「・・・五十嵐先生、だいぶ疲れてたみたいだね。大丈夫かなぁ・・・」

夕食の席で、ご飯を口へと運びながら麻衣は浮かない表情でそう呟いた。

にとっては嬉しい和食ではあるけれど、残念ながらあまり美味しくは感じない。―――それは料理のせいではなく、気分の問題であるのだけれど。

「・・・う〜ん」

大丈夫だよ、とすぐに返してあげられない事が残念だった。―――どう見ても、五十嵐のあの状態は『大丈夫』とは言えない。

「鈴木さんを捜そうにも、この家解らない部分が多すぎるしなぁ」

「あんたたちの測量に掛かってんだから、頑張ってよね」

同じくお味噌汁のおわんを口元へ運びながらぼやいた滝川に、綾子が厳しい一言を投げ掛ける。

それは確かにその通りで、解ってはいるのだけれど・・・。

「そこで『手伝いましょう』の一言が出ない女だよな、お前は」

「なに甘えた事言ってんのよ。こっちだって霊の気配だの調べるために歩き回ってくたくたなの。―――ねぇ、真砂子」

「ええ。もっとも松崎さんは文句の方が多いですけれど」

「あんたも一言多いわよ!」

なんでもない顔をしてさらりと毒を吐く真砂子に裏手で突っ込みを入れる綾子を見て、意外に元気が有り余ってそうだと心の中で独りごちつつは口を開いた。

「大変さを競うのは止めようよ。なんか聞いてるだけで切なくなってくるから」

というよりも、これも何回思ったかはさておき、どうして自分は測量班なのだろうか。

能力の性質上、綾子や真砂子と同じ班になる方が自然だと思うのだけれど。

そんな事をが考えていた時、これ以上食が進まないのか・・・麻衣が箸をおいて椅子から立ち上がった。

「ごちそーさま。あたし、先にベース戻ってるね」

「だめよ、1人じゃ」

「大丈夫、すぐそこだもん。ベースに行けば誰かいるし」

綾子の制止をさらりと流して、麻衣は廊下へと向かう。

その背中に「すぐに行くから」と声を投げ掛けて・・・―――そうして麻衣が部屋を出て行ったのを確認した後、は隣でご飯を掻き込む滝川へコソリと声を掛けた。

「・・・あんまり考えたくないけどさ」

「あ?」

「実際問題として、鈴木さんが無事な可能性ってどれくらいなんだろ?」

問いかければ、ご飯を掻き込む体勢のまま止まった滝川が、横目でを見やる。

行方不明になってほぼ半日。―――これだけ捜して見つけられない彼女の生存の可能性は、どれくらい残されているのだろうか。

彼女が自分の意思で姿を消したのではなく、霊に連れて行かれたのだとすればなおさら。

の言葉に静かに茶碗を置いた滝川は、ごくごくとお茶を飲み干して大きく息を吐く。

「・・・ともかく、早く見つけてやろうぜ」

「・・・うん、そーだね」

あまり多くを語らずそう告げた滝川の言葉に僅かに笑みを零して、もまたお箸を置いた。

 

2人目の犠牲者

 

食事を終えて広間を出、途中の廊下で合流したナルたちと共にベースに戻ったは、部屋に流れる微妙な空気に気付いて首を傾げた。

「リン、測量しなおしたデータを出せるか?」

「はい」

すぐさま飛ぶナルの指示に動き出すリンを見やり、そうして先にベースに戻っていた麻衣へと視線を移す。―――なんとなく、麻衣に元気がないような・・・?

それに気付いてすかさず麻衣へと声を掛ける滝川を認めたは、もう1人の事情を知っていそうな人物へと照準を絞り、迷う事無くそちらへと足を向けた。

「・・・リンさ〜ん?」

「なにか?」

真面目にパソコンと向き合うリンの背中から声を掛け、そのままパソコンの画面を覗き込む。―――そうして何気ない仕草でリンの顔をも覗き込んだは、そこに浮かんだ僅かな変化を認めて目を丸くした。

「・・・あれ?どうしたの、リンさん。なんか機嫌良さそう・・・。いい事でもあった?」

突然の問い掛けに、今度はリンが目を丸くした。

何故解ったのだろうか?

