気がつけばお悩み相談室のように次々と悩みを持った人たちを迎え、そうしてまたまた気がつけば処理出来なさそうなほど大量の怪奇現象話を抱え込み、どうにもこうにも手が足りないと判断したナルは、急遽助っ人を呼び寄せた。

勿論おなじみ、巫女の松崎綾子、神父でありエクソシストでもあるジョン=ブラウン、霊媒師の原真砂子に、SPR職員でありナルの助手のリン。

そうしてやっぱり揃ってしまった見慣れた顔を眺めて、まさかここまで大事に発展するとは・・・とは小さく独りごちる。

まぁSPRが絡んできた時点で、すんなりと終わるとは思っていなかったが。

「とにかく数が多いので、ゆっくりと調査していられない。手当たり次第除霊してみるしかないと思う。効果がなければその時に次の手を考えよう」

確かにゆっくりと調査をしている間に、取り返しのつかない事件が起こる可能性もある。

特にその席に座ると必ず怪我をするという呪われた机。―――被害者の怪我がだんだん酷くなってきている事から、一刻の猶予もないと判断された。

だからだろう、ナルにしてはなりふり構わないような作戦を立てたのは。

勿論ナルの考える事なのだから、そうそう穴はないとは思うけれど。

ナルの決定に、滝川がうんざりとした表情を浮かべる。

その気持ちも解らなくはない。―――とて、滝川と同じような心境だからだ。

他の面々が悠長に構えていられるのは、怪奇現象の目撃談がどれほど多いか知らないからなのだと断言できる。

あれを1つ1つ確認して回っているだけで、一体何日かかるやら・・・。

ゴールがとんでもなく果てしなく思えて、は困ったように頭を掻いた。

 

された真実

 

