自分たちのしていた作戦会議がいかに不毛であるかを漸く察した銀時たちは、次にフンドシ仮面を捕まえる為の具体的な行動に出る為、庭に降り立った。

そうしてしっかりとそれぞれ戦闘服に身を包み、揃った面々と向かい合うようにして前に立った銀時が、珍しくやる気を漲らせて口を開く。

「いいか!相手はパンツの量・枚数より、娘の質を求めてる真性の変態だ。だからまた必ずここに忍び込んでくる。そこを叩く!フンドシ仮面だかパンティマスクだか知らねぇが、乙女の純情と男の誇りを踏み躙ったその所業、まったくもって許し難し!心機一転、白ブリーフを鮮血で染め上げてやるぞ!!」

「おおー!!」

銀時の気合が入った声に、それぞれ意気込みを込めて声を上げる。

こうして、江戸に蔓延る変態下着泥棒捕縛作戦は開始された。

 

変態につけるはない

 

「下着泥棒くらいで、なんでこんな事に・・・」

具体的な指示が特に出される事もなく、それぞれが自分たちの考える罠を張るべく散って行った男たちを見送って、新八は呆気に取られたようにポツリと呟く。

それは下着泥棒を捕まえるというより、寧ろもっと大きな悪に立ち向かっていくような様子に思える。

初めはただ下着を盗まれて危険なほど気が立っている姉の溜飲を鎮める為に、銀時に下着泥棒を何とかして欲しいとお願いしただけなのに・・・―――どうしてこうも騒ぎが大きくなっているのだろうか。

その原因はもちろん、妙を恋い慕うあまりストーカーになってしまった真撰組局長と、思わぬところでプライドを傷つけられてしまった銀時のせいに他ならないのだが。

成す術もなくそれぞれ作業を開始する真撰組隊士たちを見詰めていた新八に気付き、こちらは彼と心情は違えど同じく眺めていたが、意気込んだ様子で拳を新八の前へと突き出してにっこりと微笑む。

