チリンと軽い鈴の音が鳴る扉を押し開けて、やる気のない挨拶と共に事務所に顔を出したは、すぐさま飛んできた明るい声に思わず面食らった。

「あ、ちゃ〜ん。こんにちは〜!」

明るい笑顔と共に大きく手を振られ、それなりにテンションの下がっていたも釣られて笑顔で手を振り返す。―――そんな様子を見ていた滝川が、訝しげに首を傾げた。

「なんだよ、。お前あの人と知り合いか?」

「え?あー、まぁ・・・知り合いといえば知り合いだけど・・・」

「なぁ〜んかナルちゃんと仲良さそうなんだけど、あの人何者?」

「そんなの私の方が聞きたいって」

矢継ぎ早に投げ掛けられる問いを軽くあしらい、は滝川の隣へ腰を下ろす。

確かにはまどかを知っているが、だからといって人に説明できるほど彼女の事を知っているわけではない。

まどかからもリンからも、詳しい紹介はされていないのだ。―――これからそれがされる事を祈るばかりだが。

「・・・あ、そーいえばぼーさん、髪の毛切ったんだ」

「お前気付くの遅いって。それこそ顔見た直後に気付くべきでしょーが」

話を逸らす目的半分、純粋に今気付いたの半分でそう声を掛けると、滝川はわざとらしく頬を膨らませる。

そんな滝川を見つめてにやりと口角を上げたは、何の躊躇いもなくその手を滝川の頭へと伸ばして。

「なにおう!そんな事いう子はこうしてやるー!!」

「きゃー、やめてぇ!に襲われるー!!」

ぎゃあぎゃあと大騒ぎする滝川とを横目に、ナルと綾子はあからさまに呆れた様子を見せ、ジョンは慌てたように視線を巡らせ、そうしてまどかは微笑ましいとばかりに笑んだ。

「あらあら、随分仲良しさんなのね〜。―――リン、あなたも頑張らないと!」

「・・・まどか」

いやに意気込むまどかの隣で、困ったようにリンがため息を吐き出す。

「こんにちは〜!!」

メンバー最後の1人である麻衣が事務所へ飛び込んできたのは、その直後の事だった。

 

霊能者たちの集い

 

「・・・で、どんな用件なわけ?」

全員が揃ったところで、早速とばかりに綾子がそう切り出す。

全員がナルに突然呼び出されたらしい。―――それで全員がこうして揃うのだから、それはそれですごい事なのだとは思う。

もしかしてみんな暇なのかな、とが自分を棚に上げて勝手な推測を立てたその時、急に呼び戻された為か酷く不機嫌そうなナルが口を開いた。

「事件の依頼を受けた。そこで全員に協力を頼みたい」

昨日事務所に顔を出していたは予想済みだったが、驚いた様子も見せない滝川たちを見れば彼らも予想していたのだろうとそう思う。―――まぁ、このメンバーを呼び寄せたナルが仕事以外の話をする事など考えられないが。

「結構大きな事件になるだろう。依頼主は内密に処理したいようだが、マスコミが嗅ぎ付ければ大騒ぎになるのは目に見えている。本来なら引き受けたくはないんだが、多少事情があってやむを得ない」

まどかが持ってきた仕事だからだろうか?

それにしたって、マスコミが嗅ぎ付ければ大騒ぎになるような事件とは一体どんなものなのだろう?―――想像もつかずに、は訝しげに眉を寄せる。

そんな中、1人涼しい顔をしていた真砂子が悠然と口を開いた。

「それは大橋さんと仰る代理人の方からの依頼ではございません?あたくしのところにも先週依頼がございましたわ。―――さんのところにもおありになったんじゃございません?」

