嫌な予感ほど、当たりやすいものだ。

保健室の床が落ち、加えて天井までが落ちた現場に居合わせた麻衣とナルは、現在綾子の手によって怪我の治療を受けている。―――まぁ、麻衣はともかくナルはが差し向けたようなものなのだけれど。

危機一髪で駆けつけたナルに庇われた麻衣には、目立った怪我はない。

その麻衣を庇って落ちてきた天井を背中に受けたナルもまた、目立った怪我はないようだ。―――それだけが救いでもある。

「病院で見てもらった方がいいんじゃねーか?」

「大丈夫だよ。やー、まさか天井が落ちてくるとは・・・」

びっくりだよねと笑い掛けてくる麻衣に、は困ったように笑みを浮かべる。

本当なら滝川の提案どおり見てもらって欲しいのだけれど・・・―――責任感の強い麻衣にそう言っても、おそらくは聞き入れてもらえないだろう事は解っているから。

「でも良かったじゃない。ナルのおかげで、天井の直撃は免れたんだからさ」

だから誤魔化すようにそう言えば、瞬間的に麻衣が顔を赤らめる。

すぐに何を考えているのかを察してニヤリと口角を上げたは、しかし向けられる視線に固まり顔を上げる。

視線の先には、複雑そうな表情を浮かべる真砂子の姿。

麻衣が大した怪我もなかった事には安堵している様子だが、ナルに想いを寄せている者としては思うところもあるのだろう。

同じく視線を向けた麻衣と目が合うと、ぷいと不機嫌そうに視線を逸らす。

それにしまったと表情を顰める麻衣を横目に、は感心したように頷いた。

「いや〜、恋する乙女も大変だね〜」

「まったく無関係って顔してるんじゃないわよ。あんただって立派な乙女でしょーが」

呆れたような綾子の呟きをさらりと流して、人間って意外とたくましい・・・とは感心したように独りごちた。

 

事件のに潜むもの

 

とりあえず簡単な治療を終えた麻衣とナルを交えて顔を突き合わせた面々は、現在の状況に揃って難しい表情を浮かべた。

「しっかし冗談じゃねーぞ。部屋1つ分の床を沈没させるなんて、並みの霊に出来るこっちゃない」

滝川の呟きに、も困ったように天を仰ぐ。

確かに酷いポルターガイストに遭遇した事もあるが、流石にここまでの現象は見た事がない。

こんなにも簡単に部屋の床を沈没させたり天井を落としたり出来る霊を相手にするなど、想像の範疇を超えている。―――果たしてそんな霊を除霊なんて出来るのか・・・難しいところだけれど。

滝川の呟きを聞いた安原が、同じように困った様子で腕を組む。

「・・・つまり相当強力って事ですか?」

「強力っていうより、凶悪だ」

返って来た言葉に、こんな状況であっても飄々とした態度を崩さなかった安原の動きが一瞬止まる。

そんな霊が自分の学校に住み着いているなど、考えたくもないだろう。―――けれど事はもう誤魔化しの利かないところまで来ているのだ。

せめて解決策でもあればいいのだけれど・・・―――そうがため息を吐き出したその時、まるでうわ言のように麻衣がポツリと呟いた。

「孵化・・・したんだ」

「・・・え?」

思いがけない麻衣の言葉に、とリンが同時に顔を上げた。

それは先ほどが口にした言葉であり、夢の中のナルから告げられた言葉。

どうして麻衣がそれを知っているのか・・・―――残念ながら、この場でそれを問う事は出来なかったけれど。

今まで眠っていたものが、力を蓄え終わって孵化したのだ。

だからもう、誰にも手出しは出来ない。

麻衣から告げられる言葉に、全員が口を噤んで呆然と立ち尽くす。

今までにないほどの絶望的な展開だ。

何せ相手はとてつもない力を宿している。―――それが眠りから覚めた今、事態はどう転んでいくのか・・・。

 

 

