ゲドの仕入れてきた果物・・・―――もとい、情報を頼りに、一行はルビークを目指して山道をひたすら歩き続けていた。

ただまっすぐに伸びるルビークへの道は他の旅人の姿も皆無で、目に映る景色と言えばごつごつとした面白味の何もない岩ばかり。

流石にウンザリとした気分になってくるが、そんな事も言っていられない。

は何気なく前を歩くゲドの背中を眺めながら、今さらになって湧き上がってきた疑問をぶつけてみる事にした。

「ねぇ、ルビークってどんなところ?」

その瞬間、全員(アイラ・ジャック除く)が信じられないものを見るかのような視線を投げかけてきたのを、は見なかったことにした。

 

ハルモニアの神官将

 

「あのなぁ、今になってそんな事聞くなよ・・・」

「だってしょうがないじゃない。そんな事聞ける雰囲気じゃなかったし・・・」

呆れたとばかりに口を開いたのはエース。

それには雰囲気を理由に無駄な言い訳をしてみた。―――が、あえなく失敗した事を瞬時に悟る。

はいろいろなところを旅してきたし、いろいろな本を読んだりもしていたので、人に説明してもらわなくてもこの辺りのことなら大抵の事は知っている。

しかしそれは行った事のある場所・読んだ事のある話限定で、当たり前の事だが行った事のない場所や、本になっていない事柄もたくさんあるわけで・・・。

結局のところ、が知っているルビークに関する事と言えば、昔ハルモニアに制圧されて今は3等市民になっている・・・ということぐらいか。

3等市民と言えば、ハルモニアにとっては奴隷のようなものだ。―――良い待遇ではもちろんないが、ハルモニアが滅ぼさずにわざわざ3等市民という位置付けを与えるくらいなのだから、それなりの理由というものがあるのだろうとは思う。

そういえば噂で、何か特殊な技術を持っているというようなことを聞いた覚えがあるんだけど・・・と思いつつ、説明を求めてエースに視線を向けた。

「え〜っと、ルビークは虫使いの一族がいるんだ。虫っていうのはこう・・・人の何倍も大きくて・・・空を飛ぶ事も出来てだな・・・」

身振り手振りで説明をするエースの話を真剣に聞きながら、チラリと空に目をやったは、小さく首を傾げてそれを指さした。

「それってあれの事?」

「そうそう。あれ・・・・・・ってぇ!?」

素直にが指さした方向に目を向けたエースは、驚きのあまりに声が裏返ったのも気にせず慌てて自分の武器に手を伸ばす。

耳に痛いほどの羽音と共に、それは風を巻き起こしながら目の前に降り立った。

風でぐちゃぐちゃになってしまった髪の毛を手櫛で整えながら、その虫を眺めては思わず感嘆の声を上げた。

エースの言った通りの特徴を兼ね備えたその虫には、男が1人乗っている。

まさしく、馬に乗る騎手のようなものか。―――馬と虫ではえらい違いだけれど。

その場に降り立った3匹の虫と男たちは、手に槍のような物を持ち、おもむろにそれをゲド一行に突きつけた。

「お前たちは何者だ!ルビークに何の用がある!!」

声を発したのは、まだ若い青年。―――この中ではリーダー的存在のようだ。

一行をかなり警戒しているようで・・・―――まぁ、ゲド一行の取り合わせを見れば怪しいといえば怪しいので、それも仕方がないかとは密かに思った。

しかしそれを込みにしても、この警戒はどういうことだろうか?

いくらハルモニアの統治下にあるとはいえ、旅人の往来を禁じているわけではないだろう。

は虫に乗ったことがないので正確なことはいえないが、あれほど上空を飛んでいるのだから、空の上から見えたゲド一行の姿はそれほど正確には確認できなかったはずだ。

それなのにも関わらず、ルビークに近づいただけでこうして飛んできて、加えて武器を向けて威嚇するとは・・・―――寧ろゲドたちよりも、ルビークの人々の方が怪しい。

この間カラヤの村でも似たようなことがあったことを思い出し、まさかここでも何かがあったのかと思わず勘ぐりたくなる。―――まぁ、ゲドがどんな情報を手に入れたのかは知らないが、わざわざここに足を運ぼうと思うからには、それなりの『なにか』がルビークにあるのだろう。

