ふと目を開けると、映ったのは見知らぬ天井だった。

真っ白な、染み一つない天井。

ゆっくりと瞬きをして、ゴロリと寝返りを打つ。

スプリングの効いたベットは心地良く、まだ醒め切っていない睡魔が猛烈な勢いで襲ってくるのを感じた。―――そうしてそれに逆らう事無く、身を任せて目を閉じる。

しかしあと数秒で眠りにつくという段階に達した時、まるでそれを遮るかのように大音量のブザーが辺りに響き渡った。

「・・・・・・煩い」

不愉快だという表情を全面に押し出して、二度寝を諦めたはゆっくりと身を起こした。

 

自由への逃避行

 

薄暗い牢屋の中に放り込まれたロイド達は、一様に口を噤んでただ呆然と座り込んでいた。

救いの塔から自分たちを助け出したのはレネゲードと名乗るディザイアンによく似た組織で、そしてその組織の首領である以前顔を合わせたことのあるユアンという青年から、衝撃の事実を聞かされた。

最後の封印の解放からここに連れて来られるまで色々な出来事があり、正直何がなんだか解らないほど彼らの頭の中は混乱している。

世界の指導者であるクルシスと、人々を虐げるディザイアンが同じ組織であったこと。

神子は女神マーテルの復活に捧げられる生贄であったこと。

完全に天使化した神子は、マーテルの器にされるのだということ。

シルヴァラントには対になるもう一つの世界・テセアラが存在し、そしてその二つの世界を作ったのが、クルシスの指導者でありディザイアンのボスでもあるユグドラシルなのだということ。

レネゲードはそんなクルシスに対抗する組織であることと、その目的が女神マーテル復活の阻止であること。

そして・・・ずっと仲間だと思っていたクラトスが、自分たちを裏切っていたという事実。

事の大きさに、訳が解らなかった。

ずっと信じていた世界再生の真実が、こんな残酷な事だったなど・・・。

もう何を信じれば良いのか、何を信じてはいけないのかその判断が下せない。

まるで世界の全てが敵のように思えた。―――もう何も、信じる事が出来ない。

ロイドはチラリと横目でコレットの様子を窺う。

虚ろな眼差しで、ただ虚空を見詰めるコレット。

もう笑顔を見る事も声を聞く事も出来ないのだろうかと、そう思うだけで言葉には言い表せないほどの焦燥と絶望が胸を支配する。

「・・・これから、どうするんだい?」

静寂の中に、しいなの沈んだ声が響いた。

声に引かれるようにのろのろと顔を上げると、辛そうに顔を歪めながらも先に進もうという意思を秘めたしいなの姿がある。

唐突にロイドは思った。―――今までそれに考えが及ばなかったのが、不思議なくらいだ。

いつもしいなと共にいたは、自分たちとは違う別部屋に捕らえられているのだ。

どうしてだけが離されたのかは不思議だけれど、その事実に誰よりも苦しんでいるのはしいなだろう。

心配という言葉だけではすまない。

今にも飛び出して助けに行きたいくらいのはずだ。

「・・・どうするったって」

しいなの問いに、ロイドは言葉を濁らせる。

どうすると問われても、どうしようもない。―――どうして良いのか、名案など簡単には浮かんでこないのだから。

最初からそれを承知の上だったのか、それともロイドの態度でそれを察したのか、しいなはきゅっと口を結び、決意の光を目に宿してロイドに向かい提案した。

「・・・テセアラに行かないかい?」

「テセアラに?」

唐突な提案に、ロイドだけでなくリフィルもジーニアスも目を丸くする。

「ああ。コレットの症状なんだけど・・・もしかしたらテセアラでなら治す方法があるかもしれない。テセアラの研究機関じゃあクルシスの輝石についても研究されてたし、可能性はゼロじゃないと思うんだ」

