奇跡的に意識を取り戻した米田司令の面会が許された頃。

私は加山さんと共に、米田司令のお見舞いに行った。

 

見えない

 

「よお、待ってたぜぇ!」

病室のドアを開けると、そんな陽気な声に出迎えられた。

ベットの上には、上半身を起してこちらににこやかな笑顔を向ける米田司令。

包帯で上半身はグルグルに巻かれているけれど、つい先日まで意識不明の重体だった人物とは思えない。

けれど思ったよりも元気そうな姿に、ホッと安堵の息を吐いた。

「お加減はいかがですか?」

「ああ、大分良いぜ。寝るのにも飽きてきた頃だ」

お見舞いにと持ってきた花を花瓶に活けながら、そう言って笑う米田司令を窺う。

それほど軽い怪我ではない筈だけれど、顔色は悪くない。―――本人の言う通り、順調に回復に向かっているのだろう。

「ところで・・・あれ、持ってきてくれたか?」

軽く挨拶をして落ち着いた頃、米田司令がそう切り出した。

それに1つ頷いて、加山さんが持ってきた荷物の中から長細い包みを司令に渡す。

「それ・・・なんですか?」

「ああ、これか?司令に持ってくるようにと頼まれてたんだよ」

ここに来る間、ずっと気になっていた。

その形状は・・・多分・・・。

私の問いに、米田司令はニッと笑みを浮かべてその包みを解いた。

中から出て来たのは、私の想像した通りのもの。―――それは米田司令の刀だった。

確か・・・『心刀滅却』。

降魔戦争時代、米田司令と共に戦った愛刀だと聞いたことがある。

「どうするんですか、それ?」

「ああ、こいつはな。大神の奴に預かってもらおうと思ってな」

そう言って懐かしそうに刀を見詰める。

きっといろんな思いがたくさん詰まっているんだろう。―――それは嬉しい思い出も、そして悲しい・・・辛い思い出も。

私と加山さんがそんな思いで米田司令を見詰めていると、司令は唐突に表情を引き締めて私たちを見据える。

「月組の報告を聞かせてくれるか?」

普段とは違う。―――帝国華撃団総司令官の表情で、米田司令はそう言った。

すぐに私たちも表情を引き締めて、司令に向き直る。

「司令を狙撃した犯人ですが・・・今だ特定出来てはいません」

「・・・そうか」

「同じく黒鬼会についても、これといった情報は得られませんでした」

こんな実のない報告しか出来ない事が、とても歯痒かった。

月組隊員が休む間もなく情報収集に当たっているというのに、肝心の事が何も判明しない。

黒鬼会がどういう組織なのか。

何が目的で帝都に現れたのか。

首領は誰なのか?―――あの般若の面を被った男がそうなのではないかという憶測が、有力だけれど。

「司令は、狙撃犯について心当たりは?」

「心当たりねぇ・・・」

加山さんの問いに、司令は眉を寄せて考え込む。

狙撃犯が誰なのか?

普通に考えれば、黒鬼会の仕業なのだろうけれど。

だけど引っかかるところもあって・・・。

「狙撃犯と黒鬼会が無関係・・・だという可能性はありませんか?」

とりあえずそう進言してみると、2人揃って驚いた表情で見詰め返された。

確かに、突飛な考えだとは思うけれど。

今まで敵が司令を狙った事なんて、一度もなかった。

かつて黒之巣会との戦いでも、司令が個人で狙われる事なんてなかったのに。

なのにどうして今回は、司令が狙われたのだろう?

確かに司令がいなくなれば、帝国華撃団の存続自体も危うくなってしまうだろうけど、そんな事にまで相手が頭を回すだろうか?

敵を倒すなら、まず狙われるのは花組だと考えるのが妥当だ。―――今までもそうだったのだから。

その他にも気になる点はある。

花組との戦闘には魔操機兵を使っているのに、司令を狙撃したのはおそらく人間。

命を奪うだけなら、今まで通り魔操機兵を使ったって良い筈なのに。

どうして司令を襲わせる時だけ、狙撃という方法を選んだのか。

そして・・・その後に起こった神崎邸での一件。

国からストップされた援助と、更に援助をしようとした神崎家への攻撃。

手際が良すぎる。―――こちらが手を打つ前に、どんどんと先回りされている。

そんな事が、普通に考えて可能なのだろうか?

