花組に入隊する新隊員、レニ・ミルヒシュトラーセが漸く日本に到着した。

ここはやっぱり出迎えはが適任だろうということになり、ソレッタ・織姫の時と同様に再び変装する事になったのだが・・・。

今回の装いは黒のドレス。―――いつもとは違うヒラヒラとした長いスカートが、より一層女性らしさを感じさせる。

それに黒のレースを頭に被って、顔隠しも完璧だ。

だが、しかし!

そんなを前に思う事はただ1つ。

「・・・楽しんでるだろう、

「気のせいです、隊長」

俺の突っ込みをあっさりと流す

絶対に嘘だと、心の中で呟いた。

 

裏切りの策動

 

レニの出迎えに行っていたが、月組本部に戻って来た。

今回は色々と雑務があって見に行けなかった俺は、さっそくレニについての感想を聞く為にをソファーに座らせる。

「・・・で、どんな子だった?」

「どんな子と言われましても・・・」

少し考え込む仕草を見せて唐突に立ち上がったは、俺が何事だと思う前にお茶の用意を始めた。―――すぐに熱いお茶が目の前に差し出され、ありがたく一口飲む。

うん、やっぱりお茶は緑茶が一番だな・・・って、そんな事はどうでも良い。

再度口を開こうとすると、「お土産です」と和菓子を差し出された。

それを口に運んで・・・―――うん、たまには甘いモノもいいなぁ・・・じゃなくて!

なんか上手くはぐらかされてる気がするんだが!?

恨めしげな視線を向けると、は被っていたレースの帽子を脱いでお茶に手を伸ばす。

一口飲んで深く息を吐き出すと、俺にヒタリと視線を合わせて。

「物静かな子でしたよ、ソレッタ・織姫とは違って。まぁ・・・色々と問題はありそうでしたが・・・」

「問題って?」

尋ねた俺に、は困ったように視線を巡らせる。

「・・・感情が」

「・・・・・・?」

「感情が・・・見えないんですよね」

ポツリと呟いたの言葉に、俺はレニの生い立ちを思い出した。

なんとかって計画の為に、幼い頃から愛情を与えられずに戦闘機械になるべく育てられたという過去があると、レニに関する報告書に書いてあった。

「戦闘機械か・・・」

思わず呟いた言葉に、が悲しげに微笑んだ。

「機械に感情は必要ありませんからね。―――小さい頃からそういう風に育てられ、感情を抱く事さえ許されなかったんでしょう。与えられるものがなければ、当然生まれてくるものもありませんから」

遠い目をして切々と語る

きっとレニのことを思い出しているんだろう。

「だけど、遅すぎる事はないだろう?」

明るくそう声をかければ、は目を丸くして俺を見返す。

それにニッと笑みを向けて、俺は言葉を続けた。

「花組に行けば、今まで与えられなかったたくさんのものが、当然のように与えられる。きっと、変わっていけるさ」

そう、きっと変わっていける。

そういう点では、大神の右に出るものは早々いやしないだろう。

自信満々にそう言えば、が安心したように笑った。

「加山さんのそういうところ、羨ましいです」

「能天気だって言いたいのかぁ?」

「いいえ。とても素敵だと思っていますよ」

にっこりと微笑まれ、二の句が告げない。

そんな俺を尻目に、は再びお茶を口に運ぶ。

なんか最近、やり込められる事が多くなった気がするんだが・・・。

結局はの方が一枚も二枚も上手なんだと、こういう時実感する。―――これも惚れた弱みというやつだろうか?

俺は残った和菓子を口の中に放り込んで、悔し紛れに噛み締める。

それをお茶で流し込んで深く溜息を吐くと、楽しそうに俺を見詰めているにしっかりと視線を合わせた。

「なぁ、

「なんでしょう?」

飄々とした態度で返事を返すを見据えて、ニヤリと口角を上げる。

「これから大帝国劇場に行こうと思うんだが・・・一緒に行くか?」

「帝劇に?一体何をしに・・・」

いつも余裕のをたまには慌てさせたいと思うのは、根性悪いだろうか?