その『何か』と、怪しいまでの警戒と・・・関係があるのか、関係がないのか。

「この警戒は何事だ?」

この状況にも関わらず一切動じた様子のないゲドがそう口を開くと、青年はなおもゲドに槍を突きつける。

「正規軍から、身元の分からない者を中に入れるなという命令だ!」

固い口調で言われた言葉に、一行は揃って首を傾げた。

「正規軍からって・・・」

「何をしている?」

の問いかけを遮るように青年らの背後から涼やかな声が響き、青年らは慌てた様子で振り返った。

「申し訳ありません、神官将殿。旅の者たちが・・・」

「・・・神官将殿?」

ゲドが訝しげに声を潜めた。

そのかすかな変化には気付いていたが、それが何故なのかまでは分からない。

それが今現れた神官将に関する事なのだろうと想像はついたが、あいにくからは虫たちが視界を遮り現れた神官将の姿を確認する事が出来なかった。

「お前たちは何者だ?」

神官将のその声に、ゲドはゆっくりと視線をめぐらせ、神官将と向き合う。

「ハルモニア地方軍、南部辺境警備隊に所属するゲドと申します」

礼儀に乗っ取り身分を証明するゲドの背中を、何をするでもなく眺めて・・・―――チラリとの目に神官将の姿が映った。

虫と虫との間から姿を見せたその神官将は、背の高さはと同じくらい。

淡い緑色をベースにした動きやすそうなコートを身に纏っており、何よりも目を引くのが顔につけられた金色の仮面だった。

「・・・・・・なんで、仮面?」

間の抜けた顔で、は思わず疑問に思ったそれを呟く。

怪しいことこの上ない。―――彼を前にすれば異色揃いのゲド一行とて、可愛く見えるほどだ。

「この地に何の用だ?」

の心の葛藤など知る由もなく、神官将とゲドは淡々と会話を続けていく。

「警備隊から『真の紋章の捜索』という指示が出ていますので・・・」

「・・・それで、この地に?」

「はい」

お互いがお互いの腹を探り合うように視線を交わし・・・―――しばらくの無言の攻防戦の末、諦めたのか・・・仮面の神官将は虫使いの青年を振り返ると、ゲド一行を村に通しても良いという許可を出した。

「それでは失礼・・・」

神官将がゲドにそう告げ踵を返す瞬間、は仮面の神官将と目があった気がした。

もちろん相手は仮面を被っているので、視線がどこにあるのかはっきりとは分からなかったが、そんな感じがしたのだ。―――そしてその瞬間、仮面の神官将が微かに戸惑いのようなものを見せた事を、は見逃さなかった。

