大切なモノはなんですか?

誰かを想う心は、いつしか信念となって・・・。

それは人を動かす、大きな力になる。

 

まごころを

 

「・・・・・・おい」

去っていくの姿を見送っていた私の耳に、ビクトールの不機嫌そうな声が届いた。

恐る恐るビクトールの顔を窺えば、そこには予想通りの表情がある。

ああ、怒ってるな・・・これは。

「なにかな?」

「なにかな?じゃねぇ」

うわっ、話を逸らす事も出来ない。―――これは相当怒ってると見ていいだろう。

まぁ、彼が怒るのも無理はないんだけど。

私は誤魔化すように乾いた笑みを浮かべて、ビクトールに視線を向ける。

「大丈夫よ。もしが逃げても、私がちゃんとシュウに説明するから」

「そういう問題じゃねぇだろ?」

確かにその通りなんですけどね。

だけど私は今自分がした事を、間違った事だとは思っていない。

戦いを望まない者を・・・そして別の道を見つけた者を、戦場に引きとめておくなんておかしいでしょう?

確かにリーダーの責任を放棄するのはいけないことだけど、戦う意思を持たない者をリーダーに据えていても、近い将来きっとその皺寄せは来る。

未来への道は、たくさん選べた方が良いに決まってるんだから。

その中から選んだ道だからこそ、信念を持って突き進めるんじゃないだろうか?

それに・・・。

「確かにがいなくなったら大問題だけど・・・」

「分かってんなら、なんであんな事言ったんだよ」

「だって・・・このままをがんじがらめにして、そしてもし何かとても大切なモノを失ってしまったら・・・―――いつかきっと彼の心が限界に来る」

そしてそうなってしまえば・・・。

その先は言わなくても分かったんだろう。―――ビクトールは黙り込んで、ただ私の顔をみつめていた。

そんな彼を見返して、穏やかな笑みを浮かべる。

「それよりも、ビクトールはここに何しに来たの?」

そういえば、メチャクチャ突然現れたよね。

ここって本拠地と違って簡単に屋根の上に登れないから、普通は誰もここには来ない筈だ。

じゃあなんでビクトールはここにいるの?

そう思っていると、ビクトールは手に持っていたワインとグラスを私に見えるように軽く上げた。

「窓からお前の姿が見えたんでな。一緒に飲もうかと思ってよ・・・」

「ぜひ、ご一緒させてもらえる?」

「ああ、そのつもりだ」

おどけたように言うと、同じような口調で返事が返ってきた。

隣に座ったビクトールからグラスを受け取って、注がれていくワインを眺める。

軽く乾杯して、一口口に含むと爽やかな香りが口の中に広がった。

「・・・なぁ」

結構好みの味に、楽しむようにワインを飲んでいる私にビクトールが声を掛けた。

それに視線だけで返事をして・・・既にカラッポになったグラスに新しくワインを注ぐ。

の奴・・・どうすると思う?」

投げかけられた質問に、私はしばらくの間考え込んで・・・。

「・・・さぁ?」

「さぁ・・・って、オイ!」

「だってそんなの分からないでしょ?私はじゃないんだから・・・」

そう言えば不満そうな視線を返された。

そうですよ、私は無責任な発言をしましたよ。

「俺・・・怒ってんだぞ」

「うん、知ってる」

それはもう、見ただけで分かる。―――だってメチャクチャ怖い顔してるし。

「まぁ、いなくなったらその時に考えればいいじゃない。責任は全部私が持つからさ」

どう責任を取るのかと言われれば、答えられないんだけど。

そう言って笑えば、ため息混じりに恨めしげな視線を向けられる。

「それだけじゃねぇ」

「・・・・・・?」

「俺が怒ってる理由だ」

ビクトールが怒ってる理由って、のことだけじゃないの?

