「なぁ〜んか、何処見ても同じ景色で飽きちまうなぁ・・・」

一行は今、シルヴァラントへ帰るべく墜落したまま放置されたレアバードの回収を行う為に、フウジ山を登っていた。

囚われ連行された3人を救出した後自分の所へ来て欲しいと、ロイド達は同じく王立研究院の地下に閉じ込められていた所を助けてくれたケイトという女性に言われたらしく、すぐにサイバックに戻ろうと言ったのだけれど、場所の位置を考えて先にレアバードの回収に行った方が効率が良いというゼロスの提案を受け入れる形で、今回の登山は決定した。

緑の少ない岩が剥き出しになったフウジ山は、お世辞にも景色が良いとはいえない。

最初こそ意気揚々と山道を歩いていたロイドも、中腹まで来た頃にはすっかり飽きてしまっていた。

「・・・ロイドってホント、飽きっぽいよね」

ロイドの言葉に、ジーニアスが諦めたように溜息を零した。

 

の戦い

 

「到着〜!!」

フウジ山に足を踏み入れて約半日。

漸く頂上に辿り着いたロイドは、鬱憤を晴らすように大声でそう叫んだ。

高い景色が望めるだけの、他には何もない場所。―――そこには一行が墜落した時と同様に所々破損したレアバードが数機転がっている。

「・・・それで、どうやってレアバードを回収するつもり?」

はしゃぎ回っているロイドを呆れたように見詰めた後、リフィルが唐突にそう切り出した。

そもそもここに来た決定的な理由は、ゼロスの『レアバード回収の手段がある』という言葉がきっかけになったからだ。

「まーまー、そう慌てなさんなって!」

軽い口調でそう言ってから、ゼロスは出し惜しみするかのようにヒラヒラと宥めるようにリフィルに向かい手を振る。―――そんな動作に気付いて、ロイド達もゼロスの側に集まってきた。

「とっとと出しなさいよ」

「へいへい。ちょっとは決めさせてくれても良いってのに〜」

ゼロスの隣で呆れた眼差しを向けるに、ゼロスは残念そうにポケットに手を突っ込んだ。

そうしてその手を出そうとしたその瞬間。

「うわっ!なんだ!?」

唐突に上がったロイドの声に、ポケットに手を突っ込んだゼロスの動きが止まる。

一体何事だと思案する間もなく唐突に場に耳障りな音が響き、半透明な壁のようなものがロイド達の周りに出現した。

囲うように出現したそれに咄嗟に添えた手には確かな感触があり、軽く叩いてみるけれど消える素振りはない。―――どうしてこんな所にいきなり壁が?とロイドが首を傾げると、その場に聞き覚えのある声が響いた。

「ははは、あっさりとかかったか」

声と同時に岩陰から姿を現したのは、空色の髪を一つに束ねた見目麗しい青年。

「・・・・・・ユアン?」

はたっぷり間を空けて、青年の名前を呼んだ。

どうしてこんな所にいるのかとか、その登場の仕方はどうなのかとか色々突っ込みたいところはあったけれど、いきなりの登場には思わず呆気に取られる。

ユアンの言葉から推測するに、レアバードを回収に来た一行を捕らえるべくこの場にいるようだが、彼はロイド達が此処に墜落してからずっと、何時来るかも解らないロイド達を待ち続けていたのだろうか?

