「決めた!わしゃ、空に行くぜよ!!」

昔々、坂本辰馬はに向かいそう言った。

「このまま地べた這いずり回って天人と戦ったところで先は見えちょる。わしらがこうしとる間にも、天人はじゃんじゃん地球に来ちょるきに。押し寄せる時代の波には逆らえんぜよ」

坂本の話に耳を傾けていたは、心の中でもっともだと独りごちる。

桂や高杉が心の底で何を思っているのかは解らないが、長く天人たちと戦いを続けてきたが出した結論は、彼と似たようなものである。

おそらくは戦いに身を投じながらも、どこか引いたところで物事を見ている坂本やしか出せない結論だろう。―――何を考えているか計り知れない銀時はさておき。

無言でぼんやりと空を見上げるに構わず、坂本は更に言葉を続けた。

「わしゃ、もう仲間が死ぬところは見たくない。これからはもっと高い視点をもって生きねば駄目じゃ。地球人も天人も、星さえも見渡せるほど高い視点がの。―――だからわしゃ宙に行く」

「・・・ふ〜ん」

「宇宙にでかい船を浮かべて、星ごと掬い上げる漁をするんじゃ!」

そう言って、子供のように瞳を輝かせている坂本を横目に見て、実はこの男が一番の大物なのではないかとはひっそりと思う。

勿論、それを口に出す気は欠片もないけれど。

「どうじゃ、銀時、。おんしらはこの狭か星に閉じ込めておくには勿体ないけぇ、わしと一緒に・・・」

そう言って意気揚々と振り返った坂本は、しかし気のない様子でぼんやりと空を見上げていると、そうして話の途中であるにも関わらず眠りこけている銀時を認めて、彼らしい盛大な笑い声を上げた。

「あっはっはっはー!!天よ!こいつらに隕石ば落としてくださーい!!あっはっは!!」

本当は「私は高いわよ」とか、「夢ばっか語ってんじゃねぇ」とか、もう条件反射で毒舌かましてやろうと思っていたのだけれど。

そのすべてを飲み込んで、は坂本の能天気な笑い声を聞きながら、そういうのも良いかもしれないと心の中でそう思った。

 

人生行き当たりばったりでもとりあえず何とかなるもんだ

 

じりじりと照りつける太陽の熱に、は無理やり沈み込んでいた意識を引き上げられた。

目に映る光景は一面の砂。

一瞬、自分がどこにいるのかが解らずにパチパチと目を瞬かせていたは、次の瞬間に聞こえてきた能天気な声に盛大に頬を引き攣らせた。

「ははっ、危ない危ない!あまりにも暑いところじゃけ、昔の事が走馬灯のように駆け巡りかけたぜよ。何とか助かったってのに危なか〜!」

「助かっただぁ!?これのどこが助かったってんだよ!」

坂本の明るい声に、同じく目を覚ましていた銀時が盛大に反論する。

そんな2人の言い合いを見ていたは、ゆっくりと立ち上がり、そうして服についた砂をすべて払い落としてから、未だ座り込んだままの坂本へと歩み寄った。

「うふふ。ねぇ、辰馬ちゃん。私ものすご〜く最悪な夢を見てるみたい。もうこうなったらちゃっちゃか目を覚まさないとね。ほら、ぎゅーっと」

相変わらず可愛らしく微笑みながら、しかしその手は容赦なく坂本の頬を引っ張る。

どこまで伸びるかしら〜などと鈴が鳴るような声で笑うと、顔が変形するほど頬を引っ張られていた坂本が悲鳴に近い声を上げた。

「痛い痛い痛い!が目覚ますのに何でわしの頬っぺた引っ張るんじゃー!?」

「何言ってるの。嫌がらせに決まってるじゃない!

坂本の文句を一刀両断に切り捨て、は綺麗な笑みを浮かべたまま言い切った。

これくらいで済んで逆に感謝して欲しいくらいよと心の中で独りごちながら、涙を浮かべる坂本を見かねて手を離す。

そうしてのお仕置きの巻き添えを食らわないにと傍観していた銀時は、の制裁が終わった事を見届けてから、改めて口を開いた。

「こんな一面ババアの肌みてーな星に不時着しちまってどうしろってんだ?なんで太陽が2つもあんだよ。金玉か、コノヤロー。大体てめぇが舵折らなきゃこんな事にならなかったんだぞ!?」

「あっはっは!前回の事なんか忘れたぜよ。男は前だけ見て生きてくもんろ」

「な〜にすっとぼけてんだ、この毛玉ぁ!!」

どこまでもマイペース、いっそ清々しいほど無責任にそう言い切った坂本に、銀時は怒りに任せて鉄拳を食らわす。

そうして吹き飛んだ坂本を認めて、こちらも銀時の制裁を傍観していたは、深いため息を吐き出して熱を含んだ砂の上に腰を下ろし口を開いた。

「もう、銀ちゃん落ち着いて。過ぎちゃった事を今更言ったって仕方ないでしょ?問題はこれからどうするかなんだから」

「・・・珍しくさんがまともな事言ってる。―――っていうか、さんが言うと、なんか裏があるんじゃないかって思えるから怖いですよね」

無駄な体力を使わないようにと3人のやり取りを見守っていた新八は、今までの口からは聞いた事がないような正論に目を丸くする。

まさかの口からこんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった。―――いつも場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、混乱させるだけ混乱させ、騒動を大きくするだけ大きくしておいて笑って傍観しているような人の言葉とは思えない。

