どうしてこうなったんだろう?

そんな事は、今更考えても遅すぎるのかもしれない。

普段どおり掃除が終わった後、古参のメイドからちょっとした買い物を頼まれたは、素直な返事でそれを引き受けた。

それがどんなに大変な仕事であっても、決して嫌な顔をしたり断ったりしてはいけない。―――それが下働きとして長く勤める秘訣だとは思っている。

もっとも、今回申し付けられた仕事はごく普通の買い物であり、それほど大変な労力を要するものではなかったけれど。

現実逃避さながらにそんな事を考えながら、はチラリと自分の隣を歩く人物へと視線を向ける。

問題は、何故その買い物にスパーダがついて来ているのかという事だ。

まぁ、それも散々押し問答した末の事なので、今更といえば今更だけれど。

自分の不運は、買い物に出るその時にスパーダに見つかってしまった事にあるのかもしれない。

「んで、どこで何買うって?」

「え、ああ。八百屋さんで野菜を少しと、後は・・・」

唐突に声を掛けられ、は慌てて渡されたメモを広げる。

本当はスパーダとこんな風に街を歩きたくなんてなかったのだけれど・・・。―――そうは思うけれど、それは決して口に出してはいけない言葉だとも解っているから、は何も言わずに買い物リストを読み上げた。

別にはスパーダと出かけるのが嫌なわけではない。

貴族にありがちな高飛車なところもスパーダは持っていなかったし、個人対個人でならばとても付き合いやすい人間だろうとそう思う。

けれどスパーダと自分の関係は、あくまで主人の息子と下働きなのだ。

こんな風に連れ立って歩いているところを関係者にでも見られれば、お叱りを受ける事間違いない。―――ベルフォルマ家のご子息を、雑用に連れまわすなんてと。

「なんだ、それだけかよ。んじゃ、さっさと終わらせちまおーぜ」

から買い物リストを聞いたスパーダは、そう言って楽しそうな笑顔を浮かべると強引にの手を引いた。

それに釣られて駆け出しながら、は困ったように眉を寄せる。

もっとも厄介なのは、こうして強引に腕を引かれても嫌だと思えないところなのかもしれない。

誰かに見つかれば大変だと思うのに、この状況を楽しく思っている事なのかも。

そして・・・―――自分に向けられるスパーダの笑顔を、嬉しく思う事が・・・。

「どした、?」

「・・・ううん、なんでもない」

不思議そうに振り返るスパーダを見返して、はゆるゆると首を振る。

こうして強引に引っ張られる事も、自分だけに笑顔を向けられる事も、にとっては初めての事だった。―――自分の腕を掴む、その手の温かさも。

だからは言えない。

この手を放して、と。―――本当はそれを望んでいないと、心のどこかで解っているから。

「まずは八百屋からだな」

「・・・うん、そうだね」

太陽のような笑顔を向けるスパーダに、は困ったように笑い返した。

 

太陽のような君

 


スパーダと一緒に初めてのお出かけ。

作成日 2008.2.14

更新日 2008.9.24

 

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