窓から屋敷の外へと飛び出し、そうして日が昇ってから玄関へと回り顔を出した面々を出迎えた大橋は、それはそれは驚いた顔をしていた。

それはそうだろう。―――屋敷の中にいると思っていた人物が、泥だらけになって玄関から戻ってきたのだ。

そしてそこにはリタイアしたはずの安原と、面識のないまどかまでいたのだから。

それでも文句1つ言わずにSPRの話を聞いた彼は、さすが元総理大臣の代理人にふさわしいのかもしれない。

まだ大橋にはバレていないため、所長を演じている安原が、屋敷の奥で失踪者を見つけた事と、そして既に全員が亡くなっている事を大橋に説明する。

「・・・除霊は不可能です」

そうしてキッパリとした声色で告げられた言葉に、大橋は緊張に身体を強張らせた。

「あとで報告書を提出しますが、厳重に封印して先代の遺言どおりこのまま朽ちるに任せるか・・・―――さもなくば、炎による浄化しかないと思います」

淡々と告げられる言葉に、大橋は表情を引き締めてただその結末を受け入れた。

この家に出るという霊を何とかしてもらうために呼んだ霊能者。

しかし次々と行方不明になる者たちを思えば、SPRの出した結論は正しいのだろうと思えた。―――それほど、ここは危険なのだと。

「・・・解りました」

一言そう告げて、大橋は深く深く頭を下げる。

彼がどういう結論を出したのかは解らない。―――本当の依頼主が、どういう結論を下すのかも。

けれどもう自分たちにやれる事はないのだ。

除霊が不可能である以上、出来る事はもうない。

そうしてSPRの面々は、当初の予定からはずいぶんと遅れてしまったけれど、すぐさま荷物を纏めて美山邸を後にした。

 

を向いて

 

柔らかい風が、頬を髪を優しく撫でていく。

春らしい穏やかな午後。

美山邸での出来事が嘘のような穏やかすぎる時間の中で、は駅で購入したスポーツ新聞を広げると、目当ての記事を見つけて僅かに眉を顰める。

そんな彼女の一部始終を眺めていた安原が、小さく苦笑を漏らしながら声を掛けた。

「こんにちは、

彼らしい柔らかい声に釣られて顔を上げると、そこには悪戯っぽい笑みを浮かべる安原がカバンを片手に立っている。

そうして遠慮なく彼女の前の席に腰を下ろした安原は、先ほど購入したのだろう缶コーヒーをテーブルに置きながら口を開いた。

「大学構内のカフェで堂々とスポーツ新聞を広げてる女子大生なんて貴女くらいですよ、

「・・・そりゃ悪うございました」

くすくすと楽しそうに笑う安原を軽く睨みつけて、は手にしたスポーツ新聞をテーブルに放り出す。

とて、別にスポーツ新聞に興味があるわけではないのだ。

ただ、気になる記事があったというだけである。―――まぁ、確かに安原の言う通り、大学構内のカフェでスポーツ新聞を広げている女子大生など、自分くらいだろうという自覚はあるけれど。

それでもからかわれた事が面白くないのも事実である。

は僅かに膨れたような面持ちでお茶のペットボトルへと手を伸ばし、乱暴にキャップを外して一気に口をつけた。―――冷たいお茶がノドを通っていく爽快さを感じつつ、口を離して大きく息を吐く。