「え、私?いやー、そういうのは一清が全部管理してるからなぁ」

突然向けられた問い掛けに、全員の視線が集まるのを感じつつそう答える。

確かに真砂子のところにも依頼が来たのなら、家に来ていても不思議はない。

「では、原さんは別行動になりますね」

「あら?もちろん、あたくしなりに協力はさせていただきますわ」

さっさと話を終えたいのかそう切り出すナルに、しかし負けじとにっこり微笑んで真砂子がそう申し出る。

結局はいつもと変わらない事を理解しつつ、なんとなく厄介な事に巻き込まれてきた気がして、は向かい側に座る綾子と視線を合わせため息を吐き出す。

「・・・ともかく、僕は極力目立つ事は避けたい。そこで安原さんに身代わりをお願いする事にした」

「どーも」

目立つ事は避けたいって、それってナルには無理なんじゃないの?―――そう口を挟みかけたは、ナルの言葉と共に所長室から顔を出した安原を認めて思わず大声を上げた。

「安原くん!?なんでこんなトコに・・・!!」

「渋谷さんに仕事に誘われまして。―――だから言ったでしょう?また後で、って」

にっこりと悪気なく微笑む安原を見返して、は盛大に頬を引き攣らせる。

この結果から推測すれば、安原の言動のすべてに納得がいく。

最初から彼はこのサプライズを用意していたのだ。

どうして黙っていたのかと問い詰めれば、きっと安原は「その方が面白そうだったので」と悪気なく答えるのだろう。―――それが嫌というほど想像できて、は思わずのど元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

そんなと安原のやり取りを眺めながらため息を吐き出した滝川は、呆れたように頬杖をつきながら改めてナルへと視線を向けた。

「ナルちゃんのマスコミ嫌いは解るが、影武者を立てるほどの事なのか?」

「そうでなければわざわざ安原さんに来てもらったりしない」

あっさりと言い切られ、それもそうかと思わず納得する。

「依頼主は他にも何人か霊能者を集めたようだが、そのほとんどがマスコミでもてはやされてはいるが胡散臭い連中だ。僕はああいった連中と係わり合いになりたくない」

さらりと毒を吐きつつ自分勝手な言い分に、滝川はからかうように笑みを向ける。

「・・・ハン!自分が嫌な事を他人に押し付けるってわけか」

「気が進まないなら帰ってもらっても構わないが?」

即座に返って来た言葉に、思わず頬を引き攣らせる。

「あのな・・・」

「もうっ!どうしてちゃんとお願いしないの!!」

相も変わらず上から目線を崩さないナルの態度に、呆れたように滝川が口を開きかけたその時、滝川の声を遮るどころか掻き消す勢いで高い声がその場に響いた。

思わず身を仰け反らせる滝川を他所に、立ち上がったまどかはナルを見下ろすように仁王立ちになり、怒ったように頬を膨らませる。

「人に物を頼む時にはそれなりの口調ってものがあるでしょう?いつも言ってるのに、学習効果のない子ね!」

まるで母親のようなまどかの態度に、その場にいた全員が思わず硬直した。

笑顔で振り返ったまどかが、何処か底知れない人物に見える。

「ごめんなさいね。この子、礼儀を知らなくて。―――でも根は悪い子じゃないのよ、多分」

「まどか!黙っていていただけますか?話が進まない」

「あら、そうね。ごめんなさい。―――だったら口の利き方には気をつけてね」

咄嗟に反論するナルに対し、しかしまどかは微笑みを崩す事無くナルの顔を覗き込みながらそう言葉を重ねる。

それに反論する意欲がないのか、それとも反論できない何かがあるのか、黙り込んだナルを認めて全員が恐ろしげに目配せする。

「・・・なぁ、あの人何者だ?」

「あのナルを言い負かすなんてかなりの強者よ?」

「いや、だから私に聞かれても・・・。ねぇ、麻衣」

「えっ!?あたしにふるの?」

こそこそと内緒話を始めた4人はギロリとナルに睨みつけられるが、何故か今日はそれさえも可愛らしく見えて噴出しそうな笑いを噛み殺した。―――あのナルがやり込められるところなど、そうそう拝めるものではない。

