グリフィンドール生シリウス・ブラックは、同寮生に対する、先日自覚したばかりの恋心について悩んでいた。

いつもと変わりない、グリフィンドール寮談話室にて。

これもまたいつもと変わらず黙々と読書をするの隣のソファーに座り、シリウスはその整った横顔を見詰める。

半ば伏せられた睫は長く、影を落として憂いを含んでいるようにさえ見えた。

いつも無表情なだけに人形のように感じられる時もあるが、だからこそ微かな表情の変化があった時などはガラリと印象が変わったりする。―――まぁ、滅多にそんな場面などお目に掛かれる訳ではないのだが。

「・・・何か用か、ブラック」

じっと見詰めていると、不意にが顔を上げ溜息を吐き出す。

思わず自分の方に顔を向けてくれた事を嬉しく思いながら、シリウスは微かに笑みを浮かべて首を横に振った。

「別に。用がなきゃここにいちゃいけないのか?」

「そういうわけではないが・・・」

言葉を濁しつつも、は少し考え込み読んでいた本を音を立てて閉じる。

そしておもむろに立ち上がり、談話室の入り口へと足を向けた。

シリウスは慌てて声を掛けるが、はチラリと目だけで振り返ると一言。

「そんなに注目されていては、気が散って落ち着かない」

キッパリと言い放ち、言外に付いて来るなという意味を含ませ、静かに談話室を出て行った。―――後に残ったのは、呆気に取られたシリウスのみ。

彼の恋路は、多大に前途多難な様子。

 

ある少年の事情

 

同じくグリフィンドール生リリー・エヴァンスは、親友のについて悩んでいた。

親友のが、最近どうにも厄介な人物に想われているようなのだ。

その厄介な人物というのが、悪戯仕掛け人として有名なあのシリウス・ブラック。

同じようにリリーも彼女の言う厄介な人物の1人に想われているのだが、今の彼女にとってそんなことは些細な事に過ぎない。

問題はの方だと、リリーは考える。

成績優秀・眉目秀麗・スポーツ万能などと、彼女を褒め称える言葉を上げれば切りがないと思うほど自慢の親友ではあるのだが、如何せん彼女は生活能力と交友能力に欠ける。

まぁ、生活能力の方はこの際置いておくとして、問題は後者の方だ。

話し方も放つ雰囲気も堅く、一見すればとっつき難い印象を相手に植え付ける。―――慣れてしまえばそんなにも気にはならないのだが、今のところそこに到達した人間はリリーの知る限り自分とスネイプしかいない。

人の気持ちには敏感で気遣いを忘れないという、外見を見る限りでは意外な所もある。

しかしそれは『人の』という所に重点を置くのであって、自分の事については例外だ。

人の感情には敏感でも、自分の感情や自分に向けられる感情など、はリリーが今まで見た事がないほど鈍感なのだ。

彼女は自分の事について、周りが思わず心配するほど無頓着で・・・―――それは無防備と変換しても支障はないだろう。

だからあれほど傍目から見て解りやすいシリウスの気持ちにも、当然気付いている筈がないとリリーは思った。

そしてもう1つの問題が、先ほども言った厄介な人物について。

シリウスの女癖の悪さは、彼に興味がないリリーも知っている。

毎回連れている女の子は違うし、飽きたらあっさりと捨てる。

なかなか引き下がらない女の子は冷たい言葉で斬り捨てるし、リリーの友達の中にも泣かされた子は少なくない。

それでも彼と付き合いたいという女の子が後を絶たないのが、リリーにとっては不思議で仕方がなかった。

唯一、二股をかけないという所はまだ評価しても良いが(二股をかけないなど当たり前の事のように思えるのに、シリウスがするとそれも美点になるのだから不思議だ)、だからといってそれでシリウスの印象が良くなるわけでもない。―――きっとシリウスが二股を掛けない理由は、ただ単に厄介事に巻き込まれたくないだけなのだろう。

しかしシリウスがに恋心を抱いたと思われる頃から、彼の女遊びが嘘のように止んでいる事もリリーは知っている。

いつもならば告白をされ、その時点での恋人がいなければOKするという話なのだが、ある時期からそれさえも断っているらしいという噂を耳にした。―――有名な人物の噂はこうも簡単に流れてくるものなのだと、その時リリーは感心したほどだが。

それはともかく、まるで嘘のような話だが、少しの間彼を観察している内に、どうやらその噂が真実なのであるということをリリーは知った。

まさか、本気なのだろうか?