「神官将殿!!」

反射的に声を掛けていた。―――はゆっくりと数歩足を進め、動きを止めたまま振り返ろうとしない仮面の神官将に向かい、もう一度声を掛ける。

「・・・神官将殿」

再び掛けられた声に無視する事を諦めたのか、仮面の神官将はゆっくりとした動作でへと顔を向けた。

仮面が邪魔をして、神官将の表情は分からない。

けれどもよくよく見てみれば、彼の髪の色も、着ている服の趣味も、そしてその涼やかな声さえも、すべてがの知る・・・そして彼女の求める人物と似ていて。

「お名前を・・・教えて頂けますか?」

妙な確信をもって、仮面の神官将に向かい問いかけた。

仮面越しにも神官将の強い視線を感じて、は無意識のうちに笑みを浮かべていた。

「・・・秘密の任務ゆえ、答えられない」

きっぱりと拒否された質問の答えに、しかしはにっこりと微笑む。

「そうですか」

あっさりと引いたに、神官将は何も言わずにただ少女を見つめていたが、もう一度「失礼する」と告げ颯爽とその場を後にした。

「答えられない・・・か」

ため息混じりにがそう呟くと、今まで事の成り行きを呆然と見守っていたエースがハッと我に返り、慌てたようにの肩に掴みかかった。

「お前なぁ。ハルモニアの神官将相手に何やってんだよ!もしあの仮面の男がいちゃもんつけてきたらどうするつもりだったんだ!?」

「大丈夫、大丈夫。確かにメチャクチャ怪しいけど、結構冷静っぽかったし」

「そういう問題じゃねぇだろ!?――――大将からも何とか言ってやってくださいよ!」

心底困り果てた・・・といった風に頭を抱え、ゲドに助けを求めるエースを苦笑気味に眺めながら、助けを求められたゲドに視線を移す。

ゲドの何かを含むような・・・何かを探るような目に、しかしは何も答えずにっこりと微笑む事でそれを拒否した。

「・・・・・・行くぞ」

するとゲドは深いため息を零した後、ただそれだけを告げてルビークに向かい歩き出す。

「えっ?ちょ!待ってくださいよ、大将!!」

先頭を歩くゲドを慌てて追いかけるエース。―――それに続いて他の面々も苦笑交じりに後を追いかけた。

も同じく後を追うように歩き出し。

「ごめんね」と、心の中でひっそりと謝罪する。

今はまだ、話すわけにはいかない。

今ならばまだ、彼を止める事が出来るかもしれない。

だからこそ、事をあまり公にしたくないのだ。―――すべてが未遂に終わった時、彼の思い描いた思想を誰にも知られないように。

しかしまだ短いとはいえ、一緒に旅をしている・・・―――そしておそらく目的が似通った彼らに、すべてを隠していることに対する良心の呵責があるのも確かで。

だから謝罪した。―――それが彼らに聞こえていなくとも。

それに・・・とはゲドを見つめながら思う。

ゲドも何か隠し事をしている。

とても重大な・・・―――今回グラスランドで起こっている事態から、あながち外れてはいないような事を。

心がとても深い彼の心情を読み取る事は、かなり不可能に近いけれど。

「お〜い!何をしてるんだ?早く来いよ〜!!」

少し離れた先で自分を呼ぶアイラに向かい、は柔らかな笑顔を浮かべた。

今はまだ、楽しいこの旅を続けていたい・・・―――そう思いながら。

 

 

ルビークの村に無事入る事の出来たは、目の前に広がる光景にぽっかりと口を開いて眼を丸くした。

切り立った崖にそうように作られたその村は、複数の広場で分けられている。―――行き来するのには備え付けられたつり橋やはしごを通るのだろう。

先ほど見た虫たちが多く空を滑空しており、その図はまさに壮観である。

今までいろいろな種族の村を見てきたが、これほど独特な造りの村を見たのは初めてで、こんな時にも関わらず本来の好奇心がにょきにょきと角を伸ばしてくるのを自覚した。

早速村の中を見て回りたいが、そんな事している場合ではないか?―――いや、でも折角なのだし・・・と辺りを見回していた時、見覚えのある姿が目に飛び込んできては思わず動きを止めた。

そしてそれを見たのは、だけではなかった。―――同じように視線をめぐらしていたアイラが驚嘆の声を上げ、その人物を指さしながら怒りに震える声を発する。

「あいつ!あいつだよ!!カラヤに現れた怪しい女は!!!」

言うが早いか、アイラはエースの制止の声にも耳を貸さず、その人物が消えた方向へと勢い良く駆け出した。

それに一歩遅れて、もアイラの後を追う。

「おい!!!お前までどこ行くつもりだ!?」

「アイラに付いて行く!大丈夫だから、みんなは適当にやってて!!」

背後から聞こえてくるエースの批難の声に、しかしはそれだけを言うと走るスピードを上げた。

さすがグラスランドの民とでも言うべきか。―――アイラの足は速く、最近運動不足を自覚している身としては少々辛い。

そんな事をつらつらと考えながらアイラを後を追っていると、背後から同じように走る足音が聞こえ、チラリとそちらに視線を向けると・・・。

「・・・ゲド!?」

いつもの無表情で、息1つ乱さずに走るゲドの姿があった。

「みんなは!?」

「村の連中に話を聞きに行くそうだ」

「・・・ゲドは行かないの?」

「お前ら2人を放っておいては、何をされるか分からんからな」

えらい言われようだとひっそり思う。―――あながち間違いではないだろうから、には何も反論できなかったが。

「それにしても・・・、どこ行ったのよ、アイラ」

「・・・あそこだ」

同じく走ったまま辺りを見回し、既に見失ってしまったアイラの姿を探していたに、ゲドがある一点を指さした。

言われるままに視線を巡らせば、村の外れにぽつんと家が一軒建っており、その家の窓の傍に張り付いているアイラの姿が見えた。

「そこで、なにを・・・」

「しっ!!」

あまりの怪しさにゲドが思わず声をかけると、アイラはすごい剣幕でゲドを睨み『静かに』と仕草で一蹴する。

それに少し怯んだゲドに構わず、もアイラと同じように窓の傍に近づきそっと耳を当てた。―――微かにだが、中の会話が聞こえてくる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・何の話だ?」

