何かに追い立てられるように、は全力で森の中を駆け抜けた。

葉や飛び出した枝が腕や足に切り傷を作っていくことにも気がつかず、ただ無我夢中で走り続ける。

周りの音など何一つ届かず、自分の大きく脈打つ鼓動と荒い息遣いだけが耳に大きく響いていた。

「・・・っ!?」

注意力が散漫になっていたは、足元の何かにつまずきそのまま勢い良く盛大に転がった。―――声無き悲鳴を上げて、受身を取る間もなく地面に叩きつけられる。

その事で漸く足を止めたは、起き上がる気力も無くひんやりと冷たい土の感触を頬に感じながら、荒く呼吸を繰り返し目を閉じた。

瞼の裏に残るのは、微笑を浮かべたクラトスの顔。

その耳に響くのは、自分の早鐘を打つ鼓動と荒い呼吸とそして・・・低い声。

『私は・・・』

先ほど聞いたばかりのセリフを思い出しかけて、は振り払うように寝返りを打つと、黒く生い茂る木々の葉をぼんやりと見上げた。

「なんなのよ・・・一体」

の頭の中は、かつて無いほど混乱していた。

 

名も無き感情

 

「ねぇ、ユアン」

昼食の後、ユアンが取ってきた木の実の殻を一心に取っていたマーテルは、不意に思い出したように顔を上げた。

「・・・なんだ?」

同じく木の実の殻を取っていたユアンが、一拍後に同じように作業の手を止めて顔を上げる。―――そんなユアンから視線を窓の外に向けて、マーテルはぼんやりと景色を眺めながらポツリと呟いた。

「最近、とクラトスの様子が変じゃない?」

「ああ、そのようだな」

サラリと返って来た返答に、マーテルは窺うようにユアンの顔を覗き込む。

「もしかしてクラトスから何か聞いてる?」

「あいつが私に話すわけが無いだろう。君はから何も聞いていないのか?」

「何も。最近の、私まで避けるから・・・」

クラトスほどではないけれど・・・と小さく独りごちて。

今までクラトス関係のことに手を出しすぎた結果なのかもしれない。―――今回も何があったか聞かれる事を恐れて、無意識のうちに距離を置いているのだろう。

「この間の買出しの時からよね。良かれと思ってクラトスにを迎えに行ってもらったんだけど・・・一体何があったのかしら?」

あの晩から、異変は明らかだった。

買出しに行ったはずのが何も持たずに帰ってきたかと思うと、そのままマーテルたちからも逃れるように自分の家に閉じこもり、勿論夕飯も食べる事無く声を掛けても何の反応も返ってこない。

その暫く後に買出しの袋を抱えて帰って来たクラトスも、少しだけ沈んだような顔をしていて、マーテルたちと目が合うと気まずそうに視線を逸らす。

こちらも夕飯を取らずに早々に家へと戻ったクラトスを見て、何かがあったのだという事は明白だった。

しかしその内容が解らない。

は極力クラトスと顔を合わせないよう行動しているし、クラトスはクラトスでミトスの剣術の稽古をしていてもどこか上の空だ。―――声を掛けても、気が付かないことの方が多かった。

クラトスはともかく、の態度を見ていると、まるで2人が打ち解ける前に戻ったかのようだ。

けれど以前と決定的に違うところが1つある。

それはクラトスは気付いていないようだが、が時折クラトスの様子を窺うような素振りを見せている事だ。―――それは本当に一瞬の事で、最初に見た時はマーテルも見間違いかと目を疑ったが、それも何回も続けば確信へと変わっていった。

