「これって本当に大丈夫なの?」

グランテセアラブリッジの側にある桟橋に集まり、海の上に浮かぶものに疑惑の眼差しを向けるジーニアス。

本人は隠しているつもりではあるようだが、水恐怖症のリフィルも表情を強張らせてそれを見詰めている。

「大丈夫なんじゃねーの?仮にも研究員たちが改造したって言うんだからよ」

「そうそう。大丈夫だって」

心配げな声色で不安を口にするジーニアスに、しかしゼロスは軽い口調で答えた。

しいなも同じくフォローを入れるが、誰一人としてエレカーに乗り込む人間はいない。

「いいから、さっさと乗りなさい」

何時まで経っても出発できない現状に焦れたが、強引に一同の背中を押して無理矢理エレカーに押し込んだ。

 

罪深き者の誓い

 

結論を言えば、改造エレカーは無事にその役目を果たした。

メルトキオ方面の大陸からエレカーに乗った面々は、それほどの時間も掛からずサイバック方面へと渡る事に成功する。

しかしエレカーから降りてきた一同の様子は、『無事』と表現するには少しばかり顔色が悪かったのも事実だ。

「き・・・気持ち悪い」

「だいじょぶ、ジーニアス?」

地面にへたり込んで必死に何かと格闘するジーニアスに、コレットが慌てて駆け寄る。

メンバーの中で比較的無事なのは、コレットとプレセアと・・・そしてだけだ。

同じくへたり込んでいたゼロスとしいなは、ケロリとした様子で一同を見下ろすを恨めしげに見上げる。

エレカーに問題は無かった。

問題があるとすれば、それは操縦者の方だ。

誰がエレカーを運転するのかという問題を議論する間も無く、勝手にがその役目に付いていた。―――ゼロスらも、ロイドが運転するよりはマシだと、その時は思ったのだ。

しかし実際は、ロイドの方が何倍もマシだったのではないかとゼロスは思っている。

そう思わせるほど、の運転は凄まじかったのだ。

まずスピードが尋常じゃないほど速い。

身体を押さえつけるような圧迫感を感じるほどのスピードで、エアカーは水上を走り抜けた。―――その際、航行している舟に激突しそうになるわ、グランテセアラブリッジの柱にぶつかりそうになるわ。

まるで生きた心地がしない、悪夢のような時間だった。

「まったく・・・だらしないわね、これくらいで」

「だらしないとか・・・そういう問題では・・・ないのではなくて?」

息も絶え絶えにリフィルが抗議の声を上げるけれど、は何処吹く風でにっこりと微笑みを浮かべる。

そうして至極当然だと言わんばかりに続けた。

「なに言ってるの。グループの半分はなんとも無いのよ?私だってプレセアだってコレットだ・・・」

「うわー!コレット、大丈夫!?」

の言葉を遮って、ジーニアスが悲痛な声を上げた。

それに少しだけ嫌な予感がして、はチラリと横目で声のした方を窺う。

そこには今の今まで平気そうな素振りでへばっていたメンバーの様子を見ていたコレットが、まるで眠っているのではないかと思えるほど穏やかな表情で綺麗さっぱり意識を失っていた。

「・・・

「・・・・・・私が悪かったわ」

恨めしげな視線と声色で名前を呼ばれて、は軽く両手を上げると今度こそ己の非を認めた。

 

 

暫くの休憩の後(休憩せざるを得なかった)気を取り直して、一行はサイバックへと向かった。

一応教皇騎士団がいないかどうかを街の外から確認するが、それらしき鎧の騎士たちの姿は見えない。

まだここまでは手が回っていないのだろうと判断して、騎士たちがこの街に来る前に事を済ませてしまおうと急ぎ足でサイバックに入る。―――が、サイバックの街に足を踏み入れたロイドは、その足をピタリと止め前方を見据えた。

