「ミッチーとさんは、血が繋がってないって本当なのか!?」

ある日、桜木に真っ向からそう質問された。

いつの間にか広まっていた俺との関係。

まぁ、が自分で話したんだろうが・・・。

「それがお前にどう関係あるってんだよ?」

そう聞き返せば、桜木の野郎は心底悔しそうな顔をして、足を踏み鳴らす。

「ミッチーはズルイ!あんな綺麗な人と1つ屋根の下に暮らして、その上血が繋がってねぇなんて!!」

どんな理屈だと、俺は呆れた視線を向ける。

アホかと返そうと思って・・・だけどその言葉は俺の口からは出てこなかった。

と血が繋がってないことを、一番喜んでいるのは他ならぬ俺だったから。

 

ねんどみたい。

 

初めてに会ったのは、俺がまだ中2の頃。

突然親父に『再婚する』なんて宣言されて面食らったが、まぁ反対する理由もなかったし、あっさり『そうか』と返した。

俺が反対しなかった事で話は急速に進んで行き、話を聞いた数日後には相手の人に会う段取りまで整っていた。―――相手の人に子供がいるって聞いたのも、その時だ。

大会が迫っていたから部活を休む事なんて出来なくて、俺は部活が終わった後指定されたホテルに急いで向かう。

レストランに入ると、相手の人がにこやかな笑顔を俺に向けた。

優しそうな人だな・・・とか思った。―――後にその第一印象は180℃変わるんだが、それはまた別の話だ。

そこに、がいた。

にこやかな笑顔を浮かべる再婚相手の女の人の隣で、無表情で座っている。

俺が声をかけると、は一拍を置いた後にっこりと笑顔を浮かべた。―――その笑顔が愛想笑いだと気付いたのは、俺だけだっただろう。

早く打ち解けるようにと俺たちだけレストランから追い出されて・・・正直何を話せば良いのか解らなくて俺は戸惑った。

自分で言うのもなんだが俺は女にモテる方だったし、クラスの女子相手ならさして気を使う必要もないんだが、いかんせん今俺の前にいるのは2歳年下の女の子で。

しかもこれから一緒に暮らしていくんだから、気まずい雰囲気にはなりたくない。

慎重に言葉を選ばなくては・・・と頭をフル回転させて、必死に話し掛けるべき言葉を探した。

だけどそんな俺の心の葛藤を無視して、はあっさりと口を開く。

「部活・・・何をしてるの?」

俺のデカイバックに視線を向けて、小さく首を傾げる。

その姿は、小動物のようで愛らしい。

「バスケだ」

「ふ〜ん・・・」

「興味あるのか?」

「全然」

期待を込めて聞き返したが、あっさりと否定された。

バスケに興味があるなら、話も弾むだろうと思ったんだけどな。

「楽しい?」

「あ?」

「バスケ、楽しい?」

再度問い掛けられて、俺は当然とばかりに頷いた。

楽しくないなら、するわけないだろ?

俺の返事にも興味のなさそうな返事を返して。

そしてしばらく考え込んだ後、は唐突にそれを切り出した。

「見てみたい」

「・・・は?」

「・・・さっきから何回も聞き返してるけど、耳悪いの?」

冷たい視線を向けられて、俺はムッとした。―――聞き返すのは、お前の質問の仕方が悪いからだろ?

見た目は可愛くて大人しそうに見えるのに、口から飛び出す言葉は辛辣だ。

これから上手くやってけるのかと不安を抱いた俺に構わず、は気を取り直したように改めて口を開いた。

「貴方のバスケしてるところ、見てみたい」

「・・・興味ないんだろ?」

「ちょっと、興味が湧いた」

飄々とした口調で言う。

その掴み所のない話し方とか雰囲気とか態度とかに、俺は正直困惑して。

まるで今日の美術の時間で使った粘土のようだと思った。

押せば形を変えて・・・なのにその存在は変わる事がなくて。

どんなに手を加えても、それは確かにそこにあって。

固まって外からの干渉を受けないのかと思えば、それは柔らかくあっさりと形を変える。

本当に小6なのか!?とか思ったけれど、俺を見上げるあどけない表情に、さっきまであった不機嫌が不思議なくらいあっさりと消えた。

「ああ、いいぜ。いつでも見に来いよ」

「ありがとう」

そう言って笑ったの笑顔は、さっき見た愛想笑いじゃあなくて。

案外上手くやって行けるんじゃないかと、俺はさっきの疑問をあっさりと撤回した。

 

