「これで何個目だったっけ・・・?」

「・・・さぁ、7個目くらい?」

「正確には現在6つ目です」

メモにある怪奇現象目撃場所の前に、うんざりとした表情を浮かべながら立つ滝川と。―――そんな2人の会話をきっちり訂正してから、リンはチェック済みのしるしをメモに書き込む。

ナルの指示の通り、とりあえず手当たり次第除霊して回る事になった面々は、効果があるのかも解らないまま、気力と体力の続く限り働き続けていた。

いや、実際に除霊を行っているのは滝川であって、とリンはそれを傍らで眺めているだけなのだけれど。

っていうか、なんでリンさんがここに?

チラリと横目で窺えば、リンは無言でメモに視線を落としている。―――何故だか調査に向かった自分たちを、リンがわざわざ追いかけてきたのだ。

こちらにばかり戦力を割く事は出来ないと、ジョンは真砂子と綾子の班に回っている。

あの格別仲の悪い2人の仲裁に入らなければならないジョンが可哀想ではあるけれど、こちらもこちらでどことなく重い空気に耐えなければならないのだから、自分だってある意味可哀想なんじゃないかとは思う。

どうせなら自分が向こうに回れれば一番良かったのだが、霊視が出来る人間を一組に纏める事など出来ないのだから仕方がない。

そもそも、何故突然リンが自分たちと合流を果たしたのか・・・―――そんな事をぼんやりと思っていると、不意にリンの視線が自分へと向けられたことに気付き、は慌てて姿勢を正した。

「・・・何か感じますか?」

「い、いや?幸いな事になにも・・・」

「この場合、それが幸いなのかどうか複雑なところだけどな」

リンの計算では本日6度目の除霊を終えた滝川が、がっくりと肩を落として隣に立つ。

除霊は気力と体力を使うのだという。―――何も出来なくてごめんなさいね、とは自分の両隣に立つ長身の男を見上げて乾いた笑みを浮かべる。

なんだか包囲されているような気になるのは、果たして気のせいなのか。

既に赤く染まりつつある校舎の窓の外の空を見上げ、は大きくため息を吐き出した。

 

じるという事は

 

「もうそろそろ暗くなってきたし、今日はこの辺で切り上げますか」

そんな滝川の提案に乗り、3人はベースに向かい廊下を歩く。

霊の活動は寧ろこれからが本番な気もするが、効果があるのかどうかも曖昧な除霊を何度も繰り返していた滝川に、これ以上働けなどには言えない。

それに日が落ちて、そうして昨日のあの男の霊をまた見る事も怖かった。

いくら霊能者の端くれとはいえ、あんな体験はしないに越した事はないのだ。―――そんな事を口にしようものなら、誰かしらからの反論はあるのだろうが。

見回りの為に外していたブレスレットを付け直して、はホッと一息吐く。

このブレスレットがどれほどの効力を発揮するかは疑問の残るところではあるが、いつもつけているものだけに外していると落ち着かないのだ。―――それにお守りはないよりはあった方が良いに決まっている。

