「どーした、神楽!!」

突如、屯所に響き渡った近藤の絶叫に、銀時たちは彼らがいるだろうトイレへとなだれ込んだ。

そこにはこちらもよく解っていないのか、不思議そうな顔でトイレのドアを叩く神楽の姿。

駆けつけてきた銀時たちに気付いた神楽が、強張った面持ちで問い掛ける銀時たちを見返してしたり顔で呟いた。

「チャックに皮が挟まったアル」

「いや、多分違うからそれ」

呆れ顔で突っ込む新八だが、状況はそんな場合ではない。

「神楽、どけ!もうどうにでもなれ、コンチクショー!!」

すぐさまドアの前に立つ神楽を押しのけ、覚悟を決めたのか、銀時は威勢の良い声と共にトイレのドアへと渾身の蹴りを放った。

赤い着物の女、来るなら来い!とでも言わんばかりの形相で勢い良く開いたドアへと視線を向けた銀時たちだったが、直後目の前に現れた光景に、全員がその場で固まった。

絶叫を上げただろう近藤は、そこにいた。

そこにはいたけれど・・・。

何をどうしたらそうなるのか・・・―――何故か便器に頭を突っ込み気絶している近藤の姿に、新八たちの脳裏にはもはや突っ込みの言葉さえ浮かばない。

「なんでそーなるの」

奇妙に静まり返ったトイレに、銀時の精一杯の突っ込みが虚しく響き渡った。

 

この世には幽霊よりも怖い存在なんていっぱいあるんだって!

 

「う・・ああ、赤い着物の女がこっちに来る。こっちに来るよ・・・ううっ!」

「近藤さ〜ん。しっかりしてくだせぇ。いい歳こいてみっともないですぜ、寝言なんざ」

部屋の真ん中に敷かれた布団に寝かされ苦しげに魘されている近藤に向かい、本当に慕っているのかと疑いたくなるほど冷たい言葉を投げかけた沖田に、新八は思わず頬を引き攣らせる。

誰よりも赤い着物の女の幽霊に怯えていた近藤が、神楽に付き添われてトイレに行った僅かな時間に、一体何があったというのか。

ただ1つ解っている事は、銀時たちが駆けつけたその時にはもう、近藤は意識を失っていたという事だけだ。―――そう、便器に顔を突っ込んだ状態で。

「よっぽど怖かったのね〜。そういえばトイレなんて怪談の絶好のシチュエーションじゃない。そんな状況下で心霊体験できるなんて近藤さんってばすごく運が良いのね。っていうか私的にはどうして便器に顔突っ込んでたのか小一時間ほど問い詰めたいんだけど

誰か近藤さんの心配してやれよ、という突っ込みは果たして彼女たちに通じるのだろうか。

鬼か、あんたらは!と心の中だけで突っ込みながら、新八は小さくため息を吐き出し、真剣に現状を分析している銀時と土方へ助けを求めるように視線を向けた。

「こりゃアレだろ。昔泣かした女の幻覚でも見たんだろ」

「近藤さんは女に泣かされた事はあっても、女を泣かした事はねぇ」

「そんな事を真顔で即答されちゃう近藤さんって、部下に理解されてるのか馬鹿にされてるのかものすごく微妙だよね。っていうかリアルすぎて突っ込みづらいんだけど

顔を突き合わせて話し合う3人を認めて、新八は先ほどの自分の考えを改めた。

真剣に話し合っている内容に問題がありすぎる。

もはやここに常識人はいないのか・・・―――そんな今更過ぎて再認識するのもバカらしくなるような事を改めて思い知らされ、新八は諦めたように肩を落とした。

「じゃ、アレだ。オメーが昔泣かした女が嫌がらせしに来たんだ」

「えー、土方くんってば悪い男〜。きっと弄ぶだけ弄んでボロ雑巾のように捨てられた女が恨みを晴らすために真撰組に・・・って、それで土方くんじゃなくて近藤さんが被害を被るんだから要領悪いというか寧ろ良いというか・・・