そんな面々を前に、不機嫌そうな面持ちのナルに変わって、今度はまどかが口を開いた。

「・・・ナルは派手な舞台を嫌うのね。さっきも言った通り、今度の事件も断るつもりだったらしいんだけど、私の事情で引き受けてもらったの。―――皆さんにはご迷惑だと思うけれど、協力してください」

深々と頭を下げられ、その場にいた全員が思わず釣られて頭を下げた。

ここに来たからには、全員最初から断るつもりはないのだろう。―――かくゆうも、当主命令が下った身としては断る事は出来ないけれど。

「あれ?でも、そしたらナルはどういう立場の人になるわけ?」

そうして場がようやく収まった頃、ふと麻衣が感じた疑問をそのまま口にした。

確かに、安原を所長代理に仕立て上げるのなら、必然的にナルは別の立場を名乗らなければならなくなる。

「・・・僕はここの単なる調査員という事になる」

そんな無茶な・・・!!

さらりと返って来たナルの言葉に、全員が心の中で突っ込んだ。―――こんなに偉そうな調査員が一体どこにいるというのだろう。

しかしそれしか役が残っていないのも確かだ。

ナルを助っ人の1人にするわけにはいかない以上、調査員以外に役はない。―――ナルが麻衣と同じ立場という事実が成り立つかどうかは難しいところだが。

「・・・で?どんな依頼人なわけ?」

1人何故か他人事のように話を聞いていた綾子が、興味なさそうに問いかける。

それに対してナルは何も言わず、ただクリップで簡単に留められただけの数枚の新聞記事をテーブルに放り出した。

それを手に取り、綾子は思わず目を丸くする。

「・・・これって」

そこには、それなりに見覚えのある顔写真が数枚。

きっとこの国に住む者ならば大抵は知っている顔。―――ある意味、芸能人よりも有名なその人物は。

「ほー。こりゃ秘密にもしたくなるわな」

「だね。依頼人が『元』総理大臣・・・なんて」

これでナルが言っていた、マスコミが嗅ぎ付ければ大騒ぎになるという理由も解った。

まさか『元総理大臣』が心霊現象で悩んでいるなどとは想像もしなかったが。

そうして、その4日後。

荷物を纏めて、いつものメンバーは一路、指定された屋敷へ向かう事になったのだ。

 

 