何となく釈然としないものを感じ、がユアンに向かい声を掛けようとしたその時、その場にユアンのものとは明らかに違う女の甲高い笑い声が響いて、は即座に眉を顰めた。

視線を巡らせば、ユアンが立っている場所とは反対方向に、際どい服に身を包んだ女が口元に手を当てて楽しそうに笑っている。

一体なんなんだとが思っていると、それを彼女が問う前にユアンとプロネーマがお互い顔を見合わせ驚きに目を見開いた。

どうやらお互いがこの場にいることは、図ったことではなく偶然らしい。

2人が交わす会話の断片から、プロネーマはコレット回収の為ロイド達の動向を探り、同じくユアンもロイドを手に入れる為、罠を張っていたと。

偶然なのだとはいえ、それが上手く重なってしまったことには思わず額を押さえた。

突然の登場に呆気に取られているロイド達を放置して、ユアンとプロネーマは勝手に2人で会話を進めていく。

「なんか・・・とんでもねー事になっちまったな」

「まぁ、とんでもない事には違いないケドね」

そんな2人を見てまるで他人事のように呟くゼロスに、も同じように返す。

ともかくユアンとプロネーマの意識がこちらに向けられていない内にと、はどこかにあるだろう自分たちを捕らえた罠の解除スイッチを探すべく視界を巡らせた。

必ずあるはずだ。―――それも近くに。

でなければ罠の外にいるコレットはまだしも、罠の中にいるロイドを連れて帰ることなど出来ないのだから。

辺りを探っていたは、その解除スイッチを難なく見つけることが出来た。

出来た・・・が、当然ながらそのスイッチがあるのは壁の外。

コレットに解除を任せたいところだが、今のコレットには何を話し掛けても無駄だという事は解りきっている。

ユアンがロイドを連れて帰る際に罠を解除する時まで待つという選択肢もあるが、そうすればほぼ間違いなくコレットはプロネーマに連れ去られてしまうだろう。

さて、どうしたものか・・・とが思案し始めた頃、ユアンとプロネーマとの間で打開策が決まったようだった。

「わらわはコレットを連れ帰り、貴方はロイドを連れ帰る。お互いこの件に関しては介入しない。―――それでよろしいか?」

「良いだろう」

商談成立とばかりに、2人は顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべる。

そんな勝手な・・・と思わず突っ込みたくなるが、突っ込んだところでどうなるわけでもないだろうとはただ溜息を吐き出すだけに留めた。

「ならば、コレットはこちらに・・・」

ぐずぐずしているつもりはないのか、ユアンとの話し合いが解決した後すぐにプロネーマはただ人形のようにその場に立つコレットに視線を移す。

「コレットに近づくな!!」

ロイドがあらん限りの声で叫ぶけれど、プロネーマは煩そうに視線を送っただけで何も言わずにコレットに歩み寄った。

そしてふと、コレットの首に掛けられているものを見咎めて、不快げに表情を歪める。

「なんじゃこれは・・・。こんな不細工な要の紋を取り付けて・・・」

呆れと嘲笑を顔に浮かべて、プロネーマはコレットの首に掛けられたロイドからのプレゼントでもある要の紋を取り外そうと手を伸ばす。

そうしてそれがコレットの首から外されそうになったその時、今まで何の反応も見せなかったコレットが伸ばされたプロネーマの手を遮るように払った。

「・・・っ!?」

「これは・・・ロイドが私にくれた・・・誕生日のプレゼントなんだから・・・」

コレットの口から、言葉が声となって紡がれた。

虚ろだった眼差しはしっかりとした意思を宿し、目の色も本来の色である青色へと戻る。

マナの守護塔以来のコレットの声に一同が呆然としていると、ハッと我に返ったコレットが目の前に立つプロネーマの姿に驚き咄嗟に一歩後退った。

しかししっかりと足元を確認していなかった上、大きな岩がそこらにゴロゴロと転がるフウジ山の山頂の地で、お約束と言えばお約束・・・―――称号どじっ子の名は伊達ではなく、コレットは見事岩に足を取られて尻餅をつくようにその場に座り込んだ。