「甘いわ、新八くん。やるからには全力を尽くす。変態下着泥棒を捕まえると決めたからには、二度と這い上がれないよう地獄に叩き落すのは基本よ

「基本じゃないからっ!っていうかその服、もしかしてペット大会の・・・」

爽やかな微笑みであっさりとそう言い切るを振り返り咄嗟に突っ込んだ新八は、しかし目の前のの装いに思わず目を丸くする。

どこかで見たことがある・・・なんて思い出すまでもない。

まるであつらえたかのように似合っている印象的なその姿は、あの衝撃的な結末を迎えた某テレビ番組で見たそのものだ。

新八は僅かに頬を引き攣らせてそう問い掛けると、は満足げにコクリと頷いた。

「そうよ。みんなそれぞれ戦闘服に着替えてるみたいだし、今回は私も気合を入れて戦うメイドよ

「意味解んないからっ!!なんでわざわざメイド服なんですか!?」

「だって可愛いでしょ?」

明らかにこの場にそぐわないその格好に、新八は矢継ぎ早に声を上げるけれど、はキョトンと目を丸くして、まるで当然の事のように言い切る。

確かに可愛いが・・・いや、例え恐ろしいほど似合っていても、ここで肯定してはいけないような気がする。

複雑な心境で新八がそう葛藤しているというのに、それを肯定する声は何の躊躇いもなく2人に向かい放たれた。

「よく似合ってますぜぃ」

唐突に掛けられた声に振り返れば、なにやら大荷物を背負った沖田が含んだ笑みを浮かべながらこちらへと歩いてくる。

思わぬ所から送られた賛辞に気を良くしたのか、は鈴の鳴るような声で笑みを零し、確信的な微笑みで一つ頷いた。

「ふふふ。変態はメイド服に弱いもの。近づいて来たところで一気に息の根を止めてやるわ。加えて土方くんをからかうのにも効果的よ

「さすがでさぁ」

「こっちはこっちで最凶タッグがユニット組んでるし・・・」

恐ろしく物騒な事を口にし微笑むと怯む事無く同意する沖田に、新八は目の前の光景を直視できず視線を逸らした。

もはや変態下着泥棒どころの話ではない。―――この2人の被害を被るだろう土方が哀れでならなかった。

まったくもって協調性のない面々を一通り見回し、新八は深くため息を零す。

なんだか事態がとんでもない方向へと向かっているような気がするのは、果たして本当に気のせいなのだろうか。

そうは思うけれど、残念ながら新八に彼らを止める術はない。

「っていうか、もはや真撰組いらないんじゃないの?」

そんな中、せっせと指示を飛ばす近藤に目をやった新八は、不意に浮かんだ思いを隠す事無く呟いた。

頑張っているのは見ただけで解るが、この濃いメンバーの中ではあの近藤すら存在が薄れて見える。

寧ろ本当に手段を選ばず下着泥棒を捕まえるだけなら、妙と神楽がいれば十分なのではないだろうかとも思う。

そんな新八の素朴な疑問に、懸命に動き回っていた近藤が弾かれたように振り返った。

「何を言うか!俺だって!!」

「まぁまぁ、こんな事もあろうかと、お城の倉庫からこんなもの持って来やしたぜィ」

新八の発言に反論しようとした矢先、まるでそれを狙っていたかのように沖田が口を挟む。

それによって口を閉ざさるを得なくなった近藤をそのままに、沖田は先ほどから背負っていた風呂敷包みを乱暴に地面に下ろした。

「なんですか、これ」

かなり大きなその包みを不思議そうに見下ろして問い掛けた新八に、沖田は鼻歌交じりで結び目を解いていく。―――そうしてそこに現れた物に思わず絶句した新八を見上げ、小さく首を傾げて口を開いた。

「なんていうか・・・地雷、みたいな?」

「みたいなじゃなくて、そのものズバリでしょうが!!」

あやふやな言い方をしても、そこにある物の危険さに変わりはない。―――日頃培ったつっこみ魂を総動員させ声を荒げた新八を他所に、同じく風呂敷包みの中を覗きこんでいたがパッと瞳を輝かせた。

素敵!私地雷に興味あったのよね

「ちょっと!何普通に反応してんですか!!」

「持ち出すの結構苦労したんですぜぇ。管理厳しいんでね」

「蛇の道は蛇だな」

「そんなあっさり!」

沖田とに加えて、いつの間にか傍にいた土方までもにあっさりと言い放たれ、新八は声の限り突っ込む。

これはそんな簡単な反応を返していいものではないはずだ。

そうは思うけれど、この3人に囲まれていると自分が過剰反応しているような気さえするから不思議だ。

「これを庭一面に敷き詰めれば、このボロ道場も完全無敵・堅牢無比な要塞になりまさぁ」

思わず現実逃避していた新八の耳に、聞き捨てならない台詞が飛び込んでくる。

地雷を、自宅に庭に?

一瞬でその意味を察した新八は、掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出した。

「ボロ道場のままでいいわっ!!っていうか違法でしょうが!」

「他所は他所、うちはうち」

「そんなおかんルール持ち出されても!地雷って言ったら兵器ですよ!?戦争ですよ!」

ここは何としても阻止しなければならない。

そうしなければ、自宅が恐ろしい戦場になってしまう。

そんな切迫した思いで言葉を連ねるが、慌てる新八に対して3人は動揺する素振りもない。

そうして静かに煙草を吹かしていた土方が、何処か遠くを見詰めながら静かな声色で訂正を促した。

「違う。正式名称、地雷・・・みたいな」

「じゃ、折角だから私のこの爆弾みたいなモノも使って見る?」

「みたいなモノじゃなくて、まんま爆弾でしょ!!」

あくまでも地雷だとは言わないらしい。

みたいもなにも、それは地雷そのものだと改めて声を上げようとした新八は、しかしその騒ぎを聞きつけ寄ってきた妙の姿に気付き、思わず口を噤んだ。

「新ちゃん。貴方の言った通り、ここはもう戦場なのよ。遊び気分なら帰りなさい」

「姉上、ここが僕の帰る所なんですけど・・・」

至極真面目な顔で妙に諭され、更に自分が間違っているような気さえするのは何故なのだろうか?―――この状況で、自分はごく普通の事を言っているだけなのにと思わず頬を引き攣らせると、煙草を咥えたまま土方が感心したように頷いた。