私、他に何かしたっけ?―――思い当たる事がない・・・訳でもないけど。

分からないから、分からないと正直に顔に出すと、ビクトールはもう一度ため息を吐いた。

そしてワインを一気に煽って、ポツリと呟く。

「お前がさっき言った事に関してだ」

「私がさっき言った事・・・?」

「お前が!・・・お前が逃げたって言った事だ」

少し声の音量を抑えるビクトールを見て、ああ・・・あの事かと思い出した。

「だって本当の事でしょ?」

「違うだろ!?」

「違わない」

「違う!!」

・・・・・・なんかこの押し問答、さっきもした気がするんだけど。

そう思うと何となくおかしくなって、思わず笑みを零した。

クスクスと笑う私を見て、ビクトールは眉間に皺を寄せる。

「ごめん。・・・じゃあ聞くけど、あの時の私の行動にどう言葉を付けるの?逃げ出したが一番的確でしょ?」

「違う!あれは・・・」

「あれは?」

「あれは・・・・・・」

口ごもるビクトールをからかうように顔を覗き込む。―――すると少しバツの悪そうな表情を浮かべながら、彼はキッパリと言った。

「あれは、ちょっと気分転換に出てただけだ」

「・・・は?」

気分転換?―――あれが?

まぁ確かに間違ってはないだろうけど・・・ずいぶんと曲解されてるなぁと思う。

やっぱり逃げたって言う単語の方が、しっくり来る気がするんだけど・・・。

そんな事を思っていると、ビクトールは真剣な表情を浮かべて。

「だってお前、戻ってくるつもりだっただろ?」

「・・・・・・え?」

「正気に戻ったら、お前戻って来てただろ?」

強い口調で言い切られて、思わず目を見開いた。

なんてまっすぐな目をしているんだろうと思う。

どうして、この人はこんなにも私を信じてくれているんだろうか?

どうして、こんなに心配してくれるんだろうか?

今はそんな場合じゃないでしょ?―――ビクトール自身だって、大変なんでしょ?

そうは思うけれど、向けられる強い眼差しがとても嬉しくて。

私は再びクスクスと笑みを零すと、ワインを一口飲んだ。

美味しいと思う。―――これまで飲んだ、どのワインよりも。

「ありがとう、ビクトール」

「俺は別になにもしてねぇ・・・」

小さな声でお礼を言えば、そっけない口調で返事が返ってくる。

それにますます笑いが止まらなくなって・・・。

数分後・・・ようやく笑いの収まった私は、ぼんやりと空を眺めて。

そして、思っている事を彼に告げた。

「大丈夫。は逃げないよ」

「・・・どうしてそう思う?」

聞き返されて、しばらく考えた。―――勘とか言ったら、また怒られるかな?

だけどそれ以外に、適切な言葉が見当たらない。

ただ1つ思うことは・・・。

の目の光、まだ強く輝いたままだったから・・・かな」

ついさっきここに現れた時の彼とは全然違う。―――去っていくには、あの弱々しい目はもうない。

再び強く輝き始めた。

それは多くの人を引きつける、希望の光。

「そうか・・・」

私の答えに満足そうに微笑んだビクトールは、ぼんやりと空に輝く月を見上げた。

月は未だ丸くなるには遠い。―――細い薄い線のようなモノがあるだけだ。

「もう言うなよ。逃げたとか・・・」

視線を月に向けたまま、ビクトールが呟く。

それに小さく頷いて、私も同じように月に視線を向けた。

「うん。今度からは気分転換って言う事にするよ」

からかうように言えば、横目でジロリと睨まれて。

だけどビクトール。貴方知らないでしょ?

その言葉で、私がどれだけ救われたか。

「ありがとう、ビクトール」

彼に聞こえないくらい小さな声で、もう一度お礼を言う。

ビクトールはいつも私を救ってくれるから。

だから今度は、私が貴方の力になりたいと・・・そう思う。

どうかビクトールの心の傷が、いつか癒えるように。

すぐ真近に迫っている闇に気付かずに、私はただそれだけを祈っていた。

 

 

翌朝、食堂で朝食を取っていた私の前にが姿を見せた。

昨日までとは違って、さっぱりとした顔をしている。

「これで良かったんだね、?」

そう問えば、ただ穏やかな笑顔だけが返ってきた。

隣に並ぶナナミは、やっぱり心配そうな顔をしていたけれど。

もう大丈夫だと、そう思った。

「よし。じゃあ、一緒に朝ご飯食べよう!」

同盟軍が誰にも知られることなく、新しく一歩を踏み出した瞬間だった。

 

 

