ファイルを片手に、人気の少ない廊下に立ち尽くして。

「教室の中は暖房効いてるのに、廊下は暖房効いてないんだもんなー。くそー、自分は涼しい顔してベースにいるくせに、人をこき使いよって・・・!!」

ぶつぶつと文句を言いながらも、はまだ生徒が残っている教室を探して廊下を歩く。

ヲリキリさまという名前がつけられてはいるが、その実態はコックリさんだという今この学校で流行の遊びをしている生徒がどれくらいいるかの調査に狩り出されたは、先ほど突入した教室にいた生徒たちの返答にうんざりした表情を浮かべながら、ナルに手渡されたファイルにチェックを入れる。

ほんとうに、こんな遊びのどこが楽しいのか・・・―――寧ろやっていない人数を数えた方が早いんじゃないかという結果に思わずため息を漏らす。

「・・・ヲリキリさま、ねぇ」

そんな何でもかんでも答えを教えてくれる神様なんているわけないっつーの!と心の中で愚痴を零しながら、は人の話し声が聞こえる教室のドアを躊躇いなく開けて顔を覗かせた。

「は〜い!この中でヲリキリさまやった事ある人〜!―――え?私?一見怪しく見えても本当は怪しくないから気にしないで。校長に頼まれてこの学校の怪現象の調査に来た者なんだけど・・・。うわっ!ちょ!まだ調査始めたばっかだから何も答えられないって!解〜ったから!この中でヲリキリさまやった事ある奴、手ぇ上げろー!!」

静かな廊下に、の絶叫が響き渡った。

 

コックリさんの真実

 

「・・・ひ、酷い目にあった」

ぼろぼろになりながらも何とか聞き込みを終えて教室を出たは、肩を揺らして大きく呼吸をしながらトボトボとベースに戻るべく廊下を歩く。

確かにこんな状況だけに不安な気持ちも解らなくはないが、だからといってまるで救世主のごとく縋りつかれてもとしても困ってしまう。―――まぁ、自分の登場の仕方や質問の仕方に問題がなかったとは言わないが。

もみくちゃにされたおかげで痛む身体をグッと伸ばし、首を回して身体をほぐした後ホッと息を吐く。

一応は任せられた仕事は終わったわけだが、手に入れた結果を見る限り解決への道のりはまだまだ遠そうだ。

それどころか、解決する見込みすら怪しい。

ナルと仕事をするようになってからそれなりに経つが、受ける仕事のレベルがだんだん高くなってきている気がするのは果たして気のせいなのか・・・。―――いっそ気のせいであって欲しいが。

「あー、疲れた。女子高生ってなんであんなに元気なんだろ。あのエネルギーを何かに活用できたらすごい省エネになりそうだよね〜」

誰に言うでもなくそう呟く。

お前も女子高生だろう、と律儀に突っ込んでくれる滝川はここにはいない。

ちょっとした空しさを感じながらがため息を吐き出したその時、不意に人の気配を感じてはゆっくりと振り返った。

「・・・ん〜?」

進行方向の先、日が翳って暗くなったそこに誰か立っている。

スカートを履いていないから、おそらくは男子学生だろう。―――あんなところで何をしているのだろうかと訝しげに思いながらも、ちょうどいいとばかりにはその男子学生に向かって声を掛けた。

「あの〜、すいませ〜ん。ちょっとアンケートに答えて欲しいんですけど〜・・・じゃなかった。質問したいんだけどいいですか〜?」

自分のボケにセルフ突っ込みを入れながら、はゆっくりとそちらへ歩み寄る。

「え〜・・・と。あなたはヲリキリさまってした事ある?あるんなら何回くらいかな?出来るだけ正確な数を教えてもらいたいんだけど・・・」

の問い掛けにゆっくりと振り返る少年を前に、しかしは踏み出していた足を止めた。

「・・・・・・?」

どうしてこの少年は笑っているのだろう?