「違ぇよ!そんなタチの悪い女は相手にした覚えはねぇ」

銀時との絶妙なコンビによる追及に、土方は眉間に皺を寄せたまま怒鳴り声を上げた。

普段は協調性など微塵も感じさせないこの2人だが、こういう時だけは息がピッタリあっているのだから不思議だ。

からかいの言葉に動揺する素振りもない土方の抗議に、つまらなそうな表情を浮かべた銀時が、これまたつまらなそうに言葉を続ける。

「じゃあ、何?」

「知るか!ただこの屋敷に得体の知れねーもんがいるのは確かだ」

そう言った土方は、脳裏に甦る不審な人影の存在を思い出す。

何があったのかはともかく、近藤を初め隊士たちが寝込んでいるのには原因があるはずだ。

その原因が解らない事にはどうしようもないのだけれど。

ふいに考え込んだ土方に、しかしはにっこりと笑顔を浮かべてキッパリと言い放った。

「何言ってるの、土方くん。得体の知れないものなんてここにはいっぱいいるじゃない

にこにこと、まるで邪気のないように見えるが内面は邪気だらけの笑顔で当然の事のように言い切るに、土方はヒクヒクと頬を引き攣らせる。

一方、そんなの言動には慣れているのか、銀時は相変わらずの死んだ魚のような眼差しでを見やり、小さくため息を吐き出して言葉を付け足した。

「・・・例えばお前とかな」

「やだ、銀ちゃんってば!そんなに褒めないでよっ!!」

イタイイタイイタイ!ごめんなさい、ボクが悪かったです。許してください、さん!反省するから引っぱ・・・髪の毛引っ張らないでっ!!」

銀時の悲鳴が室内に響き渡る。

にこにこと笑顔を浮かべながらもしっかりと制裁を加えると、迂闊な発言に身を滅ぼそうとしている銀時をサラリと無視して、新八は改めて土方に向き直った。

こんな状態の2人の間に割って入るほどバカではない。―――誰でも自分の身は可愛いのだ。

「・・・やっぱり、幽霊ですか」

仕切り直しとばかりにそう切り出した新八だったが、返事は目の前の土方ではなく彼らの背後で壮絶な戦いを繰り広げているだろう銀時から返された。

「あ〜?俺はなぁ、幽霊なんて非科学的なもんは断固として信じねぇ。ムー大陸はあると信じてるがな」

それのどこが科学的なのかがっつり説明してもらいましょうか

未だに銀時の髪の毛をがっつりと握っているが、恐ろしいほど綺麗な笑顔を浮かべた。

このままここにいるのはヤバイと判断した銀時は、一向に緩まないの手から何とか逃れ、内心の動揺を押し隠し平静を装いながら逃げるように立ち上がる。

「アホらし。付き合いきれねぇや。おい、テメーら帰るぞ」

銀時に声を掛けられ、新八と神楽はお互い顔を見合わせながらも手を引かれて立ち上がった。―――・・・手を引かれて?

「銀さん、なんですかコレ」

右手に感じる異様に生温かい手の感触に呆れを滲ませながらそう問い掛けると、同じく左手を取られている神楽が嫌そうに眉を顰める。

なんでこんな仲良し3人組みたいな状態で帰らなきゃならないんですかとばかりに銀時を見上げると、何故か強張った表情のまま銀時が声を荒げた。

「なんだ、コラ!テメーらが怖いと思って気ぃ遣ってやってんだろーがっ!!」

別に頼んでないし、っていうか逆切れかよ、とそれぞれがジト目で見詰めると、銀時はうっと怯んだように目を細める。

なんとも形容しがたい微妙な空気が場に流れたその時、気まずい空気を破るようにクスクスという控えめな笑い声が響いた。

「銀ちゃんって昔っから変わらないよねぇ。見栄張ってるわりには自分で墓穴掘って自分でその穴に入った挙句突っ込まれるとこなんか特に

微笑ましげに言われてもまったく嬉しくない言葉に銀時が更に眉を顰めるのも気にせず、は自然な動作で立ち上がり、いまだ魘され続けている近藤の元へと歩み寄る。

その目が先ほどまでとは違う真剣なものに見えて、土方は訝しげに口を開いた。

「・・・ん?テメェ、何する気だ?」

「私も一応医者だからね。こうやって衰弱してるって事は何か理由があるんでしょうし、特別に恩着せがましく診察してあげようかと思って

無免許ですがねぃ

そうそう、無免許だけどね

「そこぉ!明るく開き直ってんじゃねぇ!しかも恩着せがましくって自分で言ってんじゃねぇよ!!」

首を傾げてにっこりと微笑むに、沖田もまた何かを企むようにニヤリと笑んだ。

この2人がタッグを組むと碌な事がないと経験上身に染みて解っている土方は渾身の力で突っ込みを入れるが、既に近藤の容態を見ているはそれをあっさりと流し、考え込むように口元に手を当てる。

「ん〜・・・」

「聞けよ!!」

綺麗さっぱり無視されている土方が、身を乗り出す勢いで声を荒げる。

しかしはそれすらもあっさりと流して、近藤の首元へ手を伸ばし僅かに目を細めた。

「・・・・・・やっぱり。これって」

「あ、赤い着物の女」

「うわあぁぁ!!」

何かを言いかけたの声を遮って誰かが呟いたその声に被さるように、悲痛な叫び声がその場に響き渡る。

ガタガタとものすごい音がした後静まり返った室内に引かれてが顔を上げれば、そこには意地悪げにニヤニヤと笑む沖田の姿。

そんな沖田と呆れ返ったような眼差しの新八の視線の先を辿って、はやれやれとばかりに肩を竦めて見せた。

「・・・何やってんですか、銀さん」

「いや、あの、ムー大陸の入り口が」

呆れを通り越して冷たい視線と声色に、それでも銀時は果敢にも平静を装いながら咄嗟に頭を突っ込んだ押入れの中から這い出てきた。―――とはいえ、本人が平静を装っているつもりでも、他人の目はまったく誤魔化せてはいなかったが。