しかし新八のその言葉に、は気分を害したとでも言うような表情を浮かべて振り返り、腰に手を当てて小さい子をしかる親のような様子で口を開いた。

「失礼ね、新八くんってば。本音を言えば、ホント太陽が2つあるなんて冗談じゃねーよ!って叫んで暑さのあまりに頂点に達しそうなイライラを辺り構わず爆弾投げつけて解消したいところをものすごく我慢してるんだから!

「ああ、その方がさんらしいですよ。本当にされたら困りますけど」

いつも通りのの様子に、新八は何故かホッと安堵の息をつく。

まさかの毒を含んだ・・・というよりも、むしろ毒で構成されているようなセリフを聞いて安心する日が来るとは思ってもいなかったが。

しかしやはり釘を差すことも忘れずに付け加えて、そうして先ほどから彼女にしてはありえないほど静かな神楽へと振り返り、表情を心配そうなそれへと変えて新八は地面にへたり込む神楽の顔を覗き込んだ。

「神楽ちゃんも大丈夫?君、もともと日の光に弱いんだからね」

「大丈夫あるヨ。傘があれば平気ダヨ。でも咽が渇いたから、ちょっとあっちの川で水飲んでくるネ

「川ってどこ!?いかんいかん!その川渡っちゃ駄目だよ!!」

新八の言葉にふらふらと立ち上がり、そうしてふらふらと砂漠の向こうへと歩き出した神楽を新八は慌てて引き止める。

砂漠のどこを見渡しても、神楽の言うような川らしきものはない。―――明らかに危ないものが見えているのだろう神楽の虚ろな瞳に、流石のも心配になったのか、新八に羽交い絞めにされて引き止められている神楽の前に立ち小さく首を傾げた。

「神楽ちゃん、本当に大丈夫?」

とっつあん、やっぱり俺ボクシングやってみるよ

誰がとっつあんだ、誰が。・・・と言いたいところだけど、とりあえず。その意気よ、神楽ちゃん!貴女なら世界どころか宇宙を目指せるわ!

「だから煽らないでくださいよ!!」

神楽の怪しげな発言にガッツポーズで答えるに、新八はあらん限りの力を振り絞って声を上げる。

そんな非常事態に気付いてか、先ほどまで坂本と言い争っていた銀時が少し心許ない足取りでこちらへと近づき、そうしてひょいと神楽の顔を覗き込んだ。

「あー、だめだな、こりゃ。目が据わっちまってるぜ。ちょっと神楽貸せ」

ひらひらと神楽の顔の前で手を振り何の反応もない事を確認してから、銀時はぼんやりとしたままの神楽を背負い上げる。

なんだかんだ言いつつもこういう時は頼りになるのだと思いつつ、神楽を背負ってどこへ行くつもりなのだろうかと新八は小さく首を傾げたその時。

「しょーがねーなぁ。ちょっとあっちの川で水飲ましてくるわ」

お前も見えてんのかい!!

ふらふらとした足取りで、果てない砂漠を進もうとする銀時に、新八は渾身の力を込めて突っ込んだ。

「何言ってんの、見えねぇのお前ら?花畑もあるぞ〜。お、結野アナもいる。結婚してくれ〜」

「何バカな事言うちょる。・・・あ、おりょうちゃんじゃ!結婚してくれ〜!!」

「あー、もう駄目だぁ!誰も信用できねぇ!!おしまいだぁー!!」

銀時に続き坂本までもが幸せな幻を追いかける様子を見て、新八は頭を抱えてそう叫ぶ。

このままでは全員死ぬ、間違いなく。と嫌な予感が脳裏を過ぎったその時、ポンポンと優しく肩を叩く手に気付いて顔を上げた。―――視線の先には、柔らかく微笑むの顔が。

「ほらほら、新八くん落ち着いて。とりあえず何にもないけど砂だけはあるから好きに使って」

砂なんてどないせいっちゅーんじゃ!!―――って、あれ?さんはなんともないんですか?銀さんたちみたいに幻覚見たりなんて・・・」

絶体絶命の割にはまだまだ体力は残っているらしい。

力の限り突込みを入れた新八は、しかしのいつもと変わらない様子に首を傾げる。

するとはくすくすと至極楽しそうに笑みを零して。

「やだ!私は自他共に認めるっていうか自分で言い切るくらいの現実主義者なのよ?幻覚なんて見るわけないじゃない!」

「結局、認められてるのか自分で言い張ってるのかどっちなんですか」

がっくりと肩を落として、新八は深くため息を吐いた。

正気を失っていないの存在は、しかし新八にとってはありがたいのかそうではないのか微妙なところだった。―――まぁ、ここに来てにまで正気を失われては収拾がつかなくなるので、ありがたいといえばありがたいのだけれど。

