結局、桂の希望通りに『変である事を恐れるな!変とはつまりオリジナリティーだ!!宇宙で1匹へんてこグランプリ!!』に出場する事になったは、出番を控え舞台裏に待機していた。

「いい、小太郎ちゃん?やるからには、狙うは優勝のみよ」

「うむ」

「たとえそれがどんな勝負であっても、私の辞書に敗北の文字はないわ」

「勿論だ。エリザベスが犬ころごときに負けるはずがない」

妙にやる気になっていると桂の後ろには、のっぺりとした表情を動かす事無く、エリザベスが静かに佇んでいる。

「それじゃ、準備お願いしま〜す」

対戦相手の自己紹介が終わったのか、スタッフが2人を呼びに来る。

それに応えて、桂とは顔を見合わせて1つ頷いた。

 

らない方が幸せな事だってある

 

「は〜い。じゃあ、次の方どうぞ〜」

司会者に誘導されて舞台に姿を現した2人組に、銀時たちは思わず絶句した。

そこには先日見たオバケペンギンと、奇抜な格好をした2人の男女の姿。

そんなある種異様な集団に、しかし司会者は少しも動じる事無くカメラに向かって笑顔で言葉を続けた。

「続いてのへんてこペットは、宇宙生物エリザベスちゃん。そして宇宙キャプテンのキャプテンカツーラさんとさすらいメイドのさんで〜す!」

司会者の紹介に、桂は表情を変える事無く・・・はにこやかに笑みを浮かべて誰にともなくヒラヒラと手を振っている。

そんな目の前の光景に、銀時はすべてを察して僅かに頬を引きつらせた。

「お前、それあん時の服。・・・完全にハマってるぜ、あいつ。指名手配犯のクセにテレビ出てきたよ。出頭してきたよーなもんじゃねーか」

「よっぽどペットが気に入ってるようですね」

「ペットもそうだけど、あの衣装も気に入ってるアル」

最初の衝撃をやり過ごしてしまえば、後に残るのは呆れだけ。

真面目な顔をして淡々とそう推理する銀時たちは、見た事のある格好をしている桂を見て乾いた笑みを零した。

確かにあの時は助かった。―――桂がいてくれて、本当に。

しかしあの時の一部が、まさかここまで後を引くとは・・。

「しかもまで一緒んなって・・・」

ボソリと小さくぼやき、銀時は大袈裟にため息を吐き出した。

あんなにも桂が連れているペットについて愚痴っていたというのに・・・―――どう見てもノリノリなに呆れるべきか、それとも切り替えの早さに感心するべきか。

そんな銀時の心境はさておき、新八と神楽は必要ないほどたっぷりとレースがつけられたヒラヒラの・・・実用性などまるでない、見た目重視のメイド服を身に纏うを見て、再確認したかのようにしみじみと呟いた。

「なんていうか・・・あつらえたように似合ってますよね、さん」

「あれは絶対にの趣味アルよ。さすが、よく似合ってるネ」

確かに・・・賞賛の言葉しか出てこないほど、のメイド服姿ははまっていた。―――それこそ全国の萌えを求める者たちが、ビデオに録画して永久保存版にしてもおかしくないほどに。

同じくレースのついた日傘を肩に乗せて微笑む様は、癒し系として鑑賞するにしては最適だ。―――最も中身を知らなければ、の話だけれど。

そんなの姿に僅かに頬を赤らめながらも、司会者は張り切った様子で番組の進行に務める。

「えー、キャプテンカツーラさん。宇宙キャプテンって要するになんなんですかね?」

要するに宇宙のキャプテンです

「答えになってねーよ!司会の人、困ってるじゃないですか!!」

真顔で言い切った桂に、思わず新八が突っ込む。

しかし司会者はめげる事無く、今度はへとマイクを向けた。―――これ以上桂に質問をしても無駄だと察したに違いない。

「えぇーっと・・・さん。メイドは解るんですけど、さすらいって要するになんなんですか?」

要するにさすらうメイドの事です

にっこりと可愛らしく微笑んで、もまたあっさりとそう言い切った。

あまりに当然のように言うので、一瞬反論の言葉が出てこない。

思わず口ごもってしまった司会者を目に、神楽と新八は揃って同情的な眼差しを向けた。

「あれ、絶対にわざとアル」

「うん。だってさんの笑顔、輝いてるもん」

眩しく輝くの笑顔は、やはりいつも通り底が知れない。

顔に『楽しんでます』と書かれているような気がして、新八は軽く頭痛を覚えた。

しかし司会者はそれにもめげず、番組を進行させるべく懸命に笑顔を浮かべる。―――いつまでもこんな遣り取りを繰り返していれば、番組が成り立たないと判断したに違いない。