「旦那・・・あんたもしかして幽霊が・・・」

そんな銀時の不審すぎる行動を、人をからかう事を喜びとしている沖田が見逃す筈がない。

少し前からもしかして・・・と頭の中にあった疑惑に確信を抱いた沖田は、ますます人の悪い笑みを浮かべて土方の方へと振り返った。

「土方さん、こいつは・・・あれ?」

「沖田くん。土方くんならあそこだよ」

しかし先ほどまで土方がいた場所には、今は彼の姿はない。―――思わず素に戻って不思議そうに首を傾げた沖田を見やり、はついとその場所を指差した。

釣られてそちらへ視線を向けた沖田の瞳が、薄く細められる。

「土方さん、何やってんですかぃ?」

「いや、あの、マヨネーズ王国の入り口が」

近藤の部屋にある巨大な壷に頭を突っ込んでいる土方に向かい発せられた冷たい問い掛けに、ハッと我に返った土方が安定の悪い壷から頭を抜きながら、うろうろと視線を彷徨わせつつしどろもどろにそう言った。

その光景を見ながら、近藤が便器に頭を突っ込んでいたのはコレが理由だったのかもしれないと、は呑気にもそんな事を思う。―――まさしく頭隠して尻隠さず、なのだが。

そうしてまた、がそんな絶好のからかいネタをそのまま放置する筈もなかった。

「すごいわね〜、真撰組って。なんたって近藤さんの部屋の押入れからムー大陸に行けたり壷からマヨネーズ王国なんて得体の知れない場所に行けたりするんだから」

さん。笑顔でその突っ込みは今の2人は結構きついんじゃないかと」

まるでキラキラと輝くような笑顔を浮かべて、が近藤の額に乗せたタオルを変えながら感心したように呟く。

人の悪い笑みを浮かべていたり、目に見えてからかっているのが解るのならば反論のしようもあるが、一見しただけでは本気で感心しているように見えるのが性質が悪い。

いい加減、幽霊に怯えているのにそれを隠そうと虚勢を張っている銀時や土方が可哀想に思えて、新八は控えめに・・・諭すようにの発言を制する。

そんな2人の遣り取りを見ていた銀時が、慌てたように立ち上がり、壷から抜け出し憮然とした様子で座っている土方を指差して叫んだ。

「待て待て待て、こいつはそうかもしれんが俺は違うぞ!」

「ビビってんのはテメーだろ!俺はお前・・・ただ体内回帰願望があるだけだ」

それで空想の世界・マヨネーズ王国に行こうとしたというのだから、彼のマヨネーズ好きは大したものだ。

往生際悪くお互いを貶しあう2人を冷たい眼差しで見詰めて、神楽はもうどうでもいいだろうと言わんばかりの投げやりな口調で、まるで追い払うように手を振った。

「わかったわかった。ムー大陸でもマヨネーズ王国でもどこでも行けよクソが

「なんだその蔑んだ目はぁ!!」

「もう、怖いなら怖いって言えばいいのに。今更意地になって守るほどの威厳なんて残ってないでしょ

「素で言うな、素でっ!!」

必死で声を荒げる銀時と土方を軽くあしらいながら、しかしふと目の前に立つ沖田たちの様子がおかしい事には気付いた。

呆然と立ち尽くして・・・―――けれど3人の視線はある一点に固定されたまま。

自分や銀時たちを通り過ぎ、それは先ほど銀時がぶち破った押入れの方を凝視している。

一拍遅れてそれに気付いたらしい銀時と土方が、訝しげに眉を寄せた。

「なんだ、おい」

「驚かそうったってムダだぜ。同じ手を食うかよ。・・・おい、しつけーぞ」

少しづつ恐怖に歪んでいく沖田たちの顔。

驚かすには手が込んでいると思わなくもないが、この3人ならやりかねないとも思う。

しかしどんなに声を掛けても何の反応もしない3人に焦れて、銀時が苛立ち紛れに声を掛けようとしたその時。

「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」

「お、おいっ!!」

何がきっかけだったのか・・・3人は耳に痛いほどの悲鳴を上げて、弾かれたように部屋を飛び出して行った。

止めようと伸ばした銀時の手が、虚しく宙を掻く。

それをそのまま頭へと移動させガシガシと乱暴に髪の毛を掻き毟った銀時は、ため息と共に舌打ちを漏らし悪態をついた。

「・・・ったく、手の込んだ嫌がらせを」

「これだからガキは・・・」

口々に文句を漏らす銀時や土方の声を聞きながら、はその場から動く事無く・・・決して振り返る事無く乾いた笑みを漏らした。

「というか、なんとな〜く嫌な予感がするんだけど」

「何言ってんだ。なんだ、お前ビビってんのかぁ?」

黙れ、天然パーマネント。―――って、なんだか背後に良からぬ気配が・・・」

銀時の揶揄を一言で捻じ伏せて、は微かに頬を引き攣らせる。

一見そこらにいる町娘のように見えても、とて攘夷志士。―――かつての攘夷戦争に参加していた侍なのだ。

不穏な気配を読む事など造作もない彼女は今、殺気ではないが明らかに異質な空気を背後に感じ取っていた。

そんなを横目に見やり、銀時と土方はそれぞれ視線を交し合う。

確かには沖田と同様、2人をからかう事を楽しんでいる。

先ほどのように騙して更なる恐怖に叩き込むこともするかもしれない。―――しかし2人は、今逃げていった沖田たちの必要以上に強張った表情と、同じく引き攣ったの表情を見て、嫌な予感を感じ取った。