たった1人で、こんな寒い廊下に立って。

怪現象が起こる中、他の生徒はあまり1人でうろうろしたがったりはしないのに・・・。

「・・・あの〜、あなた名前」

「あれ?こんなところでどうしたんですか、

改めて問い掛けようとしたの声を遮って、背後から掛けられた声にはビクリと肩を震わせる。

そうして恐る恐る背後を振り返れば、そこには同じく雑用に狩り出された安原が相変わらずのニコニコとした笑顔を浮かべて立っていた。

「・・・いた。ここにも笑ってる人間が」

「え?」

「いいえ、なんでも」

そう考えれば、先ほどの少年が笑っていた事はさほど珍しくはないのかもしれないとは思い直した。―――まぁ、安原と比べる事自体が間違っている気がしないでもないが。

「それで、こんなところで何してるんですか?調査は終わりました?」

「終わったよ。でも、ほら。あそこにも1人男子生徒がいたから、ついでに話を聞いておこうかなと思・・・あれ?」

不思議そうな表情を浮かべる安原に説明しながら前方へ視線を戻したは、先ほどまでそこにいたはずの男子生徒の姿がない事に気付いて首を傾げる。

怪しい人間とは係わり合いになりたくないと、さっさと何処かへ行ってしまったのだろうか?

それとも安原と話すを見て、自分への用は終わったのだと判断したのだろうか?―――そのどちらもありえる気がして、は乾いた笑みを浮かべる。

「・・・?」

「ああ、なんでもない。調査も終わったし、ベースに戻るところ。安原くんは?」

「僕も一通りの聞き込みは終わったので、会議室に戻る途中です」

不審なの様子に追求するつもりはないのか、安原は何事もなかったかのように笑みを浮かべながらそう返す。

それじゃ一緒に行きましょうか・・・という安原の提案を断る理由もなく、は寒い廊下を安原と2人並んで歩き出す。―――ふと何気なく視線を向けたそこに、やはり少年の姿はなく。

ほんの僅かに感じる違和感。

それが何かと問われれば、しっかりとした答えを返せるわけではないのだけれど。

それでもその僅かな違和感に気付かぬふりをして、はやんわりと微笑みながら首を傾げる安原を促しベースへ戻るべく足を踏み出した。

 

 

2人がベースに戻った時、同じく聞き込みに出ていた麻衣は既に戻っていた。

「おー、お帰り。どうだった?」

「どーもこーもないよ、ほんと。かなり流行ってるみたいよ、ヲリキリさま」

資料を片手に出迎えた滝川に軽くそう返して、は持っていたファイルを机の上へ置いて椅子に座り込む。

「あたしの方も似たような感じ。やってない人探す方が早そうだよ」

「僕の方も似たような結果でしたよ」

ついでに報告をする麻衣と安原に、うんざりとした表情を浮かべていた滝川が耐えかねたように立ち上がった。

「マジでか。あーもーカンベンしてくれよ。学校あげてのコックリさんだぜ?どんだけの霊がここにいると思うよ?」

「どんだけ?」

滝川の言葉に素直に首を傾げた麻衣を見返して。

「霊の満員電車ってトコかしら?」

「上手い事言うね、ぼーさん」

「・・・ヤダ、そんなの」

軽い調子で相槌を入れるを見返して、麻衣はあからさまに表情を歪めて呟いた。

霊の満員電車。―――確かに想像するだけで寒気が走りそうだ。

そうしてまさにそれを想像してしまった滝川は、表情を引き攣らせながら窓際に佇むナルへと視線を向ける。

「ナルちゃんよ〜、本気でやんの?・・・やなんだよね、コックリさんて。とんでもねぇ霊を呼び出したりするからさー」

「そこを何とかお願いしま・・・」

「そーだ!除霊のやり方教えるから君がやれ!そーだ、そーしよう、そりゃいーわ。はい、決まり〜」

いつも通り変わらないにこやかな笑顔で申し出る安原に掴みかかる勢いで、滝川が反論する間も与えない勢いでそう捲くし立てた。

それを横目で眺めながら、が小さく息を吐き出す。

「・・・ぼーさん、気持ちは解るけど現実逃避は止めようよー。・・・いや、でも安原くんなら意外に・・・」

確かに一般人である事に間違いはないが、わりと何でもそつなくこなす安原なら出来るかもしれないとそう思って、はまじまじと安原の顔を見つめた。―――勿論、半分以上が冗談ではあるのだけれど。