そんな微妙な心境に浸っている新八に、は追い討ちを掛けるように言葉を続けた。

「大体、幻覚なんて見たってしょうがないでしょ。幻なんて所詮ピンチの時に助けてくれるわけでもないんだから。結局のところ一番頼れるのは自分自身よ

「なんていうか、とんでもなく捻くれた現実主義者ですね。今こんなこと言うのもなんですけど、ちょっとは夢とか希望とか・・・」

この荒くれた弱肉強食の江戸を生き抜くのに、そんな甘っちょろい事言ってんじゃねーよ!―――なぁんて。さすが新八くん。良い事言うわね」

「いや、まったく褒められてる気しませんから」

だって褒めてないもの

キッパリと言い切り良い笑顔を浮かべるに、新八は言葉もなく引き攣った笑みを返す。

確かにの言う事も間違いではないが、これでは前途ある少年少女の夢も希望もあったものではない。

よく言えば理想主義者である桂の元にいるが、どうしてここまで捻くれた現実主義者であるのか疑問が浮かんだ。―――実際問題としては、桂がそうである以上が現実主義者でもない限り、彼らが幕府の手を逃れる事は難しいのだろうが。

「い〜い?何事においてもね、先を読んで行動する事が大切なの。ほら、CMでも言ってるじゃない。『事前に計画を立ててご利用ください』ってね。あれって常々思うんだけど、しっかり計画を立てて利用できるような人間が、そんなとこでお金借りるわけねーよ!って思わない?」

「いや、今そんな話どうでもいいですから」

人差し指を立てて穏やかな口調でそう説明するに、新八はキッパリと突っ込みを入れる。―――本当に今は、そんな話はどうでもいい。

それよりも暴走しかけている・・・というか、もう既に暴走している銀時たちを止める手立てと、この星から無事に脱出する手段の方が今は何倍も重要だ。

新八のそんな心の声が聞こえたのか、は仕方ないとばかりに小さく首を傾げて。

「そう?それじゃ、私が一体何を言いたいかって言うとね」

「船だぁ!!」

「救援だぁ!!」

「俺たち助かったんだ!!」

の言葉を遮るように、乗客たちの歓声が一斉に上がった。

絶望に暮れていた乗客たちが、空に浮かぶ巨大な船を見上げて口々にそう叫ぶ。

いつの間に・・・しかもどうやってこの場所を突き止めたのか、救助の船が太陽の光を浴びて悠然と空を泳いでいた。

それを認めて、新八も乗客たちと同様、この最悪な状況の中助かる目処が立った事にホッと安堵の息を吐く。―――そうして彼は、先ほどのの言葉を思い出した。

「・・・もしかして」

恐る恐る視線を戻すと、そこには乗客たちと同じく空を見上げて微笑んでいるが。

そうして新八の視線に気付いてか、ゆっくりと視線を落としたは、少々頬を引き攣らせながら自分を見る新八を見つめ返して、にっこりと微笑んだ。

「最後の最後に笑うのは現実主義者なのよ、って事よ」

の満面の笑顔が、今ばかりはとても頼もしく見えた。

 

 

「陸奥、久しぶり〜!」

ゆっくりと着陸した巨大な宇宙船から、深く笠を被った人物がこちらを見下ろしている。

そんな人物に向かい、は親しげにそう声を掛けた。

まさか知り合いなのかと視線で問う新八を無視して、はその人物に向けてひらひらと手を振る。

そんなを認めて、陸奥と呼ばれたその人物は無表情のままに向かい小さく会釈を返した。

「わざわざ連絡頂き申し訳ない。頭がとんでもなく迷惑をかけたようで」

うん、そうだね。でもまぁ、辰馬ちゃんが迷惑と騒動運んでくるのは今更だし、ちゃんとお礼も決めてあるから大丈夫よ

勿論、の辞書には遠慮という文字も社交辞令という文字もないらしい。

キッパリとそう言い切って笑ったに、新八は緩んでいた頬を再び引き攣らせた。

「怖いですから。―――ってさん、一体いつの間に連絡なんてしてたんですか?」

「ん〜?船が落ちる前よ。無線までイカれてなくて良かったよね。やっぱり日頃の行いが良いのね〜

「あの、すいません。そこスルーでお願いします

当然とばかりに言い切るに、新八は僅かに視線を泳がせて・・・けれどしっかりと言い切った。

の日頃の行いが良いなど、正直者の新八には絶対に言えない。

そんなやり取りをしているうちに、いつの間にか正気に戻った坂本が豪快に笑いながら陸奥に向かい声を掛けた。

「あっはっはー!すまんのぅ、陸奥。こんなところまで迎えに来てもらって!」

「こんなこたぁ、今回限りにしてもらおう。わしらの船は救援隊じゃない。商いをするためのものじゃき。頭のあんたがこんな事じゃ困るぜよ。―――それから、わしらに黙ってふらふらすんのも今回限りじゃ」