現状を見れば本気としか思えない。―――あのシリウス・ブラックが、に話し掛けるだけで身体を固まらせるほど緊張しているのだから。

だからこそ、リリーは悩んでいるのだ。

には幸せになってもらいたい。

普段はあまり表面には出さないが、どこか投げやりに生きている風にさえ思えるを心から愛してくれる者がいれば、彼女も変わるかもしれないと思う。

はそう簡単に人に心を許すタイプでもない為、ある意味アクが強く印象深いシリウスは適任のように思える。

しかし今までの彼の素行上、素直に勧められる訳もなく。

「・・・どうしたら良いのかしら?」

「何がだい?」

が去り、ソファーに座ったまま呆然とするシリウスを眺めながら、リリーが溜息混じりに呟いたその時、唐突に背後から声が掛けられリリーはビクリと肩を揺らした。

口から飛び出そうだった悲鳴を何とか飲み込み、踊る心臓を何とか宥めつつ振り返ると、そこにはにこにこと笑みを浮かべるジェームズが立っている。

その姿を見た途端、リリーの表情が不快げに歪んだのを、ジェームズの隣にいたリーマスは見た。

「・・・何でもないわ」

驚いた事など悟られぬよう冷静に言葉を返すリリーに、しかしジェームズは気にした様子もなく彼女の向かいのソファーに腰を下ろす。―――その動作にリリーの表情が更に歪んだけれど、どうやらジェームズはもう気にしない事にしたらしい。

「そんなつれない事言わないでくれよ、エヴァンス」

「何でもないって言ってるでしょう?私に構わないで」

「う〜ん、それじゃ君が今何を考えていたのか、僕が当ててみようか?」

視線を合わせず素っ気無い態度を示すリリーに、ジェームズはニコリと微笑んだ。

一向に話が噛み合っていないと睨みつけるが、相手は気にした素振りも見せない。

「そうだな・・・。うん、君は今の事を考えていたんだろう」

「・・・・・・」

ジェームズの言葉に、リリーは何も言わずにジロリと睨みを利かせる。

何も返答しないのは図星だと言わんばかりにジェームズが笑むのが、リリーにとっては悔しくて仕方がない。

「やっぱりそうか。いやぁ、実は僕も唯一無二の親友の初恋について色々と頭を悩ませているんだよ」

軽く頭を掻きながら笑うジェームズに、リーマスは声には出さずに嘘つきと毒づく。

リーマスにはジェームズの狙いは解っていた。―――シリウスとをダシに、この期を狙ってリリーとお近づきになろうという算段なのだろう。

リリーはそれを知っているのか知らないのか、ともかくそっぽを向いたまま不機嫌そうな表情を浮かべている。

いっそシリウスよりもジェームズの方が前途多難なのではないかとリーマスは思ったが、しかしシリウスはシリウスで相手にされていないのだから、どっちもどっちかと思い直した。

「ねぇ、エヴァンス。君はシリウスとの事どう思う?意外と美男美女でお似合いじゃないかな?」

「・・・・・・」

「あのシリウスが在り得ない事に本気みたいだし、是非成就してもらいたいんだ」

「・・・・・・」

ジェームズが何を言おうと、リリーは反応を示さない。

それに焦れたのか、ジェームズは小さく溜息を零し、ソファーの背もたれに身体を預け足を組んだ。

「親友の恋を応援するのも、親友の務めじゃないのかな?」

「それは貴方の親友の恋でしょう?私の親友は、彼に恋なんてしてないもの」

溜息混じりに発した言葉に、漸くリリーが反応を示した。

しかしその内容は拒否を表すもので、ジェームズもリーマスも思わず目を丸くする。

「あれ?さっきまであんなに悩んでいたみたいなのに、もう答え出しちゃったの?」

呆気に取られたような声に、リリーは微かに眉間に皺を寄せて初めてジェームズの目をしっかりと見据えた。

「・・・確かに私は、には幸せになって欲しいと思ってる。でもブラックと付き合ったからって、が幸せになれるとは限らないわ」

「それはそうだけど・・・。でもそんな事は、付き合ってみないと解らないよ?」

「そんな事は解ってるわ。でも今現在、はそれを望んでいない。彼女は特別な誰かを必要としているわけじゃないの。―――そんな彼女に、私がそれを押し付けるわけにはいかないわ」