「ぼーさん!!!」

そんな滝川との言動を前に、麻衣が咎めるように声を上げポカリと滝川の頭を軽く叩いた。

しかし多くの目撃談に滝川もまた追い詰められているのか、麻衣に叩かれた頭を押さえながら彼もまた反論する。

「だって!んじゃお前、あの松山の態度見てやる気出るかー?」

批難の混じった声色に、麻衣はと顔を見合わせて僅かに表情を歪める。

確かに、滝川の言う事にも一理ある。

別に感謝して欲しいわけでも労わって欲しいわけでもないが、だからといって批難されてもなんとも思わないわけではない。

明らかに疑いを持った眼差しと言葉。

霊能者という一種怪しい職業に就く人間を怪しむのは当然の事かもしれないが、だからといってあの態度はないのではないかとも思う。

そんな2人の無言の思いを感じ取ったのだろう。―――静かに話を聞いていた安原がしたり顔で頷いた。

「すみません。松山はああいう奴なんです」

「・・・は?」

「生徒たちもね、あいつに関してはサジを投げてるんですよ。人の意見なんか聞くやつじゃないですから、こっちが大人になって我慢してやらないと」

仕方がないと言いたげにそう話す安原を見つめて、2人はなんとも言えない表情を浮かべながら立ち尽くす。―――唯一安原と面識があるだけは、納得したように頷いていたが。

ここまで言われる松山もすごいとは思うが、優等生の仮面の裏でこんな事を考えている安原もすごいと思う。

そこまで考えて、滝川はある事を思いつき微かに首を傾げて口を開いた。

「あ、そんじゃ松山になんか言われたんじゃねーの、安原くん。俺らんとこに依頼に来ちゃってさ」

「大丈夫です。僕は成績いいから」

あっさりと告げられたその言葉に、呆気に取られた滝川は「・・・ああ、そう」とだけ呟いて乾いた笑みを浮かべた。

それこそがこの学校での唯一の免罪符なのかもしれない。―――勿論それだけで何をしても許されるわけではないだろうが。

確かに彼らはそういう事に拘りそうに見えた。

「・・・なかなかいい味出してるでないの、きみ」

「ありがとうございます」

感心半分呆れ半分でそう呟いた滝川にも、安原は平然とそう答え笑みを浮かべる。

だから安原くんは敵に回したくないのよね・・・とが心の中で独りごちたその時、窓際に背中を預けて無言のまま外の景色を眺めていたナルが唐突に口を開いた。

「・・・日本中に、コックリさんをやってる学校がどれだけあると思う?」

静かな問い掛けに、わいわいと騒いでいた4人は口を噤んでナルを見つめる。―――そうして彼の質問の意味するところを察した安原が、先ほどとは違う真剣な面持ちで口を開いた。

「ああ、何故うちの学校に限ってこんな風になったのかって事ですね」

この学校に何か特別なものでもあるのか。

たとえば霊を呼びやすい土地柄であるとか・・・―――もしくは、呼んだ霊を出にくくする何かがあるのか。

しかし問題はそれだけではない。

「素人が降霊会をやったからといって、必ず霊を呼べるものじゃない。仮にコックリさんで浮遊霊を呼べたとして・・・―――その中にたまたま強い奴がいて害を及ぼすというのも解らなくはない。しかし、それだけにしてはこの数は異常だ」