「きゃあ!」

「・・・あ」

コレットの軽い悲鳴と共に、ガチンと何かが破損する音が響く。

「コレット!!」

「エヘへ・・・また転んじゃった」

ロイドの驚いたような声に、コレットは恥ずかしそうにはにかむ。―――それと同時に再び耳障りな音を立てて、ロイド達を拘束していた透明な壁が一瞬で姿を消した。

「・・・あれ?壁が消えた?」

「コレットが・・・ああ、うん。まぁ・・・とりあえずは結果オーライって所かしら?」

何かを言いたげには口を開きかけるが、とりあえずわざわざ説明する程のことかと思い直して乾いた笑みを浮かべる。

ただ1人、しいなが呆れたような怯えたような複雑な表情を浮かべていたけれど、そこは見なかったことにしてそのまま流した。

「コレット!元に戻ったんだな!!」

「うん!ロイドのおかげだよ!ロイドの・・・誕生日プレゼントのおかげ」

コレットは嬉しそうに、胸元の要の紋を服の上から押さえ微笑む。

それを微笑ましく眺めながら、すぐにそんな場合じゃない事を思い出して、は先ほどから何の発言もしなくなったユアンとプロネーマの様子を窺った。

見れば、2人は明らかに動揺している。

今まで滞りなく進んでいた計画が、コレットの稀に見るドジっぷりで無に帰したのだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

ともかくも、今は現状をどうするかが一番の問題だ。

「ロイド、コレット。感動の再会は後にして・・・とりあえずこっちに来て」

静かな口調で声を掛け、現状を思い出したロイドがコレットを背後に匿うようにしてユアンと対峙する。

「おいおい、。お前一体何する気だ?」

隣に立ち状況を見ていたゼロスが、心持ち低い声色でに話し掛けた。

それにチラリと視線を送って、はにっこりと微笑む。

「何するも何も、相手に退く気がないならこっちから退かせる以外方法はないでしょう?平原ならまだしも、此処は山の上なんだし・・・こっちが逃げ切る前に追いつかれるのは目に見えてるもの」