心のどこかで思っていたのかもしれない・・・―――が二番煎じなどするハズがないという事を。

銀時と土方は途端に頬を引き攣らせ、はははと乾いた笑みを浮かべる。

「はっ!この後に及んでそんな子供だまし通じるかってんだっ!」

「ひっかかるかってんだよ!!」

それでも強がり、啖呵を切って振り返った2人の目に映ったモノは。

先ほど銀時がぶち破った押入れの上段から・・・天井からぶら下がっている、恐ろしい形相をした赤い着物の女が1人。

「・・・こんばんは〜」

これ以上ないほど引き攣った表情のまま、誤魔化すようにニヘラと笑った銀時たちと、同じく恐る恐る振り返ってその様子を確認したは。

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」

次の瞬間、沖田たちと同様に耳を貫くほどの悲鳴を上げて部屋を飛び出した。

 

 

「みっ、みっ、見ちゃった!!ホントにいた!ホントにいたぁ!!」

「銀ちゃぁん!!」

「やつらの事は忘れろぃ!もうダメだ!!」

身の危険を察して先に部屋を飛び出していた沖田・新八・神楽の3人は、足を止める事無く長い屯所の廊下を爆走する。

恐怖に混乱する新八と泣きそうな表情で置いてきた銀時の名を呼ぶ神楽に向かい、沖田は冷たくもそう言い放った。―――今は自分の身の安全を考える方が先決だ。

そんな沖田の発言に、混乱したままの新八が思い出したように声を上げた。

「ていうか、さんまで置いてきちゃったよ!!」

「大丈夫でさぁ!さんなら自力で切り抜けられまさぁ!!」

「何を根拠にっ!?」

それにもあっさりと言い返す沖田に向かい新八は声を上げるが、ならば例えどんな状況に陥っても自力で何とかできそうだと納得出来る何かがあるから不思議だ。

問題はなんとか助かった後、からのお仕置きをどうやって回避するかだが。

新八がそんな事を考えていると、突如背後で何かが吹っ飛ぶような音が聞こえた。

チラリと視線だけで振り返ると、そこにはこちらに向かって爆走してくる銀時・土方・の姿が。

「うおおおおぉぉぉ!!」

「切り抜けて来た!?」

「いや待て!しょってる!女しょってるよ、オイ!!」

ものすごい雄叫びを上げてこちらに向かってくる銀時らの姿を確認し、驚きと安堵に包まれたものの、薄暗い中確かに彼らの後ろにいるそれに、新八らは止まる事無く寧ろ走るスピードを上げる。

薄情だとかそんな事は言ってられない。―――そのあからさまな恐怖の対象を前に、両手を広げて銀時らを迎え入れられるほど、新八たちは怖いもの知らずではなかった。

「おいぃ!なんで逃げんだ、オメーら!!」

「ふふふ。この私を囮に使おうなんていい度胸してるじゃない!後で覚えてろよ、テメーら

一方、前を必死に走る新八らの後を追う銀時は、いまだ止まる気配のない・・・というか自分たちから逃げるような彼らの態度に、大量の冷や汗を流しながら叫ぶ。

その隣では日頃の笑顔を浮かべたまま悪態をつくが・・・―――しかし『後で』という言葉が、今の彼女には余裕がないのだという事を窺わせた。

「あれ?ちょっと待て。なんか後ろ重くねーか?おい、コレ絶対なんか乗ってるって、おい!ちょっと見てくれ、オイ。なんか乗ってるだろぉ!?」

衝撃的な光景を目に映し、本能的な身の危険を察して逃げ出した銀時は、この時漸く己の異変に気付いた。

背中が異様に重いのだ。

いや、重いというよりは寧ろ・・・。

それが何かを確認したいが、自分では確認したくないと両隣にいる土方とへと同意を求めるが、生憎と2人もそれどころではないようだ。

決して視線を動かさず、ただ前だけを見据えて走り続ける2人は、自分の隣で叫び声を上げる銀時に小さく表情を歪める。

「知らん、俺は知らん!!」

「銀ちゃん。世の中には知らない方が幸せな事って意外にいっぱいあるんだよ

「いや、乗ってるって!だって重いもん、コレ」

「うるせーな。自分で確認すればいいだろーが!」

「お前、ちょっとくらい見てくれてもいいんじゃねーの?つーか、オイ。!お前見てくれ!ちょっとだけでいいからっ!!」

「絶対、嫌」

「即答かよ!!」

だってもしもアレな姿が目に入っちゃったりしたら、この私の繊細な目が汚れちゃうじゃない!こういうのはアレよ。画面越しで見るから耐えられるものなのよ!」

「なんだかんだ言って、結局テメーもビビってんじゃねぇか!!」

「ビビってるんじゃないわよ。ただ生理的に受け付けないだけ

走るスピードを緩める事無く息継ぎなしで叫びあう3人。

キッパリと言い切られたの理不尽な言い分に、しかし銀時が納得出来るはずがない。

が怖がっているのか、それとも本当に生理的に受け付けないだけなのかはともかく、自分1人でこの重みを背負うのは耐えられない。―――いや、現実的な重さではなく、精神的に。