目の前のそびえ立つ屋敷を見上げて、は感心したように声を上げた。

日本では珍しいのではないかと思われるほど、純洋風の屋敷。

随分と年季が入ってはいるが、それを差し引いても立派だ。―――今でさえ目を瞠るほどなのだから、昔はさぞや珍しがられたに違いない。

「・・・うわ。立派は立派だけど、な〜んかいかにもな」

古いだけに、何か出そうな雰囲気満載だ。

その上怪奇現象が起こるという前情報もあるのだから、なおさら雰囲気が出るというものである。

「・・・確かにすごいけど、これじゃ幽霊屋敷じゃない」

「だから俺たちが来たんだろうが」

屋敷を見上げて嫌そうに呟く綾子に、滝川はそう突っ込んだ後呆れたとばかりに首を横に振った。

それを見逃す綾子でもなく、早速言い合いに発展した2人を横目で眺めながら、は大きくため息を吐き出す。

ここへ来る前、一清に言われた言葉が脳裏から離れない。

『くれぐれも気をつけろ』

今まで調査に出向く中、彼にそんな言葉をかけられた事は一度もない。

それでもかなり危ない調査も多かった。―――だというのに、今回は事前に注意を促されるのだから、嫌な予感は拭い去れない。

どうかこの予感がただの杞憂で終わるように心の中で祈りながら、は何気なくポケットから携帯電話を取り出した。

唯一の外界との連絡手段。

もしも何かあれば連絡して来いというのは、一清ではなく藤野の言葉だけれど。

「・・・えぇー?」

そうして携帯の液晶画面に視線を落としたは、盛大に頬を引き攣らせる。

唯一の外界との連絡手段。―――そのはずの小さな機械の画面には、『圏外』という無常な文字が。

これでどうやって連絡しろっていうのよ!と、八つ当たり気味にポケットに携帯電話を戻したは、もう一度ため息を吐き出した。

使えなければ、ただの小さな箱に過ぎない。

「・・・ほんとに無事に帰れるんでしょーね」

恨めしげにそびえ立つ屋敷を見上げて独りごちる。―――そう愚痴ったところで、何もなかった事など一度もないけれど。

そうして準備を済ませたナルとリンに連れられて屋敷に足を踏み入れた一同は、中の様子に思わず呆然とした。

外観もすごかったが、中もすごい。

映画に出てくるような内装に思わず感心していると、これもまた映画の中でしか見た事がないような吹き抜けの空間に構える大きな階段の前に立っていた男性が、一同を見て深々と頭を下げた。

「ようこそおいでくださいました。わたくしは大橋と申します」

これが真砂子の言っていた依頼人である元総理の代理の人間だろう。

「今回の件については全権を一任されております。わたくしを依頼主だと思っていただいて結構です」

そう話す大橋を前に、なんとなく緊張を隠せない面々は曖昧に頷いた。

実際、彼が依頼主である方が幾分か気が楽だ。―――元総理大臣に出てこられては、緊張するどころの話ではない。

そうして大橋は、身体を固まらせた一同をぐるりと見回して。

「ところで所長さんは・・・」

「あ、僕です。所長の渋谷一也と申します」

誰が何を言う前に、安原が一歩前へ出てにこやかに挨拶を交わす。

その後ろで微かに表情を引き攣らせながら、さすが・・・と思わず感心した。―――平気な顔で相手をだまくらかせるなど、彼以外には出来ないだろう。

そういう意味では、ナルの人を見る目は良い。―――褒めるところかどうかはさておき。

「お聞きしてた通り随分とお若くていらっしゃる。そちらの皆様は・・・?」

「親しくさせていただいてる霊能者の方たちです。今回の件で協力をお願いしました」

安原に促され、滝川が緊張した様子で会釈する。

「あっ、滝川法生と申します」

「松崎綾子です」

「ジョン=ブラウンといいます」

続いて挨拶をする綾子とジョンを横目に、もまた躊躇いがちに頭を下げた。

「・・・と申します」

「・・・さま?」

名乗った直後、大橋が意外そうな表情を浮かべる。―――その疑問を解っていながらもがにっこりと笑みを浮かべれば、大橋はそれ以上何も言わずに視線をナルたちへと向けた。

「こちらの3人は僕のアシスタントです」

「たっ、谷山麻衣です」

こちらも緊張した様子で頭を下げる麻衣の隣で、しかし緊張とは無縁そうなナルは平然とした様子で大橋を見返して。

「・・・鳴海一夫といいます」

誰だよ、それ。

平然とした様子で偽名を述べるナルを見つめて、心の中で突っ込みを入れる。―――ここにも平然と嘘をつける人間がいたらしい。

その隣で、順番の回ってきたリンがいつもと変わらない表情で口を開いた。

「林興徐と申します」

名を名乗ったリンに、全員が目を丸くする。

それは彼の素性を知っているも同様だった。―――リンのフルネーム聞いたのはこれが初めてだ。

いつもリンで事足りていたから、あえて確認しようとは思わなかったのだろう。

思えば、相手の名前すら知らないというのだから・・・―――これではまどかの言うように仲が良いとはとても言えないな、とは苦笑する。

「中国の方ですか?」

「もとは香港です」

「えーっ!?」

今明かされたリンの素性に、全員が驚きの声を上げる。

それをうっとうしそうに睨み付けたナルは、「では、こちらへどうぞ」と促す大橋について歩き出す。―――だからその態度は単なる調査員に見えないって・・・と、もう一度心の中で突っ込みながら、大きく息を吐き出した滝川に気付いて顔を上げた。