迷いを振り切ったようなキッパリとした口調に、ジェームズとリーマスは揃って顔を見合わせる。

「特別な誰かを必要としてない、か。確かににはそういう所があるね」

誰に向けて言うでもなく、リーマスはポツリと呟いた。

監督生としてと関わるようになって、リーマスはリリーと同じような印象を受けていた。―――人を避けているわけではないが、決して心の奥底にまでは踏み込ませない。

仲の良いリリーやスネイプとて、おそらくはの内面深くにまで踏み込むことは出来ていないのだろう。

リーマスの呟きを聞いたリリーの表情が微かに歪む。

それを見ていたジェームズが、感情の篭らない声色で言った。

「寂しい人なんだね、は」

その言葉にリリーは親友を侮辱されたと思いジェームズを睨みつけるが、反論の言葉は彼女の口からは出てこなかった。

それは、リリーが思っていたことでもあるからだ。

口を開くが喉に何かが詰まったように声が出てこない。―――それを繰り返していたリリーは反論を諦め、大きく溜息を吐き出して脱力したようにソファーに座り込んだ。

何がをそうさせるのだろうか・・・?―――そう考えた事はある。

しかし答えなど出て来る筈もなかった。

は何も語らない。

自分の事については口を閉ざし、そんなから聞き出せた事といえば親が闇祓いであった事と既に亡くなっている事。―――そして今はしもべ妖精と2人で暮らしている事くらいだ。

いつも通り賑やかな談話室のその一角だけ、重い沈黙が落ちる。

誰も何も話さなかった。―――何を話して良いのか解らなかった。

しかしそんな空気を破ったのは、サラリと爆弾を投下したジェームズだった。

「おーい、シリウス!そんな所で固まってないで、を追いかけたら?」

未だが去った談話室の入り口を呆然と眺めながらソファーに座ったままのシリウスに向けて、決して大きくはないがよく通る声を掛ける。

「あ?・・・ああ!」

それに漸く我に返ったシリウスが、勢い良くソファーから立ち上がり反射的にを追って走り出す。

これがあのシリウス・ブラックの姿か・・・と、ジェームズが走り去るシリウスの姿を見送りつつ呆れ返っていると、後を追うように澄んだ声が響いた。

はきっと図書室よ」

その声の主をシリウスが思わず振り返ると、つい先日に近づくなと宣告したはずのリリーが、自分の方をじっと見詰めている。

「今の時間なら、きっと図書室にいるわ」

向けられる視線に動じる事無くそれだけを告げて、リリーは立ち上がると足早に女子寮の階段を駆け上っていく。

それに聞こえないだろうとは思いつつも感謝の言葉を放ち、シリウスは急ぎ足で談話室を飛び出して行った。

残されたジェームズとリーマスは再び顔を見合わせ、苦笑と共に小さく首を傾げる。

「これって、第一関門は突破した・・・って事かな?」

「シリウスが、ね。君はまだまだ道のりは長そうだけど」

「そうじゃなきゃ面白くないだろ?これからだよ、リーマスくん」

肩を竦めるリーマスに、ジェームズはからかうような口調で笑みを浮かべる。

僕は肝心なところで失敗なんてした事ないんだよ。

そう言って余裕の笑みを浮かべるジェームズを、リーマスは呆れた表情で見返した。

 

 