しかし、展開は更に悪い方へと転がっていく。

「か、帰れって・・・。調査の途中なのに・・・?」

ナルから告げられた信じられない言葉に、麻衣は唖然とした様子で問い返した。

「会議でそう決まったんだとさ」

「この状態のままほっぽって帰れっての!?」

ナルの代わりに詳細を告げた滝川に反論すると、滝川は困ったように肩を竦める。

依頼人である校長は、ここまで事態が悪化した原因を、SPRの面々が中途半端に手を出したからなのではないかと疑いを抱いた。

まぁ、そう思われても仕方のない状況ではある。―――何せ自分たちがこの学校に来てから出来た事などほとんどないのだから。

「・・・まぁ、依頼人にそう言われちゃ、引っ込まなきゃしゃーねーだろ」

不本意な事ではあるが、反論して居座るわけにはいかない。

自分たちがこの場にいるのは、校長の許可があったからだ。―――本来は部外者である彼らが、この学校の責任者の言葉を無視できるわけがない。

「そんなこと・・・。ナル!いいの!?」

場に漂う諦めムードに、しかし麻衣は諦めきれずにナルへと声を荒げるが、ナルはファイルに目を通すだけで何も答えない。

それに焦れて更に声を上げようとした麻衣は、しかし言葉に詰まって俯いた。

「・・・だって、あれがいるのに・・・」

麻衣の小さな呟きに、は薄く目を細める。

麻衣が見たという強大な霊の姿。―――きっとそれは、が見た黒い獣と同じものなのだろう。

確かにあんなものを目の当たりにすれば、素直に引き下がれないのも当然だった。

あんな凶悪な霊、今までは見た事がない。

もしあれが本格的に暴れだせば、この学校の生徒にどんな影響があるのか・・・―――想像しただけで背筋がぞっとした。

「このままほっといたら、また残った霊同士が共食いして、そしたら・・・そしたらどんどん強くなって・・・」

「・・・麻衣」

「最後に一番強い霊が残っちゃうんじゃないの!?」

辛そうに表情を歪めながら言葉を続ける麻衣に声を掛けるも、麻衣は搾り出すようにそう叫び声を上げた。

その麻衣の叫び声に、全員が暗い表情を浮かべる。

しかし次の瞬間、ファイルに視線を落としていたナルが弾かれたように顔を上げた。

「・・・今、なんて言った?」

怒るでもなく呆れるでもなく問い返された言葉に、麻衣は先ほどの憤りも忘れてきょとんと目を丸くした。

しかしナルはそんな麻衣に構う事無く、確かめるように口を開く。

「共食いをして、一番強い霊が残る・・・?」

「う、うん・・・」

何か可笑しな事を言っただろうかと訝しげな表情を浮かべる麻衣を他所に、ナルは信じられないとばかりに目を見開いて。

「・・・なんて事だ。もしかしたら、これは・・・」

「・・・ナ、ナル?」

「霊を使った蟲毒だ」

戸惑った様子の麻衣の声を遮って告げられたナルの言葉に、こちらも訝しげに話を聞いていたとモニターと向かい合っていたリンが同時に顔を上げた。

蟲毒。―――その言葉を、は知っている。

「こどく・・・って?」

「呪詛の一種だ」

「呪詛ぉ!?」

呆然としたままの問い掛けに返って来た答えに、麻衣は身を乗り出して声を上げる。

蟲毒というのは中国に伝わる古い呪法で、今ではほとんど現存はしていないだろう。

呪詛には人形や呪符など色々なものを使うが、生き物を使う方法もある。―――それが蟲毒だ。

普通使うのは昆虫・・・―――金蚕という虫が代表的だが、これが実際になんという虫なのかは確かではないため、他にも蛇やムカデを使う。

これらの虫をつぼの中に入れ、土の中に埋める。

何ヶ月かして掘り起こすと、虫は共食いをしてつぼの中には一匹だけが残っている。―――その残った虫を使う呪法なのだ。