「そらまぁ、そうだろうけど・・・」

ゼロスの同意の言葉を耳に、は少しづつ移動を始める。

その動きに気付いた一同が、意識はユアンたちに向けたままチラリと窺うようにの姿を目で追った。

「ロイド。この人は私に任せてもらっても良いわ。だからユアンは貴方で何とかして」

「任せてって、いくらでも1人じゃ・・・」

「平気だってば」

安心させるようにとは笑顔を浮かべるけれど、ロイドはそれを鵜呑みにはせずに更に言葉を濁す。

本当に大丈夫なんだけど・・・とこっそり心の中で呟いた時、思考を遮るようにしてゼロスがの側へと寄った。

「だーいじょうぶ!このゼロス様がしっかりとを守ってやるからさ」

「・・・なおさら心配なんだけど」

「やっぱ可愛くねーなぁ・・・」

即座に突っ込んだジーニアスに、ゼロスは恨めしげな視線を投げつける。

それを読み取ったのかは定かではないが、ゼロスと同じようにしてプレセアもまたの側へと寄った。

しっかりとその手に斧を構え、プロネーマを見詰めている。

その行動に驚きつつも、やれやれと肩を竦めては微笑んだ。

「・・・というわけだから」

「ああ、解った。そっちは任せる」

ゼロスとプレセアが付いたことにより、漸くロイドも納得したらしい。―――すぐさま結論を出してロイドは剣を構えるとユアンに向き直った。

「・・・さて、と」

気を取り直すようにポツリと呟いて、は改めてプロネーマを見る。

「とりあえずコレットを渡すつもりはないから、どうしても退かないっていうなら力ずくで掛かっておいで。―――・・・おばさん」

ニヤリと口角を上げて挑戦的な視線を向け放った言葉に、プロネーマのこめかみがピクリと痙攣した。

一瞬引きつった顔をが満足そうに見ていると、それを隠すように何でもない風を装ってプロネーマはあからさまな笑みを浮かべる。

「どうやら言葉を知らん輩のようじゃのう・・・」

「あら?私は見たまま素直な感想を口にしただけだけれど?」

明らかに強張った声色で話すプロネーマとは違い、は至極楽しそうに言葉を返す。

「・・・ほほほ」

「・・・ふふふ」

殺気の篭った視線を放ち心の篭らない笑みを零すとプロネーマ。

その場だけ急激に下がった温度に、ゼロスは強張った笑みを顔に貼り付けて思わず身を震わせた。

「おんしのような小娘に、大人の魅力は理解できぬと見える」

「際どい服を纏って身体を晒すのは構わないけれど、もうそろそろ限界なんじゃない?度が過ぎれば見ている方にも目に毒よ・・・色々ね」

「ふん、それは僻みかえ?出る所も出ていないような色気の欠片もないおんしが哀れで仕方ないわ」

プロネーマの言葉に、今度はがピクリと片眉を上げる。

どうやら触れられたくない部分に触れられたらしい。

「・・・良い度胸してるじゃない。私に喧嘩を売るなんて・・・」

「それはこちらのセリフじゃ。よくもまぁ、好き放題言うてくれたな」

本能的に即座にそう言い返したけれど、プロネーマはある事に気付いて僅かに動揺を見せた。

先ほどのの言葉の言い回し・・・―――気のせいかとも思ったが、向けられる含みを帯びた視線で自分の考えが外れてはいないことを悟った。

の記憶は、戻っている。

ならばどうしてコレット奪回を阻むのかはプロネーマには解らなかったけれど、が何を考えていようとプロネーマにはどうでも良かった。

未だ記憶喪失を装ってウィルガイアに戻って来さえしなければ、この際どうでも。

プロネーマにとって、は何よりも邪魔な存在なのだ。

唯一ユグドラシルが心を許す相手。―――がユグドラシルの側にいれば、今以上に自分の事など見てはもらえないという事を、プロネーマは知っていた。

だからこそ記憶を取り戻しただろう事に追及はしない。

そう自分に言い聞かせ、プロネーマは気を取り直したかの様に再び笑みを浮かべた。

「ただの護衛風情が・・・。わらわがおんしを恐れる理由がどこにある?」

自分が気付いている事を察しているだろうに、牽制の意味も込めてそう言う。

その意味を正確に汲み取って、も不敵な笑みを浮かべた。

「ただの護衛風情だと甘く見ていると・・・痛い目を見るわよ?」

「ほほほ、口だけは達者のようじゃのう。わらわとて、ディザイアン五聖刃の長としてのプライドがある。負けるつもりはない」

ニヤリとお互いが口元に笑みを浮かべて、睨み合う。

暫しの沈黙の中、プロネーマはあまりの寒い空気に口を噤んでいたゼロスに目を留めて、何かを企むように更に笑みを深めた。

「ほう・・・今度は隣の若造に目を付けたのかえ?ずいぶんと頭の中が軽そうな輩に目をつけたものよ」

「それどういう意味だよ!俺様ショック〜・・・」

唐突に話題を向けられただけではなく酷い言い様に、ゼロスはわざとらしく肩を落とす。

そんなゼロスを放置して、は同じく笑みを深めてプロネーマを見やった。

「良い歳こいて、見た目自分よりも断然若い相手に熱を上げるよりはマシだと思うけど?頑張って化粧で隠してるつもりだろうけど、隠し切れてないわよ・・・皺」

の言葉に、今度こそ笑顔を消してプロネーマは固まった。

「な・・・言うてはならぬ事を・・・」

わなわなと握った拳を震わせ、地を這うような低い声でそれだけを呟くプロネーマに、勝ったとばかりにはにっこりと微笑む。―――すぐさま顔を上げたプロネーマの目には、激しい憎悪が宿っていた。