事態は急展開を迎えていた。

まずミューズ市長アナベルの補佐官だったジェスが、ネクロードのアジトの情報を仕入れたと、ミューズ兵を率いてティントを出て行った。

その情報がどこまで信用できるものなのか。―――その不安は見事に適中し、散歩に出ていたはずのとナナミが、ティントの廃坑でネクロードと対峙したという。

その際、輝く盾の紋章を発動させたが倒れ、そして慌てる私たちを尻目に大量のゾンビがティント市に侵攻してきて。

私たちは抵抗する間もなく、意識のないをつれてティントを脱出した。

制圧されてしまったティントのすぐ近くにあるクロムの街で、私たちは今後の事に付いて計画の建て直しをする事を余儀なくされた。

「・・・で?」

そんな猫の手も借りたいほど忙しい私たちの前には、見知らぬ男が1人。

黒い服装に身を包んだ怪しい中年の男は、外見とは違いにこやかな笑みを浮かべている。

「初めまして、私はカーンと申します」

カーンと名乗った男に握手を求められて、反射的に手を差し出す。

「というか、どちらさま?」

未だ警戒の色を濃くしたリドリーやクラウスの代わりに、そう尋ねる。―――とカーンではなく隣にいたビクトールが口を開いた。

「こいつはちょっと前に知り合った『吸血鬼ハンター』なんだ」

「吸血鬼ハンター?」

「そうだ。吸血鬼を退治する奴らのことだ」

いや、そんなの説明されなくても分かるけどさ。

吸血鬼を倒そうと思っている人間が他にもいたなんてね。

というよりも、私は吸血鬼ハンターという職業があること自体に驚いたよ。

「それで・・・?」

「私もネクロードを追ってティントに来たんです」

うん、まぁ・・・展開的にそうなんだろうとは思ったけど。

聞くところによると、ネクロードは父や祖父の敵でもあるらしい。―――あいつはどこでも悪事を働いてるんだなと思うと、どっと疲れが込み上げてきた。

それはまぁ、置いておくとして・・・。

「とりあえず貴方には少し休んでいてもらって・・・すぐにティントに侵入する手立てを考えますから」

吸血鬼を倒せる人材も必要だけど、問題はそれだけじゃない。

そういう意味を込めて言うと、カーンは困ったようにビクトールに視線を向けた。

「あのな、。実は俺たちある人物に協力を求めようと思ってるんだ」

「・・・ある人物って?」

「そいつもネクロードを追ってるらしくてな。なんでも吸血鬼の・・・始祖だったか?」

「はい、そうです」

吸血鬼の始祖?

また吸血鬼か・・・とため息を吐く。―――この世には一体何人の吸血鬼がいるんだろう?

そう言えば大分前に会った真の紋章を追っていると言っていた少女も、吸血鬼を捜していたんだっけ?

今まで吸血鬼なんて本の中でしか聞いたことなかったのに、捜せば芋づる式に出てくるもんなんだなぁと思う。

「それでその人はどこにいるの?」

「虎口の村です」

虎口の村か・・・そんなに遠くはないな。

「でだ。お前も一緒に来ないか?」

「は?何で私も一緒に?」

「カーンの話だと、なんだか一筋縄ではいかない相手らしいし・・・お前がいれば案外上手くいくんじゃないかと思ってな」

私は説得係じゃないんだけどね。

「お前なら、口八丁手八丁で相手を丸め込めそうだし・・・」

ついでに言えば、詐欺師でもないんですけどね。

ビクトールは一体、私をどういう目で見てるんだろうか。

「な、行こうぜ」

「でも・・・」

その吸血鬼の始祖という人物にも興味があったし、行きたいとも思ったけど。

さっきも言ったように、私たちは忙しい。―――ハイランドがこの状況に気付く前に、なんとかティントを取り返さないと。

そんな事を考えていると、リドリーとクラウスが「行って来い」と私の背中を押す。

「でも・・・」

「良いから行って来い。こちらは私たちがしておくから」

「そうです。それにビクトールさんたちだけにしたら、どんな無茶をされるか・・・」

クラウスが心配そうな表情でビクトールを見る。

小声で話しているから、ビクトールたちには聞こえていないだろうけど・・・。

クラウスがビクトールをどう認識してるか、よく分かった。―――あながちその認識が間違いではないから、余計に性質が悪い。

「分かった、行って来る」

無茶な事はするなよ、と念を押すリドリーとクラウスを見て、私はこっそりとため息を零した。

 