口を挟む隙もなくそう言い切って、先ほどに向けたものとは明らかに違う鋭い視線を向けたその女性に、しかし懲りるという文字が辞書から欠落しているとしか思えない坂本は、とりあえず笑っとけとでも言いたげに朗らかに笑い声を上げた。

「あっはっは〜、すまんの。何せの酔い止めが切れたきに」

「いつも通り、送ってもらえば良かろう。わざわざ単独で会いに行く必要がどこにある」

「あっはっは〜!それにやっぱり、女は地球の女しか受け付けんきに」

「女遊びもほどほどにせんと、また病気移されるろー」

「あっはっは!ぶっとばすぞ、クソ女

返ってくる言葉返ってくる言葉が、に負けず劣らず辛口であるのに対し、とうとう坂本も少しムッと来たらしい。―――笑顔を浮かべながらも口調はさり気に乱暴になっている。

そんな険悪な空気に耐え切れなくなった新八は、それを払拭するためと本来の疑問を解決するため、睨み合う坂本へ向かい声を掛けた。

「坂本さん、これ・・・」

「ああ、快援隊っちゅーてな。わしの私設艦隊みたいなもんじゃ。ちゅーても戦する為の艦隊やのーて、この艦隊そのものがカンパニーなんじゃ」

新八の疑問に乗って、坂本は自慢げにそう笑う。

しかし飛び出てきた言葉の意味がよく解らず、新八は小さく首を傾げて問い返した。

「カンパニー?」

「そうじゃ。わしらこの船使って、デカイ商いしちょる。いろんな星々回って品物ば売り買いしちょる。まぁ、貿易じゃが・・・。じゃが近頃宇宙も物騒じゃき、自衛の手段としてこうして武装しちょるわけぜよ」

「そうなのよ。一見そこらへんには到底いそうにないお馬鹿に見えても、一応立派に頭として働いてるのよ、辰馬ちゃんは。まぁ、ほとんど陸奥のおかげっぽい気が巨大にするけど」

「へ〜・・・」

貶しているのか褒めているのかの微妙な言動に、新八は当たり障りなく無難に相槌を打った。

「それにほら、辰馬ちゃんてば船酔いが尋常じゃないから、私が辰馬ちゃんの為に船酔いの薬を調合してるの。そりゃもう良い金ズルなんだから!

「あっはっは〜!の薬はよく効くきに」

「そこ、笑うところじゃないと思うんですけど」

楽しげに笑うと坂本を見て、新八は控えめにそう突っ込む。

坂本本人がなんとも思っていないようなので、この際その辺の事はどうでもいい気もしたが、ボケとボケの会話をそのままにしておくほど新八の突っ込み体質は甘くない。

「っていうか、本当に今更ですけど、銀さんたちと坂本さんってどういう関係なんですか?」

本当に今更だと思いながら、新八はへとそう質問を投げ掛けた。

見るからに顔見知りである銀時に加え、は坂本と行動を共にしていたのだ。―――けれどこう言ってはなんだが、坂本が攘夷志士にはとても見えない。

「私たちはね、昔一緒に攘夷戦争で戦ってたのよ。後は小太郎ちゃんと晋助ちゃんも」

の言葉に、新八はなるほどと相槌を打つ。

話の中に出てきた『晋助ちゃん』という人物には心当たりがなかったが、この3人を見る限りは似たような人なのだろうと勝手に想像を膨らませる。

勝手に想像を膨らませて・・・そして新八は後悔した。―――こんな面々が勢ぞろいしている場面など想像もしたくない。

おそらくはその中でも比較的まともな部類に入るだろう桂の苦労が手に取るように解る。

「わしはどーも戦っちゅーのが好かんかったからのう。人を動かすのは武力でも思想でものーて利益じゃ。商売を通じて天人、地球人双方に利益をもたらし、関係の調和ば図る。わしゃ、わしのやり方で国ば守ろうと思うての」

