夜中を少し過ぎた時間。

既に談話室の灯は落とされ薄暗い室内に、1人の少年がいた。

耳に痛い静けさの中、けれど少年はぼんやりとソファーに座ったまま。

まるでこの世の終わりを見てきたかのような、絶望的な目で。

何をするでもなく、ただ俯き何かを堪えるように強く唇を噛み締めて。

 

それぞれの

 

の視線の先にいるのが誰なのか、シリウスは知っていた。

毎日毎日飽きもせず、だけを見詰め続けてきたのだ。―――そんな彼が気付かない筈がなかった。

という人間の存在を認識してから5年。

そして彼女と関わり、会話をし、恋をしてからまだ数ヶ月足らず。

それほど長く恋をしていたとは到底言えないが、しかしその想いが本物だったとは胸を張って言えた。

どうしてあんなに愛想のない女にこれほど惚れてしまったのかと自問しても、答えなど出ない。

けれど気付けばもう、自分ではどうにもならないくらい想いは募っていた。

今まで散々遊んできた自分が。

女なんていくらでも取替えの利く玩具同然だとすら思っていた自分が。

初めて、自分を想ってくれていた少女たちの気持ちを理解した。

その全てが本当に自分を想っていてくれたとは今でも思えないが、少なくとも本気で想ってくれていた少女たちもいた筈だ。

そんな少女たちを手酷く扱ってきた自分の行為に、後悔を感じるほど。

そんな感情を自分に植え付けるほど、の存在は彼の中で大きかったのだ。

ブラック家の長男だという認識もなく。

少女たちが騒ぐほどの容姿にも興味なく。

ただシリウス・ブラックという一人の人間を見てくれた、初めての異性だったから。

だからこそ、シリウスはを好きになったのかもしれない。

告白をしてもその全てがキッパリと断られているという事も聞いていたから、だからこそ勢いで告白してしまった時は落ち込んだけれど。

それでもからはっきりとした否定の言葉はなく、そこにほんの僅かではあるが希望を見出した。

自分の告白を信じてくれていないと解った時も、どうしてかあっさりとそれを認めてくれた時も。

もしかすると、自分を想ってくれる可能性が少しでもあるのではないかと喜んだ。

それなのに・・・。

よりにもよって、が好意を寄せたのが自分ではなく、親友であるジェームズだなんて。

こんな現実が待っているなんて、誰が予想しただろうか。

シリウスにとっては、どちらも大切な存在だ。

が他の誰かを想うのは辛い。―――いっその事その相手を罵倒し殴ってやりたいと思うが、ジェームズ相手にそんな事が出来る筈がない。

そしてシリウスは知っている。

の恋が、決して実る事はないと。

ジェームズの想い人は、ではないのだから。

ふと、はそれを知っているのだろうかと疑問を抱く。

は人の感情には鋭いが、事恋愛面に置いては限りなく鈍い。

もしかすると気付いていないのかもしれない。

そこまで考えて、シリウスは緩く頭を振った。

知らないからといって、どうなるというんだ。―――知ったからといって、変わる事があるのだろうか。

それを知れば、もしかするとは諦めるかもしれない。

諦めれば、自分にも再び希望が・・・。

不意に浮かんだ考えに、シリウスは自分自身が嫌になり握った拳をテーブルに叩きつける。

自分の汚い感情に、反吐が出そうだった。

にも、ジェームズにも、幸せになってもらいたいと思っているのに。

それなのに浮かんでくる考えは、それを否定するものばかりで。

「・・・・・・でも」

けれど、本当はそれを望んでいるのも自分で。

の想いを知って自分が諦められないのと同じように、もまた諦められないかもしれないのに。

ボロボロに傷付いて、そうして自分を見てくれれば良いと思っている自分も確かに存在していて。

相反する思いに、もうどうして良いのか解らない。

「・・・部屋に戻らないの、シリウス?」

グルグルと渦巻く感情を必死に耐えていたシリウスの耳に、唐突に殺したような声が聞こえ勢い良く顔を上げて振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべるリーマスがいた。

