プレセアの治療を施す為、アルテスタと呼ばれるドワーフの元に向かうロイド一行。

しかし目の前に広がる広大な森を前に、一行は乾いた笑みを貼り付けながら呆然とその場に立ち尽くしていた。

「・・・うわ」

ジーニアスが言葉にならない声を上げる。

「・・・気味悪いところだな」

「うわぁ〜、すごいねぇ!」

それに続くように、ロイドとコレットが場に似合わない明るい声で感想を述べた。

「そのアルテスタって人に会うのに、どうしてもこの森を抜けなきゃいけないわけ?」

「ああ。アルテスタさんの家は、オゼットの近くにあるらしいから」

同じく立ち尽くしながら誰にとも無く問い掛けたの声に、隣に立つしいながケイトから聞いた話を掻い摘んで説明する。

ああ、そう・・・と心ここにあらずもいい所な返事を返し、はしいなに向けていた視線を再び木々生い茂る森へと向けた。

一度足を踏み入れれば二度と出る事が出来ないと言われている、迷いの森・ガオラキア。

まさか自分が足を踏み入れることになるとは思わなかったと、プレセアをオゼットまで送り届けると言った張本人のは、他人事のようにそんなことを考える。

一行の心の内を表すように、気味の悪い雰囲気を漂わせた薄暗い森の中から奇怪な鳥が一羽、高い鳴き声を上げて飛び立った。

 

薄暗いの中で

 

何時までもこうしているわけにはいかないという、比較的この森に慣れているしいなの後押しにより、ガオラキアの森の入り口に到着してから約一時間後に漸く歩を進めた一行は、先ほどの張り付いた笑みをウンザリとした表情に変えて、目の前の騎士達と対峙していた。

何処に行くにしてもこの森を通らなければならない為、待ち伏せするのは比較的困難なことではないが、こんな所まで追って来るとは感心するべきなのかどうか・・・。

迷いの森だけでも厄介だというのに、こんな状況で見たい顔ではない事だけは確かだ。

「ご苦労なことね」

下卑た笑みを浮かべる教皇騎士団の騎士達を前に、は溜息混じりに呟いた。

「失礼します、神子さま」

「・・・教皇騎士団のお目見えとは。ずいぶんと熱烈なことで」

行く手を塞ぐように立ちはだかる騎士達を嘲笑うかのように、ゼロスはわざとらしく肩を竦めておどけてみせる。

そんなゼロスに、騎士達は更に笑みを深めて言葉を続けた。

「教皇さまは、貴方が大層邪魔なようですよ」

「んなこたぁ、ガキの頃から知ってるよ」

ピクリ、と反応を示したのはゼロスなのか、それともだったのか。

「ならば話は早い。―――神子さまには、ここで死んでいただきます」

相変わらずの態度を崩さないゼロスにそう言い放つと、騎士達はそれぞれ武器を構える。

警戒していたロイド達も、己の武器を構え戦闘態勢に入った。

一触即発の緊迫した雰囲気の中、騎士達が剣を持つ手に力を込めたその時。

我に大いなる大地の恵みを。―――ロックブレイク

静かな声と同時に、何の前触れも無く大地が騎士たちに襲い掛かった。

騎士達の悲鳴が響く中、突然の事に振り返ったロイド達の目に、一行の最後尾で悠然と笑みを浮かべるが映る。

その笑みはどこまでも美しく、そしてどこまでも冷たかった。

「・・・?」

初めて見る、の表情。

いや、一度だけ見たことがあると、ロイド達はかつての光景を思い出した。

いつも優しげに微笑み、余裕に満ちたが一度だけ見せた。―――レミエルと対峙した、あの救いの塔で。

あの時と同じ・・・―――否、今回はあの時と比べて余裕がある分、更に強烈に。

今まさに騎士達を倒そうとしていたロイド達は、突然の出来事に戸惑いながらに声を掛けるが、彼女はそれに気付いていないのか・・・冷たい笑みを浮かべたままロイド達の脇をすり抜け、地面に伏す騎士たちに歩み寄り投げ出された彼らの身体を踏みつける。

「今、機嫌が悪いのよ。残念だったわね」

いつもと変わらない口調に一瞬気を抜いたロイド達は、次の瞬間から発せられた鋭い気配に、再び身体を強張らせた。

「どうにも思い違いをしているようだから、一応忠告しておくわ。マーテル教会はね、神子の為にあるのよ。決して、教皇の為のものじゃないの。長い時を経る内に、そんなことも忘れてしまったのかしら?」

