ハルモニア辺境警備隊のゲドたちと共に、謎に満ちた仮面の神官将との諍いに巻き込まれる

カラヤの村の少年・ヒューゴと共に、見え隠れする『炎の英雄』の影を追いかけるビクトール。

そして―――。

「はぁ・・・、お嬢は一体どこにいるんでしょう?」

「・・・さぁな」

ここ、ダッククランでもまた、もう1つの物語が始まろうとしていた。

 

道連れブラリ旅

 

グレミオとフリックは、ある些細な出来事ではぐれてしまったとビクトールの姿を捜し、グラスランド中を彷徨っていた。

当初の緊急待ち合わせ場所であったゼクセンの首都、ビネ・デル・ゼクセには意外と早く辿り着く事が出来て・・・―――しかしどれほど待とうと、一向に2人が来る気配もなく。

ビネ・デル・ゼクセに滞在していたグレミオとフリックは、今この地でとんでもない事が起こっていることを、人づての噂で聞いていた。

ゼクセンとグラスランドとの間に浮上した『休戦協定』が、グラスランド側の奇襲で失われてしまったということ。

その後ゼクセン騎士団の手により、カラヤの村が焼き討ちになってしまったということ。

その報復に、今度はゼクセン領のイクセという村がグラスランドの民によって滅ぼされてしまったということ。

今、この地は動乱の中にある。

それは数々の戦いを潜り抜けてきた2人には、嫌というほど感じられて。

けれど・・・―――冷たいようだけれど、2人には特別自分たちに関係があるとは思っていなかった。

今まで成り行きで様々な戦いに身を投じてきた事も多々あるが、今さらそれをするつもりは毛頭ない。―――己を省みずそれをするほど、彼らは若くはないのだ。

そう思ってはいたけれど、ある噂を耳にして状況は一転した。

それは突如北の大国・ハルモニアが動き出し、グラスランドの部族の1つ、セフィクランが彼らの手により滅ぼされてしまったということ。

とりあえず、滅ぼされてしまったセフィクランはこの際置いておくとして。

問題は、『ハルモニアが動き出した』ということだ。

27の真の紋章を集めているといわれるハルモニア。

当然の宿す『呪いの紋章』を見逃すはずもなく、幾度となくハルモニアの兵に追われた事があった。

数年前には、ついには自身がハルモニアに拉致され・・・―――その時はが自力で脱出を試み成功したので、事無きを得たのだが。

仲間とはぐれ、この地を彷徨っているだろうが、もしハルモニアの軍と出会ってしまったら?

間違いなく捕らえられてしまうだろう。―――そして今度は逃げる事さえ出来ないかもしれない。

そのことを恐怖したグレミオは、フリックが止めるのも聞かずビネ・デル・ゼクセを飛び出した。

それを放って置けない、のお墨付きを頂くほどのお人よしであるフリックは、ため息をつきつつグレミオの後を追う事になり。

いろいろなところを探し回り、しかし2人の足跡さえ見つけることが出来ず。

そうしてグレミオとフリックは、アヒルのような生き物の住まうダッククランへと辿り着いた。

 

 

水の上に建てられたいくつもの家。

行き交うための道は、頑丈な板で作られた簡単な橋のようなもの。

そこらに生える独特な形をした草と、そこでのんびりと生活をするダックたち。

ビネ・デル・ゼクセで聞いた噂の数々からは想像がつかないほど、のんびりとした平和そのものの風景。

「はぁ・・・、お嬢は一体どこにいるんでしょう?」

「・・・さぁな」

ため息を吐き出し、耳にタコができるほど聞かされた言葉に、しかしフリックは律儀にも返事を返した。

この際、ビクトールの存在など無視されている事は気にしないことにした。

「それよりも、今日はどこかに宿を取って休まないか?疲れたし・・・」

「それよりもとはなんですか!?お嬢が行方不明だというのに・・・。ああ、きっとお嬢は今ごろ1人寂しい思いをしているに違いありません。孤独に苛まれ、それでも必死に私たちを捜しているんでしょう」

いや、それはないだろう。

1人に想いを馳せるグレミオを眺めながら、フリックは心の中で突っ込んだ。

グレミオほどではないが、フリックとてとは長い付き合いだ。

それ故に、彼女がどんな人間かを彼は熟知している。

確かには寂しがりやなところがあり、1人でいる時には時折その表情に暗い影を落とす事もある。―――が基本的にマイペースで、簡単に言うならば『我が道を行く』といった形容がとてもよく似合う少女なのだ。