そうして揃った面々を前に、ナルはまず真砂子へと視線を向けた。

「原さん、校内を見てみてください。とりあえず霊が出るという机と、美術準備室」

「真砂子と呼び捨てにしてくださって構いませんのよ」

指示を出すナルへにっこりと微笑みかけ、真砂子は悠然とそう言い放つ。

仕事中だろうがプライベートだろうが、真砂子には関係ないらしい。―――盛大に表情を歪めた麻衣を視界の端に映しつつ、勘弁してよとがっくり肩を落とす。

恋愛は戦いだ!と友人が言っていたのを思い出すが、せめて仕事中は控えてもらえないだろうか。

麻衣が落ち込んでいるのを見るのは、結構心苦しいものなのだ。

しかしナルはそんな真砂子の発言をため息1つでスルーし、今度は綾子へと視線を向ける。

「松崎さんも付いて行ってください。霊がいるようなら除霊を」

「ああ〜ら。真砂子には何も言い返さないわけ?いつもなら随分な事言ってやりこめちゃうくせに」

どうやらナルの真砂子に対する対応がお気に召さなかったらしい。

明らかにからかいを含んだ声色でニヤニヤと笑いながら口を開く綾子を見て、はこっそりため息を吐き出した。―――ここに大人はいないのか、大人は。

しかしここで負けているナルではない。

真砂子に言い返せない鬱憤を晴らすかのように、冷たい笑みと視線を綾子へと送って。

「余計な事を言う暇があったら、除霊の才能を発揮していただきたいものですね。そろそろ松崎さんの活躍を拝見したいのですが」

「・・・くっ!」

どうやら勝負は綾子の完全敗北で終わったらしい。

一番痛いところを突かれた綾子に反論の言葉はない。

「綾子も懲りないよね」

「お前は、勝てないの解っててなんで挑戦するかな」

前向きなのか、学習能力が足りないのか、または向上心が高いのか。―――勿論そんな事は綾子の前では言えないが。

「とにかく今回は事件が多すぎて機材の数が足りない。みんなの霊感だけが頼りだ」

悔しさに身体を震わせる綾子を何とか宥めながら、はナルの言葉に耳を傾ける。

そうしている間に回されてきた小さな機械を手にし、余った分を綾子と滝川へと回す。

「校内を回る時はそれを持っていってください。麻衣はここで連絡を待て」

「らじゃ!ほんでナルは?」

「僕はリンと調査を続ける」

よくコンサート会場のスタッフがつけるようなトランシーバーを首にかけ、は指でつまんでそれを見やる。

なんとなく極秘任務のようでわくわくとする。―――これは最近見た映画の影響に間違いない。

「それから・・・

そんな場合ではないと解っていても早く使ってみたいと機械を弄っていたは、唐突に呼ばれた己の名前に顔を上げる。

「なに、ナル?」

突然の名指しに、一体何を言われるのだろうかと身構えるを他所に、ナルは手元の資料を捲りながら素っ気無い態度で口を開いた。

「前回の森下家では、家に入った途端体調を崩していたようだが、今回はどうだ?」

「え、えーと・・・今回は特に」

「では、君はブレスレットを外した状態でぼーさんとジョンと一緒に校内を回ってくれ。とりあえず事故の続く席と陸上部の部室を」

「う、わ・・・・解った」

そういえば前回からナルに霊視禁止令を出されていたのを思い出す。

うっかり忘れてしまっていたが、とりあえずありがたいのかありがたくないのか許可は出たらしい。

「ぼーさん、ジョン。の様子を見ていてくれ」

「はいです」

「はいよ」

付け加えられた言葉にしっかりと返事を返す2人を見て、は複雑そうな表情を浮かべる。

珍しく心配してくれているだろうナルの気遣いはありがたかったが、なんとなく保護者というかお目付け役をつけられたようで落ち着かない。

まぁ前回のように、今回は廊下でぶっ倒れられるとシャレにならないからなのだろうが。

「では各自、調査に当たってくれ」

簡素な言葉で会議を打ち切ったナルの声に合わせて、全員が行動を開始する。

さてさて、今回は何が出るか・・・。―――行動を促す滝川とジョンの背中を見つめながら、は心の中で独りごちた。

 

 

