「・・・・・・

「なんだ?」

「一つ・・・聞いてもいいか?」

「・・・だから、なんだ?」

面倒臭そうに答えた私に、セブルスは堪えきれないとばかりに勢い良く立ち上がった。

「何故お前がここにいる。そして何故、のんびりとお茶を飲んでいるのだ!?」

頭上から降ってくる声に答えるように、私は視線だけでセブルスを見上げる。

それから視線をテーブルに戻して、そこにある紅茶とクッキーを目に映した。

「お茶が飲みたかったからだ」

明瞭簡潔に答えれば、セブルスは諦めたのか・・・大きな溜息を吐いて力なく椅子に座り込んだ。

 

一日目の出来事

 

ホグワーツでは、今日からさっそく授業がある。

朝食が終わった後のこの時間にも、当然授業はあるのだ。

そして私の最初の授業は『魔法薬学』ではない。

セブルスがここ・・・地下の彼の自室にいる私に疑問を抱くのも、仕方ない。

「確か3年は初めての選択科目の授業だったな?科目はなんだ?」

文句を言うのを諦めたのか、私と同じように紅茶のカップを口元に運びながら、セブルスはなんでもない事のようにサラリとそう質問を投げかけてきた。

しかしその目には、やはり訝しげな色を含んでいる。

私は彼から視線を逸らして、彼の自室を何気なく見回した。

所々に置かれているもの。―――間違いなく魔法薬学の材料なのだろうが、それに彼らしいと言えばよいのかどうか判断がつきかねる。

勿論地下牢教室と比べれば数もずっと少ないが、こんな部屋で落ち着けるのかどうか聞いてみたい衝動に駆られた。

一応現在は薬を作る事を生業にしているのだから、私の家にも同じようなものは多くあるけれど、やはりそれらは調合室と名づけた部屋にすべて収められてある。

少なくとも寝室や居間に、こんな妖しげなものはない。

無言で問い掛けを流そうと思っていたのだけれど、やはりそうはさせてくれないらしい。

リーマス辺りなら、そこまで深くは追求してこないだろうが・・・。

「ハリーと同じだ。私の仕事内容にはハリーを守る事も含まれているからな」

とりあえず簡潔に返事を返しておく。

まぁ、この程度で追及の手を緩めてくれるとは思っていないが。

案の定、セブルスは更に質問を重ねた。

「・・・何の授業なんだ?」

言葉に導かれるように視線をセブルスに戻せば、真正面から見返される。

ああ、やはり答えないわけにはいかないようだ。

「・・・占い学だ」

自分で言った言葉に、思わず眉間が寄るのを自覚する。

それを自覚したと同時に、セブルスが大きく溜息を吐き出すのが解った。

「そう何度もため息をつくな。だからお前は幸が薄いと言われるんだぞ?」

「・・・大きなお世話だ」

私の言葉に、セブルスは短く言い返すと紅茶を一気に飲み干す。

「私は一度、ホグワーツを卒業している身だ。今さら授業など必要ない」

少しの罪悪感からか、そう言い訳めいた言葉を口にすると、セブルスは驚いたような面白いものを見たようなそんな表情を浮かべた。

解っている。―――私はここに、遊びに来たわけではない。

仕事としてホグワーツに来たのだ。

在学中に授業をサボるのとは訳が違う。―――・・・少なくとも私の中では。

「・・・だが、一応お前は転入生としてここに来ているのだから、ちゃんと授業に出る義務があると思うが・・・?」

私の心境を的確に読み取って、セブルスは少しだけ声を落としてそう呟く。

しかしその声色に、咎める色はない。

「お前の言い分も最もだ、ちゃんと授業には出るさ。だが、トレローニー教授はあまり機転が利くほうではないだろう?それに当たり前だが、私と彼女は面識もある。言ってはなんだが、彼女の場合サラリと私の正体をばらしかねない」