もともとは1人でグラスランドに来る予定だったようだし、今ごろは彼女が言う『炎の英雄探索』にでも精を出しているのだろう。

が今どこにいるのかそれは分からないが、もし彼女の方も積極的に仲間を捜しているのであれば、手がかりの1つや2つ見つかってもおかしくない。

それを幼い頃からの面倒を見続け、のことなら何でも分かると自負するこの男には何故わからないのか。

ともかくも、とりあえず最もらしい理由をつけて、宿で休む事をこの過保護な男に納得させなければならない。

そうでなければを見つける前に、こちらがダウンしてしまうのが目に見えている。

それほど過保護なこの男の、を想う気持ちは強い。

さて、それじゃあどう宥めようか・・・とフリックが頭を回転させ始めた時。

「炎の英雄の手がかりを捜しにきた」

そう話す女の綺麗な声がフリックの耳に届いた。

思わず辺りを見回すと、村の入り口付近に女と男の2人組。―――それに鎧を着たまだ若い青年の姿がある。

3人は・・・いや、青年が1人で勝手に意気投合したようで、何事かを嬉しそうに話している。

それを眺めながら、フリックは先ほど女が言った言葉を思い出していた。

『炎の英雄の手がかりを捜しにきた』

先ほど女は、こう言ってはいなかったか?

炎の英雄。―――それは自分を旅にへと引っ張りだした少女が言っていた、グラスランドの英雄である人物の呼び名。

おそらく仲間とはぐれた後も、は単身その英雄を求めて旅をしているのだろう。

それと同じモノを求めていると告げる、2人組(と鎧の青年)。

フリックとて、の言葉をそのまま受け入れたわけではない。―――グレミオは疑いもなく信じているようだが、フリックにとっては胡散臭い話もいいところである。

確かに炎の英雄は有名だが、だからこそ噂が一人歩きし真実は闇の中。

真の紋章を宿しているとも言われているが、それも定かではない。

有名すぎて偽者も多く現れ、しかしその中に本物がいた試しはない。

仮に・・・そう仮に、炎の英雄が本当にこの地に再び現れたとして。

もしそうなのだとしたら、その目的は一体なんなのだろうか?

そしては、その炎の英雄に会い何をしたいのか?

グラスランドに行くと言った少女は『ただの好奇心』といっていたが、やはりそれを素直に受け入れられるほどフリックはのことを知らないわけじゃない。

しかしハルモニアの目につかないように深い森に身を置いたが、わざわざ旅をしようとまで思う理由に、フリックはどうしても思い当たらなかった。

3人組はどうやら一緒に旅をする事に話が収まったらしく、比較的和やかな雰囲気が漂っている。―――それを目に映しながら、フリックは振り返りもせず未だ姿の見えないに想いを馳せているグレミオへ声をかけた。

「・・・なぁ」

「はい?どうかしました?」

意外とあっさり返って来た返事に苦笑しつつも、自分の中で出した結論を彼に告げた。

「俺たちも、炎の英雄を探さないか?」

「炎の英雄を・・・ですか?」

戸惑ったように問い返してくるグレミオに、フリックは1つ頷いた。

その声色から察するに、の目的に疑いは持っていなくとも、炎の英雄の存在には疑いを持っているようだ。

それはフリックとて変わらない。

それでも今この地で起こっている動乱と、が動き出す何かがある炎の英雄の噂。

今まで彼らが身を投じた戦いの中に、必ずあった真の紋章の気配。

もし炎の英雄が本当に真の紋章を宿しているのだとしたら?

