「・・・そうだね。じゃあ、昔話をしようか」

唐突ともいえるタイミングで切り出された言葉に、話を振ったはずの滝川は思わず目を丸くする。

けれど彼女の顔に浮かぶ表情に何かを察し、彼もまたその先を促すように口を噤む。

の語る、昔話。

それはきっと、滝川がずっと知りたいと思い・・・―――そして彼女自身が語ってくれる事を待ち望んでいたものなのだろう。

それを聞いてどうするのかと問われれば、きっと滝川は答えを持っていない。

ただ、知りたいのだ。

時折彼女が浮かべる、暗い表情の理由を。

明るい表情の奥に見える、拭いようのない絶望を。

それでも懸命に前へ進もうとする、その強さを。

ふと口を噤んだ滝川を認めて、はやんわりと微笑む。

「落ちこぼれの女の子の、望まないシンデレラストーリーをさ」

決して誰にも語られる事のなかった、彼女の記憶。

それはずっとずっと昔、彼女が生まれたその時から始まっていた。

 

愛しき箱庭の片隅で

 

「私ね、今でこそ『月華』なんて呼ばれてるけど、昔はほんと落ちこぼれだったの」

彼女の口から放たれた第一声は、しかし柄にもなく緊張していた滝川にとってすぐに理解できないものだった。

困惑した滝川の様子を感じ取ったのか、はジッと滝川を見つめたまま口を閉ざす。

その隙に先ほど聞こえた言葉を改めて反芻した滝川は、言われた言葉を理解し眉間に皺を寄せる。―――言われた言葉は理解したが、やはりその意味が理解できない。

「落ちこぼれ・・・?」

だからこそ訝しげに問いかけると、そんな彼の態度が可笑しかったのか、はクスクスと小さく笑みを零した。

「そう。霊能力をまったく持たない、家の落ちこぼれ」

浮かべた笑みをそのままに、は何でもない事のようにそう告げる。

しかしすぐさまその笑みは強張ったものに変わってしまったが。

家の人間は、一族全ての者が大なり小なり霊能力を有している。

高遠など、仕事が出来るほどの霊能力を持っていない人間はいたとしても、まったく力を持っていない人間はいない。

それは家の人間だけに限らず、人は潜在的にそういう力を持っているものなのだ。―――それが表に出ているかいないかの違いはあるけれど。

しかしにはその力がまったくなかったのだという。

果たしてそんな事がありえるのだろうか?―――そんな疑問を読み取ったが、滝川へ向けていた視線を宙へと逸らし、静かな声で口を開く。

「実際は、本当に力がなかったわけじゃないの。もちろん私も周りの人間も、私には力がないってそう言った当主の言葉を信じてたんだけど」

勿論それはそうなのだろう。

でなければ家の『月華』など勤まらないし、彼女にそういう力が備わっている事は何度も一緒に仕事をした滝川も知っている。

では、何故当主はそんな嘘をついたのだろう。

それとも、子供の頃は本当にそれが解らないほど力が弱かったのだろうか?―――それにしたって、力がまったくないと断言してしまうのは早すぎる気もするけれど。

「前にも話したと思うけど、私って霊に対する抵抗力がものすごく弱いらしくて・・・。子供の頃はそれが特に酷かったらしくて、危険だからって前当主が私の霊能力を封じたらしいの」

「・・・霊能力を封じた?」

「どうやったのかは解らないけど、そうらしいよ。私は何も知らされてなかったし、他の家の人間も何も知らなかった。―――だから、私は家の落ちこぼれだったの」

そう言って小さく息を吐いたを認めて、滝川は僅かに眉を寄せる。

先ほどから『〜らしい』ばかりだ。

自分の事だというのに、まるで他人の過去を語っているようだ。

何も知らされていなかった、とは言った。―――もしかするとこの話し方は、そこら辺が関係しているのかもしれない。

自分の事だというのに、彼女自身がそこから遠いところにいたのだとしたら・・・―――にとっては、もしかすると他人の過去のような気になるのかもしれない。

「私の両親はね、家でも特に強い力を持ってたんだって。私はよく知らないんだけど。だから私が産まれる時、周りもすごく期待してたって」

幼い頃、自分に向けられた視線を思い出し僅かに表情を歪める。

「だからだと思う。期待してた分だけ、落胆も激しかったんだろうね」

子供だったから、最初はどうしてそんな目で見られるのかがには解らなかった。

しかしそういった事はどんなに隠そうと思ってもいつかは耳に入るのだ。―――そうして家の大人たちは、殊更それを隠そうとはしなかった。

『まさかねぇ、こんな事になるなんて・・・』

『ご両親も大変でしょうねぇ・・・』

哀れみと侮蔑の入り混じった視線。

『まったく!恥さらしもいいとこだ!!』

『本当に。こんな事が知れたら大変よ。期待はずれどころか、いい迷惑だわ』

容赦なく浴びせられる怒声と軽蔑の声。

その度に両親や藤野が駆けつけて守ってくれたけれど、誰1人としてその理由を教えてくれる人はいなかった。

今ならば幼い子供相手に・・・とこちらこそ呆れるくらいなのだけれど、その出来事はまだ何も知らない子供に大きな恐怖と悲しみを刷り込んだ。―――理由が解らないこそ、余計に。