その意見には賛成なのか、セブルスは何も言わなかった。

私が在学中の時にはトレローニーはまだいなかったが、それでも卒業後に何度かホグワーツを訪れた際に会ったことはある。

印象としては、彼女は周りの空気を読むなどという芸当は出来そうにない。―――出来たとしても、それをしそうにないのは確かだ。

のこのこと授業に出て、面白おかしく予言とは名ばかりの正体バラシをされる気は毛頭なかった。

「しかしまだ運が良かった方か・・・。去年はロックハートもいたんだろう?あいつがいれば秘密などあってないようなものだからな・・・」

「・・・そうだな」

アルバスから聞いた話を思い出して話を振ると、セブルスは唸るように1つ頷く。

表情を窺うと、彼の顔には憎しみの感情が溢れんばかりに滲み出ていた。

どうやら苦労したらしい。

去年の事を思い出してか、荒々しくカップを叩きつけるようにソーサーに戻すセブルスを見て、小さく笑みが漏れた。

セブルスは昔から感情が顔に出やすい。―――兎角憎しみの感情は特に。

これ以上このままの状態で放っておく訳にもいかないと思い、私は話題を変える為に再び口を開いた。

「それよりも、どうだ?ホグワーツで教師をやっている身としては・・・?やはり昔とずいぶん変わったか?」

出来る限り柔らかい口調となるよう心がけてそう問い掛けると、我に返ったセブルスは私の顔を見てほんの少しだけ表情を緩める。

「あ・・・、いや。昔とそれほど変わりはない。寧ろ昔よりも居心地がいい位だ」

それは生徒ではなく教授としてここにいるからという意味なのか?

それとも昔とは違い誰も悪戯を仕掛けてくるものがいないからという意味なのか?

「・・・そうか」

「だが、ポッターがこの学校に来るようになってから、何故かいろいろと事件が起こる。さすがヤツの息子といったところか・・・」

やはり憎々しげな声色を取り戻したセブルスに、私は気付かれない程度の小さな溜息を吐いた。―――それが誉め言葉ではない事は、聞かずとも解る。

それはハリーのせいではないだろうと思ったけれど、言えば言ったで尽きることない悪態が返って来るのは容易に想像がついたので、あえて言わずにおいた。

「だがハリーはジェームズたちと違い、悪戯を仕掛けてきたりはしないだろう?」

「・・・悪戯に関しては、ウィーズリーの双子の方が厄介だ」

ふと脳裏に、昨日の宴で知り合ったウィーズリーの双子の顔が甦った。

ああ、彼らか・・・と妙に納得してしまう。

あの行動と言動とテンションの高さから見て、おそらくはジェームズ属性ではないかと思えた。―――そしてそれはおそらく思い過ごしではないのだろう。

過去から今にかけて、相手は違えどいつの時代もいたずらの標的になるセブルスに、心の中だけでひっそりと同情した。

何か・・・悪戯をするものを引き寄せる何かを、彼は持っているのだろうか?

そんな事を考えていると、いつの間に来たのかが私の足元で小さく鳴き声を上げながら擦り寄ってきていた。

「・・・?ああ、そうか・・・ありがとう」

足元の黒猫に視線を向けると、もう一度小さく鳴く。―――伝えられた言葉に、私は軽く頷いてを膝の上に抱き上げた。

「・・・か。懐かしいな・・・」

「そうだろう?お前がに会うのは・・・学生時代以来か?」

「ああ。それ以来だな・・・。それで何かあったのか?」

「大した事じゃない。もうすぐ次の授業の時間だと教えてくれただけだ」

時計を見れば、もうすぐ『占い学』が終了する時間だ。

次は何の授業だったか?―――と頭をひねると、すぐに『変身術』の授業だという事を思い出した。

いくら卒業した身だとは言っても、ミネルバの授業をサボる気にはさすがになれない。

「さて、もう行くよ。美味しい紅茶をご馳走様」

「いや・・・、お前さえ良ければまた来い。その・・・いい気分転換になる」

散々文句を口にしていたセブルスからは考えられないような言葉だ。

「そう言ってもらえると私も嬉しいよ。またお邪魔させてもらおう」

けれどそれを素直に受けて、私は軽く笑みを浮かべて返事を返した。

不器用で照れ屋で思った事を素直に口に出せない性分は相変わらずのようだ。

しかしだからこそ彼から伝えられる言葉に偽りはないのだという事がよく解って、だから嬉しくなる。

こういうところは、実にシリウスに似ていると思う。

まぁそんな事を言えば、セブルスだけでなくシリウスも嫌な顔をするのだろうが。

そう思うと無性に笑みが込み上げてきて、堪えきれずに小さく笑う。

そんな私をやはり訝しげに見返してくるセブルスが可笑しくて、私は更に笑みを深くした。

 

