電柱に張られたこれ以上ないほど存在を主張する張り紙の前に立ち、はかくんと首を横に傾けた。

「・・・白髪の侍へ?」

べったりと貼り付けられたそれを丁寧に剥がし、手の中にあるそれを改めて見詰めて。

そうして傍を通る人々が思わず振り返ってしまうほど無駄に可愛らしく、至極楽しげには微笑んだ。

 

 

傍観者が無害だと思ったら大間違いだ

 

「今日も暑いね、銀ちゃん」

「そうだな〜・・・って、何でお前がここにいるんだよ!ってかいつからそこに!?」

掛けられた声に普通に返事を返した銀時は、しかしその声に主に気付いて勢い良く顔を上げた。

銀時は今、万事屋に来た屋根修理の手伝いの依頼の為、珍しく汗を流しながら働いていた。

本当は新八や神楽に押し付けようとしたのだけれど、ジャンケンの末に銀時が借り出される事になってしまったのだ―――まぁ、そこまでの経緯はいいとして。

見れば屋根の修理をしている銀時同様、ちゃっかり屋根の上に上がり腰を下ろしたがにこやかに愛想を振り撒いている。

一体いつからそこにいたのだろうか?

確かに銀時は今屋根修理に精を出してはいるが、それほど熱中しているわけではない。

寧ろ注意力散漫な彼に気配を気取られないようにその場に現れるなど、そう簡単に出来る事ではなかった―――まぁ、そんな事はにとっては朝飯前だったが。

突然の自分の登場に目を丸くする銀時を眺めて、は楽しそうにクスクスと笑った。

「やだ、さっきからずっとここにいたじゃない。自分の注意力散漫を人のせいにするのは止めてくれる?つーか、私がここに来た時点で気付いてもてなすくらいしたらどうだよ

相変わらずの毒舌も絶好調らしい。

しかしそんなの相手に慣れている銀時は、放たれた暴言をサラリと流して訝しげにへ視線を送る―――いちいちの暴言に反応していてはなかなか話が進まない事を、彼は長い付き合いと経験で身を持って知っていた。

「んで、お前こんなとこでほんとに何してんだよ。もしかして俺に会いに来たわけ?」

トントンと屋根修理をする手を止める事無く、銀時は瓦に視線を戻して問い掛ける。

やっていて楽しい作業では勿論ないが、それならそれでとっとと終わらせたい。

こちらもやはり覇気のない声色で問い掛けた銀時に、は浮かべた笑みを更に深くする。

自惚れんなよ、天然パーマネント!・・・って言いたいところだけど、今日に限っては実はその通りなの。銀ちゃんの事が心配で・・・」

「は!?心配って何が?」

今日もいつも通り口を挟む暇さえないほどのマシンガントークが続くのかと思いきや、予想に反してあっさりと銀時の言葉を肯定したに、銀時の方が面を食らった。

が他人の心配など・・・まぁ、今まで一度もなかったとは言わないけれど―――それでもこの状況で彼女が自分の心配をするという理由に思い当たらない。

攘夷戦争の時のように、命の危険が伴っているのならばともかく、一体何故?

