に宿している旋風の紋章と同じモノを剣にも宿し、インパクトの瞬間にそれを発動させた。―――刀身に薄く張り巡らされた風の壁の風圧を利用して、私の腕に負担が掛からない様・・・そして強烈な一撃を受け止められるようにしてくれる。

力では確実に劣る私が、それでも男たちと対等に戦えているのはこれがあるからだ。

まぁ、これがなくとも戦える自信はあるけど、はっきり言ってルカ相手にはキツイ。

自慢じゃないけど、私はそれほど力がある方じゃないのだ。

「私を見くびった事、後悔させてやるわ!」

今までも、そしてこれからも・・・ルカほど強い相手と戦える機会なんて、そうそう有りはしないだろう。

この時の私は、間違いなくわくわくしていた。

地面を蹴ってルカに向かい、下から薙ぐように剣を振り上げる。

ルカは私の攻撃をいともあっさりと受け止め、押し返すように腕に力を込めた。

それを見計らって後ろに飛び衝撃を最小限に抑えて、剣を合わせたまま体制を低くしてルカの足元を薙ぐように蹴りを入れる。

倒れはしなかったが、確実に体勢を崩したルカに向かい、足元をなぎ払った右足を踏みしめて、左足で彼の胸元へと蹴りを叩きつけた。

「・・・ぐっ!」

「・・・ちっ!」

小さくうめき声をあげたルカを無視して、小さく舌打ちをする。

彼の身に付ける白銀の鎧は見た目どおり分厚く、蹴りくらいでは何のダメージも与えられない。―――蹴り技を強化するためにわざわざかかとのあるブーツを履いているというのに。

せいぜい一時的に相手を怯ませるくらいが関の山だ。

すぐにそう判断して、一歩ルカと距離を取った。

体勢を崩したルカが、それでも剣を繰り出そうとするのを目に映し、それを紙一重で避けながら、口の中で呪文を唱える。―――割り合いすぐに発動可能な『切り裂き』を威嚇のために放ち、次はどうしようかと視線を巡らせたその時、ある光景が目の端に映りその場から素早く飛びのいてルカとの距離をさらに取った。

私が飛びのいた瞬間、先ほどまで立っていた位置に電撃が走る。

体勢を整えたルカから注意を外さずに彼の背後を見れば、グリンヒルで見かけた冷静そうな男が右手を掲げていた。―――彼の右手からは、いまだに軽く電流が放出されている。

予想済みとはいえ、ルカの相手をしつつ他の人間の動向にも注意しなきゃいけないなんて。

はっきり言って歓迎できない。

睨みつけるようにルカとその男を見ていると、当のルカが忌々し気に舌打ちをした。

「これは俺の獲物だ。手を出すな!」

不機嫌を隠そうともせずにそう怒鳴る。―――それは私にとっては好都合だけど、仮にも手助けをしてくれている部下に対してその言い草はどうだろうか?

まぁ、彼の性格を考えれば、それを甘んじて受けるタイプではないけれど。

そんなことよりも、私の方はそろそろ退却する事も考えなければならない。

あれからそれなりの時間が過ぎたし、たちもそろそろハイランド軍の手が届かない所まで逃げられただろう。

たちが十分だと思える距離まで逃げる事が出来たら、ナギが知らせてくれる。

それまではなんとしても時間を稼がないと・・・―――そうじゃないと、今私がここにいる意味がなくなってしまうんだから。

そんなことを頭の隅で考えていた時、森の中で小さく葉の揺れる音がした。―――明らかに人の手で起こされた音だ。

それに気付かれないように視線を巡らせれば、葉の生い茂っている木の上からナギがこちらを見ているのを確認できる。

なかなかに都合の良いタイミングだけど、これで私の目的は達成できた。

ルカとの一騎打ちの機会を逃すのは惜しいけれど、ここで彼を何とかできたとしても、その後彼の率いている兵たちが黙って見逃してはくれないだろう事は火を見るより明らかで。

