大会を目前に控えたある日。

いつもと同じように練習に励み、疲れている身体を休める為の筈の休憩時間に、ドリンクを配り終えたマネージャーの側に集まる部員たち。

不意に彩子さんが漏らした一言が、話に大きく花を咲かせた。

みんな、不思議に思ってたらしい。

 

 

と三井さんって、兄弟なのに全然似てないわよね」

そう、彩子さんの漏らした一言とはこれの事だ。

別に似てない兄弟がいたって、そんなにおかしくはないと思うんだけど。

案の定というか、話に食いついてきたのは桜木くんとリョータくんの2人。

興味なさそうにしてるけど、流川くんの耳がピクリと動いたのを私は確かに見た。―――話に混ざりたいなら、素直にこっち来れば良いのに。

「そうですよね!さんはミッチーに似ずに可憐ですし!!」

「・・・それはどうもありがとう」

「信じてくれてませんね!?」

「生憎と、桜木くんの誉め言葉には説得力がなくてね」

いろんな女の子に賛辞の言葉を贈っているのを、私は知っている。―――その際たる相手が晴子ちゃんなんだけど。

水戸くんの話によると、すでに50人の女の子に振られてるらしいし?

手当たり次第誉め言葉を吐く人の誉め言葉を、どうして信じられようか。

「ひどいっすよ、さん!!」

「まぁまぁ。でも、花道の言う通り。ちゃんって三井さんみたいに乱暴じゃないし」

「お兄ちゃんと比べないでよ」

「そうね、は三井さんと比べて落ち着いてるし」

「いや、だからお兄ちゃんと比べられても・・・」

複雑なものがあるんですけど・・・と言う前に、3人は意気投合して話に花を咲かせてしまった。

もういちいち抗議するのも面倒で、そのまま成すに任せる。

話題に上がった人物といえば、休憩時間なのにも関わらず一心にシュートの練習をしている。

流石にブランクが気になるようだ。

思ったよりも退化してはないみたいだけど、ほぼ2年のブランクを背負ってコートに立つのは不安があるんだろう。

私としては、シュート成功率よりも体力低下が気になるところではあるんだけれど。

「やっぱり、は猫よね」

「・・・は?」

お兄ちゃんをぼんやりと眺めていた私は、唐突に掛けられた声に思わず声を上げた。

っていうか、一体何の話?

「今ね、たちを動物に例えるなら何かって話をしてたのよ」

説明してくれる彩子さんに、なるほどと頷き返す。

どうやら話はえらい脱線しているようだ。

「それで、猫?」

「そう。猫」

「・・・どうしてですか?」

別に猫に例えられること事態は嫌じゃない。

猫は可愛いし、私も好きだ。

でもどこを見て私を猫に例えたのか、気にはなる。

「どうしてって・・・気紛れなところとか?」

なるほど。

「淡々としてるところとか・・・」

淡々・・・猫って淡々としてるか?

「簡単に懐かないところとか」

「・・・・・・」

「怒った?」

「いえ」

そうかもしれないと思ったのが、個人的に痛かったかな。

昔からそういう風に見られがちだったから、今更異論はないけど。

「それをいうなら、三井さんもある意味猫っぽくねぇ?」

リョータくんがお兄ちゃんを眺めながら言った。

「そう言われれば・・・確かに」

それに彩子さんも同意する。

唯一桜木くんが、『ミッチーはそんな可愛い動物じゃない!』とか騒いでたけど、2人は気にしないようだ。

そうか、お兄ちゃんが猫か。

っていうか、寧ろ。

「お兄ちゃんは、猫っていうよりも犬っぽい」

「犬!?」

「三井さんが!?」

あ、凄い驚かれた。

だってそう思うんだから仕方ないでしょ?

「どこが!?」

「どこがって言われても・・・強いて言うなら、行動が」

「「「行動!?」」」

うわ、みんな息ぴったりだね。

どういうことなのかと説明を求められたので、私は気が進まなかったけれどそれを実証する事にした。

「お兄ちゃん!!」

「ちょ!!?」

突然大声でお兄ちゃんを呼んだ私に、彩子さんが吃驚したように声を上げる。

それを無視して、私はもう一度お兄ちゃんを呼んだ。

するとお兄ちゃんはこちらに視線を向けて、渋々と言った感じではあったけれど、バスケットボールを抱えたままこちらに駆けて来た。

それを眺めながら、私は思う。―――やっぱり犬みたい。

だって不本意そうに装ってるけど、顔が緩んでるし。

いい加減、妹離れした方がいいよ。

「なんだよ?」

さっきまでシュート練習していたからか、息を乱したお兄ちゃんが不思議そうに尋ねる。

それを無視して、私は彩子さんの方を振り返った。

「・・・ね?」

「確かに・・・」

納得したように頷く彩子さんとリョータくんと桜木くん。

だって走ってくるお兄ちゃんの姿は、まるで大型犬だ。

ご主人様に呼ばれて飛んでくる、忠犬の如くだ。

「なにがだよ?」

「気にしないで」

訝しげな表情を浮かべるお兄ちゃんにそう返答して、私は納得して頷く3人を満足げに眺めた。

 

 

「犬と猫・・・か」

部活が終わった後、しみじみと呟くリョータくんに私は呆れた視線を向けた。

「まだ言ってる」

「だってよ・・・。やっぱり三井さんとちゃんって似てないなって再確認させられちゃったわけだし?」

折角共通点見つけたと思ったのに・・・と残念がるリョータくんに、思わずため息。

それって、似てなきゃまずいの?

そう思ったけれど、それってありえないことだ。

「似てるわけないじゃない」

思わず呟いて、不思議そうな表情を浮かべるリョータくんを見返す。

似てるわけなんて、ないね。

そんなのありえないよ。

あったらおかしい。

「なんで?」

「だって、血が繋がってないもの」

「・・・・・・は!?」

間の抜けた声を上げるリョータくんに、私は再びため息を零す。

「私のお母さんとお兄ちゃんのお父さんが再婚して、お互い連れ子だったからね。似てなくて当然」

お兄ちゃんが中2の時、私が小6の時、兄妹になったんだもん。

いくら一緒に暮らしてれば似てくるって言ったって、そんなに大きくなってからじゃ無理っぽいしね。

「マジで?」

「マジで」

「う・・・嘘だろぉ〜!?」

大声で叫ぶリョータくんを尻目に、私は後片付けを再開する。

だから、マジだって。

心の中で呟いて、そういえば言ってなかったっけ?と今更ながらに思う。

別に隠してたわけじゃないんだけど。

ただ聞かれなかったから、わざわざ言う必要もないと思って。

もしかしたらお兄ちゃんが言ってるかもと思ったし。

まぁ、お兄ちゃんと同級生の赤木さんと小暮さんは知ってるけど。

未だ騒ぐリョータくんを見て、思う。

疑問は解消できたんだから、それで良いんじゃないの?

私の中では特に大した事実ではないそれが、しかし他の人にはそうでないという事を知るのは翌日のこと。

あっという間に部内に広がり、私は質問攻めに合う事になる。

みんな、結構暇だよね。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

新事実、発覚!(笑)

どの時点でバラそうか、迷ったんですけど。

というわけで、宣言させて頂きます。

この連載のお相手は、ミッチーです。

血は繋がってないんだから、大丈夫ですよね?(不安)

まぁ、でも逆ハーにしようという思いに変わりないので(そんな風になるかは別として)

流川とも存分に絡ませたいので。(笑)

最終的にミッチー相手だと心に留めておいて頂ければ・・・。

作成日 2004.7.12

更新日 2007.9.10

 

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