訳が解らず眉間を寄せて自分を凝視する銀時を見返して、は何気ない仕草で手を口元へと当て、言い辛いのか「う〜ん・・・」と言葉を濁した。

「え〜とね、何がって言うか・・・。とりあえず・・・えいっ!」

しかし次の瞬間、何かを考え込む仕草をしていたは、やる気のない掛け声と共に屋根の上に積み重なっていた修理に使う資材を足蹴にした。

「おまっ!何やってんだよ!?お〜い、兄ちゃん危ないよ〜!」

資材は屋根の上という事もあり、勢いをつけて落下していく。

それに慌てて腰を浮かした銀時は、視界の端に人影を認めて、ちょうど資材の落下地点付近を歩く人物に間延びした声をかけた。

「うわぁぁぁぁあ!」

「あ・・・危ねぇだろうがぁぁ!」

直後響く悲鳴と非難の声。

それを耳にしながら疲れたようにため息を吐き出し、事故を起こした張本人であるを横目に見る。

しかしはにこにこと微笑むだけで、言い訳をするつもりもそれをした理由を話す気もないらしい。

そうしてここで問い詰めても無駄だと察した銀時は面倒臭そうに立ち上がり、被害にあっただろう人物を屋根の上から見下ろした。

「だから危ねーつったろ?・・・つーか、やったの俺じゃねーし」

「・・・ふふふ」

とりあえずの言い訳をするも、自分の背後で小さく笑うの声が気になって仕方がない。

今度は一体何を企んでいるのかと半ば呆れつつ考えを巡らせていると、屋根の下から力の篭った抗議の声が上がった。

「もっとテンション上げて言えや!分かるか!」

「うるせーな。他人からテンションのダメ出しされる覚えはねぇよ」

そんな抗議の声さえもサラリと受け流し、どうやら相手はこのまま引き下がってくれる気はないらしいと察した銀時は、やはり面倒臭そうな動作で屋根に掛けたはしごに足を掛け、ゆっくりと下へと降りた。

「テメー・・・っていうか、何やってんだ?」

無事に地面に降り立った銀時は、掛けられた訝しげな声に首を傾げて振り返る。

するとそこにはどこかで見た顔が・・・―――と思った瞬間、それをどこで見たのかを嫌というほど思い出した銀時は、あららと小さく呟く。

「キミ、誰?・・・あ、もしかして多串くん?あらら、すっかり立派になっちゃって」

とりあえず深く関わらない方が身の為だとそう判断し、銀時はふざけた口調で相手に向き直る―――ここにはもいるのだから、せめてこの声を聞いてここにいるのが誰かを察した彼女が逃げ果せるくらいの時間稼ぎは・・・と、自分を睨みつける土方の注意を引くようにヘラリとした笑みを浮かべた。

なんて友達思いなんだと自分で自分を誉めながら土方の相手をしていた銀時は、しかし次の瞬間屋根の上から落ちて来た声に、思わず頬を引きつらせる。

「銀ちゃん、お友達?」

何の警戒も構えもなく、不思議そうに首を傾げるを見上げて、銀時は今の自分の行動の必要性を自分に問うた―――その答えは、残念ながら彼の満足のいくものではなかったけれど。

「いや、友達っつーか・・・って、お前ここにいて良い訳?」

「なにが?」

「なにがって・・・」

呆れを隠す事無く問い掛ければ、はまるで解っていないかのように更に首を傾げる。

本当に解っていないのか、それとも解ってわざとやっているのか、流石の銀時でも今回に限ってはその答えはわからなかったが・・・。

それでも今確かに解っている事は。

「テメェ!この間、桂と一緒にいた女じゃねーか!?」

「ほら、みろ」

銀時と向かい合っていた土方がの姿を見つけてそう怒鳴ったのを見て、銀時は脱力と共にに向かい言い放つ。

とりあえず、厄介事を回避する事はこれで不可能になった。

「ふふふ、こんにちは、多串くん」

攘夷派に属するにとっては天敵である筈の真撰組副長・土方を前にしても、は一切動じない。

それどころかにこやかに手を振りながら挨拶をする始末だ―――勿論、土方をからかう事も忘れずに。

そんなを目いっぱい睨みつけた土方は、今にも刀を抜きそうな勢いで声を上げた。

「多串くんじゃねー!!・・・つーか、ここで会ったのが運のつきだな。お前には聞きたい事がいっぱいあるんだよ」

「聞きたい事?」

どうあっても惚け通す事に決めたらしいが、心底解らないという表情を浮かべて問い返す。

そんなを忌々しげに睨み上げて、土方は這うような低い声色で問い掛けた。

「今、桂の奴はどこにいる!?素直に吐けば悪いようにはしねぇぞ?」

が攘夷志士である事に、彼が気付いているのかどうかは解らない。

あの場面で彼女が吐き捨てたように、今もまだが桂一派に囚われた一般人だという線も捨てきれないのも確かだ―――そこらの一般人にあれだけの度胸と根性と口の悪さが備わっているのかはともかく、近藤の想い人である妙もそう言う意味では一般人とは掛け離れているような気がして、はっきりとした結論が出せないのも事実。