「戦場が帰る場所とはよく言った。それでこそ侍よ」

眼鏡眼鏡だと侮ってたけど、新八くんも立派な侍だったのね。そんなにもデンジャラスな心意気で以ってこの戦いに挑んでたなんて・・・。大丈夫、心配しないで。しっかりと骨は拾ってあげるから。っていうか寧ろ死ぬ気で向かって行けや

「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

いい笑顔で拳を突き出すに、新八はもうどこから突っ込んで良いのか解らず脱力する。

やはりボケと突っ込みの比率が可笑しい。

どんなに突っ込んでも止められないと解っているのに、どうして自分はこんなにも懸命に突っ込んでいるのだろうという疑問さえ浮かび、それはそれは重いため息を吐き出す。

けれどそうは思っていても、突っ込まずにはいられないのだ。―――悲しい事だが。

思わず哀愁さえも漂わせながら肩を落とす新八だが、けれどそれだけで思いとどまってくれるほど彼の周りの人間は生易しくはない。

吸っていた煙草を靴で踏み潰し、10人中9人は怯えるような不敵な笑みを浮かべた土方は、腰の刀を撫でながらくつくつと笑みを零した。

「不貞の輩に難癖つけて問答無用で叩っ斬る。久しぶりだ」

「え、難癖って・・・」

聞き違いであって欲しいほど物騒なその言葉に、新八は引き攣った笑みを浮かべながら振り返る。

しかし彼がそれに答えるより前に、槍を持って戦闘準備を整えていた妙がそれはそれはにこやかな表情でクスクスと笑んだ。

「いいえ、どうせなら刺し貫くの方が」

「もっといいのはすり潰す、だな」

「ここは景気良く吹き飛ばすで行こうよ。ああ、でも私、人体解剖も得意・・・

「あんたら怖いよ!」

どんどんと過激になっていく会話に耐え切れず、新八は半泣きで声を上げる。

彼らを野放しにしておけば、いつか恐ろしい事が起こる。―――そんな嫌なほど確信めいた予感に、新八は思わず身を震わせた。

もうこの空気に耐えられないと助けを求めるべく視界を巡らせると、すぐ傍に銀時の姿を見つけ、助かったとばかりに微かに笑みを浮かべる。

しかしいつの間にか沖田が持参した地雷を埋めていたらしい銀時は、そんな新八の視線に気付く事もなく、僅かに身を起こして固まった身体を伸ばすべく背を反らせた。

「あー、いてて」

「畑仕事じゃないから!世界で一番危険な土木作業だから!!」

ありがたくない事に、もはや日課となった突っ込みを反射的に入れて、結局は好き勝手に暴走する彼らを止める事も出来ないまま、新八は作業が終わるまで突っ込み続けた。

 

 

ぷ〜んという耳元で鳴る気の抜けたような耳障りな音に、銀時はパチンと己の頬を叩きつけた。

そうして手の平にいる今日何度目かに見る虫の姿を目に映して、ため息を一つ。

「蚊か。なんで俺ばっか」

「銀ちゃんの血は甘いアル」

「糖、か」

即答で返って来た神楽の言葉に妙に納得し、むずがゆい頬をポリポリと掻く。

確かに他人と比べて自分の血は甘いだろうと暑さでぼんやりとした頭で考えていると、すぐ横に座る新八が呆れた口調で口を開いた。

「銀さんの血糖濃度はどうでもいいんで。―――それよりも、全然泥棒来る様子ないんですけど。これひょっとして、今日来ないんじゃないんですか?」

そう言った新八の視線の先には、縁側に吊るされたパンツが一枚。

銀時たちは今、すべての罠を張り終え、そうして目的の人物が近づいてくるのを待つべく庭の茂みの中に身を潜めていた。

しかし、だからといって都合良く来てくれるほど世の中は甘くない。

夜だとはいえ蒸し暑く、おまけにただじっと潜んでいるというのはストレスが溜まるものだ。―――新八の声に含まれる不安と多少の棘を読み取って、銀時は不敵に笑みを漏らした。

