始まりがあれば、終わりがある。

すべての憎しみを終わらせる事ができるのならば。

いつしか・・・その心の傷の癒える日は、必ず来る。

 

復讐の終わり

 

ああ、どうして・・・。

どうしてこんな事になったんだろう?

薄暗い坑道の中を当てもなく歩きながら、そんな事を思う。

私たちは今、ティントに侵入する為に、かの地に繋がっている坑道にいた。

シエラを仲間に加えた後、クロムに戻った私たちは最後の問題であり最大の問題でもあるティント潜入の方法を考えていた。

馬鹿正直に正面から突破する気はない。―――ティントの周りにはネクロードが甦らせた膨大な数のゾンビがたむろしているのだから。

もちろんクロムにだって兵士はいる。

ティントを脱出する際に数が減ってしまっているとはいえ、私たちが連れてきた兵士やティントの兵士たちのほとんどが無事だ。

けれど、彼らを使ってゾンビと対決!・・・は出来るだけ避けたい。

相手はゾンビなのだ。―――戦っても戦っても疲れる事を知らず、斬っても斬っても倒れる事はない。

そんなゾンビを相手に戦えばどうなるか?

結果は火を見るより明らかだ。―――最後はこちらの体力がつきてしまう。

だから出来れば少数精鋭。

それも出来るだけ安全な場所を通って行きたい。

そこで目を付けたのが、今は閉鎖されている坑道だった。

所々崩れているところもあるという話だったけど、確実にティントに繋がっているとの事だったので・・・まぁ、ネクロードが何か罠を仕掛けている可能性もあったけれど、それ以外に道はなく。