 

少しセブルスのところでのんびりしすぎたせいか、ギリギリになって『変身術』の教室に飛び込んだ私は、すぐさま教室中に広がっている重苦しい雰囲気に気がついた。

「あ・・・こっちよ、!」

「ありがとう。ところで何かあったのか?」

席を取っておいてくれていたハーマイオニーに礼を述べてから、教室の中の雰囲気について聞いてみると、彼女は少し顔をしかめてハリーへと視線を向けた。

見ればハリーもなんだか複雑そうな顔をしている。

怒っているような、だけどどこか不安そうな・・・―――なんともいえない表情。

そしてそのハリーを、教室中にいる生徒という生徒が注目している。

すぐにミネルバが教室に入ってきたので詳しい話は聞けなかったが、彼女が縞模様の入った猫に変身しても誰も反応を示さなかった。

「まったくみんな、今日はどうしたのですか?」

ミネルバがクラスを見回し、最後に私に向かって問い掛けるような視線を送ってきたことに気付いたが、私にもその理由が解らず、彼女に向かって小さく首を横に振った。

その反応を見たミネルバは、困ったように息をつく。

「別に構いませんが、私の変身がクラスの拍手を受けなかったのはこれが初めてです」

その言葉通り、ミネルバが変身を披露すれば大抵の生徒は大喜びで拍手を送る。

私も在学中の時にもちろん見ていたが、その時も生徒たちは(とくにシリウスとジェームズ)が大歓声を上げていた。

「先生、私たち『占い学』の最初のクラスを受けて来たばかりなんです。お茶の葉を読んで、それで・・・」

「ああ、そういうことですか」

みなまで言い終わる前に、ミネルバがウンザリとした表情でハーマイオニーの言葉を遮る。

占い学?

サボっていたのでどんな授業なのか私には解らない。―――トレローニーの性格から察するに、おそらくは根も葉もない予言か何かをしたのだろうが。

「ミス・グレンジャー、それ以上は言わなくて結構です。それで今年は誰が死ぬ事になったんですか?」

教室の中に沈黙が降りる。

ミネルバの言葉で、何があったのか大方想像がついた。

しばらくすると、沈黙を破ってハリーが名乗り出る。

よりにもよってハリーとは・・・―――おそらくはハリーの身の上を知った上で、トレローニーはそんな予言をしたのだろう。

怒りよりも先に、呆れが湧き上がってくる。

「では、ポッター、教えておきましょう。シビル=トレローニーは本校に着任してからというもの、一年に1人の生徒の死を予言してきました。しかし未だに誰も死んではいません。死の前兆の予言をするのは、新しいクラスを迎える時のあの方のお気に入りの流儀です。私は同僚の先生の悪口は決して言いません。そうでなければ・・・」

ミネルバはそこで言葉を濁した。

ああ、去年のロックハートの事と言い、彼女もずいぶんと苦労しているんだろう。―――呑気にもそんな事を思う。

そして改めて占い学の授業に出なくて良かったと心から思った。

授業に出れば間違いなく、正体がばれるような発言をされていただろう。

まぁ、私が授業に出ていればハリーは死の予言などされなかったのかもしれない事を考えれば、手放しでは喜べないが。

「ポッター、私の見るところあなたは健康そのものです。ですから今日の宿題を免除したりはいたしませんからそのつもりで。但しあなたが死んだら提出しなくて結構です」

ミネルバのその言葉に、ハーマイオニーが吹出した。

ハリーも少し安心したようで、明るい表情をしている。

しかしクラスの全員がそれを信じたわけではないようで、まだひそひそと何かを言ってはチラチラとハリーの顔を窺っていた。

私からしてみれば、どうしてそんな予言を信じる気になれるのかが解らない。

やはり占いというものが未知に満ちている神秘的なものだというイメージがあるからだろうか?限られた人間じゃないと未来を読むことなんて出来ないという思いがあるからか?