このまま言い合っていても解決策は見出せないと、数々の修羅場を潜り抜けてきた銀時は瞬時に判断し、自分の申し出を断固として拒否する2人へ解決の為の妥協案を提案した。

「解った!じゃ、こうしよう!せーので3人同時に振り向く!!」

「えぇ!?銀ちゃんってば男らしくな〜い!幽霊に怯える可憐な美少女を助けるくらいの意気込み見せたらどうなのよ!!」

「お前今怖くないって言っただろー!!」

「それはそれ、これはこれ」

これ以上は譲れないと精一杯の妥協案は、の無情な言葉で却下された。

どれほど長い付き合いであっても、協調性というのは養われないものらしい。

本来彼らのまとめ役であり、その被害のすべてを被っていた桂がこの場にいないのだから、収拾がつかないのも仕方がないのかもしれない。

しかし今そんな事を言っていてもどうしようもない。

「あー、もう!ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!解ったよ!お前ら絶対見ろよ!裏切んなよ!?絶対見ろよ!!」

とうとう言い争いに耐えられなくなった土方は、銀時の精一杯の妥協案を受け入れる事にしたらしい。

土方の必死の叫びに渋々と同意したは、銀時と土方とチラリと視線を交わしあい、そうして1つ頷いた。

「はい、せーのっ!!」

掛け声と共に3人は走る足を止め、一斉に振り返る。

どうか気のせいでありますようにという銀時の儚い願いは、その瞬間砕け散った。

振り返った先には、先ほど押し入れで見た青白い顔をした赤い着物の女の姿。

「・・・こんばんは〜」

3人は何かを誤魔化すように、同時ににへらと笑みを浮かべる

真撰組屯所に、悲痛な男の雄叫びが響き渡った。

 

 

「テメェ、生きてやがったのか」

「お前こそ、悪運の強いやつだ」

あれから一体何がどうなったのか。

そこの辺りの記憶は酷く曖昧で、混乱の頂点にいた銀時たちには、あの状況でどうやって赤い着物の女を振り切ったのかさえ解らなかったけれど。

解っている事はただ1つ・・・―――とりあえず五体満足であの修羅場を切り抜けたという事だ。

ガサリと小さな音を立てて茂みの中から恐る恐る顔を出した銀時と、どういう心理で逃げ込んだのか・・・池の中から顔を出した土方は、お互い視線を交わして。

そういえばはどこへ言ったのだろうかと無言で視界を巡らせた2人は、いつからそこにいたのか・・・池のすぐ傍にある岩の上に腰掛けているを見つけて、思わずビクリと肩を震わせた。

赤い着物の女とは似ても似つかないけれど・・・やはり無言でその場にいられれば驚きもする。―――なんで声掛けねぇんだよという悪態は心の中だけに留めて、ケロリとした様子で何事かを考え込むを見て漸く気を落ち着かせた。

