無事次元の裂け目を抜けテセアラに到着した一行は、レアバードに乗り快適な空の旅を満喫していた。

そう、この時までは。

幾ばくかも飛ばないうちに機体はグラリと揺れを起し、その揺れは次第に激しくなり段々と高度が下がっていくのが解った。

「な、なんだぁ!?」

ロイドの驚愕の声に引かれるように計器に目をやったは、すぐさま諦めの溜息を吐き出して軽く首を横に振る。

「ああ、駄目。燃料不足だわ。これは墜落するわね」

やっぱりあの短時間じゃ十分な燃料補給は無理だったかと呑気に呟くに、言葉もなく目を剥くリフィル。

「んな、呑気に言ってる場合かぁ〜!!」

ロイドの叫びを辺りに響かせながら、レアバードは呆気なく墜落した。

 

新たなる冒険の始まり

 

ドカンと大きな轟音と共に、視界を遮るほどの土煙が舞い上がる。

辛うじて大破を免れたレアバードの機体から、それぞれの操縦者が命からがら抜け出てくるのを見ていたのは、天使の羽で事無きを得たコレットただ1人だった。

「し、死ぬかと思った」

ボソリと呟き地面に力無く座り込んだしいなを眺めて、同じく地面に座り込んだが乾いた笑みを浮かべる。

「それ、前にも聞いた気がするわ」

確かウンディーネと契約を結んだ時だったっけ?と軽い口調で言って、なんだかシルヴァラントに行ってからそういうの増えたわよねと言葉を続ければ、誰のせいだと言わんばかりの視線を投げかけられ、は軽く肩を竦める。

確かにウンディーネ契約の際はしいなを騙して連れて行ったという前科がある為反論の余地はないが、同じ死ぬ思いをするなら墜落よりも契約の方が何倍もマシだと心の中で呟く。

「今回は私のせいじゃないわよ」

「そりゃ解ってるけどさ・・・」

それでも納得がいかないと言いたげに頬を膨らませるしいなの隣に、同じくレアバードから抜け出てきたロイドが座り込んだ。

「か、考えようによっては、これはこれで滅多に出来ない体験だよな・・・」

自分を納得させるようにしみじみと呟くロイドを見て、は乾いた笑みを浮かべる。

そのセリフも前にしいなから聞いた気がする。―――共に旅をするようになって何度か思っていたけれど、ロイドとしいなは意外と気が合うのかもしれないとは思った。

「・・・それで、これからどうするの?もうレアバードは使えそうにもないけれど」

普段冷静なリフィルが動揺を押し隠しながら座り込む3人に声を掛ける。―――完全に動揺は押し隠しきれてはいないが、あの墜落を体験してこれだけ平静を装えているのは流石だとそれぞれが口には出さずに思った。

「ああ、そうだね。これからどうしようか・・・」

しいなが力無く呟く。

リフィルのレアバードに対する理論から、シルヴァラントの世界再生が成った事によるテセアラのマナ不足が墜落の原因ではないかと結論が出た。

だからこそ、その不足分のマナを補充してやれば、またレアバードは大空を飛ぶ事が出来るだろうと。

しかし残念ながら、その補えるだろうマナを持つヴォルトとの契約をしいなは終えていない。―――その事実に、を省いた一同が揃って首を傾げる。

「しいなはこの世界の人間なのに、この世界の精霊と契約を結んでないの?」

ジーニアスの悪意のない素朴な疑問に、しいなは言葉を詰まらせる。

「しいなが今契約を結んでるのは、コリンとウンディーネだけよ」

助け舟のつもりでがそう発言するが、今度はリフィルが口を開く。

「何故、召喚の技術を有しているのに、精霊と契約をしなかったの?」

その言葉に、しいなは今度こそ身体を強張らせた。

しいなの様子に一同は気付いていないようだが、明らかに様子がおかしいしいなを見ればすぐに感づかれるだろう事は明白だ。―――それを口にするのは、今はまだ辛いだろうと察し、はゆっくりとした動作で立ち上がるとそこから見える景色を目に映す。

「別に召喚の技術を持っているからといって、精霊と契約を結ばなくてはいけないということはないでしょう?精霊との契約は、そんなに簡単な事ではないんだし。それにしいなはあくまで符術士なんだから・・・―――それよりも」