残念だけど、引き際を見極めないと。

未だに自分の部下を睨みつけているルカから、ゆっくりと距離を取る。

このまま走り出したとして、逃げ切れるだろうか?―――ルカが私を倒す気満々なら逃がしてくれないだろうし、追いかけてこられると難しいだろうな。

そんなことを思っていた時、ルカが距離を取る私に気付いてこちらを睨んだ。

戦闘意欲満々のその殺気に、どうするべきかと思案する。

「ふん。逃げるつもりか?・・・この俺から逃げられると思ってるのか!」

一喝してこちらに向かって掛けてくる。―――振り下ろされる剣を受け止めて、ギリギリと鳴る金属の音を聞きながら、チラリと先ほどの男を見た。

ルカに言い含められたからか、それともそれほど彼に対して忠誠心がないのか、手を出してくる素振りはない。

こうなったらやれるまで相手をするか?

そう思って腕に力を入れたその時、風を切って何かが飛んでくる気配を感じた。―――何かを確認する前に、ルカはそれを手甲に覆われた左手で打ち落とす。

「・・・ナギ!?」

木の上から覗く、闇色の忍服に身を包んだナギ。

それは彼がここにいることを知っている私だけではなく、攻撃を受けたルカも気付いたようで・・・。

「・・・馬鹿がまだいたか」

一笑してその右手から炎を生み出した。―――それはまっすぐナギに向かい、突然の攻撃に反応し切れなかったナギは、かろうじてそれを避ける事は出来たけど、バランスを保つ事が出来ずに地面に落下した。

それと同時にルカは私を弾き飛ばしてナギの方へ向かう。

私の方も予想以上のルカの力に反応しきれず、危うく尻餅をつきそうになったけれどそれを何とか堪えて。

「ナギ!!」

次にナギに視線を向けた時には、彼の目の前にルカが迫っていた時だった。

懐から短刀を取り出し構えるナギの姿に、私は考えるまでもなく2人に向かい駆け出した。

間に合うか?・・・どうか間に合って!!

振り下ろされるルカの剣が、ナギの構える短刀と重なる瞬間。―――微かな隙間に自身の剣を滑り込ませて、地面に突き立てるようにして何とかルカの攻撃を受け止めた。

「・・・くっ!」

重い!―――十分な体勢で受けられなかった為、最初に受けた攻撃よりも数段重く感じる。

このままじゃヤバイ。

未だに体勢を整えられていないナギを庇いながらルカの相手をするなんて、無理だ。

そのまま剣を地面から引き抜いて、地面に倒れ込んだままのナギの腕を掴んで引きずるように足を踏み出した。

けれど隙だらけの私たちをルカが見逃してくれるはずもなく。

「甘いわ!」

下から振り上げられた剣先を何とか身を捻って避ける。―――が無理な体勢からその攻撃を完全に避けきれるはずもなく、一拍をおいて右足に激痛が走った。

「・・・うぁ!!」

小さく声が漏れるのを自覚しつつ、それでも何とかルカから距離を取った。

右足が焼けるように痛い。―――目を向ければ、切り裂かれた右足の太ももから血が溢れでている。

それほど深い傷ではないようだけど、この足でルカの相手をするのは難しい。

力もなく、身体が大きいわけでもない私の最大の武器はスピードなのだ。―――そのスピードが封じられた今、このまま戦う事は得策じゃない。

けれどそれと同じように、逃げるのも難しかった。

まさに八方塞、四面楚歌。―――そんな状態の私たちを見下ろして、ルカは笑う。

「愚かだな。そんな男など放っておけば、俺と対等に戦えていたというのに・・・」

「煩いよ・・・」

返事をするのさえも面倒臭くなって、そうあっさりと言い返すとルカはなおも笑みを深くする。

そして・・・思わぬ言葉を彼は告げた。

と言ったな?お前・・・俺と共に来い」

「・・・は?」

突拍子も無いルカの発言に、この場の状況さえも頭から抜け落ちて、間の抜けた表情で彼の顔を見返した。

「この俺と戦えるほどの実力は認めてやる。俺の右腕となって俺の為に働け」

彼は本気で言っているのだろうか?