「・・・リーマス?」

「酷い顔をしてるよ、今の君は」

呆然と名を呼ぶシリウスに、リーマスは変わらず微笑みを向ける。

一体いつからいたのだろうかと動揺するが、今更隠し立てするほどの間柄でもないと思い直し、シリウスは再びリーマスから視線を逸らし項垂れた。

今は誰の干渉も欲しくない。

せめてこの渦巻く感情を整理出来るまで。

笑って何事もなかったかのように、の前に姿を見せられるようになるまでは。

そんな事、直情型のシリウスには無理だよと、彼の親友たちは笑うのだろうが。

再び項垂れたシリウスを目にリーマスは困ったように微笑むと、彼の願いとは裏腹にゆっくりとした足取りで彼の傍のソファーに腰を下ろす。

静かな談話室に、2つの気配。

けれど部屋には沈黙が重く沈み、居心地は酷く悪く感じられる。

親友と共にいて居心地悪く感じられた事は、今まで数える程しかない。

リーマスはチラリと項垂れるシリウスを横目で見やり、小さく溜息を吐いた。

「・・・部屋にはジェームズがいるもんね」

ポツリと漏れた呟きに、シリウスの肩が大袈裟に揺れる。

それを眺めながら、リーマスは自室にいたジェームズの姿を思い出す。

何があっても明朗快活な彼が、珍しく苦い表情で考え事をしていた。

その理由は定かではないが、シリウスの様子を見ている限り、絡みである事は一目瞭然だ。

そしてジェームズまでもが様子が可笑しいとなれば、原因は1つしか思い当たらない。

リーマスもまた、最近が1人の人物を見つめている事に気付いていた。

がジェームズに恋をしている。

この構図は、リーマスにとっても意外で、今もまだ信じきれない。

何かの誤解なのではないかと思うが、それを自分が聞くわけにもいかなかった。

そしてそれをシリウスに告げたとしても、信じてもらえるかどうかも怪しい。

けれど、リーマスは思うのだ。

は決して、ジェームズに恋をしているわけではないと。

根拠があるわけではない。―――ただの勘と言ってしまえばそれまでだ。

それでもリーマスには、今回の事が誤解だと思う理由もある。

それが、口に出してはいけない事なのだという事も。

「ねえ、シリウス。1人で悩んでいないで、直接に聞いてみたらどうかな?」

だからこそ、リーマスはそう提案するしかなかった。

「・・・聞けるかよ」

「うん、そう言うと思った」

躊躇いがちに返って来た弱々しい声に、リーマスはあっさりとそう返事を返す。

聞くのが怖いと思うのは、仕方のない事だ。

もし予想通りの答えが返って来たら、ショックは今の比ではないのだから。

それでも聞かなければ解決しない事もある。

「僕ね、思うんだ」

シリウスから視線を逸らし、リーマスは何もない宙を見詰める。

気配でシリウスが僅かに顔を上げたことに気付き、ほんの僅かに目を細めて。

悲しげに微笑みながら、言葉を続けた。

はきっと、深い闇の中にいるんだよ」

「・・・闇の中?」

「そう。僕もそうだったから・・・だから解るんだ。彼女からは同じ匂いを感じるから」

リーマスの言葉に、シリウスは微かに眉間に皺を寄せる。

狼人間として、誰にも言えない秘密を抱き苦しんできたリーマス。

その彼が言うのだから、もしかするとそうなのかもしれない。

そう思うが、だからといってがどんな闇を抱いているのか、シリウスには解らない。―――それはリーマスも同様で、もどかしい気持ちで微かに苦笑いを漏らす。

がどんな闇を抱いているのかは、僕にも解らない。彼女は何も話さないから。でも・・・それがを束縛し蝕んでいるのは解るんだ。彼女はきっと・・・」

彼女はきっと、恐れているんだよ。

大切な誰かの存在を作ってしまう事を。

その言葉をリーマスは言葉にせずに飲み込んだ。