それが良い事かどうかと問われれば答えづらくはあったが、少なくとも不愉快な事があったわけではないとははっきりと言える。

まだこの胸にあるわだかまりは消せないけれど、あんな風にまっすぐな眼差しで向かってくる人間を、リンは嫌いではなかったから。

そうしてそれは、この目の前にいる少女もまた同様で・・・。

そんなとリンのツーショットを横目に、麻衣は小さくため息を吐き出す。

先ほどの出来事を思い出し、その難しい問題を考えながら、その片隅で麻衣は不思議に思った。

どうしてリンは、には柔らかい態度を見せるのだろう。

それは傍目に見ていれば酷く解りづらくはあるけれど、それでもリンという人物を知っている者にとっては一目瞭然だ。―――それをが理解しているかどうかは、ともかくとして。

あれだけ頑なだったリンを、はどう攻め落としたのだろう?

心配そうに声を掛けてくれる滝川に笑いかけながら、麻衣は心の中で滝川へ声援を送った。―――敵は本人だけではないぞ、と。

「まだ空白が目立つな。―――小さいものはともかく、この大きい奴が気になる」

そんな中、リンが出した測量のデータを見つめながらナルがそう呟いた。

それに引かれるように全員がパソコンの前に立ち、入力されたデータを見る。―――確かに、屋敷の中央部分に一際大きな空白がある。

その空白だけで、もうひとつ大きな家が建てられるんじゃないかと思うほどの。

「正確な測量がまだだからなんとも言えないが・・・どうやら2階にもこの部分がありそうだ。―――麻衣、3階はどうだ?」

「えーと・・・3階にはないみたい。―――っていうか、3階ってちょうどこの空白の上に被さってる感じだよ」

ナルの指示にすぐさま3階部分の測量データを確認した麻衣は、ナルに向かいそう返す。

すなわち、中央部分に存在する空白は、建物2階分ほどの高さがあるのだろう。

それが1つの部屋なのか、それともこれまでのようにたくさんの部屋が密集しているのかは解らないが。

それを聞いていた滝川が、ふと思いついたように口を開く。

「でかい隠し部屋じゃねぇの?さっきの部屋みたいに、上から入るようになっててさ」

「えー、これ全部が隠し部屋?それってなんか、果てしない・・・」

確かに可能性は高いが、あえてその可能性は考えたくない。

普通に調べるのだけでも厄介だというのに、どこに入り口があるかも解らないものを捜すのは口で言うほど簡単ではないのだ。―――探検気分も限界がある。

「もうさ、こうなったら手っ取り早く壁壊して・・・」

避けられない事は解っていても、ナルの厳しい要求が飛んでくる前にと口を開きかけたは、しかし不意にコツンとなった窓に気付いて視線をそちらへ向けた。

全員が見つめるその窓には、ぼんやりとした白い影が映っている。

「・・・でっ!?」

出た!と麻衣が声にならない声を上げて傍にいた綾子に抱きついたその時、その影の正体に気づいたナルが、彼らしくない驚きの声を上げた。

「まどか!!」

「・・・は?」

まどか?―――まどかってあの、まどかさん?

全員が呆気に取られる中、急いで窓を開けたナルは、そこに立つ女性へと手を伸ばして。

そうしてナルに引き上げられる形で部屋の中へと降り立ったまどかは、いつもと変わらないにこやかな笑顔を浮かべて全員に向かい手を振った。

「こんばんは〜。調査結果を知らせようと思って来たの」

呆気に取られる面々を前に爽やかにそう言い放ったまどかに、しかしナルが黙っているはずがない。

いつもよりも厳しい表情を浮かべて、じっとまどかを見つめ返すと咎めるような口調で言い放つ。

「そんな危険な事を・・・。なんかあったらどうするんだ?」

「あら?ナルが助けに来てくれるでしょ?」

しかしそれさえもまどかの笑顔の下に一刀両断され、ナルは反論の言葉が見つからないのかグッと口を噤んだ。

「・・・さすが、まどかさん」

ぜひ弟子入りしたいくらいである。―――こうまでナルを良い様に扱えるのなら、その用途はいくらでもありそうだと。

の呟きに思わず同意した滝川を尻目に、まどかは変わらぬ様子でにこやかに笑みを向けると、ポケットから取り出したメモ帳を開きながら口を開いた。

「じゃ、さくさく行きましょ。ええと・・・まずは連絡があった鈴木さんの事ね」

誰からの反論もない事を承諾と取ったまどかは、メモ帳に視線を落としながら言葉を続ける。

まどかがこの辺りのバスやタクシー会社に問い合わせたところ、それらしい人を乗せたり見かけたりした運転手はいないのだそうだ。

勿論ヒッチハイクの可能性もないわけではないが、五十嵐が自宅に電話を掛けたところ応答がなかった事といい、現在の状況といい、やはり彼女はこの屋敷からは出ていない可能性の方が高いのではないかとまどかはそう告げる。