「おんし、今日という今日は許さ・・・っ!?」

搾り出すように声を発したプロネーマは、しかし次の瞬間言葉を飲み込み襲い掛かった何かを避けるべく一歩退いた。

ゆっくりとこめかみを流れる冷たい汗をそのままに、目の前の少女を見詰める。

「・・・プレセア?」

「・・・・・・敵、捕捉。殲滅します」

ポツリと呟き、再び斧を構える。

一体いつの間に・・・とか、どうしていきなり好戦的になったのだろうかとか色々気になる事はあったけれど、すぐさま危ないと思い駆け寄ろうとしたその時。

「・・・・・・っ!!」

声無き悲鳴を上げて、先ほどまで臨戦体勢に入っていたプレセアが瞬時に吹き飛ばされた。

わざとなのか自分の方へと飛んできたプレセアを無事受け止めて、鋭い視線を吹き飛ばした張本人であるプロネーマに向ける。

「貴女ねぇ・・・。こんな小さな子供に向かって大人気ない」

「相手が何であれ関係ないわ。向かってくるものは返り討ちにする。―――それが当然であろう?」

厭らしい笑みを浮かべて、嘲るようにプロネーマは言った。

五聖刃の長と言うだけあり、プロネーマの実力は高い。―――プレセアが弱いというわけでは決して無いが、今の彼女が単独でプロネーマに戦いを挑み勝てるとは思えなかった。

「ゼロス。プレセアをお願い」

「は?お、おうよ」

の腕に抱き抱えられたプレセアを受け取って、嫌な予感を感じゼロスはと少しだけ距離を取った。

僅かに滲み出る殺気に、背筋が凍る。

「初めて気が合ったわね。私も貴女の意見に賛成よ。歯向かうものにはお仕置きが必要だわ」

ニヤリと笑みを浮かべて、はプロネーマに向かい駆け出した。

走りざまに剣を抜いて、その勢いのまま斬り付ける。―――予想通りその攻撃は避けられたけれど、は間髪いれずに身を低くしてプロネーマの足を払った。

素早い攻撃に対応出来なかったプロネーマは、グラリと体勢を崩す。

そこにすかさず当身を食らわせて、仰向けに倒れ込んだプロネーマの上から圧し掛かるようにしてその動きを封じた。

剣を咽元に突きつけ、呆然と目を見開いて自分を見上げるプロネーマを見下ろし冷たい笑みを浮かべる。

「そろそろ、自覚してもらわないとね」

感情の篭らない低い声色でそう呟き、は微かに目を細める。

「・・・何をじゃ」

「私に喧嘩を売るって事の意味を、よ」

先ほどまでの余裕など微塵も感じられず、僅かに怯えた様子を見せるプロネーマには冷たい声色のまま呟いた。

「私はね、気は長い方だけど・・・それでもいつまでも邪魔な相手を放置しておくタイプでもないのよ」

「・・・・・・」

「色々、余計な事をしてくれたわよね。今まではまぁ、大目に見てあげたけどさ」

言葉もなくただの次の言葉を待つプロネーマを見下ろして、は殺気を放ち剣を構え直した。

カチャリと柄の部分が小さな音を立て、無防備な首筋に刃が当たる。

少しでも動かせば、ただではすまないだろう。―――それを察したプロネーマは動く事が出来ず、息を殺しての表情を窺った。

冷たい表情。

普段浮かべているものとは、全く違う・・・―――例えるならば、それはまるで死神のような。

「・・・様」

「嫉妬に駆られて、私が何者なのかも忘れていたというの?貴女の愛するユグドラシルと同等の力を持ち、死の女神と称される私を?貴女もずいぶんと愚かな人だったのね」

蔑みの視線を向けて、はその口元から笑みさえも消した。

唇を噛み締め悔しそうに表情を歪めたプロネーマに、は思わず見惚れるほど綺麗な笑みを浮かべて耳元で小さく囁く。

「ユグドラシルの事は忘れなさい。彼は決して貴女を見たりはしない」

「なっ!!おんしには関係ないであろう!!」

突然の宣告に咄嗟に声を荒げたプロネーマを見据えて、しかしは困ったような笑みを浮かべプロネーマの首元から微かに剣を退けた。

「彼の事は、諦めなさい。ボロボロになる前に。それが・・・貴女の為よ」