勿論その詳細まで語る気はない。

少しだけ過去を思い出していたは気を取り直したように笑みを浮かべて・・・―――けれど視線は決して滝川へと向ける事無く言葉を続ける。

家ってさ、ほんと特殊な世界なの。力こそすべて!とまではいかなくても、それに近い感じ」

昔からずっと、霊能力という目には見えないものを商売道具にしてきたのだ。

それまで積み重ねた実績と信頼で成り立っているような職業。

それ故に彼らが力の有無に執着するのは当然なのかもしれない。

だからこそ、家では力の強い者が何よりも優先された。―――優遇されたといってもいいだろう。

そんな中で当主自ら『力がない』と断言された人間の行く末は、考えるまでもなく明るいものではなかった。

「だからさ、ほんと肩身狭かった。―――ううん、私よりもきっと両親の方がそうだったと思う」

家でもトップに近いほどの実力者であった両親。

彼らがどう思っていたのかは解らないが、きっと幼い子供に向けられるよりももっと酷い中傷を受けただろう。

これまで優遇されてきたからこそ。―――妬みや嫉妬の感情も少なくはなかっただろうから。

実際問題として、子供の事を除けば彼らに中傷されるべき部分はない。

「だけどお父さんもお母さんも、私にはすごく優しかった。たくさんの愛情を注いでくれた。霊能者になんてならなくてもいいって、そう言ってくれた。―――だけどそれと同じくらい、申し訳なさそうにもしてた」

自分たちの子供でありながら、力を受け継がなかったへ。

満足に守ってやる事も出来ず、謂れのない中傷を浴びるしかなかった自分の子へ。

が悪いわけでも、彼女の両親が悪いわけでもない。

ただ、どうしようもなかったのだ。―――そう割り切ってしまえればよかったのに、現実はそう甘いものではなかった。

少しづつ成長をするにつれ、自分を取り巻く環境を理解するにつれ、それは嫌というほど察する事ができたから。

「だから私は、2人の誇れるような自分でありたかった。霊能力だけはどうしようもないから、せめて世間では自慢できる娘でいたかったの」

だから勉強も運動も頑張った。

友達もたくさん作って、先生の言う事もよく聞いて・・・―――だけど優等生だと敬遠されないように気を遣って・・・。

それは口で言うほど簡単な事ではなかったけれど、努力が出来るだけマシだった。

上手くいく事もそうでない事もあったけれど、結果が見えるのが嬉しかった。―――家で、何も出来ずにただそこにいるだけよりもずっと。

きっと他人ならば、そこまでする必要はないのではないかと思うだろう。

他人からみれば、本当に小さな世界。

それに縛られる事なんてないのだと、だって他人ならそう言う。―――けれど・・・。

には、その世界が全てだった。

小さかったには、その小さな世界が全てだったのだ。

の話を聞いていて、滝川はなるほどとこれまで抱いていた疑問のひとつに合点がいった。

月華として地位を確立しているが、どうして無理をしてまで学業に拘るのか。

勿論勉強が好きだという事もあったのかもしれないが、それでも追い詰められたように学業に拘る姿をずっと不思議に思っていたのだ。

そこにそんな理由があったなんて、思いもよらなかったけれど。

「そうやって私は毎日を過ごした。相変わらず家での私の立場は変わらなかったけど、それでも世間では上々の評価は得られた。私立の名門中学校に受験して合格して、これで少しはお父さんとお母さんも肩身の狭い思いをしなくてもいいって、そう思った。―――だけど・・・」