「どしたの、ロイド?」

ロイドの後ろを歩いていたコレットが、不思議そうにロイドの後ろから前を見る。

そうしてそこにいた人物の姿に、コレットもロイドと同じようにその動きを止めた。

「・・・クラトス」

街の中からロイド達の立つ入り口に向かい歩いてくる、赤茶色の髪の男。

「お前、こんな所でなにやってんだよ!!」

「それをお前に説明する義務は無い」

ロイドの激しい声にも関わらず、クラトスは大して怯んだ様子もなく何時も通りの淡々とした口調であっさりと返す。

それが気に障ったのか・・・ロイドは更に声を荒げるが、クラトスはあっさりとロイドの横を通り抜け・・・―――そうしてチラリとコレットを横目で見て、静かな声で告げた。

「その出来損ないの要の紋を外せ」

クラトスの言葉に、コレットはビクリと身体を震わせる。

その意味するところがしっかりと理解できているのだろう。―――けれどコレットはクラトスをしっかりと見返し、首を横に振った。

「外さない。だってこれは、ロイドからの誕生日プレゼントなんだもの」

強い意志を感じさせるコレットの瞳に、クラトスは溜息を一つ零すとそれ以上何も言わずに一行に背を向ける。

そのまま去っていくクラトスを見詰めながら、ロイドは混乱したように悪態をついた。

一部始終を見守っていたは、クラトスの姿が見えなくなったと同時にひっそりと溜息を零す。

クラトスの言いたいことは、にも解っていた。

今出来損ないの要の紋をつけていることが、コレットにどういう影響を与えているのか。

しかしコレットが自分の意識を保つ為には、例え出来損ないであろうと要の紋は必要だ。

それが問題を先延ばしに・・・あるいはもっと悪い方向へと導いているのだとしても、今現在必要なのは、コレットが己の意識を保つ事なのだ。

、なにやってんだい?行くよ」

しいなに声を掛けられて、は我に返る。

見ればロイド達は少し先に進んだところで足を止め、不思議そうに立ち止まるを見ていた。

それに気付いたは慌てて足を踏み出しかけるが、不意に誰かの視線を感じ足を止める。―――そのままピタリと動きを止めて、ロイド達の元へと行きかけたしいなの後ろ姿を見詰めた。

「私、ここに残るわ」

唐突な申し出に、しいなが足を止めて振り返る。

「どうしたんだい、一体?」

「ほら、何時教皇騎士団が来るか解らないでしょう?私はここで彼らが来ないかどうか見張ってるわ。もし彼らがここに来たら、すぐに知らせに行くから」

そう告げて、にっこりと微笑む。

の言う言葉は正論であるだけに反対の言葉が出てこない。―――その上浮かぶ笑顔にどこか有無を言わせない威圧感のようなものを感じて、しいなは戸惑いながらもロイドへと視線を戻した。