どこか遠いところを眺めながら・・・けれど瞳を輝かせながらそう語る坂本に、新八は先ほどまでの不信感を忘れて素直に感動する。

そんな新八と坂本を見て珍しく優しく微笑んだは、いつもとは違う穏やかな声色で口を開いた。

「それで小太郎ちゃんは小太郎ちゃんのやり方で、国を変えようと戦ってるのよ」

「本当じゃ。ほんでもって高杉のやつは、幕府倒すためにいろいろ画策しちょると聞いとる。みんなそれぞれのやり方でやればいいんじゃ」

「へぇ〜、みんなすごいんですねぇ」

「ふふふ。今度は私が突っ込んであげるね。そこは同意するところじゃねーよ

感心したように声を上げる新八に微笑みかけて、は容赦なく突っ込みを入れた。

たとえどんなに綺麗な言葉を並べても、彼らのしている事は攘夷。―――現在で言えば犯罪行為なのだ。

その事をはしっかりと理解している。

勿論理解しているからといって、そこから手を引くつもりは毛頭ないのだけれど。

しかし新八はそんなの突っ込みを流して、改めて銀時へと視線を向けた。

「でも、うちの大将は何考えてんだか、プラプラしてますけどね」

「あっはっは!わし以上に掴みどころのない男じゃきにの〜!!」

笑い声が混じった坂本の言葉には、残念ながら否定できなかった。

どう見ても坂本だとて掴み所のない男の部類に余裕で入るのだろうけれど、銀時はそれを上回るほど掴みどころがないとそう思う。

それなりに時を共にし、彼の人となりを理解したつもりでいても、やはり銀時の行動の予測がつかない事は多いのだから。

そんなことを考えながらも微笑む新八を見て、坂本もいつもとは違う柔らかい笑みをその口元へ浮かべた。

「じゃが、人を惹きつける男ちゅーのは何かを持ってるもんぜよ。わしやヅラの志に惹かれて人が集まっとるように、おんしもあのチャイナさんも奴の何かに引かれて慕っとるんじゃなか?」

「ん〜、なんだかよく解んないですけど・・・。でも・・・」

「ぎゃああぁぁぁ!!」

坂本の言葉に、言葉に迷いつつも新八が何かを言いかけたその時、何の前触れもなくその場に悲鳴が響き渡った。

何事かと視線を巡らせると、そこには無数に生える触手のようなものが・・・。

「え、あれ何!?え?うそ!何あれ!!」

「あっはっはー!とうとう暑さにやられたか!何か妙なもんがみえるろー

「何言ってるのよ。辰馬ちゃんの頭がやられてるのは、何も暑さに関係なくもともとじゃない

一体これは何事なのか。―――それすらも解らずパニックに陥っている新八をよそに、坂本とは暢気にもそんな会話を交わす。

しかしその間にも、謎の触手はその手を伸ばし・・・そうして。

「いや、ちょっと坂本さん。何か巻きついてますけど」

「ほっとけ、ほっとけ。幻覚じゃー!あっはっはー!!」

「うわあぁぁぁ!坂本さーん!!」

どうあっても幻覚だと言い張る坂本だったが、いともあっさりと巻き付いてきた触手によって宙へと攫われる。

見るからに危機的状況だというのに、こんな時でもは暢気にニコニコと笑みを浮かべて。

何でもかんでも都合の良いように幻覚で片付けようとするからよ。もっとちゃ〜んと現実を見据えなきゃ」

「言ってる場合ですかっ!!」

冷静というよりはまるっきり他人事のに向かい、パニックに陥りながらも新八は力の限り突っ込んだ。―――現実主義というよりは、むしろ現実逃避のようにさえ思える。

しかしそんな慌てた状況でも、この人だけはまったくもって冷静さを失っていなかった。

「あれは砂蟲。この星の生態系で頂点に立つ生物。普段は静かだが、砂漠でガチャガチャ騒いどったきに、目ぇ覚ましよったか」

「ちょっと、あんた!自分の上司がえらい事になってんのに、何でそんな落ち着いてんの!?」

平然とそう言ってのける陸奥に、新八の方が慌てて声を上げる。

どんな状況でも落ち着いているのは結構な事だが、これは落ち着きすぎである。

しかし陸奥はそんな新八の抗議の声にも耳を貸すつもりはないらしく、坂本を捕らえる砂蟲に向かい声を張り上げた。

「勝手な事ばかりしちょるからこんな事になるんじゃ。砂蟲ぃ!そのもじゃもじゃやっちゃってー!特に股間を重点的に!!

「何!?何の恨みがあんの!?」

めちゃくちゃ意味深な発言に、そんな場合ではないというのに新八は更に突っ込みを入れる。―――これはもう職業病と認定されてもいいくらいだと、他人事のように現状を眺めていたは心の中でそう思った。

「あっはっは!わしがこんなところで死ぬかぁ!みんな、逃げぇい!!」

しかし坂本もかつては攘夷戦争に参加していた攘夷志士なのだ。

そして宇宙を又にかけた宇宙商人でもある。―――地球上には絶対にいないだろう生物を目の前にしても、彼はある意味冷静だった。

懐からが持っているのとよく似た銃を取り出し、それを捕らえられている他の乗客たちを逃がすために彼らを捕らえている触手を打ち落としていく。

順調に乗客たちを救い出す中、しかし銃の弾も無限ではない。―――自身が逃げ出す前に銃の弾は切れ、坂本は逃げ出す事も出来ずに暴れる触手によって振り回される。

そんな中、彼は宇宙船に向かい声を上げた。

新八たちにとっては、衝撃的なその言葉を。

「大砲じゃー!わしは構わんで大砲ばお見舞いしてやれぇ!!」

えぇ!?本当にいいの?流石の私も大砲は撃った事ないんだよね〜、ふふふ

「何わくわくしてんですか!だめですよ!?」

坂本の言葉に呆然とする暇もなく、隣から聞こえてきた楽しげな声に、新八は反射的に抗議の声を上げた。

まさか本気で言ってるわけではないと思うけれど・・・。―――いくらといえど、かつての仲間に・・・そして今も交流のある仲間に向かってそんな発言をするはずはないと思っていても、そのままスルーする事は出来なかった。