「大丈夫、来るって」

「何を根拠に来るって・・・」

いやに確信的に告げられたその言葉に、新八は少しだけ怯んだが更に問い掛ける。

まだ何か作戦でもあるのだろうかとそんな事を考えていると、同じく隣に身を潜める神楽が声を潜める事無くキッパリと言い切った。

「あんなこれ見よがしにパンツがぶらさがってるアル。下着泥棒がほっとくわけないヨ」

「いや、あからさま過ぎるよ!なんか罠丸出しだし」

縁側に吊るされたパンツ一枚。

確かにこれでは怪しすぎる。―――ここ最近では役人に追われているようだし、こんないかにも何かありますといった物に、果たして泥棒が手を出すだろうか?

しかしそんな新八の疑問を、これまた同じく茂みに身を潜めていた妙が、真面目な面持ちで諭すように口を開く。

「新ちゃん。泥棒というのは、目的までの障害が困難であればあるほど燃えるものなのよ」

「何勝手にキャラ設定してんの!?気の小さい泥棒だったらどうするんですかっ!」

「気の小さい泥棒が、この私のパンツを盗んだ挙句にモテない男共に撒き散らかせるなんて所業に及べるわけないじゃない。っていうか、気の小さい泥棒設定なんて絶対に認めないわ

暑さで少しだけダレていたも加わり、その理不尽な物言いに突っ込む気さえ起きずにそうですかと控えめに返す。―――昼間の遣り取りとこの暑さで、もう突っ込む気力すら湧いてこない。