「・・・ちょ!!?」

あまりの豹変振りに、焦ったようにしいなが声を上げる。

しかしそれさえも耳に届かないのか・・・はたまた無視しているのか、は何の反応も見せずに言葉を続けた。

「ま、今までは見逃してきたけれど・・・そろそろ分をわきまえなさい。あんまり図に乗っていると・・・」

!!」

「スピリチュアの天罰が下るかもね」

静かに・・・しかし微かに怒気を孕んだ声でそう言い放った瞬間、は自分の身体に衝撃を感じハッと我に返った。

自分の両手を拘束するような手の感触に視線を巡らせると、左腕をゼロスが、右手にはプレセアが縋りつくように握っている。

それを確認したは、自分の行いに思わず眉を顰めた。

「その辺にしとけって」

耳元で囁かれたゼロスの声に、は身体に入っていた力をゆっくりと抜く。

そうして己を見詰めるロイド達の視線を感じ、失敗したと溜息を零した。

サイバックでクラトスと会い、短いながらも会話を交わした後のは、表面上はいつも通り振舞ってはいたけれど、明らかに苛付いていた。

その理由までは解らなかったが、それに気付いていたのは常に彼女と共にあり少なからず彼女を理解しているゼロスと、現在は人の心の変化に機敏になっていたプレセアだけだった。

そんな折の騎士の襲撃。

の苛立ちが頂点に達するのは簡単なことであり、彼女の様子から何かやらかすのではないかと心配していた意外に苦労人であるゼロスは、予想通りと言えばその通りの展開に思わず頭を抱えた。―――しかしまさかこれほどの事態になるとは思っていなかったが。

は自分を優しく拘束するゼロスとプレセアの手を解き、ゆっくりと振り返る。

驚きなのか、恐怖なのか。―――硬直し続けているロイド達を目に映し、はまるで何も無かったかのようにいつも通りの綺麗な笑みを浮かべた。

「ごめんなさいね。あんまりにも腹が立ったものだから、つい・・・」

「いや、ついって・・・」

いつもならばテンポの良いジーニアスの突っ込みも、心なしか元気がない。

それを見かねたゼロスが、大袈裟に歓声を上げて唐突にの肩を抱いて笑った。

「いや〜!俺様ってば、それだけちゃんに愛されてるって事!?」

「・・・は!?」

「俺様を狙う悪の組織から、我を無くすほど怒るなんて・・・俺様って罪」

呆れたようにポカンと口を開くロイドに構わず、ゼロスは髪を掻き上げ口角を上げる。

それを見ていたしいなが、疲れたように肩を落とした。

「あんた・・・馬鹿じゃないのかい?」

「しいな。ゼロスが馬鹿なのは、今に始まった事ではなくてよ」

「ひっで〜!そんなつれないこと言わないでよ、リフィルさま〜!!」

大声を上げてあからさまに落ち込むゼロスに、漸くその場の雰囲気がいつも通りのものへと戻る。

それにホッとして、は困ったように微かに笑みを浮かべて空を見上げた。

苛立っていたのは、本当。

けれどその苛立ちが抑えきれなかった事に、は自分自身驚いた。

昔ならばともかく、今となっては己の感情を抑える事に慣れきってしまったが、たかがあれしきの事で怒りを爆発させてしまうなんて・・・。

「・・・まいったわね」

苦笑交じりに呟き視線を落とすと、傍目には解らないほんの微かな変化だが、不安を表情に浮かべて自分を見上げてくるプレセアと目が合う。

安心させるようにプレセアの頭を優しく撫で、はいつになく柔らかい笑みを表情に浮かべて、言い合いを続けるゼロスたちを見詰めた。

彼らに出会ってからだ。

押さえ込んでいた感情が、己の意思とは関係無く表に出てくるようになったのは。

そつなく立ち回り、これ以上かつての仲間同士の関係が悪化しないよう・・・―――そして弱くずるい自分を見られないように、いつの間にか感情を押さえるようになってしまった