ほんの僅かに戻っていた明るい表情が、途端に暗いそれへと変わる。

「それも、全部無駄になった。私が中学に上がる前に、お父さんもお母さんもいなくなったから・・・」

普段の彼女からは考えられないほど暗い声色に、黙って話に聞き耳を立てていた麻衣の肩がピクリと揺れた。

の両親の話を聞いたのは、思えば今回が初めてだったかもしれない。

いつもナルに似た傍若無人な上司の話は聞くけれど、思い返せば彼女の口から親の話が出た事はない。

その口ぶりからすると一緒に暮らしているわけではないようだったが、必要以上に自身の事を語らない彼女に突っ込んで聞けるほど麻衣は無神経ではなかった。

そっか、亡くなってたんだ。―――心の中で小さく呟き、身体を丸めるようにして体育座りをするの小さな背中を見つめた。

孤児だと打ち明けた麻衣を力いっぱい抱きしめた時のを思い出す。―――あれはもしかすると、自分と重ね合わせていたのかもしれないと。

「いつも通り仕事に出かけたの。しばらく帰れないかもしれないけど、戸締りには気をつけてねって心配そうに笑ってた」

仕事で忙しい両親が家を空ける事は、実を言うとそれほど珍しい事ではなかった。

だからがまだ本当に幼い頃、彼女は本家で暮らしていたのだ。―――家でも実力者である両親に仕事に専念してもらう為に。

が小学校に上がる頃には、本家を出て親子水入らずで暮らすようになったけれど。

まだ小さな子供に1人で留守番をさせる事を心配していた両親は悩んだそうだが、風当たりの強い本家で暮らす事はの精神にもよくないと判断したのだろう。

にとっても両親のいない家に1人でいる事は寂しかったが、それでもなんとか我慢は出来た。

仕事が終われば、2人は真っ先に帰ってくる。

そして満面の笑みを浮かべてギュッと抱きしめてくれるのだ。―――それがには何よりも嬉しかったから。

けれど・・・。

「それが最後になるなんて、思いもしなかった」

どこか遠いところを見つめながら、がポツリとそう漏らす。

それはなんて事はない調査のはずだった。

当主と月華。

それに時期当主として地位を確立していた一清と、家でも指折りの霊能者であったの両親。

そして月華候補と名高い一清の幼馴染である彰。

これまで稀に見るほどの顔ぶれで挑んだ調査は、それほど大したものではなかった。

時期当主として、一清に経験を積ませるためのそれ。

それは何の滞りもなく、至極穏便に終わるはずだった。―――そう、思われていた。

しかしそれが家にとって稀に見るほどの大事件に発展する事など、その時の彼らには知る由もなく。

 

 

調査の為に向かった廃屋は、随分と昔に廃校になった学校なのだという。

当事者たちはその時の事を話そうとはしないので定かではないが、どうやらそこに予想していた以上に強力な力を持った悪霊が棲んでいたらしい。

そこで何があったのか、詳しくは解らない。

ただその調査が終わった頃には、多大なる犠牲者が出ていたという事。

まず、の両親が命を落とした。

それに加えて、月華候補と囁かれるほど有望な青年もまた命を落とした。

そして・・・―――何よりも衝撃的だったのは、当主が意識不明の状態で本家へと戻ってきた事だった。

当時、当主の月華が責められたのは言うまでもない。

お前が付いていて、何故当主を守りきれなかったのかと。

その答えは明白だった。―――彼は当主ではなく、一清を守ったのだ。

異常とも取れるその調査の中で、当主が言った『一清を守れ』の言葉を尊重した。

彼はしっかりとその仕事を果たしたのだ。

意識不明で本家へと戻った当主だが、医者に見せても異常はなく、けれど意識が戻る事もなく。

その数年後、少数の者に看取られながら当主は逝った。

 

 

「そこで何があったのかは、誰も何も教えてくれないから私は知らない。一清は今も、あの時の事を話したがらないから」

一清にとっても、辛い思い出に違いない。

何も出来ず、ただ逃げる事しか出来なかった。

普段の態度からは解りづらいが、彼は誰よりも責任感の強い男だから。

ふと黙り込んだを見つめながら、滝川は先ほど聞いた話に出てきたある人物の名前が気になり躊躇いながらも口を開いた。

「そういえば前にも言ってたな。その彰さんって人の事」

諏訪での調査の時、鉢合わせた家の兄妹の妹が口にした名前。

『いつまでも甘えてないで!あなたがどう思おうと、周囲がどう思おうと、家の『月華』はあなたなの!そんなんじゃ、彰さまだって・・・!』

あの時は少女の一方的な言い分に腹を立てて口を挟んだが、今までの口から聞いた事のない名前に気になってはいたのだ。

その後問いかけはしたものの、事態はそれどころではなく、結局返事は聞けずじまいだった。

もその時の事を思い出したのだろう。

ああ、という顔をしながら僅かに頬を緩める。―――それは先ほどまでとは違う、とても自然なもののように見えた。

「彰さんはね、一清の幼馴染なの。すごく明るくて優しくて、こんな私にも彰さんは分け隔てなく接してくれた。すごく、優しい人だった。―――ちょっとぼーさんに似てたかな」

チラリと滝川を横目で見やり、くすぐったそうに笑う。

特別見た目が似ているというわけではないけれど。

それでもふとした瞬間の優しさだとか、困ってしまうくらいおせっかいなところだとか、思っていたよりもずっと心配性なところだとか。

気さくで、誰とでも仲良くなれて、そこにいるだけで周囲を明るくしたり、いざという時にはとても頼りになったり。

勿論、そんな事まで口にするつもりはない。―――だって恥ずかしいじゃないか、と心の中で言い訳をしながら。

「それと同時に、一族内でも強い力を持ってる人でもあった。―――だから、一清の月華は彰さんだろうってみんな思ってたし、認めてたみたい」

実際問題として、彼が月華になったならば全てが穏便に進んでいたのかもしれない。

嫉妬や妬みの感情を持つ者はいるだろうが、一族内でも認められていた彼が月華になるのが一番妥当だというのが大多数の見解だったからだ。

だけど、それも叶わなくなってしまった。

なんでもないと思われていた調査で、たくさんのものを失ってしまった。―――それは一清も、そしても。

「前当主が亡くなって、一清が当主に就任して・・・―――結構ごたごたしてたみたいだけど、元々蚊帳の外だった私の生活は変わらなかった。―――両親がいなくなった事を除けば」