俺は確信犯の笑みを浮かべる。

「ちょっと大神に会いにな」

「・・・っ!」

俺の想像通り、は飲んでいたお茶を喉に詰まらせて小さく咳き込んだ。

何を考えているのかと問うの視線をサラリと流して、俺は手元に置いていたギターを手に取ってそれを軽く鳴らす。

こんな風に慌てたを見ることができるのはきっと俺だけだろうと、そんな微かな独占欲と優越感を胸に、俺は陽気に鼻歌を口ずさんだ。

 

 

ボロロ〜ン・・・と、軽くギターを鳴らす。

さすが帝劇の舞台は一味違う。―――俺のギターの音が良い感じにその場に響いた。

「海はいいなぁ〜。・・・・・・書き割りだけど」

そう声を上げて、目の前で呆然と立ち尽くす男に視線を向ける。

「よぉ!大神!!」

軽く手を上げて、数年ぶりに会う(といっても、俺は影ながら大神の事を見ていたが)親友に向かい明るい声で挨拶をした。

俺の突然の登場に、大神は当然ながら呆気に取られているようだ。

うんうん、俺はこういう風に人を驚かせるのが何よりも好きなんだよ。

その後、大神に「どちらさまでしたっけ?」とか言われたのは痛かったが、まぁ士官学校にいた頃は坊主頭だったから(お互いに)すぐに解らなくても仕方がないが。

その頃には、俺の素敵で無敵なスーツ姿も見せられなかったからな。

どうやら大神は突然いなくなったアイリスを探して、帝劇内を歩き回っていたらしい。

両親の話をしていたところを、織姫さんに馬鹿にされて怒りを爆発させたようだ。

彼女も微妙なお年頃。―――気丈に振舞ってはいても、両親と離れて暮らしている寂しさは当然だ。

それを察したがすぐに捜しに行き、大神との会話が終わる頃にはアイリスの居場所を見つけて俺に報告してくれたから、俺も大神にこっそりと遠まわしにではあるが伝えてやった。