それは自分が言うべきことではない。―――他人の闇を語れるほど、自分は自分の闇を人に語れはしないから。

「きっと・・・、なんだよ」

案の定、シリウスは途切れた言葉の先を促す。

けれどリーマスは穏やかに微笑み、彼の望む答えとは別の言葉を紡いだ。

「僕はね、思うんだ。を深い闇の中から救い出すことが出来るのは、きっと君しかいないだろうって」

強制的に摩り替えられた話題に抗議の声を上げる間もなく、シリウスは再び暗い感情に支配され俯いた。

リーマスが自分を励まそうとしてくれているのは、十分に察する事が出来る。

けれどシリウスが今欲しいのは、その場限りの慰めの言葉などではないのだ。

必死に否定されればされるほど、心の中は冷えていく。―――否定の言葉を望んでいるというのに、なんて自分勝手なのだろうか。

「・・・なんでそんな事解るんだよ」

本人でもないのに、そんな事解る訳がない。

言外にそう含ませ苛立たしげに言い返すと、リーマスはクスクスと笑みを零す。

それにムッして顔を上げると、そこには悪戯仕掛け人に恥じない悪戯っぽい笑顔があった。

「確かに僕はじゃないけど・・・。でも解るよ」

「・・・だから、なんで」

「だって、は君を拒否しなかったでしょう?」

文句の言葉を遮られ告げられた言葉は、シリウスが捨てきれなかった希望そのもの。

それだけが、辛うじて自分を支える最後の光だった。

がどういう人間なのかは、一緒にいた僕も知ってる。君も知ってるでしょう?は嘘や冗談を言わない。中途半端に期待を持たせたりしたくないから、どんな告白もきっぱり断ってるんだと僕は思うんだ」

「・・・それは」

「でもはシリウスを拒否しなかった。まぁ、受け入れもしなかったけど。でも少なくとも、は君の事を他の人間とは違う特別な者として認識したんだ」

本人が自覚しているかどうかはともかくとして。

そう付け加えて、リーマスはにっこりと微笑む。

それがただの興味なのか、それとも気紛れなのかは解らない。

ただが、シリウス・ブラックという1人の人間を、彼女の決して広いとは言えないテリトリーに入れたのは確かだ。

それはリリーやスネイプも同様だけれど・・・―――ジェームズや自分たちは、そんな隙間を縫って侵入したに過ぎないのだから。

だからこそを変えられるのは、彼女が自ら受け入れた者以外にはないとそう思う。

「シリウス。ちゃんとと向き合って話してみなよ。ここでこうして悩んでても、解決なんてしないでしょう?」

諭すようにそう言って、リーマスは返事を聞く前に腰を上げた。

そうして呆然と自分を見上げるシリウスに笑みを向けて、そのまま何も言わずに男子寮へと続く階段に足を掛ける。

「・・・リーマス」

「解ったね。ちゃんとと話をするんだよ」

咄嗟に声を掛けるが、リーマスは振り返りもしないまま階段を上って行った。

残されたシリウスは、再び1人きりとなった談話室で溜息を零す。

確かに、リーマスの言う通りだと思った。

そこに自分の希望が含まれている事は否定しないが、それでも彼の言っている事は正しい。

ここで悩んでいても問題が解決しないのは、言われるまでもなく明らかだ。

シリウスがそう結論を出した時、再びどこかでドアの開く音が聞こえた。

そうして静かに階段を下りてくる足音。

リーマスが戻って来たのだろうかと顔を上げて階段を見詰めたシリウスの目に、予想外の人物が映り思わず息を飲む。

「まだ起きていたのか・・・」

耳に心地良く響くのは、彼が誰よりも愛しいと想う人の声。

寝起きだからか普段よりも不機嫌そうな顔をしているが、その人物は間違いなくそこにいて、シリウスを目に映している。

あまりの展開にシリウスは言葉もなく、突然現れたを凝視していた。

 

 