しいなは自分が知り得る限りの情報をかき集めて、目を丸くする3人に説明をした。

こんな時にがいてくれれば・・・としいなは心の中で歯噛みする。―――膨大な知識を持ちゼロスの護衛でもあったは、協力を申し込まれ研究所へ通っていたゼロスと共に様々な研究を目の当りにしてきた筈だ。

自分のように『かもしれない』という曖昧な答えではなく、きっとちゃんと筋の通った説明をしてくれるだろうに・・・と。

しいなの提案に何かを考え込んでいたリフィルは、小さく溜息混じりに呟いた。

「それしかないようね。レネゲードはコレットだけではなく、何故かロイドも狙っているようだし・・・。このままここに居るのは得策ではないわ」

「でも・・・どうやってテセアラに行くの?確か次元が違うから行き来は不可能だって言ってたよね?」

リフィルに次いでジーニアスが不安げな声色でしいなに問うた。

「あたしがこっちに来た時は、レアバードってやつを使ったんだ。それに乗って次元の裂け目を通り抜けて、シルヴァラントへ来た。ちょうどここに安置されてる筈さ」

そう言ってしいなは踵で床を数回叩く。

囚われてしまっている事を差し引けば、今の状況はそう悪くはない。

テセアラに行く為にはレアバードを使うしかないのだ。―――そのレアバードを所有しているのはレネゲードだけであり、そこの本部に忍び込もうというならばそれこそ容易にはいかない。

その点牢屋に入れられているとはいえ、本部内に入ってしまっているのだから、後は牢屋を脱出して格納庫へ辿り着くだけ。―――物は考えようだ。

「テセアラに行けば・・・コレットは元通りに戻るんだな?」

「断言は出来ないけど・・・言っただろ?可能性はゼロじゃないって」

念を押すロイドに、しいなは先ほどの言葉を再び繰り返す。

しかしロイドにはそれで十分だったようだ。―――先ほどまでの暗い顔を一変させて、やる気に満ちた表情を浮かべてニヤリと笑う。

「よし、テセアラに行こう!!」

4人はそれぞれ顔を見合わせて、しっかりと頷き合う。

「それは構わないとして・・・はどうするの?まさか置いていくなんて・・・」

「そんな事するわけないだろ!?」

リフィルの質問に、しいなはみなまで言わせず遮るように声を荒げた。

それは当然予想された事であり、リフィルは動じず「なら、どうするの?」と更に質問を投げかける。

探しに行く暇などなかった。

ただでさえ格納庫への道が解らないというのに、更に何処に囚われているのか解らないを探し回っている余裕などない。

の方はコリンに頼むよ。なら脱走するくらいわけないだろうし、コリンにあたしたちの伝言を伝えてもらって、格納庫で落ち合う事にしよう」

考えがなかったわけではないらしい。

しいなはすぐさまコリンを召喚しその旨を伝えると、身体の小さなコリンは鉄格子をスルリと潜り抜けて長く続く通路を疾走して行った。

「これで良し。それじゃ・・・」

「ああ。俺たちも脱出するか!」

ロイドとしいなが顔を見合わせて、ニヤリと口角を上げる。

直後、何かを吹き飛ばす轟音と共に、レネゲード本部内に緊急事態を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

一向に鳴り止む気配のないブザー音に顔を顰めながら、はベットから抜け出しその縁に浅く腰を下ろした。

小さく溜息を吐き出して、グルリと部屋の中を見回す。

見覚えのない部屋ではあったけれど、置かれている調度品などを見ればここがどれほど豪華な部屋なのかということは解る。―――救いの塔での危機から自分たちを救い出した面々を思い出して、ここが何処で誰の部屋なのかの大体の予測はついた。