「本当に・・・何があったのかしら?」

今日何度目かのセリフを繰り返しつつ、マーテルは手にしていた木の実を籠の中に投げ入れた。―――どうにも集中できない。

それを見ていたユアンは、溜息を吐き出しつつ剥き終えた木の実をボールの中に移す。

「そんなに気になるのか?」

「だって・・・2人があんな様子だと、なんだか落ち着かないんだもの」

少しだけ頬を膨らませて、マーテルはテーブルに両肘を付きその上に顔を乗せる。

マーテルの言い分も、解らないではなかった。

今までは上手く噛みあっていた歯車が、2人の不自然な様子に少しづつズレてきている。

とクラトスの間だけではなく、マーテルやユアン・ミトスの間でもどうして良いのか解らないという戸惑いの空気が流れていた。

「だが、どうすると言うんだ。これはあの2人の問題であって、私たちに出来る事など」

「だからね、ユアン」

呆れ混じりに呟くユアンの声を遮って、マーテルはにっこりと微笑む。

それに少しだけ嫌な予感がしつつも、ユアンは手招きされるままにマーテルの口元に耳を寄せた。

コソコソと耳に囁かれる言葉に、少しづつユアンの眉間に皺が寄っていく。

「・・・それ、本気で言っているのか?」

「ええ、勿論」

即答で返って来た弾むような声に、ユアンは諦めたように溜息を吐き出した。

 

 

「こんにちは、クラトス」

ミトスとの稽古を終えて一息ついていたクラトスの背後から、柔らかな声が掛けられた。

その声にピクリと眉を動かし、とうとう来たかと溜息を漏らす。

あの買出しの夜から一週間。

今まで何の音沙汰もなかった事の方が不思議なことなのかもしれないと思いつつも、できればこのまま放っておいて欲しかったと内心思う。

けれど無視するわけにもいかず、クラトスは苦々しく思いながらもゆっくりと振り返った。

「何か用か、マーテル」

用件は大体察しているけれど、敢えて尋ねてみる。―――言外に放っておいてくれという意味を込めて向けた言葉は、しかしマーテルによって打ち砕かれた。

のことなのだけれど・・・」

何の遠慮もなく告げられた内容に、クラトスは見るからに解るほど表情を曇らせる。

それを目に映して、マーテルは困ったようにやんわりと笑みを浮かべた。

近くの木の幹に腰を下ろして、立ち尽くしたままのクラトスを促すと、クラトスは諦めたように溜息を零しつつ言われるままに隣に腰を下ろした。

「それで・・・一体何があったの?」

「何がだ?」

「とぼけないで。そんな事しても無駄なんだから・・・」

涼しげな表情で答えるクラトスに、マーテルが眉を寄せて呟く。

そんな事は言われるまでもなく解っていたが、そう簡単に切り出せるような話でもない。

しかしこうなってしまった以上、マーテルの追及から逃れられるとはクラトスも思っていなかった。―――交わし続けられるのも、時間の問題だろう。

それを察して、クラトスは再び溜息を吐き出すと、ぼんやりと森の風景を眺めながら口を開いた。

「買出しに行ったを迎えに行った夜・・・」

「・・・うん」

に・・・・・・私の想いを伝えた」

躊躇いがちに吐き出された言葉に、マーテルは目を見開いてクラトスを見詰める。

その視線に決して目を合わせないようにしているクラトスに、マーテルは思った事をそのまま口に出した。

「なんていうか・・・それってすごい急展開ね」

「・・・・・・」

しみじみと呟かれた言葉に、クラトスの溜息は尽きる事がない。

しかしマーテルにしてみても、それは意外な言葉だった。

クラトスは自分の感情を表に出す事が、あまり得意ではない人間だ。―――それは極一般的な人間関係でもそうだが、事恋愛に関してはそれ以上だと言える。

出逢って半年。

その短期間でクラトスがへの想いを自覚したというだけでも奇跡のように思えたのに、まさかそれを相手に伝えるところまで行くとは・・・。

驚きもそうだが、半ば感心したような眼差しをクラトスに向ける。

しかしふと疑問を抱いた。

「一体何がきっかけで、想いを伝えるに至ったの?」

何度も言うが、クラトスは恋愛ごとに疎い。―――その上、奥手だ。

ただ気持ちを伝えようと決心してそれを実行したとは、マーテルにはどうしても思えなかった。

しかしそんなマーテルの疑問に、クラトスは答える事無く口を噤む。

『みんなには・・・言わないで』

脳裏にのか細い声が甦った。―――伝えた方が良いのかもしれないと思うけれど、それをが望んでいない限り、余計なお世話だと思う。

例えどれほどの仕打ちを受けても、全てを1人で抱え込む事になろうとも、それでも守りたいと願った

身を焦がすような憎悪を抱き、自らの存在すら疎ましく思っていた彼女が唯一守りたいと心から願う者たち。

そんな者たちがその事実を知った時に浮かべるだろう表情を、きっと一番見たくないのだろうと察する事が出来たから・・・だからクラトスはあの夜見た光景をすべて自分の胸の中にしまっておく事に決めた。