「さて、と。んじゃー、始めますか」

ナルの指示により一緒の調査班になった滝川が、やる気があるのかないのか微妙なテンションで振り返った。

その視線はに注がれている。―――つられて向けられたジョンの視線も感じつつ、は諦めたように左腕に手を掛けた。

「・・・ほんとは、やりたくなかったんだけど」

「大丈夫だって。俺らがいるだろーが」

「まぁ、そうなんだけど」

いまいち頼りになるのかどうか不安な所だ。―――いや、別に2人の実力を疑っているわけではないが。

あれだけの目撃情報が溢れる学校の中で、片方だけとはいえ自らの身を守る術を放棄してしまうのは不安なものだ。

せめてピアスだけは効力を発揮して欲しいところだけれど・・・―――当主の言によると、『自分が傍にいなければ効果は多少薄れる』発言が更に不安を煽る。

「心配しなくても、ジョンがいれば何かに憑かれたってすぐ落としてもらえるって」

「大丈夫、はそっちの事なの?」

盛大に表情を引き攣らせつつ滝川を睨みつけるが、当の本人は平然と笑っている。

勿論緊張をほぐそうとしてくれているのは解るのだが、その手段が間違っている気がするのは気のせいなのか。

逆におろおろとしているジョンが可哀想に思えて、は自身を勇気付けるように深呼吸する。

ここで駄々を捏ねていたって、状況は変わらないのだ。

やってやるしかない。女は度胸だ!と勢いをつけて、は清々しいほどあっさりとブレスレットを外した。

「・・・どうだ?」

「・・・んー」

眉間に皴を寄せながらゆっくりと辺りを見回す。

どうだ、と言われても・・・と前置きをしてから、は改めて心配そうに見守る滝川とジョンへ振り返った。

「とりあえず見て回ろうか。うん、一刻も早く」

「お、おう」

切羽詰った様子のに気圧されて、滝川が言葉を詰まらせながらも頷く。

そうして3人は調査の為に学校探索を始めた。

まずはナルに指示された事故の続く席と、陸上部の部室。

それから頭に入っているだけの怪奇現象の目撃された場所へ・・・―――まるで散歩のようにプラプラと歩いていると、これが仕事なんだと一瞬忘れそうになる。

その間は一言も言葉を発さず、難しい顔をしてきょろきょろと辺りを見回している。

一見すると、何か探し物でもしているかのようだ。―――まぁ、言葉を変えれば間違ってはいないのだけれど。

「おい、。なんか・・・」

「・・・あら?」

いい加減何も話さないに焦れて滝川が口を開きかけたその時、不意に背後から声を掛けられ3人は同時に振り返った。

そこには緩くウェーブのかかった髪を肩で切りそろえた、柔らかい感じの女性が立っている。―――その女性は3人を見ると、にっこりと綺麗に微笑んだ。

「あなた方が、この学校の調査に来られた方ですね」

「え、ええ。あの・・・貴女は?」

「ああ、すみません。私は生物を教えています、産砂恵と申します」

そう言って向けられる優しい笑みに、滝川とはホッと肩の力を抜いた。―――こんな癒しを随分長く忘れていた気がする。

もっとも、あのメンバーの中でこの柔らかい人当たりをジョン以外に求めるのは、不可能に近いけれど。

「この学校の先生ですか。どうも、滝川と言います」

「ジョン=ブラウン言います。よろしゅう」

です」

ともかくこの学校の関係者だと解り、失礼がないよう挨拶をする。

そんな3人に再びにっこりと微笑みかける産砂恵を見つめて、は不思議そうに首を傾げた。―――先生・生徒問わず怪奇現象に悩まされているこの学校の関係者とは思えないほど、穏やかな雰囲気だ。