そして私たちは、坑道を通ってティントに潜入する事に決めた。

決めた・・・のは良いんだけども。

予想通り、ネクロードの罠がそこにはあった。

そりゃあもう、『あんた私たちを馬鹿にしてるの?』的な馬鹿馬鹿しい罠もあれば、突然ゴーレムが襲ってくるというはた迷惑なものまでいろいろ。

そして・・・―――そんな罠を何とか乗り越えながら坑道を歩いているうちに・・・。

ー!どこぉ!?」

「ちょ!ナナミ!こんな所で大声出さないでよ!!」

「だって・・・」

恨めしげな視線を向けてくるナナミを宥めながら、彼女に気付かれないように小さくため息を吐く。

まぁ、簡潔にいうならば。

はぐれちゃったんだけどね、みんなと。

私の隣には、不安気な表情で辺りを見回すナナミ。

ビクトールとかとかシエラとかカーンとかがどうなったのかは分からない。

無事でいてくれることを願いつつ、取り合えずこの状況を何とかしないと。

ナナミの心配も分からないでもなかった。

言ってしまえば、は病み上がりも同然で・・・―――すっかり体力は回復したように見えたから一緒に連れて来たんだけど、やっぱり心配な事に変わりはない。

というか、ナナミはいつでものことが心配なんだろうけど。

そんな彼女が、過保護で心配性なある男を思い出させる。

きっと彼も今ごろは心配してるんだろうか・・・。―――うん、してるんだろうな。

心配される側としては、大丈夫だから!とか思う時もあるんだけど・・・―――やっぱりこうして自分のことを心配してくれる人がいるというのは、嬉しいものだ。

私にとってグレミオがいるように、にもそういう人物がいて良かったと思う。

まぁ、今の時点で言えば、厄介な事に違いないんだけど。

「とりあえず先に進もう。こんな所で立ち止まってても仕方ないし・・・」

一心不乱に暗闇に目を凝らすナナミの背中に声を掛けると、ナナミは驚いたようにこちらを振り返った。

「えぇ!?なんで!たちを置いてくの!?」

「・・・もうこの辺にはいないよ」

「そんなの分かんないじゃない!!」

いや・・・これだけ呼んで返事がないんだから。

涙を浮かべながら抗議するナナミを見て、今度は隠す事もせずにため息を零した。

「ナナミ、きっとたちもティントに向かってる。そういう計画だったんだし、現状を考えたら、きっとみんなもそうする」

「・・・・・・」

「だから私たちも行こう。ここでぼんやりしてたって、には会えないよ?」

「・・・・・・でも」

なおも言葉を続けようとするナナミの言葉を遮って、彼女の名前を呼ぶ。

そして穏やかな笑みを浮かべると、彼女を安心させるように出来るだけ揺るぎない口調で呟いた。

「それに・・・ここでぼんやりしてて、先にティントについたたちが私たちのいない間にネクロードと戦ってるなんて嫌でしょ?」

「それは嫌!」

即答するナナミに、さらに微笑みかける。

「なら行こう。もうちょっとのこと、信じてあげなさい」

「・・・うん・・・・・・」

ナナミはを信じていないわけではないのだ。―――それは分かっている。

ただ心配なだけ。

それは私にも覚えのある想いだったから、さっきの言葉はもしかしたら自分に言い聞かせた言葉なのかもしれない。

やっぱりまだ不安気だったけれど、一応は納得したのか私の後に付いて歩き出したナナミを目の端に映しながら、薄暗い坑道を歩く。

それにしても薄気味悪いところだと、改めて思う。

もう閉鎖されている場所だから、もちろん坑道内の松明の炎は灯っていない。―――頼りになるのは手の中にある微かな炎だけだ。

それもどこからか吹きぬける風にユラユラと揺れて・・・―――時々自分の影が不規則に動くのを見て、思わず息を呑んだ。

こんな所でゾンビに会うのだけは、勘弁してもらいたい。

「ねえ、さん・・・」

不意にナナミに声を掛けられて、出来る限り辺りから注意を外さずに視線だけで背後を見る。―――ナナミは俯いたまま・・・時々炎に映し出されるその表情はどこか翳りを見せていた。