「・・・えぇー、あちらの定春ちゃんと対戦し、勝ち残った方が決勝へと進めるわけですが・・・。どうですか、自信の方は?」

強引に話題を切り替え、改めて桂へとマイクを向けた司会者に、桂は横目でチラリと銀時を見やってから、フンと小さく鼻を鳴らして笑った。

「あんなのただのデカイ犬じゃないですか。うちの実家の太郎も、あれくらいありますよ

「んだとぉ、ヅラぁ!てめーのそのペンギンオバケみたいな奴もなぁ、うちの実家じゃ水道の蛇口捻ったら普通に出て来たぞ!!

「バレるから!バレる嘘はやめて!!」

負けじと声を張り上げる銀時に、新八は懇願するように突っ込みを入れる。

馬鹿にされてムッとする気持ちも解らないではないが、飛び出た言動はあんまりといえばあんまりだ。

そんな3人の遣り取りを眺めていたは、口元に手を当てクスクスと楽しげに笑う。

「ふふふっ。すごいのねぇ、2人の実家って」

「違うでしょー!そこ突っ込むとこでしょ、さん!!」

さっきの新八の突っ込みなど軽く無視して確信犯でボケるに、新八はめげずに突っ込みを入れる。

どうしてこんな苦労を僕が背負わなきゃいけないんだと愚痴っても、彼の中にある突っ込み魂がそれを見過ごしてはくれない。

しかし既に肩で息をするほど疲れ果てている新八に追い討ちを掛けるように、先ほど突っ込まれたは心外だと言わんばかりに口を開いた。

「何言ってるの、新八くん。こんな馬鹿げた言い争いにいちいち口挟んでたら疲れるだけじゃない。寧ろ関わって私までお馬鹿だと思われたくないし。つーかこんなくだらねー話題でこの私の貴重な時間を割くんじゃねぇよ。一発で黙らせるぞ、コラァ!んなどーでもいいような質問ごちゃごちゃごちゃごちゃほざいてねーで、速やかに事進めろや、司会者ぁ!!―――なぁんて」