「銀ちゃん。土方くん。あの赤い着物の女、どこ行ったんだろ?姿が見えないけど・・・」

唐突に話し掛けられ、再びビクリと肩を震わせた銀時と土方は、牽制するようにお互いに視線を向け、多少引き攣ってはいるが無理矢理笑顔を浮かべた。

「逃げやがったか。実はよぉ、さっき追いかけられてる時、俺ずっとあいつにメンチ切ってたんだ。アレ効いたよなぁ〜」

「ホザけよ、テメー。俺なんて追いかけられてる時、やつをずーっとつねってた」

「虚しいだけだから低レベルな言い合いはやめたら?つーか、子供のケンカかよ

相変わらず引き攣った笑みのまま、裏返る声を整える事も出来ずにそう言い合う銀時と土方を見やり、は深いため息を吐きながらキッパリとそう言い捨てる。

時刻はもう深夜。―――流石のも一日の疲れに加えて先ほどの全力疾走のせいで疲れているせいか、いつもよりもテンションが低い。

「何言ってんだ。俺は別に怖がってなんか・・・」

そんなに向かい、不名誉だと銀時が反論を口にしようとしたその時、ガサリと大きな音を立てた茂みに反応して、辺りに盛大な水音が響き渡った。

舞い上がる水飛沫を鬱陶しそうに手で遮ったは、チラリと先ほど音がした茂みの方へと視線を向け、そうして隠す事ない呆れを浮かべた眼差しで池に視線を移す。

グゥエ!と独特の声を上げる大きなカエルの声に反応して池から顔を出した銀時と土方を見詰め、そんなにも幽霊が怖いものかとは小さく口角を上げる。

そんなに気付く事もなく、恐る恐る池の中から顔を出した2人は、先ほどの音の発生源が何かを確認し、それが恐怖の対象ではなかった事を確認し、ホッと安堵の息を吐いた。

「さ〜て、水も浴びてすっきりした事だし、そろそろ反撃と行くかぁ?」

「無理すんなよ、声が震えてるぜ。やつは俺が仕留める。テメーは家でへたれてろ!」

未だに池の中に浸ったまま暴言を吐き合う2人を目に映しながら、は堪えきれないとばかりにクスクスと笑みを零した。

説得力ないし。―――もう、いい加減に怖いなら怖いって言ったら?もうこうなったら笑って流してあげるからさ。今の2人見てると哀れ過ぎてもっと追い打ち掛けたい気もしないわけじゃないけど、流石の私もちょっとぐらいは良心が痛んじゃうし」

「な、な、何言ってんだよ。怖くなんかねーよ。お前の方こそさっきは滅茶苦茶怖がってたじゃねーか」

「そ、そうだぜ。幽霊なんて信じてねぇなんて言っときながら、随分と怖がってたじゃねーか。お前も意外に普通の娘らしいとこあるんだな」

「だから怖がってないって。生理的に受け付けなかっただけだってば」

標的をお互いからへと変えたのか、声を震わせながらそう言い無理矢理笑う銀時と土方に、は呆れた眼差しを向けキッパリとそう返す。

しかしそんな言い訳で引き下がるほど、2人は優しくはない。―――今まで散々からかわれてきたのだ、こんな時こそ絡まないでどうする。

いつもにこにこと笑顔を浮かべ、例え絶体絶命のピンチに陥っても表情1つ変えないだろうのあの行動に、黙っていろという方が無理な相談だ。

「はっ、お前今更そんな言い訳・・・」

少しだけいつもの調子を取り戻した銀時が、耳元で鳴く蚊を追い払いながら鼻で笑う。

しかしそんな銀時のからかいをにっこり笑顔で受け流して、は目の前を飛ぶ蚊を手で払いつつ、ふふふと可愛らしく微笑んだ。

やっぱり幽霊は血みどろスプラッタ系じゃないと萌えないよねぇ。まぁ、インパクトがあるのはやっぱりさっきの赤い着物の女みたいなやつなんだろうけど。・・・っていうか、根本的に私幽霊なんて信じてないし―――っていうか、煩い

「なんだよ、ブンブンブンブンよぉ」

2人は意地の悪い笑顔を浮かべつつ相手を牽制し合うが、しつこく耳元で高音を発する蚊の存在に我慢出来ず、眉間に皺を寄せて顔を上げる。

そうして何の前触れもなく目に飛び込んできた光景に、一瞬己の目を疑った。

星の瞬く夜空にぽっかりと浮かぶ丸い月・・・ではなく、夜空に透明の羽を羽ばたかせてこちらを見下ろす赤い着物の女。

思わず絶句した3人を上空から見下ろすその様は、絶対に関わり合いになりたくない相手である。

「おおおおおおおい!あんなんアリか!?ととと飛んでんじゃねーか!!」

「へ〜。最近の幽霊は羽が生えてて飛べるんだ。よく出来てるね〜」

「ななななななな何!おおおおお前ひょっとしてビビってんのか!?」

「ばばばバカ言うな。おおお俺を誰だと思ってんだ!!」

「ねぇ、それいつまで続けるつもり?もう飽きちゃったんだけど」

思いもよらなかった展開にあたふたと慌てふためく2人を横目に、は呆れた視線を投げかける。

幽霊なんてものは物陰から突然出て来るとか、気が付けばそこにいたという展開があるから怖いのであって、あんな風に羽を背に飛んでいる光景を見ても、驚きはするけれど恐怖を感じるかといえば疑問が浮かぶところだ。

このわけの解らない生物が多く存在する現在の江戸で、アレを見て心から幽霊だと信じ込めるのがすごいとは思う。―――少しは疑問が浮かばないのだろうか?

「じょ、上等じゃねーか。よ、よし。じゃあお前やつを引きつけろ。俺はあの・・・アレするから」

「アレするからってなんだ!?エスケープか!?ズラかるつもりだろ、テメー!!」

しどろもどろになりながらゆっくりと後退する銀時に、土方は空を飛ぶ赤い着物の女から視線を逸らす事無く・・・けれどしっかりと銀時の着物を掴んでそれを阻止する。

そんな土方の手から逃れるように身を捩りながらも、銀時は決して視線を合わす事無くどこか遠いところを見詰めながら口を開いた。

「ちち違うって。あの・・・あれだ。バズーカーで撃つ」

「バズーカーなんてどこにあんだよ!!」

「男はみんな心にバズーカーを持ってんだ!!」

どうやら混乱の頂点にいるらしい。

銀時が訳の分からない事を言うのはもう日常的で可笑しくもなんともないが、それに的確な突っ込みを返せないところに土方の混乱を見た。

「まどろっこしいなぁ!そんな醜い押し付け合いしてないで、この私に平伏して爆弾で退治してくださいって懇願したらどうなの?そうしたら私だって快く屯所ごとまとめて爆破してあげるのに