「どうしたの?」

暗い気分を吹き飛ばすように明るい声で返事を返せば、ナナミはいつもとは違い歯切れの悪い口調でただ1つ頷く。

「私・・・ね。ティントが落ちる前に、に言ったの」

「何を?」

「逃げよう、って・・・」

狭い坑道の中に、ナナミの静かな声だけが響く。

それをただぼんやりと聞き流して、私は1つ相槌を打った。

「私・・・の辛そうな顔、見たくなかった。何でが戦わなくちゃいけないのって思った。何でが・・・・・・ジョウイと戦わなくちゃいけないのって」

「・・・・・・うん」

とジョウイが戦うの、見たくなかった。何でジョウイはハイランドにいるのかな?それはよく分からないけど・・・」

「・・・・・・」

「でも、が同盟軍のリーダーじゃなくなったら、ジョウイと戦わなくてもいいんじゃないかって思ったの」

チラリとナナミに目を向けて・・・そして微かに微笑む。

優しい子だな、と。

だからこそ、より一層苦しんでいるのだと・・・そう思った。

何よりもとジョウイが大切で・・・―――きっとナナミは、自分よりも彼らの幸せを願うのだろう。

だけど・・・だからこそ、危ういと思った。

いつかそんな思いが、彼女にとって命取りになりはしないかと。

が同盟軍のリーダーじゃなくなったら、いつか昔みたいにジョウイと一緒にいられるんじゃないかって思ったの。でも・・・」

言葉を切って黙り込んだナナミは、ゆっくりと顔を上げて。

「でも・・・は『逃げない』って言った」

「・・・・・・」

は、『それは出来ない』って・・・」

「ナナミ・・・」

「分かってたの。・・・分かってた。がそう言うだろうって。分かってて、困らせるような事言ったの」

私はナナミにどう声を掛けて良いのか分からなかった。

きっと私は、そういう想いを抱かせる側だったから。

心配してくれてると分かってても、それに応えることが出来なかったから。

やっぱりナナミは、一緒に逃げて欲しかったんだろうな。

きっと逃げても後悔する事になるだろうけど・・・―――それでも。

黙り込んだ私をおずおずと見上げて、ナナミは怒られる前の子供のような目で私を見る。

「・・・怒った?」

言われた言葉の意味が分からず首を傾げると、ナナミはそっと視線を逸らして。

「だって・・・私はみんなの事なんて考えずに、逃げようって言ったから・・・」

呟かれた言葉に、思わず笑みが零れる。

それを不思議そうに見上げているナナミに視線を向けて、やんわりと微笑んだ。

「怒ってないわよ」

「ほんとに?」

聞き返すナナミにしっかりと頷くと、ホッとしたような表情を浮かべた。

誰に言わなくても、きっと罪悪感を背負っていたんだろう。

がね、言ってたの」

「・・・何を?」

さんの事。さんの笑顔を見ると、ホッとするって・・・」

「・・・・・・?」

「何となく、分かった気がする」

1人納得するナナミに首を傾げながら。

エヘへと笑う彼女の笑顔を見て、言うつもりはないんだろうと悟った。

よく意味は分からなかったけれど、誉められているようだという事は分かったので、それ以上追及しない事にする。

少しだけ元気を取り戻したナナミに微笑みかけて、視線だけで道の先を示す。

示す道の先には、明るい光が差し込んでいた。

出口だ。―――この先に、ティントがある。

「行くよ、ナナミ」

「うん!!」

力強く返事をするナナミと共に、いざ決戦の地へ。

 

 

坑道の中とは違い光に溢れたそこは、けれど坑道の中と同じ静寂に包まれていた。

ここはどの辺りなんだろうか?

ティント市の中だということは分かるが、あまり街の地理に詳しくないため厳密な位置は分からない。

物陰に隠れて辺りを窺えば、そこかしこにゾンビの姿が見える。

ビクトールたちの姿はなかった。―――既にここに辿り着いてネクロードと対峙しているのか、それともまだここに着いていないのか。

すべての街の人たちは脱出していて、この地を支配するのは物言わぬゾンビのみ。

異様に静かなそこは、以前のティントと同じとは思えなかった。

「とりあえず、ネクロードがどこにいるかを調べないと・・・」

「うん。どこにいるんだろう?」

彼の性格から考えて、一般市民の家に棲み付いてることは考えにくい。

ならばグスタフの家か?―――あそこは広いし、置いてある調度品も高価な物が多いからそうかもしれない。

後は・・・と辺りを見回していると、ある建物が目に入った。

グスタフの家よりも、さらに高い場所に建てられた大きな建物。

あれは何だったかな?

兵舎?―――そうだ、たしか兵舎代わりに使わせてもらってたんだ。

クラウスが言ってたな、どこかを兵舎として使わせてもらうって。

どこだったかな・・・・・・えっと・・・。

「・・・・・・教会」

「え?」

そうだ、教会だ。

ゆっくりと立ち上がって、腰の剣を抜く。

さん?」

戸惑ったようなナナミの声に反応して、彼女の方を振り返る。

「行くよ」

「行くって・・・あそこに?」

「そう。ネクロードは教会にいる」

妙な確信が、私の中にはあった。

それはもしかしたら、ネクロードの持つシエラの紋章が知らせているのかもしれない。

ネクロードの持つ真の紋章が、ソウル・イーターにそれを感じさせているのかも。

「強行突破よ!」

「ちょっ!さん!?」

こちらに気付いたゾンビたちを薙ぎ払いながら、私は教会目指して駆け出した。

 

 

厳かな雰囲気を漂わせる、静かな教会の中。

ステンドグラスを通して床に落ちた色とりどりの光たちを眺めながら、綺麗だとぼんやりと思う。

教会の中に、ネクロードはいた。

響いた足音に気付いたネクロードが振り返る。

「・・・おやおや」

ニヤリと歪む口元を目に映しながら、私はネクロードを睨みつけた。

「どこかで見たことがあると思えば・・・トランの英雄殿ではないですか」

言われた言葉に吐き気さえ覚える。―――英雄なんて、彼に言われても不快なだけだった。

「その子を放しなさい」

ネクロードの側には、幼い少女が1人。

どこかで見たことがある。―――そうだ、あの子はグスタフの娘だ。

行方不明になったと騒ぐグスタフの不安気な表情が脳裏に甦り、さらにきつくネクロードを睨みつけた。

「それは出来ませんね。この子は私の花嫁の1人なんですから・・・」

「うわっ!ロリコン!?そこまで行くと、好みの問題というよりも寧ろ変態・・・」

「放っといてください」

涼しい顔であっさりと開き直る。

恥ずかしさも、どこかに捨ててきた模様。

というか『花嫁の1人』ってなんだよ。

普通花嫁は1人でしょ!?―――前も思ったけど、なんて男だこいつは!

