それは

深い闇に葬り去られた 語られなかった物語

誰も知らない 誰も気づかない

真実は未だ 闇の中

 

 

プローグ

 

 

「シリウス=ブラックが逃亡した・・・」

「脱獄不可能と言われた、あのアズカバンから・・・」

静かな部屋に、老人の声が響く。

それは重さを伴って、深く深く・・・部屋の底に淀んだまま。

 

 

「魔法省が、吸魂鬼をホグワーツにと・・・」

「シリウス=ブラックは、ハリー=ポッターの命を狙っているのだという」

「『例のあの人』の復讐のために」

部屋に集った面々は、自らが発したその言葉に身体を震わせた。

そのどれもが、恐怖に値するものだった。

『吸魂鬼』・『シリウス=ブラック』・『例のあの人』―――そのどれもが、彼らにとっては忘れたいほど恐ろしいキーワード。

 

 

「どうなさるおつもりですか?」

恐怖に支配されるその空間で、しかしそれに囚われていないような面持ちの厳格な婦人が、ただ沈黙を守りその場を見守る老人へ、そう声をかけた。

問い掛けられた老人は、閉じていた目をゆっくりと開き、自分に集まった視線をしっかりと受け止めて。

 

「ある人物を、ここへ呼ぼうと思う」

 

「ある人物・・・?」

「さよう・・・」

訝しげに聞き返され、老人は揺るぎのない強さを帯びた声色で答える。

 

「吸魂鬼がホグワーツへ派遣されるという事は、魔法省の決定事項じゃ。この件に関しては、わしがその決定を覆す事などできぬ」

老人の言葉に、人々は絶望のため息を零した。

「しかし、だからといって奴らを見過ごす事は出来ん。シリウス=ブラックよりもまず、吸魂鬼の存在の方が、我らにとっては危険極まりないのだから・・・」

それほどまでに、人に恐れられる存在。

決して人と相容れない―――だからこそ、アズカバンの看守と成り得る存在。

 

「それで・・・?貴方が呼ぼうという『ある人物』とは?」

「・・・じゃ」

その人物の名前を聞いた瞬間、その反応は二分した。

ああ、ならば大丈夫だろう―――そう安心する者と。

そして・・・。

「今回の件に彼女を関わらせるのは、最良とは言いかねます」

それを・・・その人物の来訪を、快く思わない者と。

 

「何故じゃ?あの者の実力は、お主も良く知っておろう?」

老人は、今まさに異議を唱えた男を見据え口を開く。

その視線を真正面から受け止め、男もまた口を開いた。

「無論、彼女の実力は良く知っています。だが・・・彼女は危険だ」

 

闇祓いとして、申し分ない実力を兼ね備える者。

確固たる信念を持ち、悪事を良しとせず、何者にも平伏さない孤高の精神を持つ者。

しかし・・・そんな人物でも、譲れないモノがある。

 

「彼女とシリウス=ブラックの関係を知っているでしょう?」

男の言葉に、その場に動揺が走った。

それは、シリウス=ブラックが投獄されて12年経った今も、忘れ去られる事はない。

何よりも・・・本人が、それを忘れていないのだから。

 

男は言った。

『彼女は危険だ』と。

そして老人は、その言葉に隠された意味を汲み取っていた。

『彼女が危険なのだ』と。

命を狙われているという、ハリー=ポッターとはまた違った意味で。

 

「彼女を招く以外に、解決方法はない。これは決定事項じゃ」

終わりの見えない話の中で、しかし老人は強引に決着をつけた。

それに人々は安堵の息を零す。

危険だと言われようとも、彼女が何に囚われていようとも。

それでも求められるほどの実力が、彼女にはあった。

 

未だ納得がいかないとばかりに眉間に皺を寄せる男に視線を向け、老人は薄く目を細める。

「例えどれほど危険だろうと、決着は付けねばならん」

「・・・・・・」

「お主が彼女を心配するのも分かるが・・・あれからもう、12年も経ったのじゃ」

「我輩は・・・」

男は口を開きかけ、しかし思うところがあるのかそのまま口を閉じる。

 

男にも分かっていた。

このままで良い筈がない。

過去に囚われ続けたまま生きる彼女は、なんて痛々しいのだろう。

『信じる絆』はとても綺麗なモノだけれど、それは本当に幸せなことなのだろうか?

疑う余地のない真実を受け入れてしまった時、彼女はどうなってしまうのだろう。

 

「闇祓い・をホグワーツに迎える。異議のある者は?」

老人の言葉に、異議を唱える者はいなかった。

「では・・・」

 

「これは決定事項じゃ」

 

こうして重苦しい雰囲気を纏ったまま、会議は静かに終了した。

 

 

12年の時を経て

物語は再び動き出した。

その先にあるモノは―――希望か、それとも絶望か。

過去に囚われた者たちは、それぞれの想いを抱えて、一体どこへ向かうのか?

真実への道標は、いま静かに輝きだす。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ハリーポッター、『真実への道標』です。

原作3巻を軸に、出来るだけ明るく行きたいと思っています。

主人公は親世代ヒロインの成長後。(←成長後って言うのもどうか?)

お相手はシリウスです。(でも話の都合上、あんまりシリウス出てこないだろうなぁ・・・)

それなりに長くなりそうですが、よろしければお付き合いください。

作成日 2004.4.24

更新日 2007.9.13

 

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