「本当にここで『炎の英雄』の情報が手に入るんですかねぇ・・・」

目の前の大きな岩穴を見て、エースは胡散臭そうに呟く。

ブラス城を出たゲド一行は、リザードクランの本拠・大空洞にいた。

それと言うのも、ゲドが『大空洞に行く』と言ったからに他ならないのだが。

「・・・・・・行くぞ」

未だにぼやくエースを無視して、ゲドはさっさと大空洞に向かい歩き出した。

 

交差の瞬間

 

大空洞は重苦しい雰囲気に包まれていた。

仕入れた情報によれば、グラスランドとゼクセンはずっと小競り合いを繰り返しており、今やっと『休戦協定』と言う、一時的ではあるが平和のための約束が成される寸前だとかで。

この厳重な警戒も、当然だと思われた。

さて、どうするのかな?と思いつつもほんの少しこの状況を楽しむような雰囲気のは、チラリとゲドに視線を向ける。

ゲドはそんな視線に気付いているのかいないのか、いつも通りの無表情で周りが止めるのも聞かずに門番の前へと歩み出た。

ゲドたちに気付いた門番の1人が慌てて中に入っていき、すぐにおそらく位が上なのだろうと思われるリザードを連れて戻ってきた。

リザードたちは持っていた武器をゲドたちに一斉に突きつける。

その様子を隠れて観察していたは、その場に1人足りない事に気付いた。

ふと周りを見回してみると、岩陰に隠れて自らの武器である巨大ボーガンを構えている金髪の少年を発見。

リザードの隊長だと思われる人物に照準を合わせ、おかしな行動をすれば矢を放たんとばかりに神経を集中させているようだ。

は彼に気付かれないように背後に回り、それからやんわりと声をかけた。

「そんなことしなくても、大丈夫なんじゃない?」

ビクっと肩を揺らして勢い良く振り返ったジャックは、驚いたように目を見開き微笑んでいるの顔を見返した。

それを軽く流して指でゲドたちの方を指すと、交渉が上手くいったのかリザードたちはすでに武器を下ろし、心持ち友好的に何事かを話しているところだった。―――とは言っても人間にはリザードの表情など読めるわけもないので、実際のところは分からないが・・・。

「・・・お前」

ジャックは心の底から驚いていた。

いくら集中していたとはいえ、自分が簡単に後ろを取られるなどありえないからだ。

それこそ、並みの戦士ではそんな芸当は不可能だろう。

だとすれば・・・彼女は一体何者なのだろうか?

「さ、みんな中に入るみたいだし、私たちも行きましょ?」

戸惑うジャックに微笑みかけ、は彼の腕を引いてゲドたちの元へ。

「おいおい、どこ行ってたんだ?こっちはピンチだったってのに・・・」

「まぁまぁ、気にしない。女の子を頼りにするなんて、ハルモニアの傭兵の名が泣くわよ、エース?」

恨めしげな視線を投げかけてくるエースをさらりと交わし、そしておもむろに目の前に立つリザードを見上げてにっこりと微笑んだ。

「お久しぶり、シバ。相変わらず元気そうね」

か。何故お前がここにいるのだ?何か面倒ごとでもあったか?」

「そういうわけじゃないんだけど・・・、そうなのかも?」

曖昧な言葉を並べて、リザード相手にどことなく仲良さそうに話すをみて、ゲド一行は目を丸くした。―――ゲドは相変わらずの無表情だったが。

「・・・って、お前リザードに知り合いがいたのか!?」

一番最初に口を開いたのは、やはりエース。

慌てふためくその様子を楽しそうに眺め、1つ頷く。

「・・・どういう知り合いか聞いてもいいかい?」

「いいけど・・・―――聞いても後悔はしない?」

恐る恐る口を開いたクイーンに向かい、は意味ありげに不敵に笑う。

後悔って・・・どんな関係なんだろう?