「そういや、前に言ってた影みたいな奴って今も見えたりするのか?」

ぽつぽつと廊下を歩きながら、不意に滝川がそう問い掛ける。

「んー、そうだね。見えるっていえば見えるっていうか・・・だんだんはっきり見えるようになってきたっていうか・・・」

「・・・それって俺らの除霊、効果なしって事なんじゃ」

「頑張れ、ぼーさん」

思わず頬を引き攣らせる滝川に、精一杯のエールを送る。

そりゃ頑張るけどよ・・・と独りごちながらも哀愁の漂う滝川の背中を眺めながら、ふとは隣を歩くリンへと視線を向けた。

「そういえば、リンさんって除霊とかしないの?そういうのって見た覚えがないんだけど」

「私の仕事ではありませんから」

前を向いたままさらりと答えるリンに、と滝川の眉間に皴が寄る。

それでは出来るのか出来ないのかの答えが解らない。

確かにリンの仕事は機材のチェックなどが主だけれど、仮にも心霊現象の調査を主とする仕事についているのなら、除霊が出来ても不思議ではない。

そういえば・・・とはナルの姿を思い出し首を傾げる。―――麻衣がバイトに入る前、2人で仕事をしていた時は、一体どうしていたのだろうかと。

調査をするだけしておいて除霊は出来ませんでは、依頼人も納得しないだろう。

滝川たちのような助っ人がいたのだろうか?―――それならばそれで、自分たちとも鉢合わせしていても可笑しくはないと思うのだけれど。

相変わらず謎が多い人物である。

特ににとっては、ナルよりも寧ろリンの方が謎だ。

日本嫌いの彼が、どうして日本で仕事をしているのかという事も。

むっくりと顔を出した好奇心に、聞いてみたいけれど聞いても答えてくれるとは到底思えず、けれど聞いたら聞いたで答えがなければもっと気になるだろう。

それでもこの疑問をそのまま流せるほど、の好奇心は弱いものでもなくて・・・。

どうしようかなと頭を悩ませていたその時、不意に嫌な気配を感じては反射的に振り返った。

不可解な現象が続いているためか、放課後になれば生徒たちは我先にと帰っていく。

それ故にシンと静まり返った廊下が酷く寒々しく目に映る。―――どうして誰もいない学校は、こんなにも寒く、静かで、恐ろしいのだろうか。

「・・・どうした?」

様子の可笑しいに、気が抜けた様子を見せていた滝川が表情を引き締める。

「・・・なにか」

「なにか?」

静かに先を促すリンの声に、は眉間に深く皴を刻んで。

「なにか、変な感じがする」

ゾクリ、と背筋に悪寒が走る。

この感覚を、は知っている。

「ベースの方。なにか・・・いる」

いつもとは違う弱々しい声で呟かれたの言葉に、弾かれたように滝川が駆け出した。

「ぼーさん!!」

それに我に返ったが慌てて付いて行こうとすると、グッと何かに腕を捕まれ行動を遮られた。―――その何かを振り返って、は抗議の声を上げる。

「ちょっ!リンさん!?」

「貴女は行かない方がいい」

捕まれた腕に更に力が込められるのに気付き、は訝しげに眉を寄せた。

彼の言わんとしている事が解らない。

ベースには麻衣がいるのだ。―――このまま放ってはおけない。

しかしそんなの心の中を読んだのか、リンは変わらず静かな口調で続けた。

「貴女が行っても、どうにもならないでしょう?」

「だからって・・・!」

「滝川さんが向かいました。ここは彼に任せるべきです」

淡々とそう言い含められ、はグッと唇を噛む。

しかしリンの言っている事が正しい事も解っていたし、この中では滝川が一番適任なのだろうという事も解っていたから、は一切の抵抗をやめて小さく息を吐いた。

「・・・やだなぁ、もう」

リンの視線から逃れるように俯いて、は小さく独りごちる。

結局、こうだ。

結局はこうなってしまう。

リンの言っている事は正しい。―――それでもは、リンの腕を振り払ってでも行動できない自分を情けなく思う。

そんなを見下ろして、リンは掴んでいたの腕を放すと、その手で彼女の手を引き歩き出した。

「リンさん・・・?」

「もう大丈夫でしょう」

言葉少なく答えられ、は促されるままに滝川が駆けて行った廊下をゆっくりと辿る。

「・・・リンさん、私」

「なんですか?」

シャラ、と左手のブレスレットが小さな音を立てる。

「ううん、・・・なんでも、ない」

のど元まで出掛かった言葉を飲み込んで、はゆるゆると首を横に振った。

何処か寒々しい景色。

静まり返った校舎は、日常とは切り離されているかのよう。―――まるでここにいる自分たちをも、拒絶しているようで・・・。

そんな空気を、は知っている。

足元から這い上がってくるような不安と、恐怖を。

「・・・麻衣、大丈夫だよね」

「ええ」

見た目からは想像出来ないほど温かいリンの手と、短いながらも肯定する気遣う声が、今のにとっては何よりもありがたかった。

 

