相反する心の狭間で、一体何を思う?

いまだ定まらない想いを抱えて、どこに向かう?

変革の時は・・・・・・もうすぐ。

 

つの心

 

何をするでもなくベットの上に寝転びながら、今はもう見慣れてしまった天井をぼんやりと見つめていた。

いつも通り開けられている窓からは、過ごしやすい暖かい風が舞い込み、私の頬を撫でると再び窓の外へと吹き抜けていく。

天井の染みも、窓の外から聞こえてくる子供たちの声も、今私が寝転がっているベットさえもすべて私には馴染みのあるモノで・・・。

そう・・・私は今、バナーの村にいた。

ノースウィンドウで見たことすべてを、私に娘の救出を依頼した夫婦に説明した後、絶望する2人に謝罪の言葉を述べてその足でここへ帰ってきた。

ネクロードが生きてたこととか、ビクトールが受けただろうショックとか、いろいろ混ざり合って頭の中がぐちゃぐちゃになって。

少し落ち着きたいと思った。

だけどあの周辺にいたんじゃあ落ち着けないと思ったから・・・―――だからグレミオに怒られるのを承知でここに戻った。

もうそろそろ一度戻ろうと思ってたからちょうど良い・・・なんて思いながら。

それから私は、特に何をするでもなく毎日を過ごしている。

今みたいにぼんやりとしたり、村の裏手にある釣り場で釣をしたり。

こうしていると、以前と何ら変わっていない気がした。

リューベの村で、ルカ=ブライトを目撃したことも。

白鹿亭でたちと宝捜しをしたり、謎の少女に会ったり。

ミューズでビクトールの存在を近くで感じ、そこで会った騎士と意気投合したこととか。

燃える街を見て、思ったいろいろな事とか。

そういえばタイ・ホーやヤム・クーにも会ったし、シーナもチラッと見かけた。

それからノースウィンドウで甦った悪夢。

そのすべてが、まるで夢だったみたい。

あれだけ憤りややるせなさを嫌というほど感じたというのに、今となってはそれさえも現実ではないようで。

だってここは平和だから・・・―――まるであそこであった事がすべて夢だったと思えるくらい、平和だから。

「お嬢〜!!」

不意に窓の外から呼ぶ声が聞こえて、重い身体を起こして窓際に向かう。

そこから顔を覗かせると、階下で子供を背中に背負ったグレミオが満面の笑みでこちらを見ていた。

「・・・どうしたの?」

「今子供たちと一緒に遊んでいるんです!お嬢も一緒にどうですか!?」

「・・・ふふ、どうしようかな?」

無邪気に駆け回る子供たちと、そんな子供たちに翻弄されているグレミオを見て、自然に笑みが込み上げてくる。

そして思う。―――いくらここから見える光景が平和でも、私が体験した事は決して夢じゃなかったと。

都市同盟の領地ではないといっても、ごく近い場所にあるこの村には、自然といろいろな噂が舞い込んでくる。

噂では新同盟軍が立ったという。

その新同盟軍のリーダーは、まだ幼さを残した少年で。

その少年の右手には、かつて都市同盟を救った英雄である『ゲンカク』と同じ『白き盾の紋章』が宿っているという。

攻め込んできたハイランド軍を少数で返り討ちにし、トゥリバー市を落とそうと画策した一軍を相手に見事勝利したと・・・―――既にトゥリバー市を味方につけ、その勢力を徐々に広げていっているらしい。

ナギの報告によると、同盟軍にはあのマッシュの弟子が軍師としてその任についており、その他にも有能な将が続々と集結しているとの事。

私の想いとは裏腹に、戦いはもう止められないところまで進んでしまっていた。―――いや、もう最初から止める事なんて出来なかったのかもしれない。

あの狭い土地で、私が生まれるずっと昔から領土争いを繰り広げてきた両国。

いつかは本格的な戦いになる事は、明白だった。―――それはどちらかの国が滅びるまで終わらない。

「お嬢〜!一緒に遊びましょうよ!!」

「そうだよ、遊ぼ!!」

グレミオと一緒になって声を上げる子供に向かいにっこりと微笑んで、乗り出していた窓の縁から部屋の中に戻って、その場に座り込んだ。

ひんやりとした感触が、お尻に広がる。

それさえも気にせずに、壁に背中を預けて再び天井を見上げてため息を吐いた。

どうすればいい?

私はこれから、何をすればいい?

答えを出さなくてはいけない。―――いつまでもこんな風に、ぼんやりとしたままじゃダメ。

ちゃんと納得の出来る決断を下して、動き出さなくちゃ。

だけど考えれば考えるだけ、悩めば悩むだけ、答えはどんどん遠くなっていく気がして。

ビクトールやフリックが戦っている。

それをそのまま見なかったフリするなんて、出来ない。

彼らが私を助けてくれていたように、今度は私が彼らを助けてあげたい。

だけど、もうこれ以上戦いたくないのも本当で。

これ以上、人の命を奪いたくはない。

それは綺麗事なんだって、自分でもよく分かってるけど。

このご時世で、例え戦争に参加しなくても人の命を奪わなくちゃいけない状況はきっとたくさんある。

私の抱えてる事情を見れば、それは明白だ。

ただ私は怖いだけ。―――また大切な誰かを失うかもしれない事が。

ただ私は・・・臆病なだけなんだ。

だけどちゃんと分かってる。―――例え私がこの戦いに身を投じなくても、大切な人が戦いに身を投じている以上、失う確立も同じだって事。

だけど・・・それでも思い切れない。

やるべき事、そうしたいと思っていることはわかっているのに、それでも最初の一歩が踏み出せない。

「ほんと・・・情けない・・・」

ポツリと呟いた声は掠れていて、それがさらに情けなさを増幅させた。

 