そんな彼女が、己の感情を素直に出せるようになったのは、テセアラで神子と呼ばれる青年と共にいるようになってから。

それが良い事なのか悪い事なのかは解らない。

ただは、今の自分がそれほど嫌いではなかった。

「ほら。何時までもじゃれてないで、さっさと行きましょう。ぐずぐずしてると、また騎士達に遭遇しちゃうわよ」

「・・・っていうか、原因はなんじゃ・・・」

わいわいと騒ぐゼロスらに声を掛ければ、ジーニアスの恨めしげな声が返って来る。

しかしそれさえも無視してプレセアの手を引き歩き出せば、残されたメンバーも慌てたように後を追って来た。

もう少し、このままで。

この場所はとても居心地が良いから。

いつか失ってしまう時が来るというならば、せめて今だけはこのままで。

心の中でそっと祈りながら、は森の不気味さなど忘れ去り意気揚々と自分を追い越し先を歩くロイド達を見詰め微笑んだ。

 

 

「・・・なんで、よりによって」

今現在、自分を取り巻く状況に、ジーニアスは頬を引きつらせて遠くを見やる。

待ち伏せしていた教皇騎士団の騎士達を倒し、なんとかガオラキアの森に入ったまでは良かった。

しかし当然の事ながら、教皇は森の中にも騎士達を投入していたらしい。―――森に足を踏み入れた直後から、騎士達の襲撃は始まった。

倒しても倒しても、後から湧いて出てくるような数に物を言わせた襲撃に、一行が疲弊しきっていたのは事実だ。

その疲弊が注意力を低下させたことも、否定しない。

そしてそれがもたらした結果は、ジーニアスにしてみれば嬉しいのか悲しいのかさえも解らないほど複雑なものであった。

「・・・さて、これからどうしましょうか」

「あ〜、どうすっかなぁ」

「・・・・・・」

それぞれがそれぞれ、緊張感も無く思いのまま口にするのを見て、ジーニアスは大きな溜息を1つ零す。

、ゼロス、プレセア。―――今ジーニアスの周りには、この3人しかいない。

簡単に言えば、他のメンバーとは逸れてしまったのだけれど。

プレセアと一緒なのは思いがけず嬉しいが、だからといって残りのメンバーの顔ぶれがジーニアスに複雑な心境を抱かせる。

あえて言っておくが、ジーニアスはたちが嫌いなのではない。

ただこの顔ぶれを見る限り、間違いなく厄介なことに巻き込まれるのではないかとジーニアスは思う。―――そして今までの事柄から判断して、それは間違いないだろう。

だからジーニアスの呟いた『よりによって』という言葉は、仕方のない事なのかもしれない。

「・・・ったく、あいつらもよく飽きねぇよなぁ。俺ら追かけまわすのが、んなに楽しいのかねぇ」

「良かったじゃない。熱烈に愛されてて」

「あんなムサイ男に愛されても、俺様嬉しくないっつーの!」

「贅沢者ね、ゼロスは」

「・・・・・・」

抜き身で下げていた剣を鞘に戻し凝った肩をグルグルと回すゼロスに向かい、同じく剣を鞘に戻したはからかうように笑う。

プレセアは今もまだ斧を手にしたまま、無表情で2人の遣り取りをぼんやりと眺めていた。

誰も、はぐれてしまったロイド達の心配をしていない事に、ジーニアスは肩を落とす。

こんなにも協調性が無くて良いのだろうか・・・―――そう思うけれど、彼らにそれを望むのも無駄な気がして、ジーニアスは喉まで出かかった抗議を飲み込み、代わりの言葉を乗せて口を開いた。

「それで、これからどうするの?なんかすっかり迷っちゃったみたいだけど・・・?」

鬱蒼と生い茂る森を眺めて、ジーニアスは少しだけ身を縮こめる。

あちこちから出現する騎士達から逃れ走っている内に、いつの間にか見覚えの無い場所へと辿り着いていた。―――同じような景色が広がる中、見覚えがないというのも曖昧な感覚だったけれど。

「そうね。とりあえず出口を目指しましょうか。ロイド達もきっとそこを目指しているのだろうし・・・上手く行けば合流できるでしょう」

「・・・大丈夫なの?」

「ま、私たちと同じように他のメンバーも逸れてないなら問題ないわ。しいなの故郷はこの森を抜けたところにあるって聞いた事があるし、この森に慣れている彼女がいれば安全に出口まで辿り着けるだろうし」