 

昨日、ベースに待機していた麻衣とナルが女の霊に襲われた。

その後、深夜ナルの部屋にも同じ女の霊が出たらしく、彼は一晩中その女の霊とにらめっこを続けていたらしい。―――流石に根性が違うな、とは思わず感心したほどだが。

そうしてちょうど駅で会った綾子と共に学校へと到着したたちは、そこでナルが出したこの事件に関する最終結論を聞かされる事になる。

それは・・・。

「呪詛ぉ!?」

思わず上がった滝川の素っ頓狂な声に、しかしナルは動じる事無くしっかりと1つ頷いた。

「そうだ。ここでは人を呪うための呪法が行われている。それがすべての原因だ」

「呪・・って、ほんとにそんな事出来んの!?」

「誰かがわら人形に釘でも打ってるってのか?」

「近いが違う」

ものすごい剣幕で詰め寄る滝川と麻衣を見返して、ナルはさらりと言ってのける。

「呪詛と霊と何の関係があるのよ」

「人形に釘を打つ呪法は、もともと陰陽道から来たものだ。麻衣の為に簡単に説明するが・・・」

綾子の問いをもさらりと流し、そうしてムッとした表情を浮かべる麻衣をチラリと横目で見やり、ナルは呪詛についての説明を始めた。

陰陽道には、人を呪う呪法に『厭魅』というものがある。

人形や呪う相手の持ち物を使う呪法で、そもそも『わら人形に釘を打つ』というのはこの厭魅の術なのだという。

普通は呪いのわら人形というと、人形に釘を打った人間の恨みの念が伝わる事で害を成すと考えられるが、呪者―――呪いを行う人間は、人形に釘を打つことで神や精霊に呪殺を頼むのだ。

それを受け入れて神や精霊が相手を呪殺に向かう。

「つまり、呪者は厭魅の法を行う事によって、神や精霊・・・果ては悪霊を使役する事になる」

淡々と続けられるナルの説明に、部屋の中がシンと静まり返った。

「今この学校で起こっているのは、間違いなく厭魅だと思う。誰かがこの学校関係者に対し厭魅の法を行い、呪われた相手の元に悪霊が訪れる。悪霊は一晩で相手を殺す力を持たず、苦しめながら徐々に死に導く。―――まぁこれは仮説だが、そのせいで学校中に『変な事が起こっている』という噂が立ち・・・」

「神経質なお人やったら影響を受けてしまいますね。自分にも何ぞあるんやないかって」

「そう、極端な例があのキツネ憑きの女の子だ。かくて学校をあげての大騒動になってしまったというわけだな」

なんともとんでもない話である。

まさか真相がそんなものだったなど、考えもしなかった。

そういえば一清が何か難しそうな顔で考え込んでいたな・・・と思い出し、もしかするとこの真実の可能性を考えていたのかもしれないと今ならばそう思う。―――まぁ元より曖昧な発言はしない人物であるから、彼が何も言わなかったという事は本当にただの可能性の1つに過ぎなかったのかもしれないけれど。

「・・・にしたって、誰がそんな」

「そうだよね。被害に合ってる人数だって半端じゃないし、誰がどんな理由でこんな面倒な事・・・」

「そんなもの決まってますわ。笠井さんでしょ」

まさにキツネに摘まれたような面持ちでそう言い顔を見合わせる滝川とに、しれっとした様子で真砂子が言い放った。

それに抗議の声を上げかけた麻衣を遮って、綾子もまた相槌を打つ。

普段はまったく噛み合わない2人だが、こういう場面ではとても気が合うらしい。

「そーよねぇ。自分の超能力を否定された上に吊るし上げでしょ?おまけに庇ってくれた先生も酷い目にあって・・・。その上『呪い殺してやる』って言ったわけじゃない。言葉通り、呪詛をやったってワケだ」