「・・・なんとも、面倒臭い展開に発展したものね」

言葉通り面倒臭そうに呟いて、はもう一度溜息を吐き出す。

呑気に構えてはいるが、今のの頭の中は混乱を極めていた。

次々に起こった出来事に、そしてこれから予測されるだろう状況。―――考えれば考えるほど頭が痛くなってくる気がする。

とりあえず今の状況を把握しておきたいんだけど・・・と心の中で呟いたと同時に、唐突に誰かが部屋の中に駆け込んできた。

「・・・っ!気がついたのか!?」

部屋の中に駆け込んでくるやいなや、ホッとしたように表情を緩める青年を見て、は丁度良い人物が来てくれたと内心安堵する。

「・・・久しぶり、ユアン。3年ぶりかしら?」

未だブザー音が鳴り響く室内に、の柔らかな声が混じって消えた。

にっこりと微笑むに、ユアンの顔が驚愕に歪む。

「・・・お前」

「出来れば、私が記憶を失っていた2年間の出来事を教えてくれると有り難いのだけど」

「やはり、記憶を取り戻したのだな!?」

小走りで近づき強く肩を掴むユアンをベットに座った状態のまま見上げて、は更に笑みを深くする。

言葉はなくとも、それが答えだった。

今のには、ユアンにとって懐かしい雰囲気がある。―――記憶を失っていた時の不安定なものではなく、しっかりと揺るぎない存在感。

問い掛けるまでもなかった。

「一体、何時記憶を?」

「つい、さっき。救いの塔での出来事を目の当りにしてからよ」

サラリと答えて苦笑する。

いくらなんでも記憶を取り戻してて知らないふりなんかしないわよ・・・と言葉を続けて、自分の肩を掴むユアンの手をやんわりと退けると、は更に言葉を続けた。

「それで?私が居なくなった後のクルシスはどうなったの?何か変化はあった?」

重ねられる質問にユアンも苦笑を浮かべる。

そしてベットに腰掛けるから少しだけ離れると、近くにあった椅子を引き寄せてそこに腰を下ろした。

「お前がウィルガイアを去ってからの3年間に、これといった変化はない。ただ2年ほど前からお前からの報告が一切途絶えた事で、ユグドラシルの機嫌は最低に近かったがな」

「・・・それはそれは」

ユアンの言葉を、は茶化したように笑う。

それくらいは簡単に想像がついていたからだ。

「お前の身を案じて、ユグドラシルは何度かテセアラに偵察を差し向けたようだ。ただその偵察は二度とユグドラシルの元には戻って来なかった。結果的に消息が知れないことから、お前は今行方不明中として処理されている」

「・・・私の身を案じて、ね」

ポツリと呟いて、は自嘲気味に笑った。

それが真実ではない事を、は知っている。―――いや、ユグドラシルにしてみればそれは間違いなく真実なのだろうけれど。

ユグドラシルはの身を案じているのではなく、が自分を裏切ることを懸念しているのだ。

彼をそんな風にしてしまったのは、自分たちが原因だということも解っている。

だからこそ、悔しくもあり悲しくもあった。

黙り込んだを不審気に窺うユアンの様子に気付いて、誤魔化すようにニコリと微笑む。

「ああ。言われてみれば、それらしきやつらが来たかも・・・」

よくよく思い出せば、偵察と思われる何人かを見た記憶があった。

勿論その頃のには過去の記憶などはないわけだし、それが本当に偵察かなど確かめてもいないのだから真相は定かではないけれど、明らかに常人とは違う何人かが自分の前に現れた事は確かだ。

しかしその頃はゼロスの命を狙う暗殺者も多く、きっとその偵察はゼロスの暗殺者として始末されたのだろう。―――まぁ、どちらにしても自分たちに害をもたらす相手といえばそれまでなのだが・・・。

何気なく呟かれたの言葉に、ユアンは驚きに目を見開く。

「記憶を失っていた時の事も、覚えているのか!?」

窺うように質問され、はしっかりと頷いた。

記憶を取り戻せば、記憶を失っていた時間の出来事は忘れてしまう。―――記憶喪失になった時の副作用的にそういう説が囁かれているが、それが本当なのかそれともの場合は特殊だったのかは定かではないけれど、はしっかりと記憶を失った2年間の出来事も覚えていた。