ロイドはロイドで、そんな理由があるならなおさらを1人でここに置いていくわけにはいかないと口を開きかけるが、それが声になる前にゼロスの軽い声に遮られる。

「ま、いーんじゃねーの?ちゃんなら適任だし?」

「そういうこと。そんなに心配してくれるなら、さっさと行ってさっさと帰ってきてくれた方がありがたいわ」

ゼロスの思わぬ援護に続いて、もそう言葉を続けた。

2人に矢継ぎ早に提案され、ロイドも渋々ながら納得する。―――すぐに戻ってくるからと告げて、早く用を済まそうと踵を返した。

そんなロイドを満足げに見詰めていたは、チラリと視線をゼロスに向ける。

そこには浮かべていた笑みを消し、意味ありげな視線を向けるゼロスの顔。

何かを探るような・・・けれど少し不安そうな面持ちのゼロスを見詰めて、は何でもないかのように笑みを浮かべる。

するとゼロスは小さくため息をつき、乱暴に髪を掻き毟ると何も言わずにロイド達の後を追いかけて行った。

ロイド達の姿が完全に見えなくなるまで見送ったは、先ほどゼロスがついたため息よりも大きなものを吐き出し、疲れたように民家の壁に背中を預ける。

ロイド達はともかく、ゼロスには間違いなく怪しまれただろう。

具体的に何がとまでは解らなくとも、何かあるとは思われた筈だ。

話すわけにはいかない様々な事情を抱えているとしては、これ以上ゼロスに隠し事などしたくはなかったのだけれど・・・。

「・・・で、何の用なのよ」

再び大きくため息を吐き出して、先ほどから向けられている視線の主に向かい不機嫌そうな声で声を掛けた。

すると民家の影から1人の男が静かに姿を現す。―――それは、先ほど去ったと思われていたクラトスだった。

「やはり気付いていたか・・・」

「何言ってるのよ。わざと気付かれるように気配を放っていたくせに・・・」

飄々とした態度で呟くクラトスに、は呆れたような眼差しを向ける。

ロイド達が気付かなくとも、視線を向けられている・・・―――しかもクラトスと長い付き合いのが、どれほど微かでもクラトスの気配に気付かない筈がない。

「で、本当に何の用なのよ」

寄りかかっていた壁から身を起こし、傍らに立つクラトスと真正面から向き合う。

「近況を知らせておこうと思ってな。気になっていたのだろう?」

「それはご親切にどうも」

向けられた言葉に、はおどけた様子で言葉を返した。

今更『お前の顔が見たかった』などと言われるとはとて思っていないが、なんて色気のない内容なのだとひっそりとため息をつく。―――クラトスがそんなキャラではない事も十分解っているが。

この間メルトキオで会った時の出来事は一体なんだったんだと、内心毒づく。

目の前のクラトスの様子が以前と全く変わらない事に、僅かな苛立ちを感じる。―――何も変わらないほどなんとも思われていないのだと暗に言われているように思えて、ふつふつと怒りすら湧き上がってきた。