黙り込んだクラトスを見詰めて、マーテルは何故告白に至ったかの理由を聞くのを諦める。

大切なのはそれに至った理由ではなく、結果なのだから。

「それで・・・はなんて?」

「聞かなくとも見れば解るだろう?」

即座に返って来た自嘲の笑みに、マーテルは切なげに眉を寄せる。

耳を塞ぎ、目を閉じ、世界から拒絶された少女は自ら世界を拒絶するかのように身体を縮込める。―――そんな弱々しい姿に耐え切れず、少しでも支えてやれたらと思い伸ばした手は、には必要とされなかったのだ。

「あの夜、は私の前から逃げた。そうして今もまだ、拒絶され続けている」

「クラトス、それは・・・」

「結局私は、には必要のない人間だったのだ」

マーテルの声を遮って、結論を出す。

泣く事さえも出来ない不器用な少女に、泣ける場所を作ってやりたかった。

それが自分であればどれほど良いだろうかと強く願ったけれど、この一週間でその願いも儚いものだったのだと思い知らされた。

後はただ、がこれ以上辛い思いをしないようにと、見守るだけだ。

拳を強く握りしめ俯くクラトスを見据えて、マーテルは呆れたように溜息を吐いた。

確かにの態度にも問題があるし、クラトスがから向けられる視線に気付いていないだろう事は察していたけれど、まさかこうもあっさりと結論を出されるとは思ってもいなかった。

普段は自信に満ち溢れているというのに・・・恋愛に関するとこうも人は弱気になるのだろうかと苦笑が浮かんでくる。

「そんなに簡単に諦めてもらわれちゃ、困るのよ」

ポツリと隣にいるクラトスにすら聞こえないほど小さく呟き、何だとクラトスが顔を上げる前にその背中を力一杯叩いた。

パシンと軽い音が立ち、予想外の痛さに顔を顰めるクラトスを見据えて一言。

が、貴方に向かって『嫌だ』って言ったの?」

強い口調で問われた言葉に、クラトスは訝しげに眉を寄せる。

そんな事言われるまでもなく、態度を見ていれば解る・・・と言いかけたクラトスの考えを読んで、マーテルはにっこりと笑顔を浮かべた。

は、嫌だと思ったならちゃんと本人にそう伝えるわ。そういう子だもの」

「・・・・・・だが」

確信を秘めたマーテルの言葉に、しかしまだ納得できないと言わんばかりのクラトスにニコニコと何かを含むような笑みを濃くして。

「相手はなのよ?クラトス以上に、恋愛事には疎いんだから。少しぐらい考える時間が長くたって、仕方ない事でしょう?」

からかうような口調にクラトスは一瞬呆気に取られたが、すぐに小さく噴出した。

咽を鳴らすように笑って、右手で顔を隠すように額を押さえる。

何の根拠も無い筈のその言葉に、しかし妙な説得力があるように思えるのは何故だろうか。

マーテルが言うのならばそうなのだろうと思える、その理由は?