彼女たちの言い分はともかく、下着泥棒に来てもらわなければ意味がない事も確かだ。

そんな風に何とか場をやり過ごしていた新八だったが、彼を休ませてくれるほどこのメンバーは甘くはなかった。

「もう誰でも良いんじゃないんですかぃ?この際手近な奴で済ませましょうぜぃ」

「口裏合わせりゃバレねーだろ」

「手近ってなに!口裏ってなに!?」

まったく動きのない現在の状態に飽きたらしい沖田と土方の不穏な発言に、新八は脊髄反射で突っ込む。

「じゃあ、ちょうどいい人材を知ってるから提供するわ。大丈夫、ストーカーっていう前科もあるし、説得力はばっちりよ」

「そこ!笑顔で恐ろしい事言わないっ!!」

あれだけ下着泥棒に怒りを漲らせていたも、どうやらこの膠着状態に飽きたらしい。

便乗して話を進めようとするへの新八の突っ込みは、静まり返った庭に思ったよりも響き渡る。

それに不愉快げに眉を寄せた銀時は、ため息を付きつつ宥めるように声をかけた。

「おいおい、デケー声出すんじゃねーよ。泥棒にバレたらおしゃかだぞ」

「あんたをおしゃかにしたいよ。このクソ暑いのによ!!」

「なんだと、コノヤロウ!!」

どうやら新八もこの暑さで切れてしまったらしい。―――もっとも、彼の切れた原因が暑さだけではないことは明白ではあったが。

とうとう喧嘩に発展していく銀時と新八の遣り取りを他人事のように眺めて、沖田がやる気のない声色で口を開いた。

「手ぇ、貸しやしょうか?」

「喧嘩は徹底的にやれよ。相手が二度と立ち上がれなくなるまでな」

「あたしの拳も暴れたがってるネ!」

こちらも同じく他人事のような土方の発言に、今まで大人しく隠れていた神楽が拳を振り上げて立ち上がる。

そうして銀時と新八の喧嘩に勢い良く飛び込んでいった神楽に次いで、その被害を被った妙までもが参戦し、もはや隠れているとはいえない乱戦状態へと突入していく。

そんな彼らを見て大きくため息を吐き出した意外に苦労人である近藤は、誰も止める様子がないことを認めて自らが立ち上がった。

「あー、やめてやめて、喧嘩しない。暑いからみんなイライラしてるんだな。よーし、ちょっと休憩。なんか冷たいもの買って来よう」

「あずきアイス!」

「なんかパフェ的なもの!」

「ハーゲンダッツアイスクリーム!」

「お、お茶・・・」

次々に掛けられる遠慮もへったくれもない要望に、呆れ混じりに近藤は苦笑を漏らした。

「はいはい、じゃ買ってくるから大人しくしてなさいよ」

言っても無駄だろうとは思いながらも声を掛け、買出しに行くべく茂みから出た近藤。

その直後、凄まじい爆音が辺りに響き渡った。

尋常ではない音に喧嘩をしていた面々はその動きを止め、音の発生地点へと視線を向ける。

そこには小さなクレーターが出来上がっており、その中心にはうつ伏せに伏した近藤の姿が・・・―――爆発の際に宙へと舞った刀が、微かな音を立てて地面に落ちる。

「あら、近藤さんが爆発したわ」

その様を見て、妙が呆気に取られたようにポツリと呟いた。

しかし他の面々はそれに対して興味を覚えなかったのか、まるで見なかったかのような自然な動きで視線を外し、気のない様子で呟く。

「あー、暑かったアルよ」

「そりゃ爆発もするな」

「んなわけねーだろ。自分で仕掛けた地雷踏んだんだよ。どこに地雷あんのか解んないのに、バカだね〜。あはははははは」

神楽と土方の発言に突っ込みを入れて、銀時は倒れた近藤を見て腹を抱えて笑う。

しかしその瞬間、その場にいた全員の動きが止まった。

「あれ?ちょっと待って。ひょっとして地雷どこに仕掛けたか、みんな覚えてないの?」

漸く気付いた恐ろしい現実に、銀時の頬がぴくぴくと引き攣る。

そんな中、妙は今更ながらにある事実に思い当たり、あ・・・と小さく声を上げた。

「大変だわ。明日新聞配達のおじさんが爆発するわ」

「言ってる場合ですかっ!!」

呑気にも程がある妙の発言に、すかさず新八が声を上げる。

その直後の事だった。

「パンツのゴムに導かれ、今宵も駆けよう漢浪漫道。怪盗フンドシ仮面、ここに見参!」

夜の闇に響き渡る男の声に、全員が声の発生源を捜して視界を巡らせる。―――そうして屋根の上に月を背にして立つ不審な人影を認めて、その異様な出で立ちに思わず全員が硬直した。

「滑稽だ、滑稽だよお前ら!!なんだか俺の為にいろいろ用意してくれていたようだが、無駄に終わったよーだな」

「最悪だ!最悪のタイミングで出て来やがったぁ!!」

高らかに笑い声を上げ、眼下に立つ銀時たちを見下ろして言い放つ男を見上げて、新八は頭を抱えてしゃがみこむ。

来てもらわなければ話は始まらないが、そのタイミングが悪すぎる。

今までして来た事がすべて無駄になってしまった事を察し、そしてこれまでの苦労を思い出し、とてつもない脱力に襲われた。

しかしそんな新八を他所に、まるで計画通りだとでも言うように平然とした面持ちで屋根の上に立つフンドシ仮面を見上げたは、思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な笑顔を浮かべて口を開く。

「つーか、人の事とやかく言う前に、自分の姿鏡で見てから出直して来いや。フンドシ被ってブリーフ一丁のテメェの方がよっぽど滑稽だっつーの。屋根の上から現れるなんてベタな登場の仕方しやがって、もうちょっと頭捻れよ、おっさん