「しっかりと覚えてるわよ」

少しだけ声色を低くして、はユアンを見据える。

咄嗟に身体を強張らせたユアンに、不敵な笑みを向けた。

「ハイマでクラトスを襲った暗殺者が、誰なのかって事もね」

「・・・・・・」

から発せられる冷たい空気に、ユアンはそのまま後ろに下がりたい気分になったが、生憎と椅子に座っている為にそれは失敗に終わった。

「そんなに警戒しなくても、私は何も言いはしないわよ。以前貴方に言ったでしょう?私は貴方の邪魔をするつもりはないって。貴方がクラトスを殺したいと願うなら、私にそれを止める権利なんてないわ」

の口から発せられた思いもよらない言葉に、ユアンは驚きを通り越して呆気に取られた。―――まさかこんな答えが返って来るとは夢にも思わなかったからだ。

「・・・クラトスが死んでも構わないと?」

慎重に問い掛けると、は静かに目を閉じて薄く笑う。

「殺されれば、クラトスもそれまでの男ということでしょう?」

「お前は・・・クラトスを愛していたのではなかったのか?」

クラトスの味方をするつもりはなかったけれど、咄嗟にユアンの口から零れた言葉には僅かな怒りが含まれていた。―――鋭い視線を受けて、は閉じていた目をゆっくりと開く。

そこに浮かんでいたのは、ユアンが向けるよりももっと鋭い光。

怒りを通り越して、それは物悲しささえ感じさせた。

「じゃあ、私がクラトスを愛していると言えば・・・―――クラトスを殺さないでと懇願すれば、貴方はそれを止めてくれるの?」

「・・・それは」

「もう仲間同士で争わないでと言えば、それを聞き入れてくれるの?」

「・・・・・・」

全ての感情を押し殺した静か過ぎる声に、ユアンは何も言葉を返す事が出来ずに口を噤む。

それが叶えられない願いなのだということを、ユアンは自覚している。―――そしてそれはも同様なのだろう。

だからこそ、今まで何も言葉にしなかったのか。

戸惑ったような表情を浮かべるユアンを見据えて、は淋しげな笑みを浮かべた。

「そんな事、不可能なんでしょう?今まで私が何を言っても、誰も・・・貴方もクラトスもユグドラシルも、聞いてはくれなかった」

「・・・・・・」

「だったら、言うだけ無駄よ。私・・・無駄な事はしない主義だから」

「・・・

もうユアンにはの名前を呼ぶことしか出来なかった。

答えるべき言葉など思いつかない。―――言葉を並べれば並べるだけそれは作り物めいていって、決しての心には届かない。

再び静まり返った室内に、ブザー音だけが空しく響き渡る。

それが何を意味するのか、は気付いていた。

眉を寄せて悔しげに俯くユアンから視線を逸らして、はさてこれからどうしようかと思案する。

記憶を取り戻したのなら、ウィルガイアに戻るという選択が妥当なところだろう。

おそらくは自分の姿を救いの塔でユグドラシルに目撃されているだろうし、時間が経てば時間が経つほど、後々の自分の立場も状況も悪くなる一方だ。

けれど簡単にその結論が下せるほど、は地上に未練がないわけではなかった。

このまま地上に居続けるという選択肢も存在するだろう。―――クラトスは未だの記憶が戻った事を知らないだろうし、ユグドラシルにの事について質問されたクラトスは、が記憶喪失である事を伝えてくれるに違いない。

その後庇ってくれるかどうかは定かではないが、それくらいはしてくれるだろうという確信もある。

問題はその行動に対する利益と被害だ。

どう動けば一番良いか。―――これからの為、動き出した世界の為、そして己の望みの為にどの道を選ぶのが最善なのか。

そして、今自分が一番望んでいるのは何なのかということ。

全てのことを頭の中で整理しながら、ゆっくりと思案する。

結論は呆気ないほど簡単に出た。―――自分が今一番望むこと。

その答えを出したと同時に、何かが部屋の中に飛び込んできた。―――それは甲高い声でベットに座るの名前を呼び、勢い良く飛び掛かる。

「うわっ!!」

!やっと見つけた〜!!」

「・・・・・・コリン!?」

思わずベットの上に仰向けに転がったの上に圧し掛かるようにして、その小さな物体・・・コリンは歓喜の声を上げる。

!しいなからの伝言を伝えに来たよ!!」

可愛らしい仕草で首を傾げて、の耳元に口を寄せると声を潜めて何事かを呟く。

しいなからの伝言を受け取ったは、突然の出来事に呆然とするユアンを尻目にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「・・・なるほど。状況は大体解ったわ。ごくろうさま、コリン」