まぁ巻き込まれていないなら、それはそれで結構な事だが。

「あの・・・さん?」

「はい?え、私ですか?」

「ええ。貴女のその苗字、聞いた事があって・・・。もしかしてあの家の関係者ですか?」

産砂恵の発言に、は思わず目を丸くする。

確かに霊能関係に限らず、そして一般社会においても、という名前はそれなりに有名だ。―――家の一部の人間が時々テレビ番組に出演していたりする賜物なのだが。

それでも『』と聞いただけでそうだと瞬時に判断できる一般人がいるとは思ってもいなかった。

「お詳しいんですね」

「ええ、少し興味があるものですから・・・」

随分物騒なものに興味があるらしい。

まぁ、世の中怪談話をした事がない人などいないだろうメジャーな分野ではあるのだし、どの分野においてもマニアックな人間など珍しくもない。

この柔らかい雰囲気からは想像もつかないが、名前を聞いただけで察するなど相当なマニアなのかもしれない。

「そうなんですか。実はコイツ、家の月華なんですよ。ああ、月華って言うのは・・・」

「知ってますわ。そう、貴女が・・・」

滝川の発言に余計な事を言うなと睨みを利かせたその時、産砂恵は驚いたように目を見開き、はその態度に思わず口を噤んだ。

どちらかと言えば、貴女が『月華』と言う単語を知っていた事の方が驚きなのですが・・・という突っ込みも、生憎との口からは出て来なかった。

確かに家は一般社会でもそれなりに知名度がある。

それに加えて、一族で霊能者なんてやっているものだから、その異様さも含めて意外と話題に上げられたりする事も少なくない。

しかし一般人に、これほどあっさりと話が通じた事など初めてだった。

話の渦中にいるはずなのに、何故か置いていかれたようにポツリと立ち尽くしていたは、不意に向けられた産砂恵の視線に嫌な予感を感じ取り、反射的に背筋を伸ばす。

「では貴女は、陰陽師でもあるのですね」

「・・・は?」

産砂恵の言葉と滝川の間の抜けた声に、は嫌な予感が当たったとばかりに顔を顰めた。

ここまで詳しいのだから知っているかもしれないと思っていたが、まさか本当に言い当てられるとは・・・。

「ちょ、どういう事だよ。陰陽師って・・・」

「あー・・・いや、どういう事っていうか」

「あら、もうこんな時間。それでは私はそろそろ失礼します。お仕事頑張ってくださいね」

詰め寄る滝川に困った様子を見せていたは、産砂恵の発言に目を瞬かせる。

余計な発言するだけしておいて、まるで何事もなかったかのようににこやかな笑みを浮かべながら去っていく産砂恵に、は思わず絶句する。

一体なんだったんだと思うも、時間はもう戻らない。

産砂恵の発言も、それを耳にした滝川も、どうして良いのか解らずただおろおろと手を彷徨わせるジョンも。

現在詰め寄られて後がなくなっているこの状況も、すべてが現実。―――処理をするのは自分しかいないのだから。

「解った!話す、話すからちょっと落ち着いてー!!」

静かな廊下に、の悲痛な叫びが木霊した。

 

 

家の歴史は古い。

家系図を辿れば、最古は平安時代にまで行き着くと言われている。―――実際に家系図を辿った事がないので、真偽の程は定かではないが。

家はね、古くは陰陽師の家系だって言われてるの。一族全員が陰陽道に携わってるわけじゃないけどね」

あの後何とか滝川を宥めてベースに戻ってきた3人は、既に帰って来ていた綾子と真砂子を加えて早速の話し合いが始められた。

議題は『家について』。

としては放っておいて欲しい事柄には違いないが、どうも彼らに引く気はないらしく、渋々ではあるが彼女が知る家の内部事情を話す事になったのだ。

「陰陽師になる為には、やっぱりそれなりの修行というか知識が必要だし、家全員にそれをさせるのも難しいでしょ?一族のほぼ全員が霊能者だって言ったって、力の強弱はあるわけだし。―――実際に陰陽師として名乗れるのなんて、ほんの一部の人間だけだよ」

麻衣が事務所から持参したポットから勝手に飲み物を淹れたは、全員にそれを配り終えた後、湯気を立てるそれを口へと運ぶ。

「一部だけっつったって、勿論お前は修行した方だろ?なにせ家の月華なんだから」

「・・・うー、まぁ・・・修行したかしてないかって言えばした方だけど」

何故だか怖いくらい真剣な表情を浮かべている滝川に詰め寄られ、は僅かに身を引きながら曖昧に肯定する。―――モニターと向かい合っているリンが、ピクリと反応を見せたのをは見逃さなかった。

まったく興味がなさそうに振舞っておきながら、多少の興味はあるらしい。

確かにが陰陽師ならばそれだけ戦力にはなるのだし、実力の把握くらいは当然の事なのかもしれないけれど。―――そこが一番問題だったりするんだけど・・・と心の中で呟いて、はカップを口元へと運ぶ。

「じゃあ、何でアンタはそれを言わないのよ」

「なんでって・・・」

更に綾子にまで詰め寄られて、は気まずげに視線を逸らす。

夏頃、森下家での事件があったあの時、最終的に人形を使ってその家に憑いていた女の霊をナルが浄霊した時、綾子は言ったのだ。―――陰陽師ってカッコいい・・・と。

そんな発言の後に、実は私もそうなんだよね〜などと言える人間がいるかどうか。―――少なくとも、はそういうタイプではない。

それに、はっきりと言い出せなかった理由がもう1つ。

「実はさ、私ってまだちゃんとした陰陽師じゃないんだよね。つまり半人前?修行中の身っていうか、修行させられてる身っていうか・・・」

しかもそれは、現在進行形だったりする。

普段は学校に通い、そこで出された大量の課題を片付ける傍ら、日課としての修行がには課せられている。

学生と霊能者としての修行の二足わらじは口で言うほど簡単ではないけれど、修行を拒否する事は立場上どうしても出来ず、かといって学生である事を譲る気もには毛頭なかった為、毎日かなりのハードスケジュールが組まれていた。