耳元で誰かの声が聞こえた気がして、は薄っすらと目を開いた。

広がる暗闇をその目に映しながら、ゆっくりとした動作で寝返りをすると共に声のした方へと視線を向ける。

そこには闇と同化する己の相棒が、まるで置物のように静かに座っていた。―――金色の眼差しが、射るように注がれている。

「・・・なんだ?」

「にゃー」

小さく唸るように声を掛けると、短く返事が返って来る。

入学祝にとダンブルドアから貰った黒猫は、魔法生物と言われても当初はそこらにいる猫と変わりなかった。

けれどそれなりに長く時を共に過ごすにつれ、少しづつ意思疎通が出来るようになっていた。―――その時は、やはり魔法生物というだけあると感心したほどだが。

そんなが今、談話室へ行けとに語りかけている。―――そこで誰かが待っていると。

は微かに眉間に皺を寄せながら、面倒臭そうに身を起こす。

最近、満足に眠れる事が少なくなっていた。

その原因は少なからず自覚しているが、だからといって問題が解決する訳ではない。

自分ではどうすることも出来ず、今夜も漸くまどろみ始めたという頃になって無理矢理眠りから引き上げられたのだ。―――といえど、多少不機嫌になるのは仕方がない。

少しだけ乱れた髪を直しつつチラリと時計を見ると、時刻はまだ真夜中過ぎ。

こんな時間に一体誰が・・・と溜息を零しつつも、ここで行かなければが黙っていないだろうと渋々重い腰を上げる。

の相棒であるに言伝を頼める人物など、限られている。

本人か、リリーか、スネイプか。

後は彼をに贈った当人であるダンブルドアか、それとも・・・。

「・・・悪戯仕掛け人の誰か、か」

この場合、そう考えるのが自然だろうと結論を出し、念の為に杖を腰に差して部屋を出る。

一体誰が何の用事で自分を呼び出したのか。

気になるところではあるが、そんなものは行ってみれば解る事。

グダグダと部屋で考え込んでいても仕方がないのだ。

下らない話ならば、後々制裁を加えればよいと物騒な事を考えながら、は時間が時間だけに物音を立てないよう気を付けながら階段を降りる。

するとやはりの言う通り、談話室には1つだけ人影があった。

誰だろうと目を凝らすと、その人物が緩慢な動作で振り返る。―――と同時に驚きに目を見開き、ぽっかりと口を開けてそのまま固まってしまう。

そのシリウスの様子に、は訝しげに目を細めて。

「まだ起きていたのか・・・」

しかしそれを悟られないよう、努めて冷静にそう声をかける。

自分を呼び出す言伝をに頼んだのは、シリウスなのだろうか?

けれど今のシリウスの様子を見る限り、とてもそうは思えない。―――今ここにがいる事が意外だと言わんばかりの様子だ。

「・・・?」

「そうだ。他に誰に見える?」

呆然と呟くシリウスを一瞥して、はシリウスの前のソファ・・・ー―――先ほどまでリーマスが座っていた場所に腰を下ろすと、微かに首を傾げて視線を注ぐ。

「お前が私を・・・いや、いい」

呼び出したのかと問い掛ける途中で言葉を切り、は緩く首を横に振る。

キョトンとした表情を浮かべるシリウスを見て、問い掛けるまでもなく呼び出した相手がシリウスではない事は察しがついた。

ならば誰が・・・という疑問は残っているが、そんな事をシリウスに聞いたとしても解る訳がない。

それにには大方の予想はついていた。

を説得しを呼び出す手伝いをさせるなど、リーマス以外に出来るわけがない。

リリーならば雑作もないだろうが、彼女はが部屋を出る時は既に熟睡していた。

誰かの代わりにを呼び出すにしても、あの責任感の強いリリーがそれをに任せて眠ってしまう筈がない。

おそらくは、最近様子が可笑しいシリウスと話をしろという事なのだろう。

何故それを任せるのが自分なのかとは思うが、今のにとってもシリウスと話をする事は無駄な事ではない。―――こんな夜中にする必要もないとは思うが、誰にも邪魔されず人目を気にする必要もないという事を含めば、妥当なところと言えた。

「どうした、シリウス。眠れないのか?」

じっと俯いたまま身体を強張らせているシリウスを見やり、出来る限り優しい声色で声を掛ける。―――とは言っても、そんな風に人を気遣って声を掛けた事がない為、実行できているかは怪しいところだが。