先ほどの冷たい声色とは違う気遣うような声に、プロネーマは訳が解らず訝しげにの顔を凝視した。

「わらわにとって何が一番か・・・それを決めるのはおんしではなくわらわ自身じゃ」

強い口調でそう言い放つと、は小さく肩を竦めて今度こそプロネーマの上から身体を退ける。

「ま、確かにその通りなんだけど・・・。一応は忠告しておこうと思ってね」

あっさりとした返事を返して、はプロネーマから少しだけ距離を取った。

その意図が読めない行動に、プロネーマは身を起こすと警戒するようにを見据える。

見せ付けられた圧倒的な力の差と、生きている心地さえ奪うほどの殺気。

鋭く冷たい・・・近づくもの全てを切り裂くような視線と、少しだけ垣間見せた慈悲の宿る眼差し。

そうして何時も通りの、何を考えているのか解らないおちゃらけた態度。

どれが本物で、どれが偽りなのか。

が何を言いたいのか・・・ー――言葉の裏に何を含んでいるのか、それを読み取る事が出来ず、探るような視線を向ける。

恐怖に竦んだ身体では再び攻撃を仕掛ける事も出来ず、ただ憎悪を宿した視線を向けるだけしか出来ないプロネーマの前に、突如眩い程の光が出現した。

少し離れたところで戦っていたロイド達とユアンも、その光に気付いて動きを止める。

全員が見守る中、その光は少しづつ眩さを消していき・・・―――そうして完全に光が消えた後その場に立っていたのは全員が良く知る人物だった。

 

 

「・・・クラトス」

突然目の前に現れた男の名を、は小さく呟いた。

少し前にメルトキオで会って以来だ。―――しかしクラトスはの呟きに気が付かないフリをして、ユアンとプロネーマにそれぞれ視線を向ける。

「ユグドラシル様がお前たちを呼んでいる。すぐに戻れ」

クラトスの言葉に、2人は僅かに身じろぎする。

突然現れ自分たちを無視するクラトスを相手に、ロイドも訳が解らず何も問えずにいた。

沈黙が落ちたその場で、最初に動いたのはプロネーマ。

ユグドラシルが呼んでいるというのだから、彼女としては誰よりも先に彼の元へと馳せ参じたいのだろう。

そんなプロネーマに、はロイド達には聞こえないほど小さく声を掛けた。

振り向いたプロネーマに向かい、にっこりと含むような笑みを向けて。

「さっき私がした忠告は、覚えているわね?」

「・・・・・・」

「今回は見逃してあげる。ただし、次に向かって来た時は・・・」

そこで言葉を切って、意味ありげに微笑みかけた。

その笑みを見て、プロネーマは背筋に悪寒が走るのを感じた。―――それは先ほど自分の咽元に剣を突きつけていた、死神の顔だったのだから。

少しだけ顔色を悪くしてその場を立ち去るプロネーマを見送って、はクラトスに顔を向ける。

同じようにとプロネーマの会話を聞いていたクラトスは、何か言いたげな目でを見返した。

「・・・何の話だ?」

「さぁ・・・何の話だったかな?」

向けられた問いに、は茶化すような軽い声色でそれを交わす。

そんなにクラトスは問う気力も失せて、その代わりに大きな溜息を零した。

「あまりプロネーマを脅かすのはやめたらどうだ?」

「あら?逆恨みもいいところの憎悪を向けられるんだから、ストレス発散ぐらいしてもばちは当たらないと思うけど?」

飄々とした態度でサラリと返すに、クラトスは諦めを含んだ溜息を再び吐き出す。

「・・・お前がプロネーマ相手に何をしようと構わないがな。だが、あまり派手な行動は慎む事だ。今のまま旅を続けたいのならな。これは・・・私の忠告だ」

「肝に銘じておくわ」

軽く肩を竦めて冗談交じりに返すけれど、クラトスの言いたい事が何なのかという事をはよく理解していた。

ユグドラシルに、記憶が戻った事を悟られてはならない。

逆を言えば、記憶を失っている間は泳がせてもらえるという事だ。―――クラトスがユグドラシルをどう説得したのかはには解らなかったけれど、事態はにとっては幸運な方へと転がっている。