変わらない可愛らしい微笑みのまま吐かれた暴言に、全員がピタリと動きを止めた。

今までざわついていた会場内が、一斉に静まり返る。

そんな周囲の様子を見て、は不思議そうな表情を浮かべながらコクリと首を傾げた。

「やだ、どうしたの、みんな。そんな白昼夢でも見たような顔して」

「いえ、間違いなくさんのせいですから」

まるで何事もなかったかのように振舞っても無駄である。―――勿論は解ってやっているのだから、新八の突っ込みにも怯む事などなかったが・・・。

そうして周囲を見回して、新八は微かな懐かしさを覚える。

確か自分が初めてと会った時も、同じような反応をしていた。―――それが今では平然と突っ込みを入れるのだから、人間変われば変わるものである。

その変化に、段々と自分が一般人から掛け離れていっているような気がして、なんともいえない微妙な心境に、新八は虚ろな眼差しで遠いところを見詰めた。

「そっ、それじゃアピールタイムを終えて対決に移らせてもらいますよ」

しかし司会者は強かった。

ダテにこんな奇妙な番組の司会をしている訳ではない。

どもりながらも、まるで先ほどのの発言をなかった事のようにあっさりと流して、司会者はまたもや強引に番組を進行して行く。

そうして最初の対決の説明に逃げた司会者を視界に映しながら、銀時は気配を消してさり気なくへと近づいた。

「それにしても、お前。よくこの番組に出る気になったな」

不意に自分の傍で囁かれた声に、は日傘で自分と銀時をカメラから隠しながら、自分よりも身長が高い銀時を見上げる。

やはりその顔にはいつも通りのにこやかな笑みが浮かんでいたが、その目が笑んでいない事に彼が気付かない筈もない。

そうして、やはりいつも通りのようでいつも通りではない銀時に、はゆっくりとした口調で意味ありげに問い掛けた。

「どうして?」

「どうしてって・・・テレビに出たら、お前の姿目にする奴だって多いだろ」

銀時が何を言いたいのか・・・それを既に察しているだろうに、それでも彼の口から言わせたいのか、すっ呆けるに呆れた視線を投げかけて。

それでもオブラートに包まれた言葉に、はクスクスと笑みを零した。

「・・・ふふふ、心配してくれてるの?」

「バカ言え。誰が心配なんかするかってんだ。ただ、お前が厄介事に巻き込まれたら、ぜってーに俺にとばっちり来るだろーから牽制してるだけだよ」

至極楽しげに・・・直球で返された言葉に、銀時は照れ臭いのか悔しいのか言葉を濁しつつ乱暴に頭を掻き毟った。

勿論、言った言葉に嘘はない。―――けれどいくら面倒臭いと口にしても、結果的には自分もそれを見過ごす事など出来はしないだろう事も解ってはいる。

そんな銀時の内心を的確に読み取ったは、素直ではない彼の言葉に嬉しそうに頬を緩ませながら、くるりと銀時から視線を逸らし観客席の方へと向き直った。

「大丈夫だよ、銀ちゃん。期待に添えるように、きっちり巻き込んであげるから

「おいっ!」

つーか銀ちゃんが私の手足となって働くのは、もう何十年も前から決まってる事なんだから。頼りにしてるよ、銀ちゃん」

キッパリと言い切られ、更に抗議の声さえも遮られて、銀時は思わず脱力する。

日傘越しに隠されたの表情は見えないけれど、間違いなく微笑んでいるのだろう。

空気からも伝わってくるそれに、安心したような悔しいような。

けれど彼の心境はさておき、それが現実として成り立っている事に違いはなく、銀時は悔し紛れに反論しつつも諦めたように肩の力を抜いた。

「勝手に決めんなっつーの。・・・・・・ま、仕方ねーか」

「そうそう。人間、諦めも肝心だからね」

返って来たの楽しげな鈴の鳴るような声は、司会者の対決を始める合図に掻き消され、銀時以外の人間の耳に届く事はなかったけれど。

 

 

第一対決をエリザベスの圧倒的有利で終えて。

「では、第二対決。対決はこれが最終となり、この対決に勝った方がチャンピョンへの挑戦権が与えられます!」

満足げな桂とは対照的に悔しそうな表情を浮かべる銀時たちは、司会者の高らかな宣言にパッと表情を輝かせた。

「可笑しいだろう、司会者。ではさっきの対決は一体なんだったのだ!?」

その発言に、桂はすぐさま抗議の声を上げる。

それもそうだろう。―――これで対決が決まるのなら、第一対決など全く必要ない。

しかし豪華賞品が遠くなったと思っていた銀時たちにすれば、それは救いの言葉以外の何者でもなかった。

「大人しくしてろ、ヅラ!テレビ側の都合も考えろっ!!」

食いかかるような桂を無理矢理押さえつけ、銀時はしたり顔で桂をそう諌めた。

まるで常識人のような発言ではあるが、そこに下心はしっかりと存在している。

そんな様子で取っ組み合う2人をまたもやサラリと無視して、司会者はカメラに向かって第二対決の内容の説明を始めた。

「私の投げたこのフライドチキンの骨を、先にくわえて持って帰った方が勝ち。飼い主の誘導も結構ですよ」

フライドチキンの骨を片手に説明する司会者を銀時は面倒臭そうに見詰めて・・・いや、実際面倒臭いのだろうが、律儀に説明を聞く桂に向き直った。

「んなまどろっこしー事止めてよぉ、男らしく殴り合いでいこーや」

「望むところだ」

「あれあれ?銀ちゃんってば強気〜!この私に喧嘩売ろうなんて十年早いって事をその身体に思う存分教え込んでやるよ!!

