依頼のあった学校に到着したは、その足で事務室へと向かった。

そこで訪問の理由を説明すると、何の問題もなく事務の人の案内で校長室へと通される。

予め連絡が届いていたのだろうが・・・―――それでもこんな小娘が来る事に何の疑問も持たないものなのだろうかと不思議に思いつつも、追及されるのは面倒なのでありがたい事には違いないのだけれど。

「ああ、お待ちしておりました」

校長室に入ると、人の良さそうな年配の男性が椅子から立ち上がり、部屋に入ってきたを出迎えた。

おそらくはこの人がこの学校の校長なのだろうと挨拶をし終え顔を上げると、部屋に先客がいる事に気付く。

まだ若い男と女。

とはいっても明らかに年上なので、自分が若いというには表現が可笑しいのかもしれないと思いつつ、は控えめに会釈をした。

 

能力者にご用心

 

ソファーに促され腰を下ろしたは、依頼について話す校長の話を聞き流しながらチラリと横目で若い男と女を見やった。

こうしてこの場にいるという事は、おそらくは同業者なのだろう。

同業者が来るなんて聞いてないと、脳裏に甦った上司の顔を思い出しながら、心の中でそう零す。

どう見てもそっち方面の関係者には見えないが、それは自分も人の事は言えないと重々承知しているので何も言えないのだけれど。

「ああ、ご紹介が遅れましたね」

とりあえずの説明を終えたらしい校長が、漸く居心地悪そうにお互いを見やる3人に気付いてそう声を掛けた。

実際居心地が悪い思いをしていたのは、同業者と顔を合わせる事がそう多くないだけだったのかもしれないが、あえてそれを口に出す必要もないだろう。

「こちらは松崎綾子さん。そしてこちらが滝川法生さんです」

「どうも」

「ずいぶん若いのね。まさかこんなお嬢ちゃんが来てるとは、流石に思わなかったわ」

探るような視線と、明らかに馬鹿にしたような眼差し。

どちらも決して心地良いものではない―――こういった目で見られる事に慣れているし、気にしないと言ってしまえばそれまでだが、それでもあまりいい気はしなかった。

こういう相手には何を言い返しても無駄だという事は今までの経験から解り切っていたので、は無言で軽く会釈を返しておく。

無駄な争いをするつもりはない。

はここへ仕事をしに来たのだ―――口喧嘩をしに来たわけではない。

「ちょっと校長先生。この子、大丈夫なの?」

「これは遊びじゃないんだぞ。怪我する前に帰った方が良いんじゃないか?」

2人の言葉に、は軽く笑みを返す。

一見心配しているような口ぶりだが、その裏に潜むものは『自分1人で十分』だという事。

得てしてこういう仕事をする人間は、プライドが高い人物が多い。

そして個人主義だ―――勿論初めて会う人間と協力して・・・というのには無理がある。

は俯くふりをして、校長の顔をチラリと窺った。

人の良さそうな顔をしているが、こうして同業者を集めるくらいなのだからやはり心の底では信用などしていないのだろう。

とにかく胡散臭い職業ではあるから、それも当然の事なのかもしれないけれど―――意外にしっかりとしていると評価しても良いかもしれない。

「ご心配なく。ちゃんと引き際は承知していますから」

何食わぬ顔をして、はサラリとそう流す。

もう慣れたものだと言わんばかりのその態度に気付いた校長が、慌てて口を開いた。

「ああ、ご紹介が遅れました。彼女はさんです」

「よろしくお願いします」

「・・・?」

校長の紹介に合わせて会釈したの頭の上で、滝川が訝しげに呟く。

ゆっくりと顔を上げると、再び突き刺さる視線―――今度は探るような物に合わせて、何かを確かめようとしている目とかち合う。

やはり同業者だけあっての名前は聞いた事があるのだと、改めての名前の威力に感心しつつも、見詰める滝川に向かいにっこりと微笑みかけた。

「若輩者ですが、よろしくお願いします。まぁ、足を引っ張らないように善処いたしますので」

これ以上の追及は許さないとでも言わんばかりの威圧的な笑みを向けて。

これで話は終わったとばかりに席を立ち、おろおろと交互に3人を見る校長を見やる。

「では私は例の旧校舎の様子を見て来ます。構いませんか?」

「あ、ええ。では私がご案内を・・・」

「大丈夫ですよ。1人で行けますから」

腰を上げかける校長を遮りそう言うと、おもむろに滝川がソファーから立ち上がった。

「ちょうどいい。俺も行くから、一緒に行くか」

「・・・ま、行き先は一緒なんだしね」

同じく綾子も立ち上がり、2人を促すように歩き出す。

どうして一緒に行く事になっているのかと不思議に思いつつも、確かに行く先が一緒な事には違いないと思い直し、は滝川に促され校長室を出た。

 