一同がそんな恐怖にも似た思いに襲われたのは言うまでもない。

どことなく含みがあるようなその口ぶり。―――後悔するような関係なの?と思わずにはいられないのその表情。

思わず思考の海にどっぷりと浸かってしまった一同を見て、堪えきれなくなったは思いっきり吹出した。

「あははははははははっ!ごめん、冗談だって!!」

あんぐりと口をあける一同と大爆笑するを呆れた眼差しで見つめるのは、ゲドとシバのみ。

「・・・っ!!」

「だから、ごめんって!まさかそんなに深刻そうな顔するとは思ってもみなくて・・・」

目じりに浮かんだ涙を拭い、未だに笑顔を浮かべながらは謝る。

結局のところ、がリザードたちと知り合いなのは、昔旅をしていた時にお世話になったというごくありふれた理由だった。

普通に考えればそれが妥当だ。

普通の女の子とほとんど変わらないが、込み入った事情でリザードたちと知り合いなどと普通は信じもしないのだが・・・―――しかし『もしかして?』と思わせる何かが、この歳若い少女にはあった。

「・・・では、そろそろ中に案内しよう」

ずいぶんと余計な手間がかかってしまったが、とりあえず中に入れてもらえることになり、一行は先を歩くシバに付いて大空洞の中に足を踏み入れた。

大空洞の中は外から見るよりはしっかりとしていて(外見はただのでっかい横穴)リザードたちの手によって綺麗に整えられていた。

岩の中だからか少しひんやりとした空気の中、長い廊下のような通路を歩き続けると、すぐに広い空間に出た。

天井がかなり高い。―――どうやら吹き抜けになっているようだ。

入り口から見て一番奥には噴水があり、その両隣に二階部分に続く階段がある。

上を見上げれば二階部分の様子をみる事ができ、しかしあちこちに瓦礫が積み重なっている部分もあった。

「ともかく、族長に紹介しよう。俺に付いて来い」

シバはそれだけを言うと再び歩き出し、階段を上がって二階へとゲドたちを案内した。

二階のほぼ中央に一際大きくて立派な部屋があり、その部屋には大空洞の入り口同様に門番がついている。

おそらくここが族長の部屋なのだろう。

「では戦士・ゲド。族長が部屋でお待ちになっている。お付きの方々はここで待っていてくれ」

「・・・お付き」

シバの言葉に少なからず反論したそうなエースを何とか宥め、族長の部屋に黙って入っていくゲドを見送った。

「それにしても、大将がトカゲと知り合いだったとはねぇ・・・」

感慨深げにそう呟くエースに、クイーンは苦笑した。

「まぁね、でもあの人は掴めないからね。それよりも・・・」

不意にクイーンがに視線を向け、興味深そうに口元を上げた。

「あたしはの方が気になるけどね」

「・・・私?」

心外とばかりに声を上げて見るが、そんな行動は彼女らには通用しないらしい。

まるで尋問とばかりに周りを取り囲まれ、冗談交じりで・・・しかしどこか本気を漂わせ言葉を続ける。

「『炎の英雄』を追っていたり、リザードと知り合いだったり。素性は知れないし・・・」

「そんなこと言われても・・・」

両手を顔の前で振って苦笑するが、尋問はまだ終わらない。

「あのゲドに簡単に同行を認めさせるし・・・」

それは私の知ったことじゃないんだけど、と心の中で呟く。

「さっきはさっきで、簡単にジャックの後ろを取るし」

見られてたのか・・・と思わずため息を吐く。

別に今さら隠す事もないのだと思う。

が何であれ、彼らは気にはしないだろうし。

しかし事情があったにせよ、今まで隠す事に必死になってきたにしてみれば、簡単に手の内を明かすようなマネは出来なくて。

結果はぐらかすつもりはなくても、無意識に行動がそうしている時もあった。

自分が『真の紋章』を宿しているという事は、できるだけバレない方が良かったから。

それにが自分自身のことを話せば、20年ほど前にあった『解放戦争』のことも話さなければならない。

話したくないわけではないが、そう簡単に説明できるほど簡単な話ではなかったし、忘れる事のない辛い思い出も、鮮明に思い出すことになるから。―――正直それは辛かった。

今ここで話し始めるには重過ぎる話だとは思ったし、普通のどこにでもいるような女の子だと思われるのは楽しかったので、何とか誤魔化そうかと視線を巡らせる。

その時、族長の部屋から出てくるゲドの姿を確認し、はホッと息をついた。

「お帰り、ゲド〜!」

心持ち明るくなった声色でそう声をかけると、ゲドは少しだけ不思議そうに首を傾げた。

しかしすぐにいつも通りの無表情に戻ると、しばらくは大空洞に滞在する事にしたと告げる。―――ゼポンとの話の内容については、やっぱり話してはくれなかった。

何を話していたのか、少しばかり興味があったのに・・・と少しだけ残念に思い、しかしすぐに気を取り直して宿屋にでも行くかと歩き始めたその時。

不意にシバに腕を捕まれ、はその場に引き止められた。

「・・・どうしたの?私に何か用事でも・・・?」

不思議そうに首を傾げるに、シバは戸惑ったように口を開いた。

「族長が、お前とも話をしたいそうだ。・・・部屋に入ってくれ」

その言葉に、ゲドたちから一斉に視線を向けられた。

ああ、これでまた質問攻めかなぁ・・・と呑気なことを考えつつも、シバの言葉に従い族長の部屋にゆっくりと足を踏み入れる。

そこは薄暗い部屋だった。

明かりと言う明かりは特になく、部屋の奥に座っているゼポンの背後の窓からかすかに光が差し込むだけ。―――そのせいでゼポンの表情は逆光によってまったく分からなかった。