の説明に、なるほどと納得する。

彼女の言う言葉には妙な説得力があるように感じるのは、気のせいなのだろうか。

まだシルヴァラントにいた頃、マナの守護塔で話した時も、ジーニアスはの言葉に反論が出来なかった。―――その時はともかく、今はそれが有難く感じられる。

そう、ゼロスのこの言葉を聞くまでは。

「んで、俺たちはどうやってこの森抜けるわけ?」

サラリと耳を通り抜けていったゼロスの問いに、ジーニアスは一拍後に我に返り慌ててゼロスの身体に掴みかかった。

「っていうか、ゼロス知らないの!?」

「何で俺様が知ってんのよ。言っとくけど、俺様この森に入るの初めてだぜ?別に今まで用事も無かったし」

「何呑気な事言ってんの!?・・・っていうか、もしかしても・・・」

「勿論、私も知らないわよ。話には聞いてたけど、私しいなの故郷にもオゼットにも行った事ないし・・・」

揃って呑気な笑みを浮かべるゼロスとに、ジーニアスは絶句した。

それなのにどうして、こんなのんびりしていられるのかと叫びたいが、それをするだけの気力も出てこない。

寧ろロイド達よりも自分たちの方が危ないのではないかと、ジーニアスはこの時になって漸く思った。

「・・・それじゃ、僕たちこれからどうするつもりなのさ。この森って、一度足を踏み入れたら二度と出られない迷いの森って言われてるんでしょ?なのに・・・」

思わず目頭が熱くなる。

もう二度とロイドにも、コレットにも、リフィルにも、しいなにも会えないのかと思うと、言い知れない失望感がジーニアスの身を襲った。

しかしそんなジーニアスに気付いていないのか、は至極あっさりと言い切る。

「どうするって、この森から出る以外にどうしろっていうのよ」

「だから!どうやってこの森を出るのかって聞いてるんだよ!!」

呆れたような口調のに、ジーニアスは思わず声を荒げた。―――俯いていた顔を上げた彼の目に、訝しげな表情を浮かべたとニヤニヤとした笑みを浮かべたゼロスが映る。

「ガキんちょ。お前、もうちょっと冷静になったらどうだ〜?」

「・・・って、ゼロスに言われたくないよ」

「んだと!!可愛くね〜なぁ!」

落ち込んでいても嫌味は健在なのか、ジーニアスは冷たくゼロスをあしらう。

それを眺めていたは、呆れたように溜息をついて、無言で佇むプレセアへと視線を向けた。

「それじゃ、プレセア。案内お願いできる?」

頭を撫で優しく問い掛けるに、プレセアは無言のまま1つ小さく頷いた。

それに気付いたジーニアスが、ハッと我に返ってプレセアの方へと振り返る。

「あ、そうか」

この時になって漸く、ジーニアスはプレセアの帰る場所に思い当たった。

そもそも今回の目的はアルテスタに会う為だが、当初はプレセアをオゼットに送り届ける為に旅を続けていたのだ。―――そんなプレセアが、この森の中で道を知らないわけがない。

じっと見詰めるジーニアスの視線に気付いたのか、プレセアが顔を上げジーニアスを見詰め返す。

その視線を受け止めたジーニアスは、瞬時に顔を赤く染め挙動不審に手足をばたつかせた。

「プ、プププププレセア。よ、よろしく!!」

「・・・つーか、どもりすぎ」

「いいから。貴方もいい加減からかうのはやめなさい、ゼロス」

チャチャを入れるゼロスを控えめに制して、は無表情でジーニアスを見詰めるプレセアの手を取った。

「それじゃ、行きましょう。あんまりぐずぐずしてると、また教皇騎士団に見つかっちゃうわ」

の言葉に、それは勘弁して欲しいと同時に思ったゼロスとジーニアスは、大人しく彼女の言葉に従うことに決めた。

案内役に指名されたプレセアは、の手を握り返し歩き始める。

こうして、でこぼこコンビは仲良く森の出口目指して歩き始めたのだ。

 

 