 

どうやら校長が呼んだのは自分たちだけではなかったらしいとが気付いたのは、旧校舎の前の人影を見た時だった。

もしかすると校長が何か説明していたかもしれないが、ほとんど話を聞いていなかったの記憶には残念ながら残ってはいない。

それはそれは高そうな機械が積まれたワゴンの傍に立つ、少年と言っても過言ではない黒い服の男と、おそらくは制服から察するにこの学校の女生徒が1人。

一体どういう組み合わせなのかと首を傾げていると、隣に立っていた綾子がその余裕に満ちた態度と声色で少年に声をかけた。

それも一蹴され、しまいには何倍にも膨らませて返されていたのだけれど。

ふと目に映った少年の姿に、は微かな違和感を覚えた。

どこかで見た事があるような気がする?

普段では滅多にお目に掛かれないほどの美貌と、それを引き立たせるような冷たい眼が印象的な少年。

こんなインパクトの強い人物ならば、一度見た事があれば忘れる筈はないだろう。

そうは思うが、どこで見たのかがどうしても思い出せない―――いつかの仕事でもしかしたら顔を合わせたのかもしれないとも思うが、それならそれでもっと印象に残っていても可笑しくはないだろう。

綾子と滝川と少年―――渋谷一也の遣り取りをぼんやりと眺めていたは、不意に自分に向けられた視線に気付きハッと我に返った。

「・・・貴女は?この2人のどちらかの助手の方ですか?」

向けられる強い視線に、ほんの少し目を見開く。

こちらも綾子や滝川と同じように友好的な視線とは言えないが、まだ人を馬鹿にしたような様子がないので幾分かマシだと思えた。

「いいえ、違いますよ。私はと言います。よろしくお願いしますね」

与えられた印象が違うせいか、先ほどと比べて少しだけ柔らかな面持ちでそう自己紹介をする。

すると渋谷は微かに目を見開き、そうして楽しげに目を細めて口角を上げた。

・・・ですか。お噂は耳にしていますよ」

「それはどうも」

「貴女の名前についても聞いた事があります。―――。確か・・・現家の月華だとか」

渋谷の言葉に、今度こそは目を丸くした。

確かにこの業界で家と言えば有名ではあるし、滝川のようにその名前に反応を示す者も少なくない。

けれど当主と共にあまり表に出ないを、名前だけで月華だと見抜いてしまうとは。

それだけで彼が実力者なのだという事がには解った。

「・・・月華?なに、月華って」

今まで黙って事の成り行きを見守っていた少女―――谷山麻衣が遠慮がちに口を開く。

一体渋谷とはどういう知り合いなのだろうかと思案しつつも、目の合った麻衣に向かいこちらは全くの害意なしに、は柔らかく微笑む。

渋谷は面倒臭そうにしつつも、について・・・そして月華についてを麻衣に説明する。

その説明を聞きながら、本当にどうして彼はこんなにも詳しいのだろうかと首を傾げた。

別に隠しているわけではないのだから知っていても可笑しくはないが、普通はあまり他の同業者の事など詳しく調べたりはしないだろう―――その上は滅多に表立った仕事はしていないのだから。

全ての説明を聞き終えた麻衣は、驚いたようにを見詰める。

自分とそう歳が変わらないように思えるのに・・・それでも渋谷がそういうのならばそうなのだろうと納得し、今まで会った霊能力者と呼ばれる中で一番人当たりが良く常識人らしいを見た。