もしかしたら、何かが起こるかもしれない。―――そして、それこそがの炎の英雄探索の裏に隠された真実なのかもしれない。

「このまま当てもなく彷徨って、それでが見つかるとは思えない」

「それは、まあ・・・」

「多分も炎の英雄を探しているだろうし。俺たちも姿の見えないを捜すよりは、まだ炎の英雄を探した方が効率がいいとは思わないか?」

「それは・・・って、お嬢よりも炎の英雄に関する情報の方が少ないと思うんですけど・・・」

グレミオの言葉に、フリックは何も答えず。

視線だけで、未だ村の入り口付近にたむろする3人組を指せば、グレミオも自然とそちらに目をやる。

「あいつらも炎の英雄を探しているらしい」

「あの人たちもですか!?」

驚きの声を上げるグレミオに、フリックはニヤリと口角を上げた。

「折角だから、俺たちもあいつらの旅に便乗させてもらおうぜ」

それがフリックの出した結論だった。

 

 

「私たちもご一緒していいですか?」

そう声を掛けられたのは、人の話を全くといっていいほど聞こうとしないフレッドに、半ば無理やり旅の同行を了承させられた後のことだった。

突然掛けられた声に、当然といえば当然のように訝しげな視線を向けるナッシュに、しかしその2人組は気にした様子もなくただクリスの返答を待っている。

「・・・あの?」

「ああ、申し遅れました。私はグレミオ。こっちの男はフリック。実は私たちも貴方たち同様『炎の英雄』を捜していまして・・・。貴方たちが炎の英雄を捜しているという話が聞こえたものですから」

ニコニコと人好きする笑みを浮かべた頬に傷のあるグレミオと名乗る男に、クリスは戸惑ったような様子で傍らに立つナッシュに視線を向けた。

しかし当のナッシュは何も言わず・・・―――いや、どこか驚いたように目を見開いて2人の男を見つめているばかり。

「・・・どうかしたの?」

「い・・・いや、何でも・・・」

どう見てもなんでもないという顔ではない。

それもそのはず、ナッシュはいきなり現れたグレミオとフリックに驚きを隠せないでいた。

グレミオとフリックはおそらくナッシュを知らないであろうが、ナッシュは2人のことを知っていた。

15年前に起きたデュナン統一戦争において、同盟軍の幹部の1人であったフリックのことを、ハルモニアからの指令を受けて都市同盟に入ったナッシュは何度か見たことがある。

グレミオに関しても同様で、彼自身はあまり表立って戦いに参加してはいなかったが、やはり幹部の1人である少女の傍にいつもその姿があった。

その頃ナッシュにとっても、己の因縁の決着をつけなくてはならない時期であり、だからこそよく記憶に残っている。

彼らが歴史の表舞台に最後に姿を見せたのは、数年前に同じくデュナン国で起きたハイ・イーストの動乱が最後であり、その後は全くといっていいほど動きがなかったのだが。

(何でこいつらがここにいるんだ?)

ナッシュがこんな事を思っても、あながち無理からぬ事だろう。

すっかり黙り込んでしまったナッシュに困り果てて、クリスは戸惑ったように突如現れた2人の男に視線を戻した。

歳は40代前半くらいだろうか?

どちらも傭兵といった風貌で・・・―――いや、グレミオの方はあまり傭兵らしくは見えなかったが。

「あの・・・」

「はい、なんでしょう?」

「あなた方はどうして『炎の英雄』を?」

考えた末、クリスは単刀直入に聞くことにした。―――腹の探り合いは、あまり得意な方ではない。

クリスの質問に、しかし2人の男は困ったように小さく笑った。

「実は、ですね。本当にややこしい話になるんですが・・・」

言いにくそうに口ごもりながら、それでもグレミオはポツリポツリと話し出した。

最初に、炎の英雄を探しているのが自分たちではなく連れなのだということ。

そしてその連れとある事情ではぐれてしまったのだということ。

その連れを必死に探し回っているが、一向に見つけられないということ。

そんなときにクリスたちの『炎の英雄を探している』という言葉を聞き、おそらくは同じ目的で動いているだろう連れと合流するためにも、自分たちも炎の英雄を探そうと思ったということ。