ポツリと呟いたアイラの言葉に、しかしゲドもも何も答えなかった。

途切れ途切れに聞こえてくる言葉は、『世界の終焉』やら『未来が終わる』やら『世界の死』やら物騒なものばかりで。

大体の事情を知らなければ、彼らが何を話しているのか理解不能もいい所だろう。

そう考えて、はチラリとゲドに目をやった。

この男は、この会話をどのくらい理解しているのだろうかと考える。

普通に考えれば、アイラ同様全く理解できていないだろうが・・・―――ゲドの場合、謎に包まれている部分が多いため判断がつきにくい。

今だっていつも通りの無表情で、感情が読めない。

ふと、ゲドと目があった。

何かを語るその眼。

投げかけられる疑問。―――すべてを見透かしてしまいそうな目の奥に宿る光に、は居心地の悪さを感じて視線を逸らした。

その瞬間、もっと会話をよく聞こうと身を乗り出したアイラが小さな物音を立ててしまい、中にいる人物がハッと息を飲んだのが分かった。

「・・・行くぞ!」

ここで見つかっては元も子もない。

早々に決断を下したゲドは、未だ渋るアイラの腕を引いてその場を後にしようとする。

「・・・

「分かってる。行くよ・・・」

後ろ髪が引かれる思いではあったけれど、ここでゲドたちに不信感を抱かれても困ると判断し、彼の言葉に従って窓際から離れた。

 

 

「それにしてもなんなんだ、あの女は!一体何者だ!?」

ゲドに引きずられるように連れ戻されているアイラが、不満気に顔をしかめた。

彼女としては、自分の村が滅んだ理由に関係している女を放置しておく事など考えもつかないのだろう。―――まだ1人で突っ込んでいかないだけ、ましか。

「まぁまぁ、それをこれから調べるんじゃない」

未だ怒りが収まらないアイラに苦笑して、は宥めるように言った。

しかし自分でそう言っていても、先ほど謎の神官将たちが話していた話の内容が、いつまでも頭の中から離れなかった。

『世界の終焉』『終わる未来』『生き物のいない世界』。

とて、そんな未来を受け入れたくなんてない。

自分たちの歩いている道の行く先には、『無』しか存在しないなど、認められない。

正直に言えば同調する部分はたくさんある。―――それでもその方法を選ぶほど、はすべてに絶望してはいなかった。

続いている道の先には、必ず光もあると・・・そう信じていた。

「そうよ、未来は明るい!」

「・・・・・・は?」

突如呟いたに、ゲドは間の抜けた声を発した。

ゲドの顔に、少しの困惑と呆れが混じっているのをは見た。―――いつも無表情の彼からすれば、かなり珍しいものだと妙に得した気分になる。

「どうしたんだ?」

不思議そうに首を傾げるアイラに、はもう一度先ほどの言葉を繰り返した。

「だから、未来は明るい。どんな辛いことがあっても、きっと未来は光に満ちてるわ!」

意味が分からない。―――しかし元来素直なアイラは頭に?マークを浮かべつつも、『未来は明るい』とコクリと頷きながら呟いた。

「さぁ、ゲドも一緒に!未来は明るい!!・・・・・・どわぁ!!」

嫌そうなゲドを無理やり巻き込み、は勢いよく手を振り上げてそう叫ぶ。―――とその瞬間何かに足元を遮られ、年頃の娘(あくまで外見)とは思えないような声でそれはもう盛大に転んだ。

「だ、大丈夫か!?」

慌てた様子のアイラに手を軽く振って、『大丈夫だ』と無言で伝える。―――実際は思いっきり打ち付けた膝がかなり痛かったが・・・。

「痛ったぁ・・・。ったく、こんな道の真中に一体何が・・・・・・」

自分を転ばせた原因であるそれを探し・・・―――ふと、はそれと目があった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・さぁてと、そろそろみんなと合流しないとね」