未だに声を荒げて文句を言い合う綾子と滝川を横目に、呆れ返った表情を浮かべている。

意外に普通の人もいるんだと思わず麻衣が感心したその時、微かなじゃりの踏む音が聞こえ振り返った―――そこには同じクラスの黒田が自分へと声を掛けている姿がある。

内心動揺しつつも声を掛けられれば答えないわけにも行かず。

しどろもどろにたちを紹介し終えた途端、黒田はパッと表情を明るいものへと変えた。

「ああ、良かったわ。旧校舎は悪い霊の巣で、私困ってたんです!!」

心底安堵した様子でそう言った黒田を、はキョトンとした表情で見詰め返す。

その隣では綾子が不機嫌そうに・・・滝川は困ったように肩を竦めている。

「あんたが・・・どうしたって?」

心なしか先ほど怒鳴っていた時よりも低い声で綾子がそう問い掛ければ、しかしその声色の変化に気付かない黒田は弾かれたように話し出す。

旧校舎が悪い霊の巣なのだという事。

自分はとても霊力が強く、それですごく悩まされているのだと。

そんな黒田に対し、綾子は冷たい眼差しで一蹴した。

「自己顕示欲」

「・・・え?」

「目立ちたがりね、あんた。そんなに自分に注目して欲しい?」

明らかな敵意を含んだ声と視線に、黒田はビクリと肩を揺らし身体を強張らせる。

「そ、そんな言い方ないでしょ!?」

そんな黒田の様子を見た麻衣が、弾かれたように綾子に食ってかかった。

麻衣とてそれほど黒田と親しいわけでもないが、いくらなんでもこんな風に一方的に否定するのはどうかと反論する。

しかし綾子は食ってかかる麻衣にも、態度を崩す事はなく。

「本当の事よ。その子に霊感なんてないわよ」

「何で解るんですか!?」

「見れば解るわ。その子はただ目立ちたいだけよ」

そうキッパリと言い捨てて、自分よりも身長の低い麻衣を見下ろした。

「・・・谷山さん」

今にも飛び掛りそうな麻衣の肩に手を置き、今まで静かに事を見守ってきたは綾子にしっかりと視線を向ける。

その視線に気付いた綾子は、ほんの少し怯んだように同じくを見返した。

「松崎さ・・・」

しかしが声を発することはなかった―――何故ならば、一方的に綾子の非難を受けていた黒田が、突然笑い出したからだ。

くつくつと、喉を鳴らし・・・睨み上げるように綾子を見据える。

その目を見たの背筋に、ゾクリと悪寒が走った。

「私は霊感が強いの。霊を呼んであなたに憑けてあげるわ」

「・・・黒田さ」

「強いんだからね、本当に・・・」

麻衣の呼びかけを無視して、黒田はニヤリと口角を上げる。

「偽巫女。今に後悔するわ」

そう言い捨て、黒田はクルリと踵を返す。

やはり麻衣の呼びかけに答える事無く・・・そのまま振り返らずにその場を去った。

後に残されたのは、黒田のあまりの状態に怯んだ綾子と麻衣、そして複雑な表情を浮かべると滝川。

「おーお、すさまじー」

ちゃかすように感想を述べる滝川に対し、綾子は怯んだ事に対する悔し紛れにフンと鼻を鳴らす―――それを横目でチラリと見たは、綾子の前に立ち自分よりも少しばかり高い綾子の顔を見上げた。

「松崎さん」

「・・・なによ」

「貴女の言いたい事は解らなくはありませんけど。それでもあれは言い過ぎなんじゃないんですか?」

「あたしは本当の事を言っただけよ」

全く反省の色のない綾子を前に、再び麻衣の頭に血が上る。

けれどそれは、怒るでもなくただ静かに佇むによって制された。

「喩えそれが真実なのだとしても。だからといって彼女を傷つけて良いわけではないと思います。―――大人なのですから、もう少し言葉に気を使ってはどうでしょう?」

にっこりと微笑み、しかしその笑みに反して彼女の口から飛び出したのは毒のある言葉。

ピシリと綾子の表情が強張る。

滝川は、年下の少女にしてやられている綾子を見て小さく噴出していた。

それさえもは無視し、呆然と立つ麻衣へと綺麗に微笑みかける。

「さあ、いつまでも遊んでいても仕方ないし。仕事にしましょうか」

まるで何事もなかったかのようにそうのたまうに、麻衣はコクコクと頷いてから我関せずとばかりに何かの作業に取り掛かっている渋谷へと振り返った。

「ね・・・ねぇ、ナルちゃん!今日はあたし何をすれば良いの!?」

気を取り直すかのような元気な様子で声を掛けるが、しかし声を掛けられた渋谷は弾かれたように振り返って。

「・・・今、なんて言った?」

「・・・へ?」

「お前・・・『ナル』って言わなかったか?」

驚いたように目を見開く渋谷の姿に、は訝しげに眉を寄せる。

しかし今の彼にそんな余裕は無いのか、今度は鋭く麻衣を睨みつけた。

「どこで聞いた?」

「・・・って、ナルって言うんだ。ニックネーム」

そして今度は彼をナルと呼んだ麻衣が、驚きに目を丸くする。

「いやー、やっぱ誰でも思いつくんだぁ!ナルシストのナルちゃん」

「・・・は?」

「まーまー。んな事より、今日は何すんの?」

一転して楽しげな様子でそう畳み掛ける麻衣に対し、彼女にぴったりなニックネームをつけられた渋谷―――ナルはそれ以上の追及を諦めたのか、そうだなとため息混じりに呟く。