「・・・お久しぶりです、ゼポン殿。私に何かお話でも?」

エースたちに話し掛ける口調とは打って変わった大人びた口調で、何も言わずに座っているゼポンに話し掛けた。

はゼポンとも面識がある。

それほど親しいわけではなかったが、前に1度会ったことがあったし、の生い立ちや素性も全て承知していた。

「・・・少し話をしておきたいと思ってな。座ってくれ、

進められるままにゼポンの正面の椅子に座り、じっと彼を見つめる。

やはり逆光によって表情は分からなかったが、どこか追い詰められた感があることは気付いた。

そしてこの部屋に入った頃から・・・―――正確に言えば大空洞に入った頃から感じていた強い違和感の正体に、何となく思い至る。

少し身体を強張らせて、無意識のうちに左手で右手を握り締めると、フッと笑った声がの耳に届いた。

「私の死が見えるか?」

静かな・・・しかしどこか穏やかささえも感じられるその声に、は思わず俯いた。

さっきから感じていた強い違和感、右手の甲に走る微かな痛み。―――それは死が近い者の傍にいるときに起こる感覚。

の右手に宿るのは『呪いの紋章、ソウル・イーター』。

生と死を司るソウル・イーターは、人の魂を盗み取りその力を増していく。

いくつもの死線を潜り抜けてきたにしてみれば、もうそれは慣れた感覚で。

だからには分かった。

この感覚が予想させるもの。―――それは、身近な生き物の死が迫っているということ。

そして族長の部屋に入った瞬間にその感覚が増したということは・・・。

『私の死が見えるか?』

ゼポンのその言葉が頭の中を巡る。

『私の死が見えるか?』―――まさにその通りだった。

「別にお前が気に病む事ではない。私の命が残り少ないことは、お前のせいではないのだから・・・」

未だに俯いたままのに、ゼポンは優しく声をかける。

それを受けてゆっくりと顔を上げたは、先ほどまでは逆光で見えなかったゼポンの表情を見た気がした。

死を目前にしているだろうに・・・・・・彼は穏やかに微笑んでいるように見える。

「・・・ゼポン殿?」

「今グラスランドは、新たな戦乱に見舞われようとしている。それは長く生きて来た私にはよくわかる」

「・・・・・・」

「相手がゼクセンの人間なのか、それとも別の者なのかは分からないが・・・―――時代は新たな風を求めているのかもしれん」

どこか遠くを見るような目つきで、ゼポンは淡々と語った。

「・・・・・・どうして、自分の死が近いと思ったのですか?」

ずっと気になっていたことを、思い切って聞いてみた。

確かに長くは生きているが、まだまだ寿命というわけではないだろう。―――リザードは人間と比べて、はるかに長寿なのだから。

の問いにゼポンは小さく笑う。

「なんとなく、だ。なんとなく・・・そんな気がした」

それも戦士の勘というものなのだろうか?

なんとなく、で自分の死を予測してしまったゼポンに少しだけ驚き、そして自分がカマをかけられた事に気付いて苦笑した。

「・・・また、お前に会えるとは思わなかったよ」

「私もです・・・」

「お前は・・・いや、何も言うまい。ただ後悔しないように、自分の進むべき道を進め。決して譲る事の出来ない想いならば・・・進むしかないのだから・・・」

そう、進むしかない。

何を犠牲にしたとしても、自分の胸の中には確かに『譲れない思いと信念』が存在していたのだから。

「もう会う事もないだろうが・・・、お前の道行きに幸があるように・・・」

「ありがとうございます、ゼポン殿」

ゆっくりと椅子から立ち上がり深く一礼すると、はゼポンに背を向け部屋を後にした。―――決して振り返る事無く、ただ右手の紋章から伝わる痛みだけを感じながら。

 

 