どんな状態であっても、彼女の毒舌は衰えないらしい。

突っ込むところはそこなのかと脱力しつつも心の中で突っ込んだ新八だが、敵もまた強かった。―――の毒舌に怯む事無く、小馬鹿にしたような笑みを銀時たちへと向ける。

「こんな子供だましに俺が引っかかるとでも?天下の義賊、フンドシ仮面も見くびられたものだ。そこで指を咥えて見ているがいい。己のパンツが、変態・電波男たちの手に渡る瞬間をなっ!!」

「・・・くっ!!」

長話をするつもりはないのか、そう言い放ったフンドシ仮面は縁側に吊るされたパンツを手中に収めるべく動き出した。

庭一面に地雷が埋まっている事を忘れてはいないらしく、妙は槍を握る手に更に力を込めてフンドシ仮面を睨み上げるが、悔しげに声を漏らすだけで動けずにいる。

そんな妙とフンドシ仮面の遣り取りを見てニヤリと口角を上げた沖田は、フンドシ仮面に向けて・・・―――否、その背後に潜む者たちへと高らかに合図を送った。

それと同時に屋根の上に姿を現す真撰組隊士たち。

相手は動く事が出来ないとすっかり油断していたフンドシ仮面を囲むように出現した隊士たちを目に映して、沖田は得意げに笑んだ。

「こんな事もあろうかとって事でさぁ」

「おー、山崎!ぶちのめしてやれ!!」

「がってんです、副長!!」

同じくその状況に勝利を確信して笑みを浮かべた土方が、屋根の上に立つ部下へ激励の言葉を向ける。

それに対して力強く返事を返した山崎は、着込んだ鎧で動きづらそうにしつつも手に持った刀を振り上げた。

しかし・・・。

「どわっ!!」

その刀がフンドシ仮面に振り下ろされる前に、山崎は盛大に足を滑らせた。

それどころか屋根を落ちる際に他の真撰組隊士たちをも巻き込み、更に勢い良く庭に落下し、そうして埋められていた地雷を起動させ盛大な爆発を起こす。

その一連の様子を絶句しながら見ていた土方は、ハッと我に返り大きく舌打ちした。

「何やってんだ、あいつは!!」

わざわざ鎧着て屋根の上に上がればこけるのも当たり前だっての。どいつもこいつも役に立たないんだから」

今にも怒鳴り込みそうな土方の後ろで、笑顔を浮かべながらも冷ややかに言い放つ

確かに屋根の上で甲冑を着込む理由は解らないが、心配のしの字も見えない2人の態度に隊士たちに哀れみを覚えた。

しかしこちらもそんな真撰組隊士たちなど眼中にないらしく、フンドシ仮面は地面に伏している隊士たちを見下ろして、高らかに笑い声を響かせる。

「ははは、愚かなり真撰組!!」

そう言うや否や、フンドシ仮面は屋根の上を疾走した。

屋根の淵まで辿り着くと、そこを軸にクルリと身体を回転させ縁側へと足を掛ける。

そうしてただ一枚干されてあるパンツに手を伸ばしたその時。

ピ、という軽い音と共に、耳を貫くような爆音と眩い程の閃光が辺りを支配する。

フンドシ仮面を飲み込んだ黒い煙を呆然と見詰めながら、一同は何処か遠い所へと思考を飛ばして。

「床の下にも、地雷をセットしていたんですね」

「そーみたいだな」

静かな声が、ポツリとその場に落ちた。

誰だよ、あそこにまで地雷を仕掛けた奴・・・―――という思いも捨てきれないが、ともかく収穫はあったのだから大目に見るのが一番だろうか。

自宅の縁側に地雷が仕掛けてあるなど、新八にとっては恐ろしい事この上ない状況ではあるが。

ともかくも最後まで滅茶苦茶な展開ではあったが、これで一件落着だと新八が安堵の息を吐いたその時、何の前触れもなく埋もれた瓦礫の間から勢い良く腕が伸びた。

「ふっふっふ。甘いよ・・・こんなもんじゃ、俺は倒れない。全国の変態たちが俺の帰りを待っているんだ。こんな所で負けるわけにはいかない!!」

地雷に吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれながらも必死な様子で這い出てくるフンドシ仮面。