 

未だ体調の優れないと、彼の側を離れないナナミを置いて、私とビクトールとカーンは一路虎口の村へ。

付いてくると言い張ったには驚いたけど、この後ネクロード戦が控えてるんだからと説得すれば、渋々ながらも納得してくれた。―――その事に少しだけ安堵する。

今の彼にはできる限り無茶な事はさせたくない。

私たちで事が足りるならば、を引っ張りまわす必要もない。

「それで・・・その『始祖』とやらはどこにいるの?」

一日掛けて辿り着いた虎口の村を歩きながら、キョロキョロと辺りを見回す。

ここは一度通った事があるけど、本当に何もない村だと改めて思う。

寂れた・・・という言葉がしっくりとくるその村は、今も沈んだように静まり返っていた。

きっと鉱山が閉鎖してしまう以前は、活気に溢れた街だったんだろう。

あまり豊かな土地には見えないし、農業には不向きなのかもしれない。

とりあえず今はティントの成り立ちなどどうでもいい。―――それはティントの人たちが考える事であって、私たちが心配しても仕方のない事だ。

それよりも・・・できるだけ早く事を終えてクロムに戻りたい。

そう思ってカーンに視線を戻したその時。

「わらわを誰だと思っておるのじゃ!おんしらなど、わらわから見ればひよっこ同然なのじゃぞ!!」

空気を裂くような鋭い声が響いて、思わずそちらに目をやる。

そこには村人数人に取り囲まれた、見たことのある少女が1人。

「あ。あの子って・・・」

「シエラ様!!」

思わぬところで思わぬ人物を見て、呆然としていた私の耳に、カーンの慌てたような声が届いた。

カーンは躊躇いもなくその群集に近づいていく。

「あの人が『始祖』?」

「そうみたいだな・・・」

私の隣でぼんやりとその光景を見守るビクトールの言葉を聞いて、思うことは1つ。

世間は、案外狭いな。

 

 

何で揉めてたのかはさておき。

ようやく騒ぎも治まった頃、シエラの怒りもだいぶ静まり、何とか普通に会話が出来る環境になった。

そこで冷静さを取り戻したシエラの一言が、新たな騒ぎを生んだ。

「ん?おんしではないか?久しいのう・・・」

「ええ、まぁ・・・」

覚えてくれていたことに、少なからず驚く。

ほんの僅かな時間話しただけなのに・・・しかもあんな暗闇の中で、よく顔を覚えていたものだと。

「お前・・・シエラと知り合いだったのか!?」

「ええ、まぁ・・・」

「まさか始祖様と貴女が知り合いだったとは・・・」

「ええ、まぁ・・・」

驚きに声を上げるビクトールとカーンに曖昧に返事を返しながら、改めてシエラを見る。

あの夜とは少し印象が違って見えた。―――昼間だからだろうか?