自分の任務を無事終えたコリンは、一安心したようにの腕に収まる。

ゆっくりとベットから身を起こしたは、漸く我に返り何事かと腕の中の生き物を凝視するユアンに微笑みかけ、独り言のように呟いた。

「たまには不利益に関わらず行動してみるのも良いかもね」

もともとの性格も勿論あるだろうが、長く生きるにつれて考え方が保守的になっている事実も否めない。

全ての行動に理由と、そしてその後の保証を無意識に考えてしまう。

まだ自分の外見が年相応であった頃は、こんな考え方などしていなかったのに・・・と少し淋しい気持ちになって、しかし今はそれを壊してでも思うままに行動してみようという気持ちも確かに生まれていて、はそんな自分に喜びすら感じる。

自分は確かに変わった。―――変われたと思える。

それは間違いなく、彼らのお陰であると断言できるから。

はコリンを腕に抱いたまま、ベットから立ち上がった。―――それにつられるように向けられる視線に、は真正面からユアンを見据える。

「・・・何処へ行く?」

もう全てを理解しているだろう声色で問い掛けるユアンに、は無言でただ柔らかな笑みを向けた。

ただ微笑んだだけのを前に、しかしユアンは動けなくなる。

確かに記憶を取り戻している筈なのに・・・―――それなのにどうしてかつてのとは違っているのだろうか?

そんな疑問が、不意に沸き起こった。

何かが変わったと確信を持って言える。

しかし何が変わったかと聞かれれば、それに明確な答えは出せない。―――それほど曖昧な変化でも、ユアンの動きを止めるのには十分だった。

「貴方は、自分の信じる道を行くのでしょう?ならば私も、私が望む結果を得る為に行動する。私は貴方の邪魔をするつもりはない。―――ただし、貴方にも私の邪魔はさせないわ」

キッパリと言い切り踵を返したの背中を見詰め、ユアンは咄嗟に立ち上がると部屋を出ようと扉の前に立ったに声を掛ける。

「お前の・・・お前の望みとは一体なんだ?お前は一体、何を望む?」

困惑を隠し切れない声色に、は満面の笑みを浮かべて振り返った。

「それを、人に教える気はないわ」

悪戯を考える子供のような笑顔にユアンはもう何も言えなくなり、今度こその後ろ姿を見送り立ち尽くした。

 

 