「先に消えた2人については?」

「はいはい」

気を取り直したナルの問い掛けに軽く返事を返して、まどかはさらにメモ帳を捲る。

最初に消えたのは松沼英樹、18歳、無職。

2月13日の夜、友人7名とここに来て消息を絶ったのだという。

部屋の1つで宴会をしている時、ふらふらと出て行ってそのまま戻ってこなかったらしい。

無人とはいえ人の屋敷に不法侵入し、あまつそこで宴会をするなど・・・―――どこの地域でもそういう人間はいるのだと思うと、呆れるより他ないとは思う。

一週間後に失踪届が出され、警察が人手を集めて捜索に来たらしいのだが、その松沼という青年は見つからず・・・―――それどころか、帰ろうとした頃には捜索に加わった内の1人が行方不明になっていたのだ。

「その人が、2人目・・・?」

「そう。消えたのは21歳の青年。この中に証言を録画したテープと、ここを建てた美山鉦幸親子の簡単な経歴を纏めておいたから」

そう言ってまどかから差し出された茶封筒を受け取りつつ、ナルは確認の為に問い掛けた。

「・・・美山氏は『美山慈善病院』という保護施設がついた病院を所有していなかったか?」

「・・・え?」

ナルからの問い掛けに、まどかはきょとんと目を丸くして。

そうして不思議そうに首を傾げて、驚いたように呟いた。

「なんで知ってるの?」

事実上、調査の間はこの屋敷から出る事の出来ないナルが、何故それを知っているのか。―――まどかにとっては不思議で仕方ないのだろう。

そうして隠し部屋と思わしき部屋で見つけたコートの話を聞かせたナルは、早々にまどかを屋敷から遠ざけるべく彼女の背中を押す。

1人で戻らせるのは不安なのか、まどかを送り届ける役をリンに任せて・・・―――そうして相変わらずにこやかな笑顔を浮かべて手を振るまどかを見送った面々は、思わず深いため息を吐き出した。

「・・・このコートが支給品らしいってのは確認できたが、なんでここにあるかってのがナゾのままだな」

コートを広げながら呟く滝川に習ってそれを注意深く観察していたは、ふと思いついたようにポンと手を叩く。

「だよねぇ。・・・あ!もしかして、美山さんが保護施設の人たちを自宅に招待したってのは?」

「それならそれで、なんでその人はコートを置いて帰ったんだよ」

「・・・ああ、そっか」

滝川のもっともな意見に、流石にそれはないかとはがっくりと肩を落とす。

それに加えて、コートの中に入っていたお札に書かれたメモ。―――内容はともかく、そこに書かれてある文字から、それが楽しい話題ではない事だけは伝わってくる。

今もそれをじっと見つめているナルを横目に、は疲れたように息を吐いて。

今回の事件は、霊がどうこういう以前の問題かもしれない。

そもそも、ここにいるだろう霊の正体すら定かではないのだ。―――これから一体、どう調査すればいいのやら。

先当たっては、この屋敷の平面図を完成させる方が先かという結論に至り、明日もハードな1日になりそうだと想像して、はもう一度深くため息を吐き出した。

 

 

薄暗い室内で、昨夜と同じく膝を抱えたまま、はじっと朝を待つ。

昼間みんなでわいわいとやっている時には感じられない不安が、夜中になるとじわじわと這い寄ってくるようで、は耐えるようにぎゅっと目を閉じる。

暗闇が支配する視界の中で、唯一自分1人ではないと感じられるのは、聞こえてくる綾子たちの寝息だけだ。―――それだけが自分をこの場所に繋ぎとめてくれているようで、は必死に耳を澄ませた。

この調査は、一体いつまで続くのだろう。

徹夜に慣れた身であるとはいえ、流石に何日も寝ないまま過ごすなど不可能だ。

そろそろ身体は限界へと手を伸ばしている。―――せめて、この理由の解らない不安が消えてくれさえすれば・・・。

そこまで思考を巡らせたその時、ドンドンと激しく部屋の戸が叩かれ、ビクリと肩を震わせたは弾かれたように視線をそちらへと向けた。

同じくその騒音に目を覚ましただろう麻衣がベットから抜け出し、ぼんやりとした面持ちのまま扉を開く。

こんな時間に一体誰が・・・?―――そう訝しく思いつつも開けた扉の向こうには、血相を変えた南が立っていた。

珍しいというよりも予想外の人物の訪問に思わず目を丸くする麻衣を他所に、表情を青ざめさせた南は食いつくような勢いで声を上げる。

「あ、厚木くんを知りませんか!?」

「えっ、だ・・・だれ?」

「うちの助手です!ちょっと目を離した隙にいなくなって・・・―――もう2時間も捜してるのに見つからないんですよ!!」

怒鳴るような南の声に、麻衣は呆然と立ち尽くして。

南の訪問に目を覚ました綾子と真砂子もまた、彼の言葉に思わず目を見開く。

そんな中で唯一寝起きではない為に思考がはっきりしているは、弾かれたようにベットから飛び出し、南からは見えない場所で手早く着替えると、立ち尽くす麻衣の肩へ軽く手を置いた。