「ちょっと待て。この私を蹴りつけたのだから謝罪くらいしたらどうだ?」

返ってきたその言葉に、アイラは思いっきり目を見開いた。―――ゲドもあまり表情は変わっていないが、少しは驚いたらしい。

そんな2人とは正反対に、は「あはは・・・」と乾いた笑みを漏らすと、ソッとそれに視線を向けた。

黒を主体とした細く長い身体。

大きさは座ったとちょうど同じ位で・・・―――まぁ、それがなんなのかと言ってしまえば『剣』と答えるしかないのだけれども。

に向かい、不満気な視線を投げかけている。―――なんとか誤魔化そうとするが、相手はそんなものに騙されてくれるほど生易しい性格はしていなくて。

「うわっ!こいつ生きてる!!」

とか、

「喋る剣か。珍しいな・・・」

とかそれぞれの感想を述べているアイラとゲドを綺麗に無視して、は1つ大きなため息を吐いた。

「・・・何でこんなところにいるの、星辰剣」

「そんな事を私に聞かれても困る。私を連れてきた奴に聞け」

確かにいくら自我があるとは言っても、剣は1人で移動できないのだ。―――彼を連れてきた人間が、別に必ずいる。

は困ったように頭をかいて、星辰剣をここまで連れてきた人物に目をやった。

明るい髪と、そしてゲドほどとは言わないがあまり変化のない表情。

まだあどけなさを残した少年は、何も言わずにを見つめ返した。

「久しぶり・・・」

「・・・久しぶりです」

「君はここで何をやっているのかな、エッジ?」

エッジと呼ばれた少年は、考え込むように宙に視線を泳がせて・・・、きっぱり一言。

「旅」

「んなこと聞いてるんじゃないわよ。何で旅をしてるかって事を聞いてるの!」

「なんでって・・・強くなりたかったし。星辰剣も目的があるって言うし」

エッジはそう言って、足元の剣に視線を向けた。―――すると星辰剣は偉そうに鼻を鳴らし、下僕の何たるかを淡々と話し始めた。

つまり星辰剣に言わせれば『主である自分のために働け』である。

思わず頭を抱える。―――やはりあの時、反対してでも星辰剣を引き取るべきだった。

そうすれば今ごろ、エッジは村で幸せに暮らしていたかもしれないというのに。

思わず星辰剣を睨みつける。―――そして頭の中に浮かんだ、彼の元持ち主である男の顔を思いっきり睨みつけた。

「・・・知り合いか?」

「いや、知り合いっていうか・・・―――まぁ、知り合いなんだけども」

歯切れの悪い言い方でゲドの質問を肯定しただったが、その表情には何か複雑そうなものが浮かんでいる。

それを見て、少し迷った末にゲドが口を開きかけた瞬間・・・―――遮るようにエッジがに話し掛けた。

「・・・・・・その人誰?」

エッジは視線でゲドを指す。―――アイラもその場にはいるのだが、エッジの警戒心のすべてはゲドに向けられているようだ。

「・・・まさか、誘拐?」

「・・・は?」

突然出てきた言葉の意味が分からず、は驚いたように声を上げた。

「もしかして・・・さん、この人に誘拐されたんじゃ・・・」

どこからそういう発想が出てくるのか?