ユアンの私室を飛び出たは、辺りを見回しながら無機質な通路を疾走する。

幹部のプライベートルームだからか、他のレネゲードの姿は見かけなかった。

「この建物の構造だと・・・・・・こっちにエレベータがありそう」

大体の予測をつけて突き当たった角を右に曲がると、そこに目指す物が存在した。

ビンゴと小さく呟いて、素早くそれに乗り込むと目的の場所のボタンを押す。

目指すはしいなたちが向かっているだろう場所。

レアバードが安置されている、格納庫へ。

ガタンと小さく揺れながら、小さな箱はとコリンを乗せて滑らかに地下へと沈んでいく。

暫くの移動の後、エレベータは軽い音を立てて停止し、ゆっくりと扉が横に開いた。

目の前に広がるのは、広い広い格納庫。

「格納庫に直通か。・・・私ってついてるかも」

ボソリと呟き、エレベータから飛び出しキョロキョロと辺りを見回した。

そこにしいなたちの姿はまだない。―――今何処らへんにいるのかは解らないけれど、まだここには辿り着いていないようだ。

加えてレアバードという貴重品を安置している場所であるというのに、見張りの姿もなかった。

おそらくは脱走したロイド達を捕らえる為に狩り出されているのだろうが、それはそれで好都合だとはレアバードに駆け寄る。

「・・・何してるの?」

「ちょっと確認をね」

の腕から肩に移動したコリンが、不思議そうにレアバードを触るを見る。

「ああ、やっぱり・・・」

小さく呟いて、辺りを見回したは設置された巨大コンピューターを見つけて今度はそちらに駆け寄った。

「・・・?」

「空間を渡る為のエネルギーが空だわ。これじゃあテセアラには渡れない。とりあえず応急処置程度でもエネルギーを補充しておかないと・・・」

ぶつぶつと何事かを呟くにコリンはとうとう質問を諦めて、クルリと尻尾をの首に巻いて楽な体勢でコンピューターを眺めた。

「・・・・・・良し。とりあえずはこれで」

!!」

暫くの間無心でコンピューターを弄っていたが納得したように息をつき手を離した瞬間、背後から大音量の呼びかけと共に何かの衝撃を感じて、思わずコンピューターに激突した。

「・・・・・・ちょっと、あんたねぇ」

「無事だったんだね、!!」

が文句を言おうとした矢先、背中に圧し掛かる人物とは違う幼い声がの耳に届いた。

背中の人物をそのままに振り返れば、安心したようなジーニアスの姿がある。―――その後ろにはロイドとリフィル、それに今は天使化して人形のようにただロイドの後を着いてくるコレット。

「良かった。合流できなかったらどうしようかと思ったよ!」

ロイドもジーニアスと同様に安心したように笑顔を浮かべる。

しかしその穏やかな雰囲気をぶち破って、数人のレネゲードが格納庫に突入してきた。

「感動の再会は後にして・・・とりあえずここから逃げましょう。ぐずぐずしていればまた捕まってしまってよ」

「あ、ああ。そうだな!え〜っと・・・肝心のレアバードっていうのは・・・」

「あそこよ」

はレアバードを指差して、ロイドを促す。

よし、じゃあ行こう!と勢い良くレアバードに向かい駆け出したロイドの後に続いて、はしいなを背負ったままレアバードの元へと駆け寄った。

「ほら、しいな。何時までもくっついてないで、貴女も自分で乗りなさい」

「あ、ああ。悪かったね。あんたの無事な姿を見たら、つい・・・」

「私も。またこうしてしいなたちと会えて良かったわ。コリンに感謝しないとね」

未だに肩に乗るコリンに視線を送って微笑むと、コリンが誇らしげに胸を張る。

「そうだね。ありがとう、コリン」

「どう致しまして」

1人と1匹の遣り取りを微笑ましく見詰めながら、はレアバードに乗り込んだ。

「コリン。しっかりと捕まっててよ」

「う、うん!」

返事と共に、首に巻きつく尻尾の力が微かに増す。

それを確認してから、先に飛び出したロイドを追ってレアバードを発進させた。

殿!!」

背後から聞こえた声に視線だけで振り返れば、既に遠くに見える格納庫にボータの姿がある。―――その姿にヒラヒラと軽く手を振って、はしっかりと前を見据えた。

次元の裂け目を抜けて、強風に煽られながらも目を開ければ、そこに広がるのは見慣れた大地。

既に懐かしいと思えるほどの時を過ごしたそこには、そう思わせてくれるほどの思い出をくれた青年がいる。

今、彼はどうしているのだろうか。

もう一度会いたい。

そう心の中で願いつつ、は吹き付ける風に身を任せて幸せそうに微笑んだ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

何回も書き直して、漸く完成。(した割にはこの程度)

予想以上に長くなってしまいましたが。

なんか段々しいなのキャラが可笑しくなっていくような気がするんですけど、こんなしいなでも大丈夫なんですかね?(聞くな)

作成日 2004.11.8

更新日 2009.2.25

 

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