話を聞き終えたクリスは、少しだけ複雑そうな表情を浮かべて。

しかし気を取り直したかのように、抱いた疑問を投げかけてみた。

「その連れの方は、どうして炎の英雄を探しているんですか?」

「好奇心です」

「こ・・・好奇心?」

「はい。連れはそう言っていました」

何の疑いもなく即答するグレミオに、クリスではなくフリックが苦笑した。

助けを求めるように自分を見るクリスに、フリックは小さく肩を竦めるだけ。

説明が欲しいのは、フリックとて同様なのだ。

「あー・・・のだな」

すると今まで黙っていたナッシュが、遠慮がちに口を開いた。

その顔には、どこかバツの悪そうな・・・不安そうな色が浮かんでいる。

「・・・どうした、ナッシュ?」

「ああ、いや。ちょっと聞きたいんだけど・・・」

「なんですか?」

何でも聞いてくれとばかりに微笑んだグレミオに、しかしナッシュは困ったように頭を掻きながら。

「その、あんたらの言う『連れ』のことなんだけど・・・」

「はい、それが何か・・・?」

「えっと、名前なんかを教えてもらえると・・・」

ナッシュの言葉にグレミオとフリックの両者が、同じように口をつぐんだ。

という名前は比較的少ない方ではないと思うが、それでもやはりその名前はかなり有名で。

20年近くも昔の話だし、現にトランではほとんど伝説のようにまでなっているのだから気付かれる事もないとは思うが、それでもやはり簡単に答えるのには躊躇いがある。

しかしここで答えなければそれだけで不信感を抱かれるだろうし・・・と、2人は目で会話を成立させ、同じタイミングで頷くとグレミオが代表して口を開いた。

、というのですが・・・」

「「「!?」」」

「はい。見た目は20歳前後の少女なんですけど・・・って知ってるんですか!?」

あまりに驚いた雰囲気のクリスとナッシュに、グレミオが勢い良く声を上げた。

「つーか、何でクリスが驚いてるんだ!?」

「ナッシュこそ!!」

「お前たち、という少女のことを知っているのか!?」

「「っていうか、お前が知ってるのが一番驚いたよ!!」」

驚きの声を上げたのはクリスとナッシュだけではなかった。

今まで(奇跡に近い程)大人しく話を聞いていたフレッドが、2人と同じように驚きの声を上げたのだ。

それぞれがそれぞれに「何故驚いた?」だの「知っているのか?」など大騒ぎしている様を、この場では一番冷静を保っていたフリックが何とか宥めた。―――フリックも驚いていないわけじゃなく、ただそれを表すのが少し出遅れただけなのだが・・・。

「分かった。分かったから、とりあえず落ち着け。いいか・・・よし。それじゃあまずそこのお嬢ちゃんから話してくれ」

「お嬢ちゃんじゃない。私の名前はクリスだ」

「分かった、分かった。悪かったから・・・じゃあクリスから話してくれ」

少しだけ機嫌を損ねたようで、顔を諌めるクリスにしかしフリックは軽い口調でそう話を促した。

クリスというのは、確かゼクセン騎士団の団長と同じ名前だな。―――とも思ったが、とりあえずそれは追及しない事にした。

未だ少し不機嫌そうではあるものの、とりあえずは訂正をしてもらえたのだし・・・と気を取り直し、クリスは少し前に会ったの事を思い浮かべた。

「少し前に、城・・・ブラス城で会った。ガラの悪い男に絡まれていたのを、私が偶然通りかかり助けた。その後少しの時間お茶をしたんだ。それから・・・―――いや、なんでもない。それだけだ」

クリスは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

カラヤの村で会った、なんて言えない。

言えばクリスの正体がバレてしまうかもしれないし、それにあの場でに会った事はクリスにとっても良い思い出とは言えないからだ。

もし今と再会したとして、彼女は自分にどう接するのだろうか?

そう考えると、に好意を抱いていた手前余計に辛い。―――おそらくはあまり良い反応が返ってくるとは思えなかったから。

「お嬢がブラス城に・・・。ということは、ビネ・デル・ゼクセに向かう途中だったんですね」

「そのようだな」

お互い顔を見合わせて頷く。―――グレミオにとっては当然のそれが、しかしフリックにしてみれば驚きだった。

一時でも合流しようとビネ・デル・ゼクセに向かっていたという事が、少しばかり信じられない。―――このことから言っても、フリックのに対する印象の程が窺えるというものだ。