強引に会話を打ち切って、高い山の上から見える景色を指差した。

の指差す先には、遠目からでも解るほど大きな街が見える。

「メルトキオが見えるって事は、多分ここはフウジ山ね。それほど距離はないわ。不幸中の幸いって所かしら?」

「・・・メルトキオ?」

「テセアラの首都よ。王様が住んでる・・・―――私たちが貴方たちを連れて行こうと思っていた場所よ」

ロイドの質問に丁寧に答えて、は未だ座り込んだままのしいなの腕を取って立たせる。

「あと数時間で日が暮れるわ。それまでに山を降りてしまいましょう。山を降りれば夜営に適した場所もあるし・・・」

ここはモンスターが多い場所だから、夜営には向かないのよねと言葉を続けて、未だメルトキオの街を眺めているロイド達を促した。

「レアバードはどうするんだ?」

「置いていくしかないでしょう」

「そうね。動かない以上、これを抱えて行くのは不可能なのだから」

の決断に、リフィルが賛同して頷く。―――珍しい物を置いていかなければならない事に残念がるロイドだが、2人の言葉通り持っていくことは出来ないことは解っているのでそれ以上は何も言わなかった。

ぞろぞろと山道を降りるロイドたちの後ろを歩きながら、しいなは小さな声でに向かい声を掛ける。

「・・・帰ってきたんだね、テセアラに」

しみじみと呟かれる言葉に、は曖昧に微笑んだ。

「・・・・・・そうね」

の口から出た肯定の言葉に、しかしその声色が沈んでいる事にしいなは気付く。

「・・・大丈夫さ、きっと」

抽象的な言い回しに、はただ無言で遠くに見えるメルトキオの街並みを眺める。

レネゲードのシルヴァラントベースを飛び出た時のあの幸せな気持ちは、嘘のように消えてしまっていた。―――高揚感も、既に引いてしまっている。

にあるのは、気まずい感情のみ。

メルトキオに戻った時の・・・そしてそこで会う事になるかもしれない青年の反応を思うと、足取りも重くなっていく。

あれほど会いたいと思っていたのに・・・―――そして今も強く会いたいと願っているのに、心とは裏腹に気分は晴れてはくれなかった。

「大丈夫さ・・・絶対」

再び繰り返された言葉に、はそうだと良いけど・・・と言葉を濁して溜息を吐いた。

 

 

適度に休憩を挟みつつ、一行はメルトキオを目指す。

レアバードが墜落してから一日半後には、漸くメルトキオの門前に辿り着いた。

ほとんど初めて見る大きな門構えに呆然と立ち尽くしているロイドとジーニアスを放置して、しいなはテセアラに来た晩に夜営した時密かに用意していた手紙を懐から取り出し、それをリフィルに手渡す。

「・・・これは?」

手紙を受け取ったリフィルは、差し出したしいなを見返して問い掛ける。

「これは王様への手紙さ。あたしがシルヴァラントに行った後の状況と、あんたたちの事情を書いておいた。これを見せれば王様はきっと協力してくれる」

「・・・・・・もしかして、貴女は一緒に来ないの?」

リフィルの少し不安そうな表情に、しいなは申し訳なさそうに頷いた。

いくらリフィルが冷静で気丈な女性だとはいえ、全くの見知らぬ土地に放り出されるのは不安だろう。―――寧ろ大人だからこそ、不安を感じる筈なのだ。

「あたしは里に戻って、副頭領に報告をしないといけないからね。結局あたしは神子暗殺っていう任務に失敗したわけだし・・・」

バツが悪そうに呟くしいなに、門を見上げていたロイドが振り返った。

「それって・・・大丈夫なのか?」

「大丈夫・・・かどうかは解らないけど、これはあたしが選んだ事だからね」

潔くそう言葉を告げるしいなを、ロイドとジーニアスは心配げに見詰める。

その視線を受けて、しいなは心配ないってと明るい笑顔を浮かべた。

「しいな。・・・私も付いて行こうか?」

その一部始終を見守っていたが、控えめに声を掛ける。―――それはしいなが心配だという思いも勿論含まれていたが、それとは違う思いも確かに含まれていて、それが解らないほどしいなは鈍くは無かった。