「麻衣、私はナルたちに知らせてくるから。麻衣たちは早く着替えて・・・その後はとりあえず広間に集合ね」

「あ、うん、解った」

おろおろとした様子で麻衣とを見やる南を押しやり、部屋の扉を閉めてから彼に同じように指示を出すと、は急ぎ足でナルたちの部屋へと向かった。

2人目の行方不明者。

鈴木がいなくなってから、まだ1日しか経っていないというのに・・・。

とうとう活発化しだした怪奇現象に表情を歪ませながら、は南と同じように乱暴にナルたちの部屋の扉を叩いた。

 

 

「まったく!どうなっとるんだ、この家は!!」

麻衣たちが広間についた頃には、既に今回の関係者全員が集まっていた。

2人目の行方不明者が出たという事で、全員に緊張が走っている。―――井村の苛立ち紛れのその言葉を聞き流しつつ、はチラリと南へと視線を向けた。

つい昨日まではこの異常事態に楽しげな様子を見せていた彼も、今は頭を抱えてテーブルに伏せている。

もっとも、自分の関係者が行方不明になったとなれば、楽しんでなどいられないだろうが。

「・・・とんでもない事になってきたね」

「そうだな・・・」

「これまでの状況から考えて、厚木さん・・・何も言わずに帰ったわけじゃないよね、きっと」

「・・・だろうな」

短い相槌しか打たない滝川を見上げてが小さくため息を吐き出したその時、じっと耐えるように椅子に座っていた五十嵐が、改めて南へと提案を向けた。

「あの・・・南さん。デイヴィス博士になんとかしていただくわけにはまいりませんの?博士のご都合が悪いようでしたら、誰か他の方に助けていただくようには・・・」

自己紹介の時に、彼は他にも有名な霊能者の協力を得られる・・・などと発言していた。

鈴木の時にはそこまでしてくれなくとも、自分のところの助手が行方不明になったとなれば、彼も重い腰を上げるかもしれない。

そう思って口を開いた五十嵐に対し、しかし南は気まずそうに視線を泳がせて・・・。

「あ・・・いや、しかし・・・みんな忙しい方ばかりだし、第一外国にいますから・・・」

「南さん!緊急事態ですよ!?2人の人が消えて、その内の1人はあなたの助手でしょう?それとも最初に有名な能力者の協力を仰げるとおっしゃったのは嘘ですの!?」

煮え切らない南の態度に、とうとう耐えかねたのか五十嵐が椅子を蹴倒す勢いで立ち上がりそう声を荒げる。

丸1日、姿を消した鈴木の安否に不安を抱いていたのだ。―――そろそろ限界が来る頃だったのだろう。

そんな五十嵐と南のやり取りを他人事のように見ていた井村は、小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言い放った。

「どうせ口から出たでまかせなんだろう?連中と知り合いなどと大口を叩きおって。そこにいるデイヴィスとやらも本物かどうか怪しいもんだ」

「なっ・・・!!」

どうしてこの人は、人の神経を逆なでするような発言ばかりをするのだろうか。

確かに全員思っている事は似たようなものだが、あえてそれを本人に向ける必要もないだろうに・・・―――そうがため息を吐き出した直後、やはり激昂したらしい南が怒りに任せて立ち上がり、そうして鋭い視線で井村を睨みつけ怒鳴り声を上げた。