そんな事は解らなかったけれど、暗かった心の中に一筋の光が差したような気がした。

「ほら、クラトス!頑張って!!」

もう一度強く背中を叩かれ、それに押されるようにして立ち上がる。

「もう一度・・・話をして来よう」

「ええ。そうしてあげて」

見下ろしたマーテルの顔は、穏やかに微笑んでいて。

それに微かに微笑みを返すと、クラトスはを捜すべく足早に森の中を歩き出す。

その力強い背中を見送っていたマーテルは、祈るように手を組み合わせた。

「どうか、を救ってあげて・・・。私たちでは駄目なのだから・・・」

その言葉にも、マーテルが悲しげな笑みを浮かべていた事にも、歩き出したクラトスが気付く事は無かった。

 

 

一方、マーテルがクラトスと話をしているのとほぼ同時刻、ユアンは目当ての人物の姿を見つけて溜息を吐き出した。

切り立った崖の上に立ち、その身を隠す素振りさえ見せずに空を仰ぎ見る少女。

「・・・何か用?」

どうやって声をかけようかと悩んでいたユアンに、空から視線を外さないままの少女から声を掛けられた。

「気付いていたのか」

「気付かないわけ無いでしょう。こんな何もないだだっ広い場所で」

驚きのままに呟いた言葉に、の呆れたような返事が返って来た。

言われれば確かにそうだ。―――ここには身を隠すような木々も茂みも何も無いのだから。

だからこそはここにいたのだろうかと、頭の片隅でユアンは思う。

誰かが近づいてくればすぐに解るからこそ、数あるお気に入りの定位置の中からこの場所を選んだのだろうかと。

「で、何の用なの?」

黙り込んだユアンに向かい、は振り返る事無く話を切り出した。

「・・・聞かなくても、大体は察しているんだろう?」

「まぁ・・・ユアンがマーテルに押されて、私のところに派遣されたんだろうって事ぐらいは」

サラリとの口から紡がれた言葉に、ユアンはうっと言葉を詰まらせる。

確かにその通りなのだが、はっきりと言われると複雑なものもあった。

「ねぇ、ユアン」

にっこりと微笑んで説得係を任命したマーテルの事を思い出し打ちひしがれていたユアンを、が呼んだ。

それに顔を上げると、空を仰ぎ見ていたがゆっくりとした動作で振り返る。

そうして、ポツリと一言。

「・・・愛してる」

「・・・・・・は?」

真剣な表情で衝撃的な言葉を投げかけたを、ユアンは呆気に取られたように口をぽっかりと開けて視線を返した。

すぐにその言葉の意味を理解して顔を真っ赤に染め上げたユアンは、しかし次の瞬間その色を青へと変える。

マーテルの顔と、クラトスの顔が交互に脳裏を過ぎった。

半ば混乱気味のユアンに向かい歩き出したは、ピタリとすぐ前で足を止めて少しばかり高いユアンの顔を見上げる。

そして・・・どうしたものかと困惑の色を惜しみなく表情に浮かべるユアンを見詰めて、勢い良く噴出した。

「ご・・・ごめん。そんなに真剣に悩まれるとは思ってなかったから・・・」

クスクスと笑みを零すを見下ろして、ユアンは一瞬何がなんだか解らなかったけれど、すぐにからかわれたのだと察して強張っていた体から力が抜ける。

悪いと思っているからか懸命に笑みを堪えているが、ともすれば腹を抱えて笑い出しそうなを、ユアンは憮然とした表情で見返した。―――怒りたいところだが、最近では見られなかった笑顔を見れた事に怒気が殺がれていく。