けれどクラトスの持ってきた近況が気になっていたのも事実で、表立って文句を言えない事がストレスとなって降り積もっていくのを感じる。

ユグドラシルがに対してどう出るのか。―――今はそれが一番重要なことなのだと自分に言い聞かせて堪えると、続くクラトスの言葉を待った。

「ユグドラシルは、お前が記憶喪失だと・・・―――記憶喪失だという偽りを信じた」

「・・・それで?」

「お前を強制的に連れ戻すという案も出たが、記憶を失っているお前を連れ戻しても余計な混乱を招くだけだと考え、支障が無い間はこのまま放置するという結論を下した」

「・・・そう」

クラトスの言葉に、は表情には出さずにホッと安堵の息を吐く。

ユグドラシルの出した結論にしてはこちらに都合が良すぎる気もするが、当面の時間は稼げたということだ。―――これでは、何の制限も無くロイドたちと旅を続けられる。

その考えが読めたのか、を見詰めていたクラトスがポツリと呟いた。

「ただし、定期的にお前の様子を見にくる監視は存在するがな」

付け加えられた言葉を苦く思い、は小さく笑む。

ユグドラシルの懸念が手に取るように解った。―――ほんの些細な出来事で不安になる彼が、可哀想で悲しい、とも。

けれど彼をそんな風にしてしまったのは自分たちなのだ。

もちろん、彼にも非が無いとは言わないけれど。

は胸に浮かんだそんな想いを押し殺し、気を取り直すように微笑んだ。

「それで、その監視役が貴方なのね?」

からかうようにそう言うと、クラトスの顔が複雑な表情に変わる。

こうも行く先々で会えば、そう思われても仕方が無い。

あのユグドラシルがクラトスにそれを命じた事は意外ではあるが、の予想に間違いはないだろう。

勿論、それだけではないだろうけれど。

しかしそれをわざわざ口に出す事をはしない。―――クラトスが何を考え行動していようと、今は口を出す時ではないと思ったからだ。

「ま、いいけど。この状況は私にとっては願っても無い好機なんだから。折角手に入れた時間は、有効に使わせてもらう事にするわ」

苦々しい表情を浮かべているクラトスから視線を逸らして、は再び壁に背中を預けると晴れ渡った空を見上げる。

後はこのまま、クラトスが立ち去るのを待つだけだ。

そう思っているのに、クラトスは一向にこの場から立ち去る気配を見せなかった。

が訝しげに視線を向けると、突き刺さるような鋭い眼差しが自分を見詰めている。

「・・・まだ、何か用でも?」

言外にさっさと去れという意味を込めて言い放つ。―――もしもクラトスと2人で居るところをロイド達に目撃されれば、厄介な事になるのは目に見えている。

しかし一向に動く気配を見せないクラトスに、少しづつのイライラが溜まってきたその時だった。

先ほどまでの気まずそうな雰囲気を消し、何時に無く真っ直ぐにを見据えて口を開いた。

「お前は一体、何を企んでいる?記憶を取り戻したお前が、何故記憶喪失の真似事を続けロイドと共に旅を続ける?お前はその先に、何を・・・」

「それを貴方に説明する義務は無いわ」

向けられた言葉を遮り、先ほど彼がロイドに向けて放った言葉をそのまま返すと、クラトスの表情は面白いほど歪む。

それを眺めて短く笑みを零したは、背中を預けていた壁から身を起こし、ほんの少し開いた距離を保ったままクラトスと向き合った。

「・・・と言いたいところだけど、特別に教えてあげるわ」

目を細め、嘲るような笑みを貼り付け、は悠然と口を開く。

「私はね、終わらせたいのよ」

「・・・終わらせる?」

「そう。気がつけばもう、4000年よ?あまりにも、長すぎたと思わない?」

一言一言言い含めるように告げ、は遠くから見ても解るほど口角を上げた。

主語の抜けた言葉に、クラトスはの言わんとしている事がなんなのかを考える。

終わらせる。

気の遠くなるような、4000年という長い時間を掛けて形作られたもの。

それを終わらせる簡単な方法を、クラトスは知っている。

そして今の自分は、それに己の全てを捧げると決めたのだ―――あの、十何年も前の日に。

「・・・コレットをどうするつもりだ」

の言葉から推測した結論に、クラトスは表情を歪めながら問い掛ける。

しかしそれに返って来たのは歪んだ笑みだけ。

それが己の問いの答えのような気がして、クラトスは強く拳を握り締めた。

「ユグドラシルに差し出すつもりか?お前は、ロイドたちの・・・」

「ユグドラシルとコレットを天秤に掛けさせるの?―――私に?」

返った来た静か過ぎる声に、クラトスは一瞬息を飲む。

クラトスが彼を裏切ろうとも。

ユアンが彼を裏切ろうとも。

たとえ、彼女が影ながら2人を守ってくれていたとしても。

が、ユグドラシルを裏切った事など一度も無い事を、クラトスは知っていた。

ユグドラシルとの間には、堅い絆がある。

それは長い時を経て、より一層強さを増した。

クラトスにさえも割り込めないほど強く―――そう、だからこそ彼は・・・。

呆然と立ち尽くすクラトスを見詰め、は薄く微笑んだ。

その笑みが過去の自身と重なり、クラトスは思わず眩暈を覚える。

咄嗟に頭を抱えたい気分に陥るが、不意に街の方から知った声が聞こえて来たことに気付いて我に返ると、何かを言いたげに口を開くが、時間が無い事を悟り何も言わずにその場を立ち去った。

〜!!」

「ただ〜いま!だいじょぶだった?」

その数瞬後、背後から掛けられた声に、クラトスを見送ったはゆっくりと振り返る。

「大丈夫。何も無かったわよ」

いつも通り、にっこりと綺麗な笑みを浮かべたは、自分を心配する仲間たちにそう告げた。

 

 

「なぁ〜にが、『何も無かった』だよ」

プレセアの現在の状態を治す為、アルテスタというドワーフに要の紋を作ってもらう事を提案したケイトの言葉に従いサイバックを出発した一行は、次なる目的地であるアルテスタの家を目指し歩みを進めていた。