「か、笠井さんなわけないじゃん!!」

「なーんでよ。他に誰かいる?」

「そ、そんなの・・・解んないけど」

綾子の追及に、麻衣はグッと言葉に詰まったように口を噤む。

笠井を庇いたい麻衣の気持ちも解らなくはないが、現実問題一番怪しいのは今のところ笠井なのだ。

それだけの動機もある。―――問題は、彼女にそれを行えるだけの実力と知識があるかだけれど、彼女の慕う産砂先生はそちら方面の知識も豊富だという話だし、調べようと思えばいくらでも調べられるだろう。

は笠井という女生徒を直接は知らない。

すべて麻衣から聞いた話だけで構成されたイメージでしかない。

確かに麻衣の話を聞いていれば、そんな事をするような子ではないみたいだけれど、やはり人から聞いて思ったのと自分の目で見て感じたのとでは違うのだ。

「一番怪しいのは笠井さんだ。被害者の1人・・・吉野先生は、朝礼で彼女を吊るし上げた張本人だからな」

ナルの言葉に、の脳裏に初日に出会った顔色の悪い先生の姿が浮かぶ。

確かに超能力は人には理解されない力だし、スプーン曲げなどその際たるものなのだから信じられないのは仕方ないかもしれないが、それを示す方法は確かに間違っていたとそう思う。―――これではただの教師公認のイジメでしかない。

そんな中で学校生活を強いられた笠井が、どれほど心に傷を負ったか・・・―――には想像する事しか出来ないが、それは簡単に消えるものではないだろう。

「・・・でも、違うもん」

今まで押し黙っていた麻衣が、小さな声でそう反論した。

「絶対と言えるか?放っておいたら死人が出るかもしれないんだぞ」

脅しを含んだ言葉に、麻衣がビクリと肩を震わせる。

その言い方はある意味卑怯なのかもしれないけれど、危険がそこまで迫っているという事実には違いない。

もうここまで来てしまった以上、長引く事は許されないのだ。

しかし麻衣は一瞬俯いた後、パッと顔を上げてまっすぐナルを見返した。

そこには迷いも不安もない。―――ただそれが真実だと信じる固い信念がそこにはあった。

「笠井さんじゃないよ、絶対!」

力強い声で告げられる麻衣の言葉に、軽く目を見開いたは僅かに口角を上げる。

ここまで信じてもらえる笠井は幸せものだ。

そうしてこんな状況でも彼女を信じる事が出来る麻衣の強さが、には羨ましかった。

「な〜に言ってんのよ」

「いいじゃん、それで。麻衣がそこまで言うんなら、信じてみても」

鼻で笑う綾子を遮って、はそう口を挟む。

確かに予断を許さない状況だけれど、誰か1人くらい麻衣の味方がいてもいいと思う。

それに麻衣がそこまで言うのだから、笠井が犯人ではないかもしれないとそうも思えるから。

「・・・断言できるか?」

「出来るよ」

「また麻衣の勘か?」

「そうだよ!」

感情の読めない表情で問い掛けるナルに、麻衣は挑むような眼差しを向ける。

そうして一拍の後、ナルは負けたとばかりに大きくため息を吐き出して。

「・・・いいだろう。信じてみよう」

「ほんと!?」

およそナルとは思えない寛容な決断に、麻衣がパッと表情を明るくした。

そんな麻衣とナルを見比べて、小さく息をついた真砂子が静かに口を開いた。

「死人が出ても存じ上げませんことよ」

「解っている、呪詛を放っておけない。僕らは犯人を捜す。みんなには人形を探してもらいたい」

ナルに限って考えがないはずもなく、すぐさま次の指示が下る。

しかしその内容に、滝川、、そして綾子は揃って表情を引き攣らせた。

「・・・なに?」

「厭魅を破る方法は2つ。呪詛を呪者に返すか、使った人形を焼き捨てるか。―――人形は相手にとって身近な場所に埋めるんだ。犯人が学校関係者ならこの学校の何処かにある可能性が高い」