どんな発言をしていても、が実は仲間を大切にしている事が解っていても。

「大砲、撃てぇぇ!!」

「ちょ!?あんた、坂本さんまで殺す気ですか!!」

しかしに視線を向けた新八は、すぐ傍から聞こえてきた信じられない声に目を丸くして振り返った。

「奴1人の為に、乗客すべてを危険にはさらせん。今やるべき事は、乗客の命を救う事じゃ。大儀を失うなとは奴の口癖。―――撃てぇぇ!!」

陸奥の掛け声と共に、大音響を立てて大砲が発射される。

それは砂蟲の本体へと命中したのか、砂蟲の動きが更に激しくなる。

その光景を見て止めようと口を開きかけた新八に、しかし無表情を崩す事なく陸奥は更に言葉を続けた。

「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間ほっぽって宇宙へ向かった男じゃ。何でそんな事が出来たか解るか?大儀のためよ。目先の争いよりももっと先を見据えて、将来の国の為に出来る事を考えて苦渋の決断ばしたんじゃ。そんな奴に惹かれてわしら集まったんじゃ。だから奴の生き方に反するような真似、わしらには出来ん。それに奴はこんな事で死ぬような男じゃないきに」

「いやいやいや!死んじゃうって、あれ!どう考えても死ぬ!地中に引きずり込まれてる!!」

そんな何の根拠もない楽観的な発言で納得できるほど、新八は甘くはない。

なんだかんだ言いつつ、彼が一番の現実主義者なのだ。

しかし新八がどれほど抗議の声を上げても、陸奥は止まる気配を見せない。

更に攻撃の手を伸ばすべく、大砲の準備を続ける仲間たちへと声を張り上げた。

「潜り込まれる前に仕留めろ!!」

このままでは、坂本は砂蟲もろとも倒れてしまうかもしれない。

それ以前に、砂蟲に地中に潜りこまれれば、いかに坂本であろうと生き続ける事は出来ないだろう。―――彼ならばどんな状況でも生き延びられそうだが、人間である限りは無理に違いにない。

どうしたら・・・と新八が表情を歪めたその時、ガンと鈍い音と共に頼もしい声がその場に響いた。

「確かに辰馬ちゃんは殺しても死なないほど根性図太いけどね」

「こんなもんブチ込むからビビッて潜っちまったんだろーが。やっこさんが寝てたの起こしたの俺らだぜ?大儀通す前にマナーを通せ、マナーを」

大砲に木刀を刺しそう告げる銀時と、珍しく凛々しい表情をしたが、揃って地中へ潜ろうとする砂蟲を見据えている。

そうして船の縁に足を掛けたは、凛々しい表情のままニヤリと口角を上げて。

「そうよ。人の寝起きに付け込んで乗り込んできたかと思えば、強引に歌舞伎町引きずり回し、その上こうして宇宙に連れ出して、しかもその船がハイジャックされた挙句にこうして墜落までしてるのよ。そんな常識どころかまさに世界は自分を中心に回っていますって顔してる辰馬ちゃんにはこれからしっかりとマナーを叩き込んで、世界はお前中心で回ってるんじゃなくて私中心に回ってんだ、コラァ!って教育しなきゃ!!」

がそう言い終えるや否や、銀時とは同時に宙へと身を躍らせた。

「辰馬ぁ!テメェ、星救うとかデケー事吐いてた癖にそれで終わりかぁ!昔からテメーは口だけだ。俺らを見てみろ、俺らを!自分の思った通り生きてっぞー!!」

銀時の声が、新八の耳に、神楽の耳に、そして陸奥の耳に大きく響く。

願わくば坂本の耳にも届いているようにと願いつつ、は力一杯その手を伸ばした。

 

 

「あっはっは〜。そーか。お前も駄目か。まぁ、そう言われるだろうとは思っとったが」

坂本辰馬、旅立ちの日。

彼の申し出をキッパリと断ったに向かい、坂本はそう言って明るい笑顔を浮かべた。

それを見返して、はコクリと首を傾げて小さく笑みを浮かべる。

「あれ?銀ちゃんも駄目だって?」

「おお。やっぱり地球が好きやって言うちょった」

「・・・そっか」

銀時がそう言うだろうとは思っていた。

このまま地球に残っても、坂本と共に宇宙へと出ても、きっと銀時ならば彼らしく生きる事が出来るだろうけれど。

それでも、彼がなんだかんだ言いつつもこの星を・・・そしてこの国を愛しているのを、はちゃんと知っていた。

「んで、お前はこれからどーするがか?」

どことなく嬉しそうに微笑むに、坂本は極めて明るい声色で尋ねる。―――思い返してみれば、彼の沈んだ姿などほとんど見た覚えがないような気がする。

そんな事を頭の隅で考えながら、はもう一度首を傾げて見せた。

「ん〜・・・、まだ決めてない。ま、この優秀な私だったら引く手数多だろうけど」

「あっはっは!そりゃそうじゃ!!」

謙遜など微塵もないの言葉に、しかし坂本は同意するように頷く。

もっとも、坂本には否定する要因は見つけられなかった。

事、対人関係を除いては非常に優秀な彼女は、どんな状況でも生きていく事に不自由はしないだろう。―――ただ、生きるだけならば。

だからこそ心配でもあるのだ。

これから彼女がどんな人生を歩もうとしているのかが。

そんな坂本の心配を知ってか知らずか、はくすくすと楽しそうに笑う。

「ほんとはね。辰馬ちゃんと一緒に宇宙に乗り出すっていうのも面白そうかなって思ったの。確かに天人は好きじゃないけど、金に物言わせて奴らを手玉に取るってのは楽しそうだし