暫く笑い続けていたは、漸く笑みを引っ込めて目尻に浮かんだ涙を指で拭うと、不機嫌そうに自分を見下ろすユアンを見詰めた。

「・・・って、この間クラトスに言われたのよ」

「・・・は?」

突然の話題転換についていけず声を上げるユアンを、は目を細めて見上げる。

「だからね。この間・・・クラトスに『愛している』って言われたのよ」

「クラトスにか!?」

思わず声を荒げたユアンに、しかし動じた様子のないは冷静に肯定した。

「だけど、私・・・よく解らなくて・・・・・・」

再び呆気に取られるユアンをそのままに、は独り言のように呟く。

何が解らないのかと視線だけで問うと、困ったように微笑む。

「『好き』の定義が」

「・・・定義?」

鸚鵡返しに問うユアンに、は無言で頷く。

「解らないの。何処からが恋なのか」

遠くを見るような眼差しを浮かべるを、ユアンも同じように無言で見詰めた。

「私はマーテルもミトスもユアンも好き。だけどそれは友だちとして・・・仲間としての好きだと思うの。だけどクラトスの言う好きは、友達としてではないのでしょう?」

「ああ」

「それが解らない。向けられる感情も・・・そして私がクラトスに向けている感情も」

そこで言葉を切って、遠く広がる景色を目を細めて見つめる。

抱きしめられたあの夜に見た、クラトスの微笑が瞼の裏から消えない。

自分を包み込む腕の強さや、好きではなかった人の温もりが心地良くさえ思えた事。

破裂しそうなほど早鐘を打った、自らの鼓動と。

耳にずっと響き続ける、低い心地良い声。

『私はお前を愛している』

その言葉を思い出すだけで、更に鼓動が早くなる。

もしかしたら・・・好きなのかもしれないと、心の底でそんな事を思う。

マーテルに対しても、ミトスに対しても、ユアンに対しても、こんな風に心臓が早鐘を打ったりした事など無いのだから・・・これが恋という感情なのかもしれないと、漠然とだがそう思った。

しかしそれを、素直に認める事が出来ないでもいた。

その『恋かもしれない感情』を抱いた相手が、人間だったからだ。

そんな事は関係がないと・・・クラトスはそんなものを越えて信用できる人物だと解っていても、割り切る事が出来ない。

つい先日人間に受けた暴力が、尾を引いていると自覚はしていた。

憎んでも憎みきれないほどの相手。―――それと同じ種族である、クラトス。

このままではいけないと思いつつも、どうして良いのか解らない。

ぐちゃぐちゃと色々な考えが浮かび、混乱しかけていたを宥めるように、優しく頭を撫でる感触に気付いて頭を上げると、そこには困ったように微笑むユアンの顔があった。

「お前は色々と難しく考えすぎだ」

「・・・・・・そう、かな?」

「ああ。大抵の答えは、結構シンプルなものだったりするぞ?」

軽い口調で言われ、はふと我に返った。

そしてこの一週間の間に、クラトスが浮かべていた沈んだような表情を思い出す。

また、同じ事の繰り返しだ。

何ヶ月も前に、森の中でクラトスを拒絶した夜。

あれほど後悔し、二度とこんな事はしないと誓ったというのに・・・自分はまた同じような事を繰り返しているのだと知って、罪悪感が湧き出てくる。

「答えはシンプル・・・か」

ユアンの言葉を繰り返して、俯いたは苦笑する。

そうなのかもしれないと・・・そんな事さえ言われなければ気付けない自分が、どうしようもなく情けなく思えた。

「私・・・クラトスと話してみるよ」

苦笑を浮かべたまま顔を上げて、ユアンの顔を見上げる。

「・・・そうか」

「うん。まだ気持ちの整理はつかないけど・・・。でもまぁ、このままでも気持ちの整理がつくとは思えないし・・・ちょっと荒療治だけどね」

肩を竦めて笑うと、再びユアンが頭を撫でた。

子ども扱いなそれに少し憮然としつつも、混乱した心が穏やかになっていく気がしたは、されるがままに身を任せる。

「じゃあ、行って来い」

頭を撫でていた手は背中へと回り、押し出すように軽く叩いた。

「うん、行ってくる」

それに微笑を返して、は森の中へと足を踏み入れる。

クラトスに会って、最初に何を言おうか。

そんな事を考えながら、は歩みを進めた。

 

 

しかしこれは果たして幸運だったのか、それとも不運だったのか。

森に入って数分経った頃、何の前触れもなくとクラトスは顔を合わせた。

ユアンによって背を押されたと、マーテルによって背を押されたクラトス。

お互い顔を見合わせて、唐突な相手の出現に目を丸くした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

なんだかユアンが弱い・・・というか、マーテルが強いのか?(笑)

ミトスがほとんど名前だけで登場がなかったりとかしていますが、一応次回で最後です。

不器用で奥手で鈍い2人は、周りに背中を押してもらわないと進展できないのです。

すっごいじれったいですが、まぁ本編もそんな感じなので4000年経っても2人は変わらないんでしょうね。(笑)

作成日 2004.11.28

更新日 2008.11.19

 

戻る