彼らが予言に関してどのようなイメージを持っているのかは解らないが、本物の預言者などそうはいないし、大抵された予言が当たるなんて経験はしない。

少なくとも、私は今まで本物の預言者に会った事は一度もなかった。

結局ろくな授業も出来ない内に時間は過ぎ、私たちは未だにコソコソと何かを囁きあっている生徒たちから逃れるように、大広間に昼食を取りに向かった。

しかしまだ不安気な表情をしたロンが、食事の最中にハリーに恐る恐る問い掛ける。

「ハリー、君・・・どこかで大きな黒い犬を見かけたりしなかったよね?」

「うん、見かけたよ。ダーズリーのところから逃げた夜に」

恐怖に駆られているロンとは違い、ハリーはあっさりとその事実を認めた。

直後、チャリーンと高い音を響かせて、ロンが持っていたフォークが床に落ちる。

私も思わず食事の手を止めて、ハリーを凝視した。

「まさか・・・まで死神犬を信じてるんじゃないでしょうね?」

それを見ていたハーマイオニーに驚いた様子で聞かれ、私はハッと我に返った。

こちらを睨むように見詰めているハーマイオニーに視線を向けて、苦笑いを浮かべる。

「悪いが、私はそういった非現実的なものに興味はない。自分の目で見たものしか信じない性質でな」

そう否定の言葉を告げると、「そうよね」とハーマイオニーは何故か嬉しそうに呟いた。

それに素早く反応して、ロンが異議の声を上げる。

「死神犬と聞けば大概の魔法使いは震え上がってお先真っ暗なんだぜ!?」

ロンが必死に死神犬について語っていたが、そんな言葉は右から左へ聞こえず流れた。

彼が死神犬を信じていようが信じていまいが、私には関係ない。

ふと気がつけばハーマイオニーとロンは喧嘩を始めていて、そのうちにハーマイオニーは『数占い学』の教科書を取り出し、読み始めた。

知り合ってまだ2日目だが、この2人が喧嘩をしているのを良く見ると思う。

喧嘩するほど仲が良いという言葉は、きっとこの2人にも当てはまるのだろう。

昼休みも終わりに近づき、次の『魔法生物飼育学』の授業の為に外に出てハグリットの小屋に向かう途中、私はこっそりと先を歩くハリーを呼び止めた。

「ハリー、少しだけ頼みたい事があるんだが・・・」

「・・・頼みたい事?」

ハーマイオニーとロンには聞こえないように、小声で話し掛ける。

「さっき言っていた・・・大きな黒い犬を見たという話だが・・・」

「・・・うん」

「できればその話は、私たち以外の人にはしないでほしい」

私の言葉に、ハリーは不思議そうに首を傾げる。

も死神犬のこと・・・気にしてるの?」

「いや、そんなことはどうでも良いんだ」

「じゃあ・・・なんで?」

ハリーが疑問に思うのも当然のことだ。

だがその疑問に答えるには、残念ながら時間も情報も何もかもが足りない。

真実すらもはっきりとしない。―――曖昧な事は口にしたくはなかった。

それでも何も説明しないわけにはいかないだろうと思い、どうやって納得のいく理由を見つけるかと思案していると、ハリーは不思議そうな顔を引っ込め笑顔を浮かべた。

「よく分からないけど、分かった。なんかにも事情がありそうだし、今は何も聞かない事にするよ。でも話せるようになったら話してね?」

向けられる笑顔に、思わず絶句する。

なんて物分りの良い子供なんだと、ハリーを見て思った。

ジェームズと同じ顔をして、けれどジェームズとは明らかに違う。

まさかリリーとジェームズの子供がこんな素直に育つとは、ハリーが生まれた時は想像もしていなかった。

それともこの素直さは、ダーズリー家で育てられたことが大きな要因なのだろうか。

即ち、素直に納得しなくてはならない環境にいたと?

それならば、なんて辛いことか。

「ああ、いつか必ず・・・」

ハリーの笑顔を見返して、私はしっかりと1つ頷く。

いつかすべてを説明できたら良いと思う。

その時にはすべての偽りが消えている事を・・・また昔のような幸せな時が戻ってくる事を、心の底から祈る。

しっかりと約束をして、少し先で2人が付いてきていないことに気付いたハーマイオニーとロンのところに向かった。

「2人で何を話してたんだい?」

不思議そうに尋ねるロン。

私とハリーは少しの間顔を見合わせて、そして小さく笑う。

「「内緒(だ)」」

綺麗に揃った返事に、私とハリーはくすぐったさにもう一度笑った。

 

 