「いや、オメーらじゃねーよ!いい加減にしろよ、オメーら!!」

銀時の物騒な発言に、迷う事無く即答する桂。

そしてそれに便乗し、更に悪乗りするに、新八は青筋を浮かべつつ抗議した。

基本的に彼らはこの番組の趣旨を理解しているのか?

そう問い掛けたかったが、に満面の笑顔で「全然」と返されそうな気がして、新八は自分を落ち着けるように深呼吸する。

しかしそんな新八のささやかな努力すらもぶち破るように、わざと聞こえるような大きな声ではエリザベスに向かい口を開いた。

「い〜い、エリザベス。貴方の価値は今ここで決まると言っても過言じゃないわ。前にも言ったけど、私は役立たずの極潰しを養う気は毛頭ないの。せめて自分の食い扶持くらいがっつり自分で掴み取って来なさい

にとっては、相手が人でもペットでも扱いは変わらないらしい。

ペット相手の大人気ない発言に・・・―――しかしエリザベスが豪華賞品を手に入れられなかったら、ならば確実に実行するだろう事が窺えて、新八は僅かに肩を震わせた。

あまりにもエリザベスが不憫すぎる・・・と、これから対決する相手なのに対して同情すら滲み出てくる。

「エリザベスを脅すな、。そんなに念を押さずとも、エリザベスが負けるはずなかろう」

桂が控えめに諭すが、それでは彼女の決意を覆す事は出来ないだろう。

本当に今更だけれど、桂はよく長い間と共にいられるものだと、同じく破天荒な言動と発言を繰り広げる銀時と共にいる新八はしみじみと思う。

桂に同類だろうと言われても仕方がない状況にいる事に、彼は気付いているのだろうか?

案外、気付かぬ振りをしているだけなのかもしれないけれど。

ともかくも、番組の進行予定通りに最終対決をする事になったエリザベスと定春は、並んでスタートラインに立つ。

飼い主たちからの期待を一身に受けて立つ様は、心なしか輝いてさえ見えた。

「それじゃ、行きますよ〜!位置について・・・よおぉぉぉぉい、ど〜ん!!」

司会者が声高らかに始まりを告げ、フライドチキンの骨が燦然と輝く太陽に向けて放り投げられた。

それを合図にエリザベスと定春は猛然と駆け出し・・・たかに思われたのだけれど。

「あぁ〜っと、これはっ・・・」

号令と共に駆け出した定春は、フライドチキンの骨に気を取られる事なく、一路銀時へ向けて駆け出していた。

「おわぁぁぁぁぁ!!」

銀時の悲痛な叫びが会場内に木霊する。

お約束的に頭から噛み付かれた銀時は必死で逃げ惑い、対する定春は我が意を得たりとばかりに嬉しげに尻尾を大きく振った。

「定春!それ骨じゃない!フライドチキンの骨じゃないから!!」

「バカ、おめっ!あっちだって!!いででででっ!!」

必死に定春の暴走を止めようと新八と銀時が声を上げるが、普段から2人の言う事を全然聞かない当の定春がそれに応じるわけもなく、銀時をオモチャにしはしゃぎまわる。

「定春ちゃん、いきなり逆走して飼い主に噛み付いたぁ!!一体なんなんだ、お前らの関係は!!・・・一方エリザベスちゃんの方は・・・」

「なにっ!?鈍足じゃない!?」

定春とは違い、順調にスタートしたエリザベスは、その短い足からは考えられないほどのスピードで、フライドチキンの骨を目指し爆走する。

見た目とは裏腹なその動きに観客は沸き、定春の暴走で盛り下がった場は一気に息を吹き返した。

珍妙な出場者のせいで番組の存続自体も危ういと思っていた司会者も、これにはテンションも急激に上がる。

「物凄いスピードだ!一見不利だと思われたエリザベスちゃん。すごいスピードで駆けて行く!」

実況にも自然と熱が入り、まさにエリザベスの独壇場と思われたが・・・しかし。

「あれ?気のせいか?一瞬、おっさんの足のようなものが・・・あっ!また見えた!!」

「・・・ふふふ」

カメラに映った思わぬ映像に、司会者は身を乗り出すようにして声を上げる。

テレビカメラにスローモーションで流される映像を見詰め、騒ぎ出す観客たちを他所には悪魔のような笑みを浮かべる。

しかしもはやペットバカと称号を与えられても可笑しくはない桂が、己の愛するエリザベスへの不名誉な発言を黙って見過ごす筈がない。

「言いがかりは止めろ。エリザベスはこの日の為に特訓を重ねたんだ。おっさんとかそんな事言うな!!

