「うわぁ!また雪が降ってきましたよ!隊長、さん!!」

休憩室で今後の事について話し合っていた俺たちに、同じく休憩室で身体を休めていたが嬉しそうに声を上げた。

「・・・雪?」

その声に反応したが立ち上がり、嬉々として窓の外を眺めているの側へと歩み寄る。

「・・・本当だわ」

「まだ11月なのに、今年は早いですよねぇ・・・」

ぼんやりと窓の外を眺めながらしみじみと呟くに、俺は頬を緩ませる。

なんだかんだいって、子供みたいで微笑ましい。

「たくさん積もると良いなぁ・・・」

「隊長!!」

嬉しさを隠し切れないの呟きが耳に届いたのとほぼ同時に、休憩室のドアが勢い良く開かれた。

 

潜入!大帝国劇場

 

「どうしたんだ!?」

休憩室に飛び込んできた隊員のあまりの慌てように、俺は思わず椅子から立ち上がった。

隊員は切れ切れの息を繰り返しながら、強張った表情で俺を見、そしてへと視線を向ける。

一体どうしたっていうんだ?

俺がそう口を開く前に、窓際に立っていたが足早に隊員に近づき、何時もよりも少しだけ緊張した声色で口を開いた。

「何かあったの?」

「あ、ああ。お前に言われた通り、陸軍の基地を張ってたんだが・・・」

「陸軍の基地?」

思わず口を挟むけれど、どちらもそれに対する返事は返してくれない。

気になる事は山ほどあったけれど、それどころじゃなさそうな雰囲気に、俺は黙って話を聞く事にした。

「・・・それで?」

「ああ。陸軍の将校らが、兵を動かしたみたいなんだ!」

「・・・・・・」

隊員の報告に、の目が鋭さを増す。

「おいおい、一体何の話だよ!陸軍が兵を動かしただって!?」

さっきまで黙って聞いていようと思ったのにも関わらず、俺は咄嗟にそう声を上げていた。

寧ろ黙って聞いていられるような話じゃない。

その俺の声を聞いて、漸くは隊員から俺に視線を向けると小さくため息を吐いた。

「隊長にはまだお話していなかったのですが、以前から陸軍内部で不穏な考えを持つ将校たちがいたんです」

「不穏な考え?」

「はい。この日本を、軍が統治すると言う思想です。最もそれらは具体的な内容にまでは及んではいませんでしたし、最初はそれほど気にする必要はないかと思っていたのですが。しかしつい最近になって、その思想が過激になってきていると言う情報を手に入れて、それが真実か否かを判断するために、独断で調査を行っていました」

「・・・・・・」

あまりの話の内容に、俺は思わず絶句した。

独断で調査って・・・。

「・・・・・・どうやって?」

「少し前に、ここを訪れた陸軍の方に・・・悪いとは思いましたが、少しだけ利用させていただきました。彼の話によれば、過激にはなってきているけれど、そこまで具体的に話は進んでいないと言うことだったのですが・・・」

前に月組本部に来た陸軍隊員って・・・―――ああ、もしかしてあの男の事か?

いくら米田司令に勧められたからって、あのが大人しく付いて行くものだろうかと密かに思ってはいたが・・・まさか陸軍の情報源だったとは。

もしかしたら、米田司令もそのつもりでに食事に行かせたとか?

「報告が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。もう少し確かな情報が得られてからと思っていたもので・・・。まさかこんなに早く動き出すなんて・・・」