その執念とも取れる行動を目に映して、はへぇと感心したような声を上げる。

「何があのおっさんをここまで駆り立てるのかしら?」

「いや、今更不思議そうに言われても・・・」

まじまじとフンドシ仮面を凝視し、怒りを通り越して興味を覚えたらしいに脱力しつつも、新八は突っ込みを入れる。

今はフンドシ仮面の執念などどうでもいい。―――この地雷の庭の中、どうやって奴を捕えるのかが問題だ。

とうとうフンドシ仮面が立ち上がり、舞い落ちる妙のパンツに手を伸ばしたその時。

「待てーぃ!汚い手でお妙さんのパンツに触るんじゃねー!!俺だってまだ触った事ねーんだぞ、ちきしょー!」

いつの間にそこまで辿り着いていたのか・・・、真っ先に地雷の餌食となったはずの近藤が、ものすごい形相でフンドシ仮面の足にしがみ付いていた。

発言に悲しい本音が混じっていたのをあっさりと聞き流して、流石は真撰組局長の根性を見せる近藤に、は興味深げな眼差しを向ける。

「くそ、放せ!!」

近藤に足を掴まれたフンドシ仮面は、その手から逃れようと近藤を足蹴にする。―――しかしそれらにも怯む事無く食いつく近藤は、立ち尽くしたまま状況を見守る銀時へと向けて声を張り上げた。

「何やってんだ、早くしろ!今夜はお前に譲ってやるよ!!」

あまりにも悲惨な光景ではあるが、近藤の必死の叫びに我に返った銀時は、腰に差した木刀を帯の間から抜き取り、にやりと口角を上げる。

「言われなくてもやってやるさ。しっかり掴んどけよ、そいつの毛むくじゃらの足をよ。うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

いつもとは違う真剣な面持ちで、木刀をしっかりと掴んだまま声を上げ銀時は駆けた。

危険極まりない、地雷の庭を。

「あ」

ピ、という小さく響いた音に、それがなんなのか銀時が漸く思い出したその時には既に遅く、一拍後、彼は閃光と爆音に包まれていた。

「ふはははは!最後に笑うのはやっぱり、俺!!」

「何やってるの、銀ちゃん!そんなお約束的な展開なんて寒いだけじゃないっ!

地雷によって出来た小さなクレーターにうつ伏せに倒れる銀時に、フンドシ仮面がその滑稽な姿を認めて嘲笑う。―――対するも銀時をフォローする気は毛頭ないらしく、悲劇のヒロインよろしく目元に手を当てながらも遠慮のない突っ込みを放った。