その旅の途中、先を歩くロイド達の背中をぼんやりと見詰めながら、ゼロスは彼らには聞こえないほど小さな声で、隣を歩くに向かいそうぼやく。

すると同じく前を見据えていたは、目だけでゼロスを見上げ苦笑した。

「あれ?バレバレだった?」

「バレバレだっつーの。上手く笑顔作ってたつもりかも知んねーけど、お前の顔見慣れた俺まで誤魔化せるわけねーだろ?」

心外だとでも言いたげに肩を竦めるゼロスを見詰め、は困ったように微笑む。

彼よりも長い間共にいたクラトスは騙せて、どうしてゼロスは騙せないのだろうか。

性格といってしまえば簡単だが、少し複雑な思いでもある。

「んで、あのおっさんと何話してたのよ。つーか、あのおっさんとどういう知り合い?」

「そんなことまでバレバレなの?参ったなぁ・・・」

ゼロスの追及に、は苦笑しながら頭を掻く。―――しかしそれがの本心でない事はゼロスも気付いていた。

話す気がないのなら、は簡単に認めることなどせず誤魔化しに掛かるだろう。

それに騙されるつもりは到底無いが、だからといって誤魔化すから真実が聞ける自信は無かったけれど。

「あのおっさんとは、シルヴァラントで会ったのよ。最初彼はコレットの護衛として、再生の旅に同行してたの。そこに私としいなが奇襲を掛けたって訳」

あっさりとクラトスをおっさんと言い切り、は視線を前に向けたまま説明を始める。―――本人が聞いたら怒りそうな発言だが、幸いな事に今現在彼はここにはいなかった。

「ふ〜ん。・・・で、何話してたわけ?」

「ま、いろいろね。彼がサイバックにいた理由とか・・・」

「・・・理由?」

「クルシスの天使である彼が、コレットを前にして彼女に手を出さないなんて可笑しいでしょう?だとしたら考えられる可能性は1つ。彼はクルシスの天使としてではなく、彼個人としての用があってサイバックに足を運んだのよ」

「なるほど」

の説明に、ゼロスは手を顎に添え深く頷く。

「そんで、何でおっさんはサイバックにいたんだ?」

「そんなの、簡単に口を割るわけ無いじゃない」

いよいよ確信に迫ろうかという時、しかしはあっさりと言い切り肩を竦めた。

肩透かしを食らったゼロスは、乗り出していた身のままガクリと身体を落とす。

「・・・あのなぁ」

「最初から聞けるとは思ってなかったもの。とりあえず、探りを入れただけだから」

まぁ、の言う事にも一理あるのだが。

だからといって、期待してしまった以上、その反動は大きい。

「今は彼が他に目的があることだけ解れば十分よ。一度に全てを知ったって、多くの情報をすぐに理解するなんて出来ないんだから。―――特に、ロイド達はね」

含みを込めた視線を前方に投げかける。

そこには賑やかに騒ぎながら、旅路を行くロイド達の姿。

「・・・確かに」

状況が状況だけに騒いでなど居られない筈だというのに、どんな出来事が起きても能天気にマイペースに進む彼ら。

今は余計な事は言わない方が良いだろうと、ゼロスは思った。

「何やってんだよ、2人とも!置いてくぞ!!」

そんな視線に気付いたのか、不意にロイドが振り返り遅れを取っているゼロスとに声を掛ける。

「解ってるって!ほら、行くぞ

「はいはい」

ロイドの呼び掛けに、仕方ないと言いたげに・・・―――しかし軽い足取りで歩調を速めるゼロスの背中を見詰め、は微かに微笑む。

『終わらせたいのよ』

つい先ほど口にした、己の望みが心の内に響き渡る。

そう、終わらせたい。

終わらせるべきなのだ。―――こんな馬鹿げた事など。

は無表情で、前を行く者たちを見詰めた。

漸く訪れた時。

一度チャンスを逃してから、既に4000年が経ってしまった。

長い長い時の中で、少しづつ壊れゆく心が願った事。

もうすぐ、願いが叶うかもしれない。

その為なら何でもやる覚悟が、にはあった。

「・・・ごめんね」

自分に向けられる望みに応えてやれない事。

己の望みを叶える為に、歩き出してしまった私をどうか・・・。

誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟き自嘲の笑みを浮かべると、少し先で自分を待つロイドたちの元へとは歩き出した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

クラトスをおっさん呼ばわりして申し訳ございません。

あれ?可笑しいな?話がどんどん暗い方向に?的な展開に陥りつつありますが。

何でクラトス相手だと、こうなっちゃうんでしょう?

もっとクラトスと仲良くさせたいのにな〜。(このままじゃ無理そう)

作成日 2005.11.5

更新日 2010.10.3

 

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