リザードお手製の地下通路、高速路を行くリリィご一行。

まるで地下に作られたとは思えないほど整ったその通路を珍しそうに見回しながら、何もない通路をひたすら歩き続ける。

本来ならばグルリと迂回しなければ行くことのできないリザードクランに、しかしこの通路を使えば案外早く着きそうだとビクトールは呑気にも思う。

やっぱり遠回りをすればよかった。―――数分後、そう思うことになるとも知らずに。

 

捜し人同盟結成!!

 

長い長い高速路をひたすら歩き続けると、ぽっかりと開いた空間に出た。

どうやら小さな広場のようで・・・―――だからと言ってここで何をするのかと言われれば答えられないが。

「あれ?・・・・・・誰かいる」

不意にヒューゴが小さく呟き、全員がそちらの方へと視線を向ける。

視線の先には、巨人でも出入りするのかと思えるほどの大きな扉と・・・―――その前に4人の男女の姿。

赤い髪をした一見した限りでは普通の男と、帽子を目深に被った黒ずくめの男。

淡い髪色をした儚げな美少女に・・・仮面を被った男。

「・・・うわ、怪しい」

思わずそう呟いたリリィの言葉を否定する者は、少なくともこの場にはいなかった。

「あいつら・・・んな所で何やってんだ?」

「・・・・・・どう思う、ヒューゴ?」

軍曹は4人組から視線を逸らさず、隣にいるヒューゴに声を掛ける。

「さぁ・・・「悪い奴に決まってるわっ!!」

小さく首を傾げて呟くヒューゴを無視して、リリィが力の限り拳を握り締めた。

「おいおい、嬢ちゃん。何でそんなに自信満々なんだよ」

「もう!さっきから言ってるでしょ!?私の名前はリリィ!嬢ちゃんなんて呼ばないでよ!!」

「いいじゃねぇか、別に・・・」

「よくないわよ!なんだかバカにされてる気がするわ!!」

声を荒げて食って掛かるリリィを、ビクトールは軽くあしらいながら視線を謎の4人組へと向けた。―――どれほど言い争っていても2人とも小声なのは流石と言うべきか。

「それにしても何やってんだろうな、あいつら。あの扉の向こうに何かあんのか?」

「というか、そもそもあの扉って開くんですか?かなり古いものみたいですけど・・・」

ビクトールの呟きにサムスが相槌を打つ。

「それよりも、これからどうしますか?このまま隠れているわけにもいかないでしょう?」

話の収集がつかなくなってきたことを感じ取ったリードが、早々に提案する。

それを受けて、軍曹はチラリとヒューゴに視線を向けた。

「どうする、ヒューゴ?」

「・・・どうって」

言葉を濁しながら、ヒューゴは謎の4人組を見た。

怪しい。―――それは間違いない。

彼らが何をやっているのか、気になるのも確かだ。

ここはリザードクランの管轄ではあるが、グラスランドに住む者としては怪しい人間を放っておく・・・なんて事はできればしたくない。

「とにかく話をしてみよう。彼らが何者なのか確かめたいし・・・」

そう提案すると、「だから悪人だって!!」とリリィが主張する。

しかし軍曹はそれには取り合わず、賛成の意を示した。

「よし、それじゃあ行くぞ!」

決まるが早く、軍曹はヒューゴをつれて隠れていた岩陰から身を現した。

文句を言いつつ、リリィたちもその後に続く。

しかしビクトールだけはその場に留まったまま、食い入るように謎の4人組を凝視していた。

姿形は見たことがない。―――が、どことなく知った気配のような気がする。

特にあの黒ずくめの男。

ヤバイくらいの殺気を漂わせたあの男。

その独特な雰囲気は、どこかで会った事があるような気がした。

「どこだったか・・・。あ〜、ここまで出かかってんだけどな・・・」

頭を乱暴にかきむしり唸っていると、突如謎の集団が姿を消した。

後に残ったのは、例の黒ずくめの男。

不思議に思う間もなく、黒ずくめの男とヒューゴたちの戦闘が開始した。

黒ずくめの男は両手に持った二本の剣を操り、ヒューゴに、軍曹に攻撃を仕掛けていく。

離れたところにいたビクトールには、黒ずくめの男がとんでもなく凄腕なのだという事が嫌というほど分かった。

「きゃっ!!」

リリィが短い悲鳴を上げて吹っ飛ばされたのを見て、やれやれとため息を吐く。

どうやらこちらの分が、限りなく悪いようだ。

腰に差した剣に手を伸ばしながら、ビクトールは緩慢な動きで立ち上がった。