「あ、すいません」

すぐさま司会者の背後へと忍び寄り拘束して、脅すように声色低く囁く。

そんな桂の態度に威圧されたのか、それともやはりまだ自分が見たモノが信じられないのか、司会者はあっさりと謝罪し、改めてレースの実況へと戻った。

一方、エリザベスとは対照的に未だスタートすら切れていないような状況の万事屋一同は、窮地に立たされていた。

「どうしよう。もうダメだ!」

未だに飽きる事無く銀時で遊んでいる定春を見上げて、新八はがっくりと肩を落とす。

何度止めに入っても、定春が大人しくなる気配はない。―――元々普段から彼を手懐けているとは言えないのだから、もはや新八はお手上げ状態だ。

しかし。

「まだ諦めるには早いアル!」

突然の頼もしい声に、項垂れていた新八は顔を上げた。

そこには先ほどまで緊張でガチガチに固まり、尚且つADに逃げていた神楽が堂々たる振る舞いで立っている。

そうしておもむろに愛用の傘で銀時の着物の襟首を引っ掛け吊るし上げると、オモチャを奪われた定春の注意を引くようにユラユラと揺らし始めた。

「ほーれほーれ。欲しいかい、こいつが?」

「・・・まさか」

神楽の意味深な発言に、吊るし上げられた銀時の表情が強張る。

嫌な予感が脳裏を過ぎる中、その予感に違わぬ嫌な笑みを浮かべた神楽は、腕に力を込めて銀時を吊ったままの傘を大きく振り切った。

「行けェェェ!」

「うおぉあぁぁぁぁ!!」

神楽の声と共に宙に投げ出された銀時は、そのものすごいスピードに抗う事などできずに雄叫びを上げて一直線にフライドチキンの骨に向かい飛んでいく。

それを見た定春は、フライドチキンの骨を目掛けて・・・ではなく、そちらの方へと飛んでいった銀時を目指して漸く遅いスタートを切った。

「これは坂田さん。定春くんが自分に食いついてくるのを利用して餌になったぁ!!」

しかし本来駆け回るのが得意の定春は、今までの遅れなど感じさせないスピードで駆けて行く。

そうして偶然なのかそれとも狙ったのか、既にフライドチキンの近くにいたエリザベスに体当たりをかまし、銀時は薙ぎ倒す勢いでエリザベスを吹き飛ばす。

これならば勝機はあるかも・・・と淡い期待を抱く新八だったが、勝負は既につきかけていた。

「猛然と駆ける定春くん!しかしエリザベスちゃん、骨に手を・・・」

倒れながらも、短い手をフライドチキンの骨に向けて懸命に伸ばすエリザベス。

その手がフライドチキンの骨に掛けられるかと思われた、その時。

「豪華賞品は渡さん!」

吹き飛ばされて意識を失っていたと思われた銀時が、地面を這うように手を伸ばしていたエリザベスの上に圧し掛かり、その行く手を遮る。

「エリザベスを放せぇ!!」

それに気付いた桂が更に銀時に圧し掛かり、両腕で銀時の首を締めた。

ぎりぎりと音が聞こえてきそうなほどの力で絞められている銀時は苦しそうな表情を浮かべるが、それでもエリザベスから手を放そうとはしない。

そんな奇妙な体勢で静かに攻防を繰り広げていた3人に、漸く追いついた定春が猛然と襲い掛かった。―――銀時の首を絞めている桂に更に圧し掛かり、その頭をがぶりと噛み付く。