プレセアの案内で出口を目指していた4人は、騎士達の襲撃がピタリと止んだことも幸いし、着々と目的地に向かい歩みを進めていた。

昼間とは思えないような薄暗い森の中に、少しづつ明るい光が差し込んでくる。

もうすぐ出口が近い証拠だと明るい表情を取り戻したジーニアスは、何の前触れも無く唐突に立ち止まったに気づき、訝しげに振り返った。

「・・・どうしたの、?」

「・・・・・・」

不思議そうに首を傾げ問いかけるジーニアスに、は何の反応も示さない。

「おいおい、どうしたよ。腹でも減ったのか?」

「ちょっと黙ってなさい」

それに興味を引かれたのか。―――ゼロスがニヤリと口角を上げてからかうように言った瞬間、は無表情のまま乱暴にゼロスの口を塞ぐ。

バシンという音が、痛々しい。

塞ぐというには少し乱暴すぎる気もするが、今のに逆らうのは得策ではないような気がして、ゼロスは赤くなった口元をさすりながら無言でを見下ろした。

見る見る間にの表情がウンザリとした表情に変わっていくのに気付いて、ゼロスとジーニアスは揃って顔を見合わせる。

「・・・。ほんとに、どうしたの?」

「なんかあるわけ?」

「まぁ、ちょっとね」

2人の問い掛けに、は曖昧に返事を返しつつ面倒臭そうに頭を掻いた。

遠くから聞こえてくる、たちのいる場所に向かうたくさんの人の足音。

それと混ざって聞こえてくる微かな鎧の音に、それが何を意味するのか考えるまでもない。

襲撃が止んだ事に漸く騎士達も諦めたのかと楽観視していたが、どうやらそれは本当に楽観的すぎたらしい。―――これだけの人数が揃っているという事は、個々での戦闘を切り上げ本格的に袋叩きにするつもりなのだろう。

暫くの間襲撃が止んでいたのは、それの準備の為か。

「・・・プレセア。アルテスタの家っていうのは、どっちの方向?」

の声に、プレセアは無言で指を差す。

それは大量の足音が聞こえてくる先・・・―――つまりは騎士達のいるだろう方向で。

あまりにも悪すぎる展開に、は顔を引きつらせて溜息を吐き出した。

「な、なんなんだよ、その動作は」

「なんか・・・すごく嫌な予感がするんだけど・・・」

ゼロスとジーニアスも同じく顔を引きつらせ、を凝視する。

そんな彼らに、は親切丁寧に現状を説明してやった。―――その親切丁寧さが、逆に彼らをどん底に叩き落す事になったのだけれど。

「なぁ、ハニー達はもう森を抜けたと思うか?」

成す術もなく立ち尽くす4人は、お互い顔を見合わせながら口を開く。

「・・・ここが森の出口なんだとしたら、まだだと思う。だってロイドが僕たちを置いて先に行く筈ないし」

「そうね。リフィル辺りなら先に行ってそうだけど・・・」

「姉さんだって、僕たちを置いてったりしないよ!」

「ジーニアス、誤解しないで。別に非難してるわけじゃないわよ。彼女なら、現状をしっかりと把握して行動してくれるって言ってるの」

「ああ・・・確かに。ロイド君たちは絶対にそういうの無理そう」

事態は緊迫しているというのに、会話や漂う空気には全く緊迫感が無い。

放っておけば延々と続きそうな言い合いだが、残念ながらそれを止める人物はこの場にはいなかった。

唯一会話に参加していないプレセアは、それを止める気配もなく、ただ3人の言い合いをぼんやりと眺めている。―――が、ふと何かの気配を感じ取ったのか、プレセアが頭上を見上げたその時。