「何の話をしてたんだい?」

族長の部屋から出てきたを迎えたのは、クイーンのそんな質問だった。

「う〜ん、いろいろ・・・かな?」

「いろいろってなんだよ?つーか、お前リザードの族長とどういう関係なんだ?」

「・・・どういうって」

困ったように視線を巡らせ、ふと目のあったゲドににっこりと微笑みかけと、

「ゲドがゼポン殿と何を話してたのか教えてくれたら、私も教えてあげる」

と軽い口調で言った。

一斉にみんなの視線はゲドに向かい、視線を向けられたゲドはやはり無表情のままでを睨み返した。

これでしばらくの間は火の粉が降りかかってくることはないだろうとは思った。

みんなもゲドとゼポンの関係に疑問を抱いていたのだから・・・―――のことも気にはなるだろうが、自分たちと近いゲドの方に強い興味が向けられるのは間違いない。

恨めしげな視線を向けてくるゲドを無視して、は先ほどのゼポンとの会話を思い出していた。

確かにゼポンに死が迫っているのは間違いないだろう。―――それだけは、嫌なことではあるが自信があった。

しかしとてみすみす彼を死なせたくないと思っている。

それほど交流があったわけではないが彼には世話になっていたし、やはり目の前で危ない目に遭いそうな人がいれば、助けたいと思うのも可笑しな事ではないだろう。

とはいっても、ゼポンがいつ、どこで、どんな危険に遭うのかなどまではにも流石に分からない。

いくら助けたいとは言っても、ずっとここにいるわけにはいかないのだ。

このことをシバにでも話しておいた方がいいだろうか?と思考を巡らせていたその時、1階の方からシバの少し慌てたような声が聞こえ、思わず階段部分から下を覗き見た。

そこにはかなり慌ててパニくっている様子のリザード兵士と、彼から何かの報告を受けていると思われるシバの姿が・・・。

「ねぇ、ちょっと!なんか様子がおかしくない?」

未だにゲドに詰め寄っている12小隊の面々にそう声をかけると、いつの間にかと同じように下の様子を窺っていたジャックが小さく首を傾げた。

「・・・なんだぁ?なんかあったのか?」

「あんまり穏やかじゃないねぇ・・・」

「・・・行ってみるか?」

不思議そうに感想を述べるエース、呆れたように呟くクイーン、そして興味津々といった風に笑みを浮かべるジョーカー。

それぞれがそれぞれの思いを持ってゲドに視線を向け、そしてその視線を受け取ったゲドはまたもやため息を吐いた。

言葉にしなくとも、その態度だけでなんと言いたいのか分かってしまうのは、やはり長年の付き合いからなのだろうか?

かくして一行は、慌てて通路に駆け出していくシバの後を追って、走り出した。

シバが通っていくのは、大空洞に入るときと同じような石造りの通路。

しかし先ほどとは違い、道幅も細ければ舗装も整えられていない。

完全に裏口・・・といった印象を受ける。

通路を駆け抜けるとそこはぽっかりと空間が開けており、やはり舗装されていない天然の風景がある。

そこにシバと数人のリザード兵士がいた。

どうやら大空洞に何者かが侵入しようとしたらしい。

12小隊はシバの申し出により、手を貸すことに決めた。

決まるが早いか、侵入者を食い止めようと再び走り出した一行だったが、はふと違和感を感じ、足を止めた。

「・・・どうした?」

それに気付いたのはどうやらジャックだけだったようで、不思議そうに首を傾げつつ言葉少なに問い掛けてくる。

はゆっくりと辺りを見回して・・・しかし何を言うでもなく眉をひそめた。

何か違和感がある。―――今、この場所に何か・・・。

しかしその違和感がなんなのか分からない。

たいしたことではないのかもしれないが・・・それでも自分の中に湧いて出てくる警告のようなものを、は無視することが出来なかった。

「・・・ちょっと気になることがあるの。すぐ追いかけるから、先に行っててくれる?」

「・・・・・・・・・わかった」

少し迷っていたようだが、簡潔にそれだけを答えるとジャックはゲドたちが走り去った方向に姿を消した。

は再びゆっくりと辺りを見回し、それから近くにある岩に手をついてキツク目を閉じ気配を探った。

何となく、頭がぼんやりとする感じ。

もやがかかったようで、気配がよく感じられない。

どこか・・・紋章の力のようにも感じられるのだが・・・。

そこまで思考を巡らせたその時、先ほどゲドたちが去った方向から激しい爆発音が響き、思わず顔を上げた。

おそらく侵入者たちと戦闘にでもなっているのだろう。

あのゲドたちのことだから、やられるなんてことはないだろうと思いつつも、しかしやっぱり気になって、はゲドたちの去った方向へ勢い良く駆け出した。

 

 

その場に辿りついたは、思わず自分の目を疑った。

ゲドたちが戦っていた『侵入者』は、ついこの間楽しくお茶をしたばかりのクリスだったのだから。

まさか!?―――最初にその言葉が頭に浮かんだ。

まさか、あの真面目で誠実そうなクリスがこんな事を?