「それで?今度はそっちの男だ。ええっと・・・確かナッシュだったか?」

「あ、ああ」

次に矛先を向けられたナッシュは、どう説明したものかと頭を悩ませた。

ナッシュとの出会いは、今から15年ほど前。

統一戦争真っ只中、グリンヒルの森で出会った。

その頃はまだ同盟軍の一員にはなっておらず、しかし影ながら同盟軍を気にしつつ旅を続けているようだった。

その次に会ったのは統一戦争終了後、グラスランドとの国境沿いにある小さな村での事だ。

皮肉というか何と言うか。―――炎の英雄の偽物騒動に巻き込まれたナッシュの前に、彼女は何食わぬ顔で現れたのだ。

その後もちょくちょく顔を合わせる機会があり、それなりに親交を深めていた。

最近ではほとんど会ってはいないが・・・―――まさかこんなところで彼女の影を感じる事になろうとは。

「どうかしたのか?」

再び黙り込んで何事かを考えるナッシュに、フリックは訝しげに声をかけた。

それに慌てて首を激しく振って。

「いや、俺がに会ったのは、ずいぶん昔の事だ。今はどこで何をやっているのか全然知らないが・・・」

そうナッシュが説明を始めた時。

「・・・あっ!!」

興味津々にナッシュの話を聞いていたグレミオが、突然大きな声を上げた。

何事かと集まる視線をものともせず、グレミオはさらに言葉を続ける。

「ああ〜、ナッシュってどこかで聞いたことある名前だなぁと思ってたんです」

すっきりしたとばかりに軽く手を叩き笑顔を見せるグレミオに、何のことやらさっぱり分からないフリックが首を傾げた。

「ほら、フリックさん。よくお嬢が話していたじゃないですか!フリックさんに対抗できるくらい幸の薄い人!確かそれがナッシュって名前でしたよ!!」

言われてみれば・・・と、昔が言っていた言葉を思い出す。

彼女はよく言っていた。

『フリックの運の悪さに対抗できるのは、ナッシュくらいだよね』と。

どんな奴なのかとフリックは不思議に思っていたのだが、まさか目の前にいるこの男がそうだとは思っても見なかった。

ナッシュの方も、そんな風に自分の話題を上げられていたことに納得がいかないのか、少しだけ複雑そうな表情を浮かべている。

「ま、まぁ・・・それはとりあえず置いておいて。それで貴方は・・・えっとフレッドさんでしたっけ?」

「そうだ。俺はマクシミリアン騎士団団長、フレッド=マクシミリアンだ!」

「マ・・・マクシミリアン?」

急に嫌な予感を抱き、困ったように視線を泳がせるグレミオに、しかしフレッドは躊躇いもなくそれを口にした。

「そうだ。俺の祖父から、という名前を聞いた!昔にあった戦争で、祖父を率いて勇敢に戦った少女のことだろう!?俺も一度会いたいと思っていたのだ!!」

「せ・・・戦争!?」

予想外の言葉に、クリスは驚きの声を上げた。

説明を求めるようにグレミオとフリックに視線を向けると、2人は困ったように手で頭を抑えながら項垂れている。

もしここで、2人が「なんだそれ?」とでも言うような態度を取っていれば、おそらくはクリスにもバレる事などなかったのだろうが。

そんな事を言っても、時既に遅し。

「なんなんだ!?は一体何者なんだ!?」

混乱し説明を求めてくるクリスに、グレミオとフリックは揃って大きなため息を吐いた。

こんな所で、おそらくは知り合いであろう人物に正体をバラしたという事がにバレれば、一体何を言われるのだろうか?

想像するだけで背筋に悪寒が走る。―――できることならごまかしたいが、この状況で上手く誤魔化せるほど、2人は嘘が上手ではない。

後のお仕置きを今から覚悟して、2人はの正体についてを話し出した。

フレッドにも同じようにお仕置きを受けてもらおうと2人が密かに思ったのは、当然の事であった。

 

 

ともかくも、一騒動も二騒動も何とか乗り越え、クリスはようやく再び旅に出ることが出来た。

道案内に、ダッククランの自称勇敢な戦士たち。

自分1人しか所属していないというマクシミリアン騎士団団長であるフレッドと、そのお付きのリコという少女を共に。

やはり掴めない飄々とした態度を続ける、ナッシュと。

そして突然現れた、クリスにとってはなぜか忘れる事の出来ない不思議な雰囲気を持った少女・の仲間だという2人の男を加えて。

このなんとも取り合わせの妙な一行が目指す場所は、グラスランドの東に位置するチシャクラン。

それぞれの思惑を胸に、炎の英雄を探す為。

ここから、もう1つの物語が幕を開ける。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

行方不明者2名、発見。

クリスとの出会い。―――これでトリニティサイト揃いました。

さて、彼らがと会えるのは何時のことやら?

作成日 2004.3.9

更新日 2011.1.16

 

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