「ぶっ・・・侮辱にもほどがある!私だけでなく博士まで貶めるような事をおっしゃるとは!!―――結構です!この事件は独力で解決します!さ、博士行きましょう!!」

話を理解しているのか微妙な様子で椅子に座っていた博士を促し、南は足音も荒く広間を出て行く。

それを見送りながら、は小さく息を吐き出した。

青ざめた顔で血相を変えて部屋に押しかけてきた人物とは思えない発言である。―――しかもその部屋の選択が、男子ではなく女子なのだから。

「みんな不安なのは解るけど、もうちょっと冷静に話し合えないもんかなぁ?」

「そういうお前は落ち着きすぎてる気がするけど・・・?」

「ほら、周りが騒げば騒ぐほど、人って冷静になるもんなんだよね。我に返るっていうか」

確かに・・・との発言に納得した滝川を他所に、同じく広間を出て行く南を見送っていた綾子が辛辣な言葉を向けた。

「・・・言われてみれば、あの博士が本物って証拠ないわよね」

ポツリと零れた言葉に、へと向けていた視線を綾子へと向けて。

「おいおい。なんだよ、急に・・・」

「だよね、南さんが言い張ってるだけだもんね」

綾子の発言に反論しようとした滝川を遮って、麻衣も同意したようにコクリと頷きつつ口を開いた。

確かに、彼がオリヴァー=デイヴィスだという証拠はどこにもない。―――誰も博士の顔を知らなければ、身分証明書を見せてもらったわけでもないのだ。

しかし追い討ちを掛けるような麻衣の言葉に、滝川は不貞腐れたように頬を膨らませ、ぐしゃりと麻衣の髪の毛をかき混ぜた。

「あらら、麻衣ちんまでそんな事言うの?なにさ、おいちゃんの夢壊す気か〜?」

「だって、博士の事すごいすごい言う割にすごいところ1回も見せてもらってないもん。それもこんな時にだよ?」

「そりゃ・・・そうだけど・・・」

もっともな麻衣の反論に、滝川は気圧されたように口を噤む。

麻衣の言う通りなのだ。―――だからこそ滝川には、反論の余地がない。

「・・・は〜い。この勝負、麻衣の勝ち〜」

「なんだよ、それ〜」

追い討ちを掛けるようなの言葉に、滝川は今度こそ機嫌を損ねたのかプイと視線を逸らす。

そんな子供じゃあるまいし・・・と乾いた笑みを浮かべるの隣で、安原はそれらすべてをさらりと流してジョンへと向かい口を開いた。

「それはそれとして・・・。南さんはああ言ったけど、僕たちも厚木さんを捜した方がいいですよね」

「さいですね」

いつでも真面目なジョンは、表情を引き締めながらそう答える。

結局はそうなるのか・・・と、それについての異議はないは漸く出た結論を耳に、チラリと何も語らないナルへと視線を向けた。

この場では一番の決定権がある彼は、しかし昨日の夕方に見つかった古いお札をじっと見つめている。

どうしても気になるのだろう。―――穴が開くほど見つめていたって、その意味が解るわけではないというのに。

「ナ〜ル。とりあえずまだ時間は早いけど、私たちも厚木さんを捜そうと思うんだけど」

「・・・そうだな。まずはベースに戻ってリンにデータを出してもらおう」

そんな彼の背後から顔を出しそう提案すると、聞いていないようで話を聞いていたらしいナルは無言で1つ頷く。

それにしっかりと頷き返したは、改めてぐるりと部屋の中を見回して。

行方不明になった鈴木と厚木。

降霊会で書き散らかされた『助けて』と書かれた紙と、『死にたくない』と書かれた紙。

充満する血の臭いと、不可解な夢。

そうして、おそらくは存在するだろうたくさんの隠し部屋。

解らない事ばかりで、何度ため息を吐き出しただろうか。

鈴木と厚木の行方不明に霊が関わっているとすれば、その目的は一体なんなのか。

そうして、その霊はどうやって彼らの姿を消したのか。

自分たちのすぐ傍にも危険が迫っているようで、思わずゾッとするけれど。

ふと視線を感じそちらへ目を向けると、今もまだ広間に留まっている兵庫と茶生の2人が探るようにを見つめている。―――いや、探るように見ているのは、妹の茶生の方だけだったが。

そういえばこっちにも問題は残ってたんだっけ・・・と心の中で独りごち、は小さくため息を吐き出す。

しかし今はそれどころではないのだ。―――手遅れになる前に、彼らを見つけ出さなければ。

「・・・早く見つけてあげなくちゃね」

決意を固めるようにそう呟きを漏らして、は気合を入れるべくグッと拳を握り締めた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

数話に渡って存在を忘れられてたオリキャラが名前だけ登場。

忘れていたのは、他でもない私ですが。

この話の進行具合から見て、このシリーズだけで主人公のナゾをすべて解決するのは難しそうです。

この後もなんだかんだと大きな事件が目白押しですし。

何よりも、それをすべて入れていたら一体何話になってしまうのか恐ろしいですが。

作成日 2007.12.21

更新日 2008.8.11

 

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