この世に生を受けた事に、理由があるとするならば。

その理由というものは、一体誰が定めるのだろうか?

本人か?それとも周りの人間か?

例えそれを定めるのが誰であろうとも。

それを幸福だと思えない自分に、私は心の底から嫌気が差した。

 

生まれた理由

 

生まれて一ヶ月。

既に私の肉体は人間で言うところの『成人』の域に達している。

それが世間一般から見て『異常』だという事を知ったのは、私の父と呼ばれる人と、母と呼ばれる神から、私と私の一族にかけられた呪いの話を聞いた時だった。

1つは『短命』の呪い。

どんなに長くとも、2年程しか生きられないという。

もう1つは『種絶』の呪い。

人と交わり、子を残す事が出来ないという。

そしてその2つの呪いをかけたのが、朱点童子という鬼なのだという事。

我が家の初代当主は、両親を殺し自らの身体に呪いをかけた朱点童子を倒すべく、神と交わり子を残す事にしたらしい。

そうして何代も何代も交わりを繰り返し、私もまた同じようにしてこの世に生を受けた。

家の・・・そして私の使命は、我らに呪いをかけた朱点童子を倒す事。

そして、忌まわしき呪いを破る事。

つらつらと家の歴史を語る、母と呼ばれる神と家の世話をする任を仰せつかったという、イツ花という少女。

それを黙って大人しく聞いていた私に、すべての説明を終えたイツ花が場を盛り上げる為か明るい口調で私に問うた。

「何かご質問はありませんか?」

ニコニコと笑顔を浮かべるイツ花を見据えて。

「・・・質問?」

「はい!何か疑問がおありでしたら、気兼ねなくお聞きください!」

その言葉に、私は暫し考えを巡らせて。

説明を聞き始めた時から抱いていた思いを、彼女の言葉に甘えて遠慮なくぶつけてみる事にした。

「・・・では。質問ではないけれど、確認を1つ」

「はい、なんでしょう!」

無駄に明るいと思える様子で私の方へ身を乗り出して来たイツ花から、視線を逸らさずしっかりと目を合わせる。

「私は、朱点童子を倒すために生まれてきたのだな?」

そう問いかけた私を、イツ花は驚いたように目を見開いた。

「あの・・・それは・・・」

「良い、気にするな。質問ではなく確認なのだからな・・・」

あまりの驚きぶりに、私はイツ花が気の毒になって強引に話を終わらせた。

「少し1人で考えてくる」

そう言って立ち上がり部屋を出ようとする私を、イツ花が何か言いたそうに見ていたのだけれど、私はそれを無視して部屋を後にした。

イツ花の驚いた顔が、何時までも脳裏に焼きついて離れなかった。

 

 

そのまま屋敷を出て、当てもなく歩き回る。

既に何代も交わりを交わしているからか、どうやら私のような人間はそう珍しい存在ではないらしい。

すれ違う神たちは私を見ると気軽に挨拶をして、そのまま素通りしていく。

それに軽く会釈を返して、私は人気のない場所までやってくると漸く足を止めた。

気にする事無く適当に座り込んで、目の前の池をぼんやりと眺める。

ここは、とても綺麗な場所だ。

光に満ち溢れ、神たちは笑顔を浮かべ、穏やかな時間が流れている。

生まれて間もない頃見せられた下界の様子とは全く違う。―――それもイツ花の話だと、大分復興したらしいが。

その辺に転がっていた石を池の中に投げ入れると、綺麗な波紋を描いて消える。

それを眺めながら、私は先ほどの説明を思い出していた。

冷静を装ってはいたけれど、心の中は見た目ほど冷静だったわけではない。

戸惑いもした。

自分の命が、約2年という短い時間しかないという事。

そして己に課せられた使命。

一族の悲願。

先祖たちも私と同じように生まれ、戸惑い、葛藤し、戦って、そうして死んでいったのだろう。

嫌だと思ったわけではない。

それは拒否する事など叶わないものだったし、また拒否という気持ちを抱くほど私は他の世界を知らない。

普通の寿命を生きて、子供を成し、そして安らかに死んでいく人間たちを知らない。

今の私には、この世界だけがすべて。

呪いを宿し、それを解くために戦う。―――それが今の私にとっての、常識と同じ意味だ。

そう思っているというのに、どうしてこの胸は不安に駆られるのだろう?

朱点童子を倒すために、この世に産み落とされた私。

朱点童子を倒す、その為だけに存在している自分。

殺す事を目的として生まれたという事。

この気持ちはなんなのだろうか?

悲しい?辛い?

馬鹿な・・・。

そんな気持ちを抱くほど、私は幸せというものを知らないというのに。

「なら・・・。なんなのだ、この気持ちは」

解らない。

現実を受け入れているのか、それとも拒否したいのか。

こんな事を考える私は、どこかおかしいのか?

一族の誰も、疑問には思わなかったのか?

そうでないというのなら、誰かこの気持ちがなんなのか教えてくれるだろうか?

同じ使命を背負った、一族の人間の誰かが。

戦いの先に、幸福だったと思える何かがあるのかどうか。

しばらくの間、水面に浮かぶ波紋を見詰めていた私は、小さく息をつくと緩慢な動作で立ち上がった。

考えていても、答えなど出てこないのだ。

答えを出せるほど、私には知識も経験もない。

ともかくも、生きるしかないのだ。

例えそれが呪いによって得た短い生涯なのだとしても、私が今ここに存在している事は事実。―――そして、それだけが揺るぎない真実なのだから。

池に背を向けて、私は屋敷に戻るために足を踏み出した。

2年という短い時間の中で、私は自分の生きた理由を見つけることが出来るだろうか?

 

 

◆どうでもいい戯言◆

俺屍です。

昔やった時、かなりハマりました。

もう一心不乱に黙々とプレイし続けてました。(笑)

お相手は、黄川人です。

一応、全10話予定(なのですがどうなる事か)です。

作成日 2004.7.16

更新日 2008.9.13

 

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