「安原くん、今日の講義は?」

「今日はもう終わり。は?」

「あ〜、私も今日は終わり」

返ってきた問い掛けに軽く答えて、は再びチラリとスポーツ新聞へと視線を移す。

それを認めて、安原は躊躇いなく新聞に手を伸ばすと、おそらくはの目的であろう部分に目を走らせ困ったように笑みを浮かべた。

諏訪市内で山火事。別荘と雑木林焼ける・・・ですか」

安原によって読み上げられた記事の内容に、は焦れたように空を仰ぎ見る。

空は皮肉なほど青く澄み渡っている。―――まるで、自分たちの身に起きた事など些細な事だと言われているような気がして、はもう一度ため息を吐き出した。

「どうしたんですか。さっきからため息ばっかり」

「だぁってさ〜」

しょうがないなとばかりに微笑む安原を見返して、は脱力したようにテーブルに顔を伏せる。

チラリと視線だけで安原を見やって、そうして気まずげに視線を逸らした。

「なんかさ、ちょっと嫌な感じだよね」

「・・・嫌?」

「そ。この事件で、行方不明になった人を合わせて少なくとも5人は亡くなってるのに、そんな事どこにも書いてないし」

そりゃそうである。―――あくまで彼らは行方不明になったのだ。

今回の火事とそれらを関連付けて考える者はそうはいないだろう。

そして彼らの遺体が発見されたとしても、犯人が捕まる事は永遠にないのだから。

「そりゃさ、浦戸をとっ捕まえて罪を償わせるなんて出来るわけないんだけどさ。―――その前に『犯人は幽霊でした』なんて言ったって、警察が信じるわけないし」

「まぁ、信じたとしてもどうしようもないけどね」

この国には、霊を裁く法律などない。

霊によって殺される人がいたとしても、それを裁く事は出来ないのだ。

まぁ、霊を裁判にかけて刑務所に入れる・・・など、普通に考えても無理なのは承知の上だが。

けれどは知っている。

行方不明になった人たちが、どんな最期を迎えたのか。

あんなにも残酷で悲しくて恐ろしい最期を迎えた彼らを誰も知る事がないなど、仕方がないと解っていても素直に納得できるものではなかった。

それでも依頼主が選んだ選択を非難するわけでもない。

あのまま放置しておけば、いつかまた誰かが被害に合うかもしれないのだ。

かなり思い切った手段ではあるが、炎によって浄化できると解っているのだから、それを選ぶのは賢明だと言っていいだろう。

それは解っている。―――解ってはいるが・・・。

「でも昇華しきれないこのもやもやはどうしたらいいのよ〜!あー、もう!すっきりしない!!」

バンと強くテーブルを叩いてそう声を荒げるに、通り過ぎる学生が何事かと視線を向けている。

それに気付きながらも、安原は何も言わずに購入した缶コーヒーに手を伸ばした。

どうせ宥めたって、彼女の気が治まるわけでもないのだ。

ならば好きなだけ喚かせておけばいい。―――どうせその内治まるのだろうから。

そう結論付けて、安原は缶コーヒーに口をつける。

それを確認したは、何も言わない安原を恨めしげに睨み上げて・・・―――けれど諦めたように小さく息を吐き出してからスポーツ新聞に手を伸ばした。

そうして既にぐしゃぐしゃになってしまったそれを、丁寧に折りたたみ始める。

「・・・落ち着いた?」

「そりゃ落ち着きもするよ。目の前で平然とコーヒーなんて飲まれてたらさ」

憮然とした様子でそう答え、は綺麗に折りたたんだスポーツ新聞をカバンの中へしまいこんでから再びペットボトルに口をつけた。

「でもさ、これってあれだよね」

「・・・あれ?」

「そ、完全犯罪ってやつ。誰も浦戸を裁けないし、浦戸に罰も与えられない。出来る事といったら燃やしちゃう事だけ。でも浦戸は元々死んでるんだから、それが罰になるのかどうか・・・」