そんな一種凄惨な光景を目の当りにして、妙は手に持った槍を折れそうなほど強く握り締めて。

「うあぁぁぁぁぁ!なめるんじゃねー!!!」

とうとう切れてしまったらしく、辺り一面に地雷が埋まっている事も気にせずフンドシ仮面へ向けて駆け出した。

そうして最後に倒れたままの銀時を踏み台に宙へと舞い上がると、呆然と立ち尽くすフンドシ仮面に向けて渾身の一撃をお見舞いした。

声もなく倒れるフンドシ仮面を尻目に、優雅に着地した妙はスッと宙へと手を伸ばす。

そうして舞い落ちてきた自分のパンツをがっしりと掴んで、既に白目を剥いているフンドシ仮面を冷ややかに見下ろし言い放った。

「素顔もさらせない人に私のパンツはやれないわ。欲しけりゃ素っ裸で真正面から挑んで来なさい。心までノーパンになってね」

悠然と言い放つ妙に、新八と神楽が目を輝かせる。

やはり一番頼りになり一番強いのは、彼女以外にはいないのだと再認識した。

「姉上ー!!」

「やっぱり姉御が一番アル!!」

感極まって、妙へと向かい駆け出す新八と神楽。

しかし彼らもまた忘れていた。―――庭には余すところなく地雷が埋められているのだという事を。

案の定バッチリ地雷を発動させた新八と神楽は、妙をも巻き込んでその餌食となった。

「あ〜あ・・・」

「言動はともかく、見た目的には感動的なシーンを爆発一つで吹き飛ばすなんて。やっぱり爆弾って偉大よねぇ

その光景を最初に潜んでいた茂みから一歩も動く事無く見守っていた土方とが、それぞれ呆気に取られながらもしみじみと呟いた。

庭は既に数個の地雷によって荒れ果て、そこかしこにその被害を受けた人々が倒れている。

凄惨なこの事態をどう収拾つけるのか・・・―――漸くそちらに意識が向いた土方に、相変わらずぼんやりと庭を見詰める沖田が唐突に口を開いた。

「土方さん。施しパンツ、実は俺の仕業でさぁ。それもさんの全面協力の下で」

「なんだと!?」

何の前触れもなく向けられた告白に、土方は反射的に沖田へと視線を向け目を見開く。

何故今になってそれを告白するのか・・・―――それは勿論、このままフンドシ仮面のせいにしておいてもつまらないから、の一言に尽きるのだが。

「まぁ、結果的に切り裂かれちゃったけど、あれはあれで面白いものが見れたわよね。心配しないで、未使用のものだから

それに便乗して、土方の隣に立っていたも極上の笑顔を浮かべて、呆然とする男を見上げる。

「シャレでさぁ、シャレ」

「そうそう。可愛い悪戯だから」

にこにこと見た目的には害のない笑顔を浮かべる沖田とを見据えて、本日とうとう土方の決して頑丈とはいえない堪忍袋の尾が切れた。

「知るかぁ!待て、コラぁぁ!!」

雄叫びを上げて刀を抜く土方を尻目に、沖田とはお互い目配せをしてから鬼の副長から逃れるべく駆け出す。

しかし彼女らは知らない。

地雷が埋められているのは、庭だけではないということを。

静かな夜の闇に、再び地雷の爆発音が響き渡った。

 

 

「ただいま〜!」

さん〜!どこ行ってたんですか!?」

紆余曲折を経て、ともかくも下着泥棒を捕まえひとまず満足したがアジトへと帰ると、そんな彼女の帰りを今か今かと待ち望んでいた部下たちが一斉に出迎えに玄関に現れた。

しかしその歓迎の雰囲気がお世辞にも明るいとは言えず、今にも飛び掛ってきそうなほど悲壮な表情を浮かべた仲間を見回し小さく首を傾げる。

「どうしたの、みんな慌てて。心配しなくても変態下着泥棒はちゃ〜んと捕まえて来たから安心して」

「そうなんですか、よかった・・・じゃなくて!!」

にっこりと笑顔で告げられた言葉に、仲間たちは一斉に胸を撫で下ろす。―――怒り狂った彼女の尋問を受けるのは、もう一生勘弁して欲しいほどだ。

とそんな事に気を取られていた彼らは、それどころではない事を思い出し改めてへ向かい身を乗り出す。

こんな事態に陥ってしまった以上、何とか出来るのはしかいない。

そもそも自分たちのボスは桂だが、組織の支配者はだと言っても過言ではないのだから。

相変わらず不思議そうに首を傾げるご機嫌なを見据えて、男の1人が重い口を開く。

「桂さんがどこからか下着泥棒の事を聞きつけたらしくて・・・。さんの屈辱を晴らすんだとか言って、エリザベスを連れてさっき・・・」

「・・・え?」

必死な形相で告げられた一言に、戸口に立っていたは笑顔のまま硬直した。

し〜んと静まり返るその場に、縁側に吊るした風鈴が涼しげな音を響かせる。

その後、そこで何があったのか・・・―――それは彼女たち以外、誰も知らない。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

だらだらと続いてしまいました、下着泥棒編。

長くすればするほど面白みが減ってくるのは何故なのか。

やっぱりギャグは難しいです、あの軽快な銀魂のギャグを文にするのは尚更。

作成日 2006.9.3

更新日 2007.10.19

 

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