それに加えて、最近では霊能者としての仕事も加えられている。

仕事をしている間は修行の内容は軽くはなるけれど、だからといって毎日のスケジュールが軽くなるわけでもなく・・・―――二足わらじならぬ三足わらじを履いている今となっては、正直色々勘弁して欲しいと言いたい。

勿論それが受け入れられる事はなかったけれど。

「だからさ、あんまり人に言いたくないって言うか・・・」

「そう?たとえ修行中でも、陰陽師ってすごいと思うけど」

「そうかなぁ?私は別にいらないけど、そんな力」

霊能者として本格的な修行を課せられるたび、もうそこから抜け出せなくなっていくようで不安になる時がある。

月華となった時点でもうそれは確定したも同然の事なのかもしれないけれど・・・。

中身を飲み終えたカップをテーブルに戻したと同時に、がらりとベースの扉が開く。

そこには何処かへ行っていたらしいナルの姿が・・・―――後ろには麻衣の姿もある。

「・・・どうしたの、麻衣。なんか顔赤いっていうか、すごく嬉しそうだけど」

「ううん、なんでもない!なんでもないの!!」

首をぶるぶる横へ振りながら否定する麻衣を見つめて、は訝しげに首を傾げる。

どうにも嘘がつけない子だ。―――これでは「何か隠してます!」と力いっぱい肯定しているようなものだと思うのだけれど。

しかしのそんな疑問は、ナルの会議を始めるという声に掻き消された。

全員がナルの元へと集まり、自分が得た情報を報告する。

そんな中、真砂子の報告に滝川が抗議の声を上げた。

「霊が全然いない!?そんなはずねーだろ、真砂子ちゃん」

「いませんでしたわ。学校中を見て回りましたけれど、どこにも」

しかし滝川の抗議にも動じる事無く、真砂子はキッパリとそう言い切った。

「少なくとも例の席にはいて当然だ。4件も事故が続いてるんだぜ?」

「わたくしたちは騙されているんですわ」

「学校の連中全部に!?冗談じゃねぇぞ!!」

「た、滝川さん・・・」

思わず身を乗り出して食って掛かる滝川を、隣にいたジョンが何とか宥める。

確かに滝川も冷静さが欠けているところはあるが、真砂子の態度も態度だとは思った。

勿論彼女には霊がいればその姿を見る事が出来るという自信があるからなのだろうが、まだ調査を始めたばかりの段階で、学校の生徒全員に騙されていると結論を出すのは早すぎるのではないかと思う。

そもそもそんな事をして騙す理由がないのだ。

それだけではなく、生徒たちに実害も出ている。―――事故にあった4人を含め、怪奇現象によってノイローゼで入院した先生もいる。

これだけの被害が出ているのだから、まったく気のせいとは思えない。

「・・・厄介な事件だな」

ポツリ、とナルが呟いた。

「訴えられた証言の内、いくつが事実だと思う?たとえ一部だとしても、この数はやはり尋常じゃない。こうまで学校関係者に連続して現象が起こるのには、何か理由があるはずだ。その理由も検討がつかない。原さんの霊視が頼みの綱なんですが・・・」