まだ子供だったにとって両親がいなくなるという事は他と比べる事など出来ないくらい大きな問題だったけれど。

それでも家の騒動とは無縁でいられた。―――だってには関係がなかったから。

関わるつもりもなかったし、関わりたいとも思わなかった。―――勿論、落ちこぼれのが関われるような問題でもなかったけれど。

「私はそのまま小さなアパートを借りて、奨学金を受けながら両親の残してくれたお金で細々と暮らし始めたの。一清が援助してくれるって言ってくれたけど、断った。両親がいなくなったんだもの、私と家を結ぶものはなにもないし、何もいらなかった」

すべてのものに期待しない。―――そうやっては今まで生きて来た。

期待しなければ、裏切られる事も傷つく事もない。

の周りの環境は、彼女にとってはあまり温かなものではなかったから。

だからすべてを遠ざけた。

関わる事を拒否した。―――それがどれほど些細な事であったとしても。

そうしなければ、1人で立っていられなかった。

そうしなければ・・・―――きっと1人では生きて行けなかった。

そしてには、もともと多くを望むつもりもなかった。

自分の手には、望むものが手に入らないと解っていたから。

ただ彼女の手の中にあるささやかな幸せと、望まれないのならばせめて1人でいる事と・・・―――そして、という存在を否定されなければそれで良かった。

「だけど私が高校に入学した直後、突然一清が私の前に姿を現したの。ご丁寧に、学校の前に車で乗り付けてね。何の嫌がらせかと思ったよ」

当時は、それは騒ぎになったものだ。

何せ突然校門前に黒塗りの高級車が現れ、誰かを待っているのだ。

私立の進学校とはいえ、特別お金持ちが通うような校風ではないそこで、それは人目を引くには十分すぎるほどの出来事だった。

そしては、笑顔を浮かべる藤野に捕獲された。

もちろん、そこで一清と藤野が自分を待っていたなど想像もしていなかっただ。―――解っていたのなら、絶対に裏から逃げていただろう。

そうして藤野に捕獲されたは無理やり本家へと連行され、大きくなってからはほとんど会う事のなかった一清は、まっすぐにへ視線を向けて。

「そして、言ったの。私を『月華』にするって」

はそこで全部聞いた。

彼女の霊能力が封じられていた事も、今になってそれが解けそうになっているという事も。

の選択肢は2つ。

危険を承知でこのままの生活を送るか、月華になって一清の庇護の元で生活していくか。

「前者を選べば、命の保障はない。―――まるで脅迫でしょ?」

冗談めかしたように言い笑うが、一清にどんな意図があったにせよ、それはまさしく脅迫だった。

結局のところ、一清はに生か死か選べと言ったのだ。―――選択肢としては、究極だと言わざるを得ない。

「んで、お前は後者を選んだわけだ」

納得したように滝川は頷いた。

怪奇現象や霊能者が嫌いなが、それでも月華として仕事をしている理由に漸く至った気がしたからだ。

それが安全に日々を過ごす為の条件ならば、いくらといえども跳ね除ける事は出来ないだろう。

しかしそんな滝川の納得したような呟きに、は薄く笑みを浮かべて。

「まさか。全力を持って前者を選んだよ、私は」

「おいおい・・・」

とんでもない発言に、どう反応していいのか解らず、滝川は呆れたように頬を引きつらせる。

生か死か。

その決断を迫られても、は危険を承知で霊能者と関わりのない生活を送る事を望んだというのだろうか。

それならば、の霊能者嫌いは筋金入りだ。

「でも、一清は諦めてくれなかった。勝手に住んでたアパート解約されて、勝手に本家に引越しさせられてた。―――アパートの保証人、一清だったから」