そしてロイドの身を案じるクラトスにとっても、おそらくは彼の知る中で最高の実力を持つが側にいることは、これ以上ないほど安心だろう。

それを知っているからこそ、は自分を庇ってくれただろうクラトスに礼は言わなかった。

クラトスはそんなを見詰めて、僅かに苦笑を漏らす。

最後に一度視線を合わせて、クラトスはに背を向けた。―――そのまま状況を見守るユアンに声を掛け、その場から姿を消す。

「・・・な、なんだったんだ?」

突如静けさを取り戻したフウジ山山頂で、ロイドは気が抜けたようにポツリと呟いた。

いきなり現れて罠を張り、自分たちを拉致しようとしていたかと思えば、いともあっさりと退く。

その上、クルシスと敵対していると思われたレネゲードの首領であるユアンが、実はクルシスの一員であるような素振り。

一体何がどうなっているのか、訳が解らない。

混乱していることを悟ったのか、呆然とクラトスが消え去った場所を見詰めるロイドに向かい、が畳み掛けるように軽い口調で声を掛けた。

「ま、良いじゃない。とりあえず、コレットが元に戻ったんだからさ」

「・・・そう、だよな。コレットが元に戻ったんだから、とりあえずはそれで良いよな」

気を取り直したように笑顔を浮かべるロイドを見て、気楽だな〜とジーニアスが皮肉を漏らすけれど、その顔にも隠し切れない嬉しさが浮かんでいる。

「肝心のレアバードは持ってかれちまったけどな〜」

ちゃっかりとレアバードまで回収していったユアンに、は思わず苦笑を零した。

とりあえず何時までも此処にいても仕方がないと、再び半日掛けて山を降りる道すがら。

ゼロスが、隣を歩くを見下ろして尋ねた。

「お前・・・戦闘の最中、あのプロネーマとか言う奴と何話してたんだ?」

唐突に向けられた問いに・・・―――けれど質問されるだろうという事を予測していたは、大して慌てた様子もなくニコニコと笑顔を浮かべてゼロスの顔を見上げる。

「別に大した事じゃないわ。ただ・・・」

「ただ?」

鸚鵡返しに問い、小さく首を傾げるゼロスを見ては微かに含み笑いをして。

「ただ同じ女として、彼女が同じ過ちを繰り返さないよう忠告を促しただけよ」

「はぁ?」

訳が解らないと言うように声を上げるゼロスをそのままに、はプレセアの手を引いて山道を下り始める。

決して自分には向けられない愛情を、それでも得ようと己の身を削る。

そんな姿が、呆れるほど過去の自分と似ている気がしたから。

それはにとっては、不本意ではあるけれど。

「ちょ!待てって〜!!」

慌てて追いかけてくるゼロスの気配を背中に感じ、は自分を不思議そうに見上げるプレセアと視線を合わせて、困ったように微笑んだ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

プロネーマファンの方、どうもすみませんでした!(平謝り)

なんか扱いがとてつもなく酷いですが。そして口調が怪しいですが。(笑)

何度も何度も書き直した割にはこの出来。(どうなんだ、自分)

ちょっとギャグちっくを目指して玉砕。やっぱりギャグは難しいと悟りました。

何でこんなにプロネーマが出張ってんだとか、自分も不思議で仕方ありませんが・・・。(笑)

そしてユアンのいる意味が、ほとんどなかったり・・・。(駄目じゃん)

作成日 2004.11.16

更新日 2010.4.11

 

 

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