違った意味でふつふつと込み上げてきた怒りを何とか抑えながら、さてどうしようかと今さらながらに考える。

ネクロードには、普通の武器での攻撃は通用しない。

それは紋章での攻撃も同じ事。―――つまり、今の私には彼と戦う事が出来ないということ。

それが分かってて・・・尚且つ踏み込んできた私もどうかと思うけれど、未だに現れないビクトールたちもいかがなものか?

ソウル・イーターなら、もしかしたら何とかなるかもしれない。

そう思っても、ソウル・イーターを使う気にはなれなかった。

使いたくない。―――できれば、一生涯。

言葉には出さないけれど、助けを求めるリリィの視線を受け止めて。

まだ幼いというのに、ここで泣き出さないのは凄いと思った。

「いいから、その子を放しなさい」

「お断りします」

「そこを何とか・・・」

何故私が頭を下げてるのか?

どことなく釈然としないものを感じつつ、けれど人質はいないに越した事はないと、何とか自分を納得させる。

すると私を見ていたネクロードが、再び厭らしい笑みを浮かべた。

「ならば、こうしましょう」

「・・・・・・なに?」

嫌な予感がひしひしと押し寄せ、思わず一歩退いた私の耳に、聞き間違いであって欲しいと祈りたくなるような言葉が届いた。

「この子は解放してあげましょう。けれど貴女と引き換えです」

うわぁ、最悪。

「以前お会いした時から思っていたんですよ。貴女はとても私好みだと・・・」

そんなに前から目を付けられてたのか、私。

「けれど貴女はウィンディ様に楯突いていたから・・・。仕方なく諦めたんですよ?」

いや、『よ?』とか言われても。

今になって、ウィンディの存在がありがたく思える。

むちゃくちゃ不本意極まりないんだけども。

何でネクロード道連れにしてくれなかったかな、ウィンディ。

「さあ、どうします?」

こちらの葛藤なんて気にも止めず、結論を迫るネクロード。

はっきり言って嫌だ。

究極の選択以外の何者でもない。―――他の選択肢があれば、迷わずそっちを選ぶだろう。

だけど・・・・・・だけど。

リリィの口が、微かに『助けて』と動いた。

それを目に映して・・・・・・大きくため息を吐き出して、私は小さく頷いた。

彼女が人質になっているよりは、私が人質になっているほうがマシだろう。

もしネクロードに吸血鬼にされたら、ビクトールを恨んでやる。

どこで油売ってるのよ、ビクトール!

心の中で毒づきながら、こちらに伸びるネクロードの手を睨みつけていた。

!!」

ネクロードの手が私の腕を掴む瞬間、教会内に私を呼ぶ声が響いた。―――それと同時に力強い手が勢い良く私の腕を引いて。

「は?え!?」

とっさに何が起きたのかが分からず、間の抜けた声を上げる。

目の前に、誰かの背中があった。

「テメェ・・・ここで会ったが百年目だ!」

「おやおや、また貴方ですか・・・」

聞き慣れた声と、呆れたようなネクロードの声。

思わず目の前にある背中の服を握る。

「ビクトール・・・?」

それはビクトールだった。

私を庇うように立って・・・さっきまで目の前にあったネクロードの姿は、今の私からは見えない。

ただ目の前に広がる、大きな背中。

ホッとした。―――無性に安心して、服を握り締める。

その間にもネクロードとビクトールの馬鹿馬鹿しい(というか漫才みたいな)言い争いは続いていて・・・けれどさっき1人でいた時とは比べ物にならないほどの余裕が、今の私にはあった。