「・・・これでナゾが1つ解けたな」

「・・・へ?」

感慨深く呟く滝川に、麻衣が不思議そうに首を傾げる。

「いやー、ずっと『リン』って呼び方はどこから来てるのかなーと思っててさ。苗字なのか名前なのか・・・。名前だったらちょっと怖いなーとか」

「名前ねぇ・・・。なんとか、リンちゃん・・・とか?」

なるほど確かに・・・と思いつつ想像したの言葉に、話を聞いていた綾子と麻衣が勢い良く噴出した。

「ばっ!ちょっとやめてよ!顔見るたび思い出すじゃない!!」

「な、おかしーだろ?」

得意げに笑みを浮かべる滝川の隣で、確かに怖い・・・と頬を引き攣らせながらリンを窺ったは、しかしその直後ゾクリと背筋を走った悪寒に身体を強張らせた。

大きく目を見開いて反射的に振り返る。

しかしそこには暗い闇があるだけで、特別な何かは見当たらない。

もしかして風邪でも引いたのだろうかと訝しげに眉を寄せるの隣で、彼女の異変に気付いた滝川が不思議そうに顔を覗き込んだ。

「・・・どうした、?」

「えっ?あー、いや、別になんでも・・・」

ないと言おうとして、しかし不意に鼻を突いた臭いに顔を顰める。

この臭いをは知っている。―――この、臭いは・・・。

「・・・?」

もう一度名前を呼ばれて、は顔を上げると反射的に笑みを浮かべた。

「なんでもないって。それよりも早く行こうよ。こんなところに置いて行かれたら迷子になっちゃうって」

「あ、ああ」

まだ不審げな表情を浮かべる滝川の背中を押して、は先に歩き出したナルたちを追いかけるべく屋敷の奥へと足を踏み入れる。

これがただの気のせいではないと心のどこかで気付きながら、はそれを隠して文句を言う滝川の服を握り締めながら笑い声を上げた。

 

 

広間に入ると、そこには既にたくさんの人たちがいた。

この人々すべてが今回依頼を受けた人たちなのだろう。―――その中にいる見知った顔を見つけて、は微かに唇を噛み締める。

そうして大橋に促され、全員が席に着いた頃、仕切りなおしとばかりに大橋は口を開いた。

「それでは、まず今回ご助力をお願いした皆様をご紹介いたします」

大橋の声に、全員が表情を引き締める。

「法専寺ご住持、井村賢照さま」

袈裟を着たひげの長い老人が、胸を張ってそれに応えた。

「防衛大学教授、五十嵐智恵先生と助手の鈴木直子さま」

品の良さそうな年配の女性と優しげな若い女性が揃って会釈する。

「霊能者の、原真砂子さま」

こちらはおなじみ、今更紹介されるまでもない。

同じテーブルを囲むナルへと視線を向けてにっこりと微笑んだ真砂子を見て、離れたソファーに座っていた麻衣が僅かに頬を引き攣らせたのはこの際見なかった事にした。

「南心霊調査会所長、南麗明さま。所員の厚木秀雄さま、白石幸恵さま、福田三輪さま」

詰襟のスーツを着た中年の男を筆頭に、年配の女性とまだ若い男女が揃って会釈する。

こちらは随分と人数が多いようだ。―――まぁ、これだけ大勢を引き連れてきているたちが言えた義理ではないけれど。

そうして大橋はその隣で1人座っている外国人の男性へと視線を向け、変わらない様子で口を開いた。

「そのオブザーバーで、英国心霊調査協会のオリヴァー=デイヴィス博士」

大橋の紹介に、場が一気にざわめき出す。―――それを意に介していないのか、デイヴィス博士はにこりと優しげな笑みを浮かべた。

「・・・うっそ、ほんとに?」

離れた場所に設置されたソファーに座って各紹介を聞いていた綾子が、思わず身を乗り出して呟く。

オリヴァー=デイヴィスといえば、英国心霊調査協会(通称・SPR)の研究者で、自身もPKとESP両方の能力を持つ超能力者。―――勿論業界では有名人である。

そんな彼がまさかこの場にいるなど信じられないとばかりに全員が目を見開く。

「・・・まさか本家SPRがお出ましとはねぇ」

呟く綾子のその隣でデイヴィス博士を見つめたまま呆然とする滝川を見上げて、は深くため息を吐き出した。―――そういえば以前、滝川は随分と博士を褒めちぎっていた事を思い出す。