の『もう年なんだから、無茶しないでよ?』という言葉が脳裏を過ぎるが、今はそうも言ってられないだろう?とここにはいない少女に言い訳をする。

そうしてビクトールは小さく笑みを浮かべると、一気に剣を抜いて黒ずくめの男に向かい駆け出した。

力で押し返されたヒューゴの横を通り過ぎ、力の限り男に向かい剣を振り下ろす。

甲高い金属音と共に、ビクトールの剣は男の剣にしっかりと受け止められていた。

「こりゃあ・・・また・・・」

剣に力を込めるが、黒ずくめの男は余裕気な笑みを浮かべている。

昔と比べると確かに力は落ちてはいるが、自分の年齢からすればまだまだ戦えるほどの力はあると豪語していたビクトールだが、流石にこの状況ではそんな言葉は口にできない。

目深に被った帽子の間から、男の顔を覗き込む。

両目とも違う色の瞳。

男の口から言うのもなんだが、綺麗な顔をしている。―――その綺麗な顔がニヤリと狂気に歪んだ。

瞬間、物凄い力で押し返されビクトールは思わず体勢を崩す。―――そこに男の剣が振り下ろされ、受けるのを諦めて地面を転がる事で何とか避けた。

こんな所で得体の知れない男に殺されるなんて御免だ、と再び体勢を立て直し剣を強く握りなおした。

「あ〜あ、こんな事なら素直に迂回しときゃよかったぜ・・・」

口調とは裏腹に、口元が笑みの形を作る。

こんな姿を仲間たちに見られた日には、呆れたような表情を返されるのだろうとビクトールは他人事のように思った。

「おい、同時に行くぞ」

未だ戦う気の衰えないヒューゴ・軍曹に小声でそう話し掛け、肯定の意が返ってくる前にビクトールは再び黒ずくめの男に向かって駆け出した。

 

 

「ビクトールさんって強いんですね」

何とか黒ずくめの男を追い払い、再び大空洞目指して歩き出した一行。

そんな中、ヒューゴは尊敬の眼差しをビクトールに向けながらそう話し掛けた。

「はっはっは!褒めても何も出ねぇぞ」

「あ、そんなんじゃなくて・・・」

ヒューゴが慌てたように口を開いた。

先ほどの黒ずくめとの戦いで、ヒューゴのビクトールを見る目が少し変わった。

それは軍曹も同じで、どうやら完全に信頼してくれたようだとビクトールは素直に笑みを浮かべた。

まぁ、昔ならもうちょっと楽に勝てた・・・などと思っていることは、この際言わなくてもいいかと思う。―――言ったら言ったで、リリィに猛反撃を食らいそうな気がした。

怪我の治療をしつつ歩いていると、少し先に小さい明かりが見えて来る。

もうすぐ出口なのだろう。―――そのことに少しだけホッとした。

別にここの居心地が悪いと言うわけではないが、やはり人は太陽の下にいる方が幾分落ちつくのだ。

―――と出口付近にまでようやく辿り着いた時、軽い乾いた音がかすかに聞こえてくる事に気付き、一行は小さく首を傾げた。

それが剣戟の音だと気付くのに、それほどの時間はかからなかった。

慌てて高速路を飛び出すと、大空洞の前にかなりの数の騎士がいるのが見える。

その最前列にいるのは、銀色の鎧を着た銀色の髪の女。

ビクトールもグラスランドに入ってから何度と噂を聞いた事がある。―――おそらくあれが『銀の乙女』と呼ばれるゼクセン騎士団の団長なのだろう。

ビクトールはヒューゴから聞いた話を思い出していた。

ゼクセン騎士団の銀の乙女が、カラヤの村を焼いたのだと。

それに付け加えるように聞いた軍曹からの話から推測するに、どうやらようやくまとまりかけていた休戦協定がどちらからともなく破られたようだ。

おそらく今回騎士団がここにいるのも、その時生じた事柄に関する事なのだろうと、ビクトールはぼんやりと思う。

冷たいようだが、ビクトールにはグラスランドもゼクセンも関係ない。

そりゃ困っている人がいれば助けたいとは思うが、今の時点ではどちらに加勢する気もなかった。―――まぁ、今の時点でそれを強要されたとすれば、ヒューゴのいるグラスランド側につくことになるだろうとは思っているが。

何を話しているのかまでは聞こえてこないが、どうやら話し合いは済んだらしい。

両者の掛け声と共に戦闘が始まり、リザード・カラヤ・ゼクセン騎士団入り乱れての激しい戦いとなった。

ちょこちょこと襲い掛かってくる騎士たちを追い返しながら、この戦いは果たしていつまで続くのかと思う。―――こんなお世辞にも広いとはいえない場所での戦いは、どちらの有利にもならないのではないか。

何組目の騎士たちを追い返しただろうか?