「ちょっと待てー!!サラッととんでもねぇこと言ってんじゃねぇ!!」

いまだ宙に浮かんだままこちらを見下ろしている赤い着物の女を無視して、にっこり笑顔でそうのたまうに、土方は銀時から手を話す事無くそう反論する。

どれほど混乱の最中であっても、真撰組が絡むと正気に戻れるらしい。

そんな土方に少しだけ感心しながらも、チラリと視線を向けたそこで赤い着物の女が僅かに動き出した事に気付いて、はふうとわざとらしくため息を吐いた。

「もう、我が侭なんだから。しょうがないなぁ。―――土方くん、刀貸して」

「はぁ!?」

いいからつべこべ言わずに貸せって言ってんだよ

突然の申し出に呆気に取られる土方など気にもせず、は銀時を捕らえる為に両手が塞がっている土方から、半ば奪うように刀を借り受けて。

「あ、おい!、待てって!!」

身動きの取れない銀時の焦った声もサラリと無視して刀を抜いたは、俯いたままニヤリと口角を上げた。

・・・ふふふふふ

「な、なんだ!?」

瞬間、妖しげな笑みを零したに、刀を奪い返そうとしていた土方がビクリと肩を揺らす。―――その笑い声は、いつも彼女が漏らす鈴の鳴るような声とは似ても似つかない。

例えていうならば、それは地の底から響いてくるような・・・。

「身の程知らずにもこの私に歯向かおうなんていい度胸じゃない。よっぽど命が惜しくないのね」

「いや、相手はもう死んでるから!!」

銀時が慌てたように突っ込みを入れても、の様子は変わらない。

表情さえも常のものとは違う妖しげなものに変えて、うっとりと月光に煌く刀身を見詰めて目を細めた。

「ああ、やっぱり刀っていいわよねぇ。なんていうの?こう・・・血が滾るっていうか、テンション上がるよねぇ〜。ふふふ、お望み通り、完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ。自分の愚かさをあの世でたっぷり後悔しなさい!!」

「だからもう死んでるってー!!」

の尋常ではない様子に感化されたのか・・・それとも最初からそのつもりだったのか、赤い着物の女が羽音を鳴らして3人に向かい急降下する。

それに対し刀を構えたは、もうそこらにいるような町娘ではなかった。

土方ほど危ない目つきをしているわけではないが、触れれば切れそうなほど鋭い眼差しで赤い着物の女を見据え、寒気がするほど綺麗な笑みをその口元へと浮かべる。

あ〜あ・・・と苦い表情を浮かべている銀時とは反対に、それを見ていた土方は背筋にゾクリと悪寒を感じた。

刀を握る手つきが、素人のそれとは違っている。―――その雰囲気も、何もかもが。

土方が呆然としている間に、勝負は一瞬で終わっていた。

いつの間にか地面に叩き伏せられた赤い着物の女を見下ろしていたは、刀を下げたままゆっくりと顔を上げて。

「あ〜、すっきりした」

先ほどの張り詰めたような空気を破るように響いたその声はいつも通り、どこまでも明るかった。

 

 

すっかり夜の明けた真撰組屯所の縁側に並んで座って、まさしく真撰組の危機を救った3人は、隊士たちに捕えられ木に吊るされている赤い着物の女を他人事のように眺めていた。

恐怖に包まれた昨夜の空気は嘘のように晴れ、今漸く活気に満ちた屯所本来の賑やかさが辺りを包んでいる。

「・・・って事は、テメェは幽霊の正体がなんなのか気付いてたのか?」

そんな中、赤い着物の女のか細い声で紡ぎだされる事情を耳にしながらも、唐突にポツリと漏れた銀時の疲れを滲ませた問いに視線をそちらへと向けた。

そこに浮かぶ苦々しい表情を認めて、はにっこりと微笑む。

「そりゃ勿論。だから言ったでしょ。私は幽霊なんて信じてないって」

「・・・いつから?」

当然とばかりに言い切られたその答えに、頬を引き攣らせた土方が言葉少なに問い掛けた。

「え〜っと、近藤さんを診たときかな。首筋に蚊に吸われたような跡があったし。実は銀ちゃんたちが来る前に、寝込んでる隊士たちも一通り診て回ったんだよね。そしたら全員似たような痣があるじゃない?これは何かあるだろうなって思って」

それじゃまったく最初から気付いてたって事じゃねぇか・・・と心の中だけで悪態をついて、解ってたんなら最初からそう言いやがれとも思ったが、今までの彼女の言動から考えても、素直に教えてくれる筈もなかっただろうと納得できてしまうのだからもう仕方ない。