 

一緒に暮らすようになって、俺たちは急速に仲良くなった。

頻繁に練習を見に来るは、最初興味がないと言っていたにも関わらず楽しそうに目を輝かせながら俺たちのプレーを見ていた。

そんなは俺からバスケを教わり、自らルールを学んで、中学に入るとすぐにバスケ部に入部する。

元々運動神経の良かったは、あっという間に頭角をあらわし、すぐにレギュラーの座を自分の物にした。

がバスケを始めてから1年。―――その頃俺は怪我をして、自棄になりバスケ部をやめていた。

そんな俺に何を思ったのかは知らないが、いつの間にかもバスケを止めた。

荒れる俺に親は手を焼いて、クラスメイトたちは離れ、教師も俺を睨むようになったが、だけどの態度は一切変わる事はなく。

強面の鉄男たちと付き合うようになっても、は平然と俺たちの側にいる。

そんな変わらないを、やっぱり変わっていると思いつつも、それに救われていたのは確かで。

そんなを、俺はいつしか妹としてではなく女として見るようになっていた。

「お兄ちゃん、その髪型似合わない」

の口から出る言葉は相変わらず辛辣だったが、それでも俺に接する態度は酷く優しい。

それから2年が経って、高校に入学したがバスケ部に入ると聞いたときは驚いたが、今ではそれに少し感謝していたりもする。

あの乱闘騒ぎの時、の登場で俺の頭は少しだけ冷静になったから。

あんな風に安西先生の前で素直な気持ちを言えたのは、そのお陰だと思うから。

 

 

「何ボーっとしてんの?」

不意に声を掛けられて我に返ると、目の前には怪訝そうな表情を浮かべたが立っていた。―――どうやら俺は思い出に浸ってたらしい。

いつの間にか桜木がいねぇ。

あいつ、逃げやがったな。

ここにはいない桜木に心の中で毒づいていると、の冷たい視線を感じた。

「部活中なんだから、練習したら?」

「あ、ああ・・・そうだな」

「それでなくてもブランクがあるんだから。ぼやぼやしてると、バスケ部に戻ってきた意味がなくなるんじゃない?」

それは俺がレギュラーになれないって意味か?

無言で問い掛けると、は綺麗な笑みを浮かべる。

「さっさと練習しろ」

「命令かよ」

「早く練習に戻って頂けませんか?」

「・・・・・・解ったから、それも止めろ」

言葉はともかく、笑顔が怖いんだよ。―――目が笑ってねぇ。

どうしろっていうのよ・・・とぶつぶつ文句を言いながら仕事に戻るの背中を見送って、俺は大きく伸びをすると転がっていたボールを拾う。

手に馴染んだボールの感触が、何よりも嬉しい。

バスケなんてどうでもいいと思っていた俺の隠れた気持ちを一番良く知っていたのは、俺自身じゃなくてだった事を思い出す。

素直じゃなくて、態度は冷たくて、言葉も厳しくて。

だけど向けられる愛情は、確かに感じられて。

それは家族に対するもので、俺が抱くのとはまた別のものだと解ってはいる。

だけど、少なくともここにいるバスケ部員の中では一番だろうという事も解っているから、今はそれで良いと心の中でひっそりと思う。

「ま、いつかは思い知らせてやるけど・・・」

俺の中の深くにまで存在する

俺の手で、の心を変えてみせる。

今はまだ柔らかい粘土のようなの心。

俺が綺麗に、作ってやるから。

改めてそう誓って、俺はコートに戻った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

言葉もありません(汗)

三井視点に挑戦して、見事玉砕。もう粉々です。

今更ですが、題名がこじつけ。

連載で100題は辛いと、今更ながらに実感。

もう泣きたい気分です(勝手に泣け)

作成日 2004.7.13

更新日 2007.10.10

 

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