「・・・てやっ!はぁ!!」

いつもは静かな中庭に響くスパーダの声に、掃き掃除をしていたはチラリと横目で彼を見やる。

稽古も終わった自由時間だというのに、彼は剣術の鍛錬に精を出している。―――もっともそれは、が掃除を終えるまでは相手をしてやれないと解っているからかもしれないが。

ざっ、ざっと地面を掃く音に混じって聞こえる、空気を切る音。

いつもは見る事の出来ないスパーダの真剣な表情を見る事が出来る、貴重な時間でもあるのだけれど。

「・・・なんだよ、

一心に剣を振っていたスパーダが、不意にの方へと視線を向けて不思議そうに声を掛けた。

それにハッと我に返って箒を持つ手に力を込める。―――どうやらスパーダを見ていた為に、掃除の手が止まっていたらしい。

「・・・別に、何も」

「何もってこたぁねーだろ?あんなに真剣な顔して見といてよ」

慌てて取り繕うけれど、そんなもので誤魔化されてくれる気はないらしい。

訝しげに眉を寄せたスパーダの言葉に、は困ったように視線を泳がせた。

どうやらこのままはぐらかす事は難しいらしい。

「・・・別に、大した事じゃないんだけど」

「おお、それで?」

「・・・・・・剣術の稽古、楽しそうだなと思って」

ポツリポツリと言い辛そうにそう告げるを見返して、スパーダは思わず目を丸くする。

そんな事を言われたのは初めてだった。

もっとも屋敷の中で彼に積極的に関わろうとする人間など数が知れているのだから、当然といえば当然なのかもしれないけれど。

そうしては今まで、スパーダの私生活に触れてきた事などなかった。

ただこうして中庭で顔を合わせ、スパーダの話を聞き、相槌を返す。

それだけでスパーダは楽しかったし、も楽しそうにしていた。

「・・・お前、剣術に興味あんの?」

持っていた双剣を降ろして、身体ごとと向かい合う。

そうして問い掛けたスパーダに、は戸惑ったように視線を泳がせて。

「そういう・・・訳じゃないんだけど」

「・・・・・・」

「・・・でももしかすると、そうなのかもしれない」

小さく小さく付け加えられた言葉に、スパーダは無意識の内に口角を上げた。

「だったら、俺が教えてやるよ」

「スパーダが?」

「そ。楽しいぜぇ、剣術は!騙されたと思って、お前もやってみろって!!」

本当に楽しそうに笑顔を浮かべるスパーダを見返して、は呆然と彼の顔を見返す。

剣術に興味があるかどうかと問われれば、はっきりと答える事は難しいかもしれない。

自身にも、よく解らないのだ。

ただ1つ言える事は、何故か目が行ってしまうという事。

何故か気になるのだ。―――太陽の光に煌く、あの刀身が。

「な、!」

ぼんやりとした思考を遮るように、スパーダが元気よく声を上げる。

それに我に返ったは、反射的に頷いていた。

スパーダに剣術の教えを請うなど、こうして2人で話しているところを見られる以上にマズい事ではあるのだけれど・・・―――嬉しそうなスパーダの笑顔と、そしてはっきりとしないまでも自分の好奇心には抗えなかった。

「・・・じゃあ、ちょっとだけ」

「おっしゃ!任せとけ!!」

控えめなの申し出に、スパーダは満面の笑みを浮かべながら元気よく声を上げた。

 

 

「・・・おやおや」

稽古の時間になっても一向に姿を現さないスパーダを捜しに来たハルトマンは、目の前の光景にやんわりと笑みを浮かべた。

「違うって!もっと、こう・・・」

「こう、じゃ解らないわよ。もっと具体的に言って」

「だぁから〜、こうだって!」

「こ、こう・・・?」

「そうそう、それ!」

真剣な表情で剣を交える2人。

屋敷の中で死んだように生きていた少年と、路地裏に蹲りながら死と隣り合わせで生きていた少女。

そんな2人は今、お互い笑いあいながら生き生きとした表情を見せている。

「ずいぶんと楽しそうですねぇ」

しみじみと呟いて、ハルトマンは静かに踵を返した。

たまには稽古をお休みしてもいいだろう。

あんなにも楽しそうに笑っている2人の邪魔はしたくない。―――スパーダの笑顔こそが、ハルトマンの望んでいた事なのだから。

「私の勘も、なかなか鋭かったみたいですね」

視界に端に映る少女の笑顔を認めて、ハルトマンは嬉しそうに頬を緩めた。

 

                         好奇心の

 


意外と仲良しな2人と、見守る執事。

作成日 2008.2.14

更新日 2008.9.3

 

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