しかし目の前にいるのは見間違うはずもない、間違いなくクリスその人だ。

は思わず近くの岩陰に身を隠し、その様子を窺った。

『何故、休戦協定を前にしてこのような奇襲をかけるのか?』ゲドがクリスにそう問い掛けても、彼女は何も答えない。

痺れを切らしたシバがクリスに襲い掛かるが、それも簡単に避けられてしまう。

ついに12小隊+シバvsクリス率いる騎士たちの戦闘が始まった。

止めに入ろうと立ち上がりかけたは、再び違和感を感じてその場に座りこんだ。

先ほど感じたよりも、もっと強い何か。

思わず頭に手をやって、じっとゲドたちの戦いを見守る。

段々と、しかし確実に、12小隊はクリスたちに押され始めていた。

おかしい、とそう思った。

確かにクリスの腕は騎士の中でも飛び切りだが、対するゲドたちも引けは取らない。

騎士たちはクリスを入れてもそれほど人数が多いわけではなく、せいぜい10人程度だ。

しかしゲドたちが一方的に押され始めていると言うのは、一体どう言うことなのだろう?

その時、ふと何かがの目に映った。

もっと意識を集中して、クリスに目をやると・・・―――彼女に重なるように映る影が見えた。

すると今までいた騎士たちの姿がぼんやりとかすんでくる。

そしてそこにいたのは・・・―――姿こそはっきりとは見えないが、2人の人影。

それだけでは、今何が起こっているのかすぐに察する事が出来た。

どうするべきか・・・と一瞬悩んだ隙に、クリスたちはパッと身を翻し何事かを呟いて急ぎその場を去っていった。

追いかけようか・・・とも思ったが、傷ついているゲドたちを放っておくことも出来なかったため、は諦めと・・・そして少しばかり安堵の入り混じったため息を吐いた。

「ゲド!!」

取りあえず今着いたばかりだというように慌てた様子でゲドたちに駆け寄り、その傷を確認する。

幸いにもそれほど深い傷はないようだ。

左手に宿してある『旋風の紋章』を使って彼らの傷を癒し、そして到着するのが遅れた事に対して謝罪した。

「譲ちゃんがいたって、たいした戦力にはならないしな。怪我しなかっただけよかったぜ」

エースのからかうような、おどけたその言葉に苦笑する。

がどれほどの強さを持っているか、エースは知らないのだ。

しかしわざわざそれを教える必要もない。

「でも・・・・・・ごめんね?」

は曖昧に微笑み、そしてもう一度謝罪した。

それは到着が遅れた事に対してでもあったし、いろいろなことを隠していることに対してでもあった。

「それにしても・・・ゼクセン騎士団の奴ら、なんでこんな事したんだろうな」

不可解とでも言いた気に、エースがクリスたちが去った方向へ視線を向ける。

「あいつら・・・足音がしなかった」

ふと呟いたジャックの言葉に真実を察したのは、今この場ではだけしかいなかった。

しばらくそこで騎士団の襲撃について話し合っていた12小隊だったが、いつまでもこんなところにいても仕方がないという結論に落ち着き、とりあえず大空洞に戻る事に決める。

 

 

その頃、リザードクランの族長であるゼポンがすでに何者かに殺害されていた事など、今の彼女たちは想像もしていなかった。

彼女らがそれを知るのは、数十分後の話。

そして爆発音に気を取られて、最初に感じた違和感の原因を突き止めなかったことをは激しく後悔したが、それも・・・・・・また別の話。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

一日で一気に仕上ました。

内容はさておき、筆の進みが遅い私にしては頑張った方です。(自画自賛)

妙に勘の鋭い主人公。これって有り得るんでしょうか?

つーか、恋愛要素皆無なのは・・・まぁ今さらですか。(笑)

ビクトール達が一向に出て来ないんですが・・・彼らは今ごろ何をしているんでしょう?

ビネ・デル・ゼクセで健気に主人公を待ってたり・・・とか?(笑)

作成日 2003.11.17

更新日 2009.3.1

 

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