午後の授業は、ハグリットの初の授業である『魔法生物飼育学』。

ハグリットは他と比べて魔法生物にかなり詳しいので、どんな授業になるのかと密かに楽しみにしていたのだが・・・。

「これは・・・また・・・」

目の前に広がる光景に、思わず脱力する。

今私たちの目の前にいる生き物は、ヒッポグリフと呼ばれる魔法生物。

身体は馬のようで、前足や顔は鳥のような不思議な生き物。

確かにヒッポグリフは美しい生き物だと、私自身も思ってはいる。

しかしヒッポグリフはプライドの高い生き物で、少しでも侮辱すると容赦なく攻撃を仕掛けてくるという危険な性質があった。

もちろんハグリットもそれは知っているだろうし、ちゃんと生徒たちに説明をすると思うが、こう言った授業の場合には必ずと言っていいほど人の話を聞かない生徒はいるものだ。

私は嫌な予感に襲われて、慌てて辺りを見回す。

案の定、生徒たちはヒッポグリフに怯えて近づいて来ようとしない。

スリザリンの生徒たちは、マルフォイを筆頭に文句を言い続けている。

ハグリットの説明の後、ヒッポグリフとの接触に誰かを挑戦させようとしていたけれど、勿論名乗りを上げるものは誰もいない。

仕方がないと私が名乗りを上げる前に、ハリーが挑戦すると名乗りを上げた。

さっきの『占い学』のことがあるのでみんなは驚いていたが、ヒッポグリフはちゃんと礼儀を守っている限りそれほど危険な動物ではない。

ハリーならばハグリットの説明をしっかりと聞いているだろうし、その説明を守っている限りは大丈夫だろうと、ハリーに任せることにした。

思った通りで、最初こそハラハラとしたけれど、ヒッポグリフは礼を取るハリーにしっかりとお辞儀をして、その上ハリーを背に乗せて空を一回り滑空する。

それを見ていた他の生徒たちも恐る恐るではあったがヒッポグリフに近づくようになり、ハグリットの初めての授業は成功しそうに見えた。―――が、その直後にマルフォイの叫び声がその場に響く。

「うわぁぁぁ!僕死んじゃう!みてよ、あいつ僕を殺した!!」

全員が視線を向ければ、マルフォイの腕はヒッポグリフの鋭い爪に切り裂かれていた。

その光景は痛々しいが、それだけ大騒ぎしていて死ぬも殺すもないだろうなどと呑気にもそう思う。

どうやらちゃんと説明を聞いていなかったヤツがいたらしい。

おそらくヒッポグリフに何か失礼な事でも言ったんだろうが・・・。

しかし事態が良からぬ方へ向かっている事は、考えるまでもなかった。

ハグリットは慌ててマルフォイを担ぐと、凄い勢いで医務室へと向かう。

それに続いて他の生徒たちも医務室へと向かった。

残ったグリフィンドール生たちは、再びヒッポグリフに恐怖の眼差しを向け、ハリーたちはいい気味だと言ってはいたけれど、その声色には不安の色が混じっている。

私は暴れているバックビークと名づけられたヒッポグリフを宥めるために、ハリーたちの輪から離れた。

「すまないな、バックビーク。あの少年が失礼な事を言ったようだ。腹も立つだろうが、とりあえず今は落ち着いてくれ」

そう声を掛けて嘴を撫でると、まだ少し納得がいかないという様子だったがとりあえずはおとなしくなってくれた。

ヒッポグリフの方が、よっぽど大人だ。

それにしても、初日の授業から怪我人を出してしまうとは。

しかもその相手がマルフォイ家の息子。―――いくらあいつが説明を聞いていなかったとはいえ、厄介なことになりそうだ。

ハグリットが何のお咎めも受けなければ良いが・・・。

アルバスに粗方の説明をしておいた方が良いかもしれない。―――彼がハグリットを疑うなんてことはないだろうから、必要ないとは思うが。

大人しくなったバックビークの嘴を撫でながら、深く溜息を1つ。

ずいぶんと波乱に富んだ一日だったと、まだ今日という日が終わってもいないのにそんな事を思う。

これから毎日こんな日々が続くのだろうかと思うと、考えるだけで疲れてきた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

オリジナルの部分がほとんどありません。

もうほんと本通りに進んだって感じで、面白くもなんともない内容になってしまいました。

辛うじてスネイプとのティータイムを(無理やり)入れてみたり。

作成日 2004.9.7

更新日 2008.3.11

 

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