虫は呪者の家に取り付き莫大な財産をもたらしてくれるが、代わりに定期的に1人の人間を殺して与えなければ主人を食い殺す。

「虫を養う事が出来なければ、虫がもたらしてくれた財産に利子をつけて、金製・銀製の品物に代え道に捨てる。これを嫁金蚕というのだが・・・」

「で、でも!そんなの落ちてたら誰かが拾っちゃわない?」

「しかも拾った人はそんなものとは知らないから・・・」

「食われちまうわけね。・・・うわ〜」

ナルの説明を聞いていた面々が、顔を見合わせて表情を歪める。

「それで、これを呪法にも利用した」

蟲法を行って虫を多少の金銀と共に憎い相手に送りつける。

相手は意味が解らず虫を養う事を怠り、そして・・・。

「・・・食い殺されてしまう」

ナルの静かな声で告げられ、全員が思わず絶句した。

あまりの残酷さに言葉も出ない。―――そんな呪法があったなんて・・・と考えを巡らせた時、ふと現在の状況と重なる部分に気付いて麻衣は勢いよく顔を上げた。

「待ってよ!閉じ込めて共食いって・・・今学校で起こってる事と同じじゃない!!」

「だから蟲毒だと言ってるだろう」

声を荒げる麻衣とは逆に、事の真相に気付いたナルは落ち着き払った様子でそう言い放つ。

「虫の代わりに霊同士が食い合ってるって事か・・・」

本当にそんな応用が可能なのかどうか・・・―――難しいところではあるけれど、今現在この学校で起こっている出来事は蟲毒と酷似している。

しかし今の状態で真相が解ってもどうしようもない。―――問題は、これからどうするかだ。

「・・・このまま、共食いし合って一番強い霊が残ったらどうなるの・・・?」

知りたいような、知りたくないような・・・―――そんな想いを抱きながらも、青い顔をしたまま麻衣はナルを見やる。

「解らない。もし誰かが意図的にやっている事だとしたら、残った虫は呪詛の道具として使われる。だが偶然に・・・たまたま学校が霊的に閉ざされた場所だったために起こったのだとしたら、何が起こるか解らない」

呪詛ならば、呪われた相手が被害を被る。

しかしそれが偶然ならば、その力は果たしてどこへ向けられるのか・・・。

あまりの話の内容に全員が呆然とする中、何かを考え込んでいた滝川が意を決したように口を開いた。

「最強の霊が残ったら、それが取り付いた学校は食わせてやらなきゃならないんじゃないのか?その・・・定期的に、人間を1人」

「ちょっと!!」

滝川の思いもよらない発言に、反射的に綾子が声を上げる。

しかし真剣な眼差しを向けられ、グッと言葉に詰まった。

「現実問題だろ?それが出来なきゃ主人が食われる。だがこの場合・・・主人は誰だ?」

「誰って・・・」

「霊を呼んだ生徒全部、だろうな」

「・・・だよな」

ナルの結論に、滝川が困ったように相槌を打つ。

それをぼんやりと聞いていた麻衣は、その言葉の意味を理解し思わず身を乗り出した。

「だ、ダメだよそんなの!何とか出来ないの!?だってみんなそんなものだって知らなかったんでしょ!?なのに食われるって・・・安原さんだっているんだよ!!ねぇ、ナル!!」

「・・・僕には出来ない」

さらりと告げられた言葉に、麻衣は思わず言葉を飲み込んだ。

霊を養わなければ、主人が食われる。

それがこの学校の生徒全員である以上、食われるのはこの学校の生徒全員だ。

そんな事が許されるのか・・・―――どうしようもない現状に麻衣が表情を歪めたその時、ナルが顔を上げその視線をある人物へと向けた。

「僕には出来ない。・・・でも、リン?―――どうだ?」

パチン、と空気の糸が切れた気がした。

あまり積極的に話に加わってくる人物ではないだけに頭にはなかったが、確かにリンは陰陽師だったはず。―――この状況を打破できる人物は、もしかすると彼だけなのかもしれない。