しかし土方は、真相がどうなのかはともかく、が桂とそれなりに仲が良く、それ故に彼の居場所を知っている確立が高いと踏んでいた。

ここで桂の居場所を突き止める事が出来れば、彼の逮捕も夢ではない。

そう思うからこそ脅しを含んだ物言いになるのは止められなかったが、しかしはそんな土方の鋭い眼光すらもあっさりと受け流し、ふふふと可愛らしい笑みを零した。

「もう、多串くんったら。吐かなかったらどうするのか、きっちり聞かせてもらおうじゃねぇか。テメェごときにこの私をどうにか出来るとでも思ってんのか!?おめでたい奴だなぁ、あぁ!?

そうして土方の脅しが通じないどころか、反対に脅しめいた言葉を笑顔で返す。

そんな2人の遣り取りを珍しく無言で傍観していた沖田は、屋根の上に佇む少女に多大なる興味を抱いた。

こいつは面白くなりそうだ・・・と心の中でひっそりと呟き、微かに口角を上げる。

そんな沖田の様子に気付く事もなく、放たれた暴言にますます表情を凶悪なものへと変えていく土方を、やはりはにこにこと可愛らしく微笑みながら見詰めていた。

「なんだと?」

大体安直に人に教えてもらおうって考え方自体が甘いんだよっ!知りたきゃ江戸中這いずり回って自分で調べるくらいしたらどうだよ、マヨラーがっ!

「マヨラーは関係ねぇだろ!つーか、何でお前が俺のマヨ好き知ってんだよ!?」

の暴言に反射的に突っ込んだ土方を横目に、突っ込むところはそこなのか・・・と銀時もまた心の中でひっそりと突っ込む。

段々と話が摩り替わってきているような気がする。

これこそがの思惑なのだろうかとそう思った直後、微笑んだままのが強引に話を元へと戻した。

「そんなに怖い顔しないで。っていうかどうでもいいだろ、そんな事。この私を脅そうなんて百年早いんだよ、タコがぁ!―――なぁんて私が切れちゃわない内に、とっとと用件済ませちゃってね、多串くん」

何度も言うが、見目麗しい少女が笑顔で言う台詞ではない。

しかしの言葉に何かを思い出したのか、土方はハッと目を見開き、手元の紙に視線を落として・・・そうして見比べるように銀時へと視線を移す。

その土方の眼孔が少しづつ開いていく様を目に映し、銀時は今日最大の嫌な予感に襲われた。

 

 

「銀ちゃん、ファイト!」

土方から繰り出される攻撃を何とかかわしつつ、聞こえて来た楽しげな声援に銀時は顔を引きつらせる。

「こら、そこぉ!他人事みたいに傍観決め込んでんじゃねーよ!」

「だって他人事だもの」

「さらっと言うな!止めに入るくらいしてくれたっていいだろーが!」

屋根の上に腰を下ろし、キョトンとした表情で自分を見詰めるに、銀時は声の限り叫ぶ。

あの後、真撰組局長・近藤の敵討ちだと突然切り掛かってきた土方。

最初は何の事だか解らなかった銀時も、攻撃の合間に告げられる説明に数日前の出来事をしっかりと思い出した。

だからといって土方の相手をするなど御免だとひたすら攻撃を避けているのだけれど、相手は一向に諦める様子はない―――それどころか、のらりくらりと攻撃をかわす銀時を見て、更にヒートアップしているようだ。

既に目はヤバイくらい殺気立っており、流石の銀時も危機迫るものを感じ取った。

しかしは介入するつもりは毛頭ないらしく、それどころか2人の遣り取りを至極楽しげに観戦している。

「何言ってるの。こんなにか弱い乙女に、瞳孔開いた危険人物の襲撃に横槍いれろっていうの?どこまでも見下げた奴だな、お前は!グダグダ言ってねーで、潔く面白おかしく死闘繰り広げろよ!あんまりしつこいと、この近辺もろとも爆弾でぶっ飛ばすぞ!