突然ヒューゴの隣にいたフーバーが鳴き声を上げ、それに我に返ったかの様に全員がピタリと動きを止めた。

そして先ほどの戦いが嘘のように、騎士団はあっさりと引いて行く。

「・・・・・・何があったんだ?」

ポツリと呟くヒューゴに、分からないとばかりに肩を竦めて見せる。

こんな時にがいれば・・・と、こっそりと思う。

戦況を見ることができる自信はビクトールにもあるが、その戦いの裏にあるモノを察する事は難しい。

軍師としての能力を兼ね備えているならば、何故騎士団がこうもあっさり引いていったのか・・・その理由も簡単に説明してくれそうな気がしたからだ。―――マッシュとシュウに認められるほどの実力を持ったならば、造作もないだろう。

抜き身の剣を鞘に収めて、盛大にため息を吐く。

「一体、今どこにいるんだよ・・・お前ら・・・」

空を仰ぎ見て、ビクトールは覇気の感じられない声でぼやいた。

 

 

「よぉ!久しぶりだなぁ、ルシア!いい女になったじゃねぇか!!」

「・・・・・・お前、ビクトールか?」

騎士団との戦いの後、カラヤの生き残りがいることを知ったヒューゴと共に大空洞に入り、

一通り親子の対面を済ませたヒューゴとルシアの背後からそう声を掛けると、ルシアは信じられないものでも見るかのように目を見開いた。

「・・・珍しいな。一体どうしたんだ?」

そう尋ねてくるルシアに、どう説明したものか・・・と頭を捻っていると、ヒューゴが丁寧に説明を始めてくれた。

正直言って説明するのが面倒臭いと思っていたビクトールは、それに甘えてヒューゴの説明をぼんやりと聞き流す。

すべての説明を聞き終えたルシアは、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

もグラスランドに来ているのか?ぜひ、会いたいな」

「俺も会いたいさ。・・・・・・ったく、今はどこらへんにいるやら・・・」

苦笑気味にぼやいていると、背後に人の気配を感じ何気なく振り返る。―――そこにはカラヤの民族衣装に身を包んだ体格のいい男が1人立っていた。

「ああ、ジンバ。紹介しよう。私の・・・まぁ、友だ」

「その微妙な言い方が引っかかるな・・・。ビクトールだ」

ルシアに不満気な視線を向けて、ビクトールはジンバと呼ばれた男に手を差し出した。

それを握り返し、ジンバは小さく首を傾げながら呟いた。

「それよりも今、・・・と言わなかったか?」

「そう言ったが・・・・・・もしかしてお前、どこかで会ったのか?」

驚きに声を上げるルシアに、ビクトールも思わず身を乗り出し再びジンバの手を握り締めた。

「あ・・・ああ、まぁ。カラヤの村に来たんだよ。えーっと、確か20歳前後の若い少女が・・・」

「間違いない!それで!?は今どこに!?」

ヒューゴの『母さんの友達なのに20歳前後なの?』という疑問の視線は軽く無視する事にした。―――説明をするには、かなりややこしい。

「それが・・・カラヤが焼かれた後のことは知らん。多分連れと一緒に脱出したのだと思うが・・・」

その言葉にがっくりと肩を落とすも、無事だろうと分かりホッと息をつく。

この時ビクトールは、ジンバの言う『連れ』がフリックとグレミオであると信じて疑わなかった。

彼が仲間と再会できるのは・・・・・・もう少し先の事になりそうだ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

かなりの駆け足でお送りしました。

いや、主人公出てませんしね。あんまりのんびりするのもどうかと思いまして。

でもこれだとゲームプレイしたことない人だと意味が解りませんよね。

ビクトール好きの私としましては、非常に悔いの残る結果となりましたが。(書き直せよ)

もっといろんな人と絡ませたかったと思いつつ、次の機会と言う事で。

補足として、は16歳ごろで成長は止まっていますが、中身は30代半ばなので一見した雰囲気では20歳前後ぐらいに見えるという事で。(あとがきで説明って・・・!)

作成日 2004.2.24

更新日 2009.6.28

 

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