意味が解らないとばかりに首を捻っている大神が、それでも俺の言葉に従って屋根裏部屋へ行こうとする背中に声を掛ける。

「・・・なんだ?」

「大神。女の子に囲まれてデレデレしてると、そのうち痛い目に遭うぞ?『好事魔多し』だ、大神」

帝劇には年頃の女の子が多い。―――むしろ、年頃の女の子だらけだ。

加えて、新しく米田司令の秘書に付いたのも若い女性。

しかもずいぶんと男性の目を惹き付ける要素を持った人だ。―――大神といえど流石に目が行くようだが、そんなことでは花組の隊員たちが黙っていないだろう。

本当に伝えたかった事を告げると、大神は心当たりがあるのか反省したように表情を曇らせる。

「ああ。ありがとう、加山」

しかし今はアイリスの事が最優先だと思い直して、大神はすぐさま屋根裏部屋に向かい駆けて行った。

その後ろ姿を見送って・・・―――完全に人の気配がなくなった頃、書き割りの裏からが姿を現した。

「ああ、。ごくろうさま」

「加山さん。書き割りの支えにする為に、わざわざ私を連れて来たんですか?」

恨めしげな視線を向けられて、誤魔化すために乾いた笑みを浮かべる。

そんなつもりはなかったんだがな・・・。

ただ久しぶりに幼馴染の姿を間近で見せてやろうと思っただけなんだけど。

笑って誤魔化す俺に呆れた視線を向けて、そうしては大神が去って行った方へと視線を移す。

「好事魔多し・・・ですか」

「ん?」

「加山さんは、人にそれだと気付かれないよう助言するのがお上手ですね」

そう言って俺に向けられたの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

気付かれてたのか・・・―――まぁ、なら気付くだろうとは思ってたけど。

「はっはっは!いやぁ、そんなに誉められると照れるなぁ・・・」

「大声を出さないで下さい、気付かれます」

すぐに戒められて、俺は咄嗟に口を噤んだ。

どうしてこう、の前だと決まらないかなぁ・・・俺。

困ってしまって頭を掻く俺は、その時漸くが浮かない顔をしている事に気付いた。

どうした?と声をかければ、は再び大神の去った方向へ視線を向けて。

「彼女が・・・新しく米田司令の秘書になった、影山サキですね」

「ああ、さっきの女性か?」

「ええ」

言われて、先ほど舞台袖で足を捻ったといい大神に助けを求めた女性を思い出す。―――彼女が原因で、大神はさくらくんに非難の目を向けられたも同然なのだが。

まぁ・・・所謂女の色気に溢れた美人だ。

大神の奴も見事にその色気に当てられていたようだが・・・。

「何か気になることでもあるのか?経歴に不明な点はなかったんだろう?」

「それはまぁ・・・そうなんですが・・・」

いつもとは違う歯切れの悪い返答に、俺は首を傾げる。

確かに違った意味で色々と問題はありそうだが(花組隊員たちとの関係とか)、経歴に怪しい点がないならそれほど気にするほどでもないと思うんだが。

それでも浮かない表情のに、彼女が何かに不安を感じているのだという事だけは解る。

「まぁ、心配ないさ」

「だと良いんですけど・・・」

安心させるように背中を叩けば、漸く納得したように頷く。

確か陸軍からの強い後押しがあって秘書になったというから、その辺に何か思うところがあるんだろうと俺は結論付けた。

「さぁ、俺たちも帰ろう」

「・・・そうですね」

俺たちは花組隊員に見つからないように帝劇を出て、月組本部へと向かい歩き出す。

最後に未だ不安そうに帝劇を振り返ったの様子が、やけに気になった。

 

 

次の日、米田司令が陸軍本部に呼び出されたという報告が気になって、俺は影ながら様子を見に行く事にした。

それと同時に偵察に出ていた隊員の1人が、血相を変えて本部に戻って来る。

どうやら先日現れた黒鬼会とやらが、また姿を現したらしい。

何かを設置するつもりらしく、大量の資材を運んでいるという報告を受けて、が素早く行動を起した。

「資材の中身を確認して、解りやすいよう目印をつけてください。すぐに花組に出撃要請を出して!」

「はい!」

的確な指示を飛ばすは、サッと俺の方を振り返ると無言で1つ頷く。

「私は現場に行って直接指示を出します。黒鬼会についても、何か解るかもしれませんし」

「ああ。俺は米田司令が気がかりだから、陸軍本部の方へ行く。頼んだぞ、

「了解しました」

軽く敬礼をして、素早く行動を開始する

俺も現場に行った方が良いのかもしれないが、に任せておけば問題無いだろう。

それよりも・・・今の時期の陸軍からの呼び出しが気に掛かる。

米田司令と陸軍は、現在も関係が良好ではない。

陸軍大臣の京極とかいう男との対立が、水面下ではあるようだ。

帝国華撃団は特殊な位置にあるから、陸軍トップとしては色々と思うところがあるんだろうが・・・。

「それでは隊長、失礼致します」

「ああ、気をつけてな」

「隊長も」

軽い挨拶を交わして、それぞれ自分の任務へ。

俺は陸軍本部、は現場に。

この時の俺たちは、まさかあんな事件が起こるなんて想像もしていなかった。

悲劇は数時間後。

一発の銃声と共に幕を開ける。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ゲーム本編での加山、漸く登場です。

やっぱり加山はいいなぁ・・・と、何回も映像を見ては思ったり(笑)

サクラ大戦2になって、やっと堂々の登場。

これで花組と関わらせられる〜!と今からワクワクです。

作成日 2004.8.9

更新日 2008.1.18

 

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