霊能者でもなかった家を繋いでいた唯一のもの。―――それがアパートの保証人契約だったのだ。

いくら両親がいないといっても、子供が1人で部屋を借りる事など出来るはずもない。

家に面倒を見てもらわないならば、施設に入るのが当然なのだ。―――なにせ当時のはまだ中学生である。

それでも彼女が1人暮らしをしてこられたのは、一清が保証人になってくれたからこそ。

本家へ連行された当日はなんとか逃げ出しただったが、次の日学校から帰って来てその事実を知ったは怒りも忘れて呆然としたものだ。

「バイトも勝手に辞めさせられてて・・・もう、どうしようもなかった」

とりあえずバイトの時間が迫っているからとバイト先に行ってみれば、既にそこにも手は回っていた。

その日、は住む場所と働く場所を同時に失ったのだ。

本当に、途方に暮れた。

これからどうすればいいのか解らなかった。

頼れる者もいなければ、身を寄せる場所もない。

迷惑を承知で友人の家に泊めてもらおうかとまで考え始めたその時、再び藤野は姿を現したのだ。―――本家で、一清が待っていると。

そして、は促されるままに本家へと身を寄せた。

それ以外、自分が取れる道はないと思った。―――けれど・・・。

「でも、きっと逃げようと思えば逃げられたんだと思う。どこか遠くの街に行って、また一から始めればよかったの。本当に嫌なら、そうするべきだった」

両親を亡くした時、家とは関わらず1人で生きていくと誓ったのだ。

それがどれほど困難であるかは解っていたけれど、そうしたいと思っていたし、またそうするべきだと思った。

「だけど、私はそうしなかった。嫌だと思っていても、それに従った。あれほど嫌悪してたのに・・・。あれほど、家から開放されたいと思ってたのに・・・」

呟いて、痛いほど拳を握り締める。

ジッと畳を見つめているの瞳は、それでも何も映していないように見えた。

ただそこに絶望と・・・―――そして諦めを宿して。

「きっと、私は知ってたの」

暫くの沈黙の後、かける言葉が見つからずにジッとを見つめていた滝川は、ふと零れ落ちた言葉に僅かに眉を寄せた。

「・・・なにを?」

「どんなに嫌でも、私の居場所はあそこしかないって」

たった1人で生きていく事など出来ない事は、本当はにだって解っていた。

まだまだ子供の自分。

現に、は自分が住む場所でさえ自分自身で見つける事が出来ない。

なのに、は自分自身の手で生きているとそう思っていた。―――否、そう思い込もうとしていた。

だってそう思わなければ、周りにはたくさん人がいるのに、それでも1人でいる自分がなんだかとても哀れに思えて。

そうじゃないと、主張したかった。

自分は人の手を借りなくても生きて行けるのだと、そう言いたかった。―――それこそが幼い意地なのだと解っていたけれど。

「解ってたの。居場所がなくても、家の人間である事を捨てれば、私には何も残らないって」

だけどそれを認めたくはなかった。

という存在を受け入れない場所。

なのにそこに縋りつくしかないという現実を認めたくはなかった。

「両親が死んだ時に捨てたはずだったのにね。―――それでも私は、今更に伸べられた手を、本当の意味で拒絶できなかった」

あの時、一清に真実を告げられたあの時、自分が抱いた感情がどんなものであったのか、にははっきりと説明する事が出来なかった。

今更何を・・・という怒りもあった。

突然突きつけられた現実と選択肢に、絶望もした。

勝手なことばかり・・・と、憤りもした。

でもその中に・・・―――ほんの少しでもホッとした感情はなかっただろうか?

自分は落ちこぼれではなかったのだと。

これで漸く、自分にも居場所が出来ると・・・―――ほんの少しでもそう思わなかっただろうか?