ぶつぶつとそう呟くを見据えて、これは重症だと安原は乾いた笑みを浮かべた。

どうやら相当鬱憤が溜まっているらしい。

確かにあの結末ではそれも仕方ないのかもしれない。―――安原とて、思うところがないわけでもない。

けれど済んだ事は仕方がないのだ。

出来る事はやった。―――それ以上、どうするというのか。

それはも解っているはずだ。

それでもすっきりと割り切る事が出来ないのは、もしかすると彼女には霊の姿が見えるからかもしれない。

彼らがどういう最期を迎えたのかを、知っているからかもしれない。

そこまで考えた安原は、そういえば・・・とずっと抱いていた疑問を思い出した。

、ちょっと聞いてもいい?」

「なーにー?」

すっかりやさぐれているらしいに向かい変わらない笑みを浮かべながら、安原は考えを巡らせつつ口を開いた。

「原さんが行方不明になった時、夢の中で彼女に会ったって言ってたでしょ?」

「あー・・・うん、まぁ」

「その時にそのブレスレットを彼女に渡したって」

安原の視線が、の腕で揺れているブレスレットに向けられる。

それに気付いて無意識にそれに手を添えたは、それがどうしたの?と安原に視線を返した。

「僕が聞いた話によると、ってそれを取ると霊を憑依させちゃうって・・・」

「・・・ああ、まぁ。そんな感じかもね」

「でも、夢で原さんにそれを渡しちゃったんでしょ?大丈夫だったの?」

不思議そうに問い掛けられ、は困ったように眉を寄せた。

そのまま俯きつつ、小さく唸り声を上げる。

大丈夫か大丈夫じゃないかと問われれば、結果的には大丈夫だった。―――あの状況で、は霊に憑依されなかったのだから。

けれど・・・。

そう考えを巡らせて、はブレスレットに視線を落とした。

それは太陽の光を浴びて、僅かに光を放っている。

「・・・ねぇ、安原くん」

「なに?」

俯いたまま安原に声を掛け、右手でブレスレットを包み込むように握り締めると、はパッと顔を上げた。

「気分転換にどっか行かない?」

「・・・は?」

「なんかさ〜、パーッと遊ぼうよ。この憂鬱な気分を吹き飛ばすために!」

力強く拳を握り締めながらそう声を上げるを見返して、安原は気付かれないように小さくため息を吐き出すと小さく笑って見せた。

「なら、カラオケは?」

「カラオケ!?安原くんってカラオケに行くの?」

「そりゃ、カラオケくらい行くよ。―――え、そんなに意外?」

「いや、意外かどうかって言われると答えにくいけど・・・。でも安原くんがどんな歌選ぶのか想像できない・・・」

「じゃあ、折角だから僕の美声を聞かせてあげよう」

そう言って悪戯っぽく笑う安原を見返して、は声を上げて笑った。

そうと決まれば早速行こうとばかりに席を立ち、のんびりと支度を整える安原を急かして先を歩き出す。

そんなの背中を見つめながら、安原は苦笑を漏らした。

「・・・いやぁ、流石に手ごわいなぁ」

小さく独りごちて、困ったように頭を掻く。

あからさまに話をはぐらかされた事には、勿論気付いていた。

問い詰める事も出来た。

けれど彼がそれをしなかったのは、そうされたくないとが望んでいるのに気付いたからだ。

明るい笑顔の中でたまに彼女が見せる表情。

その理由を知りたいと思いつつ、それでもまだ踏み出せずにいる。

「安原くーん、早く!」

「はいはい」

遠くで手を振るを見つめて苦笑いを浮かべた安原は、カバンを抱えなおしつつ足を踏み出した。

そうして殊更急ぐでもなく自分の下へ歩み寄る安原を見つめながら、は物悲しげに微笑む。

「・・・ごめんね、安原くん」

自分を心配してくれている友人を誤魔化さなくてはならないのは、酷く心苦しい。

たとえ安原がそれを察し、それを許容してくれていると解っていても。

けれど話せない理由があるのだ。

「・・・約束だからね、ぼーさん」

すべて話せる時が来たら一番に話すと、そう約束したから。

その約束を、はまだ守っていない。

「・・・どうしたんですか?」

「ううん、なんでもない。さ、行こう」

約束を果たせる日は、そう遠くないかもしれない。

そんな確信にも似た思いを抱きながら、隣に立った安原の訝しげな表情に笑みを返して、は強引に安原の背中を押して歩き出した。

 

 