を引き込んだ時点で、騒動が大きくなる事は避けられない事だったのだと無理矢理自分を納得させる事にする。―――本人が聞けば、笑顔で文句の1つでも返ってきそうだが。

「・・・ったく、幽霊にしろなんにしろ傍迷惑なのに変わりはねーよなぁ」

「傍迷惑なのはテメーだ。報酬なんぞやらんと言ってるだろ。消えろ」

しみじみとした銀時の言葉に心の中で深く同意しながらも、土方は未だに帰る気配を見せない銀時に向かい冷たくそう言い放つ。

「そうよね。寧ろ報酬は私に支払われるべきよね。一応沖田くんに頼み込まれてここに連れて来られたわけだし」

「・・・報酬は払わねーぞ」

土方の言葉にさり気なく同意しつつも催促するようなの言葉に、多少嫌な予感を抱きつつも素っ気無くそう答える。

いくら国お抱え集団であっても、大所帯の真撰組にはそれほどの金はない。

そう考えた土方は、そういえば・・・と僅かな疑問に首を傾げた。

たびたび顔を合わせるが、普段何をしているのかを彼は知らない。

おそらくは普通に働いているのだろうとも思うが、昼夜問わずに街中で見かける少女がまともな仕事についているのだろうかとも思う。

得体の知れない万事屋のボスとも旧知の仲のようだし、今更過ぎるといえば今更だけれども、果たしては一体何者なのだろうかと訝しく思う。―――が、その疑問は何の前触れもなく放たれたの発言によって綺麗に吹き飛んだ。

「それじゃ、土方くんに身体で支払ってもらおうかな?」

「・・・なっ!!なんで俺がっ!?」

「だって土方くん、真撰組の副長でしょ?部下の後始末は上司がするものだよ」

「もっともらしい事言ってんじゃねぇよ」

したり顔でそう告げるを横目に、土方は新しい煙草を咥えて火をつける。

ユラユラと空へと登っていく煙を眺めながらもう一度チラリとへ視線を向けると、そこにはこちらを向いてにっこりと微笑んでいるの姿があった。

「大体、私別に銀ちゃんほどお金に困ってないし。どっちかっていうと、作るだけ作った薬の試作品を試す実験体の方に困ってるっていうか・・・

「おいぃ!!」

安心させるようにポンポンと肩を叩かれるが、限りなく危険な言動に納得も安心も出来る筈がない。

思わず煙草のフィルターを噛み切りそうなほど強く噛み締め声を上げると、留めとばかりに寝不足とは思えないほど麗しい笑顔を浮かべて。

「大丈夫、心配しないで!土方くんなら死にはしないわよ・・・多分

付け加えられた言葉に、思わず眩暈を覚えた。

 

 

おそらくは寝不足の上に精神的な疲労が重なったせいか、の駄目押しの一言で遠いところを見詰める土方を認めて、銀時は重いため息を吐き出す。

そうしてその元凶であるはずのの楽しそうな笑みを見詰めて、さり気なく・・・そしてを挟んで向こう側にいる土方に聞こえないよう少しだけ声を潜めて、銀時はポツリと呟いた。

「お前が刀握って峰打ちなんざ初めてみたな」

「ふふふ、そ〜お?」

口元に手を当てて可愛らしく笑みを零す少女は、酷く愛らしい。

けれど土方は知らない。

この少女が、あの攘夷戦争でどれほど恐れられていたのかを・・・。

自分も白夜叉などという通り名で呼ばれるほどではあり、やはりその時の姿は今の姿からは想像がつかないかもしれないが、もそれに負けないほど変わったと思う。

少なくとも昔のは、相手の命を奪える刀という武器を握っていて、相手の命を奪わないよう峰打ちするなどという芸当をした事はない。

そう、例えば現在の高杉のように、彼女はその存在こそが危険ですらあった。

だからこそ戦争が終わった今、桂はに刀を持つ事を禁じたのだろう。―――護身用として小刀と銃を持っているようだが、彼女が刀を握るよりはずっと安全だ。

彼女の言葉を借りるならば、刀を握ると酷く好戦的になるらしいのだから・・・。

「ま、ヅラには黙っててやるよ」

「ありがとう。それじゃ私も、銀ちゃんが幽霊に怯えてみっともないくらい狼狽してたって事は胸に秘めておいてあげるよ」

弱みを1つ握ったとばかりにそう言えば、まったく堪えた様子のないの痛烈な一言が返って来る。

一筋縄ではいかない奴だと思いつつも、やはりこうでないとと思う。

鮮やかに澄み渡る蒼い空の下、屯所に響く隊士たちの声と赤い着物の女のすすり泣く声を耳にしながら、銀時とは顔を見合わせて小さく笑みを零した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

だから長すぎやっちゅーねん!!(自分突っ込み)

途中で書くのが面倒になってきつつも、とりあえず形的に仕上たこの話。

ちょっとどころかかなり不服な出来上がりではありますが、書き直す気は残念ながら起きません。(そして折角書いたこれを消す事も出来ません/ダメ人間)

ともかく次は書きたくて書きたくてしょうがなかった彼の登場を・・・。

作成日 2006.10.14

更新日 2007.11.16

 

 

戻る