しかしシリウスは何の言葉も返さない。

いつもならば軽口を叩いて人懐こく寄ってくる彼が、今はまるで別人のように静かにそこに佇んでいる。

こんなシリウスを、は知らない。

こんなシリウスを、は見た事がなかった。

「・・・・・・」

どうしたら良いのか解らず、微かに眉を顰めて溜息を零す。

それと同時に顔を上げたシリウスは、鋭い眼差しでを捕えた。

「・・・俺は」

「なんだ?」

「・・・俺は、お前が好きなんだ」

いつもとは違う抑揚のない声で、シリウスは突然想いを告げる。

はそれに驚き微かに目を見開きつつ、困ったように視線を逸らした。

「・・・それは以前にも聞いた」

「何度言ったって良いだろ?俺は、が好きなんだよ」

躊躇いがちにそう返すに、シリウスは吐き捨てるように言葉を続ける。

その切羽詰った声色に違和感を感じたは、逸らした視線をゆっくりとシリウスへと戻し訝しげに眉を寄せた。

しかしシリウスはそんな事すらも気付いていないのか、膝に乗せた両手で頭を抱え込むと唸るように小さな声で呟く。

「だから・・・」

それはまるで祈りのような。

「だから・・・」

それはまるで懇願するように。

「だからジェームズじゃなく、俺を見てくれ」

その悲痛な声に、は痛みを感じたように目を細める。

髪の毛を掴んだ手に更に力を込めて、シリウスはの視線から逃れるように更に俯いた。

どうしても、諦められなかった。

これは仕方のない事なんだと・・・―――諦めようとすればするほど、更に想いは募る。

どうしてこれほどまでに惹かれるのか、自分でも解らない。

けれど心が、ではなければ駄目だと叫ぶ。

熱くなった目頭から零れそうな雫を最後の最後で堪えながら、シリウスはの返答をひたすら待った。

ここで引導を渡されてしまうかもしれないと思いながらも。

それでももうこれ以上、曖昧な態度で過ごす事は耐えられなかった。―――の前で気付いていないふりをし続けるのは、もう限界だった。

もしここでしっかりと振られてしまっても、きっと自分はを諦められないだろうと理解していたが、それでも想い続けることは自由だから。

自分の気持ちだけは、誰にも否定なんて出来ないから。

いつかチャンスが来るかもしれないと希望を抱きながら想い続けていても良いと、今ならそう思える。―――それは今よりも、何倍も辛い事かもしれないけれど。

そんな事をぼんやりと考えていたシリウスの耳に、ソファーの軋む音が聞こえた。

それと同時に絨毯の上を歩く音と、そして・・・―――自分が座るソファーが重みで微かに沈む。

「・・・ブラック、すまない」

すぐ近くで声が聞こえたかと思った瞬間、何か温かい物に包み込まれる。

それがの腕だと解り、堪えていた涙がシリウスの頬を伝った。―――抱きしめられて初めて自分の身体が震えている事に気付き、思わず自嘲の笑みを漏らす。

予想していた答えだったというのに、思ったよりもショックを受けていない自分を意外に思う。

それはもしかしたら、の体温を感じているからかもしれない。

拒否の言葉と共に与えられた温かさは、心地良くて切ない。

どうせ受け入れないのならば、どうしてこんなことをするのだろうか。―――とふと思ったその時、の腕も微かに震えている事にシリウスは気付いた。

「・・・?」

訝しげに顔を上げると、そこには苦しそうに表情を歪めるが。

一体どうしたのかと声を掛けようとしたその時、のシリウスを抱く腕に力が篭り、再びその腕の中に強く・・・けれど優しく拘束された。

それに心地良さを感じながらも、現在の状況を理解できずにシリウスは微かにもがく。

しかしの腕の力は一向に緩む事はなく、漸く彼女の異変に気付いたシリウスは抵抗をピタリと止め、大人しくその腕の中に収まった。

そんなシリウスを腕に抱いたまま、は躊躇いがちに言葉を続けた。

「私は・・・よく解らないんだ」

ポツリと零れたその声に、シリウスは問い掛けるように目だけでを見上げる。

それを受けて、は目を伏せ静かな声色で言った。

「恋愛と友情の違いが・・・2つの『好き』の違いが・・・私には解らないんだ」

ここ最近抱いていた疑問を。

何故ジェームズを見ていたのか。

何故シリウスに謝罪の言葉を告げたのか。

その理由を、はポツリポツリと話し出した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

え?こんな展開で良いの?(オイ)

2話続けて引っ張っておいて、こんな理由で良いんでしょうか?

もっとドロドロをお望みの方は申し訳ありません。

でも私が書けません。ドロドロしたのは好きではないので。

次回は解決編?(って事件じゃないんだから)

作成日 2005.12.25

更新日 2007.11.3

 

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