最後の最後でブラックなセリフが聞こえた気がしたけれど、坂本はそれを綺麗にスルーする。

と関わる上で、これはなくてはならない必須条件の一つだった。

「でも、ま。私が宇宙に行っちゃったら、小太郎ちゃんや晋助ちゃんの怪我を治療する人いなくなっちゃうし。最初は一応そのつもりで医療を勉強したんだからね」

「そうじゃの〜」

「それに宇宙に行っちゃったら地球くらい簡単に征服出来ちゃいそうで楽しくないでしょ。やっぱりこういうのはじっくりとやらなきゃ!結果も大切だけど過程も大切だから」

「良い事言うとるように聞こえるが、実際とんでもない事言っとるの〜」

やはり楽しそうに笑うに、坂本も便乗して笑い声を上げた。

もうこの際、笑って流すのが一番だ。―――真剣に考えるだけ無駄な事も、坂本は嫌というほど理解している。

しかし先ほどまで楽しそうに笑っていたは、その笑みを少し趣の違うそれへと変えてゆっくりと空を見上げた。

「・・・それに、私は地べた這いずり回ってる方が似合ってるのよ、結局は」

「あ?何か言ったがか?」

「ううん、なんでも」

不思議そうに問い返した坂本に、は小さく笑ってゆるゆると首を横に振る。

本当に聞こえなかったのか、それとも聞こえないフリをしてくれたのか、それはにも解らない。

しかしそれでいいのだと、そう思う。

それでいいのだ。―――それこそが、坂本辰馬という男の器が大きいところであり、また彼の優しいところでもあるのだから。

大きな口を開けて笑う坂本を見て、も珍しく何も含まれていない微笑を浮かべる。

そんなを見て安心したのか、坂本はポンポンとの頭を軽く叩いて言った。

、お前はまったく持ってデカイ女じゃ。わしの相棒になってくれれば心強かったんじゃがの」

この私を使おうなんて百年早いんだよ、もじゃもじゃ!顔洗って出直して来い」

頭の上に置かれた坂本のその手を捻り上げ、これ以上ないほど綺麗な笑顔を浮かべたに一蹴され、坂本は誤魔化すように更に大きな声で笑う。

しかしここで負けている坂本ではなかった。―――良くも悪くもマイペースな彼は、捻り上げられた手の痛みもなんのその、もう片方の手をの頭へと置いた。

「あっはっは、手厳しいのぅ!ま、わしは諦めん。いつかお前を迎えに来るきに」

「ふふふ。しつこい男は嫌われるわよ、辰馬ちゃん」

お互い笑顔を浮かべながらの攻防に、しかしこの場には2人の他の誰かがいるわけでもないため制止が入る事はなかった。―――もっとも他に誰かいたとしても、止めに入る事が出来る人物など限られてはいたが。

ニコニコと笑顔を浮かべ、もう片方の手を捻り上げようと手を伸ばしたを見下ろして、坂本は小さく微笑む。

案外不器用で、意外に世渡りが下手なこの少女が、どうかいつまでも笑顔でいられるようにと。

たとえそれが心からの笑顔ではなくとも、笑っていれば心が救われる事もある。

笑う門には福来る、ということわざもあるのだから。

「・・・だから、何かあったらわしを呼べ。いつでもわしはお前の味方じゃき」

とうとうが坂本の手を捕らえたその時、坂本は小さな小さな声でそう呟いた。

に聞こえていようと聞こえていまいと関係ない。―――これは坂本の偽らざる、心からの想いなのだから。

しかしその言葉はしっかりとへと届いていたらしい。

坂本の手を捻り上げようと掴んだ少女の小さな手は、しかしそうされる事もないまま。

ただぎゅっと、力強く握り返されて。

「・・・ありがと、辰馬ちゃん」

こちらも小さな小さな声で。

ゆっくりと顔を上げたは、今まで見た事がないほど綺麗な笑顔を浮かべていた。

 

 

「あっはっは!昔の事を思い出したぜよ」

先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まり返った穏やかな砂漠に寝転んで、坂本は相変わらず大きな笑い声を上げる。