リリーに教えられた通り図書室に飛び込んだシリウスは、マダム・ピンズに睨まれながらも堪えた様子なく、この場にいる筈のの姿を探した。

親友の彼女が言うのだから、間違いなくは図書室にいるのだろう。

疑いもせずそう思い、ズラリと並んだ本棚をひとつひとつ丁寧に確認していく。

そうして課題をする為に備え付けられてあるテーブルなどが並ぶスペースに目当ての人物の姿を見つけたシリウスは、微かに口角を上げて走るスピードを上げた。

今の彼の頭の中に、付いて来るなと言葉には出さないが訴えられた事など、あっさりと抜け落ちていた。

・・・!!」

図書室を追い出されては困ると少しだけ控えめな声での名を呼んだシリウスは、そこにいるのが彼女だけではない事に気付き、あからさまに眉間に皺を寄せる。

よりにもよって、何故と一緒にいるのがあのスネイプなのだろうか。

シリウスの存在に気付いたが重いため息を吐き出し、スネイプが見るからに不快そうな表情を浮かべる。

それを目に映しながら、シリウスは荒い足取りで2人の座るテーブルに近づくと、先ほど静かにと心掛けていた事も忘れ、勢い良くテーブルを叩きつけた。

「・・・ブラック。図書室では静かに・・・」

「何でスネイプがここにいるんだよ!!」

の説教を遮り、彼にとって今一番重要な事柄を口にする。―――そうしていても普段よりも小声なのは、いっそ素晴らしいと言えた。

「僕がどこで何をしようと、貴様には関係ないだろう」

「お前には聞いてねぇよ。俺はに聞いてるんだ!」

苛立ちを含んだ声色で、スネイプに向かい言い放つ。

しかしスネイプの表情にはどこか優越感すら見えて、シリウスの機嫌は更に急降下する。

お互い歯軋りの音さえ聞こえそうなほど睨み合い、威嚇しあう様子を見て、は疲れたように溜息を吐き出した。

「ブラック、一体ここに何をしに来た」

「お前に会いに来たに決まってんだろ!?」

「・・・私に何か用が?」

「用がなくちゃ、お前に会いに来ちゃいけねぇのかよ!!」

キッパリと言われた言葉に、は思わず頭痛を覚え額を押さえる。

どうして最近になって、こうも悪戯仕掛け人たちに懐かれてしまったのだろうか。

嫌なわけではないが、正直時折鬱陶しくもある。

しかし何故か必死な様子が窺えるシリウスに、は珍しく本音を口に出来ないでいた。―――どうして彼は、こうも追い詰められた表情をしているのだろうか。

は広げていた本を閉じ、未だシリウスと睨み合うスネイプに視線を向ける。

「セブルス、悪いが今日はここまでにしておこう。これ以上は無駄だろうからな」

「・・・・・・仕方あるまい」

の申し出に、スネイプは渋々頷く。

ここで引くのは正直面白くないが、確かに彼女の言う通りだと思う。

それ以上に、スネイプはこれ以上シリウスと顔を合わせていたくはない。―――先に一緒にいた自分が引くのは不愉快だが、相手にその気がないことは見るだけで解るので、仕方がないと自分に言い聞かせた。

