コートの中に、運命のホイッスルが響き渡る。

たった今、恒例『桜木くんの退場』が決定した。

 

最近、桜木くんは試合の後は決まって荒れている。

その理由も明白と言えば明白なんだけれど・・・―――今日も今日とて、しっかりと退場が決まった桜木くんは、イライラを隠す事無くそこらに撒き散らかしていた。

彼には学習能力がないのだろうか?

いや、ないこともないだろう。

試合を重ねるにつれて、退場までの時間が長くなってきているのだから。

だからと言って退場を免れる事はないし、彼自身が思い描くような活躍もこれといってないので、桜木くんのイライラは募る一方だ。

「よっ!退場王!!」

観客席から、桜木軍団の威勢の良い声が届く。

彼らには桜木君を労わろうという殊勝な気はないらしい。―――だからと言って、それを代わって私がしてあげる気もさらさらないが・・・。

「おつかれ」

声と共に、桜木くんの頭にタオルを放り投げる。

マネージャーとしての仕事の一環だ。

「・・・・・・」

無言でタオルを掴み、乱暴にベンチに座り込む。―――チラリと視線を向けられて、私は律儀にもそれに反応してやった。

「何?」

「・・・・・・いえ、なにも」

あからさまに視線を逸らして、ボソリと呟く。

そんな『いかにも悩みあります』みたいな雰囲気で否定されても、説得力なんてゼロに等しいんだけど。

まぁ、桜木くんの今現在の悩みなんて、聞くまでもないけれど。

だからと言って、親切にも問うてあげる気もない。―――そこまでお節介な性格はしてない。

「あっそ」

簡単に流して、私は再びコートに視線を向けた。

試合はまだ、終わっていないのだ。

既に湘北の点は100を越している。

最近の湘北はすこぶる調子が良い。

相手が強豪と呼ばれるチームではないからなのか、湘北が強いからなのか・・・―――湘北側に属する身としては、後者を望む。

「・・・さん」

試合の流れを目で追っていた私に、桜木くんから声を掛けられた。

「だから、何?」

「・・・・・・」

声を掛けておいて無言はいかがなものだろうか?

そう思ったけれど、私の返答もいけなかったのかもしれないと思い直して、軽く息をつくと視線をコートから桜木くんに向けた。

「・・・・・・」

「言いたいことがあるなら、言った方が良いよ」

「・・・・・・」

「・・・私はあんまり、気が長い方ではないんだけど?」

「実は・・・」

畳み掛けるように言うと、桜木くんは慌てて口を開いた。

けれど言いづらそうに言葉を濁して、視線をコートに向ける。

「試合で退場しないようにするには、どうすれば良いと思いますか?」

ボソリと小さく呟かれた言葉。

会場の歓声に紛れて聞き取りづらいほど小さな声は、けれどしっかりと私の耳に届いた。

他の部員たちは、試合に夢中になっているのか桜木くんの言葉には気付いていない。

出来れば私も聞こえなかったフリをして試合を観戦したいけれど、生憎と聞こえてしまったものを無視できるほど冷酷でもなかった。

「そんなの、私に聞かれても・・・」

けれど私の口から出たのは、ある意味冷たい言葉。

そうですよね・・・と項垂れる桜木くんを目に映して、落ち込ませる気はなかったんだけどと心の中で思う。

でもその質問を向けるのに最適なのは、今コートでプレイしている人たちだろう。

私だってバスケの試合に出たことがないとは言わないけれど、その質問に答えてあげられるほど経験があるわけでもない。

まぁ、今コートに立っている人の中で、律儀に桜木くんの悩みに付き合ってくれるだろう人物は赤木さんと小暮さんくらいだろうが。

あまりにも落ち込んだ様子の桜木くんに、ほんの少しだけ罪悪感のようなものが湧き出てきた。

どうやら彼は、とても煮詰まっている様子。

「赤木さんに聞いた方が良いと思うけど?」

「聞きました」

「ふ〜ん・・・。で、なんて?」

「そんなの解らんとか・・・。ゴリのやつ、知っててわざと教えなかったんだ!この天才を恐れて!!」

少し元気を取り戻してきた桜木くんを見て、ため息を1つ。

今の桜木くんに、恐れるところがどこにあるというのか。

「バスケに関して、桜木くんよりは詳しいけど赤木さんたちよりは素人な私の意見で良いなら言わせて貰うけど・・・」

「はい!!」

目を輝かせて私を見る桜木くんを見据えて。

「桜木くんのプレイは、乱暴すぎるんだよ」

キッパリと言い切った私の言葉に、桜木くんは怯んだように少し後ずさる。

その行動を、失礼だな・・・なんて思いながらも敢えて流して、私は言葉を続けた。

「ボール取る時なんか喧嘩腰だし、抜かれたら腹立てて反撃するし、動きも無駄なところが多くて接触も多いし」

「・・・そこまで言わなくても」

「私に優しい言葉を望まないでよ。まぁ、でも・・・」

そうだね、でも。

私は口元に笑みを乗せて、桜木くんに向き直った。

「でも、それがなくなったら桜木くんらしくないよね」

私の言葉に、桜木くんが呆然と口を開いたまま固まった。

だから失礼だって、その態度。

「それって・・・誉めてくれてるんですよね?」

「一応は」

簡単な言葉で肯定すると、桜木くんは見る見る顔を綻ばせていった。

輝くような笑顔でお礼を言って、私の手を取りそれを乱暴に振り回す。

そんな馬鹿力で振り回されたら、痛いんだけど・・・。

喜びを露わにしていた桜木くんだったけれど、しかしふとその表情を曇らせて。

「でも結局、肝心のどうしたら退場せずに済むかが解らん」

誤魔化せたと思ったのに、やっぱりそれに思い当たったようだ。

それだけ深刻な悩みだという事か。

「試合を重ねれば、その内退場せずに済むようになるよ」

「・・・そうでしょうか?」

「どんな行動をしたら退場になるかぐらい、そろそろ解ってきた頃でしょ?力の加減さえ覚えれば大丈夫よ」

「なるほど」

ポンと手を打って、桜木くんは漸く納得してくれたみたいだ。

私は気を取り直してコートに視線を戻した。

「でも・・・そのうちって何時のことですか?」

しつこく聞こえて来た声に、私は半ばイライラしながら振り返る。

「そのうちよ」

「・・・はぁ」

桜木くんがそう相槌を打った時、コートの中で盛大なブザーが鳴った。

試合終了。

結局、桜木くんが退場した後、ロクに試合は見れなかった。

まぁ、それもいつものことなんだけど。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

退場王と何気ない会話。

ヒロインがドライと言うよりは、どんどん冷たい人間になってしまいました。

これってどうなんでしょう?受け入れてもらえてるんでしょうか?(不安)

相変わらず試合の描写はありません。

っていうか書けません、素で。

作成日 2004.7.15

更新日 2007.12.10

 

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