その一部始終を見ていたは、何かに思い当たったのか・・・軽く目を見開いて。

「・・・どうした、嬢ちゃん」

しかし掛けられた滝川の声に我に返ったは、すぐさま何事もなかったかのように不思議そうな表情を浮かべる滝川を見上げた。

「・・・私の名前は、嬢ちゃんじゃないんだけど」

「ああ、いいじゃん別に。それじゃ・・・さんがいいか?」

「・・・名前で呼んで。苗字、あんまり好きじゃないから」

にこやかな笑みを浮かべる滝川に対し、はほんの少しだけ表情を曇らせてそう言い捨てる―――それをどんな意味合いで受け取ったのかは解らないが、しかし滝川はそれ以上何かを言う事はなく、ポンと軽くの頭を叩いた。

叩かれた頭に手をやり、は困ったように微笑んで。

第一印象はお世辞にも良いとはいえなかったが、意外と悪い人ではないかもしれないと考えを改める。

綾子に対しても、黒田にあれだけ食ってかかったのはそれだけ自分の仕事にプライドがあるからなのだと解っているから、言い方に問題があるとは思いつつも嫌悪は感じない。

まぁ、だからといって何が変わるわけでもないのだけれど。

さて、これからどうしようかとは頭の中で思案する―――これだけ霊能力者がいるのだから、仕事をするに当たって戦力不足ということはないだろうが、やはりどう考えても皆仲良く協力体制を取る事は不可能に思えた。