差し込んでいた微かな太陽の光が翳り、鋭い気配が辺りに漂う。

ハッと我に返ったとゼロスは、未だに文句を言い続けるジーニアスの手を強引に退いて、その場から跳び退った。

「ちょっ・・・!!」

ジーニアスの非難の声と同時に、大きな何かが頭上から落ちて来た。

ドンと重い音を立てて着地したそれは、重い威圧感と共に4人の前に立ちはだかる。

「この人って、メルトキオの地下にいた・・・」

「教皇の奴!そんなに俺様が邪魔かっつーの!!」

ジーニアスの驚愕の声と、舌打ち交じりのゼロスの声が重なった。

長い青の髪と、強靭な肉体。―――そして手を拘束する枷。

見間違う筈も無く、それはメルトキオの下水道で神子を襲った囚人だった。

4人は即座に戦闘態勢に入る。

彼が神子の命を狙っている以上、悠長に構えているわけにはいかない。

しかし男は神子であるゼロスなど目に入らない様子で、ただ一点を凝視していた。―――その視線の先は、無言で斧を構えるプレセアに。

「私はお前たちと戦うつもりは無い。ただ、その娘と話がしたいだけだ」

男は静かな口調で言葉を紡ぐ。

そこには言葉通り何の気負いも無く、言葉通りなのだろうとに思わせた。

しかしそう思わない人物もいるだろう。―――その代表であるジーニアスは、プレセアを庇うように立ち鋭い視線を男へと向ける。

「冗談じゃない!僕たちの命を狙ってたくせに!!」

「他の者たちは知らないが、少なくとも私はお前たちの命など狙っていない」

噛み付くジーニアスに、しかし男は動じた様子もなくサラリとそう答えた。

そうしてゆっくりと辺りを見回して、再び口を開く。

「私が命じられたのは、コレットという娘の回収だ。―――ここには、いないようだが」

男の言葉に、の眉がピクリと動く。

教皇がテセアラの神子であるゼロスではなく、シルヴァラントの神子であるコレットの回収を命じた。

そこにある意図を読み取ろうと男の顔を見詰めるが、男はそれにも動じず自分を見詰めるに視線を合わせる。

「お前たちに危害は加えぬ。プレセア・・・と言ったか。そこの娘と話をさせてくれ」

向けられる真剣な目に、は小さく溜息を吐き出すと、プレセアの前に立ち塞がるジーニアスの腕を軽く退いて道を空けてやった。

!!」

「大丈夫よ。彼は、嘘を付くような人間ではないわ。今、私がそう判断した」

思わず抗議の声を上げたジーニアスだが、キッパリと言い切られグッと言葉を詰まらせる。

なにか言い返したいが、仲間の中で一番プレセアが懐き、そしてそんな彼女を大切に扱っているがそういうならば、それは正しいのかもしれないとジーニアスは思った。

腕を掴まれた手を振り解きたくとも、しっかりと握られている為それも叶わない。

今のジーニアスに出来る事は、男が何か可笑しな動きをしないかと見守る他無かった。

男はの許可を得た事に安堵の息を吐き、空けられた道にゆっくりと足を進めプレセアの前に立つ。

そうして無言で見上げてくるプレセアに話し掛けようとした瞬間、目に飛び込んできた少女の胸元を見詰めて、男は驚愕の表情を浮かべ掴み掛かった。

「エクスフィア!?お前も被害者なのか!?」

男の叫ぶような声に、は苦しそうに眉根を寄せる。

そうしてふと疑問が浮かんだ。―――『お前も』とは、一体どういうことなのだろうか、と。

しかしそれを問う事は出来なかった。

男の言葉に気を取られて力の弱まっていたの手を振り払い、ジーニアスが武器を構えて飛び出す。

「プレセアが危ない!!」

盲目的ともいえるほどプレセアの身を案じるジーニアスの声に、男がハッと我に返りプレセアから距離を取った。

その雰囲気に押されて、黙って状況を眺めていたゼロスも剣を抜く。

それを認めて、男は苦々しい表情を浮かべて呟いた。

「来るか。―――ならばやるしかあるまい」

瞬時に張り詰める空気に、も構える男に習って剣を抜く。

本音を言うならば、はこの男とは戦いたくはない。

どういう事情があるかはもちろん解らないけれど、それにエクスフィアが絡んでいる事だけは確かだったからだ。―――そして目の前の男が決して悪人ではないと、は思ったから。

しかし場の雰囲気がそれを許さない。

ジーニアスが、ゼロスが武器を構え、そして男もまた戦闘態勢に入り・・・も己の武器を構えてしまった以上、戦いは避けられないのだ。

「ゆくぞ」

男のその声と共に、戦いの幕は開けた。

 

 

◆どうでも言い戯言◆

全くゲーム通りだと面白くないので、ちょっとだけ捏造してみたり。(それはもうゲーム沿いとは言わない気が・・・)

しかも捏造してる割には、山も谷も無い平坦な内容に・・・!!

主人公が凄い冷酷非道になってしまって、書いてる本人もどうしましょう的な展開になっていますが、生い立ちが生い立ちなのでこういう面も持ってるのよ、みたいな。

ところで、どこでリーガルの名前を出すべきか悩み、未だに彼は男扱いです。(ごめんよ、リーガル)

作成日 2005.11.8

更新日 2010.12.19

 

戻る