「あんたにはやらなきゃいけないことがあるだろ?」

キッパリと言い切られ、は困ったように微笑む。

まるで何時もと立場が逆だと、真剣な表情を浮かべるしいなを見ては思う。

しいなはもう決意しているのだ。―――例えどれほどの罰を与えられても、それを受け入れると。

それなのにこの期に及んでまだ逃げようとしている自分が、酷く情けなく思えた。

「・・・そうだね。私も頑張らなきゃね」

「ああ。頑張ろう、お互いに」

顔を見合わせて挑むように表情を引き締める2人を見て、事情の判らない3人は揃って顔を見合わせ首を傾げる。

「ともかく、あたしはそろそろ行くよ。メルトキオのことはの方が色々詳しいから、案内してもらったら良い。王様にも顔が効くし、がいれば大丈夫さ」

そう言って軽く手を振り、一瞬で姿を消したしいな。

残された言葉の意味を知るべくに視線を向けるが、それはあっさりと交わされてしまった。

「王様に顔が効くって・・・貴女たちって一体何者なの?」

探るような視線を向けられて、は軽く肩を竦める。

「しいなはともかくとして・・・。あたしはただの一般人よ。知り合いが『ただの』一般人じゃないだけの話」

の言葉に訳が解らないという表情を浮かべるロイド達を促して、メルトキオの門を抜ける。

そこにはシルヴァラントでは見たことがないほどの、広大な街並みが広がっていた。

ロイド達にとっては珍しい・・・にとっては懐かしさを感じさせる場所。

暫くはキョロキョロと辺りを見回すロイドを放置して街並みに魅入っていただったが、すぐに先ほどのしいなの決意に満ちた眼差しを思い出して漸く心を決める。

「私・・・ちょっと用事があるの。少し時間を貰えるかな?」

「そうね。ここは貴女の故郷なのだものね。挨拶に行きたいところもあるでしょう」

の用事を察したリフィルが、了解したと頷く。

正確に言えば、ここは私の故郷ではないんだけどね・・・と心の中だけで否定して、は感謝の言葉を述べて目的の場所がある方向へと視線を向けた。

「ロイド達は暫くの間、街の観光でもしててくれる?そうね・・・1時間後に王城の前で落ち合いましょう。王城はこの階段を上った先にあるから」

「ああ、解った」

頷くロイドに微笑みかけて、はその後ろに無言で佇むコレットを見る。

歩み寄って、さらさらのコレットの髪を優しく撫でた。

「すぐに王様のところに連れて行ってあげるから・・・―――だから少しだけ待っていてね、コレット」

「・・・・・・」

勿論返事は返っては来ない。

コレットの状態の責任が自分にもあることを思い出してしまった今、罪悪感を感じるというレベルではない悔しさが胸の中に広がった。

本当に、ごめんね。

謝ってすむ事ではないけれど・・・と心の中で謝罪を繰り返しながら、はコレットの頭から手を離す。

「それじゃ、一時間後に」

「ああ、またな」

はロイド達と別れて、歩き慣れたメルトキオの道を辿る。

広場を抜けて貴族たちの屋敷が立ち並ぶ住宅街へ足を踏み入れたは、そのまま目的の屋敷を目指し歩き続け、そうしてこの辺りでも一番大きな屋敷の前で足を止めた。

「・・・またここに帰って来るとは思わなかったな」

苦笑気味に呟いて、そびえ立つ屋敷を見上げる。

手を離したのは、自分だ。

何も言わずに去ったのは、自分なのだ。―――拒絶されても、文句など言えるはずがない。それでもまた受け入れて欲しいと願うのは、自分勝手すぎるだろうか?

「・・・よし」

気合を入れて、ドアノブに手を掛ける。

どんな罵詈雑言を受けても、それは仕方がないから。

せめて元気な姿を一目でも見たい。―――それだけで良いから・・・。

は強く決意を固めて、重厚な扉を押し開けた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

微妙な場面で終わってみたり・・・。

なんかグダグダとやってますが・・・いい加減にしろとか思いつつ、やっぱりグダグダ悩ましちゃいますね。(笑)

やっぱり本編の会話はこの辺うろ覚えです。

まぁ大体の意味が通じてれば良いかなと開き直ったり。(オイ)

本編上この後の展開が丸見えですが・・・。(笑)

作成日 2004.11.9

更新日 2009.3.25

 

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