としては別にどちらでも構わないのだけれど・・・。

そんな事を考えていた時、滝川の焦ったような声に引かれは視線をそちらへと向けた。

視線の先には、こちらに向かって歩いてくる校長の姿―――そしてその隣には、どう見ても学生ではないだろう人影。

まさかまだ霊能力者を雇っていたのだろうかと呆気に取られている間に、校長とその人物はたちの傍まで寄って来た。

「やあ、おそろいですな。実はもうひと方お着きになりましてね」

校長の言葉と共にたちの前に現れたのは、金色の髪をした少年。

どことなく幼い顔立ちに、優しげな微笑みを浮かべて・・・―――こんな若い人もいるんだと、は自分を棚に上げて1人ごちる。

そうでなくともナルがいるのだから、も含めて平均年齢は低くなっている筈なのだけれど。

「ジョン・ブラウンさんです。仲良くやってくださいよ」

紹介と共に、ジョンはニコリと笑みを向けた。

まるで映画にでも出てくるような可愛らしい少年を前に、も思わず頬を赤らめる。

しかし次の瞬間、彼の口から放たれた言葉に、全員が揃って動きを止めた。

「もうかりまっか」

「・・・・・・」

そう言ってペコリと頭を下げたジョンを呆然と見詰めて。

「ブラウン言います。あんじょう、可愛がっとくれやす」

「・・・あー、ブラウンさんは関西の方で日本語を学んだようで」

校長の控えめなフォローが入るが、もはや綾子と滝川には聞こえていないらしい―――2人揃ってジョンに背中を向け、必死に笑いを噛み殺している。

関西は関西でも何故京都弁なのだと、は引きつった笑みを浮かべた。

しかもかなり訛っている―――誰に日本語を教われば、こういう言葉遣いになるのだろうかと場違いな事をつらつらと考えた。

笑いつつも必死に言葉遣いの修正を申し出る滝川に対し、しかしジョンには何が可笑しいのかが解らないらしい。

とりあえず滝川の申し出を受け入れる形で頷いてはいるが、京都弁で日本語を覚えているのなら矯正のしようなどないだろうとは他人事のように思う。

「あんさんら全部が、霊能者でっか?」

やはりどうあっても言葉遣いは直らないらしい―――更に滝川達を笑いの渦へと放り込みつつ、ジョンは小さく首を傾げて問い掛けた。

それに対し、流石のナルも小さく苦笑を漏らし肯定する。

「そんなものかな?・・・君は?」

「へぇ。エクソシストいうやつでんがなです」

相変わらずの変な言葉遣いに・・・しかし滝川達はピタリと笑うのを止め動きを止めた。

「エクソシスト?」

「へぇ、そうです」

思わず問い返したに、ジョンはにこやかに頷いた。

エクソシストなど、映画の中でしか見た事がない―――そういうは、しかしその映画は見た事がないのだけれど。

「しかしあれはカトリックの司祭以上でないとできないと思ったが・・・―――ずいぶん若い司祭だね」

ナルもジョンの言葉に笑みを消し、訝しげにそう問い掛ける。

しかしジョンはむしろ感心したように笑みを浮かべて。

「はい、よぉご存知で。せやけどボクはもう19でんがなです。若う見られてかなんのです」

そう言って困ったように微笑む。

19といえば、よりも年上である―――まさかこんなにも幼い顔立ちの少年が、まさか自分よりも年上だったとは。

東洋人は童顔だとよく聞くが、なかなかどうしてオーストラリア人も負けてはいないらしい。

まぁ、オーストラリアの人全てがジョンのような幼顔ではないだろうが。

「あんじょうたのみますです」

そう言って再び礼儀正しく頭を下げたジョンにつられて、も軽く頭を下げた。

 

 

場所を機材を運び終えたナルたちのベースへと移し、は呆気に取られたように設置された機材を見詰める。

確かに凄い機材だと感心せざるを得ない。

だがしかし、普通に除霊をするだけならば必要ないだろう記録を主とする機材たちを前に、は先ほど出した自分の結論が間違っていないのだと確信した。

再び揶揄し始めた滝川と綾子に、しかしナルは一向に取り合う様子もなく、素っ気無い態度と嫌味を含んだ言葉で一蹴する。

すると2人は気分を害したようで、一方は足音も荒く、一方は呆れた様子でそれぞれ部屋を出て行った。

「・・・協力するのと違うんどすか?」

「う〜ん、違うみたいだねぇ」

戸惑ったようにおろおろと滝川達とナルを交互に見るジョンに向かい、は我関せずとばかりに呑気な返事を返す。

「・・・ボク、こういう雰囲気はかなんのどす。できるだけ協力しますよって、いてもよろしやろか」

「どうぞ」

ジョンの申し出に、ナルは振り返らず・・・それでも簡単な言葉でそれを許可した。

それに便乗して、もナルの背中へと声を掛ける。

「私もここにいて良いかな?やっぱり旧校舎内を1人で歩き回るのは嫌だし」

「・・・貴女は霊能者でしょう?」

「それとこれとは話が別だと思うけど」

サラリとそう言って退ければ、ナルも最初から拒否する気はなかったのかあっさりと承諾する。

それにありがとうと礼を述べて、改めて設置された機材の中のモニターを覗き込む。

そこには旧校舎内の映像が映し出されていた―――こうやって見る限り、今のところ特に問題はないようだ。

「え〜っと・・・さん、でしたっけ?」

モニターを覗いていたは、背後から掛けられた声に顔を上げる。

そこには麻衣が窺うようにの顔を覗き込んでいる。

それににっこりと微笑み返して、は改めて麻衣と向かい合った。

「私の事は名前で呼んで。苗字じゃ家の場合、誰の事だか解り難いし」

「・・・そう、なの?」

「うん。の名前で仕事してる霊能者はいっぱいいるからややこしいしね」

「なら、あたしの事も名前で呼んで」

「ありがとう、麻衣」

頭を撫でてあげたくなるような愛らしさに、は頬を緩ませる。

こんな妹が欲しかったなぁと心の中で1人ごちて・・・―――同じく自己紹介を済ませたジョンと共に、暫く和やかな会話を楽しんだ。

しかしいつまでもナルが黙ってみている筈もなく、素っ気無い上に厳しい言葉で和やかな会話を中断させられたたちは、それぞれが仕事へ戻る為に動き出す。

「・・・ナル!!」

ふと何気なくモニターに視線を向けた麻衣が焦ったように声を上げ、それにつられてとジョンも麻衣の後ろからモニターを覗き込んだ。

麻衣の指すモニターはちょうど玄関付近を映し出したもので、今この旧校舎にいる自分たちと滝川、そして綾子以外の人影がしっかりとそこにある。

黒髪を肩の上で切り揃えた、着物姿の少女。

その貌はまるで日本人形のように整っている―――まさにおあつらえ向きな映像に、麻衣もナルもモニターに釘付けになった。

その少女はすぐに画像から姿を消し、モニターは変わらず誰もいない玄関を移し続けている。

「い、今の・・・何?」

怯えた様子の麻衣が、心なしか震える声でそう漏らす。

まぁ、確かにこの状況では無理ないかもしれないけれど・・・―――そう頭の片隅で思いつつ、不意にギシリと鳴った廊下の軋む音に振り返れば、そこには先ほどモニターに映っていた少女が立っていた。