まぁ、ゲドはお世辞にも外見だけ見れば善人とは言えないだろうけれど・・・―――と、はそんな呑気なことを考える。

一方、何をしたわけでもないのに誘拐疑惑を掛けられたゲドは、やはりというか当然不満そうな雰囲気を放っている。

それを見かねて、はゆっくりと頭の中でどう説明するかを考えながら口を開いた。

いくらなんでも、誘拐犯と間違えられてはゲドが可哀想だ。

「あのね、エッジ。この人はかなり悪人面だけど、見た目ほど悪人じゃないのよ」

フォローになっていない。

「・・・・・・

「この人はね、今旅に同行させてもらってる人なの。とってもいい人よ!」

ゲドから発せられる重い雰囲気に、は慌ててそう訂正した。

さんこそ、何でここにいるの?1人?」

「いや、みんなも一緒にいたんだけどね。はぐれちゃって・・・」

の言うみんなとは、彼女自身が言っていたはぐれた仲間のことなのだろう。―――ゲドは2人の話を聞きながらぼんやりと思う。

その後もエッジの質問は続き、それに少し面倒臭そうにしつつもは丁寧に答えていった。

はエッジに、仲間と共にグラスランドに入った事や運悪くはぐれてしまったこと、そして『ある目的』のためにゲド一行と一緒に旅をしている事を説明する。

エッジは真剣な面持ちで話を聞き続け、ようやくすべての説明が終わった頃になると納得したように1つ大きく頷いた。

「分かってくれた?」

「・・・分かりました」

念入りに最終確認をするに、エッジはしっかりと返事をする。

それを満足気に見ていたは、ようやくにっこりと笑顔を浮かべて。

「・・・じゃ!」

軽やかに手を上げると、無表情で突っ立っているゲドと現状把握が出来ずに首を傾げているアイラを強引に引きずってその場を後にしようと・・・―――したのだが。

「・・・エッジ?」

がっしりと腕を捕まれたは、その腕の先にある顔を見返してため息を零した。

「あのね、こう見えても私たちは急いでるの。そう・・・急いでるのよ!!」

エッジと思いも寄らない再会を果たしたは、今の状況をすっぱりと忘れていた。

そう、たちは急いでいたのだ。

怪しい仮面の神官将がこれから何をしようとしているのか突き止めなくてはならないし、場合によってはそれを阻止しなければならない。

それをたった今思いだしたは、キッとエッジを睨みつけた。

「離して、エッジ。私たちはここでのんびりしてられないの」

既にのんびりしすぎているような気がしないでもないが、それはこの際置いておいて。

しかしエッジはの腕を離そうとはしない。―――寧ろその手に先ほどよりも強く力が込められていて・・・。

エッジは言った。

「・・・俺も行く」

「・・・は?」

今日何度目かの間の抜けた声。

数秒の後、ようやく言われた言葉を理解したは、重い重いため息を吐き出した。

「あのねぇ、エッジ・・・」

「ビクトールさんたちがいない間に、さんに何かあったら困る」

淡々とした口調で・・・―――しかしきっぱりとエッジは言った。

「俺は会ったのに・・・なのにここでさんと別れて、何かあったら困る」

真剣なその口調に、表情に、は困ったように頭をかいた。

確かに、いくらが強いからといって、何も起こらないとは限らない。

特に今回の場合、事情が事情なのだから危険だっていつもよりも多い。

かと言って、エッジを連れて行くのはとしても簡単に賛成できない。

にはエッジがどれほどの腕前を持っているのかは知らないし、例えエッジが昔と比べて数段強くなっていたとしても、自分より強くなったとはには思えなかった。

そうは言っても、見るからに頑固そうなこの少年の思いを変える事が出来るだろうか?

切羽詰った、この状態で。

は助けを求めるようにゲドを見て・・・―――ゲドが小さくため息を吐いたのが分かり、同じようにため息を吐いた。

「・・・分かったわよ。じゃあついておいで、エッジ」

瞬間、嬉しそうに顔を綻ばせるエッジを見ては苦笑する。

こんな風に素直に慕われては、無下にすることも出来ない。―――こういう輩が、実は一番厄介なのだ。

「話がまとまったのなら、行くぞ」

「う〜ん・・・よくわかんないけどわかった!早く行って、あの女を捕まえるんだ!」

意気込み駆け出したアイラの背中を追って、ゲドとは慌てて後を追った。

新しい旅の仲間は背中に意思を持つ剣を背負い直し、少しだけ表情を綻ばせながら同じように彼女の後を追った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

エッジ(無理やり)登場。

そして(ゲームを無視して)旅に同行することになりました。

結構好きなキャラなんで絡ませたいなぁ・・・と思っていたんですが(折角ルビークにいるんだし)、まさか旅に同行するとは思っても見ませんでした。

しかもエッジの性格がよく分からない。(なんかちょっとジャックと被ってる気が・・・!)

これからどうしましょうかね。

作成日 2004.3.2

更新日 2009.11.8

 

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