チラリと彼の背後を窺えば、彼の部下たちも呆気に取られた表情を浮かべている。

「え〜っと・・・」

どう反応するべきか・・・こんな状態なのにも関わらず、呑気にもルカの顔を見上げた。

斬り付けられた足はズキズキと痛んでいるというのに・・・。

「悪いけど・・・私は戦う術を持たない一般人を虐げる趣味は持ってないの」

剣を再び構えながら、ただルカを睨みつける。―――今の私に出来る事は、これくらいしかなかった。

するとルカは小馬鹿にしたように笑い声を上げて。

「お前の意思は関係ない。俺がそう決めたのだから、お前に拒否権など無いのだ」

そう言い捨てると、部下になにやら指示を出す。―――すると部下たちは少しばかり戸惑った様子を見せながらも、こちらに向かって来た。

私とナギを見比べながらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるルカを見返して、私はもうこれしかないとポケットに手を入れた。

「ナギ・・・私が合図したら走って!」

「・・・殿?」

「分かったわね!」

何か言いた気なナギの言葉を遮って、私は手の中にある小さな球体を思いっきり地面に叩きつけた。

小さな爆発音と共に球体から勢い良く白い煙が噴出し、辺り一面が真っ白に覆われる。

「ナギ!!」

「は・・・はい!」

合図を出して、慌てて立ち上がったナギに支えられるようにして、私も足の痛みを無視して走り出した。

煙の向こうからはルカの怒鳴り声と、兵たちの困惑する声が聞こえてくる。

そんなことお構いなしに、私たちは一目散に山道を走った。

折角ナッシュからもらった煙幕を、こんなに早く使うことになるなんて思ってもみなかったけど。

ちょっともったいないと思いつつ、これで逃げ切れるなら儲けものかと思い直した。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・逃げ切れた・・・かな・・・?」

荒い息を繰り返しながら、辺りの気配を探って何も感じられない事を確認した後、私たちはようやく安堵の息を吐いた。

じくじくと痛む足は、もう限界に達していた。

倒れるようにその場に座り込んで、左手を右足に当てる。―――癒しの風が傷を治していくのを眺めながら、今の自分の姿はなんて情けないんだろうと思う。

隣でナギが申し訳なさそうに俯いていたのに気付いて、大した事じゃないと彼に言い聞かせるように笑った。―――そしてあんな無茶はもうしないでと、言い聞かせる。

ルカは追っては来なかった。―――それは私に追う価値もないと、そう思ったからなのかもしれない。

それに内心複雑な想いを抱きながらも、これでよかったんだと自分に言い聞かせた。

紋章の力のおかげで傷はすぐに治り、それを確認してからそのまま地面に寝転がる。

真近で見たルカ=ブライトの印象は、どこか儚く見えて。

あれだけ力強いルカを見て、その強さがどこか脆いように見えるとはどういうことか?

そんな矛盾した想いを抱きながらも、やっぱり私にはそう見えた。

深い闇に自ら落ちる彼の心境は、一体どんなものなんだろう?

彼をそこまで追い込んだ要因は、一体なんなのか?

「・・・・・・あーあ」

深くため息をついて。

あれだけ自信満々に啖呵を切ったにも関わらずこの状態とは。

そう思うと、さらにため息が込み上げてくるのを感じ、情けなさと苛立ちを押さえ込むように静かに目を閉じた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

わざわざ分けるほどの内容だったのかと言われれば、かなり答えづらいんですが。(笑)

なんとかルカと接触させたいと思い切ったはいいんですが、どうにも収拾がつかなくなった感が・・・。

出来れば笑ってさらりと読んでいただければありがたいです。

そして戦いのシーンもかなり適当です。(私にはあれで精一杯)

剣の風圧やらなんやらもかなりむちゃくちゃ。そんな馬鹿な!って感じで(笑)

作成日 2004.4.15

更新日 2008.6.25

 

 

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