あれから何年も経った今でも、はあの時の自分の気持ちがよく解らない。

それでもは結局は受け入れたのだ。―――それが脅迫のようなものであったとしても。

「結局私は、嫌だ嫌だって言いながらもそれに縋ってたのかもしれない。―――家にとって厄介者だと解っていても、それでも・・・」

「・・・

ギュッと目を閉じて何かに耐えるように唇を噛むを見つめて、滝川は声をかけることも出来ずに小さく彼女の名を呼んだ。

が抱えていた心の闇。

その世界では有名な家に生まれ、そこで『月華』と呼ばれる実質ナンバー2の地位をも手に入れ。

それだけに留まらず学歴も積み、人当たりも良く友人たちにも囲まれて。

一見すれば、なんと光に満ちた人生だろう。―――その影にそんな真実が隠されているなど、一体誰が気付くだろうか。

誰もが羨むような彼女が、人知れずコンプレックスを抱え苛まれていたのだという事に。

そんな滝川の無言の戸惑いを感じ取ったのか、は強く閉じていた瞳を開き、そうして1度宙へと視線を投げるとフッと僅かに頬を緩ませた。

そうしてその表情のまま滝川へと視線を向けて、茶化すように笑みを零す。

「ま、そんなわけで、私は一清の言うように『月華』に就任した。そりゃもう、すごい騒ぎだったよ。なにせ私は、存在しない子供だったんだから」

「・・・存在しない、子供?」

「そう、そこにいるべきではない子供。存在自体を認めたくない子供、って言った方が解りやすいかもしれないね」

そう言って、は困ったように笑った。

それほど家では、力の有無が強い影響を持っているのだ。―――その存在すら、変えてしまうほどに。

しかし滝川は、そんなの言葉に僅かに眉間に皺を寄せて。

「・・・解んねぇよ」

滝川の率直な答えに、は更に笑みを深める。―――それは先ほどよりもずっと、悲しいものに見えた気がした。

「・・・そっか、解んないか」

それでも吐息のように吐き出されたその言葉は、どこか安堵を含んだ響きを持っていたような気がして、滝川もまたホッと息を吐く。

これまでの話で、が時折見せる負の雰囲気の謎は解けた。

それは滝川の想像もしない話だったけれど、それでも意外とすんなりと受け入れられたのは、それだけ彼女が時折見せる雰囲気が絶望に満ちていたように見えたからだろう。

それでも、ここまで話を聞いて改めて浮かんだ疑問もある。

この際だから全て聞いておこうと決意し、滝川は悲しげに目を伏せるへ向かい口を開いた。

「でも、なんで当主はそんなにまでしてお前を月華にしたんだ?確かに封じられてただけで力はあったんだろうが、それで周りが素直に納得しないのは解りきってただろうに」

それまでは『落ちこぼれ』の烙印を押されていた

たとえそれが偽りだったのだとしても、それを周りの人間が素直に受け入れられるかどうかは話が別だ。

想像するまでもなく、反発は必至だっただろう。

それを解っていながら、家当主はを『月華』にした。―――脅迫という形をとってでも。

それだけの力が強かったのだと言われてしまえばそれまでだが、しかしあれほど人材が豊富な家に代わりを勤められそうな人間が1人もいないとは思えない。

ならばなぜ、家当主はに拘ったのか。

でなければならなかった理由が、もしかするとあったのではないだろうか。

だとすれば、それは一体なんなのだろう?

そんな滝川の疑問に、は小さく笑った。

「本当はね、誰でも良かったんだと思う」

「誰でも・・・?」

「うん。ただ私には、何のしがらみもなかったから」

が月華になる事で、当主には何の影響もない。

両親ももういない。

家でのつながりもない。―――それが、一清にとっては望ましい形だったのだろう。

月華は家では当主の次に権力を持っている。

その権力が月華だけに留まれば問題ないが、必ずしもそうでない事はこれまでの歴史を紐解いていけば簡単に察する事が出来た。

どこの国でも、必ず権力争いはある。

そういう意味で言えば、家はまるで小さな国のようだ。―――誰にも侵されない、小さな小さな箱庭。

「一清の月華は、彰さん。周りのみんなもそう思ってたし、一清自身もそう思ってたと思う。だから彰さんがいなくなった今、月華は誰でも良かったんだと思う。―――それに・・・」

「・・・それに?」

「きっと、私を月華にしたのは、一清なりの償いなんじゃないかと思うから」

償い?

言葉には出さない滝川の問いに、は小さく微笑みながらも頷いて見せて。

「両親が亡くなった仕事、一清も一緒だったって言ったでしょ?あの調査で無事に戻ってきたのは、前当主の月華と一清だけだった。―――だから一清は、ずっと悔やんでたんだよ。幼い私から、両親を奪ったって」

両親の葬式に参列した一清は、きっと必死に涙を堪えながら座っていたを見ているだろう。

ああ見えて責任感の強い男なのだという事を、彼の傍にいたは知っている。―――彼が罪悪感を感じていないと思う方が可笑しいのだ。

一清が生き残った事は、決して咎められる事ではないのに。

「だから死んでしまった両親の代わりに、私を守ろうと思ったのかもしれない。―――まぁ、扱いはかなりぞんざいだけど」

それでも、なんだかんだ言っても、一清は優しかった。

言葉は悪いし、態度も悪いし、凄く解りにくくはあったけれど、彼が自分を大切にしてくれている事はにも十分に解った。

だからこそ、は一清を嫌いにはなれないのだ。―――そうなれたら、きっともっと楽だったかもしれないのに。

けれどそれに救われていたのも事実で。

たくさんの友人に囲まれていても心のどこかで自分が孤独だと知っていたに、自分は1人ではないと教えてくれたのは、きっと一清と藤野だった。

「でも・・・受け入れたのは自分だったはずなのに、自分が霊能者だって呼ばれる人間である事がたまらなく嫌だった。今まで自分を蔑んできた家の人間と、同じなんだって思うと」

だからは、その心のままに霊能者が嫌いだと口にし続けた。

それは彼女の偽りない心だったのだから。

それは霊能者である自分自身も含めての事だ。

それくらいは赦されてもいいだろうと思っていた。―――それこそが甘えであるという事も、いやというほど解っていたけれど。

そしてそんな態度が誰かを傷つけているのだという事も、きっと心のどこかでは解っていたのだ。―――それらから目を背けていただけで。

幸いなのかどうかは解らないが、それを直接に告げる人間もいなかった。

家の人間は、今まで蔑んできた人間が自分たちの上に立ったという事実を受け入れられず、それでも表面上はなんとかそれを押し込めながらと接している。―――まぁ、に言わせれば視線や言動が隠しきれていないけれど。