ふとビクトールの腰に差してある星辰剣と目が合う。

『あまり無茶なことはするな』

「心配してくれたの?」

『この馬鹿の言葉を代弁しただけだ』

あっさりとそう言われ、再びビクトールの背中に視線を戻す。

きっと後で山ほど怒られるんだろうな・・・なんて思いながら。

でもそれも悪くないかもしれない。―――きっとその時には・・・。

そんなことを考えていた時、不意に辺りが張り詰めたような空気に変わった。

視線を巡らせれば、ネクロードの足元に大きな魔方陣のようなものが浮き出ている。

「我が家の吸血鬼ハンターの秘術、その身でとくと味わえ!」

直後、背後から声が響いた。

そこにはカーンが不敵な笑みを浮かべて立っている。―――どうやらこの魔方陣が、ネクロードの魂を逃がさないための術らしい。

ネクロードの様子を見れば、どうやらその効果は抜群のようで。

私は心の中で、ひっそりとカーンに謝罪した。

胡散臭いとか思っててごめんなさい。

ほんとにそんな事できるのかと思っててごめんなさい。

逃げられない事に気付いたネクロードが、右手を掲げる。―――その手の甲には、見慣れない紋章が浮き上がっていた。

「おのれぇ!・・・こんな所で潰えて溜まるか!私は永遠を生きるのだ!!」

「・・・・・・っ!?」

「百万の血と・・・」

「我が月の紋章よ。その忌まわしき力を封じ、しばし眠りにつけ!」

何か呪文のようなものを唱え始めたネクロードの声を遮るように、凛とした少女の声が響く。

少女の声に反応するように、その紋章は活動を停止した。

「シエラ・・・」

振り向いた先には、不機嫌そうなシエラの姿がある。

シエラはネクロードの側に近寄ると、半ば脅し気味な口調で彼女の紋章『月の紋章』をその手に取り戻した。

「さぁてと、年貢の納め時だな・・・ネクロード!」

ビクトールが星辰剣を抜いて、構える。

既に逃げ道がないネクロードを睨みつけて、剣を振り上げた。

今度こそ。

「ぎゃあああああああ!!」

耳を貫くような絶叫を上げて、ネクロードは灰となり風に流されて消えた。

シエラが何かを呟くと、未だそこに残っていたネクロードの気配も掻き消える。

今度こそ、本当に。

「・・・やったか」

長きに渡る因縁は・・・続いていた憎しみは、静かに幕を閉じた。

 

 

その後、解放されたティントに街の人たちが戻ってきた。

再び活気の戻った街を眺め、無意識に頬が緩む。

偽の情報に踊らされたジェスも、ミューズの優秀な将であるハウザーと共に無事帰還した。

そして・・・と彼の間にあった誤解も、ようやく解けたようだ。

少しの間とはいえ、ゾンビに支配されていた街の復興は少し時間が掛かるけれど、もう大丈夫だろう。

そんな事を思いながら、私は街で購入したワインを手にお世話になっているグスタフの屋敷の中を歩き回っていた。

キョロキョロと辺りを見回しながら・・・―――目的の人物の姿を見つけ、小さく微笑む。

「珍しいね。ビクトールがこんなところにいるなんて・・・」

屋根の上に這い上がり彼の背中にそう声を掛けると、ビクトールはゆっくりと振り返った。

「おう、どうした?」

彼の言葉に答える代わりに、先ほど購入したワインを見せる。

「お、いいねぇ・・・」

ふと見せた笑顔に微笑み返して、ビクトールの隣に腰を下ろした。

まだティントが落とされる前、同じように屋根の上で呑んだワイン。―――それと同じ物を、再びこうしてのんびりと呑む。

あの時とは違う。―――けれど心が穏やかなのは変わらない。

やっぱり美味しいと思った。

それは決してワインだけの力じゃなくて・・・。

「やっと・・・」

ポツリと呟くビクトールの声に視線を向ければ、彼は真剣な面持ちでまっすぐ前を向いていた。

「やっと・・・やっとネクロードの野郎を・・・・・・」

「・・・・・・うん」

搾り出すような声に、私はただ返事を返した。

もしかしたら、1人にしておいてあげた方が良いのかもしれないと思ったけれど。

その方が良いのかもしれないと、そう思ったけれど。

何となく、彼を1人にしたくなくて・・・。

チラリとこちらを見るビクトールに、何も言わずにやんわりと微笑む。

するとビクトールは一瞬目を見開いて・・・そして同じように微笑んだ。

やっぱり、来て良かったと思う。

ビクトールの笑顔を見て、そう思った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

とうとうビクトールVSネクロード、因縁の対決に終止符が打たれました。(意外にあっさり)

もうちょっとシエラとか活躍させたかったな・・・とか思いつつ。

途中、ちょっと少女漫画チックな雰囲気になっちゃいましたけど。(笑)

次は順番でいけばグリンヒル奪還なんですが、その前にちょこっとわき道に逸れたいと思います。

色々と絡みたい人もたくさんいますしね。

作成日 2004.5.8

更新日 2009.5.10

 

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