程よい疲れを感じながら、は大きく伸びをする。

安原とのカラオケは、思った以上に楽しかった。―――あんなにも大声で笑ったのはいつ振りだろうか。

彼のおかげで鬱々とたまっていたストレスも大分発散できたと思える。

本当に気を遣ってくれる彼には感謝しなければならないなと改めて思いながら、は漸く帰り着いた我が家の扉を元気良く開けた。

「たーだいま!」

久しぶりに爽快な気分を味わいつつ、大きな声で帰宅を告げる。

しかしいつもならばすぐさま出迎えてくれる藤野の姿はどこにもない。

一体どうしたのかと視界を巡らせると、玄関の端に見慣れない靴を見つけて、は僅かに首を傾げた。

「・・・お客?」

今日誰かが尋ねてくるなど、朝食の時には言っていなかった。

けれど本家を尋ねるのは、家の一族の者以外にはいない。

その事実にまたもや憂鬱な気分を抱きながら、は困ったように眉を寄せた。

今来ているのが誰であれ、自分にとって不都合な相手には違いないだろう。

そうは思うけれど、帰ってきた以上顔を出さないわけにもいかない。

こんな事ならば、もう少し安原に付き合ってもらえばよかったと思いながらも、は緩慢な動作で靴を脱ぎ、おそらくは客がいるだろう広間へと向かった。

「・・・です。ただいま戻りました」

ふすま越しにそう声を掛けて、は中から聞こえてきた一清の声に応じて静かにふすまを開く。

普段は彼を呼び捨てにし、気楽に話す事が出来るが、仮にも一清は家の当主でありの上司なのだ。―――他の家の者の前ではそれなりにけじめをつけなくてはならない。

それが建前。

本音を言えば、余計な説教が飛んでこないようにとの防御策である。

「ああ・・・お帰りなさい、さん」

すぐさま藤野の声が聞こえ、はそれに釣られるように顔を上げる。

そうして目の前にいる人物が誰なのかに気付いて、は思わず目を丸くした。

「・・・茶生ちゃん、兵庫くん」

顔を合わせるのは美山邸以来である。

もっとも、そう度々顔を合わせる機会があるわけでもないが。

「彼らは先の事件についての報告書を提出しに来たんだ」

「もう用は済みましたので、私たちはこれで失礼します」

一清の説明に続いて、やんわりと微笑んだ兵庫がそう付け加える。

そうして一清に向かい礼儀正しく挨拶をした2人は、にも挨拶をしてから言葉通り広間を出て行った。

見送りに藤野も広間を出て行くと、室内は途端にシンと静まり返る。

それにどこか居心地の悪さを感じながら小さく身じろぎしたは、不意に一清の視線が自分へ向けられているのに気付いてそちらへと視線を向けた。

「・・・なに?」

「なに、とは?俺は何も言っていないが?」

と目が合う前に報告書に視線を落とし、シレっとした態度でそう告げる一清に、は不機嫌そうに眉を寄せる。

「さっき私の事見てたでしょ?」

「ふん、俺は庭を見ていたんだ」

「何その苦しすぎる言い訳!あんたは子供かっ!!」

平然とした様子でそうのたまる一清に突っ込みを入れながら、は深いため息を吐き出す。

そもそも、彼を問い詰めようという事自体が間違っているのだ。―――これまでそれを実行し、成功した事など一度もないのだから。

それでも言わずにはいられないのだから、自分も諦めが悪いというかなんというか・・・。

そんなどうでもいい事に意識を飛ばしていたは、またもや自分に向けられている一清の視線に気付いて目を向ける。

今度は彼も視線を外す事無く、まっすぐを見据えていた。

「・・・だから、なに?」

「今回はずいぶんと活躍したようだな」

「・・・は?」

突然の言葉に、は思わず目を丸くする。

しかしそれに構わず、一清は淡々とした口調で言葉を続けた。

「彼らの報告書にもそういった内容の事が書かれている。―――これを書いたのはおそらく兄の方だろう。ずいぶんとお前の事を褒めてあるようだが?」

「そんな・・・そんな褒められるような活躍なんてしてないよ、私は」

「だろうな」

あっさりと答えられ、は思わずグッと拳を握り締める。

確かに今自分が言った通りではあるが、だからといってこの態度が気に障らないわけではない。

もっとも、それが一清なのだと言ってしまえばそれまでだが。