だけどあの夜の彼女は、もっと静かな感じだった。

どこか哀愁が漂ってたっていうか・・・・・・上手くは説明できないけれど。

「じゃが、おんしとこんな所で再会するとはのう・・・」

しみじみと呟くシエラに、思わず苦笑する。

それはこっちのセリフだと。

確かに吸血鬼を追っていると、彼女は言っていた。―――その吸血鬼が、まさかネクロードのことだとは思わなかったけれど。

「おんし、吸血鬼に知り合いはおらんと言っておらなんだか?」

「うん・・・いないと思ってたんだけどね」

寧ろ、いなかったほうが良かったんだけど。

「ネクロードは倒したと思ってたから・・・。まさか生きてるなんてね」

「なるほど。おんしとわらわの追っている者は同じだったわけだな・・・」

別に追っちゃいないんだけどね。

まぁ放っては置けないから、いずれは追うことになったんだろうけど。

「あの・・・そろそろ本題に入りたいのですが?」

世間話のようなノリで会話する私とシエラの間に、恐る恐るカーンが割って入ってきた。

そうだね、忘れてたよ。

私たちはシエラに協力をお願いに来たんだった。

「という訳だ。お前もネクロードの野郎を追ってるんだろう?」

「・・・なんじゃ、おんしは」

「俺はビクトールだ。俺も奴を追ってる」

一歩前に踏み出して、真剣な表情で話すビクトールを一瞥したシエラは、微かに口角を上げた。

「・・・で?何が言いたい?」

「協力しろ」

主語も何もかもをすっ飛ばして、結論だけを口にする。

瞬間、シエラの表情が人の悪い笑みを浮かべた。

「おんし・・・誰に向かって口を利いておる?」

うわぁ・・・物凄い険悪な雰囲気になってきたかも。

多分ビクトールは焦ってるんだと思う。―――再び自分の前に現れたネクロードに。

今まさに迫ってきている、黒い影に。

早く・・・一刻でも早く、何とかしたくて。

黒いオーラを漂わせ始めたシエラに怯えて口を挟めないカーンを尻目に、私はビクトールとシエラの間に割り込んだ。

「はい、そこまで」

「・・・

「ビクトール。協力して欲しいならちゃんと言わなくちゃ」

言い聞かせるように呟くと、ビクトールはバツが悪そうに眉間に皺を寄せた。―――彼も分かってるんだ。

そう思ったから、それ以上何も言わずにシエラと向かい合う。

「シエラ・・・」

「なんじゃ?」

こちらも不機嫌そうな声色で返事を返してくる。

それを宥めるようにできるだけ柔らかな口調で・・・できるだけ相手の気持ちを逆なでしないように。

「私たちは今、ネクロードと戦ってるの」

「・・・それで?」

「早く何とかしたいと思ってる。それはこの国の為だけじゃなくて・・・」

チラリとビクトールにばれないように視線を向ければ、シエラも同じように彼を見る。

「この国の為だけじゃなく・・・?」

さっき私が言った言葉を小声で繰り返すシエラに向かい、やんわりと微笑み返す。

「絶対にネクロードを倒したい。もう逃がさない・・・逃がしたくない。すべてをここで終わりにしたいの」

それで少しでもビクトールの心が救われるなら。

もう起きてしまったことは取り返せないけれど・・・―――せめて前に進めるように。

彼がいつも私を深い暗闇から救い出してくれるように、私も彼を救いたい。

私に出来る事なら、何でもしてあげたいと思うから。

「だから手を貸して、シエラ。すべての憎しみを、ここで終わらせよう」

それはビクトールだけじゃなくて。

カーンも・・・そしてシエラ、貴女も。

「おんしは・・・」

「・・・・・・?」

「・・・・・・・・・いや、なんでもない」

何かを言いかけて・・・―――けれど途中で言葉を切ったシエラは、呆れたように笑う。

そして面倒臭そうな表情を浮かべると、ゆっくりと手を差し出した。

「分かった。協力してやろう」

その尊大な言い方に、思わず苦笑しながら。

「うん。よろしく、シエラ」

しっかりと彼女の手を取って、少しだけ力を込めて握り返した。

 

 

吸血鬼に打撃を与える事のできる唯一の武器、星辰剣を持つビクトールと。

魂を逃がさないよう結界を張ることのできる、吸血鬼ハンターのカーンと。

そして、吸血鬼の魂を滅ぼす事のできる、吸血鬼の始祖であるシエラと。

これ以上ない戦力が揃った今、ネクロードは絶対に倒してみせる。

そんな新たな誓いを胸に、私たちは急ぎクロムの村へ。

 

すべての憎しみを終わらせよう

その先には、きっと新しい道が広がってるから。

 

 

●おまけ●

「やっぱり、を連れてって正解だったな」

道中、そうのんびりと呟くビクトールを横目に私はため息を零す。

「っていうか・・・・・・もしかしてワザとやった?」

「なにがだ?」

「なにがって・・・シエラを怒らせたこと」

「さぁな」

ひょいと肩を竦めて笑うビクトールに、何となく釈然としないものを感じつつ。

上手くいったんだから、とりあえずは良いかと思い直す。

すべてが終わったら、改めてシエラをたきつけてみるのもいいかもしれないと。

私は心の中でこっそり、そんな事を思った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

シエラ、再登場。

予想以上に長くなってしまったので、ネクロード討伐は次回に持ち越し。

っていうか、余計な話ばっかり挟んでるからだよ、とか思ってみたり。(笑)

作成日 2004.5.6

更新日 2009.4.12

 

 

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