命の危険に晒されていたとはとても思えない坂本の様子に、は眉を顰めて・・・しかし安心したように小さく苦笑を漏らした。

「ふふふ。碌な思い出じゃなさそうね。それが最後の記憶にならなくて良かったわね、辰馬ちゃん。大体テメェは私の大切な収入源なんだから、無茶ばっかしてんじゃねーよ

「おお、もちろんじゃ」

の容赦ない毒舌にも、坂本はニコニコと笑顔を崩さない。

彼は解っているのだ。―――どんな物言いをしていても、結局はが自分をとても心配していたという事が。

そしてこの物言いが、彼女の照れ隠しなのだという事を。

「私はもうこれ以上、何も失いたくないの」

そうして、聞こえるか聞こえないかの小さな声で付け加えられたこの言葉が、彼女の一番の本音である事も。

「・・・っとに、厄介な奴らだぜ。テメーらは」

ニコニコと笑い続ける坂本と、どこか憮然とした表情を浮かべているを交互に見やり、銀時は盛大にため息を吐き出した。

こういう時なのだ。―――坂本が器のデカイ男であるのだと思い知らされるのは。

そして坂本はきっと知っている。

何が起ころうとも、どんな危険に見舞われようと、銀時たちが自分に手を伸べてくれるという事を。

そうやって長い時を共に過ごしてきたのだ。

「おい、。そろそろ帰るぞ。ったく、とんだ宇宙旅行になっちまったぜ」

砂漠に寝転がっていた銀時はゆっくりと身を起こし、ダルそうに空を見上げる。

まさか神楽が引き当てた宇宙旅行で、こんな目に合うとは夢にも思っていなかった。

やはりタダより高い物はない、という事なのだろうか。

同じく寝転がっていたも身を起こし、そうして服についた砂を払い落として、大きくため息を吐く。

坂本が尋ねてきた時点で何もないとは思っていなかったが、もう金輪際こんな展開はご免被りたいところだとはそう思う。

「・・・ほ〜んと。これは精神的苦痛の対価として慰謝料がっぽりといただかなきゃ。辰馬ちゃんに言っても仕方ないから、陸奥に相談してこようっと」

さっさと立ち上がって、着物の裾を翻し、みんなが待つだろう宇宙船へと向かい足を踏み出す。

「あっはっは!それだけはやめて。間違いなく殺されるから!〜!!」

背後から聞こえてきた坂本の声に、クスリと小さく笑みを零して。

変わったようで変わっていない自分たちの関係が、どこかくすぐったかった。

 

 

地球へと帰る、快援隊の宇宙船の中で。

「いてててて!うぷっ!!、もうちょっと優しくしてくれんか?病人相手じゃき」

無事なようでいて、それでも傷を負っている坂本の手当てをしながら、は大げさに悲鳴を上げる坂本を認めてあからさまにため息を吐き出した。

「病人って言っても大した怪我じゃないし、大変なのは船酔いの方でしょ。それに私にとっては所詮他人事だし

「ものすごく素直な意見ですけど、それ本人の前で言うような事じゃないんじゃ・・・」

「そうじゃそうじゃ!そういう問題やなか!!」

丁寧という言葉を忘れたかのような治療に、それとなく制止を促す新八の声に便乗するように坂本は抗議の声を上げる。

しかしそれでの手が緩む事はない。

これは散々厄介事に巻き込まれたの、その当事者である坂本に対するささやかな嫌がらせなのだ。―――むしろこの程度で済ませる事に感謝して欲しいくらいだと、は心の中だけでそう呟く。

しかしその想いとは裏腹に、はにっこりと笑顔を浮かべて、もう涙目になっている坂本を見やり躊躇いなく言い放った。

「だって、へばってる辰馬ちゃんを更に地獄に突き落とすの楽しいんだもん

本日一番のいい笑顔で告げられたその言葉に、坂本が怯むのが解った。

そうしてしばらく考え込んだ後、坂本は納得したようにひとつ頷いて。

「・・・な、なら仕方なか」

「そこ!納得するところじゃないからっ!!」

の治療を手伝うという名目で彼女の暴走を止めるべく傍にいた新八が、力の限り突込みを入れる。

この2人は昔からこんな様子だったのだろうか?

だとすれば、よく坂本は今まで五体満足で生き続けて来られたものだといっそ感心しつつ、新八は大きくため息を吐き出し宇宙船の窓の外へと視線を向けた。

そこには思わず目を奪われそうなほど青く輝く、地球という星がある。

さん、坂本さん。地球ってこんなに綺麗だったんですね」

「いたたたたたっ!!、痛い!痛い!!」

「ふふふ。大丈夫よ、辰馬ちゃん。この私にすべて任せておいて!」

感慨深げに呟いた新八の言葉は、しかし情緒など欠片もなく騒ぎ立てる坂本との声にかき消される。

もうすぐ、地球。

宇宙船は滑るように、地球へ向けて走り出していた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

もう、どう終わっていいやら解らず、なんかそれっぽく終わらせていただきました。

坂本は難しい。(だって何を言われてもスルーされそうで)

そして今回もだらだらと長々と続けてしまいました。

いっそ3つくらいに分けようかとも思いましたが、そんな事をするほどの内容でもないと思い返しました。

なんかもう、ほんとうにすみません。(土下座)

作成日 2007.4.26

更新日 2007.12.14

 

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