「物騒な事言うんじゃありません!そもそもこの状況招いたのお前だろ!?」

「元はと言えば、種を撒いたのは銀ちゃんでしょう?私はちょーっと水をやって栄養与えただけよ

立派に成長させてんじゃねーよ!なんとかしろ、!!」

から放たれる言動から察するに、彼女は土方の思惑を知っていたらしい。

銀時の前に突然現れたのも、屋根の上から資材を蹴り落としたのも、間違いなく確信犯なのだろう。

昔からこういった騒動をより大きくさせて楽しむ事が、はとても好きだった。

愉快犯であるはかなり性質が悪いけれど、それでも銀時がそれを切り抜けられる事を知っているからこその行動だとも解っている―――だからといって容認できるかどうかはともかくとして。

段々と剣筋が凶暴と化してきた土方の攻撃を紙一重で避けながら、銀時はこれからどうするかを考える。

土方から投げ渡された真剣は手の中にあった―――それでもそれを使う気は銀時にはない。

出来れば騒動を大きくしたの仲裁が欲しいところだけれど・・・。

そう思ってチラリとの様子を窺えば、流石に銀時が可哀想だと思ったのか、少し考える素振りを見せて。

「ん〜。それじゃ、昨日作ったばかりの最新作品を使ってみようか・・・。今までのよりももっとすごい爆発が起きる予定なんだよ。早く試してみたいなぁと思って持ち歩いてて良かった

「いや、すみませんごめんなさい。大人しくそこで見ててくださいさん」

「はぁ〜い!」

にっこりと可愛らしく首を傾げながら楽しげに呟くに、銀時はすぐさま己の浅はかさを思い知った。

あのが、普通に仲裁に入ってくれる筈などないのだ。

やはりここは自分で何とかするしかない。

追い詰められた状況で出した結論は、なんとも無慈悲なものだった。

 

 

土方と銀時の一方的な決闘は、銀時の勝利で幕を下ろした。

銀時に殴り飛ばされ屋根の上に転がっていた土方は、自分の上に影が落ちた事に気付いて閉じていた目を薄っすらと開ける。

するとそこには先ほどまでの楽しそうな笑みとは違う、苦笑交じりのの姿。

「大丈夫、多串くん?」

「いい加減に多串から離れろや。―――土方だ、土方」

ほんの少し心配そうに掛けられた声に、土方はピクリとこめかみをひきつらせつつも、別段声を荒げるでもなくそういい返した―――否、声を荒げなかったのではなく、その気力がなかっただけなのだが。

そんな随分大人しくなってしまった土方の隣にちょこんと腰を下ろして、膝の上に肘をついた手に顎を乗せると、コクリと首を傾げて口を開いた。

別にテメェの名前なんか聞いてねぇよ、つーか興味ねーよ。なぁんて暴言吐いちゃいたいところだけど、自分で勝負挑んどいて刀も抜かない相手に無様にぶちのめされたなんてあんまりにも哀れな人相手にそんな事流石の私でも言えないから、ここは大人しく聞き入れてあげるわ、土方くん」

「言ってんじゃねーか!!・・・つっ!」

解っていても人に言われたくない事を遠慮なく告げられ流石に怒鳴り声を上げたが、その弾みに痛んだ傷に深く眉間に皺を刻む。

切られたわけでもないというのに、これほどにも傷が痛むとは・・・。

脳裏に甦った銀時の姿に、土方は忌々しげに舌打ちする―――それでも勝負を挑む前よりもすっきりとした心境に、脱力したように再び身体の力を抜いた。

「本当に大丈夫?銀ちゃんっていろいろ規格外だから、真正面から挑んだって勝つのは難しいと思うけど。・・・ああいう相手には手段を選ばず、それこそ超強力な爆弾を問答無用でぶち込んだ方が手っ取り早いのよね

そんな土方を相変わらず見下ろしながら、は淡々とそう言葉を続ける。

慰めているのか、貶しているのか、それとも脅しているのか、その言動からは判断が付かない。

それでも銀時がいなくなった今でもここに留まるくらいには自分の事を心配してくれているのかもしれないと、土方は頭の片隅で思った。

「・・・お前な」

寝転んだ体勢のまま、冗談か本気かも解り辛い言動に更に脱力しつつ眉間に皺を寄せて見上げると、は土方の視線に気付いてにっこりと微笑む。

「なんなら傷の手当てでもしてあげましょうか。私こう見えても医術の心得があるの。無免許だけど気にしないでっ!