「霊はいませんわ」

「そう、おっしゃるわけだ」

真砂子の変わらない答えを聞いて、ナルはため息混じりにそう呟く。

「真砂子が正しいとは限らないんじゃない?」

「松崎さんよりは正しいつもりですわ」

「どーだかっ!どう考えたっていないはずないでしょーが!」

「あら?松崎さんの言った事が当たっていた事がありましたかしら?」

「なによ、見えたって祓えないくせに!!」

とうとう口げんかを始めてしまった綾子と真砂子を見比べて、全員がため息を吐き出す。

本当に仲が悪い2人だ。―――いや、もしかすると反対に仲が良いからなのかもしれないが。

「んじゃ、はどうだ?お前も霊視しただろーが。結果は・・・?」

「んー・・・」

唐突に滝川に報告を求められ、は視線を泳がせながら唸り声を上げる。

真砂子の発言の後では、少し言いづらいのだけれど。

「・・・なにもいない・・・って事はないと、思う」

さん!?」

躊躇いがちに呟いた言葉に、真砂子が信じられないとばかりに視線を寄越す。

それを受け止め複雑な表情を浮かべながら、は左手にはまっているブレスレットへと視線を落とした。

「どういう事だ?」

「えー・・・と」

「はっきり言え」

冷たいナルの言葉に、は眉を顰めつつも考え込むように頭を掻く。

「なにか・・・は、いたと思う。はっきりとは見えなかったけど、要所要所でぼんやりした・・・影みたいなものは見えた。なんていうか・・・火の玉、みたいな?」

「・・・火の玉?」

「あー、ちょっと違うか。ろうそくの光がぼんやり揺れるような・・・そんな影みたいなもの。ゆらゆら揺れて・・・学校のいろんなところにあった」

それがなんなのか、には解らない。

しっかりと霊の姿が見えたわけでもなく、こちらに干渉してくるわけでもない。

ただそこに存在する影。―――厳密に言えば、それが今回の事件に関係しているかも定かではないけれど。

それでも至る所で目撃したそれは決して少ない数ではなく、現状からまったくの無関係だとも思えなかったが。

しかしの報告だけでは、原因がハッキリしない事も確かだ。

何か影が見えたにしろ、それだけの霊がこの学校に集まってくる理由は解らない。

「―――がいたら」

「・・・え?」

小さく呟いたナルの声に、麻衣は不思議そうに首を傾げた。

「なんでもない。信頼できる霊媒師がいたら、と言っただけだ。―――リン、作業に戻ろう」

しかしそんな麻衣の問い掛けをさらりと流し、ナルはリンへと向き直る。

どうやら質問には答えてくれそうにない。

「俺らももう一回りしてこようぜ」

「さいですね」

「・・・へ〜い」

滝川にぐっと腕を捕まれ、引きずられるようにベースから連れ出されたは、ぶつぶつと何かを呟く滝川の背中を眺めながら小さく息を吐く。

いつもそうだ。

こういう仕事につくと、いつも自分は役に立たない。

別に大活躍したいわけでも、こういう仕事をしたいわけでもなかったが、それでもその場にいてなんの役にも立たないというのは気分的に落ち込むもので。

たとえば、このピアスまでも取ってしまったら・・・―――そうしたら、また違ったものが見えるのだろうか?

指でピアスの小さな石をなぞると、諌めるように左手のブレスレットが音を立てる。

『いいですか?これだけは絶対に外さないでください。これがあれば、どんな事態でも最低限は貴女の身を守ってくれるはずですから。―――いいですね?』

鋭い一清の眼差しと、藤野の心配そうな声が甦る。

『それでも、どうしてもこれを外さなくてはいけない時が来たとしたら・・・』

藤野の声が脳裏に響く。

それは警告。―――それは、彼女の身を守る為の・・・。

「・・・え?」

不意に耳元に何かが掠ったような気がして、はゆっくりと振り返った。

何か、視線を感じた。

何か?何かって・・・それは・・・。

「・・・ぼーさん、ジョン」

先を歩く2人へと声を掛けながら、は一歩後ずさる。

「で・・・」

「・・・で?」

視線の先、そこにあるモノから目を逸らす事も出来ず、まるで縋るように滝川の腕を握り締めて・・・。

「出たぁぁぁぁ!!」

そうしては、今までの鬱憤をすべて晴らすかのように、頭から血を流したまま虚ろな眼差しで自分を見つめる男を指差しながら、力の限り叫び声を上げた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

なるべく原作を崩さないようにと思うと、主人公の出番がかなり怪しいですが。

なんだかだんだん恋愛から遠ざかっている気がします。

前回メインだったリンが、今回かなり影が薄いですし・・・。

彼は自分から出張ったりしないタイプなので、なかなか絡ませるのが難しいんですよね。

作成日 2007.10.11

更新日 2007.12.24

 

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