「そりゃ、確かにそうだろうけど・・・」

淡々と紡がれるナルの言葉に、は引き攣った笑みを浮かべながら控えめに抗議の声を上げる。

そりゃ、言うのは簡単だけどさ・・・と。

「おいおいおい、どんだけの広さがあると思ってんのよ。全部掘り返せって?学生会館の建設予定地まで入れたら、アンタ!」

「少なくとも、犯人が僕との人形を埋めたのはこの2・3日のはずだ。まだ埋めた跡が解るだろう」

「そーじゃなくて!!」

「やりたくなければ帰るか?」

あくまでも簡単に言い切るナルに、滝川は更に抗議の声を上げる。

しかしゆっくりと振り返ったナルの冷たい視線に、思わずその口を閉ざした。

「・・・怖っ」

「・・・やります」

「ちょっと、負けてんじゃないわよ!!」

すぐさま身を引いた滝川とに文句を言う綾子を横目で睨みつけて、は思わず自分の両腕をさする。

その辺の悪霊なんて目じゃないほど、今のナルの眼差しは怖かった。―――他の誰よりも、今の彼を敵に回すべきではない。

どうせ抗議したところで人形探索から逃れられるわけでもないのだし、ここは1つ大人しく従う方が身のためだ。

「そんじゃ、身を粉にして働きますか」

「そうだね。まるで馬車馬のようにね」

これ以上何か言いつけられないうちにと、滝川とはさっさと立ち上がりきょとんとするジョンを連れてベースを出る。

そうしてしばらく歩いた後、階段の踊り場で立ち止まった3人は、それぞれ顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「さてと、どこから探しますか」