「するわっ!!」

恐ろしい申し出に、土方は身体の痛みも忘れて突っ込みを入れる。

ありがたい申し出のはずだというのに・・・更に追い討ちを掛けられるような気がするのは果たして気のせいなのか。

そんな土方の返事が不満なのか・・・はぷくりと頬を膨らませ、片手で土方の両頬を挟み摘み上げると、思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な笑みを浮かべて。

「もう!折角この私が珍しく親切心出して手当てしてやるって言ってんだから、つべこべ言わずにさっさと傷口見せろよ!あんまり往生際が悪いと駄目押しに塩擦りこんで再起不能にするぞ、コラァ!!

しかしその笑顔とは正反対の有無を言わせぬ脅しに、土方は声もなく冷や汗を流す。

ここで逆らえば命はないと思わせられるほど壮絶な微笑みに、土方はされるがままの手当てを受けた。

そうしてしばらくの無言の空気の中、「これでよし、と」と小さく呟いた声に土方は恐る恐るを見上げる。

「これで応急処置は済んだから。お大事に、土方くん」

「・・・おう、悪いな」

思ったよりも普通の治療だった事に内心安堵しながら、土方は躊躇いつつも礼を告げた。

そんな土方にチラリと視線を送り、は労わるように声を掛ける。

「まだ痛む?」

「いや、もう全然痛くねぇ。・・・スゲェな、お前」

心配げに掛けられた声に傷跡を確かめてみれば、先ほど少し身体を動かしただけで感じていた痛みが今はもう消えていた。

何をどうしたのかは解らないが、無免許だと言うわりにはいい腕をしている。

例え医者ではなくとも応急処置くらいなら問題もない―――心配そうに自分を覗き込むを見返して、先ほど疑った事をほんの少し申し訳なく思いながらも賞賛の言葉を贈るが、しかし次の瞬間、の顔に浮かんだ妖しげな笑みに土方は思わず身体を強張らせた。

「・・・ふふふ」

「・・・ちょっと、待て。何だその笑いは。まさか・・・」

嫌な予感とともに、背筋に悪寒が走る。

治療過程はちゃんと見ていた。

可笑しな素振りはなかった筈だ。

それでもが浮かべる意味ありげな笑みに、嫌な予感は消える事無く増していく。

そんな様子の土方を見詰めて、は可愛らしい微笑みを向けた。

効果は3日後だから。それ過ぎちゃうと、残念ながら今回は失敗かなぁ?」

「効果ってなんだ!?失敗って何がっ!?」

「それは3日後のお楽しみ。確率的には50%くらいかな?土方くんの運がものすごく良ければ何にも起きないかもね

「何にもって何っ!?しかも50%って、確立半分じゃねーかっ!!」

次々に告げられる物騒な言葉に必死に声を上げるも、には話す気はないらしくただ控えめに笑みを零すのみ。

何をされたのかも解らない為、対処の仕様もない。

運がよければ何も起きない―――では、運が悪ければ?

不吉な考えが脳裏を過ぎり、土方は僅かに身震いする。

「さてと。それじゃ私はもう行くね。銀ちゃんの傷の手当てもしてあげないといけないし」

そんな土方を楽しげな様子で見下ろし、はあっさりと手を振った。

「じゃあね。また会えると良いね」

「不吉な言葉残して消えるんじゃねぇ!!」

止める間もなく颯爽と去って行くの背中を睨みつけて。

今の土方に出来るのは、声の限りそう叫ぶ事以外なかった。

 

 