全員がワケがわからないとばかりに視線を向ける中、今までずっとモニターと向き合っていたリンが視線を遣し、考え込むように宙を眺めた後付けていたヘッドフォンを外す。

「蟲毒というのは既に失われたとされている呪法です。私も今まで蟲毒には出会った事がありません」

そう言ってチラリと向けられたリンの視線に気付いたは、ゆるゆると首を横に振った。

も蟲毒など古い本で読んだだけで、実際には知らない。―――それがどんなものなのかは知識としては知っていても、それに関わる事などそうありはしないのだ。

リンの視線の先に気付いた滝川が、同じくへ視線を向けて僅かに目を見開く。

こちらも忘れかけていたが、もまた陰陽師の端くれなのだ。―――本人は半人前以下だと主張しているけれど。

「この蟲毒が呪詛として行われているのなら、それは単なる呪詛と同じです。打ち破るのは簡単ですが、偶然の産物だとしたら・・・―――逃れる為の方法は2つだけです」

「誰かに転嫁するか、諦めて養うか・・・」

「・・・はい」

リンの答えに、全員が絶望的な表情を浮かべる。

誰かに転嫁する事も養う事も出来るはずがない。―――しかし、このまま放置するわけにもいかないのだ。

どうしようもない状態に、誰も動き出せない。

そんな中、やるべき事を見つけたナルは挑むように宙を見据えて。

「まだ蟲毒と決まったわけじゃない。これが呪詛ならリンが始末をつけられる。―――ギリギリまで調べてみよう」

最終的なナルの結論に、全員が今もまだ表情を曇らせたまま同意する。

今はもう、ナルの答えがそうであるようにと祈るしかなかった。

 

 

緑稜高校で現在起こっている怪現象の原因が解った以上、このまま放置して見捨てるわけにはいかない。

校長に撤退命令を返上してもらうべく校長室に向かったナルを見送って、全員が脱力した様子でベースに残っていた。

「ナル、上手く校長先生を説得できるといいね・・・」

「学校から追い出されたらアウトだからな〜」

何かやらなくてはならないとは思うものの、実際何をすればいいのか解らない。―――これが誰かの呪詛なのか自然発生のものなのか、どう調べれば解るのかが解らないのだ。

「ま、ナル坊なら大丈夫だろ。しっかし、調べるったって何をどう調べりゃいいんだかニャー」

がせっせと纏めた生徒たちからの調書を気のない様子で読みながら、滝川が困り果てたとばかりに呟く。

そんな滝川を横目で見ていた綾子が、苛立ち紛れに口を開いた。

「頭使いなさいよ」

「そういうお前こそ。・・・っとにお前にゃ使える頭がないんだっ・・・ぐおっ!!」

「うわ、クリーンヒット。さぁすが、綾子」

滝川の暴言にピクリと頬を引き攣らせた綾子が、すべてを言い終わる前に制裁を加える。―――それを傍で眺めていたは、他人事とばかりに拍手を送った。

今の綾子には逆らうべきではない。―――君子、危うきに近寄らずだ。

すぐにぎゃあぎゃあと大声で喧嘩を始めた2人と、それを必死に止めようとおろおろとしているジョンをさておき、一連の光景を傍観していた安原がまるで何もなかったかのように視線を麻衣に向けてにっこりと微笑んだ。

「とりあえず事情を整理してみましょうか。何もしないよりマシでしょう」

すっかり他人事を決め込んでいる安原を眺めながら、は独りごちる。―――その判断が一番賢明だろうと。

そうして今もまだ滝川と綾子の傍でおろおろとしているジョンを巻き込んで、安原と麻衣、そしてジョンとのミニ会議が開催された。

「まず夏休みが終わった頃、学校でコックリさんが流行り始めて・・・」

「その後、校内に怪談が溢れたんだよね」

「たまたま学校が霊的に閉ざされた場所だったから、呼び出された霊が閉じ込められて」

「そうして霊同士が食い合って、蟲毒の状態になってしもたんですね」

それぞれ言葉を続けるようにこれまでの状況を口にして・・・―――そうして4人は顔を見合わせて乾いた笑みを浮かべる。

「・・・これじゃただの伝言ゲームですねぇ」

「・・・さいですね」

一通り状況を纏めてみても、これといった発見はない。

そもそも肝心の、どうして大量の霊が呼び出されたのかが判明していないのだ。―――それさえ解れば、今回の事件が誰かの呪いによるものか、それとも偶然起こったものなのか判断が付きやすいのだけれど。