「・・・・・・っ!?」

「麻衣さん、ダイジョウブ。あれは幽霊と違います」

身体を強張らせて身を引いた麻衣に、傍に立っていたジョンが宥めるように声を掛けた。

そんな自分の部下を気遣う事無く、上司である筈のナルは興味深そうに少女に目を向ける。

「校長はよほど工事をしたいらしいですね。の月華に続いて、あなたまで引っ張り出すとは」

「知ってるの!?」

ナルの口ぶりに、麻衣が弾かれたように顔を上げた。

それに対し、ナルは軽く肩を竦めて。

「いや、顔を知っているだけだ。―――原真砂子。有名な霊媒師。口寄せが上手い。たぶん・・・日本では一流」

「くちよせって?」

「無知」

突然現れた少女について説明を始めたナルに、麻衣は抱いた疑問を投げかけた―――それはまさにあっさりと一蹴されたのだけれど。

ナルに殴りかかりそうな勢いの麻衣を何とか宥めつつ、先ほどの麻衣の質問について丁寧に説明するジョンをそのままに、は真砂子に向かいにっこりと微笑みかけた。

「久しぶり、真砂子」

「・・・貴女までいらっしゃっていたのですか、さん」

声を掛けられた真砂子はの姿を目に留め、呆れたように微かに眉を寄せる。

自分を呼んでおいて、まで呼ぶとは・・・―――先ほど会った校長の顔を思い出し、真砂子は思わずため息を吐き出す。

さんも知り合い?」

「何度か仕事で一緒になった事があるの。ほら、彼女は有名だから」

ジョンに何とか宥められた麻衣の問いに丁寧に答えて、は同意を求めるように真砂子に向かい微笑んだ。

勿論、彼女からの返答はなかったが。

麻衣も麻衣で、名前で呼び合うくらいなのだから相当仲が良いのかとも思ったのだが、どうやらそこまで親しい間柄でもないらしい。

おそらく名前で呼ぶのは、先ほどが自分で言っていた理由からなのだろう―――が真砂子の事を名前で呼ぶのは、きっと彼女が持つ人懐こさ故に違いない。

実際が真砂子に会ったのは、2・3度程度である。

一度会えば人の顔は忘れない性質であるにとっては十分ではあるが。

それにしても・・・とこの場にいる面々を眺め、はため息を吐いた。

ゴーストハンターに、有名な霊媒師とエクソシスト。

この場にはいないが高野山の坊主に、自称ではあるが巫女までいる。

そして自分。

自分の実力はさておき、これほどの霊能者が一同に集められるとは・・・。

「・・・本当に大した事ないんでしょうね」

今朝方顔を合わせた一清と藤野の顔を思い出し、ひっそりとそう毒づく。

何かあれば連絡して来いと言ってはいたが、の性格からそれをしないだろう事は解っている筈。

そんな中、彼女を1人で危険な場所へ送り出す事などないとは思うのだけれど。

相手が相手だけに言い切れないところが、また痛いのだが。

「面倒な事にならなきゃ良いけど・・・」

希望を込めて呟いたその時。

ドンという大きな音と共に、旧校舎内に大きな悲鳴が響き渡った。

言うまでもなく、の予感は見事的中したのである。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

無駄なほど長く長くなってしまいましたが。

とりあえず全員登場させて自己紹介ぐらいは済ませてしまおうかと。

そこらへんすっ飛ばしても良かったんですが、そこすっ飛ばすと後々書きにくくなったり話が繋がらなかったりするかと思いなおし。

どうでもいいですが、喧嘩っ早い主人公。

綾子とかの扱いがとても酷い気もしますが・・・まぁ、最初なのでという事で。(オイ)

この話ではリンとの絡みが書けないのが・・・!(次回に持ち越しですか)

作成日 2006.3.1

更新日 2007.9.13

 

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