「こうゆうのんは、やっぱり人目につかへんところちがいますか?」

「人目につかないところね〜。んじゃ、教室とかは除外でしょ。っていうか、そうなると校舎内にはないんじゃない?外の敷地のところとか・・・」

「敷地つったって・・・」

どれだけ広いと思ってんのよ・・・と、手近にあった窓から外を眺める。

普通の学校でもそれなりの広さがあるというのに、湯浅高校ではこれから学生会館なるものを建設するらしく、まだ工事に入っていないその広大な土地も範囲には入っている。

しかも犯人は見つからないようにと隠しているのだろうから、それをまったくの手がかりなしに見つけるなど、まさしく砂漠の砂の中から砂金を見つけるようなものである。

、お前なんか直感とか働かねーの?ここら辺にある気がする・・・みたいな」

「私べつに探知機とかそんなんじゃないんだけど。ぼーさんこそ、その野生の勘でなんとかならないの?」

「野生って・・・!」

とりあえず外へ出る為に階段を下りながらくだらない会話を交わす滝川とに、後に続くジョンが苦笑いを零す。

「ジョンは?神様からのお告げとかねーの?」

「ぼーさん。神様馬鹿にすると天罰下るよ」

「別に馬鹿にしてねーよ。ほら、言うだろ。困った時の神頼みって」

「・・・そっか。ジョン、そこのところどんな感じ?」

「い、いえ。残念ですけど・・・」

なんかもう、無駄話でもしてないとやってられない気分なのかもしれない。

とりあえず校舎裏とか体育館裏とかが怪しい、という偏見の入ったの意見に流されるように、3人は一番近い体育館へ向かう。

要するにどこでもいいのだ。―――どっちにしたって、手がかりらしいものは何もないのだし。

「そういえばさ、昔こんな事したよね。宝探し〜みたいな」

「ああ、したした。宝の地図とか勝手に作ったりな」

言いつつ近くの茂みの中を覗き込む。

特に変わった点は見られないが・・・―――まさかチラリと覗いただけで確認を終われるはずもなく・・・。

「では、宝探しと行きますか」

「よっしゃー!見つけてナルの鼻明かしてやる!」

無駄にガッツポーズをしつつテンションを上げながら、3人は手分けして辺りの探索を開始した。

植えられている花壇や茂みの中や、校舎と校舎の細い隙間。

とりあえず覗いただけで解るような場所は掘り返されていない。―――まぁ、そんな簡単なところに隠したりはしないだろうが。

「んー、これは思ってた以上に厄介かも・・・」

小さく独りごちながら、はぐるりと辺りを見回す。

そうしてふと目に付いた古びた小屋のようなものを見つけ、何気なくそちらへと足を向ける。

埃で曇った窓ガラスを覗き込むと、どうやらそこは体育倉庫らしい。―――かなり古い為、もしかすると今は使われていないのかもしれない。

「ちょっと怪しい気もするけど・・・」

鍵など持っていない為、どうせ中には入れないだろう。

そう思いながらも試しに扉を押してみれば、それはいともあっさりと音を立てて開いた。

「あ〜らら、開いちゃった」

呟いて中を覗き込むが、やはり同じく埃を被った用具しか置いてない。

それでも開いてしまった手前そのまま無視するわけにもいかず、気は進まないもののは体育倉庫に足を踏み入れた。

途端に舞い上がる埃に顔を顰めながらも、ゆっくりと中へ進入する。―――無駄だろうと思いつつも途中で見つけたスイッチを押せば、ちかちかと音を立てて明かりが灯った。

意外な事ばかりが続くものである。

この調子で人形見つからないかな〜と調子の良い事を思いながら埃の積もったマットの裏を覗き込む。

下はコンクリートだ、地面に埋めるなどという事は不可能だろう。

ならば天井裏かとも思うが、生憎とには手が届かない。

何か台になりそうなものでもないかと倉庫内を見回すが、それらしいものもない。

「・・・仕方ない、ぼーさん呼んでくるか」

いくら滝川が長身だとはいえ届くかどうかは解らないが・・・。

そう結論を出してが振り返ったその瞬間、カチカチと音を立てて電球が点滅したかと思うとパッと明かりが消えた。

「あ〜あ、消えちゃった」

天井を見上げて思わず呟く。―――もう使われてはいない倉庫みたいなので、仕方がないだろうが・・・。

そう思って改めて外へ出ようと足を踏み出したその時、バタンと音を立てて扉が閉まる。

「うわっ!・・・びっくりした」

風で閉まったのだろうかとも思ったが、扉は重い鉄で出来ている。―――ちょっとやそっとの風で閉まるわけがない。

慌てて扉へと駆け寄り押し開けようとするが、何故か扉は開かない。

鍵でも掛かってしまったのだろうかと考えを巡らせるが、そもそもここは鍵など掛かっていなかったはずだという事を思い出す。

「ちょ・・・嘘でしょ?」

嫌な予感に、はバンバンと扉を叩く。

近くには滝川もジョンもいるのだ。

すぐに気付いて開けてもらえる。―――そう思うのに、嫌な予感は消えてくれない。

「ぼーさん!ジョン!―――ごほっ」

声を張り上げるけれど、なかなか2人は現れない。

吸い込んだ埃で咳き込みながらもただ2人を呼び続けていたは、しかしゾクリと背筋を走った悪寒に思わず身体を強張らせた。

反射的に左手首に手を這わせる。

涼やかな音を立てるブレスレットの存在に安堵しつつも、は嫌な予感を全身に感じながらゆっくりと振り返った。

嫌な予感ほど、当たりやすいものだ。

ポタリ、と倉庫内に水音が響く。

こちらを見つめる虚ろな眼差し。

それは何も映してはいないようで・・・―――けれどしっかりとの姿を捉えていた。

「・・・ぼーさん、ジョン」

冷たい扉に背中を押し付けながら、は小さな声で2人の名前を呼ぶ。

咽が張り付いて、上手く呼吸が吸えない。

搾り出した声は、まるで自分のものではないかのように掠れていて・・・。

決して『それ』から目を逸らす事も出来ないまま。

声にならないの唇が、もう一度滝川とジョンの名を呼んだ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

こんなところで切ってみたり。

ぼーさんはともかく、リンと絡ませるのは予想以上に難しいと判明。

何とか無理やり絡ませてはみましたが、なんかもういっぱいいっぱいな感じが・・・。

作成日 2007.10.15

更新日 2008.1.7

 

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