だからが本当の意味でそれを理解したのは、春頃にあった諏訪の調査で兵庫・茶生兄妹と対峙した時なのかもしれない。

あれほどはっきりと真っ向から自分へ文句を言う者は、きっと彼女しかいない。

だからこそは何を言われても彼女を嫌いにはなれない。―――家の中で『』という存在を認め向き合ってくれる者は、きっと一清たちを除いて彼女たちしかいないだろうから。

それを理解させてくれた彼女たちには、心から感謝していた。

そして、感謝をしているのは彼女たちだけではなく・・・。

顔を上げたは、ゆっくりと周りを見回す。

当然ながら話を聞いていた面々と目が合うと、気まずそうに視線を逸らされるけれど。

そうして最後に逸らす事無くジッと自分を見つめている滝川へと視線を向けて、は心からにっこりと微笑んだ。

「それでも、こうやって前を向いて行こうって思えるようになったのは、みんなのおかげだと思う。―――第一印象は最悪だったけどね」

茶化すように付け加えて・・・―――そうしては彼らとの初対面を思い出し、楽しそうに笑みを零した。

「ぼーさんはなんか胡散臭いし、綾子は上から目線で腹立ったし、ナルだって偉そうで傍若無人。リンさんは無愛想だったし、真砂子も相変わらず冷たいし。第一印象が良かったのなんて、麻衣とジョンと安原くんくらいだよ」

「アンタに言われたくないわよ。アンタだって、ほんとにナマイキな小娘だったんだから」

の歯に衣着せぬ物言いに思わず口を挟んでしまった綾子は、ハッと我に返り口をつぐんだ。

状況がどうであれ、は滝川を相手に話しているのだ。―――彼との約束を守るために。

勿論も綾子たちが聞いている事は解っているだろう。

むしろ解っているからこそ話している。―――そうでなければ、みんながいる場所で話し出したりはしないだろうから。

それでも彼との約束を守ろうとしているを、尊重してやりたいとそう思っていた。―――だというのに・・・。

けれどそんな綾子を見たは、確かにと小さく頷いて。

「私も、人の事は言えないかもね」

そう言って笑ったの顔は、今まで見た中で一番清々しいものに見えた。

 

 

「・・・ぼーさん、ありがとう。私の話聞いてくれて」

ほんの少しだけいつもの雰囲気に戻ったベースで綾子と軽い言い合いをしていたは、気を取り直したように滝川へと振り返り明るい声でそう言った。

「・・・いや」

その笑顔を前に、滝川は戸惑いを押し隠しつつ笑みを浮かべる。

彼女に過去を語らせる事が本当に良かったのかと、今になってそう思ったのだ。

まさかここまで彼女の心に影を落としているとは思っていなかった。

いや、解っていたからこそ知りたかったのかもしれない。―――自分の知らないを、滝川はずっと知りたいと思っていた。

しかしそれは彼自身の想いであり、には関係のない事で。

話す事で辛い思いをさせてしまったのではないかと、今になって思ったのだ。―――本当に今更だけれど。

それでもは笑う。

笑って、ありがとう、とそう言うのだ。

まるで滝川の迷いなど、杞憂でしかないとでも言うように。

「私、嬉しかった。ちょっと困ったりした事もあったけど、私の事気にしてくれる人がいるって思えて。―――嬉しかった。ずっと抱え込んでたもの、話す事が出来て」

今のは、昔のように孤独ではない。

両親はいなくなったけれど、一清がいて、藤野がいて、高遠がいる。

それぞれ表現の仕方は違うけれど、彼らはいつもの事を思ってくれた。―――心配してくれた。

ありがたい事に、友達もたくさんいる。

その中には、たった1人だけだけれど彼女の素性を知る者も。

けれどその友人がの素性を知ったのは偶然と成り行きであり、自身が話を切り出したわけではないのだ。

たとえどれほど仲良くなろうとも、は自分の素性を人には話さない。―――長年友人関係を築いてきた安原が相手でもそうなのだから。

だから最初、滝川の存在はにとってはあまり歓迎されるものではなかったのかもしれない。

にとって触れられたくない部分に触れ、聞かれたくない事を問われて。

いつものならば、軽くあしらって不自然にならない程度に避けていただろう。

なのに、どうしてだろうか。―――自分にとっては歓迎される存在ではないはずの滝川の言葉や態度が、嫌だと思わなかったのは。

どうして自分は、彼らに自分の素性を話す気になったのだろう。

彼らの何が、自分を変えたのだろうか。

正直、自身にもその答えがよく解らなかったけれど。

「私、漸く過去を吹っ切れたような気がするの。ちゃんと全部受け入れて、前を向いて歩いていけるような気がする。―――まぁ、怪奇現象が嫌いな事に変わりはないけどね」

そこだけは譲れないのか、キッパリとそう言い切っては笑う。

けれどそうでなければ彼女らしくないと思うのも確か。―――彼女のその態度は、時に緊迫した空気を緩和する力もあるのだから。

まぁ、自ら調査に来て怪奇現象が嫌いだと文句を言う霊能者は他にいないだろうが。

「それでも、もう誰かのせいにして逃げるのはやめようと思えるようになった。きっと簡単な事じゃないけど、そうしないといつまで経っても何も変わらないから。―――そう、思えるようになったから」

