「・・・

不意に声を掛けられて、は閉じていた瞳を開いた。

ゆっくりと振り返れば、そこには無表情のリカルドが立っている。

「ん〜、どうかした?」

「もうすぐマムートに到着する。そこからテノスへ向かうには戦場を抜けなければならない。―――準備は万全か?」

「もちろん。足手まといになるようなマネはしないよ」

真面目な顔をして問い掛けるリカルドにそう笑いかけ、はゆっくりと踵を返した。

何か問いたげなリカルドの視線をさらりと流して、は遠くに見え始めた活気のある街へと視線を向ける。

「・・・大丈夫か?」

唐突に、リカルドがそう口を開く。

それに弾かれたように振り返って・・・―――そうしてはリカルドを見返し、にっこりと笑顔を浮かべた。

「大丈夫だよ。リカルドが傍にいるからね」

「茶化すな。俺は・・・」

「茶化してなんかないよ。本心だよ、私の」

ムッと眉を顰めたリカルドにもう一度笑いかけて、は遥かなる海へと視線を向ける。

もう、すべては過去の事。

どんなに悔やんでも、どんなに哀しんでも、時が戻る事はない。

そうしてあの時のに、あれ以外の選択肢などなかった。

もしもスパーダにすべてを話せば、彼はきっと怒っただろう。―――そうして父親の元へ怒鳴り込んだかもしれない。

今の彼を見れば現在もまだ家族との折り合いは悪いのだろうが、それでも自分の存在がそれを悪化させるわけにはいかない。

たとえ家族との関係が気まずかろうと、スパーダの居場所はあそこなのだ。

そして自分の居場所があるという事は、当たり前のようでいて・・・けれどとても尊いものだと思うから。

「願いがいつか叶うようにと、今も祈り続けてるからね」

ポツリと漏れた言葉に訝しげな表情を浮かべるリカルドをそのままに、はやんわりと微笑む。

どうか、彼の未来が幸せに満ち溢れているように。

きっとそれは、手に入らないものではないと思うから。

「さ〜てと。それじゃ、気合入れて行きますか」

とりあえず今は、五体満足で戦場を駆け抜ける自分とリカルドの心配の方が最優先だと、は気合を入れて今もまだ不可解そうな表情を浮かべるリカルドへ振り返った。

 

 

そして彼女は、を生きる

 


失ったものと、手に入れたもの。

作成日 2008.2.18

更新日 2008.11.5

 

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