「まぁ、今更言っても仕方ないからな。問題はこれからどうするか・・・だが」

そこまで言って、言葉を濁す。

どうするか・・・とは言っても、一体どうするべきか。

月組の隊員とて数が少ないわけではないが、それも陸軍に比べれば微々たるモノ。

隊員の数だけじゃなく、権力などから見ても月組が簡単に太刀打ちできるような相手ではない。

チラリと時計を見れば、午前4時50分を少し過ぎた頃。

動き出したのなら、今日中・・・―――しかも夜が明けきる前に全てを終わらせようと考えるだろう事は察する事が出来る。

「そうだな。ともかく米田司令に連絡を・・・」

堅い面持ちで沈黙を守っている隊員にそう指示を出しかけたその時、再び休憩室のドアが勢い良く開いた。

「隊長!!」

「大変だ!!」

休憩室内に飛び込んで来た数人の部下に、俺は嫌〜な予感がした。

この展開で、このタイミングは・・・。

「・・・どうしたの?」

同じく嫌な予感を感じているだろうが、少し身構えた面持ちで飛び込んできた隊員に話を促す。

「太正維新軍と名乗る陸軍の将校たちが、各地で国の要人たちを拘束しています!!」

「綾小路伯爵を始め、警視らも身柄を拘束されちまった!!」

ステレオで響く部下の声に、俺は一瞬意識が遠くなるのを感じた。

あまりの出来事に言葉をなくしたが、チラリと俺に視線を向ける。

ああ、なんかもう・・・こうなっちまった今、俺らに何が出来るってんだよ。

「隊長〜!!」

痛み出した頭を抱えそうになったその時、三度隊員が休憩室に駆け込んでくる。

「今度は何だ!?」

これ以上、一体何があるって言うんだよ!!

思わず声を荒げた俺に、しかし隊員はそれどころじゃないのか・・・―――部屋に駆け込んできたままの勢いで、声を上げた。

「大帝国劇場が、太正維新軍によって襲撃されてます!!」

「なにぃ!?」

「なんですって!?」

俺とが声を上げたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「見事に制圧されていますね」

遠目から大帝国劇場を眺めて、がポツリと言葉を漏らした。

積もった雪は大勢の陸軍兵士に踏みにじられ、ぐちゃぐちゃになっている。

離れていても解るほどはっきりと兵士の姿を確認する事が出来た。

「花組の隊員たちは・・・」

「多分地下司令室に立てこもってるんだろう。未だに連行された様子はないし、立てこもるならあそこが一番だからな」

「そうですね」

双眼鏡から目を離して、肉眼で大帝国劇場を眺める。

「これからどうしますか?」

双眼鏡をに手渡すと、静かな声でそう問い掛けられた。

「そうだな・・・。大神とさくらさんは魔神器もって帝劇を脱出したって言うし・・・多分行き先は花やしきだろう」

「今あそこには、あれがありますね」

「そうだ。だからこそ大神たちは絶対に戻ってくる。だから・・・」

言いながら、視線を大帝国劇場からその周りを囲っている帝防。―――そしていつの間にか設置されてある兵器へと移す。

だから、大神たちが帰ってくる前にあれをどうにかしたい。

本来なら帝劇を守るはずの帝防が、今は俺たちの妨げになっている。

それに加えて謎の機械。―――さっき調べたところによると、近づくだけで電撃が放たれる仕組みらしい。

まぁ、両方を短時間で何とかするのは無理そうだが、せめてどちらかを解除・無効化したい。

それにはまず・・・どうやって帝劇に侵入するか、だが。

「帝防が展開されてるとなると・・・侵入はかなり難しいな」

ぼりぼりと頭を掻いて、ため息を吐き出す。―――ため息は白い気体になって空気に溶けていった。

しかし気落ちした俺とは対照的に、双眼鏡を覗いていたはそれを目から外すと微かに笑みを浮かべる。

「そうでもありませんよ」

「は?」

「侵入方法が、無い事もありません」

にっこりと微笑むに、俺は背筋に寒気が走った気がした。

これは外が寒いからじゃ、決してない(と思う)。

「確かに帝防が展開されていれば、地上からの侵入は難しいでしょう。しかしそれは地上からであって、地下も同じとは言えません」

「・・・地下?」

自信を含ませた声色で言葉を続けるに、俺は小さく首を傾げた。

確かに帝防は地下までその勢力を広げているわけじゃない。―――広げているわけじゃないが、地下は地下でそれよりも更に監視は厳しい。

何せ地下は光武が収納されてあったり司令室などがある、所謂帝劇の心臓部なのだ。

警備がそうそう甘いわけが無い。

「先年のミカサ発進に伴う帝劇の改装工事の際、警備に穴を見つけました。まぁ、それほど大した物ではないので、そのままになっていましたが・・・。少々入り組んでいて狭いため移動は困難になりますが・・・そこからなら大帝国劇場に侵入できるはずです」

再び双眼鏡で帝劇周辺の様子を窺いだしたを見詰めて、唖然とする。

「お前・・・一体いつの間にそんな情報・・・」

「隊長は海軍の演習に出られていたので、知らないだけですよ」

浮かんだ疑問に、あっさりとした返答が帰ってくる。

本当にそれだけか?