「では、僕はこれで」

最後にシリウスを一際厳しく睨みつけ、スネイプは静かな足音を響かせて図書室を出て行った。

それを見送ったは閉じた本を抱え、シリウスの存在などまるでないかのような振る舞いで本棚の影へと消える。

「ちょ!待てよ!!」

慌てて追いかけると、ある本棚に持っていた本を戻しているの姿があった。

そこはあまり人に活用されない本ばかりが並んでいる本棚らしく、自分たち以外に人の姿はない。

それを良い事に、シリウスは足音を殺しての背後に立った。

「・・・

小さく名を呼ぶと、がゆっくりと振り返る。

妙に近いその距離にも表情を変える事無く、は無言でシリウスを見上げた。

「もうスネイプと2人で会うのは止めろ」

暫くの沈黙の後、静かな声で告げられた言葉に、は眉を顰める。

「何故、お前にそんな事を言われなければならない。私が誰と何処で会っていようと、私の勝手だろう?」

「俺が嫌なんだよ」

「そんな事、私には関係がない。セブルスは私の友人だ。話していて何が悪い」

淡々とした口調に、シリウスの苛立ちは膨らんでいく。

険しい顔でを見下ろし、強く拳を握り締めた。

「・・・ブラック。お前は一体、何が言いたい?」

の放つ冷静な声に、シリウスの眉間に更に皺が寄った。

「ブラックね。・・・俺はブラックで、スネイプのヤツは名前で呼ぶのか?」

「・・・何か可笑しいか?友人を名前で呼んで何が可笑しい?」

「スネイプが友人!?なら苗字で呼ぶ俺は、お前にとってなんなんだよ!!」

思わず怒鳴りつけ、強く握っていた拳を緩めての肩を本棚に押さえつける。

ガツンと音を立てて本棚に押し付けられたは痛みに顔を歪めるが、シリウスはそれにすら気付かぬ様子でをただ睨みつけた。

そんなシリウスを見て、は戸惑った。

シリウスの様子が可笑しいという事は解る。―――しかし何故可笑しいのか、それが彼女には解らない。

だから彼女は思ったままをシリウスに告げた。

それがシリウスをどれほど傷つける言葉かなど、知らずに。

「お前と私に、特別な繋がりなどないだろう?ただ同じ寮に属する・・・」

その先の言葉を紡ぐ事は出来なかった。

本棚に押さえつけられる力が強まったと思ったと同時に、自分へと落ちる影。

気が付いた時には、唇に何かを押し付けられるような感触と・・・―――そしてすぐ傍にシリウスの顔があった。

目を見開き、自分が今どういう状況にあるのか考えを巡らせるが、なかなか考えは纏まらない。

短いような長いような時間の後、微かに唇が離された事を感じ取ったは、無意識に行動に出ていた。

咄嗟に右手を突き出し、シリウスの首を鷲掴む。

そうして自然に喉仏を押さえると、苦しげに表情を歪ませるシリウスを鋭く睨み上げた。

「・・・何をする」

「・・・ぐっ!」

問い掛け、苦しげにうめくシリウスに気付くと、喉仏に入れていた力を微かに抜く。

激しく咳き込み漸くの肩から手を離したシリウスは、そのまま脱力したように床に座り込み、先ほどとは違う苦しみに表情を歪ませた。

「俺は・・・」

喉仏を押さえつけられたからなのか、それとも緊張のせいなのか。―――シリウスの声は掠れていた。

「俺は・・・お前が好きなんだよ」

苦しげに吐き出された告白に、は軽く目を見開く。

しかしシリウスはそんなに気付く事無く、ただ自分の想いを彼女に向けた。

「俺はお前が好きなんだよ、どうしようもなく。こんな形で告白なんて格好悪ぃけど、でも俺だって初めてでどうして良いか解んねぇんだよ」

に向けていっているのか、それとも自分に向けての呟きなのか。

「・・・私はお前の事を、なんとも思っていない」

「知ってるよ、んな事。でも・・・」

「恋愛に、興味はない」

続けられるだろう言葉を予測して、先手を打つ。

しかしシリウスはそれすらも予想していたのか、自嘲気味に微笑んだ。

「知ってるって。でも・・・俺は諦めるつもりはないんだ」

肯定と否定。

矛盾している筈のそれは、しかしどこか納得してしまうような強さを秘めていて。

戸惑いの表情を浮かべるを見上げたシリウスの目は、強い光を放っていた。

「だから、俺は諦めない」

「・・・・・・」

「俺はお前を手に入れる。俺が今、そう決めた」

キッパリと告げられたその言葉は、不本意な筈なのに不愉快ではなくて。

は真っ直ぐ向けられる視線を見返し、微かに口角を上げた。

「やれるものならやってみろ。無駄だとは思うが」

挑戦とも取れる言葉を残し、シリウスをその場に残したまま、は颯爽とその場を去る。

背後で押し殺したような笑い声が聞こえたけれど、決して振り返らずに。

いつもならば相手が何を言おうと拒否し続ける告白に、何故あんな返答を返したのか自身にも解らない。

ただあの真っ直ぐな瞳が。

自分に注がれる視線が、思いの他心地良かったのは確かで。

今までは心を許した者以外に、必要以上に触れられる事すら拒んでいたというのに。

己の唇に触れたシリウスの唇の感触が、決して不快ではなかったから。

理解不能な己の心を持て余し、は困惑したように眉間に皺を寄せた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

漸く動き出してきました。

これはシリウス夢なので、やっぱり彼に動いてもらわなくてはいけません。

にしても突然過ぎる展開・・・ですか?

鈍い主人公にはこれくらいしなければ解ってもらえないかと思いまして。

そしてやはり無駄に主役2人以外が目立ってたり・・・。(笑)

作成日 2005.12.16

更新日 2007.10.4

 

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