「・・・まぁな」

ナルの言葉に、ボードに貼り付けたこの学校の見取り図を見つめながら滝川が同意を示す。

余すところなく書き込まれた怪現象の記録。―――確かに尋常な数ではない。

「・・・ねぇ、基本的な質問なんだけど。コックリさんってほんとに霊を呼べるの?」

黙ってナルの話を聞いていた麻衣が、ふとそんな質問を投げ掛けた。

「そうだなー。霊能者ならねぇ」

「あたしも中学の時やった事あるんだよね。10円玉の上に指を置く奴。びっくりするくらい動くし結構色々当たったけど、それはなんなの?」

麻衣がやったのはかなりポピュラーな部類に入るものだろう。―――よく聞くコックリさんのやり方だ。

自身はコックリさんをした事がないのでよくは知らないが、確かに彼女の友人も同じような事を言っていた。―――勝手にコインが動いて、よく当たるのだと。

あまりそちら方面に興味がなかったは、本当かどうか怪しいものだと思った記憶がある。

そこの辺り、真相はどうなのだろう?ともまた滝川へと視線を向けて。

そうして、と麻衣に純粋な眼差しで見上げられ、滝川はうっと言葉に詰まった。

「・・・なんスかね、先生」

「ちょっと・・・」

「・・・おい」

顔を引き攣らせながら話をナルへとふった滝川を呆れた眼差しで見上げながら、釣られるようにして2人もまたナルへと視線を向ける。

するとナルは小さくため息を吐き出して、麻衣へと向かい「コックリさんの要領で机に手を置いてみろ」と指示を飛ばした。

「う?・・・こう?」

「震えてる。動かすな」

言われた通りに机を指すように人差し指立てた麻衣を見て、ナルはさらりとそう言い放つ。

「えー?動かしてな・・・い、つもりなんだケド」

しかし麻衣にそんなつもりはない。―――ムッとして反論しようとするが、しかしナルの言う通り、微かな指先の震えは収まらなかった。

「・・・微かですけど、震えてますね」

確かめるように覗き込んだ安原もそう告げる。

おかしいな〜と自分の人差し指を見つめて首を捻る麻衣に、ナルは更に口を開いた。

「解ったか?人間の身体はそういう風に出来ているんだ」

これを大勢でやると、お互いの震えが影響しあってコインが動く。

誰も動かしたつもりはないから、不思議に思えるのだという。

それでも麻衣はまだ納得できないらしい。

「でもー。じゃあなんで当たったりすんの?」

プクリと頬を膨らませて更に反論する。―――本当のところは、あっさりといい含められて悔しいだけなのかもしれないが。

「こういう事をやろうという人間は、質問に対する答えが当たれば面白いと思っている。その期待が本人も意識しないうちにコインを動かしてるんだ」

「でもでも!あたししか知らない事当てたりするよ!?」

「たとえば?」

「えと・・・あ!あたしのポケットに何が入ってるでしょう!!」

意気込んで言い放った麻衣を眺めながら、は思わず苦笑する。

コックリさんの真実の話をしていたはずが、何故かクイズになっている。

微笑ましいと思いながらもナルに視線を向けると、しかしナルは表情を変える事なく緩慢な動作で腕を組んだ。

「・・・すると全員が無意識の内に何が入っているのか推理する」

それぞれがバラバラの事を考えているから、思いがけない文字に動く事もある。

たとえば、『キ』。

すると次は『キ』の付くものを考える。―――『キーホルダー?』

「そして次には『−』に動き・・・最終的に『キーホルダー』という文字が綴られる」

ナルの言葉に、麻衣は恐る恐る自分のポケットへと手を伸ばす。

そうしてそこから軽い音を立てる『キーホルダー』を取り出した麻衣は、驚きに染まった表情でナルを見返した。

「・・・当たり」

「馬鹿。さっきから音がしてた」

「・・・あ」

思わぬ種明かしに表情を引き攣らせる麻衣をそのままに、ナルは淡々と言葉を続けた。

「やっている内、答えに当然だが当たり外れが出てくる。当たらなかった場合は『ああ、やっぱり』で済ませてしまうが、当たれば不思議なので印象に残る。―――実験してみれば解るが、2ダース質問して3つくらい当たると結構当たったという気がしてしまうものなんだ」

「24個のうち、たった3つですか。・・・はー」

まさかそんな確立での事だったのかと、安原は感心の声を上げる。

本当に、もっと当たっている印象があった。―――勿論正確に当たりの数を数えたわけではないから、本当のところは解らないけれど。

それにしても、さすがゴーストハンターとばかりに、は目を丸くしながらナルを見つめる。

いまだかつて、これほど整然とコックリさんについて説明してくれた人間がいただろうか?

確かに信じてはいなかったが、だからといってそれを説明する術をは持っていなかった。

今度友達がコックリさんをしようと言い出したらそう言って説得してやろうとは1人頷く。―――まぁ、勉学に高校生活を注いでいるクラスメートが、コックリさんをしようなどと言い出すとは思えなかったが。