銀時と屋根の上で戦い、の治療を受けてから4日目。

あれから自分の身体にどんな異変があるのかと、内心恐怖を抱きながら日々を過ごしていた土方は、五体満足な自分に漸く安堵の息を吐いた。

そんな土方の様子を見て、縁側で昼寝を楽しんでいた沖田がやる気のない声色でボソリと呟く。

「でも、あれですねィ」

「なんだ、総悟」

「土方さん相手にも怯まず、なかなか思い通りにならないところなんざ、ジャストミートなんじゃねーですかィ?」

突然訳の分からない事を言い出した沖田に、土方は眉間に深く皺を寄せる。

アイマスクが掛けられた沖田の目は開いているのかどうかも解らないけれど、会話をしているのだから起きている事は間違いないらしい。

「・・・だから、なにがだ」

「しかも、確か顔も土方さんの好みど真ん中でしたっけねぇ」

話の内容が解らず少々苛立たしげに問い掛けた土方は、すぐさま返って来た言葉にピクリと眉を動かす。

ここまで言われて何の話か解らないほど、土方は鈍くはない。

何を馬鹿な事をと言い返そうとして・・・しかし不意に脳裏に甦ったの姿を再確認し、確かに外見は自分好みだと漠然とそう思ったその時。

「案外、惚れちまったとか」

間髪入れず告げられた横槍に、一気に顔に熱が上がる。

「なっ!?んな訳ねーだろ!あんなクソ生意気な女!!」

それでも何とか誤魔化す為にそう声を荒げ、必死に心の中で否定した。

あんな怪我人の手当てをするついでになにかの仕掛けを施すような女に、自分が惚れるわけがない。

確かにああいう気が強い女は嫌いではないけれど・・・―――それにしたって限度があると結論付けるが、時々向けられた明らかに作られた笑みとは違う柔らかな微笑みが脳裏に焼き付いて離れない。

「っていうか、あの人普通に手当てしただけだと思いやすぜ。俺ぁ遠くから見てたが、妖しげな素振りとか一切なかったですぜ」

「おまっ!どこで見てやがった!!」

「ただ単に土方さんが気にしないように・・・と思っただけじゃねーですかい?」

顔を赤く染めて怒鳴る土方など気にする様子もなく、沖田は淡々とそう告げる。

それでも。

例え沖田の言う事が真実であったとしても、自分があんな女に惚れるわけはない。

あくまでもそう言い切る土方に、沖田はつけていたアイマスクを外しながら、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて。

「とかなんとか言って。俺ぁ、知ってるんですぜ。さんに巻いて貰った包帯、後生大事に持って・・・」

「うるせー!!御託並べてる暇あんなら、仕事しろ!仕事!!」

図星を刺され、土方は今にも切りかかりそうな勢いで立ち上がり、沖田に向けてそう怒鳴った。

なんで知ってるんだと心の中で思いながらも、それを顔に出さないように努める。

もし本当にに巻いて貰った包帯をまだ持っている証拠を掴まれれば、今以上にからかいのネタにされる事は間違いない。

ともかく沖田を追い払おうと寝転んでいる彼を追い立てて。

そんな土方の内心を読んでいるのか、それとも今はこれ以上からかうつもりはないのか、素直に身を起こした沖田はダルそうな様子で土方に背中を向ける。

そうして振り返らないまま、最後に一言付け加えた。

「へいへい。ま、せいぜい頑張ってくだせぇ。一筋縄じゃーいかねぇ相手ですがねィ」

「・・・ちっ」

ヒラヒラと手を振りながら去って行く沖田の背中を睨みつけるように見送って、土方は舌打ちと供に深いため息を吐き出す。

そうして懐に収められた包帯を制服の上から確かめ、屯所の外へと視線を向けた。

別に惚れたわけじゃない。

ただこれ以上借りを作らない為にも、次に会った時に返そうと思っているだけだ。

声には出さずにそう呟き、土方もまた仕事に戻るべく自室へと向かった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

真撰組(寧ろ土方)と関わってみよう編。

攘夷派である主人公とは接点が難しいですが、そこは何とかドリーム的展開で。(オイ)

しょっぱなから土方さんの様子が可笑しいですが。(そして沖田の話し方がとても難しい)

今回は沖田には主人公に興味を抱いてもらうだけ。

そのうち仲良しにしたいと目論んではいるのですが・・・どうなる事やら。

作成日 2006.8.8

更新日 2007.9.13

 

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