もしかすると、もっと違う大きな何かが絡んでるんじゃあ・・・。

そう意見を述べると、司令と加山さんは揃って沈黙した。

やっぱり突飛な考えすぎたかと思った頃、司令が唸るように頷く。

「・・・なるほどなぁ。考えられねぇ事じゃねぇ」

「何かお心当たりがおありですか?」

「いや・・・そういうわけじゃねぇんだが・・・」

そう言って、司令は更に考えに没頭する。

私は加山さんと顔を見合わせて・・・そして深く溜息を吐いた。

確実に何かが動いているのに、それが何なのかが全く見えない。

チラリチラリと見える尻尾を、ただ追いかけて。

このままじゃ、ダメだ。

後を追うだけじゃ、いつかきっと大変な事になる。

早く、敵の正体を掴まなくちゃ。

「まぁ、とりあえずは調査を続けてくれ。こっちも何とか探りを入れてみるからよ」

少しだけ軽い口調で言われて、私たちは1つ頷く。

考えだけを巡らせていても仕方がない。―――見えないのなら、追いかけるしかない。

「それでは司令、今日は失礼します」

加山さんがそう頭を下げてドアに向かった。

私も慌てて一礼してその後を追う。

ふと、何かに引かれるように立ち止まって振り返ると、司令が穏やかな表情でこちらを見詰めていた。

「・・・何か?」

用事でもあるのかと声を掛ければ、「いや・・・」と言葉を濁しつつ首を振る。

どうしたのだろうかと首を傾げると、司令が小さく笑った。

「オメェと加山、良い雰囲気になったじゃねぇか」

「・・・・・・は?」

「最初の頃はどうなる事かと思ったけどよ。なかなか良いコンビなんじゃねぇか?」

からかうような口調で言われて、どう反応して良いのか解らず口を噤む。

ありがとうございますと言えば良いのか、からかわないで下さいと言えば良いのか。

だけど司令の言葉を嬉しく思っている自分がいて・・・―――それをしっかりと見抜かれている気がして、顔が熱くなった気がした。

「し、失礼します!」

その空気にこれ以上耐えられなくて、私は素早く頭を下げると加山さんの後を追って廊下に・・・出ようとしたのだけれど。

「お、大神!?」

廊下から加山さんの慌てた声が聞こえて、ノブに伸ばしていた手を止めた。

聞こえて来た名前から、現状を察する。

どうやら一郎が司令のお見舞いに来ているらしい。―――それに上手くかち合ってしまったと。

どうしよう。

このまま出て行けば、間違いなく見つかってしまう。

変装したりと、あれほどまでにバレないようにと頑張ってきたのに。

「おい、

思わず固まってしまった私に、笑いを堪えた米田司令の声が届いた。

振り返ると、窓を指差して笑う米田司令。

すぐに言いたい事を察して・・・―――失礼だとは思ったけれど、お言葉に甘えさせてもらう事にした。

窓際に駆け寄って、窓を開ける。

幸い近くには大きな木もあるし、普段潜入などに慣れている私にはこれくらい障害にもならない。

「米田司令、こんな所からですが失礼します」

「ああ、気をつけろよ」

面白いとばかりに笑う司令に微笑み返して、私は勢い良く窓から飛び降りた。

近くにあった大きな木の枝を支えにして、何とか無事着地する。

それと同時に、司令の病室の窓から一郎の声と真宮寺さくらの声が聞こえて来た。

危なかった・・・と、ホッと胸を撫で下ろす。

危機一髪とはこのことだと、そう思うと思わず笑みが零れる。

私は笑みを浮かべたまま、司令の病室を見上げて一礼した。

聞こえてくる笑い声が、なんだか胸の中を熱くする。

この幸せを消してしまわないように。

その為に、出来る限りのことをしよう。

新たにそう誓って、病院の玄関から疲れた表情で出てきた加山さんと共に月組本部に帰還した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

なるべくゲームでの加山登場に絡ませたいと、無謀なことを考えています。

サクラ大戦1に比べて、進み具合がのろのろなのはそのせいです。(笑)

作成日 2004.8.10

更新日 2008.3.1

 

戻る