あの2人にも、約束したしね。

心の中で付け加えて、は自分に向かい声を荒げた茶生を思う。

彼女は的確に、が心の底に隠していたものを暴き出した。

どうして自分がこんな辛い立場に立たなければならないのだろう。―――口には出さずとも、きっとはそう思っていた。

幼い頃に霊能力を封じられ、そのせいで謂れのない誹謗や中傷にさらされ、両親を亡くし、それでも1人で生きていこうと思った矢先に『月華』として矢面に立たされた。

それが故にまたは浴びたくもない注目を浴び、嫉妬と妬みの眼差しを受け、いまだ制御しきれない力のせいで危険な目にも合う。

一体自分が何をしたのだろう。

どうしてこんな目に合わなければならないのか。―――そんな思いをもっていた事は否定しない。

けれど、思う。

いくら心の中でそう思っていたとしても、声を大にして叫んだとしても、それで現実が変わるのだろうかと。

いつも誰かのせいにして、いつも何かを言い訳にしていた。

嫌だ嫌だと言っていても、現実は何も変わらない。―――それを知っていたはずなのに、は最近になってそれに気付かされたような気がした。

ならばそれらから目を背けるのではなく、しっかりと受け止めて前を向いて歩いていけるようになりたいとそう思った。

そう思えるようになったのは、きっとSPRの面々と関わるようになったからだ。

やはり今でも彼らの何がを変えたのかは解らないけれど。

それでもたったひとつ言える事がある。

きっと彼らは、という1人の人間を見てくれた。

家の『月華』である事を知り、それを引き合いに出すこともあったけれど、いつだって彼らは本人と接してくれた。

彼らにとってはなんでもない事だとしても、にとってそれはきっと意味のある事だった。

無言でジッと自分を見つめる滝川を見返して、は笑う。

その笑顔には一点の曇りもない。

「今まで自分自身がそれほど好きじゃなかったけど・・・―――今はちょっとだけ好きになれそうな気がするの」

彼らといる時のは、何の構えもなく自然でいられる。

だからきっと、そこから第一歩を踏み出すのだ。

口で言うほど簡単なことではないけれど、そう思える事こそが第一歩だと思うから。

「・・・そうか」

真剣な表情を浮かべていた滝川が、ほんの少し表情を緩めてひとつ頷いた。

それにホッと息をつきながら、も頷く。

「私の昔話はこれでおしまい。―――どう、ちょっとは目覚めた?」

「ああ。おかげさまでばっちり」

先ほどまでの重い空気を払拭するように軽い口調でそう問うたに、滝川もまた苦笑を浮かべながらもそう答える。

その返答を聞いたは満足そうに笑い、傍らにあった毛布へと手を伸ばして。

「そりゃ、よかった。じゃ、おやすみ」

「は?」

何の前触れもなく告げられた就寝の挨拶に滝川が呆気に取られた声を上げるのも構わず、はその場に寝転がると手に取った毛布を身体に巻きつけて。

「全部話してすっきりしたら眠くなっちゃった。朝になったら起こして」

「・・・おいおい」

ひらひらと軽く手を振られ、は毛布を頭まで被る。

それに呆れた視線を向けるけれど、頭まで毛布を被ったにはまったく効果がないらしい。

その『いつも通り』の態度に降参したとばかりに頭を掻いた滝川は、毛布を被ったまま身動き一つしないの身体を軽く小突いて笑った。

「・・・おやすみ、

微かに聞こえた滝川の声に、は満足そうに微笑む。

このまま眠ってしまう気はなかったし、あんな事があったのだから眠れるとも思えなかった。

死霊たちに付けられた傷も痛むし、とても眠れる状態ではなかったけれど。

でも今は、滝川たちと顔を合わせるのはなんだか照れくさくて。

だからは眠ったふりをする。―――きっとそれもまた、見破られているのかもしれないが。

「・・・おやすみ、ぼーさん」

毛布の中で小さく小さく呟いて。

くぐもった自分の声に微かに笑みを零しながら、は満ち足りた気分で目を閉じた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ここまで引っ張って引っ張って引っ張りつくした主人公の過去が、ここに来て漸く暴露されました。

いや〜、ここまで来るのにびっくりするくらい時間がかかりました。

それに加えてこの話の長さ。

途中で分けようかとも思ったんですが、分けると更に訳解らなくなりそうだったので。

ちょっと詰め込みすぎた感じもしますが。(笑)

これまでちょこちょこ張ってきた伏線をそれなりに回収できていればいいんですが。

でもまぁ、これで全てではありません。

粗方というか、大筋の秘密は暴露されましたが、その他にもまだ話していない事や、主人公自身が知らない事も残っています。

そこの辺りは、またおいおいという事で。(笑)

作成日 2010.3.14

更新日  2011.12.31

 

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