まぁ、普通にしていれば会える相手ではないから、滝川の様子も解らなくはないけれど。

それにしても、どうして今回の調査をナルが断りきれなかったのか・・・―――その理由を察して、は呆れたようにナルを見つめて息を吐く。

に見られている事に気付かず、ナルはいつも通りの無表情で前を向いたままだ。―――いや、もしかすると気付いているからなのかもしれないけれど。

そんな場のざわつきなど気にした様子もなく、大橋は更にナルたちへの紹介へと入って。

そうして滝川やたちが軽く会釈を返したその後、全員の視線が残る2人の男女へと向けられた。

こちらもナルたちに負けず劣らず若い。

家代表、兵庫さまと茶生さま」

大橋の紹介に、優しげな面持ちの青年と気の強そうな少女が揃って会釈する。

聞こえた名前に思わず呆然とした滝川たちがへと視線を向けると、は我関せずとばかりに窓の外を見つめていた。

「・・・おい、。あれってもしかして・・・」

「・・・そうだよ、家にも依頼は来てたみたいだから」

さらりとそう返して、はその時ようやく親戚である2人へと視線を向ける。―――その直後、少女から挑むような眼差しを向けられうんざりとした様子でため息を吐き出した。

その一部始終を見ていた滝川たちは、困ったように顔を見合わせる。

彼女の言動からなかなかに複雑そうなお家だとは思っていたけれど、想像していた以上に厄介そうだ。―――少なくとも、茶生と紹介された少女から向けられる視線は、お世辞にも友好的とは言えない。

そんな水面下の牽制をさらりと無視して、ここにいるすべての人間の紹介を終えた大橋は、改めて全員と向かい合う。

「依頼主である先生のご意向で、皆様には調査の間ここに泊り込んでいただきます。リタイアしてお帰りいただく分には構いませんが、それまでは出入りをご遠慮くださいますよう。―――それではよろしくお願いします」

「任せてください!デイヴィス博士がついておりますからね。なに、最悪の場合でもアレックス=タウナス氏やユリ=ゲラー氏の協力をいただける事になっていますから!!」

頭を下げた大橋に向かってそう言い放ち、得意げに笑い声を上げる南を見つめて、他のメンバーは戸惑ったように顔を見合わせる。

「おーおー、そりゃすごい事で・・・」

聞こえないように小声で呟きながら、は呆れた様子で南を見やる。

彼がどんな人物なのかは知らないが、調子のいい事ばかりを言う人間は基本的に信用しない事にしているとしては、胡散臭い相手には違いない。

それよりも・・・―――重い気分を抱きながらも視線を向けた先で、広間を出て行く男女の背中を見つめながら、さてどうしたものかと目を細めた。

どちらかといえば、彼らも関わり合いたくない人物には違いないが、かといって立場上そうも言っていられないだろう。

「・・・ったく、もー。しっかりしてよ、ぼーさん。ほら、行くよ!」

せめて彼らが余計な事を言ってしまわないように祈りながら、は今もまだボーっとする滝川の背を叩いて立ち上がった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

またオリキャラですか。(言われる前に自分で言ってみる)

しかも今回は2人。全員合わせると5人にもなるんですね、びっくり。(他人事のように)

出来る限りオリキャラは出さないでおこうとは思っているんですが、設定が込み入っている為、なんだかわらわらと出てきます。

今回は主人公のナゾを明らかにしたいと思っているので、仕方ないかなと。(開き直り)

そんなこんなで最初から躓き気味ですが、よろしければお付き合いくださいませ。

作成日 2007.11.25

更新日 2008.5.20

 

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