困ったように眉を寄せて考え込んでいたは、同じように考え込んでいた麻衣と目が合い小さく笑みを交わす。

「・・・あたし思うんだけど、やっぱヲリキリさまって変わってるよね。呪文も変だし」

「・・・呪文?そんなんあったっけ?」

そういえば・・・と、コックリさんにまったく興味がなかった為にそれがどういうものなのか聞いていなかった事を、は今更ながらに思い出す。

コックリさんなど、多少の変化はあれどどこも似たり寄ったりだと思ったのだ。

「地域や地方でやり方が違ったりするじゃない」

ここで滝川に制裁を加えていた綾子が振り返りそう口を開いた。―――どうやら話を聞いていたらしい。

そんな綾子の言葉に1つ頷いて・・・―――それでも麻衣は納得いかないとばかりに眉を寄せる。

「うん、でも紙もちょっと変なの」

「紙って、コックリさんに使う紙?そういえば私それも見てないなぁ。―――それってどういうのなの?」

「50音と数字があって、『はい』と『いいえ』があるところまでは普通なのね」

麻衣の説明に、はコクリと頷く。

確かにそれはどこにでもあるような形だ。―――それでは一体、何が変わっているというのか。

「んで、コックリさんだと真ん中に鳥居を描くじゃない?ヲリキリさまはその代わりにうにうにした模様を書くわけ。でもって『鬼』って字でぐるーっと回りを囲って・・・」

麻衣の説明が終わるか終わらないかという場面で、ガタン、と激しい物音が鳴った。

それにどうしたのかと顔を上げれば、つい先ほどまで隣でダルそうに座っていたが目を見開いて立ち上がる。―――何事かと視線を巡らせれば、モニターと向かい合っていたリンもまた驚いた様子で立っていた。

?それにリンさん、どうし・・・」

「どんな模様でしたか?」

「ど、どんなって・・・」

矢継ぎ早にそう問われ、麻衣は戸惑ったように安原に視線を向ける。

しかし安原も一度しかした事がないらしく、詳細は覚えていないという。

「・・・

「いや、私は見てないの。話を聞いただけで・・・」

鬼気迫る様子で視線を向けられ、は慌ててパタパタと手を振る。―――今更ながらに、あの時見ておけばよかったと後悔した。

もしもヲリキリさまの紙に『鬼』という文字が記されているのなら、とんでもない事になる。

「ヲリキリさまと言ってましたね。それは呪文から来ているのではありませんか?―――『をん をりきりてい めいりてい めいわやしまれい そわか』」

「それです!!」

もどかしい様子でリンが質問を重ねると、安原が驚いたように相槌を打つ。

「そして使い終わった紙は、どこかへ埋めるとか・・・」

「そうです。1回しか使えないって。使ったら神社に埋めなきゃいけないとかで・・・」

「・・・神社」

安原の説明に、リンは難しい表情を浮かべたまま考え込む。

それと同時に、はふと思い出した。―――少し前に見た夢の中で、自分は神社の中に立っていたと。

一体どういう意味なのかと訝しく思ったけれど、まさかこの事を暗示していたのだろうか。

「その紙が手に入りませんか?」

「そうですねぇ・・・。ちょっと待っててください。その辺の生徒に聞いてきます」

リンの要望に、安原は急ぎ足でベースを出て行った。

その後姿を見送って、はか細い息を吐き出す。

「・・・リンさん、それってもしかして・・・」

そうであれば事件の真相は一気に見えてくるかもしれない。―――けれどそうであって欲しくはないとも思い不安げにリンを見上げるけれど、リンは黙ってドアを見つめたまま微動だにしない。

それこそが真実を物語っているように思えて、は苦しげにぎゅっと唇を噛み締めた。

「ありましたよ。・・・これです」

しばらくして戻ってきた安原の手には、1枚の紙が握られていた。―――それを受け取ったリンは、感情のうかがい知れない面持ちのまま1つ息を吐いて。

「・・・やはり」

「えっ、なに?なんなの?」

小さな声で呟かれた肯定の言葉に、麻衣が焦ったように問いかける。

それを横目に、リンはへと安原から手渡された紙を差し出した。―――それを受け取り中を見たは、思わず息を飲む。

まだまだ半人前の立場である自分は、きっとリンほど陰陽道について詳しくはない。

けれど見ただけでこれが何なのかがには解った。―――見覚えのない小さな神社が脳裏を過ぎる。

「狂わすには四つ辻。殺すには宮の下」

リンの静かな声が、残酷な現実を告げる。

「これは呪符です。それも神社の下に埋めてあるからには・・・―――人を呪い殺すためのもの」

本当に、なんて残酷な真実。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

今回はちょっと短めに。

本当はもうちょっと先まで書いていたのですが、尋常じゃないページ数になってしまったので、こんな微妙なところで区切りました。

なので今回はほとんど説明だけで終わっちゃいましたが・・・。(ごめんなさい)

作成日 2007.11.18

更新日 2008.4.21

 

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