 

真夜中。

他の家の住人は既に眠りについているようで、明かりが灯っている部屋はどうやら私の部屋だけのようだ。

そんな妙に眩しい部屋の中で、私は自身の剣をテーブルの上に置いて、それを何をするでもなくジッと見つめていた。

静まり返った部屋の中で、自分の呼吸の音だけが耳に届く。

―――と、その呼吸の音に混じって、微かに耳をつくような音が部屋の中に響いた。

ゆっくりと顔を上げれば、ちょうどドアの入り口付近に淡い光の球が浮いている。

それは少しづつ大きさを増していき、すぐ後に弾けるような光を放って・・・―――次の瞬間にはそこに儚げな女性が佇んでいた。

それは私にとってはとても見慣れた光景で。

やっぱり来たか・・・と心の中でひっそりと思う。

もうそろそろ来る頃じゃないかと、思ってたんだよね。

「こんばんは、レックナート。ご機嫌いかが?」

おどけた口調で声をかけると、にっこりと笑みを返してくれる。

「こんばんは、。・・・・・・お邪魔しても?」

「ええ、どうぞ」

テーブルの上に置いてあった剣を脇に寄せて、お茶の準備を済ませると、淹れたての熱いお茶を彼女の前に差し出した。

軽く礼を述べてお茶に口をつけるレックナートを見つめながら・・・ふと顔を上げた彼女と目が合い、にっこりと笑みを向ける。

「・・・ずいぶんと機嫌が良いようですね?」

「そうかな?うん・・・・・・そうかも・・・」

曖昧に返事を返して、私も自分で淹れたお茶を一口飲む。―――胸の中に広がる熱さを心地よく思いながら、傍らに寄せた剣に視線を向ける。

同じように剣に目を向けたレックナートは、少しばかり表情を暗くして。

「・・・まだ、迷っているのですか?」

静かな・・・静かな口調でそう呟いた。

うん、そうだね。

レックナートが最初にここに来て『宿星が集う』って教えてくれた時からずいぶん経ったっていうのに・・・私はいまだ迷ってばかりだ。

「ねぇ、レックナート。人は弱いね・・・」

「・・・・・・?」

「やるべき事が分かってるのに、思い切れないなんて・・・。これ以上悩む必要なんてないのにね?」

自嘲気味に笑うと、苦笑が返ってくる。

きっと彼女は、長い時の中で私のような人間を数多く見てきたんだろう。

導く者として・・・見守るものとして・・・そんな人間をずっと見てきたんだろう。

「レックナート・・・私ね・・・」

「・・・なんですか?」

穏やかな雰囲気の中。―――私はレックナートから視線を逸らして、手に持ったコップに目を向けた。

ゆらゆらと揺れる琥珀色の液体。

ランプの光を反射して、キラキラと光るそれを見つめながら。

「正直言って、私はまだ答えを出せてないと思う」

「・・・・・・」

「それでも・・・もう逃げられないとも思うんだ」

きっとここで逃げたとしても、私の心は楽にはならない。

ビクトールやフリック、たちのことが気になって・・・きっと後悔するだろう。

だから・・・せめて後悔だけはしたくないから。

「私・・・もう一度都市同盟に行くよ」

「・・・そうですか」

「行ってどうするかはまだ決めてないけど・・・・・・でも、まあ何とかなるんじゃないかなって気もする」

私の言葉に、レックナートはクスクスと笑みを零した。

彼女が何を望んでいるのか?

私をたきつけて、どうしようというのか?―――それは未だに分からないけれど。

「これで・・・あなたの満足のいく答えになったかな?」

そう尋ねると、彼女は何も言わずにただにっこりと微笑んだ。

そう。―――まずは動き出さなくちゃ。

そうでなくちゃ、何も始まらない。

例えこの先、何が起こるか分からなくても。

いつまでもうだうだしてたって、何も変わらないから。

「さてと・・・今度はどうグレミオに言い訳しようかな・・・?」

今度もグレミオを連れて行くつもりは、私にはない。

せめて私の心が決まるまで・・・安全なところで穏やかに暮らして欲しいと思うから。

きっとそう言ったら『お嬢が心配で穏やかどころじゃありませんよ!』なんて言葉が返って来るんだろうけど・・・。

現実的過ぎるその予想に、堪えきれずに噴出した。

部屋の中に響く2つの笑い声は、ひっそりと夜の闇にまぎれて。

けれど私の心は、既に新しい道を歩き出していた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

の心の葛藤。

そしてレックナート再び。

暗いどころか意味不明。でも結構こういう感じ好きだったり・・・(救えない)

次はようやくあの人との再会です!

作成日 2004.4.6

更新日 2008.3.22

 

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