「だが、あの妹がそれに異論を唱えなかったんだ。一体何があったのか、興味がそそられるところだが・・・」

くつくつとノドを鳴らして楽しそうに笑う一清を睨みつけて、は美山邸での兄妹との会話を思い出す。

彼女の言う事はもっともだった。

もっともすぎて、反論できないくらいに。

けれどそれをすべて受け入れられるほど、はまだ覚悟がない。―――いや、諦めきれないと言った方が正しいかもしれないが。

そう改めて認識し、は今もまだ小さく笑う一清をきつく睨みつけて踵を返した。

「私はあんたを楽しませるためにいるんじゃないっての!!」

悔し紛れにそう言い捨て、は一目散に玄関へと走る。

そうして玄関先で藤野が車を回してくるのを待っている兄妹を認め、大きな声で2人の名を呼んだ。

それに慌てて振り返る兄妹を見据えて、は裸足のまま一歩踏み出す。

「・・・なん、ですか?」

突然のの行動に目を丸くしつつもそう問い掛ける茶生に向かい、はグッと拳を握り締めると視線を逸らす事無く口を開いた。

「私は、きっとあなたを満足させる事なんて出来ない。きっとどの道を選んだとしても、あなたが納得するような未来にはならないと思う」

「・・・・・・」

「それでも、私は・・・」

それでも、願ってしまうから。

「私、ちゃんと前を見ようと思う。現実から目を逸らさないで、ちゃんと前を向いて歩いて行きたいってそう思う」

それをすぐに実践できるかどうかといえば、難しいかもしれない。

けれど今のに必要なのは、その決意なのだ。

見たくない現実から目を逸らすのではなく、気付きたくないそれに蓋をするのではなく、たとえそれが自分にとって都合が悪くとも、向き合わなければならないとそう思う。

きっと本当は、もっとずっと早くにそうするべきだったのだ。

けれど弱くてずるい自分は、そう出来ずにいた。

それでもその勇気をくれた人たちの顔を思い浮かべて、はやんわりと微笑む。

「だから・・・ありがとう」

そしてそれを気付かせてくれたのは、きっと目の前にいる彼らなのだ。

そんな思いを込めて礼を告げると、茶生は困惑したように・・・そうして少し照れくさそうに視線を逸らすと、素っ気無い声色で小さく呟いた。

「・・・そんなこと、私に言われたって・・・」

「だよねぇ。しょうがないよね、そんな事聞かされたって」

茶生の言葉に軽く肩を竦めて見せたは、すぐさま返ってきた非難の眼差しに悪戯っぽい笑みを浮かべる。

そうしてそれを認めて不機嫌そうに眉を寄せた茶生が口を開くその前に、藤野の運転する車が兄妹の前に静かに停車した。

「じゃ、またね」

「・・・あなたって、思ってた以上に根性図太いのね」

「そりゃ、そうでなきゃ一清と一緒に暮らすなんて出来っこないわよ」

シレっと言い放ち、はもう一度軽く肩を竦めてみせる。―――こういうところは意外と似てきたのかもしれないとそう思って、思わず苦笑いを零した。

そんなにこれ以上文句を言うのを諦めたのか、深くため息を吐き出して車に乗り込む茶生と、明るく手を振りながら後に続く兵庫を見送って、は少しづつ遠くなる車の影が見えなくなるまでその場に立っていた。

これだけの事で、すべてが上手く行くわけではない事は解っている。

それでも、確かに一歩は踏み出せたような気がした。―――それは些細な事ではあるけれど、これまでの自分と比べれば大した進歩だ。

「・・・さてと、お風呂にでも入ってこようかな」

誰に言うでもなく呟いて、は自分が裸足である事に気付いて苦笑を零しつつ、笑みを浮かべたまま踵を返す。

心の中は、意外なほど晴れ渡っていた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

はっきり言って、意味が解りません。(おい)

思わせぶりな事ばっかり書いている反面、何一つすっきりしないところが痛いですが。

とりあえず、ありえないほど長くなった『血ぬられた迷宮』最終話をお届けしました。

最後のオリキャラとの絡みはいらなかったかなと思いつつ、せめてこれで兄妹(特に妹)の方の印象が改善できればなと・・・。

作成日 2008.2.9

更新日 2009.1.26

 

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