とか問い返したかったが、それをしている場合ではない事を思い出して言葉を飲み込む。

まぁ、仕方ないか。

「それしか道が無いなら、そこを使う以外ないな」

そう結論を出した俺に、は満足そうに微笑む。

これじゃあ、どっちが隊長だか解りゃしないな。

 

 

「隊長。後少しですから、頑張ってください」

「あ・・・ああ」

聞こえてくるの声を聞き流しながら、俺は狭い通路を必死に這っていた。

目の前には眩い程の光。―――の言う通り、出口はすぐそこのようだ。

っていうか、はともかくこの通路は俺には狭すぎる。

何処をどう通ったのかも、ここを出たら何処に辿り着くのかも今の俺には解らない。

ただに先導されるまま、マンホールから地下道に入り、やたら狭い通路を抜け、加えて通風孔を縦横無尽に這いまわった。

普通に歩いたり走ったりするより、こういう無理な体勢でいる方が実はずっと疲れるんだ。

それでも何とか前へと進み通風孔から上半身を出した俺は、そのまま落ちそうな勢いで先に部屋に降り立ったの隣へ着地した。

「大丈夫ですか、隊長?」

「いたたたた・・・まぁ、なんとかな」

着地の際、思いっきり打ちつけた腰が痛かったが、そんな情けない事をに言えるはずも無い。

「それよりも・・・ここは何処なんだ?」

キョロキョロとあたりを見回しながらに聞いてみる。―――見たところずいぶんと薄暗いが・・・。

「ここは大道具部屋です。舞台の裏にある・・・」

「ああ。前に俺が大神に会ったところだな?」

ずいぶん前に大神に会いに来た時に使った場所だと思い出す。

そう言われれば、何に使うのか解らないような板や木材、それに書き割りなんかが置いてある。

その中に、俺にも見覚えのある書き割りを見つけて少しだけ笑みが零れた。

それは俺が大神に会った時に、演出として使った海の書き割り。

「懐かしいなぁ・・・」

「懐かしがっている場合じゃありません、隊長」

思わずポロリと言葉を漏らすと、鋭いツッコミが返って来た。

確かにそんな場合じゃないなと思い直して、俺は漸く床から立ち上がる。

「ともかく、無事に潜入には成功したわけだ」

「そのようですね」

「なら、次は・・・」

ゆっくりと舞台袖まで移動して、そこから辺りの様子を窺う。

ここから見える範囲には、陸軍兵士たちの姿はないようだ。

「次は大神に連絡を取らないとな。地下司令室は当たり前だが使えないし、米田司令の部屋にキネマトロンがあったはずだから、ちょっとそれを拝借してくるか」

声を潜めながら、同じく俺の後ろから辺りの様子を窺っているに提案する。

最初はキネマトロンは持参する気でいたんだ。―――だけどあの狭い通路をキネマトロンなんて大きなものを持って進むなんて無理だと言うの言葉に、仕方なくキネマトロンは置いてきた。

まぁ、あの通路を通った後では俺も同意見だったが。

「では隊長はキネマトロンの方をよろしくお願いします」

「お前はどうするんだ?」

「私は少し帝劇内の様子を見てきます。花組のことも気になりますし、それに・・・」

舞台袖に顔を出していたは、身を引いて俺に向き直る。

少しだけ不審そうに眉を顰めて、それから小さく息を吐き出す。

「・・・それに?」

「陸軍兵士がいるにしては、静か過ぎると思いませんか?さっきから何の物音もしない」

「確かに」

「もしかすると、何かあったのかもしれません」

考え込むようにポツリと呟くに、俺も同じように考え込む。

何かあったとすれば、一体何があるというのだろう。

俺たちが帝劇に潜入する前は、遠目にではあるが確かに陸軍兵士の姿を確認できた。

潜入している間はそれほど短い時間ではないため、俺たちに気付かれないよう退却するのは可能だろう。

だとすると、俺たちが潜入している間に花組が捕らえられたとか?

チラリとに視線を向けると、は俺の視線に気付いて1つ頷いた。

「確認してきます」

頼もしすぎるキッパリとした声を残して、は気配を消し足音さえも消して大道具部屋を出て行った。

の姿が見えなくなったと同時に、俺も行動を開始する。

まずは支配人室へ。

そこでキネマトロンを確保して、おそらくは花やしき支部にいるだろう大神に連絡を取らなくては。

あれだけ騒がしかった帝劇の、今は嘘のように静まり返った廊下を、俺は支配人室に向かい慎重に進んでいく。

の言う通り、陸軍兵士の姿はなかった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ちょっと時間の経過とは微妙に食い違ってるところはありそうですが、あまり細かいところは気にしないで下さい。

このゲーム沿いの話は、果たして読んでる人は楽しいのだろうかといまさら考えたり。

作成日 2005.1.14

更新日 2008.8.8

 

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