ナルの説明を聞いて、麻衣もまた漸く納得したように頷く。

しかし滝川だけは、彼の説明に意外そうな面持ちで口を開いた。

「今の聞いてると、お前さんはコックリさんを信じてないみたいだな」

「そうだな。・・・僕自身はコックリさんに対しては否定的だ」

さらりと返ってきた言葉に、一同は思わず目を丸くする。

心霊現象の代名詞ともいえるコックリさんを否定するゴーストハンター。―――そんな人物がいるとは思っていなかった。

そんな面々を見回して、ナルは考え込むような素振りを見せて口を開く。

「誰もが霊は何でも知っていると思っているが、本当にそうなんだろうか?もし麻衣が霊になったとして、人の未来や心の中が解る自信があるか?」

「・・・ない」

「だろう?」

問い掛けられて、確かにそうだと全員が目を見開く。

霊は神様ではない。―――ましてや、預言者でも。

ただ強い未練を残してその場に留まっているだけなのだ。

そんな霊たちが、今も生きる人々の未来など解るわけがない。

物事の視点を変えてみればこんなにも簡単に違う答えが見えるものなのだと、この時は改めてナルの頭脳に感心した。

「僕は基本的に、霊が人間よりも知っている事は『死』と『死後の世界』についてだけだと思っているんだ」

最後にそう言葉を締めくくったナルに、麻衣は今度こそ完璧に納得できたのか小さく頷いた。―――その傍らで、滝川は僅かに頬を引き攣らせる。

「俺はいっぺんお前さんの頭の中が見てみたいよ」

「・・・いや、私はあんまり見たくないかも」

よくもまぁ、そんな事まで考え付くなと言わんばかりに呟く滝川の隣で、もまた頬を引き攣らせながらそう呟く。

そんな2人を見返し、ナルは「それはともかく・・・」と前置きをして。

「数が多すぎて除霊をするにも大本が解らない。全員が揃うのを待って手当たり次第にやってみるしかないだろうな」

そう結論を出したナルに、しかし滝川は意外そうに眉を上げた。

「なんで?ここにはがいるだろうが。こいつに見てもらえば大本が解るんじゃねーの?」

確かに・・・と、麻衣もまたへと視線を向けた。―――それに釣られた安原の視線も浴びて、は居心地悪そうに身じろぎする。

確かに、滝川の言う通りだった。

自身も思っていたのだ。―――いつそう言われるのか、と。

そしてはそれを拒否する権利もなければ、拒否をするつもりもない。

答える準備もかろうじてだが出来ている。―――まだはっきりとは断言出来ないけれど。

滝川のその言葉に、ナルもまたゆっくりとへと視線を向けた。

そうして何を言われるのかと固唾を飲んで待つを目にして・・・―――しかしナルの口から出たのは予想もしない言葉だった。

「今はまだいい」

「・・・へ?」

およそナルとは思えない発言に、その場にいた全員が目を丸くする。

今はまだいい、とはどういう事なのだろう。

現在の自分たちの状況は、まさに八方塞だ。―――今でなくて、一体いつ霊視をさせるつもりなのだろうか?

「おいおい、ナルちゃん。今はいいって、それってどういう・・・」

「この学校に来た直後の彼女の体調不良は知っているだろう?学校に足を踏み入れただけで顔を真っ青にするくらいだ。―――それだけで何かある事くらいは解る」

どうやらナルにはしょっぱなからバレていたらしい。

一応は気付かれないようにと平静を装ってはいたのだけれど・・・―――まぁ麻衣にも気付かれ、結局は体調不良に負けて全員に知られる事になってしまったが言える事ではないが。

「・・・無理はさせられない、って事か」

「そういう事だ。させるならせめてリンが到着してからだな。どうしても無理なら明日には原さんとジョンも合流する。―――どうせ本格的な活動はそれからになるだろう」

ナルの最終結論に、滝川も納得したように頷く。

彼もに無理をさせたいわけではない。

しかし1人安全区域に隔離されたような心境のは、難しい顔を突き合わせるナルと滝川を交互に眺めて。

「・・・私、今はもう別になんとも」

「何度も言わせるな。やるならリンが来てからだ」

ジロリと睨みつけられ念を押されたは、乾いた笑みを浮かべながらコクコクと頷く。

心配してもらっている事は素直にありがたいが、せめて表情がそれに伴っていればなお嬉しいのに・・・とはそんな事を思う。

どうせリンも同じような事を言うのだろう・・・と、は意外に心配性な寡黙な男性を思い出して、こちらも心配そうな表情を浮かべる滝川を見て苦笑を漏らした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

やっぱり主人公の出番がかなり少ない事が気がかりですが。

話が進むにつれて、どんどん主人公が絡みにくくなってきます。

説明がない部分なら何とか無理やり割り込ませる事も出来るのですがね。(専門的な部分が多すぎてなかなか切れない)

安原少年の登場、楽しみにしてたのに・・・。

作成日 2007.11.4

更新日 2008.3.17

 

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