一方、定春に噛み付かれた桂はその衝撃に目を見開き・・・そうして小さく笑みを零した。

「ふん、なんだかんだ言ってもご主人様が好きか?だが、それ以上噛み付こうものなら、ご主人様の首をへし折るぞ。さあ、どーする!?」

「どーするじゃねーよ!通じるわけねーだろ!!」

頭から血を流しつつも顔色を変えずそう言う桂に、銀時が渾身の突っ込みを放つ。

そうしてこちらも漸く追いついた新八は、目の前の光景に唖然と立ち尽くした。

色々な意味で恐ろしい光景だったが、しかしその誰もが手を引く気配はない。

何とかしないと・・・と新八が頭を悩ませ始めたその時、静かにレースを傍観していたがフワリとレースが編まれたスカートを翻し、カメラに向かい柔らかく微笑んだ。

「ふふふ、こうやって人は人を蹴落として生きていくのよ。良い子のみんな、この醜くも懸命な男の生き様をよ〜く目に焼き付けてね

「ね、じゃねーよ!本当に良い子のみんなが真似したらどーすんですかっ!!」

笑顔で恐ろしい事をのたまうに、新八は冷や汗を垂らしつつ抗議する。

しかしそんな新八の抗議などが気にするわけもなく、相変わらずのにこやかな笑みのままキッパリと言い捨てた。

「それはそれで面白いっていうか・・・寧ろそんなの私の知った事じゃないし。そんなに心配しなくても大丈夫よ、新八くん。私がこの国を統べる存在になった暁には、誰も私に逆らえないよう徹底的な教育を施して導いてあげるから

「なにドサクサに紛れて恐ろしい事言ってんですか!!あんたが言うと冗談に聞こえねーよ!!」

「だって、冗談じゃないし」

「なお悪いわ!!」

笑顔でサラリと言い切るに、新八は力の限り声を張り上げる。

もう既に彼の頭の中からは、銀時と桂の必死の攻防を止める事さえ忘れ去られていた。

そんな場内でも場外でも発生した騒ぎで賑やかな様子に、司会者は思わず頭を抱える。

このままでは番組の存続自体が危うい。

しかも生放送だけに、どうにか収拾はつけなくては・・・。

そんな事に頭を悩ませている司会者など知る由もなく、銀時たちは必死に相手を蹴落としあい、たちは無意味な言い争いを繰り広げる。

そんな中。

「あ〜、もういいっスわ〜。なんかダルイ。もう帰るんで、ちょっと上どけてもらえます?」

突如その場に響いた声に、今まで騒ぎに騒いでいた一同の動きがピタリと止まった。

その声の発生源を捜して視界を巡らせ・・・そうしてある者以外の全員が驚愕の表情を浮かべる。

「あああああああっ!これはっ!!」

息を吹き返した司会者の驚きの声が、マイクを通して会場内に留まらず、テレビの向こうの人たちの耳に突き刺さった。

ありえない現実に水を打ったように静まり返る会場内。

しかしそんな事など関係がないのか、声の主・・・―――銀時と桂と定春に押し潰されているエリザベスの口から、まるで生えるように両手が姿を現した。

・・・ちっ、根性なしめ

呆然とする人々の中、の小さな舌打ちと暴言が落とされる。

しかし今それに突っ込みを入れられる者も問い質す事が出来る者も、残念ながらこの場にはいなかった。

既に銀時の首から手を放し、呆然と立ち尽くす桂が驚愕とショックに大きく目を見開く。

そうして震える唇から、同じく震えた小さな声が漏れた。

「・・・嘘だろ、エリザベ」

 

 

ぷつん。

そこで音を立てて、すべての映像は途切れた。

ザーと耳障りな音を立てる砂嵐の後、『しばらくお待ちください』というテロップが映された画面は、その後しばらく経っても変化はない。

「・・・なんだったんだ、ありゃ」

「さぁ?」

たまたま暇潰しにテレビを見ていた沖田に無理矢理連れられ、が映っていると半ば強引にテレビの前へと座らされていた土方は、後に残されたなんともいえない疑惑を胸に残したまま、煙草の煙と共にそう呟いた。

 

 

そして、すべては謎に包まれたまま。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

結局エリザベスには何があったのか?(ものっそ気になります)

この回の桂はお馬鹿で可愛くて、ちょっと可哀想で胸がきゅんとなります。(ええ?)

そして主人公のメイド服に果たして意味があったのか?

もうちょっとそれに関して話を広げられなかった事が悔やまれますが。(どうでもいい)

作成日 2006.8.5

更新日 2007.9.21

 

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